秋田大学教育文化学部研究紀要教育科学部門66pp、37〜432011
知的障害特別支援学校に在籍する発達障害児の現状と課題
竜ゲ'秘
一知的発達に遅れのない発達障害児の事例的検討一
熊 地 需 ・ 清 水 潤 ・ 武 田 篤
TheCurrentConditionsandlssuesConcemingChildrenwithDevelopmental D i s o r d e r s i n S p e c i a l S u p p o r t S c h o o l s f O r C h i l d r e n w i t h D i s a b i l i t i e s :
CaseStudiesonChildrenwithDevelopmentalDisordersWhoarenotMentalRetardation
MotomuKUMACHLJunSHIMIZU,andAtsushiTAKEDA
ThisresearchstudyexaminedintothecuITentconditionsofchildrenwithdevelopmentaldisorderswhoare notmentalretardationandenrolledinspecialsupportschools・Theobjectivesofthisresearcharethefbllowing two:1)Identificationofthecausesandreasonsthatunderlietheenrollmentofchildrenwithdevelopmental disorderswhoarenotmentalretardationinspecialsupportschools、2)Identificationofthedifficultiesthespecial supportschoolsfaceindealingwiththebehaviorofsuchchildrenandtheproblemsininstructionandguidanceof suchchildren・Thisstudyfindingsshowedthatthesechildrenweretransferredtoorenrolledintheseschoolsdueto varloussecondaryemotionaldisorders,suchasleamingdifficultiesandnon‑attendanceatschooLInaddition,these childrenexhibitedbehavioralproblemssuchasverbalandphysicalviolenceatschool,causingadverseeffectson otherstudentsandonteachers・ItwasfOundthatteachersinchargeofthesechildrenfaceseriousdifficultiesin dealingwithandprovidingsupporttothem.
Keywords:specialsupportschools,developmentaldisorder,secondaryemotionaldifficulties
I 問 題 と 目 的
文部科学省の特別支援教育の在り方に関する調査研究 協力者会議が2003年3月にまとめた「今後の特別支援 教育の在り方について(最終報告)」において,特殊教 育から特別支援教育への転換が提言された。同年4月か ら小・中学校を対象とした「特別支援教育推進体制モデ ル事業」が全国で実施されたことを契機に,特別支援教 育に大きな変化が見られるようになった。また,2005 年に発達障害者支援法が施行され,さらに2007年4月 に学校教育法が改正され,特別支援教育が法律上明確に 位置づけられ本格的にスタートした。全国の小・中学校 では,通常学級の発達障害児の問題がクローズアップさ れ,様々な取組がなされてきている。先の文部科学省の 特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議が実 施した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要 とする児童生徒に関する実態調査」では,学習面や行動 面で著しい困難をもっていると担任教師が回答した児童 生徒の割合は6.3%であった。同様に2009年に実施した 秋田県における「公立小・中学校における特別な教育的
支援を必要とする児童生徒に関する実態調査」では,知 的発達等に遅れはないが,学習面や行動面で著しい困難 を示すと学級担任等が回答した児童生徒の割合は2.5%
と報告されている(佐藤,2010)。また2008年に実施し た「公立高等学校における特別な教育的支援を必要とす る生徒に関する実態調査」では,同上の困難を示す生徒 の割合は1.2%と報告されている(佐藤,2010)。
こうした知的発達に遅れのない発達障害児に対する支 援や実践はこれまで多くの小・中学校で展開され,支援 の在り方に関する研究報告も数多くなされている(加藤・
石坂・佐々木,2000;長田・都築,2004;清田,2009;岡田,
2009;大塚,2009)。最近は小・中学校だけでなく,高等 学校に在籍する発達障害のある生徒の調査や就労支援の 在 り 方 等 に つ い て も 報 告 さ れ る よ う に な っ て き て い る
(高橋・生方,2008)。
このように発達障害に関するこれまでの研究の多くは 小・中学校,高等学校のものである。しかし最近では,
通常の学校だけでなく,特別支援学校にも知的発達に遅 れのない発達障害児が在籍するようになり,新たな対応
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が求められるようになってきている(全国特別支援学校 知的障害教育校長会,2010)。そこで,本研究では,小・
中学校から特別支援学校に転入学してきた知的発達に遅 れのない発達障害児の事例から以下の2つのことを検討 することとした。①これらの児童生徒がどのような原因 で特別支援学校に転入学するに至ったのかについて,そ の原因や理由等を明らかにする。②特別支援学校の教職 員は,これらの児童生徒のどのような行動上の問題に苦 慮し,指導上の困難を抱えているのか,その現状と課題 を明らかにする。
Ⅱ 対 象 と 方 法
本研究の対象としたA特別支援学校は,在籍する児 童生徒数が150人を超える,県下では規模の大きい知的 障害を主たる障害とする特別支援学校である。小学部か
ら高等部まであり,寄宿舎を併設している。
知的発達に遅れのない発達障害児の事例選定は,知能 検査でIQ70以上のもので,かつ医療機関にて発達障害 (広汎性発達障害,アスベルガー症候群,注意欠陥/多 動性障害)と診断されたものとした。その結果,小学部 には該当する児童はおらず,中学部に5名,高等部に3 名,計8名の生徒が対象となった。
これらの生徒に関して小・中学校からの調査票等を参 考に,転入学の原因や理由等について調べた。また,現 在の学校生活への適応状況等については生徒本人と学級 担任,さらに学部主事へインタビュー調査を実施した。
生徒には、学校での困り感を中心にインタビューを実施 した。学級担任等に対しては,生徒の日常生活及び学習 状 況 等 の 評 価 と 指 導 上 の 課 題 に つ い て イ ン タ ビ ュ ー を 行った。調査期間は200X年9月〜200X+1年2月で
ある。
Ⅲ 結 果 1 事 例 の 概 要
8例のプロフィールと生徒本人及び学級担任等からの 聞き取りの概要について示した。なお,聞き取りに関し ては,本人については困り感,学級担任等ついては生徒 評価と指導上の課題を中心にまとめた。
性別では,8事例の男女比は男4人,女4人と半々で あった。障害別では,広汎′性発達障害(PDD),アスペ ルガー症候群(AS)等,自閉症スペクトラム障害に入 るものが7人,注意欠陥/多動 性障害が1人であった。
なお,広汎 性発達障害の生徒の中に注意欠陥/多動性障 害の症状を示す例があり,症状が重なるものが1例あっ た。以下に各事例の概要を述べる。
【事例1】中学部,男子,広汎性発達障害(PDD)。小
学校通常学級より学習困難のため中学部へ入学した。
WISC‑Ⅲ:全IQ74,言語性IQ79,動作 性IQ75o本児 は初めての人とはかかわりが難しいため,学級担任から 本児の困り感について聞いた。それによると,本児は特 に友達のことで悩んでおり,仲良くしたいが上手くでき
ないとのことだった。
学級担任の評価は,こだわりが強いこと,他から非難 されるのを嫌い,しばしば攻撃的な言動をとることが挙 げられた。しかし,注意されてもしばらく間をおくと,
自分の言動を振り返ることができるとのことであった。
また,教師や他児に対してわざと挑発することも多いと いう。自分が好きな特定の生徒につきまとい,他の生徒 が自分と同じようにその特定の生徒につきまとうと激し
く怒るとのことであった。
指導上の課題では,友達と一緒に活動したいと思うが,
周囲の騒々しさや友達の言動に我 慢できなくなることが 多いとのことである。個別に対応しようとすると本児が 嫌がり,指導が難しい。また,自分なりの道徳観念があ り他児の逸脱行動等を見過ごすことができない。現在,
学級担任が最も困っているのは,家族に話す学校でのこ とがらが違っている点で,本児の言うことを保護者がそ のまま受け取ってしまうことから,保護者との連携が難
しいこともあるとのことだった。
【事例2】中学部,男子,広汎性発達障害(PDD)。小 学校通常学級から不登校のため中学部へ入学した。本児 はあいさつ程度を交わせるが,初対面の人とは上手く話 せないため,学級担任に困り感について聞き取りを依頼 した。知能検査は実施困難であったが,他機関で行った K‑ABC心理・教育アセスメントバッテリーの結果から,
知的発達に遅れのない発達障害児と評価した。継次処理 78,同時処理79,認知処理77,習熟度76.
本人は,現在学校は楽しく,校外学習をとても楽しみ にしている。他の学級のPDD男児(事例1)の行動を 気にかけている。
学級担任の評価は,本当は特別支援学校ではなく,地 域の中学校に行きたかったのではないかと推察されると のことである。また,毎日登校することにこだわる等,
自分で「やる」と決めたことに対してはそのとおり実行
する。
指導上の課題では,登校したての時間に落ち着かない ことが多く,級友を追いかけ回し,また教師の指示を聞 かない等,指導への影響が大きく,スムーズに活動に入 れないことが挙げられた。友達とかかわりたい気持ちは 強いが上手くかかわれないため,暴力行為や嫌がらせと して表出されてしまう。学級内で特定の級友とトラブル が頻繁に起こるため,2人を離さざるを得ない状況であ
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知的障害特別支援学校に在籍する発達障害児の現状と課題
る。暴れたあとは自分で落ち着かせようと教室に戻って くるが,他の級友たちを別の場所に移動きせ本児の気持 ちがおさまるのを待つことになってしまうことが多い。
したがって,学級の授業に困難を来たし,日課に沿って 学習活動ができなくなってしまうことがしばしばある。
また,本児は集会や儀式,音楽や作業学習等集団的活動 を苦手としているが,学習グループや内容を工夫した生 活単元学習,保健体育,国語,数学等の教科学習では,
字を書くことが得意で,見通しをもった活動ができるた め落ち着いて授業を受けることができる。
【事例3】中学部,男子,広汎性発達障害(PDD)。小 学校通常学級から学校での不適応行動や家庭内暴力によ り教育相談を経て小学部6年に転入してきた。WISC‑Ⅲ:
全IQ75,言語 性IQ84,動作』性IQ71o
本人は,授業の内容が簡単で自分がトップを取れるこ とは嬉しいが,例えば 掃除しなさい,作業の準備をし なさい 等指示されるのがとても嫌で,加えて嫌いな先 生や友達もいるので,今はすべてにおいて学校は楽しく ないという。
学級担任の評価は,1年生の時は精神的ゆとりが感じ られなかったが,2年生になり他者への配慮や気遣いが 徐々に見られるようになってきたとしている。しかし,
集中力を持続できないことや他の生徒を見下す言動をと る等の問題も依然として残っている。
指導上の課題では,学習面では好奇心旺盛だが,自分 から積極的に取り組まない点が挙げられる。そのため周 囲からの言葉かけや励まし等の支援が必要である。最近 徐々に自分が先頭に立って活動をやらないといけないと いう自覚が芽生えてきた。その自覚を大事にして学習へ の意欲を高めたいとのことであった。また,学校ではあ まり表出しないが,帰宅後は暴力行為によりしばしばト ラブルを引き起こしている。家庭と連携しながらの一貫 した対応が難しい。
【事例4】中学部,女子,広汎性発達障害(PDD)。小 学校通常学級から不登校,学習困難のため中学部へ入学。
田中ビネー検査:IQ70o本児も馴染みのない人には関 係が成り立ちにくい。そのため,学級担任を通して困り 感についてインタビューを行ってもらった。
本人は,学校は楽しく,特に自分が興味・関心のある 校外学習を楽しみにしている。楽しくないのは運動会や 宿泊学習,水泳教室,学習発表会等の行事で,保健体育
もやりたくないといっている。
学級担任の評価は,学習には意欲的で自ら尋ねてくる ほどに成長した。また,教師の注意や指導を受け入れる ことができるようになってきた。特に自分で間違った場
合でも間違いを許すことができ,訂正して直せばよいと 思えるようになってきた点で成長を感じているという。
指導上の課題では,生活のリズムの乱れにより起床が 遅くなり,登校も遅くなっていることが挙げられた。ま た,学習集団の大きい教科,例えば音楽や保健体育等で は精神的に不安定になることが多く,苦手としている。
また,不安定になる原因が特定できなかったり予測でき なかったりする時もたびたびある。不安要素が本児なり にあって不適応行動を起こしている様子だが,その不安 要素の解明や解消が難しく,対応に苦慮している。
【事例5】中学部,女子,広汎性発達障害(PDD)。小 学校通常学級から養育困難のため小学部5年に転入して
きた。田中ビネー検査:IQ94o
本人は,勉強や運動ができるから学校は楽しいと言っ ていた。中学部1年生の時から集団にいると居心地が悪 く,一人で勉強したいと訴える。ある時期から女 性嫌い になり,女 性担任や女子生徒も嫌いになった。中学部3 年の冬休み明けから不登校状態に陥った。その原因とし ては高等部進学への不安感があるようで,高等部では男 性職員を担任にしてほしい,一人学級にしてほしい等入 学後の対応について要望を挙げていた。
学級担任の評価は,自分なりのこだわりからくる女 性 嫌いがあり,それを口実に学習したくない等,逃避的態 度をとっている。男子になりたいという願望があり,自 分で勝手に改名し,他者にもそう呼ばせるなど強いこだ わりを示している。また,他の女子生徒同士の会話や周 囲の喧騒にイライラすることが多い。行事を苦手とし,
季節の変化に伴い精神的に不安定になりやすい。本人が 困った様子を示した時に,言葉だけでなく絵や文で補足 しながら説明すると,指示が理解できるようになってき た。本児が自分の困り感を言葉で伝えられるようになっ た点が成長として大きいという。
指導上の課題では,集団行動ができないため,中学部 2年生の時から独自の教育課程を組み,対応してきた。
それによって日課に沿った学校生活を送り,学習に取り 組むことができる部分が増えてきた。 情緒的な好不調の 波はあるものの,最近は集会にも参加できるようになっ てきた点が特筆される。
【事例6】高等部,女子,広汎性発達障害(PDD)と注 意欠陥/多動 性障害(ADHD)の疑い。中学校特別支 援学級から学習困難のため高等部に入学してきた。入学 時から寄宿舎生活を送っている。WISC‑Ⅲ:全IQ93,
言語 性IQ87,動作性IQlO4o
本人は,学校は楽しく寄宿舎生活も充実している様子 である。困っていることは,人の声がうるさく,がやが
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やしているのが苦手で,耳栓(イヤーマフ)を使ってい る。字は上手に書けるが,漢字や作文を書くことが苦手
である。
学級担任の評価は,集中力に欠け,整理・整とんがで きず,物を頻繁になくす。身だしなみにも気を配らない。
簡単な漢字を忘れたり,間違ったりする。友達を怒らせ ることを平気で言って自制できない。
指導上の課題では,友達関係を円滑にできるように支
援することが挙げられた。過剰に他の生徒にかかわるた め,口調が乱暴になり口げんかになることが多い。周り の空気が読めない,人の気持ちが分からないため,非常 に気まずい雰囲気を作ってしまうが,本人はそれに気づ いていない。本人は正しいことを言っているつもりであ る。そのため担任は本人と周囲の受け止め方や意識の ギャップに悩むことが多く,今のところ一つ一つ事情を 説明して対応していかなければならないことに困難を抱 えている。授業等でも挙手を繰り返し,周囲の反感をかっ ているが,本児は気づいていない。また,教師の指示を 聞かず,授業のペースが本児に振り回されることがしば しばある。しかし,指名されてから発言する等,約束事 やルールを決めると,少しずつではあるが待てるようになってきた。
【事例7】高等部,男子,アスペルガー症候群(AS)。
中学校通常学級から高等学校を受験するが不合格。1年 浪人をした後に特別支援学校高等部に入学してきた。入 学時から寄宿舎生活を送っている。WISC‑Ⅲ:全IQ91,
言語 性IQ96,動作』性IQ89o
本人は,困っていることとして周囲が騒々しいことを 挙げていた。生活面では家に帰ると遅く起きてしまうが,
寄宿舎だと普通に起きることができるので,自分でも生 活のリズムが改善されたと実感しているとのことであっ
た 。
学級担任の評価は,読み書きの苦手さはあるものの,
話し方は普通である。週末や行事学習の疲れ等疲労がた まってくると,周囲の騒々しさに耐えられなくなり,我 慢できないと訴えることがある。また,学級でどのよう
な活動をするか,あるいは校外学習等での活動を計画す る際,活動・遊戯費用や食事代等の正確な値段にこだわ り , お お よ そ の 計 画 を 立 て る こ と が で き な い 。 寄 宿 舎 を 含め,学校での生活は,大きな問題もなく良好に過ごし ているが,家庭では母親の言うことを聞き入れない等,
学校と家庭とで態度が違っていることが気がかりとのこ
とである。
指導上の課題では,人間関係を円滑にしていく支援を いかにしていくかである。また,感 情を自制できるかど うかが大きな課題である。本人はもとより担任も今後の
学校生活や卒業後の生活等に見通しをもてない不安を抱 えているとのことであった。
【事例8】高等部,女子,注意欠陥/多動性障害(ADHD)。
中学校通常学級から養育困難のため,中学部3年に転入
してきた。WISC‑Ⅲ:全IQ70,言語』性IQ68,動作′性
IQ78o本人は学校が楽しいと思っているが,話をする友達や 先輩が少ないのが不満とのことである。以前は朝から一 日作業学習することが辛かったが,今は 慣れたと語る。
学級担任の評価は,整理・整とんが苦手で,髪や服装 などが汚れたままでもあまり気にしない。差恥心に欠け,
排せつに失敗して衣服が汚れていても平気で歩く。しか し,最近は好きな男子生徒ができ,徐々に身だしなみに も気をつけるようになってきている。 情緒や感 情の起伏 が激しく,不安定になると泣き叫んだり,過呼吸を起こ
したりすることもある。
指導上の課題では,作業にはなかなか集中できず,手 を休めがちな点が挙げられた。実習中に不注意から指に けがをしたり足をくじいたりしたことがあったことから,
安全には十分配慮が必要である。自分の興味関心がある ものには熱心に取り組むが,そうでないものにはやる気 を示さず,働く力がなかなか育たない。また,感 情的に なりやすく,すぐに相手を攻撃するなどトラブルを引き 起こしやすい。積極的に友達にかかわろうとするが,相 手からはお節介と思われている。友達との適切なかかわ りがもてるように支援することが指導上の課題である。
2 転 入 学 の 主 な 原 因 と 時 期 等
転入学に至った主な原因とその時期等についてまとめ たものを表1に示した。8人の転入学の主な原因は,学 習困難が3例,親の養育困難によるものが2例,不登校,
家庭内暴力,高等学校不合格が各1例であった。次に,
転入学前の在籍校・学級についてみてみると,小学校通 常学級から5例,中学校通常学級から2例で通常学級か ら転入学したものが8例中7例を占めた。また,中学校 の特別支援学級から入学したものが1例であった。転入
表 1 転 入 学 す る に 至 っ た 主 な 原 因 と 時 期 等
学 部 主 な 原 因
中学部 (5例)
高 等 部 (3例)
不 登 校 学 習 困 難 学 習 困 難 家庭内暴力 親 の 養 育 困 難
学 習 困 難 高 等 学 校 不 合 格 親 の 養 育 困 難
転 入 学 前 の 在籍校・学級
小 学 校 通 常 学 級 小 学 校 通 常 学 級 小 学 校 通 常 学 級 小 学 校 通 常 学 級 小 学 校 通 常 学 級
中 学 校 特 別 支 援 学 級 中学校通常学級 中 学 校 通 常 学 級
特 別 支 援 学 校 に 転 入 学 し た 時 期
中 学 部 入 学 中 学 部 入 学 中 学 部 入 学 小 学 部 へ 転 入 小学部へ転入
高 等 部 入 学 高等部入学 中 学 部 へ 転 入
−40−
+
表 2 主 な 問 題 行 動
+
問 題 行 動 No.学部
+ +
不適切なコ
ミュニケーシ
ョン
鷲 i ; i 静昼夜逆転
情緒 障 害 名 性 別 暴 力 暴 言 不安定
+
MMMFFFMF
卿朋櫛伽補Ⅲ榊剛端剛謝Ⅲ謝鮒綱唖
I2345678+ + + + + + +
十 十 + + + + +
+ +
+
+ + +
知的障害特別支援学校に在籍する発達障害児の現状と課題
十 +
4 特 別 支 援 学 校 で の 指 導 の 成 果 と 課 題
学級担任と学部主事に対するインタビュー調査から特 別支援学校における発達障害児への指導に関する成果と
十 十
−41−
+ + 十
3 発 達 障 害 児 の 主 な 問 題 行 動 に つ い て
8症例の現在の主な問題行動について整理したものを 表2に示した。問題行動で多くみられたものは,暴力が 4例,暴言が5例, 情緒不安定が6例,不適切なコミュ ニケーションが6例であった。その他としては,整理・
整とんできないが2例,家庭内暴力が1例,昼夜逆転が 2例であった。表から分かるように,一人が複数の問題 行動を抱えていることが分かった。特に,暴力や暴言,
情緒不安定,不適切なコミュニケーションの4つの問題 行動を同時に抱えているケースが3例もあった。また,
広汎 性発達障害の女子生徒に,整理・整とんができない など,注意欠陥/多動 性障害の症状を示すケースが1例
あった。
+ + +
学した 時 期につ い て み てみる と ,小 学 校 か ら特 別 支援 学 校小学 部 へ転入 し た ケ ースが 2 例, 特 別 支 援学 校 中学 部 入学と 同 時が3 例 , 中 学校か ら 特別 支 援 学 校中 学 部へ 転 入したケースが1例,特別支援学校高等部入学と同時が
2例であった。
※++:強くあり+:あり−:なし,評価は学級担任の聞き取りと生徒の個人記録から判断した.
課題についてまとめたものが表3である。なお,成果と 課題は,発達障害児本人,他の生徒への影響,教師の3 つの観点から整理した。
指導の成果として,発達障害児本人にとっては,生徒 の 教 育 的 ニ ー ズ に 合 っ た 学 習 課 題 に 取 り 組 め る よ う に なったことなどが挙げられた。他の生徒への影響につい ては,発達障害児の行動上の問題が少ない場合や』情緒的 に安定している場合には,よいモデルになる点などが挙 げられた。教師にとっては,その生徒への支援を考える ことを通して,発達障害児への具体的支援の専門 性の向 上が図られたことなどが挙げられた。
課 題 と し て は , 知 的 発 達 に 遅 れ の な い 発 達 障 害 児 に とって知的障害のある他の児童生徒からの刺激や学びが 少ないことなどが挙げられた。また,他の生徒への影響 と し て 課 題 に な っ た の は , 発 達 障 害 児 の 不 適 応 行 動 に よって学習の機会を奪われる場合があることやトラブル に発展してしまうことなどであった。教師にとっては,
発達障害児の行動上の問題が非常に大きく,成果を感じ る部分が少ないため,疲労感が大きい。授業にも困難を きたしたり,学級経営上も日課に沿って活動することが 困難だったりしている。
表3特別支援学校での指導の成果と問題
発 達 障 害 児
本 人
他 の
生徒への 影 響
教 師
成 果
・発達障害児本人の好きな活動ができる。
学習面でもスキルアップが図られる場 合が多く,その生徒に合った学習課題 に取り組むことができる。
・他の生徒へのかかわり方・集団参加な ど社会性を育む場がある。
・活動での役割や日常の係分担等を担い,
自己有用感や自己肯定感が得られる。
・自己の困り感を伝えられる。
・行動上の問題が少ない場合や情緒的に 安定している場合,よいモデル(模範 的生徒やリーダーの役割を担う)とな
る 。
・アイディアや発想が他の生徒の参考に なる。
・これまで以上に生徒の興味・関心,さ らに認知発達に合わせた学習課題を考 案するようになった。
・個々の生徒への具体的な支援を考える ことを通して,支援の専門性の向上が 図られた。
Ⅳ 考 察
1 個 別 対 応 の 難 し さ
学級担任等の指導上の課題として,行動上の問題が大 きい生徒(特に事例1や事例2)には,これまでの個別 指導では対応しきれないことがインタビュー調査からう かがわれた。そのため,学級担任への積極的な支援が必 要である。知的発達に遅れのない生徒の中には,個別指 導を嫌がり,学級等の集団に戻りたがる傾向の生徒が複 数いた。また,学級や学習グループ等の集団を意識でき ずに,自分勝手な言動をとる事例(特に事例6と事例8)
もあった。さらに,個別指導する場所の問題も挙げられ た。これまでは′情緒的に不安定になった児童生徒がいた 場合に,落ち着くために校内の空き教室を使用してきて いた。しかし,児童生徒の増加により空き教室が少なく なり,これまでのような使用が困難になってきているな ど,教室不足の問題も大きな課題となっている。
また,他の生徒への影響が大きく,学習グループや学 習 環 境 の 在 り 方 に つ い て な お 一 層 工 夫 が 求 め ら れ て い た。事例2のように,対人面では,同じ学級の友達との
課 題
・他のいろいろなことができる生徒からの 刺激や学びが少ない。
・集団が小さく自己本位になりがち。
・他者への影響や迷惑を顧みる経験や機会 が乏しくなる。
・学習の流れを不適応行動により止められ るため学習の機会が奪われる。
・学習集団全体として活動停止し,特定の 学習集団・学級が全体と異なる活動をせ ざるを得ない状況に陥る。
・悪口を言われたり,過剰なかかわりをさ れ た り す る こ と で 情 緒 不 安 定 に な っ た り ストレスを抱えたりしている。
・発達障害児の行動の問題が大きく,成果 を感じる部分が少なく疲労感が大きい。
・個別指導を嫌がる生徒がいて,級友等み なと一緒にいたいと強く訴える。したが って,従来のように対象児を別の場所で 個別指導することが困難になった。
・学級担任は指導の困難性を抱えている。
授業に困難をきたし、日課に沿って活動 することが困難な場合がある。
ト ラ ブ ル が 頻 発 し , 一 緒 の 学 級 に で き な く な っ て い た ケースもあった。その級友は知的障害を伴う広汎』性発達 障害の生徒であるが,共に正義感や規範意識が強いため,
頻繁にトラブルとなっている。また,事例1と事例2の 生徒は別々の学級だが,学級を超え,トラブルを引き起 こしていた。学級担任もトラブルの予測が困難な様子で あった。こうした知的発達に遅れのない発達障害児同士 の相性の問題に,管理職をはじめ学部主事や学級担任は,
学級編制をいかにすべきか,また,学級経営や学校運営 上も思い 悩んでいるのが現状である。
2 二 次 障 害 の 問 題
今回の調査では,知的発達に遅れのない発達障害児の 8例のうち7例までが小・中学校の通常学級から特別支 援 学 級 を 経 ず に , 直 接 特 別 支 援 学 校 に 転 入 学 し て き て い
た。
また,これらの発達障害児は学習困難や不登校,さら に 情緒不安定などのいわゆる二次障害を発現させ,転入 学してきていた。二次障害は,一般に発達障害に起因す
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知的障害特別支援学校に在籍する発達障害児の現状と課題
る失敗や挫折,あるいは周囲からの叱責などが繰り返さ れる中で否定的な自己評価を強め,結果的に自力での解 決が困難になり,不適応をきたしたものといえる。そし て,これらの二次障害の大きな特徴は周囲の人にとって
「困った行動」となってしまうところにある。言い換え れば,単なる発達障害の子どもたちの教育や指導にあ たっているのではなく,二次障害を抱えた困難な児童生 徒の教育や指導にあたっているのである。小栗(2010)は,
発達障害の二次障害に関して,「子どもに周囲を困らせ る 行 動 が あ る と い う こ と は , そ の 子 ど も 自 身 が 何 か に 困っているということだ。そうした状況を解消するため には,子どもが何に困っているのかのアセスメントが必 要である。問題行動の原因がわからなければ,指導の方 向性が定められないからである。仮に方向性を誤った指 導を行えば問題行動の長期化を招くことにもなりかねな い。」と述べている。この指摘は,まさしく,現在の特 別支援学校で知的発達に遅れのない発達障害児を受け入 れ,教育と指導にあたっている教師が直面している課題 そのものといえる。教師は,発達障害の生徒たちが転入 学時に抱えてきた「困った行動」への対処に追われつつ,
生徒自身が本当に困っていることは何なのかについての 問いかけをしながら,より彼らの願いや気持ちに寄り添 い,教育的ニーズに応えようと試行錯誤し,苦慮してい る実態が今回のインタビューから明らかにされた。特別 支援学校に転入学してきた知的発達に遅れのない発達障 害児の多くは,自尊感情が低く,心に傷ついて転入学し てきている。したがって,彼らの指導あたっては,この 二次障害への対応をしっかり行っていくことが求められ ているといえよう。
3 成 果
知的発達に遅れのない発達障害児の中には,行動上の 問題が大きく,他の生徒と一緒に学習することが難しい た め , そ の 生 徒 独 自 の 教 育 課 程 や プ ロ グ ラ ム が 必 要 な ケースもあった。例えば事例5の独自の教育課程により,
日課に沿って学校生活を送れるようになったケースであ る。また,事例2は,できることや分かることが増え,
周囲からほめられたり認められたりする体験を積み重ね てきた結果,徐々に自信をつけられるようになったケー スである。事例4や事例7の生徒はリーダーとしての自 覚をもてるようになり,模範的存在になることで,自信 がついてきた。このように,いずれも小さな成功経験を 積み重ねることによって自己肯定感をもてるようにな り,行動上の問題の軽減化や改善が図られているケース
もみられた。
V ま と め
本研究では,知的障害特別支援学校に在籍する知的発 達に遅れのない発達障害児の現状について調査した。研 究の目的は,以下の2つである。1)知的発達に遅れの ない発達障害児が特別支援学校に転入学するに至った原 因や理由を明らかにする。2)特別支援学校では,生徒 のどのような行動上の問題に苦慮し,指導上の困難を抱 えているかについて明らかにする。調査の結果,これら の発達障害児は,学習困難や不登校などの二次障害を抱 え,転入学してきていた。また,生徒は学校生活で暴力 や暴言などの行動上の問題を示し,周りの生徒や教師へ の影響が大きかった。その結果,学級担任は生徒への対 応や支援に大変苦慮していることが明らかとなった。
謝 辞
事例は対象生徒のプライバシー保護のため事例検討に 差し支えない範囲で変更されています。今回の研究で,
調査にご協力いただいた先生方には多くのご意見やご示 唆をいただきました。ここに深く感謝申し上げます。
文 献
加藤義男,石坂直康,佐々木全(2000):LD及びその周辺に対す る教育支援の実態と課題,岩手大学教育学部研究年報60(1),
ll‑24
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