小学校英語に対する学習者の態度は中学校で変化するのか *
猪井新一**
(2014 年 11 月 28 日受理)
Do Students’ Attitudes Toward English in Primary School Change in Junior High School?
Shin’ichi INOI**
(Received November28, 2014)
Abstract
This study tried to investigate 1) whether students would change their attitudes toward English lessons which they had had in primary school when they started learning English in junior high school, and 2) the reasons why they liked and disliked English lessons in primary and junior high schools, respectively. A questionnaire on primary school and junior high school English lessons was given to 158 first-year students at a Japanese public junior high school in 2013. Results show that about 40% of the students changed their attitudes toward English lessons in junior high school, and that the reasons why they liked or disliked English lessons greatly depended upon whether they could understand English lessons or not.
はじめに
2011 年度から小学校に正式に導入された外国語活動の目的の一つに,学校教育における外国語 教育の充実があった。社会や経済のグローバル化に伴い,諸外国の多様な文化や考え方を理解し,
それらと共存し,国際感覚を持った人材を育てることが求められていた(文部科学省,2008)。小 学校外国語活動の主な目標は,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の養成であり,英 語運用能力(聞く・話す・読む・書くこと)の養成をめざしてはいない。英語運用能力の養成は中 学校および高校,そして大学における英語教育を通して十二分に行われることが期待されている。
小学校の外国語活動は,とりわけ中学校の英語教育への円滑な接続が求められている。円滑な接続
本研究は平成24~26年度科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号24531099)の研究成果の一部である。
茨城大学教育学部英語教育教室(〒310-8512 水戸市文京2-1-1;Department of English, College of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan).
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とは,小学校の時に英語を聞いたり,話したりすることを通して,英語の音声に慣れ親しみ,体験 的に英語学習を楽しいと感じることができれば,英語運用能力の基礎を養うことを目標とする中学 校の英語の授業を積極的に取り組むことが可能となることである。
しかしながら,小学校外国語活動には多くの課題が存在する。その一つが,小学校においてすで に英語嫌いな児童が多く存在することである。例えば,2011 年のベネッセの中学 1 年生 2,688 人を 対象にした全国規模の調査によると,小学校 6 年の時(2010 年),学校の英語が好きであったと回 答をした割合は 62.9% であり,そうではなかったと否定的な回答をした割合は 37.2% もあった(ベ ネッセ , 2011)。 この調査のように,4 割近くの児童が英語学習に対し否定的な態度をもち,中学 校入学時の段階ですでに英語嫌いであるというのは,中学校英語教師にとってマイナスからの英語 指導となる。筆者の研究(猪井,2013)は小学校外国語活動の中学校英語指導への影響に関して,
中学校英語教師へアンケート調査を実施したものであるが,はやり,中学校入学時点ですでに英語 が嫌いであり,英語に対し苦手意識を持っている生徒が相当数する存在することが判明している。
以上のように,小学校の時にすでに英語嫌いな児童が生まれてしまうというのは重く事実として 受けとめる必要がある。ただ,中学校との接続を考えると,小学校で一度英語嫌いになると,果た して,そのまま永続的に英語嫌いが進行するのだろうかという疑問を抱く。中学校英語教師の取り 組み方によっては,英語嫌いが解消されることがあり得るし,そのようにすることが中学校英語教 育の役割であるともいうことができる。本研究はその点に着目し,小学校の時の英語学習の好き嫌 いが,中学校においてもそのまま継続されるのかどうかについて調査をする。仮に,小学校の時の 英語嫌いが中学校入学後も変わらないとすれば,小学校の外国語活動の担う責任はとても大きい。
一方,中学入学後,小学校英語嫌いが英語好きに転じることがあれば,小学校英語嫌いはさほど深 刻な問題ではなくなる。小学校教師にとっても,英語教育の専門家でない者が英語を扱うことによ る心理的な負担が,多少なりとも軽減されるのではないかと思われる。
本研究の目的は,1) 小学校英語の好き嫌いが,中学入学後に変化するのか,しないのか,2) 小 学校・中学校における英語の授業の好き嫌いはどのような理由によるものなのかについて調査をす ることである。その調査のために,小学校外国語活動を経験した茨城県水戸市内にある公立 A 中 学校 1 年生 158 名を対象に,中学入学後 2 か月程度経過した 5 月の下旬に英語学習に関してアンケー ト調査を実施した。このような調査は,中学 1 年の 1 学期末,2 学期末,3 学期末,そして,中 2 年,
中 3 年と英語学習が進行するとともに,定期的に実施するのが理想的であるが,今回はそのような 本格的調査を実施するための予備調査としたい。
先行研究
小学校英語活動を体験した中学1年生が小学校の時の英語学習をどのように評価しているかにつ いて,渕上(2008)およびベネッセ(2011)などの研究がある。渕上(2008)は九州北部のある市 内の中学 1 年生を対象に 2 回アンケート調査を実施し(中1の 7 月と 3 月),小学校の時の英語活 動をどのように評価しているか,そして,中学校英語が好きかどうかについて調査をした。7 月の 調査には 1,197 名,3 月には 1,206 名が参加した。調査の結果,小学校の英語活動が好きだったと 回答した割合は 7 月,3 月の調査ともに,約 8 割に達していた。一方,中学校英語が好きかの質問
に肯定的に回答した割合は,中 1 の 7 月では 72% であったが,3 月には 60% を下回った。さらに,
英語が嫌いになった時期については,31% が中学校入学後と回答している。その内訳は,17% が 1 学期,12% が 2 学期,2% が 3 学期に英語嫌いになったと報告している。とりわけ,中学 1 年 1 学 期で英語嫌いになる生徒が多いことには注目すべきである。この研究の調査時期は 2007 年の 7 月 および 2008 年の 3 月であり,小学校外国語活動が必修化された 2011 年以前のものであり,教材も 含め,現在とは英語活動の取り組みが相当異なっていた可能性がある。さらに,上述の英語の好き 嫌いに関する割合は,アンケート調査対象者の集団全体についてのものであり,個々の学習者の英 語好意度の変化についてではない。また,小学校英語および中学校英語の好き嫌いの理由について も言及してはいない。本研究では,中学入学後の個々の学習者の英語好意度の変化,および小学校 及び中学校における英語学習の好き嫌いの理由について調査をする。
ベネッセ(2011)は 2011 年 10 月の上旬,2,688 人の中学 1 年生を対象に,小学校英語活動および中 学校の英語教育について,インターネットによりアンケート調査を実施した。小学校 6 年生の時の英 語学習に関して,62.9% が好きだったと回答しているが,37.2% が好きではなかったと回答している。
調査時期が渕上(2008)とは異なるが,小学校英語を好きであった割合が渕上の調査よりも 2 割近く低い。
好きだった理由の主なものは,授業が楽しい,もともと興味があった,友達が一緒で楽しかった等で あり,好きではなかった理由としては,もともと興味がない,授業がつまらなかった,授業が難しかった,
英語力を伸ばす役に立たなかった等を挙げている。中学校の英語教育に関しては,57.2% が学校の英 語が好きである,42.0% が好きではないと回答している。渕上(2008)の調査結果同様に,小学校の時 と比較すると,学校の英語が好きであると報告する割合が中学校になると減少することを示している。
ベネッセ(2011)の調査では,中学校の英語の好き嫌いの理由については,言及がなかった。さらに,
渕上(2008)同様に,ベネッセ調査の上述の数値はアンケート調査対象者全体についてのものであり,
個々の学習者の英語好意度の変化についてのものではない。本研究では,小学校の時の英語の好き嫌 いが,中学校へ入学してもそのまま継続されるのかどうかについて調査をするものである
本研究は,水戸市にある公立 A 中学校の 1 年生 158 名を対象に,小学校の時の英語の授業の好 き嫌いが,中学入学後に変化するのか,しないのか,また,小学校・中学校での英語の授業の好き 嫌いの理由について調査をすることである。調査時期は 2013 年中学入学後,およそ 2 か月近く経 過した 5 月の下旬である。今回調査対象者全体としての英語学習の好意度の数値も示すが,個々の 学習者の英語好意度の変化の有無を示すこととする。小学校英語および中学校英語の好き嫌いの理 由を分析する際に,小学校の時の英語教室通学の有無,小学校の時の様々な英語活動に対する有能 感(自信度)の 2 つ観点からもおこなう。筆者の研究(猪井,2013)において,小学校英語の好き 嫌いには英語教室通学の有無および英語活動に対する有能感が関係していることがわかっている。
英語教室へ通学している児童(特に 6 年生)の方が,そうでない児童よりも,小学校の英語の授業 がより好きな傾向にあった。学校外でさらに英語にふれることにより,外国語活動の授業がよくわ かるようになり,その結果小学校英語を好きになったのではないかと推測される。また,様々な英 語活動(例,挨拶,ゲーム,インタビュー,歌)に対する児童の有能感は英語の好き嫌いと関係が あった。活動への有能感が高いと英語の好意度も高く,有能感が低いと英語の好意度は低くなる傾 向にあった。小学校の時の英語教室通学の有無および英語活動への有能感が,中学校英語の好き嫌 いにも影響を及ぼしているかどうかについてもみてみたい。
データ収集
1. アンケート
アンケート項目は 7 項目あり,そのうち 6 項目は小学校の英語学習に関する項目(1. 出身小学校,2.
英語の授業開始学年,3. 英語教室通学の有無および通学開始時期,4. 英語の授業の好き嫌いおよびそ の理由,5. 中心的指導者,6. 6 つの英語活動に対する有能感,残り 1 項目は中学校での英語学習の好き 嫌いおよびその理由についてである。本稿に関わる質問項目は,小学校英語学習に関わる 3 項目(3,4,
6)および中学校英語学習の好き嫌い1項目,計 4 項目である。小学校英語および中学校英語の好き 嫌い(好意度)は,「好き」,「どちらでもない」,「嫌い」の 3 段階によって示されている(資料を参照)。
2. 参加者
参加者は茨城県水戸市内のある公立 A 中学校 1 年生 158 名である。表 1 の通り参加者の過半数 以上(88 名)が小学校の時,英語教室に通っていたことがわかる。この割合はベネッセ(2010)
の全国調査の数値1)と比べると相当高い。公立 A 中学校のある水戸市は,いわゆる英会話特区と して小学校 1 年生から学校で英語の授業を始めており,そのことが高い英語教室通学率につながっ ていると思われる。水戸市内の小学校では 2013 年度,小 1,2 年生は年間 30 時間,3,4 年生は 40 時間,5,6 年生は 50 時間の外国語活動の時間が実施された。表 2 は英語教室通学開始時期を示し ている。小学校入学以前にすでに 18.2% もの参加者が英語教室へ通学開始したのがわかる。これも,
水戸市が英会話特区であることの影響であると思われる。学習指導要領においては,外国語活動は 5,6 年生が対象であるが,この 2 つの学年に英語教室通学開始した参加者の割合は,全体の 35.2%
となっている。
調査結果および考察
調査結果は,1. 小学校英語の好き嫌いおよびその理由,2. 中学校英語の好き嫌いおよびその理由,
3. 小学校英語の好き嫌いと中学校英語の好き嫌いの比較,4. 英語の授業の好き嫌いと英語教室通学 の有無の関係,5. 英語の授業の好き嫌いと英語活動有能感との関係,の順序で示す。
1. 小学校英語の好き嫌いおよびその理由
表 3 のように,6 割弱の中学 1 年生が小学校英語を好きだったと肯定的に答え,約 2 割が否定 的に回答している。今回の調査では,回答選択肢の中に「どちらでもない」が含まれているため,
渕上(2008)やベネッセ(2011)と単純な比較はできないが,小学校英語が好きな割合(57.6%)
はベネッセ調査の数字(62.9%)と近い。また,今回調査の「嫌い」の割合(19.0%)は渕上(2008)
の割合とほぼ同じである。一般的には,中学 1 年生の 2 割程度が小学校英語を嫌いな状況と言え よう。
表 3 に示されているように,158 名中 91 名が小学校英語が好きだったと回答しているが,その うち 85 名が以下の表 4 のような理由を挙げている。一人で複数好きな理由を挙げていたとしても,
便宜上,各回答者を一つのカテゴリーに分類した。授業が楽しかったことを理由に挙げる回答者が 最も多く(68 名),8 割を占めていた。ベネッセ(2011)においても,その理由に言及した回答者 が 7 割以上となっており,今回の調査と同じような結果である。
小学校英語が嫌いだったという中学1年生が 30 名いたが(表 3),そのうち 28 名が以下の表 5 のような理由を述べた。ベネッセ(2011)は「もともと興味がなかったこと」が小学英語の嫌いな 理由の半分を占めていたが,今回の調査ではそのような記述例はみられなかった。その理由として,
アンケートの回答の仕方が,ベネッセでは選択式,今回の調査は自由記述式であることが考えられ る。それ以外の理由内容は,両調査でほぼ同じである。とりわけ,授業が「わからない」「つまらない」
「難しい」というのは小学校英語の授業に限らず,授業が嫌いになる理由として,どの教科の授業 にもよく当てはまると思われる。
本調査では小学校英語の好き嫌いに関し「どちらでもない」という選択肢があり,37 名がこ の選択肢を選んでいる(表 3)。そのうち 30 名がその理由を述べている(表 6)。1 つ目のカテゴ リーは,小学校英語に対し「好き」と「嫌い」,「 楽しい 」 と「楽しくない」の 2 つの側面を同 じ程度に抱いていることを示している。2 つ目のカテゴリーは小学校英語に対して否定的な理由 であるが,この理由があったとしても小学校英語が「嫌い」とまではいたっていない。3 つ目の カテゴリーの回答者は,いずれも幼いころから英語教室に通っており,小学校での英語学習は英 語教室でやったことの繰り返しとなり,新鮮味を感じていない。別な見方をすると,このような 回答をした参加者の出身小学校では,英語教室で指導するのと同じような英会話指導を相当して いたのではないかと,推測できる。つまり,学習指導要領にあるように,学級担任が中心となっ てコミュニケーションをしようとする態度を育てようとするのではなく,ALT が中心となって,
いわゆる英会話指導をしていたために,英語教室でやる内容とあまり大差なかったということが できるかもしれない。
2. 中学校英語の好き嫌いとその理由
表 7 の通り,98 名(62.4%)が中学校英語を好きだと答え,22 名(14%)が嫌いであると答えている。
好きな割合は,ベネッセ(2011)の中学校英語が好きな割合(57.2%)よりも多少高いが,どちら でもないと回答している人数が 37 名(23.6%)もいることや,調査時期が異なることもあり,単純 には比較はできない。中学校英語を小学校英語(表 3)と比較をすると,多少好きの割合が増加し,
嫌いの割合が減少している。
中学校英語が好きな 98 名が以下の表 8 のような英語が好きな理由を述べた。一番多くの回答者 が挙げた理由は,中学校へ入って文法学習,単語学習,読み書きなど,いわゆる小学校ではやって こなかったことをやるようになったことである。それを別な言い方で表現したのが,2 つ目のカテ ゴリーである。中学校では英語を「本格的に学習する」から,好きだと回答している。カテゴリー 3)
にある「わかりやすい」およびカテゴリー 4),5)に見られる「楽しさ」は小学校英語が好きな理 由にも見られる(表 4 を参照)。猪井(2014)によると,小学校教師が外国語活動がうまくいかなかっ たと感じる場合の中に,文法を教えようようとした時,綴りの指導をした時などがあったが,まさ しくそれらは中学校でやるべきことだと言える。基本的にわずか週1回,学校によっては多くても 2回しかない外国語活動の中で,中学校の前倒しのようなことをすると,英語嫌いを作ってしまう 恐れがある。文法学習,綴り学習,英語の読み書きは,週 4 時間英語の授業がある中学校で扱って
こそ意義があり,そうすることで,授業がよくわかるようになり,英語が好きになることがあり 得るのである。もちろん,文法指導や綴りの指導は小学校外国語活動の実態を十分に踏まえて,
中学1年生が極端に難しいと感じることのないように,教師は授業を工夫することは言うまでも ない。
次に中学校英語が嫌いな理由をみる。表 9 に示されている通り,中学校英語が嫌いな理由ついて,
一番多くの回答者が挙げているものが,授業が「よくわからない,難しい」というものである。小 学校英語が嫌いな理由にも,授業が「わからない」「難しい」というものがあったが(表 5 を参照),
英語の授業が嫌いな理由としては共通している。既述したように,授業がわかる,わからないとい うのは,英語の授業のみならず,あらゆる教科の好き嫌いに当てはまる。
中学校英語が好きでも嫌いでもない生徒が 37 名(表 7)いるが,そのうち 33 名が以下の表 10 のような理由を挙げている。カテゴリー 1)および 2)のように,中学校英語に対し「好き」な面 と「嫌い」な面を同時に抱いている。つまり「わからないこと」や「難しさ」を感じているが,同 時に「わかるとうれしい」のである。この 2 つのカテゴリーが中学校英語の好きでも嫌いでもない 理由のほとんどを占めている。小学校英語の好き嫌いに関して「どちらでもない」と回答する理由 の中に,「好き」な面と「嫌い」な面をあわせもつカテゴリーに属する回答者数が一番多かったが,
中学英語に関しても同様である。
3. 小学校英語の好き嫌いと中学校英語の好き嫌いの比較
表 11 は小学校英語の好き嫌いと中学校英語の好き嫌いのクロス集計である。小学校英語に対す る好き嫌いをそのまま中学校英語に対しても抱いている,つまり,英語に対する好意度の変化が
なかった人数は 90 名で,回答者全体の 57.3% を示している(表 11 の網掛けの部分)。小学校英 語および中学校英語の両方に対し「好き」と回答している人数は 66 名(42%),「どちらでもない」
が 16 名(10.2%),「嫌い」と回答しているのが 8 名(5.1%)いる。一方,小学校から中学校へ英 語好意度の変化があったのは 67 名(42.7%)も存在する。そのうち,好意度が上昇した,つまり 小学校英語の「どちらでもない」「嫌い」から中学校英語の「好き」へ,あるいは小学校英語の「嫌 い」から中学校英語の「どちらでもない」へ変化した人数は 36 人(14+18+4)(22.9%)である。
反対に,英語に対する好意度が下がった,言い換えれば,小学校英語の「好き」「どちらでもない」
から中学校英語の「嫌い」へ,あるいは小学校英語の「好き」から中学校英語の「どちらでもない」
へ変化した人数は 31 名(8+6+17)(19.7%)である。小学校英語から中学校英語に移行し,英語 に対する好意度が下降した人数よりも,上昇した人数の方が多少多いことは喜ばしい。
特に注目すべきは,小学英語が「嫌い」と回答していた 30 名のうち,中学校に入学後,わずか 2 ケ月中学校英語に取り組むことによって,その 6 割(18 名)が「好き」に変化していることで ある。その 18 名の小学校英語の「嫌い」から中学校英語の「好き」へ転じた理由をアンケート への自由記述回答からみてみると,その特徴は大きく 2 つある。1 つは,小学校英語は授業の内 容や先生の言っていることがわからなかったため「嫌い」であったが,中学校になったら文法な どを学習して授業の内容がわかるようになったために,中学校英語が「好き」になったという回 答である。授業内容がわかるというのは授業が「好き」になる前提である。2 つ目の特徴は,小 学校ではゲームばかりをしたり,会話だけで英語が「嫌い」だったが,中学校では文法など本格 的な英語学習をするので「好き」になったという回答である。中学校英語で初めて文法学習をす るから,小学校英語ではあまり分からなかったことがよくわかるようになり,英語が好きになる
ようになる。前述したが,週 1 回程度の小学校外国語活動においては,文法指導は英語嫌いを生 みやすいが,週 4 時間授業のある中学校英語では文法指導は必須であり,それにより授業内容が よくわかるようになる可能性が大きい。
ただ,中学校英語へ移行したことによる課題もある。1 つ目は,31 名が小学校英語から中学校 英語に対し好意度が下がっていることである。とりわけ,31 名のうち 8 名が「好き」から「嫌い」
へ変化し,そして 6 名が「どちらでもない」から「嫌い」に転じている。中学校で本格的に英語 学習が始まり,そのことにより中学校英語が好きになる生徒がいる一方で,嫌いになる生徒もい ることになる。2 つ目は,8 名の小学校英語の「嫌い」な気持ちが中学校でも「嫌い」のまま変 化していないことである。全体のわずか 5.1% ではあるが,今後中学校での英語学習が進行して いく中で,少しでも「嫌い」な気持ちが変化することを期待したい。
このように,小学校英語の好き嫌いは,中学校英語において変化するのである。今回の調査で は小学校から中学校へ移行して,英語好意度が増した割合がそうでない割合よりも高いことは大 変希望が持てる。今回は調査はしていないが,中学 1 年 1 学期末,2 学期末,3 学期末,同様に 中学 2 年,中学 3 年と定期的に調査を実施することで,さらなる知見を得ることができると思わ れる。
4. 英語の授業の好き嫌いと英語教室通学の有無の関係
猪井(2014)のよると,英語の授業の好き嫌いと英語教室通学の有無の関係は小学 5 年生の場 合はみられなかったが,6 年生の児童の場合はみられた。つまり,英語教室に通学している 6 年 児童の方が,そうでない 6 年児童よりも学校の英語の授業が好きである傾向があった。本稿では,
小学校時代の英語教室通学の有無と小学校英語および中学校英語の好き嫌いの関係をみる。表 12 の通り,英語教室通学経験のある回答者の方がそうでない回答者よりも,小学校英語が好きだっ たと回答している割合が 20% 高く,一方嫌いであったと報告している割合も 13% 程度低いが,
統計的には有意ではなかった。
小学校の時の英語教室への通学の有無は,小学校英語の好き嫌いに対して統計的には影響を及
ぼしてはいなかったが,中学校英語の場合はどうなのであろうか。表 13 の通り,中学英語が好 きな回答者の割合は,小学校時代の英語教室通学経験者の方がそうでない回答者より 2 割程度多 いが,「どちらでもない」「嫌い」の回答の場合ほぼ同じである。統計的には中学校英語の好き嫌 いと小学校時代の英語教室通学の有無の間には関係がなかった。表 12 でもそうであったが,学 校の英語の授業の好き嫌いと小学校の時の英語教室通学の有無の間には,今回の調査結果からは 統計的有意差はみられなかった。学校の授業が好きになることが英語学習上重要であるとすれば,
好きになるために小学校の時英語教室へ必ずしも通学する必要はないことになる。今回は,中学 校入学後の英語教室(塾)への通学の有無については調査をしていない。
5. 英語の授業の好き嫌いと英語活動への有能感
小学校英語の好き嫌いおよび中学校英語の好き嫌いと,小学校英語活動への有能感には関連性 があるのかどうかを調査した。まず回答者ごとに,小学校英語の 6 種類の英語活動各々について の有能感(自信度)の平均値を算出した。平均値の最大値は 4 となる。次に,小学校英語および 中学校英語に対する好意度の異なる 3 つのクループ(「好き」「どちらでもない」「嫌い」)ごとに,
小学校英語活動の有能感のグループ平均値を算出した。そして,小学校英語および中学校英語ご とに,3 つのグループ間には統計的有意差があるのかどうかを調査した。
1) 小学校英語の好き嫌いと英語活動の有能感
表 14 は小学校英語の好意度の異なる 3 グループの英語活動に対する有能感の平均値を示して いる。小学校英語の好意度が高いグループの英語活動有能感平均値が一番高く,「嫌い」なグルー プの平均値が最低となっている。統計的にも,この 3 グループ間には違いがあることが示されて いる。その後の検定として,3 つのグループ間でペアごとに,平均値の比較をした。統計上は「好 き」と「嫌い」の間(H= 46. 649, p < .001, r = .443),そして「好き」と「どちらでもない」の 間(H=30.994, p < 001, r= .309)に有意差があった。「いいえ」と「どちらでもない」の間(H=
-15.655, NS)には有意差はなかった。このように,英語活動に対して自信があるかどうかは,小
学校英語の好き嫌いと関連性があることがわかる。もちろん,2 つの因果についてははっきりし ていない。英語が好きだから,英語活動に積極的に取り組んだ結果,有能感が上がるのか,それ とも,英語活動有能感が高いから英語が好きなのかは,はっきりしない。おそらくは,その両方 である。
2) 中学校英語の好き嫌いと英語活動の有能感
今度は,小学校の時の英語活動有能感が中学校英語の好き嫌いに影響を及ぼしているかどうか をみるために,グル―プごとの英語活動有能感平均値を算出した(表 15)。表 14 とほぼ同じよ うな結果となった。中学校英語の好意度が高くなるにつれ,小学校の時の英語活動有能感の平均 値が高くなっている。中学校英語好意度の異なる 3 つのグループ間には統計的な差があり,グルー プ間の違いをみるためにその後検定をおこなった。「好き」と「嫌い」の 2 グループ間には統計 的有意差がみられた(H= 36.906, p < .01, r = .315)が,「好き」と「どちらでもない」の間(H
= 15.492, NS),および「どちらでもない」と「嫌い」の間(H= -20.964, NS)には統計的有意差 はみられなかった。全体的には,小学校英語活動の有能感が中学校英語にも持ち込まれ,中学校 英語の好意度に影響を与えていると言ってよいであろう。小学校の英語活動に対し自信を持って いれば,中学校の英語に対しても肯定的な態度を示す傾向にある。
まとめ
小学校英語から中学校英語へ移行し,英語授業の好き嫌いの変化をみると,調査対象者の中学 1 年生 158 名のうち 4 割程度に変化がみられた。とりわけ,小学校英語が「嫌い」であった 30 名のうち 6 割が中学校英語を「好き」になっていることは特筆すべきである。その理由として,
中学校で,文法や単語の学習,英語の読み書きなど本格的に英語学習が始まり,授業内容がわか りやすくなっているためである。もちろん,A 中学校英語教師の英語指導が適切であり,授業の 内容がわかりやすいのである。ただ,課題としては 8 名が小学校英語の「嫌い」な気持ちが,中 学校へ入学し 2 ヶ月後も変化していないことである。今後の英語学習への取り組みのよっては,
変化することを期待するものである。
小学校英語の主な「好き」な理由は,授業が楽しい,面白い,わかりやすいことなどであった。
「嫌い」な主な理由は,授業内容がわからない,難しいというものであった。「どちらでもない」
主な理由は,楽しい面とそうでない面,内容がわかる面とそうでない面の両方を感じていること であった。一方,中学校英語の主な「好き」な理由は,文法,読み書きなど本格的に英語を学習し,
内容がわかりやすいことなどであった。中学校英語の「嫌い」な主な理由は,内容がわからない,
難しいというものであった。「どちらでもない」理由は,内容がわかる面とそうでない面の両方 を感じていることである。小学校英語,中学校英語の好き嫌いを大きく左右するものとして,授 業内容のわかりやすさがある。授業内容がわかりやすければ授業が好きになり,そうでなければ 授業が嫌いになる。授業内容はわかりやすくもあり,そうでない場合もあると感じる時は「どち らでもない」となる。この傾向は英語のみならず他教科にも当てはまる。小学校英語の嫌いな主 な理由は小学校英語においては,学級担任が ALT に授業をお任せにしたり,あるいは文法,単 語のつづりの学習等,中学校の前倒しのようなことをすると,週当たり 1 時間,多くても 2 時間 しかない小学校では,授業がわからなく可能性がある。
今回の調査では,小学校英語および中学校英語の好き嫌いと,小学校時代の英語教室への通学 の有無の間には明確な関連性がなかった。英語教室に依存しなくても,学校の英語が好きになる 可能性が十分あることを示している。一方,小学校の英語活動に対する有能感は,小学校英語お よび中学校英語の好き嫌いと関連性があった。小学校の英語の授業では,学級担任が工夫をして,
児童が英語に対して自信を持てるような授業づくりをすることが求められている。ALT に授業 をお任せにすると,児童は授業内容がわからなくなり,英語に対して自信が持てなくなる。少し でも児童が「できた」と感じることができる活動を仕組むことが大切である。
今回の調査は,中学 1 年の 5 月下旬に 1 回だけ行ったものである。また,中学校における英語 教室(塾)通学の有無については調査をしていない。個々の英語学習者が,中学 1 年,2 年,3 年と英語学習が進行する中で,英語学習に対する好き嫌い,英語学習意欲などを含めた態度がど のように変化しているかについて,さらに調査をする必要がある。
注
1) ベネッセ(2010)は 2,326 名の学級担任にクラスの何割程度の児童が英語教室へ通っている かと尋ねており,1 割程度と回答している学級担任が 40.7%,2 割程度と回答している学級担任 が 17.7% で,5 割以上はわずか 0.7% の学級担任である。
引用文献
猪井 新一.2013.「小学校教員および中学校教員から見た外国語活動の児童・生徒に及ぼす影響」『第 39 回 全国英語教育学会北海道研究大会発表予稿集』,pp. 264-265. 全国英語教育学会.
猪井 新一.2014.「小学校外国語活動において,教師はどのような時に成功感と失敗感を感じているのか」『茨 城大学教育実践研究』第 33 号 , pp.81-95.
渕上 啓子.2008.「小学校での英語活動経験者は中学 1 年時にその活動をどう評価しているか」 『STEP BULLETIN』vol. 20, pp. 197-212. 日本英語検定協会.
ベネッセ.2010.「第 2 回小学校英語に関する基本調査(教員調査)」 http://benesse.jp/berd/center/open/
report/syochu_eigo/2010/index.html (2011/09/18 閲覧)
ベネッセ.2011.「小・中学校の英語教育に関する調査 速報版」 http://benesse.jp/berd/center/open/
report/syochu_eigo/2011/soku_01.html (2012/01/26 閲覧)
文部科学省.2008.『小学校学習指導要領解説外国語活動偏』東洋館出版.
資料
英語の学習についてのアンケート
これは,皆さんの英語の学習についてのアンケート調査です。皆さんが小学生の時,英語の学習をどのよ うに思っていたか,そして,現在英語の学習をどのように思っているかについての調査です。皆さんの学校 の英語の成績とは全く関係がありません。ご協力をお願いいたします。
1 年( )組 番号( )
1.出身小学校( )小学校
2.小学校の時,学校での英語の授業は何年生から始まりましたか。 ( )年生 3.1) 小学校の時,英語の教室(塾)へ行きましたか。 はい いいえ 2) 前の質問で「はい」と答えた場合,小学何年生の時行きましたか。
( )年生
4.1) 小学校の時,学校の英語の授業は好きでしたか。 はい いいえ どちらでもない 2) その理由を,自由に書いてください。
5.小学校 6 年生の時,英語の授業はどなたが中心となって行っていましたか。1 つ選んで下さい。
1) 担任の先生
2) ALT(外国人)の先生 3) 両方
4) その他の先生(具体的に )
6.小学校の時,次の a)〜 f) の活動はどれくらい自信をもって取り組むことができましたか。数字を一つ 選んで○印をつけてください。
4よくできた 3だいたいできた 2 あまりできなかった 1ぜんぜんできなかった
a) 英語であいさつをする。 4 3 2 1
b) 英語で月,曜日,動物などの名前をいう。 4 3 2 1 c) ALT(外国人)の先生の話の内容がわかる。 4 3 2 1
d) 英語の歌を歌う。 4 3 2 1
e) ゲームをする。 4 3 2 1
f) クラスメートに英語でインタビューする。 4 3 2 1 7.1) 中学校での英語の学習は好きですか。 はい いいえ どちらでもない 2) その理由を,自由に書いてください。