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(1) 頭位満期産分娩の経過中に臍帯脱出を認めた一例を経験した

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Academic year: 2021

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(1)

                 

 頭位満期産分娩の経過中に臍帯脱出を認めた一例を経験した。症例は26才の初産婦で、分娩誘導のためメトロ イリーゼを挿入後陣痛が発来した。分娩が進行する過程で臍帯圧迫が疑われる変動性一過性徐脈が出現した。子 宮口全開大後に人工破膜を施行したところ陰裂からの臍帯の脱出が認められた。急速遂娩により2分後に児は良好 な状態で娩出された。本症例の臍帯脱出の原因として広骨盤、過長臍帯、メトロイリーゼの挿入、人工破膜等が 考えられた。臍帯脱出は稀な疾患であるが、経過によっては児死亡に至る危険性があり、迅速な対応が要求され る産科救急疾患である。 

   

 臍帯脱出、臍帯下垂、変動性一過性徐脈、メトロイリーゼ、人工破膜   

       

 臍帯脱出は分娩時に突然発生する合併症であり、その 発生を事前に予測することは困難である。臍帯圧迫によ る血流遮断の程度や児の娩出までに要した時間によって 児の予後はさまざまであるが、胎児・新生児死亡や重篤 な後遺症を残す頻度が高いために、迅速な対応が要求さ れる産科救急疾患の一つである。 

 今回著者らは頭位満期産分娩にて臍帯脱出を認めた症 例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。 

   

患者:26才 主婦 0妊0産   既往歴:特記すべき所見なし 

現病歴:平成14年12月21日より5日間を最終月経として妊 娠が成立した。前医にて経過観察を受けていたが、妊娠 16週に転居のため当科を受診し、以後異常なく経過して いた。 

分娩経過:妊娠41週まで自然陣痛の発来を待っていたが、

妊娠41週2日に分娩誘導の目的で入院となった。内診にて 子宮口は1指開大し、児頭はstation−1まで下降していた。

骨盤X線計測では産科学的真結合線は14.5㎝であり、入口 部の所見も異常を認めないため経膣分娩可能と判断した(図 1)。メトロイリンテル(200ml)を子宮腔内に挿入して子 宮口の開大を図り、ジノプロストンベータデクス(PGE2 を1時間毎3錠内服させて陣痛を誘発した。その後陣痛が 開始し分娩の進行が見られた。しかし陣痛が微弱となっ たため、分娩の誘導を中止しメトロイリンテルを抜去した。 

抜去直後より子宮出血が増量し、児心音モニタリングに

て変動性一過性徐脈が頻繁に認められた(図2)。 

                                                   

市立室蘭総合病院 産婦人科

太 田 雄 子 下 谷 保 治

市立室蘭医誌(第29巻 第1号 平成16年4月) 

図1 骨盤レントゲン計測(左 Guthmann法、 

右 Martius 法) 

児頭は骨盤腔内に下降している。 

図2 腹部超音波断層法 

胎盤は子宮前壁に付着している。羊水、胎児小部分 を認める。 

(2)

 この時点で子宮口は4cm開大していたが、破水してお らず、児心音の回復も良好であった。超音波断層法によ る観察では羊水量は保持されており、胎盤にも異常所見 は認められなかったため経過観察とした(図3)。 

 その後陣痛が強くなり子宮口が全開大となり、陰裂に 胎胞が認められた。分娩台上にて人工破膜を施行したと ころ、直後に臍帯が陰裂より約20cm脱出した。急遂分娩 が必要と判断し会陰側切開、クリステレル圧出法により 約2分後に2612gの男児を娩出した。児は1分後アプガー ルスコア8点、5分後9点であった。母児ともに異常なく 経過し、産褥5日目に退院となった。 

   

 日本産科婦人科学会編(1988)の産科婦人科用語解説集 によると、臍帯脱出(prolapse  of  the  umbilical  cord)は、

「破水後で産道内または陰裂間に臍帯が懸垂してきた状 態をいう」と定義されている。臍帯下垂(fore-lying  of  the umbilical cord)は「破水前に先進胎児部分の側方また は下方に卵膜を隔てて臍帯を透視ないしは触知するもの」

をいう。潜在性臍帯脱出(occult  prolapse  of  the  umbilical 

cord)は「破水前後にかかわらず、胎児の先進部を超え て臍帯が下降しているが内診や視診ではわからない状態」

としている。 

 臍帯脱出・下垂の頻度は国内外での近年の報告では 0.45%〜0.007%とされている1)〜9)。当科では平成12年1月 より平成15年12月までの4年間の分娩数は1,143件で、本 症例を含めて4例の臍帯脱出・下垂があった(表1)。頻度 は0.34%であり、諸家の報告と一致していた。 

 臍帯脱出の原因としては胎児先進部と子宮下部・頚部 との間に間隙を生ずる状態、すなわち胎位異常(骨盤位、

横位、足位)・多胎妊娠・羊水過多症・早期産・低出生 体重児・児頭骨盤不均衡(CPD)・骨盤内腫瘍などがリ スクファクターとしてあげられる。またメトロイリーゼ の挿入や人工破膜などの人為的操作が誘因となるとの報 告もある3)7)。過長臍帯や胎盤・臍帯付着位置の異常との 関連も指摘されている3)。しかし、頭位満期産ではリスク は低いとされているため、臍帯脱出・下垂を念頭におい て分娩に臨むことはまれである。頭位においても臍帯脱 出が発生する可能性があることを十分認識する必要があ 4)。    

症例  1  2  3  4 

週数  18  27  37  41

出生体重  168  1520  2444  2612

脱垂  脱  垂  脱  脱 

胎位  単殿  足位  頭位  頭位 

分娩  経膣  帝切  経膣  経膣 

予後  死  生  生  生 

経過・特記事項 

前期破水、子宮内胎児死亡、人工流産  胎胞形成切迫早産、経膣超音波、未破水  双胎第2子、人工破膜 

広骨盤、過長臍帯、メトロイリーゼ  表1 臍帯脱出・下垂の症例の概要 

図3 メトロイリーゼ抜去後の胎児心音モニタリング  子宮収縮に伴い変動性一過性除脈が出現している。 

(3)

 臍帯脱出の診断は触診または視診にて子宮頚管内ある いは膣内に臍帯を確認することである。胎児心音のモニ タリングにおいて臍帯圧迫の所見である変動性一過性徐 脈や持続性徐脈の出現が臍帯脱出の早期発見に有用とさ れている。経膣超音波断層法やカラードプラ法にて臍帯 下垂を診断することで破水以前の段階で臍帯脱出の予知 が可能であるとの報告もある10)〜12)。 

 臍帯脱出を認知し、臍帯拍動が確認された場合には、

用手的に臍帯を子宮内に環納することを試みる。また臍 帯への圧迫を解除すべく児先進部を挙上しながら帝王切 開による急速遂娩を行うとされている9)。児の死亡率は20

〜25%とされているが、報告者によって0%から41%と差 異がみられた1)2)3)5)。臍帯の脱出から児の娩出までに要し た時間が児の予後に大きく影響する。渡辺らは臍帯の脱 出から15分以内に経膣分娩可能であった場合は児の予後 は良好であったと報告している1)。また、Orhueらは臍帯 脱出が発生した場所が病院内か否か、臍帯脱出から病院 到着までに要した時間、児娩出までに要した時間、脱出 時の子宮口開大の状態により児の死亡率に最大10倍の差 が認められたと報告している。臍帯脱出時に子宮口が8〜

10cm開大していて経膣分娩を試みたが娩出不能で帝王切 開に至った症例と子宮口開大7cm以下で経膣分娩を試み ることなく帝王切開を行った症例では前者の死亡率は6倍 高かった8)。以上より、臍帯脱出においては児の予後は分 娩方式ではなく、娩出までに要した時間によって大きく 影響されると考えられる。 

 メトロイリーゼの挿入や人工破膜は分娩誘導に有効な 方法であるが、臍帯脱出の原因となりうる13)。平嶋らは 頭位分娩におけるメトロイリーゼの使用は注入量を150ml 以下とし、自然脱出まで待機することで臍帯下垂、脱出 を予防できるとしている。また、メトロイリーゼ脱出後 に人工破膜を行う場合には臍帯の下垂・脱出を十分念頭 におくことが必要であるとしている14)。 

 本症例は頭位、単胎、羊水量は正常、満期産、児の推 定体重は2700gであったため、分娩開始の時点では臍帯下 垂・脱出の可能性に対しての認識がなかった。広骨盤で 児が比較的小さいため子宮下部・頚部との間に間隙があり、

臍帯が長く(78cm)潜在性臍帯脱出あるいは臍帯下垂で あったと推定される状態にメトロイリーゼを使用したた めに臍帯脱出が発生したと考えられた。また、メトロイ リーゼを抜去した後に児心音のモニタリングで臍帯圧迫 を推定させる変動性一過性徐脈が頻繁に認められていた ことから、この時点で臍帯下垂・脱出を念頭に置いて慎 重に経過観察すべきであった。 

    

 頭位満期産の分娩において、子宮口の全開大後に人工

破膜を施行し臍帯脱出を認めた症例を経験した。経腟的 に急速遂娩を行い児の予後は良好であった。メトロイリ ーゼの挿入あるいは人工破膜等による分娩誘導の際には 潜在性臍帯脱出・下垂の可能性も念頭に置いて経過観察 を行うことが痛感された。 

   

1) 渡辺 博,渡部秀樹,田中光臣,熊坂高弘:臍帯下  垂および脱出の対応.産婦の実際 41:1805-1809,

1992. 

2)池ノ上 克,蔵屋一枝:臍帯脱出.周産期医 19: 

167-169,1989. 

3)馬場眞澄,松本英雄,岩里桂太郎,中村 聡,室   康治,岡本和子,林下千宙,谷口一郎:当科におけ る臍帯脱出について.大分病医誌 31:49-53,2002. 

4)林 茂,植田充治:臍帯脱出の予測・診断・処置. 

産婦の実際 45:1567-1570,1996. 

5)瓦林達比古,牧野康男:臍帯下垂と臍帯脱出.臨婦  産 53:926-928,1999. 

6)高橋 通,菊池三郎:臍帯脱出.産婦治療 66:755  -757,1993. 

7)新井正夫,林 輝雄,下田隆夫,天野 完:臍帯脱出. 

産婦の世界 35:53-58,1983. 

8)AAE  Orhue,JA  Unigbe:Determinant  factors  in  foetal    mortality  associated  with  umbilical  cord  prolapse.Asia  Oceania J Obstet Gynaecol 10:75-82,1984. 

9)畑 俊夫:臍帯下垂・脱出.産婦治療 84:796-799, 

2002. 

10)秦 幸吉,秦 利之,高橋健太郎,村尾文規,北尾  学:超音波断層法により臍帯下垂と診断し帝王切開 により生児を得た1例.産婦の世界 36:557-559,1984. 

11)高田眞一,高木章美,斎藤正博,飯野好明,小島俊之, 

竹田 省,木下勝之:出生前に超音波断層法で診断 しえた潜在性臍帯脱出.産と婦 58:329-332,1991. 

12)竹田善治,坂井昌人,岡井 崇:臍帯下垂の診断. 

臨婦産 52:507-510,1998. 

13)草薙鉄也,幡 洋,工藤隆一:メトロイリーゼと薬  物的陣痛誘発法の同時併用について.産婦の実際 34:

209-214,1985. 

14)平嶋 昇,川崎 徹,土橋雄二,神尾政彦,鈴木利典, 

小畑英介:頭位におけるバルン型メトロ(オバタメトロ) による分娩誘発法‐特に臍帯下垂,脱出の予防につ いて‐.産と婦 50:1841-1844,1983. 

参照

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