アレキサンダー・ホフマンの企業経済学
¶ドイツ経常経済学に.おける
技術論学派の一・考察岬(2・完)
笠 原 俊 彦
ⅠⅤ 企業職能の基本的特質
1 企業職能と危険政策
ホフマyによれば,企業活動(Unternehmungstatigkeit)ないし企業職能
(Untemehmungsfunktion)は,私経済的成果(der privatwirtschaftliche Er・folg)に対する目的適合性(ZweckmaBigkeit)ないし有用性(Nutzlichkeit)
を規範とする,財の経済的循東におけ・る積極的関与および形成(das aktive
Eingreifen und GestaltenimwirtSChaftlichen Kreislauf derGiiter)であ
(1)(2)
る。このような企業職能は,常に,さまざまの危険(Risiken)ないし企業危 険(Unternehmungsrisiken)を伴う。ホフマンは,これを,1.資本処理の領 域における危険(kisikenimBereichderKapitaldisposition),2.財産処理
の領域における危険(Risikenim Bereichder Ver・m8gensdisposition),3.
利潤計昇および利潤処分から生じる危険(Risikenaus der Gewinnrechnung und Gewinnverwendung)の3つに分けて説明する。
第1に.,資本処理の領域における危険ほ.,貨幣資本の処理紅関して生じる唇 険を意味すると解される。これについて,かれは,とりわけ企業の資本詣達に 関する危険を問題とする。企業紅おける自己資本の訝達は,その出資者にとっ
(1)Vgl.,1・A.Hoffmann,mrischqfislehY el,S.179・
(2)本筋におけるホフマンの所論は,主として次による。
A.Hoffmann,a.a.0.,SS.194−208.
・−一Jβ一 第4畠巻 弟2卑 212 て資本を失う可能性ないし資本危険(Ⅸapitalrisiko)を意味する。他人資本の
緬達は,企業の財務的欲求が自己資本のみによって満たされない場合に,自己 資本にとって危険減少を意味するのであるが,総資本利潤率が他人資本利子率 より低い場合に自己資本利潤率を低下させ,また利子の支払いと資本の返還と が企業の財務的基礎およぴそ・れとともに・経済的基礎を破壊しうる点において自 己資本転とって危険増大を意味する。
第2に,財産処理の領域における危険とほ,物財および労働力を調達して企 業組織を形成し,商品を生産および販売することに.関して生じる危険を意味す
ると解される。ホフマンは,この危険を,企業外部的原因に.よるものと企業内 部的原因によるものとに分ける。
企業外部的原因による危険としてほ,まず,非経済的原因紅よる危険があ る。落軍による火災のような災害,外国における輸入禁止,保護関税設定,内 国における税制変更などの政治的事由による危険がそれである。だが,経営経 済的紅より大きな関心事であるのは.,経済的原因に.よる危険,企業の外部経済
(AuL3enwirtschaft)としての市場経済から取引過程を通じてもたらされる危 険である。企業内部的原因による危険としてほ,企業内的原因をもつ爆発,火 災などの事故,技術的またほ籠織的種類の欠陥,一定の在席の物的損傷または 価値減少などに.よる危険および人的生産手段に関して生じる危険ないし労働危
険(阜r・beitsrisiken)がある。
第3に,利潤計算および利潤処分から生じる危険とは,実体分配(Substanz−
ausschi主ttung)をもたらしうるみせかけの利潤(Scheingewinn)の計算に.よる 危険および企業の経済的地位を弱める利潤分配による危険を意味する。この 危険は,貨幣資本の処理に関して生じる危険である点払おいてほ.第1の資本処 理の領域紅おける危険と異なるところがないのであるが,利潤すなわち企業紅
よって生み出された新しい資本の処理に関して生じる危険である点において,
第1の危険から区別されるのである。
以上のような企業危険ほ,まず,損失の可能性として痙解されうる。だが,損 失の可能性には,同時に利潤機会が結びついている。資本主義経済社会におい
アレキサンダー・ホフマンの企業経済学 −4β−
213
て,この2つほ表裏一体の関係紅あることが注意されなければならない。ホフ マン牒∵おいて,企業危険ほ,まさに損失と利潤の両方をもたらす可能性をな し,この意味において,企業の利潤性を決定する利潤性要因(Rentabilitats−
faktor)をなすと解される。ここに損失と利潤とほ.,それぞれ資本の減少およ び増加を意味し,したがって,すべての企業危険ほ,資本増減の可能性すなわ ち資本危険であるともいわれうる。企業の立場を自己資本の立場と解するれフ マンに.おいて−,ここにいう資本危険が自己資本危険を意味することはいうまで もない。それゆえにこそ, かれは.,資本処理の領域における危険を述べたとこ ろで,企業危険として自己資本危険を問題紅していたのである。
このような企業危険ほ.,企業のあらゆる活動に存在する。そこで,企業ほ,
その活動のすぺてにおいて,常に,何らかの企業危険に対処せざるをえない。
こ.の意味において,企業活動は,それ自体,危険政策(Risikopolitik)をな す。資本処理,財産処理,利潤計算および利潤処分の3領域に.おける企業危 険の説明ほ,このことを示そうとするものにイ也ならない。
ホフマンは,企業危険に.対する企業の対処の仕方を2つに大別する。第1 は,他人への危険転嫁であり,第2は,危険の自己負担である。他人への危険 転嫁は,他人に転嫁することの可能な危険に.ついてのみ問題となる。企業者 は,有償で(例えば保険業者に)または無償で(例えばカをもって下請け業者 に)危険を他人に転嫁する。だが,他人に転嫁できる危険についても,企業者 は,そのすべてこを他人に転嫁するわけではない。なぜなら,危険ほ利潤機会を も意味するため,危険の他人への転嫁は,それに応じた利潤機会の放棄を意味 すること紅なるからである。一そこで,企業者ほ,危険を他人へ転嫁するより自
ら負担する方がより大きな利潤を得ることができると判断する場合には,他人 紅転嫁することのできる危険をも自己負担しようとするであろう。さらに,企 業危険には他人に転嫁できない危険があり,このような危険は,企業者がこれ を自己負担せざるをえない。
以上2つの,企業危険に対する対処の仕方のうち,ホフマンは,とりわけ,
危険の自己負担を重視する。なぜなら,ホフマンによれば,企業の意味(Sinn)
1一 j_ノ ー 繚48巻 籍2考 214 ほ利潤追求に.あり,企業の競争能力を高め可能な限り最大の利潤を追求しよう
とする限り,企業者は,積極的に危険を冒さざるをえ禿いからである。市場経 済における企業の利潤獲得能力の維持ほ,このような冒険に.よっ七ほじめて 達成される。ホフマンが,後述するように.,企業職能紅ついて企業者の創造 的,動的精神に・活動の余地を与える企業職能領域,とりわけ組成職能(die OrganisierendeFunktion)を重視する理由ほ,まさに.,ここにある。
以上を要するに,ホフマンにおいて.Lほ,企業職能は,危険政策,とりわけ積 極的な危険自己負担政策として特質づけられる。
2 企業職熊と市場適合政策
ホフマンは,以上の論述に.続い{:企業の市場適合政策(geschaftliche Mar−
ktanpassungspolitik)を問題とし,そこにおいて■,流動性政策,予算,景気政
(3) 策の3つを説明する。
第1に,流動性政策とほ,企業の支払い準備政策である。ホフマンほ,これ に・ついて,まず,利潤性の前提をなす原価補償を問題とする。原価の不補償な いし欠損ほ,支払い需要(Zahlungsbedarf)の不充足を招く第一・の原因だか らである。しかし,たとえ原価が補償されても,それだけで流動性問題が解決 されるわけではない。原価を構成する諸要素の購入に.かかわる支出の時点およ び商品の売上げにかかわる収入の時点はさまざまであり,そのため,原価が補 償されても,支払い需要時点に.おいて常に支払いがなされうるとは限らないか
らである。
このよう小に収入の時点と支出の時点との不一傲を招く要因として,ホフマン は,とりわけ信用給付(Kr・editleistung)の存在を指摘する。企業は,商品を 提供しこれに対する反対給付を受け取ることに.よって他の個別諸経済と結びつ いている。ここに反対給付は究極的紅ほ貨幣を意味するのであるが,しかしそ れは直ち紅貨幣として受け取られるわけでは必ずしもなく,むしろ信用給付を
(3)本節に.おけるホフマンの所論は,主として次紅よる。
A.Hoffmam,a.a.0.,SS.194−264.
アレキサンダー・ホフマンの企業経済学 −45−
215
なすのが普通である。この信用給付こそ,そ・の受敏着払将来紅おける収入実現 の危険を,その提供者に将来における支払い能力の危険をもたらすのであり,
流動性救策を必要ならしめる主要因である。
ホフマンほ,このように原価が補償.される場合にもなお存在する流動性問題 を流動性問題の中心と解する。
第2に,予算ほ,達成目標としての諸当為侶(Sollziffern)の設定をその主 要線題とする。この当為値は,企業処理の規範的基礎(normative Grundlage gegchaftlicher Dispositionen)である。この当為借が,企業の全体軋わたっ
て計画的,体系的に設定されるとき,企業の諸経営および諸部門は.,秩序ある 全体(das geordnete Ganze)となり,かくして1つの職位,とりわけ碍経営 および諸部門の上位にある1機関から全体を展望するこ七が可能となる。この 当為値ほ.,当該企業の固有の意欲(Wollen)とともに.企業外部からこの意欲 を条件づける可能性(K6nnen)とりわけ販売可能性を考慮して設定される。
そして,この可能性を知るため紅,以下に述べる経済予測とりわけ販売市場紅 関する予測が必要とされるのである。
第3に,景気政策は,経済予測ないし景気予測と固有の意味における′景気政 策との2つからなる。このうち,経済予測は,企弟が固有の意味払おける景気 政策を合理的に営むた鱒の前提である。
企業の利潤性ほ.,非常に多くの個別的数豊に・よっで構成される1つの価値爵 ないし収益形成過程における多数の要素の結果の数藍的表現であり,これら多 数の個別的数鼠あるいは諸要素ほ.,当該企業に特殊な,当該企業の属する業種 紅特殊な,あるいは国民経済さらにほ世界経済に妥当するさまざまの経済変動 ないし農気変動,すなわち諸々の改造および新形成(Um−dnd Neubildungen)
を含み経済の実体にかかわる構造変動(Struktur畠nderungen),その律動的昇 降紅おいて資本主義経済の機能を表現するか軋みえる純粋な景気変動ないしは 固有の意味における景気変動(die Xonjunkturschwankungenim eigent−
1ichen Sinn des Wortes),季節変動,ストライキなどの影響を受ける。企業 者ほ,企業活動の全体(die ganze Unternehmungstatigkeit)およびこれを
ー 46−− 第48巻 第2号 216 構成する経営経済的に愚考な処理のすぺて(al1ebetriebswirtschaftlichrele−
Vante Dispositionen)をこれら経済変動に,適合(Einstellung,Anpassung)
させなけれはならない。その際,企業にとって二重要なのは,とりわけ販売市場 紅おける諸変動である。なぜなら,企業ほそもそも販売するため紅商品を生産 するのであり,「企業有機体における機能障害を来たさないためには.,企業は 無計画的ないしほ盲目的紅やみくもの購買および生産を行うことができず,販
(4)
売可能性の基準にしたがってのみ,こ.れらの活動を行うこ.とができる」からで ある。
以上のような経済諸変動に適合するために,企業は,これを予測しようとす る。だが,ホフマンによれば,この予測は正確紅はなされえない。もしも例え ば当面の不況はいつまでも続くごとなくいつかほ好況に.とって代られるであろ
うという程度の予言が経済予測に要求されるに過ぎないならば,正確な予測は おそらく可能であろう。しかし,経済予測において問題とされるのは,このよ
うな予言ではなく,かなりの時間的−・個性的明確性を有する経済事象の予言,
例えば取引患および価格がいつ上昇またほ下降し,それがどのくらい続き,そ の速度および強度はいかに推移するかの予言,である。この意味に.おける予測 は,経済史を予じめ規定することを意味する。それは,「知識ほ予言なり」と いう旧い合理主義者の公式を信奉し,経済過程の細部および全体における一義 的かつ既知の強制進行性(eine eindeutige und erkannte Zwangslaufigkeit des Wirtschaftsablaufsim ganzen wieim einzelnen)を前提とするものに 他ならない。だが,人間の行為は予じめ規定されうるものではなく,したがっ
て,このような予測ほ夢想的(ut6pisch)でしかない:ひとは.,経済の構造変 動として現われる,改造および新形成を志向する人間の努力および意欲(Sin・
nen und Wo11en)および政治的改造および新形成が予測不可能セあること,
具体的な真気変動の経過紅はこれらの影響が含まれていることを忘れてほな らない。特定の男気循環ほ,すべてニ,幾分1回的なもの個性的なもの(etwas
(4)A..Hoffmann,a.a.0.,S.559.
アレキサンダー・ホフマンの企業経済学 −47−
217
EinmaligesIndividuelles)である。
このようにして,企業の固有の景気政策に対し経済予測がなしうるこ.とほ,
非常にわずかである。企業は,由有の景気政策を不確実な未来に対して営まざ るをえない。このような不確実性こそ,企巣の危険政策を要請するものである ことが注意されなけれはならない。
固有の意味における景気政策とは,企業が経済予測紅基づいて営む,経済変 動ないし景気変動に対する適合政策を意味する。これは,企業のすべて−の職能 領域において問題となりうるの・聖あるが,ホフマンは,とりわけ,設備政策,
在席政策,信用政策,評価−および減価償却政策,秩立金政策について,これ
(5)
を例示する。
第1に.,設備政策に関して,かれは,設備拡張ないし経営拡張と景気との関 係を問題とする。企業の経営拡張は,絶対的にほ固定費の増大を招くが,山定 の限界内では,相対的に,すなわち製品単位当りで,これを減少させうる。こ れこそ,企業が経営拡張をなす主たる理由の1つである。しかし,経営拡張 は.,操業度の低下によって絶対的のみならず相対的にも固定費の重圧をもたら し,長期的にみた全体的利潤性(die Gesamtrentabilit翫,auflange Sicht gesehen)を低下させることがある。過大拡張(ひberexpansion)とよばれる
ものがこれである。過大拡張ほ,ひとが楽観主義紅陥いる景気上昇時軋著し い。過大拡張を避けるために.ほ,経営拡張軋際して,長期的利潤性の立場か
ら,その経済的効果を十分紅考慮することが必要とされるのである。さらに,
ホフマンは,設備建設の時点について,建設費の点からみるとき,建設価格の 安い不況時が合理的であることを指摘する。
第2の在庫政策紅おいて問題とされる在庫は,転換財の在庫である。在庫政 袋における1つの主要動機は,純粋販売政策的動機(rein absatzpolitisches Motiv)である。この動機は,顧客の注文紅直ちに応じうるだけの在庫を保持 するよう要静する。在庫政策における他の1つの主要動磯は,投機的動機であ
(5)Vgl.,A.Hoffmann,a.a.0.,S.264.
ーー 4g− 第48巻 第2号 218
る。企業者は,在庫の価格勝負に.よる付加的利潤をうるため紅価格上昇時紅ほ 在庫を増やそうとし,逆紅価格下落時に.ほ在庫を減らそうとする。顧客の注文 塁および転換財価格は.いずれも景気とともに変動するため,以上2つの主要動 機ほ,企業の保有在庫を景気とともに変動させる。ただ,その際の在庫変動の 仕方ほ,すべての業種において一様であるわけではない。例えば卸売業企業と 比べるとき,鉱工業企業なかでも資本集約的な大規模製造業企業に.おいては,
固定費の重圧軽減および基幹労働者(Arbeiterstamm)維持の必要から,操業 度を低下させることが容易でなく,このことが,この企業において−不況時の在 庫削減に対する歯止めとなるのである。
第3に・,信用政策につV、てほ,信用授受の問題が論じられる。呆気上昇期に は,商品価格,賃金のみならず利子率も上昇する。農気上昇瓢の経営拡張は,
それが他人資本によって嫡われる場合に.ほ,利子費用の点においても不経済的 である。この時期払おいてほ,資本碕場は株式発行軋好意的であり,株価が高
く増資濫.よるプレミアム積立金(AgioreserVen)の形成が期待されうる。そ こで,経営拡張の時点がこの時期に選ばれるとすれば,そのための資本訝遥に は,社債ではなく株式の発行が有利であや0景気下降期については,第1に,
短期信用による資本掴逮の問題が示される。銀行が信用供与の継続を拒み,ま たほ供与した信用の返還を求め,そのために.受信企業が損失価格で商品を売却
して資金を調達せざるをえず,、最悪の場合に.は信用のこげつきをきたすことと なろ危険がそれである。景気下降期は,また,顧客の支払い能力および支払い 意欲を低下させる。そのため,近い将来に景気の下降が予憩される好景気時
においては,顧客への信用供与に.留意することがとくに必要となるのである。
第4に・,評価一および減価償却政策において,ホフマンは,転換財の評価お よび設備財の評価を問題とする。これと第5の積立金政策とほ,のちに.,それ ぞれ利潤計昇および利潤処分において詳論されるものに他ならない。ここで は,われわれは,ホフマンが評価−・および減価償却政策および硫立金政策にお いて主として利潤の計算\および処分紅おける不況時への準備を問題としている
ことを指摘すれば十分であろう。
アレキサンダL−・・ホフマンの企業経済学 ー・J9 −一一 219
企業の ̄市場適合政策としてホフマンが説明する流動性政策,予凱 景気政策 匹ついて,われわれは,これら3つの関連の不明確性を指摘しなければならな tl。流動性政策ほ,予算の1部として企業活動の貨幣収支的側面を問題とする 財務予静において問題となりえ,また予算自体は.,企業の固南の市場適合政策 の1表現をなすと解される。それにも拘らず,ホフマンは,何故に.これら3つ を並列的に,しかも以上の順序で取り上げたゐであろうか。われわれは,この ことに.関する明確な理由をホフマンに.おいてみいたすことができない。
しかし,このような不明確性紅.も拘らず,われわれほ,以上3つについて2 つの共通点をあげるこ.とができる。1つは,ホフマンが以上3つを論じる際の 標題に示している市場適合性であり,他の1つは,企業職能領域全体への関連 性である。
第1に.,以上3つの企業活動は,いずれも,企業の市場紅対する適合活動と して理解されうる。流動性政策ほ,企業と市場との交渉によって企業匹.もたら される支払い危険に対する企業の適合政策であり,こ.の意味に.おいて,企業の 市場適合政策をなす。予算および景気政策が企業の楕場適合政策をなすことに ついては,もはや説明は不要であろう。
第2に,以上3つの企業活動ほ,いずれも企業のすべての職能領域に関連す る。予算および景気政策が企業のすべての職能領域に.関連することはすで匿述 べたのであるが,こ.のことは,流動性政策についても例外ではない。ホフマン に.よれば,、流動性問題は主として原価を構成する諸要素の購入にかかわる支出 の時点と商品の売上げ紅かかわる収入の時点との時間的間隔によって発生する のであり,流動性政策ほ,このような収支の時間的間隔を引き起こ.しまたはこ 匹に対処するすべての企業職能に関連する。この企業職能は・,物的および人的 生産手段の調達から商品の販売紅至る財産処理の職能,支払い手段の準備にか かわる資本処理および利潤計静・処分の職能,したがって企業職能の全体を含 むのである。
企業が利潤追求のために営む商品生産活動は,市場に対する企業の適合活動 として理解されうる。企業ほ.,市場から生産手段を調達するばかりでなく,そ
第48巻 第2号 220
− 5ク ー
(6)
もそも市場において販売するために商品生産活動を営むのであり,このことに ょって,その職能の全体に.おいて,市場に対する適合を要請される。企業の市 場適合政策として−,流動性政策,予凱景気政策を論じるホフマンの意図は,
まさに企業の商品生産活動の全体が,市場とりわけ商品販売市場に対する適合 政策に他ならないことを示すところにあると解される。
このようにして,ホフマンに.おいては,企業活動の全体は,危険政策として のみならず,また市場適合政策として特質づけられる。企業ほ,不確実な市場 軋対し,その商品生産活動の全体払おいて適合する。市場と企業とのこのよう な交渉こ.そ,利潤性要因としての企業危険の本源であり,企業者に対してとり わけ危険の自己負担を要請することが注意されなければならない○ホフマンは,
このような市場適合的危険政策を保全(SicheIung)とよぶものと解される。
Ⅴ 個別職能における企業保全
1 企業職能の体系
ホフマンは,「商事企業経済学(経営経済学)」の第2部「■企業の諸職能(資 本保全および資本運動)」に.おいて,企業職能を分類したのち,「保全(Siche−
rung)」,「財務(Finanzierung)」,「労務(Arbeit)」,「購買および販売(Ein・
(7)
kauf und Verkauf)」の各席を設けこ.れを説明する。
「 保全」は「企業の危険および危険政策」,「企業の市場適合政策」,「利潤政 策による資本保全(Kapitalsicherungdurch Gewinnpolitik)」の3つから構成
されるのであるが,こ.のうち前2者ほ,企業職能そのものの基本的特質を論じ るものと鯉される。以上において,われわれは,まさにこのような理解から,
この2つによって,ホフマン払おける企業職能の特質を明らかにしようとした のである。だが,「利潤政策による資本保全」は,企業職能そのものの基本的
(6)Ⅴgl.auch,A.Hoffmann,a.a.0.,S。559.
(7)本章本節におけるホフマンの所論は,主として次に.よる。
A.Hoffmann,WirtschaJislehreu,SS.179−193.
アレキサンダー・・ホフマンの企業経済学 一一 5」 − 221
特質を論じるものとは解されえない。それは,ホフマンが「企其の市場適合政 策」に.おいて例示した企業の景気政策のうちの評価−および減価償却政策,積 立金政策め2つを体系的かつ詳細に論述するものであり,企業職能そのものの 基本的特質ではなく企業の個別職能を具体的に.展開するものであることにおい
て,後続する「財務」,「労務」,「購買および販売」の各縮から区別されえな い。このように考えるとき,われわれは,企業の個別職能に関するホフマンの
論述として,「利潤政策に.よる資本保全」,「財務」,「労務」,「購漂および版売」
の4つを得ることができる。
それでほホフマンにおいてはいかなる理由から企業の個別職能としてこの4 つが論じられることとなったのであろうか。この問題を考察しようとするとき 第1に留意されるべきは,ホフマン払おける企業職能の分類と以上4つの個別 職能との関係であろう。かれは,企業職能を2通りの仕方で分類する。
かれによれば,企業の私経済的成果に対する目的適合性を規範とする財の経 済的循環における積極的関与および形成ほ,物的資本(Sachkapital)と労働と の結合において行われる。そこで;物的資本とこれを活動させる紅必要な労働 との管理(das Bewirtschaften od.Verwalten)ほ,企業職能紅おける重要な 要素である。ホフマンは,企業に.おいて行われるこのような管理を企業管理
(die Verwaltungder Unternehmung)とi:ぶ。
ホフマンによれば,企業管理という言葉は,これを最も広く解すれば,法秩 序の枠内で,企業のすぺての職能領域において,その生活の維持および促進
(Lebenserhaltungund・・f6rdeung)のために展開される活動の全体をいう。こ の意味払おける企業管理は,企業を全体としておよびその諸部分において指導 す る活動(die das Unternehmen als Ganzes undinseinenTeilenleitende Tatigkeit)のみならず,原材料の加工,計静,記録,簿記などの純粋に技術的 で執行的な活動のすべて(alle Tatigkeiten rein technischer und aus紬hren・
der Art)を含むことが注意されねばならない。それほ,まさに,企業活動の 全体を意味する。
だが,この企業活動のうち,活動家(ein Mander Tat)であり指導者
第48巻 第2号 222
ーー 52 −
(Fiihrer)であり形成者(Gestalter)である企業者の創造的,動的椅神(der schqpferische,dynamische Geistdes Unternehmers)に満動の余地を与え
る領域は,企業を全体としでおよぴその諸部分において指導する活動の領域で ある。この領域こそ,企業者の自由な判断(dasfreieErmessen)および自由 な行為(das freieHandeln)がなされる領域であり,経営経済学的考察の固 有の対象をなす領域に他ならない。物的資本と労働の管理の意味における企業 管理は.,まさに,この領域を意味する。こ・れは狭義の企業管理ともよばれラ
る。
狭義の企業管理は,3つの主要局面を有する。1.組成職能(die9rgarlisie・
rende Funktion),写.司令職能(die anordnende Funktion),3・最広義の 考査職能(die kontrollierende Funktionim weitesten Sinn des Wortes)
がそれである。組成職能は,物および人間を利潤追求の観点から最も合理的 紅結合し,いわば企業有機体な形成する職能を,司令職能は,組成職能に・よっ て形成された企業有機体を動かす職能を,最広義の考査職能は,企業軋とっ て重要な事象を観察し,監視し,記録し,確認する職能のすべてを,それぞ れ意味する。最広義の考査職能ほ,組成職能および司令職能に付随する職能で ある。
以上3つの職能のうち,組成職能ほ,企業財産の質および鼠を直接紅規定す るものであり,企業紅とって最も重要な生活要素である。それは,経済発展を 担う企業者の創意(dieInitiative)および創造力(die sch6pferischen Xra・
fte)が発現する特殊企業者職能をなす。このような著しい重要性のゆえに,
ホフマンは,これをとくに固有の意味妃おける管理ないし最狭義の管理(VeI・−
waltungim eigentlichen oder engstenSinne)とよぶ。
とこ.ろで,ホフマンによれば,企業組織に.みいだされる具体的区画にしたが うとき,企業職能は,上述の職能分類と異なる仕方で分類されうる。1.財務
職能(Finanz−Funktionen),2.商業的ないし市場職能(kommerzielle od.
Markt−Funktionen),3.技術的職能(technische Funktionen),4.計算職 能(Rechnungs−Funktionen),5.保全職能(Sicherungs−Funktionen),6.杜
アレキサンダー・れプマンの企業経済学 ・− 53 − 223
会政策的ないし福祉職能(sozialpolitische od.Wohlfahrts・−Funktionen),7.
管理職能(Verwaltungs−Funktionen)という7つの典型的主要職能への職能 分類がこれである。
算1に.,財務職能とは,貨幣業務(GeldgeSChafte)を意味する。これは,
企業管理の立場からみてより上級の職能である,株式および社債の発行,資本 参加目的のための株式取得といった財務取引のみならず,より下級の単なる技 術的業務である境金業務(Kasse−geSChafte)すなわち商品,原初料などの売 買紅よって生じる現金収支業務を含む。
第2に,商業的ないし市場職能は,商品,原材料などの売買に関する業務で ある。これは銀行業における信用仲介,運送業における運送,保険業における 危険の有償引き受けなどをも含む。
第3に.,技術的職能とは,製造業企業,建設業企米および縫製業企業におけ る原材料加工,鉱山業その他の資産減耗経常(Substanzbetr・ieben)における 採掘などの職能である。われわれは?これを狭義の生産職能とよぶことができ
る。これほ,ホフマンのいわゆる生産技術的意味における経常が担当する職能 軋他ならない。
第4に,計算:職能ほ,,簿記,原価計算二(Kalkulationen),賃金計凱 経営統 計を含む。請求・領収書の作成,送り状の検査はこれ紅含まれうるが,商業的 職能の補助職能としても扱われうる。
第5に,こ.こ紅いう保全職能とは,企業危険の減少および排除をなす職能で ある。事故,火災,盗難および横領などの予防,各種保険への加入,債権保 全,積立金の設定,予備取換え機械の調達などがこれに.含まれる。
第6紅,社会政策的ないし福祉職能とほ,物質的,精神的および衛生的手段 の援助を自由意思で与えることに.より,被用者をょりよく仕事に結びつける職 能である。法律の強制に基づく社会的負担(diesozialen Lasten)は,計算 職能紅おける賃金計静に属する。
第7に,管理職能とほ,固有の意味における一般管理(dieallgemeineVer−
waltungi.e.S.)を意味する。それは,「さまざまな諸活動を結合するこ
第48巻 欝2弓 224
−− ∂4 −
と,人間および物をその諸部分において均り合いがとれておりできる限り高い
(8) (9)
効率をもつ1つの経済的統一体に結合すること」,「企業の…舵をとること」を その内容とする。例えば,現在および未来の市場情況を考慮しながら,原材料の 在庫患および発注患を,生産能力と一定の量的関係を保ちかつ資本調達能力を 超えない程度に維持することがこれである。ホフマンに.よれば,こ.の管理職能 ほ,比較的大泉の商品購入,販売価格の切下げ切上げ,経営拡張または新鋭機 械への旧式機械の取換えのような経営改良,指導的職員の任免,経営縮少,製 造変更(Fabrikationsumstellung),増資,カルテルおよび団体(Ver・band)
への参加のような異常な経営処理および企業処理(Betriebs−und Unterneh−
mungsdispositionen)が問題となる場合には,他のすべての職能に・浸透する。
以上7つの撤能は,企業における分業に.よって成立する。ホフマンは,企業に おける分業を水平的ないし並列的分業(Horizontalod.Parallelarbeitsteilung)
と垂直的分業(Vertikalarbeitsteilung)とに区別する。
かれによれば,水平的分業とは,1つの職能を同種の複数の職能に分割する ことをいう。例えば,当座勘定への記帳職能を複数記帳者へ分割するごときが それである。このことは,水平的分業が例えば羊毛の購買と木綿の購買とへの 購買職能の分割のような質的相違に.基づく分業をも含むことを妨げない。いず れにせよ,水平的分業においてほ,個々の人間は,相互に対等の関係にある,
実質的または少くとも形式的に同一の職能を担当する。これ紅対して,垂直的 分業とは,例えば注文生産を行う企業についていえば,注文の引受けから生産 物の発送ないし販売代金収入の記帳までに現われる後続的な複数の職能への職 能分割をいう。
以上の説明によれば,垂直的分業とは,企業の広義における商品生産過程の 諸段階を基準とする職能分割を,水平的分業とは,このようにして分割された 各職能において行われる,実質的または形式的に同一の諸職能への職能分割を
(8)A.Hoffmann,a.a.0.,S.188.
(9)Al.Hoffmann,a.a.0.,S.188.
アレキサンダーー・ホフマンの企業経済学 ー ∂ぶ−
225
意味する。われわれは,ここに小う垂直的分業が企業組織における上下関係な いし階層関係を形成するものではないことに注意すべきである。それは,相互 に対等の関係を有する諸職能を形成する点に・おいては,水平的分業と異ならな いはずである。
ところが,ホフマンは,以上の説明のすぐあとで,重商的分業が人的構造に おける上位−および下位の序列(Uber−und Unterordnung)を含むと主張 し,これを受けて企業の階層組織を説明する。ここ・では,かれは,・一転して,
垂直的分業を階層形成者と解するのである。さら紅,かれほ,親絨の主要塑と して直系型(Linien−Typus)と参謀塑(Stab−Typus)とを取り上げ,そこ で,人事部,法律部,財務部などへの企業職能の専門化を水平的分業と解す
る。この専門化は専門化された各職能を担当する各部を相互に対等の関係ない し並列的関係に層くのであり,かれによれば,この水平的分業こそ,階層組織 を形成する垂盾的分業の対比物である。このように,ホフマンは,垂直的分業 および水平的分業を当初と異なる意味に.解する。
われわれほ,ホフマンにおける垂直的分業および永平的分業の意味を,当初 の意味にではなく,まさに.これから区別される意味に求めるぺきであろう。な ぜなら,企業職能が階層関係および並列関係をそのう、ちに含む企某組織によっ て分割担当されることこそ,かれが企業における分業の説明紅よって主張しよ
(10) うとすることであると解されるからである。
すでに述べた7?の典型的主要職能ほ,このような企業組織にみいだされる 典型的主要職能をなす。このうち,欝1から欝6までの財務職能,商業的職能,
技術的職能,計算職能,保全職能および社会政策的職能ほ.,相互紅並列的関係 をもつ。これらほ,相互紅対等な企業内諸機関(Organe)によって担当され る。欝7の管理職能ほ,以上6つの職能を結合し統一する職能であり,これら 諸職能の上位にある。これは,他の6つの諸職能を担当する諸機関の上位機閑
(10)われわれの解釈によれば,垂直的分業および水平的分業の当初の意味は,企業連携 に.おける垂直的および水平的という言葉の意味と企業内分業に.おける垂直的および 水平的という言葉の意味とのホフマンにおける混同紅よって生じたものである。
(Vgl.,A.Hoffmam,耶rねぐゐαノねJβカ7・g.,SS.155−157.)
・− ∂6 − 第48巻 第2号 226 によって担当されると解される。この上位機関ほ,下位諸機関を統合して企業
を1つの機能的統一・体とするのであり,下位諸機関に属する職能をも,これが 企業全体紅とって\著しく重大な影響を与えるものである限り,下位諸機関から 取り上げ,自ら担当するのである。上位機関の担当するこのような管理職能 は,全般管理職能に他ならない。ホフマンのいう固有の意味にJおける−・般管理
とほ,まさに全般管理を意味する。これは,下位諸機関の担当する管理職能す なわち部門管理職能から明確に区別されなければならない。
以上のように,ホフマンは,企業職能の分類についてニ2通りを呈示する。最 広義の管理,狭義の管理,最狭義の管理への企業職能の分類と財務職能j商業
的職能,技術的職能,計算職能,保全職能,社会政策的職能,管理職能への企 業職能の分類とがこれである。
とのうち,第1の分類における最広義の管理は企業職能そのものを意味し,
したがって第2の分類における諸職能の全体を意味すると解される。第1の分 類における狭義の管理は,純粋粧技術的で執行的な活動から区別され,企業者 の創造的,動的精神に偏動の余地を与える企業職能の領域であった。このよう な管理紅おいてはじめ′て,われわれは,労働者の担当する作業から区別される 管理を理解することができる。この管理は,企業を全体とレておよびその諸部 分において指導する清動であり,・第2の分類における一・般管理およこびその他の
6つの各職能において展開される部門管理を意味すると解される。第1の分類 における最狭義の管理は,物および人間を利潤追求の観点から最も合理的に結 合し企業有機体を形成する職能すなわち組成職能を意味した。これは,まさに 第2の分類における固有の意味における一般管理職能に相当すると解される。
以上2通りの職能分類によって得られる諸職能と「利潤政策による資本保
全」,「財務」,「労務」,「購買および販売」との関連を問うとき,われわれは,ま ず,後4者が第1の職能分類における諸職能と対応しないことを確認しうや。
それのみではない。それは,第2の職能分類における諸職能とも必ずしも対応 しない。
第2の職能分類紅おける諸職能のうち,財務職能と商業的職能とほ,それぞ
アレキサンダー・・ホフマンの企業経済学 −∂7−
227
れ,「■財務」と「儲買および販売」とに対応すると解される。また,計算職能 および社会政策的職能も,それぞれ,「利潤政策による資本保全」およぴ「労 務」と・⊥応の対応関係をもつといえるであろう。だが,残る技術的職能,保全 職能,管理職能の3つ紅ついて−は,われわれほ,ホフマンの個別職能に・関する 論述において,少くともこれに対応する特別の項目を認めることができず,し かもこの3つがこれに対応する特別の項目を欠くことの明確な論拠をみいだす
ことができない。われわれは,また,計算職能が「利潤政策による資本保全」
に率いて論じられる利潤処分職能を含まないこと,「労務」が社会政策的職能 に尽くきれるものでないことをも指摘しておくぺきであろう。このように,ホ フマンに.おける個別職能に関する4つの論述は,2通りの職能分類のいずれと
も,少くとも直接の関係を有しない。
それでは,ホフマンほ,いかなる理由から企業の個別職能について「利潤政 策に.よる資本保全」,「財務」,「労務」,「購買および販売」の4つを論じること になったのであろうか。このことについて,われわれは,かれが,企業職能を 保全左して特質づけた際,企業危険を資本処理の領域払おける危険,財産処理 の領域における危険,利潤計算および利潤処分から生じる危険の3つに分けで いたことを想起しなければならない。その際,かれは,資本処理の領域紅おけ
る危険としてとりわけ資本調達に関する危険を画題としていたのであるが,こ の危険に対する企業の活動は,かれが「■財務」に.おいて論述する企業職能に相 当する。財産処理の領域における危険に.ついて,かれは,とくに,災害による 危険およびこれに類する危険,労働危険,商業的危険(kommer・Zielle Risiken)
を詳論する。このうち災害による危険およぴこれに類する危険は,⊥般紅,企 業が積極的虹負担しうるものではなく,むしろ保険によって他紅転嫁する危険 をなす。これ紅対し,労働危険と商業的危険とほ,企業が積極的に負担しこれ に対処する危険である。「労務.」と「購買および販売」とは,それぞれ,・との 2つの危険への対処を論述するものと解される。利潤計算および利潤処分に醜 する危険について,ホフマンは,「利潤政策紅よる資本保全」に∴ねいてこれへ の対処を論じるものと解される。このよ.うにして,われわれほ,ホフマン紅お
算48巻 算2号
ーー 5月 − 228
ける企業の個別職能に関する論述が,企業危険の分類軋対応してなされている と解することができる。
このような解釈を取る場合に.おいても,われわれは,ホフマンが企業の個別 職能についてイ利潤政策による資本保全」,「■財務」,「■労務」,「購買および販 売」の4つを取り上げる理由を十分に納得しうるわけでほ.ない。この4つが企 業の個別職能の体系に‥おいていかなる位置を占め,いかなる理由によってこの 体系のうちからとくに選び出されるこ・と粧なったか,何故に個別職能の全体が 取り上げられなかったかに.関する明確な説明がホフマンに欠けているからであ る。これについて,われわれは,ホフマンが企業職能を分類しながら,これと 上記4つの論述との関連を何ら明らか笹.しようとしていないことをとくに問題
としなければならないであろう。
以上にこおいて,われわれほ,ホフマン匿おけ畠企業の個別職能に関する論述 として「利潤政策による資本保全」,「財務」,「労務」,「儲買および販売」の4 つを理解し,この4つが取り上げられることになる理由を尋ねてきた。次に,
われわれは.,与・の4つの論述の概略を,企巣危険の分類紅対応する職能の順序 にしたがって,「財務」,「労務」,「購買および販売」,「利潤政策による資本保 全」の順に明らかにすることに・しよう。このうち,「利潤政策に・よる資本保全」
については,「商事企英経済学(経営経済学)」の第3部「利潤」をも併せて検 討する。
2 財務における企業保全
(11)
ここに財務とは,資本調達を意味する。これについて,ホフマンほ,まず,
資不調達の諸問題を一腰的に論じ,次に,資本訝遵の諸形態を説明する。この うち,後考の資本調達の諸形態の説明は,与りわ仇諸種の株式(記名株式と 無記名株式,額面株式と無額面株式,普通株式と優先株式,貯蔵株式ないし換
(11)本筋におけるホフマンの所論は,主として次に.よる。
A巾Hoffmann,WirtschqfislehYe.,SS.376−492,
アレキサンタ−・・ホフマンの企業経済学 −∂9−−
229
価株式)とその発行,諸種の社債(無担保社債と諸種の担保付社債)とその発 行,株式と社債の中間形態をとる請託券(とりわけ収益社債と参加社債とを含 む利潤社債,転換社債,株式買受植付社債,利益享有証)および銀行信用(と りわけ当座貸越信用,手形信用,荷為替信用および信用保証)の詳細な論述を その内容とするものであり,ここにおけるホフマンの主眼は,諸種の手段に.よ る資本調達紅関する実務知識を呈示することにある。
これに対して,前者は,資本調達の諸問題に関するホフマンの一般的な考え 方を呈示するものであり,これによって−,われわれほ.,ホフマンの財務観をよ
りよく知ることができる。
この資本調達の諸問題の第1は,長期資本と短期資本とをいかなる割合で調 達すべきかである。資本需要(ⅩapitalbedaIf)を満たすという課題をもつ資 本調達のあり方は,その満たすべき資本需要のあり方に応じて決定されなけれ ばならない。このような考えから,ホフマンは,資本需要を2つに区分する。
この区分は,しばしば行われる流動資産と固定資産の区分とは決して同一一でな い0
「企業ほ,継続することを意図して運営されている。そのため,企業の継続 的酒動の物的基礎(sachliches Substrat)をなす企業の財産も継続性を有す
(12)
ることになる。」
このように企業の商品生産活動に継続的に拘束された財産すなわち生産拘束的 継続性財産(das betrieblich gebundene Dauerver・m6gen)ないし継続性財 産(Dauerverm6gen)を代表する要素は,設備財である。設備財の全体は,
基本的には,企業構造変更(Konstitutionsanderungen),経営拡大ないし改良
(Betriebsvergr8J3erungenod.−Verbesserungen)に・よってのみ,.その大きさ を変えるに過ぎない。
継続性財産を構成する要素として,転換財も忘れられてならない。転換財の 相当部分も継続的生産拘束性(Charakter・dauernderBetriebsgebundenheit)
(12)A.HoffmaIln,a.a.0.,S.37(;.
一♂∂一 弟48巻 舘2卑 230 を有する。だが,転換財ほ,他方で,商品生産活動に.継続的に拘束されるこ
となく,景気変動および季節変動につれてその大きさを変え.る部分を含んでい る。われわれは.,このような財を,継続性財産と対比して,変動性財産とよ ぶことができるであろう。
ホフ・・アン紅おける資本需要の区分は,このような財産区分に.対応する。その 際,かれは,継続性財産に関わる資本需要紅対しては自己資本と長期他人資本
とからなる継続性資本(Daueikapital)ないし長期資本の調達を,変動性財産 に関わる資本需要に対してはとりわけ銀行信用の形態に.おける短期資本の調達 を,それぞれ対応させるのである。
この理由として,ホフマンは,2つをあげる。長期資本によって変動的資本 需要を賄うことの不適切性および短期資本紅よって継続的資本需要を賄うこと の不適切性がこれである。
欝1に.,長期資本によって変動的資本需要を賄うことの不適切性紅ついて.,
かれは,短期資本と異なり長期資本が変動的資本需要への適合紅必要な易動性 を欠くことを指摘する。たしかに,証券発行紅よって調達される長期資本は,
斗・定の易動性を有する。企業は,自ら発行した株式および社債を買い戻すこと に.より,不要となった資本を減らすことができ,また,再びこれらの証券を売 却することに.よって,再び必要となった資本を得ることができる。しかしなが ら,ノ株式および社債の買い戻しおよび再売却紅は,かなりめ困難がある。第1 紅,こId)操作ほ,相場危険(Kursrisiko)を伴う。その際の価格損失の可能性 咋,売買される証券の量が大である程大きい。第2にふ 株式および社債の発行 ほ多額の費用を伴い,この費用負担は,調速された資本が継続的紅使用される 場合妃のみ引き合う。欝3に,1931年に改正された株式法欝226条は,自家発 行株式の取得を原則的に禁止し,例外的にこれを認める紅過ぎなしi。以上の理 由から,証券発行によらて∵調達される長期資本の易動性は.限られたものとなら ざるをえない。銀行信用の形態における短期資本は,長期資本の上記の欠点を 有しない。それは,変動的資本需要に容易に適合しうる。
第2紅,短期資本によって継続的資本需要を賄うことの不適切性は,流動性
アレキサンダー・ホフマン中企業経済学 −6J・−
231
の原則および経済性の原則の2点から説明される。。まず,流動性の原則把つい て.いえ.ほ,銀行中らの短期信用は,通常,短期の解約儀知によって引き上げら れうる。もっとも受碍企業の利潤性および流動性が良好で信用供与に不安がな い場合に・は,銀行は信用を引き上げる理由をもたず,また,かりに」銀行が信用を 引き上げたとして:も,この企業ほ,代りの信用供与者をみいだすの軋国難を感
じないであろう。この場合にほ.,法律上の短期信用は,実質的には,長期信用 と同一の性質をもつ。だが,短期信用を継続性財産とりわけ設備財の調達に㌧用 いることにほ,困難がある。銀行が,その流動性の観点から,供与した短期信 用が土j敵機械など甲訝達紅用いられることを好まないこ・と,銀行の継続的な 信用供与が受信企業の展好な信用価値(Kr$ditwiirdigkeit)の継続を前鴇とす
ること,これである。次に,経済性の原則について峰,銀行よりの短期信用 が,通常,社債信用より高くつくことが指摘される。
ホフマンに.よれは,企業は,資本需要に関する長期的展望に基づいて−,・長期 資本と短期資本の適切な割合を、みいだしこれを実現するぺき課題を有する。そ=
の際,かれ紅よれば,この割合がいかなるものであるかの解答は,1つ甲統「
的図式によっては与えられない。この解答ほ,薬種粧よって−異なるのみな′ら ず,同一・業種内軋おいても各企其の個別的事情に:よぅて異なるからである。
企業の資本需要と調達すべき資本とを以上のよう紅対応させようとするホ罪 マンの方法匿ついて,われわれは,次のことを指摘しておくべきであろうb、ら の方法が,流動資産と固定資産との区分に基づく資本調達方法と異なり,端的 紅企業運営の立場に.立つ資本調達方法をなすこ.と,乙れである。
流動資産と固定資産との区分に基づく資本調達方法が企業運営にと?て−■定 の意味をもつことは否定されえない。例えばアメリカのように丁■・定の流動比率 値が健全な企業の守るペき規範と信じられており,信用供与者もこれを考慮し て企業への信用供与を行う経済社会においては,企弟ほ,この流動比率催を考 慮した資本調達をなさざるをえないであろう。なぜなら,ちの流動比率値の無 視は,信用供与者さら紅は投資家の不信ばかりか,仕入先などの不信をも招泰 うるからである。この点において,鱒動比率は,企業に対す挙制約をなす己と
− 62− 第48巻 第2弓 232
が注意されねばならない。さらに・,流動比率が企業の健全性指標として⊥定の 有効性をもつことも否定されえない。だが,それに.も拘らず,流動比率あるい ほそもそも流動資産と固定資産の区分は,企業運営の必要に.基づきこの充足の ため軋形成されたものではなく,信用供与者の資本回収の安全性判断のために 形成されたものであり,企業財産を,その継続的な運営の観点においてでほな
(13) く,まさ軋換金性において載ることが注意されねばならない。
さて,ホフマンほ,資本調達について,とくに長期資本調達を重視し,これ を狭義ないし固有の意味に‥おける財務とよぶ。このような考えから,かれは,
資本調達の諸問題として,次紅,主として長期資本調達の諸問題,証券発行に よる長期資本調達の問題と自己金融の問題,を論じる。
このうら,自己金融は,企業の商品生産過程から生島出される新資本の調達 であり,この意味に・おいて,企業に.とって外部からの資本調達(Kapitalbe・
SChaffung von auBen)と区別される内部からの資本基礎(Kapitalfunda・
ment)の強化をなす。ここに.いう外部からの資本調達には,他人資本調達のみな らず,証券発行紅よる自己資本調達が含まれること鱒いうまでもない。自己金 融紅ついて,ホフマンは,ここでは,外部からの資本調達が例えば利子一配当 負担などなんらかの企業の依属(Abhangigkeit)を招くの紅対して一,自己金 融ほこのような短所を免れており,このことが企業紅とって自己金融を有利な
ものとすることを指摘する紅止め,それ.以上の問題は.,これを利潤政策におい て取り上げる。
証券発行紅よる長期資本調達の問題としては3つが取り上げられる。第1 は,資本調達手段の選択紅おいて考慮されるべき諸要因である。
この要因としてまず問題とされるめは,他人資本の利用紅よって得られる利 潤率と支払い利子率との関係である。他人資本の利用は,この2つのものの大 小関係に応じて:,自己資本利潤率(die Renditedes Eigenkapitals)を増減さ せる。他人資本の利用が自己資本利潤率を圧迫しうるという事実は,他人資本 のこの作用を排除するための特殊な証券すなわち株式と社債との中間形態をと
(13)Vgl.,A.Hoffmann,a.a.0.,SS.62−64,70−76.