狭窄部を持つ開水路の流れ特性に関する研究
Study on flow characteristics in an open‑channel with a narrow pass
土木工学専攻 5 号 エクバル ユスフ Aikebaier YUSUFU
1.はじめに
日本においては,国土の
10%しかない洪水氾濫区域に総人口
50%が生活し,資産の75%が集中する.このような現状から,洪水を安全に流下させることにより洪水 災害を防ぐことが重要な命題である.
河川行政における治水上の問題の一つに,水路幅の変 化(狭窄・拡幅)に伴う水面形の変化が挙げられる. 狭窄部 における上流方向のせき上げ背水により河川上流部まで 水位が高くなる現象は,洪水が流下してきたときに,堤 防からの越流を引き起こす一因ともなり,河川計画・洪 水対策の観点から非常に重要である.一方で,河川狭窄 部の開削による河川流積の拡大は,下流部への流量を増 加させることになるため,下流部の河川整備状況を考慮 して行う必要がある.また河川のごく近傍まで住宅が張 り付いている場合も多く,従って狭窄部を拡幅して洪水 を安全に流下させる河川流積を確保することが困難な場 合もある.したがって河川に狭窄部が存在する場合,河 川狭窄部が水面形や洪水流出・氾濫特性などに与える影 響を解明することが非常に重要である.
本研究では, 直線河道に幅や長さの異なる狭窄部を設 定し,その影響による水面形変化や越流特性への影響に ついて研究した.
2.平水時における狭窄部の影響 2.1 基礎方程式
河川狭窄部関する一次元不等流計算の基本式として式 (1)を用いる. 狭窄部における川幅の変化は式(2)で表す.
( )
1
3 0
2
0 + =
+
+ +
− If
dx hdB dx Bdh A Q g dx i dh α
( ) ( )
( )
22
2 2 20
2
0
−
−
−
−
= δ δ
x Exp x
x a x
dx
dB
ここで
h:水深[m],g:重力加速度[m/s2],Q:流量 [m3/s],A:断面積
[m2],B:河道幅[m],
n:Manningの粗 度係数
[s/m1/3],R:径深[m],If:摩擦損失水頭[m].i0:河床勾配.
2.2.計算手法及び計算条件
計算で対象とする水路は, 図‑2 に示す.一様幅水路の 一部区間が狭窄している水路である.上流端から
1500[m3/s]の一定流量を与えた.数値計算手法としてはル
ンゲクッタ法を用いた.
2.3.計算結果
図‑3 は水路幅の異なる水路における一次元不等流計 算により求めた流速及び水深の縦断分布である.これに よると,水深は狭窄部より上流から上がり始め,狭窄部 の直前において最大水深が見られ,最狭窄部より下流側 では水深が小さくなる.狭窄部幅が小さくなるほど最大 水深も大きくなる. 流速は狭窄部より上流から遅くなり,
最狭窄部では最大流速が見られ,最狭窄部より下流側で は流速が遅くなる.狭窄部幅が小さくなるほど最大流速 も大きくなる.
洪水は河川計画や河道計画のための最も重要な外力 洪水の水理について研究を行うことが重要な課題
河道の流量を正しく 把握する
治水と環境の調和を考 えた河川改修のあり方
を作り出す 河道特性が洪水波に
与える影響の解明 河川狭窄部
狭窄部が水面形や洪水氾濫特性に与える影響の解明 流量観測精度の向上
本研究
図−1 研究概要
流れ方向
狭窄部長さ
狭窄部上流部 狭窄部下流部
水路の長さ x=200km 狭窄
部幅 一様幅
B=300m
40km 150m x0=100km
正規分布分散σ
正規分布分散
図−2 水路概要
図−4 に水路勾配を変化させた場合の水位縦断分布の 変化を表す.これによると,各勾配の水路での最高水位 は水路勾配が急なほど大きくなる.また,水位が上昇す る区間は,水路勾配が緩いほど,より上流に及ぶことが 分かる.
3.洪水時における狭窄部の影響
前章では平水時における水位への影響について調べ た.ここでは狭窄部の洪水波に与える影響について調べ るため一次元不定流計算を行った.
3.1.基礎方程式
一次元不定流の基礎式
(3)と連続式(4) を用いた.( )
3 1 02
2
0 =
∂ + ∂
+
∂ + ∂
∂ +∂
− A
Q t I g A Q x g x
i h α f
( )
4 xQ t
A =0
∂ +∂
∂
∂
ここに
t:時間[s],
x:水平直交座標[m],
h:水深[m],
g:重力加速度[m/s2] ,n:Manning の粗度係数[s/m
1/3] ,
Q:流量[m3/s]
,A:断面積[m
2] ,
R:径深[m],
α:運動量の分布に関する補正係数[s
-1]である.
3.2.計算条件及び計算手法
対象となる水路は 図−2 と同じ水路を用いた.境界条 件としては上流端境界には流量ハイドログラフ,下流端 境界には一定水位を与えた.数値計算条件は,時間差分
間隔⊿
t=1[sec]で,運動方程式である式(3),連続式(4)を線の方法により解いた.線の方法による数値解法とは,
偏微分方程式を中心差分で連立常微分方程式に書き換え て,その方程式をルンゲクッタ法により計算する方法で ある.
3.3.計算結果
図−5 は狭窄部を有する水路に上流端から流量ハイド ログラフを与えた場合,ハイドログラフのピークが狭窄 部の直上流にある時刻,狭窄部中にある時刻,そしてピ ークが狭窄部を抜けた時刻における流量の縦断方向分布 を示している.狭窄部の効果を見るため,狭窄部を有し ない一様水路にも同じハイドログラフを与え,各時刻に おける流量の縦断方向分布を計算し,比較した.これに よると,狭窄部において最大流量が減少し,洪水波の扁 平化が進むことがわかる.
3.4.二次元不定流計算
一次元不定流計算より示された狭窄部における洪水波 の扁平化の原因を調べるために,狭窄部を有する水路に おける二次元不定流計算を行った.
3.4.1.設定領域及び計算条件
図−6 に示すように設定した一様河幅は 100m,河床勾 配 1/1000,堤防高 5m,堤防天端幅 5m,また数値計算を 安定化するために堤防裏のり勾配 1/20 とした.さらに,
河道の上流端から 5km の位置に図のような狭窄部を設け
150 200 250 300
4 5
1.5 2
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200200
幅(m)水深(m)流速(m/s)
上流端からの距離 (km) 流下方向
流下方向
狭窄部幅 150(m)
狭窄部幅 200(m)
狭窄部幅 250(m)
幅250(m) 水深 幅200(m) 水深 幅150(m) 水深
幅250(m) 流速 幅200(m) 流速 幅150(m) 流速 狭窄部
流下方向
図−3 狭窄部幅の異なる水路における水深及び 流速の縦断方向分布の比較
20 40 60 80
勾配 i0=1/2500 狭窄部
勾配 i0=1/5000
勾配 i0=1/10000
1.31m
1.19m 0.88m 狭窄部のある水路
一様水路 河床
水位(m)
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200
上流端からの距離 (km)
図−4 水路勾配を変えた場合の狭窄部での水面変化
400 500
400 500
400 500
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200
狭窄部
狭窄部無い場合 狭窄部ある場合
流下方向
上流端からの距離 (km)
流量(m
3 /s)流量(m 3 /s)流量(m 3 /s)
4(m 3/s)
図−5 最大流量の狭窄部周辺での変化
た.Manning の粗度係数は河道内で
n=0.03 s/m1/3,堤防天 端及び裏のり面で
n=0.05 s/m1/3,堤内地で
n=0.07 s/m1/3と した.数値計算は,2 次元不定流式及び連続式を水位及 び x,y 方向の流量フラックスについて差分し,陰解法を 用いた.計算条件は,時間差分間隔Δ
t =0.1s,空間差分間隔Δx =Δy =5m の矩形メッシュとした.
3.4.2.初期条件及び境界条件
初期条件は,上流端から任意の流量を定常的に流入さ せ,十分な時間経過後の定常状態における河道内の水位 および流量を与えた.上流端境界条件は流量を与え,ピ ーク流量
1500m3/s,洪水継続時間2時間の流入量ハイド ログラフを用いた.下流端境界条件はある基準面からの 河床高に,一様河幅において基底流量で決まる等流水深 を加えた水位で与え,一定とした.ここに,下流端水位 を水位一定で固定したことによる上流への影響を無くす ために下流端から狭窄部までの距離を十分に長くした 3.4.3 計算結果
図−7 に示すようにどのケースにおいても越流が始ま る地点は狭窄部上端であり,狭窄部内の直線河道部分,
狭窄部下端及び狭窄部より下流側では越流は起こらない,
狭窄部上流端から越流が開始し,時間が経過するととも に上流側まで越流が伝播していることがわかる.
図−8 に狭窄部の上流側の一様幅区間と狭窄部内の主 流速の横断方向の流速分布を表す.水路側壁の境界条件 は
Slip条件であるため,一様幅区間においては流速の横 断方向分布は見られないが,狭窄部内では流速分布が見 られるようになる.このことから狭窄部において,横断 方向の流速分布を持つことにより生じる流下方向への広 がりの効果(分散効果)が生じたと考えられる.
4.分散効果を考慮した一次元不定流計算
二次元不定流計算により生じた分散効果を調べるため に分散効果を考慮した一次元不定流計算を行った.
4.1.基礎方程式
本研究の一次元計算に使用した基礎式を以下に示す.
分散項を付加した一次元不定流の基本式(8)と連続式(4) を用いた.流速の横断方向分布による流下方向への広が りの効果を分散項が担うと考え,単純に流速の二階微分 項を付加した.
( )8 A
Q k x R
Q Q i n x g g h A Q x A Q
t 0
2 1
2 2
43 2 0 2
=
∂
− ∂
−
∂ − + ∂
∂ + ∂
∂
∂
ここに:k:分散係数[m
2/s]. 4.2.数値計算手法及び数値計算条件
数値計算条件は,時間差分間隔⊿t=1[sec]で,式(4),
(8)を線の方法により計算した.河道条件としては,河道長 は
200[km],川幅300[m],河床勾配1/5000,Manningの 粗度係数は
n=0.025[s/m1/3]河道横断面形は矩形断面である.
堤 防
堤 防
流下方向
狭窄部上端 狭窄部下端
100m 狭窄部幅
図―6 狭窄部概略
流 下 方 向
上流側
下流側
狭 窄 部
河道 越流開始から 5分後
20分後 10分後
堤防敷幅
05001000[m]
図−7 狭窄部における氾濫特性
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
3.6 3.8 4
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
1 2 3
(a)一様幅水路の流速 左岸からの距離 (m)
流速(m/s)流速(m/s)
左岸からの距離 (m) 左岸からの距離 (m) (b)狭窄水路の流速
図−8 狭窄部とその上流側の幅一様区間におる
主流速の横断方向分布
4.4.初期条件及び境界条件
初期条件は,等流水深
2.9[m]に落ち着くような流量1000 [m3/s]を上流端から流入させ,十分な時間経過後の
平衡状態において近似的に等流に達している区間の水深 と流量を初期条件として与えた.
図−9 に示すような上流端境界条件流量ハイドログラ フを与え,そのハイドログラフの形状は正規分布関数を 用い,ビーク流量が
2000[m3/s]になるようにした.下流 端境界条件は水位変動を与え,そのハイドログラフの形 状は
sin関数を用いた.
4.5.計算結果
図‑10 は分散項を付加した一次元不定流の基本式
(8)において分散係数
k=0[m2/s] (分散の効果なし)の場合とk=500[m
2/s]にした場合について線の方法を用いて計算した河口から
20[km]地点の水深時系列を比較した図である.図に示すように分散係数が
k=0[m2/s] (分散の効果なし)の場合と
k=500[m2/s]にした場合の計算結果とほとんど差がなかった.
図‑11 は分散項が付加した一次元不定流の基本式を 分散係数数が
k=0[m2/s](分散の効果なし)と k=500[m2/s]にした場合,線の方法を用いて計算した河口か
ら
19.5[km]地点の流量時系列比較した図である.図に示すように流量も水深と同じように分散係数が
k=0[m2/s]と
k=500[m2/s]の場合の結果にはほとんど差が無く,河道のほかの地点から比較しても大きな差が見られなかっ た.
5.まとめ
本研究で得られた知見を以下に示す.
(1)水路幅一様区間と狭窄部との接合点付近で最大水深
となる.
(2)流速は,狭窄部との接合点から増加し,最狭窄部で最大流速となる.
(3)狭窄部の上流で最高水位が上昇し,下流で低下する.最高水位の上昇は水路勾配が急 なほど大きい.狭窄部及びその直上流においては最高水 位の上昇が見られ,最高水位が上昇する区間は,水路勾 配が緩いほど,より上流に及ぶ.最高水位の低下は下流 の非常に長い区間に及ぶ. (4)狭窄部において最大流量が 減少し,ハイドログラフの減水部の傾向が小さくなり,
洪水波の扁平化が進む. (5)越流が始まる地点は狭窄部上 端であり,狭窄部内の直線河道部分,狭窄部下端及び狭 窄部より下流側では越流は起こらない,狭窄部上流端か
ら越流が開始し,時間が経過するとともに上流側まで越 流が伝播していること.(6) 一次元の運動方程式に単純 に二階微分の形の分散項を付加して一次元不定流式解析 を試みたが,一次元不定流計算において分散の効果はほ とんど見られなかった.しかしながら理論的に分散の効 果が全くないと考えにくく,単純に二階微分の形の項を 付加したことに問題がある可能性もあり,今後は理論的 に分散項を導くことについての検討が課題となる.
参考文献
1)藤田裕一朗,宮 福禄,細江良太:洪水による山間盆
地の地形変化に関する基礎実験,土木学第
53回年次学 術講演会,pp.438-439,1998.
500 1000 1500 2000
5.5 6
時間 (日) (a) 上流端境界条件流量ハイドログラフ
流量(m
3 /s)水深(m)
時間 (日) (b) 下流端境界条件水位ハイドログラフ
0 1
2
3 4 5 6
0 1
2
3 4 5 6
図−9 境界条件
3 3.5 4
1
0 2 3 4 5 6 7
時間(日)
水深(m)
分散係数k=0(m2/s) 分散係数k=500(m2/s)
図−10 河口から 20km 地点の水深時系列
1000 1200 1400 1600 1800
1 2 3 4 5 6 77
0 流量(m3/s)
計算時間 (日)
分散係数 k=0(m 2/s) 分散係数 k=500(m 2/s)