1.序 論
本論の目的は,マス・カスタマイゼーション(以下,MCと略称)を採用 する製造業者が,マーケティング・コミュニケーション構造をどのように 設計するかを分析することである。具体的には,⑴コミュニケーション 方法の選択──セールスマンかウェブサイトか──と,⑵企業境界の選 択──自社で行うか他社に任せるか──の2つの要素の組み合わせによっ てマーケティング・コミュニケーション構造を描写し,その設計メカニズ ムを検討することになる。
MCとは,共有部品を組み合わせて製品バラエティと低コストを両立さ せ,顧客の注文に応じて製品をカスタマイズして提供する,受注型多品種 少量生産方式である(Pine 1993 ; Gilmore & Pine 1997)。見込み生産に基づく
105 商学論纂(中央大学)第59巻第1・2号(2017年9月)
マス・カスタマイゼーションと コミュニケーション・チャネル構造
久 保 知 一
目 次 1.序 論 2.価値実現の困難性
3.コミュニケーション方法の選択 4.企業境界の選択
5.仮 説 6.実 証 分 析 7.結 論
既存のマーケティングの枠組は,売り手が設計を完了させた製品を大量生 産・大量販売するために考えられた枠組であった。そのためこの枠組に は,消費者の注文を含む双方向的なマーケティング・コミュニケーション は含まれていなかった(Tedlow 1990)。
しかし,MCを採用する製造業者は,注文時点では存在していない製品 について,消費者に製品の現物ではなく完成イメージのみを示すことで注 文を受けて,製品差別化を完成させる必要がある(Lee and Tang 1997)。そ のため,MCの下では,製造業者が一方的に製品に関する情報を提供する だけでなく,消費者が自らのニーズを製造業者に表明するという双方向的 なマーケティング・コミュニケーションが必要となる。この種の双方向性 は見込み生産品のマーケティングでは生じず,MCに特有の性質である
(Gilmore & Pine 1997)。
本論は,2つの分類軸に基づいて4つの類型を識別する。第1の分類軸 は図表1の右側に描かれたコミュニケーション方法の分類軸であり,代表 的なコミュニケーション方法としてセールスマン販売とウェブサイト販売 を挙げている(Rayport & Jaworski 2005)。セールスマン販売の下では,消費 者はセールスマンのコンサルティングを受けながら製品仕様についての情 報を収集し,まだ見ぬ完成品へのイメージを頭に描きつつ,自らのニーズ を形にして製造業者に伝えていくこととなる。これに対してウェブサイト 販売の下では,消費者はウェブサイトに提示された製品要素を選びなが ら,自ら製品仕様を確定することになる。このとき,消費者は製造業者側 と人的な接触なくして,自らのニーズに最も近い製品仕様を確定していく こととなる(原田・三浦 2002)。第2の分類軸は,図表の左側に描かれた企 業境界の分類軸であり,直接販売と間接販売を挙げている(Williamson
1985)。直接販売の場合,製造業者はセールスマンあるいはウェブサイト
を垂直統合し,自ら消費者に販売することとなる。この場合,製造業者は
コミュニケーション機能を内部化する分だけ,企業境界を拡大することと なる。これに対して間接販売の場合,流通業者のセールスマンを利用した り,あるいは流通業者や電子商店街など他社のウェブサイトを利用したり することで,製造業者は他社を介して消費者にアプローチすることにな る。この時,製造業者はコミュニケーション機能を外部化する分だけ,企 業境界を縮小する。このように,MCを採用する製造業者は,コミュニケ ーション・チャネルの選択にあたって,二重の選択に直面しているとみな される。
しかし,既存のMC研究は,コミュニケーション・チャネルのあり方 をあまり問題にしてこなかった。MC研究の潮流は,⑴企業と消費者の 間のインターフェイスに関する研究群と,⑵サプライチェーンに関する研 究群に大別される。⑴のインターフェイスの研究群が注目していたのは,
MCが消費者に対して,製品バリエーションというメリットと面倒な注文 というデメリットのトレードオフをもたらすことであった(Huffman &
Kahn 1988 ; Delaert & Stremerch 2005 ; Hauble & Trifts 2000 ; Ratchford, Talukdar,
& Lee 2007)。一方,⑵のサプライチェーンの研究群は,製品差別化の延期
を中核概念として,この戦略が競争優位をもたらす条件を探求するもので あった(Lee & Tang 1997 ; Dewan, Bing, & Seidmann 2003 ; Iyer, Deshpande, &
図表1 MC におけるコミュニケーション・チャネルの類型 セールスマン販売
製造 直接 業者
販売 セールスマン
販売
間接 販売
製造 業者
消費者
ウェブサイト販売 消費者 セールスマン 製造 販売
業者 流通
業者 製造
業者
消費者
消費者 ウェブサイト 流通 販売
業者
ウェブサイト 販売
企業境界 コミュニケーション方法
Wu 2003 ; Syam and Kumar 2006)。
コミュニケーション・チャネルを扱った希少な研究例としては,生産財 マーケティングの枠組で行われたGhosh, Dutta, & Stremersch(2006)が 挙げられる。彼らは生産財の製造業者のセールスマンが,顧客のマス・カ スタマイズ製品(以下,MC製品と略称)の仕様確定作業を補助するような コミュニケーション・チャネルが選択されるのはどのような場合であるか を検討し,製品の技術的複雑性と顧客知識が有意な影響をもたらすと結論 づけている。しかしこの研究は,企業間取引の研究であり,企業と消費者 の取引は扱われていない。さらに,著者が知る限りにおいては,日本企業 のMCにおけるコミュニケーション・チャネルを扱った研究は存在して おらず(臼井2006 ; 片野2007),手つかずの領域となっている。
本論の構成は次の通りである。第2節では,MCにおけるマーケティン グ・コミュニケーションの性質を価値実現の困難性という概念によって整 理する。続く2つの節ではコミュニケーション・チャネル構造の概念化を 行う。第3節はコミュニケーション方法の選択を,第4節は企業境界の選 択をそれぞれ取り扱う。第5節は実証分析のための仮説を提唱し,第6節 で実証分析について報告する。最終節第7節で本論の知見と今後の課題を まとめる。
2.価値実現の困難性
大量生産の下で見込み生産された製品を生産・販売する時に問題となる 市場リスクは,売り逃し・売れ残りという数量リスクであったり,破損・
劣化という物的リスクであったり,売掛金の回収という金融リスクであっ
た(Alderson 1957)。しかし近年では,情報・物流システムのイノベーショ
ンによって延期型の生産・配送方式が普及したことや,生産・包装技術の イノベーションによって製品の物理的耐久性が高まったことによって,こ
の種のリスクは大幅に低下している(三村 2001)。また,受注生産される MC製品の場合,需給マッチングのミスから生じる数量リスクは生じない。
こうした環境変化の結果,上記のような市場リスクに対処するための流通 機能を流通業者に担わせる根拠は薄れてきている。
一方,受注生産に基づくMCの下では,見込み生産に基づく既存のマ ーケティングとは異なった市場リスクである「価値実現の困難性」が生じ る(三村2001 ; Vargo & Lusch 2004)。価値実現の困難性とは,企業が消費者 の個々のニーズを知り,そのニーズをカスタマイズされた製品として具体 化することが難しいことを指す。この新しい市場リスクを処理するのは,
価値実現機能を果たすコミュニケーション活動である。
現代では多くの製品カテゴリーにおいて,何かしらのカスタマイズの要 素が含まれるようになってきている。製品仕様があらかじめ決まっていな いMC製品を供給するには,消費者ニーズを製品という形で具体化させ,
製品から本来抽出されうる価値を実現させる作業が必要となる(Gilmore &
Pine 1997)。このとき,消費者のニーズを具体化させるコミュニケーショ
ンがスムーズに行われないならば,この製造業者の能力をもってすれば十 分に提供可能であった製品の取引が行われなくなるであろう。こうしたコ ミュニケーションは,完成済みの標準品を消費者に選択させる既存のマー ケティングでは生じないものである。
ただし,価値実現の困難性という概念は,消費者と製造業者の立場から はやや異なった解釈がなされうる。消費者の立場からは,消費者が自らの 曖昧なニーズを製造業者に伝達することが困難であることを意味してい る。その一方で製造業者の立場からは,製造業者が消費者の望む製品仕様 情報を入手しにくいことを意味している。そこで以降の節では,消費者の 立場からの解釈を重視する場合には,価値実現の困難性を「ニーズ伝達困 難度」と表現して議論を進める。
3.コミュニケーション方法の選択
本節では,製造業者によるコミュニケーション方法選択を検討する1)。 具体的には,ウェブサイトを用いてMC製品を販売するコミュニケーシ ョン方法(いわゆるEカスタマイゼーション)と,人間を用いてセールスマ ン販売するコミュニケーション方法の選択を検討する2)。
ここでは理論的基盤として,組織能力論に立脚する(Wernerfelt 1984 ; Barney 1986 ; Chandler 1992)。組織能力(organizational capabilities)とは,企 業組織が持つ特殊なノウハウを指す(Nelson & Winter 1982)。製品の取り扱 いに必要なノウハウ(製品特性・使用法・修繕法など)は,製品が複雑化す ると,製造業者に偏在するようになる(田村2001)。そのため,この種の 製品については,ノウハウを保有する製造業者が効率的なマーケティング の遂行者となり,製造業者が流通機能を統合する。また逆に,取扱いが容 易な製品については,ノウハウを製造業者から流通業者へ移転可能である ため,製造業者は流通機能を流通業者へと分離する方が効率的とされてい
1) この選択問題は,伝統的な流通機能論のアプローチをコミュニケーション 研究に適用するだけでは解決できない難しい問題をはらんでいる。流通機能 論では,セールスマン販売あるいはウェブサイト販売といったコミュニケー ション方法をあらかじめ設定した上で,製造業者が流通業者を垂直統合する か否かという問題を扱ってきたことから,コミュニケーション方法選択は無 視されてきたためである(Bucklin 1965 ; Mallen 1973)。
2) Rayport & Jaworski(2005)は,コミュニケーション方法選択を顧客イン ターフェイスの設計問題と読み替えた上で,製品技術に基づく競争優位はす ぐに失われる一方で,顧客インターフェイスに基づく競争優位は持続しやす いと主張している。彼らの主張には,なぜ顧客インターフェイスが製品技術 よりも模倣による競争優位の中和に対して頑健であるのかが論じられていな いという問題点が残されているものの,顧客インターフェイス設計が製造業 者にとって競争優位の源泉の1つとなりうることは疑いのないことであろ う。
る(Porter & Livesay 1971 ; Langlois & Robertson 1995)。
組織能力論の中でも,コミュニケーション方法選択に示唆を与えている のがLanglois(2003)による「消えゆく手(vanishing hand)」の仮説である。
この仮説が主張するのは,生産技術のモジュール化や規格のデファクト・
スタンダード化という「市場補助制度(market supporting institutions)」の近 年的発展によって,他社に移転困難な組織能力を用いてコーディネーショ ンを担っていた人間の「見える手(visible hand)」が,市場補助制度の中に 埋め込まれて姿を消しつつある(vanishing)ことである。この仮説は本論 の問題状況では,セールスマンからウェブサイトへの変化として解釈でき よう。すなわち,Eカスタマイゼーションが導入されている一部の先端的 な製品カテゴリーにおいては,価値実現機能の実行主体がセールスマンか らウェブサイトへと変容し,セールスマンが姿を消しつつあるのである。
しかし,Eカスタマイゼーションが必ずしも全ての製品カテゴリーにお いて導入されているわけではない。ウェブサイトによって価値実現機能を 果たすことができるのは,MC製品の価値実現がそれほど困難でない状況 下に限られる。価値実現が困難でない状況とは,消費者が自らのニーズを 製造業者に伝達することが容易であり,その結果,製造業者があらかじめ 消費者に対して最適なモジュール群を示すことが可能な状況を指す。この 時,消費者はセールスマンの助けなくして,自らが望む製品仕様を確定さ せることができる(Baldwin & Clark 1997 ; 国領1999)。このように価値実現 が困難でない状況下でのコミュニケーションのノウハウは,明文化してウ ェブサイトとして設計できる。それゆえ,細やかな対応が可能であっても コストがかかるセールスマンよりも,定型的な対応しか可能でないが低コ ストで済むウェブサイトによってコミュニケーションを機械的に遂行する ことが合理的になる3)。
逆に,価値実現が困難な状況下では,消費者が製品仕様を確定するため
には,消費者が抱く曖昧模糊とした形にならないニーズをセールスマンが コンサルティングする必要があろう。この時,消費者にとっては,自らの 価値を実現するためにどのようにモジュールを組み合わせればよいかは容 易には分からない。こうした価値実現の困難性を解決するために必要なコ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の ノ ウ ハ ウ は, 人 間 に 体 化 さ れ た 暗 黙 知(tacit
knowledge)性の高いものであるがゆえに,機械化は困難である。それゆ
え,価値実現が困難な製品カテゴリーの場合,セールスマン販売との相性 がよいものと考えられる。その例として,住宅や自動車などが挙げられる であろう。
図表2は,これまでの議論に基づいて,製造業者のコミュニケーショ ン・チャネル決定を描いている。ダイヤグラムの横軸は製造業者が供給す るMC製品について消費者が知覚するニーズ伝達困難度を示している。
ニーズ伝達困難度とは,消費者が自らの望む製品仕様を確定して製造業者 に正確に伝えることが困難である程度を示しており,前節で述べられた価 値実現機能を定量化した概念である。消費者がニーズ伝達困難度の高い製 品を注文する時には,どのような製品が作られるのかイメージしにくく,
明確なウォンツの形でニーズを表現することが困難となる。それゆえ,ニ ーズ伝達困難度の高さは,価値実現が困難なことを示している。また,ダ イヤグラムの縦軸は製造業者の製品1単位あたりの平均販売費用を示して いる。ここでの販売費用とは,販売前に製品差別化が完了していないMC 製品について,消費者に説明して注文を受ける一連の販売活動にかかる費 用を意味している。費用曲線が右上がりであるのは,MC製品のニーズ伝
3) 言い換えると,販売段階での価値実現が容易な製品カテゴリーは,ウェブ サイト販売との相性がよいものと考えられる。例えば,パソコンや組立家 具,プリントTシャツなどの製品カテゴリーにおいては,ウェブサイト販 売によってEカスタマイゼーションが盛んに行われている。
達が困難化すると,それに伴う情報伝達・受注のための販売費用が高まる ものと考えられるからである4)。
2本の実線で描かれた費用曲線は,それぞれウェブサイト販売とセール スマン販売という代替的なコミュニケーション方法を反映している。現実 のMC製品のコミュニケーション方法としては,電話やファックス,あ るいは郵送なども存在するし,さらにはウェブサイトとセールスマンの複 合形態もある。しかしここでは分析の単純化のため,最も代表的な方法で あるセールスマン販売とウェブサイト販売のみを描いている。
図表2では,製品のニーズ伝達困難度が低い場合には,ウェブサイト販 売の販売費用はセールスマン販売よりも低くなっている。なぜなら,ニー ズ伝達が容易な製品をカスタマイズするノウハウは,モジュールの組み合 わせという定型的な情報を処理するだけで十分であり,形式知的性質を強
く持つ(Polanyi 1958)。そのため,ウェブサイトとして機械化することが
可能であり,セールスマンを利用することは相対的に高くつく。しかし,
ニーズ伝達が困難になると,ウェブサイト販売の販売費用は急速に逓増す る。ウェブサイトの中にありとあらゆる製品の可能性や説明を盛り込むこ とは,たとえ可能であったとしても,禁止的な費用がかかる。消費者がウ ェブサイトを用いて注文を確定できない場合,コールセンターなどを通じ て人間が注文を補助する必要があり,販売費用を高めるであろう。それに 対して,セールスマンは,完成品のイメージや消費者の生の反応という非 定型的な情報を処理可能である。この種のノウハウは暗黙知的性質を強く 持ち,機械化は容易ではない。そのため,ニーズ伝達が困難になると,セ ールスマンを用いる販売費用が相対的に低くなるものと考えられる。
こうした条件の下では,製造業者は自らが供給するMC製品のニーズ
4) ここでの費用は取引されるMC製品が持つニーズ伝達困難度の関数なの で,規模の経済は生じないものとする。
伝達困難度に応じて,より安価な費用をもたらすコミュニケーション方法 を選択するであろう。すなわち,自社製品のニーズ伝達困難度が点Eよ り左方にあるならば,ウェブサイト販売を選択し,その逆であればセール スマン販売が選択されるものと結論づけられる。
さらに図表2には,この選択行動をシフトさせる要因として消費者知識 が描かれている5)。消費者が製品カテゴリーについて熟知している場合,
製造業者がMC製品を販売する費用は低下するであろう(Ghosh et al.
2006)。高い知識を持った消費者に対しては,同じ販売費用をかけても,
よりニーズ伝達が困難な製品を販売することができるためである。このこ とを表現しているのが,点線の費用曲線である。消費者知識によって2本 の費用曲線は共に下方にシフトするものの,ウェブサイト販売の費用曲線 はより急勾配であるため,交点に対応するニーズ伝達困難度が変化する。
5) 消費者行動論においては,消費者の情報処理活動と消費者知識の関連が盛 んに研究されてきた。詳しくは小野(2004)を参照のこと。
図表2 コミュニケーション・チャネルの選択(a) コミュニケーション方法の選択
ウェブサイト 販売⑵ ウェブサイト
販売⑴
消費者知識 セールスマン 販売⑴
セールスマン 販売⑵
E E′
販売費用
ニーズ伝達困難度
その結果,それまでセールスマン販売が行われていたE点からE′点の範 囲内のニーズ伝達困難度を持つMC製品は,ウェブサイトによって販売 されることになる。すなわち,MCにおけるコミュニケーション方法の選 択はニーズ伝達困難度によって規定され,さらに,消費者の知識はニーズ 伝達を容易にするものと考えられる。
4.企業境界の選択
次なる選択問題は,選択されたコミュニケーション方法を誰が担うかと いう企業境界の問題である。製造業者が価値実現機能を担うセールスマン やウェブサイトを内部化して直接販売するのか,それとも他社に外部化し て 間 接 販 売 す る の か と い う 問 題 で あ る(Anderson & Schmittlein 1984 ;
Anderson 1985)。この企業境界の意思決定を加味したモデルが図表3であ
る。以下では説明の単純化のためにセールスマン販売のみを取り上げる。
無論,ウェブサイト販売であっても,製造業者が自らウェブサイトを設営す
図表3 コミュニケーション・チャネルの選択(b)
企業境界の選択
直接販売⑴ 直接販売⑵
資産特殊性
販売費用
間接販売
E′ E ニーズ伝達困難度
るのではなく,電子商店街というプラットフォームを利用してウェブサイ トを外注している様は頻繁に観察されている(Hagiu 2007)。それゆえ,企 業境界の選択は,ウェブサイト販売を採用する企業も直面する問題である。
図表3には,セールスマン販売の費用曲線が実線で2本描かれており,
それぞれ直接販売と間接販売のケースを示している。セールスマンを用い た直接販売とは,製造業者がセールスマンを直接雇用していることを意味 しており,セールスマンを用いた間接販売とは,流通業者が直接雇用した セールスマンを用いて製造業者が自社製品を販売していることを指す。
ニーズ伝達困難度が低い場合には,その製品の販売に必要なノウハウは
形式知(codified knowledge)化されやすくなるため,製造業者が販売知識
を他社のセールスマンに移転する費用は低くなると考えられる。こうした ノウハウの移転に際して生じる費用は動的取引費用(dynamic transaction costs)と呼ばれる(Langlois & Robertson 1995)。
しかし,製品のニーズ伝達困難度が増してくると,販売ノウハウは暗黙 知化し,移転には高い動的取引費用がかかると考えられる。その結果,製 造業者が直接雇用して長い時間をかけて教育したセールスマンでなけれ ば,適切な販売活動を行うのに禁止的な費用がかかってくるため,間接販 売の費用曲線は相対的に急勾配になるであろう。したがって,2本の費用 曲線の位置関係が図表3のごとくに設定される。製造業者は製品のニーズ 伝達困難度に応じて,販売費用が相対的に低くなる企業境界を選択し,点 Eがその分岐点になると考えられる。
さらに図表3には,この選択行動をシフトさせる要因として,流通業者 の製造業者に対する資産特殊性が描かれている。取引費用論の知見による と,競争優位のあるマーケティング・システムを構築するためには,市場 で容易に調達可能な汎用的資産ではなく,自社にカスタマイズした資産が 必要である。こうした他の企業には役に立たない資産の性質を資産特殊性
と呼ぶ(Klein, Crawford, & Alchian 1978)。しかし,流通業者が製造業者に対 して特殊な資産を持つと,製造業者は逃げられなくなった流通業者をホー ルドアップして利潤を搾取できるようになるため,契約を事後的に執行す る取引費用が高くなる。こうした事態を回避するために,高い資産特殊性 を要する製造業者は,流通業者との関係を強化したり,彼らを垂直統合し て自社遂行することになる(Williamson 1985)。
以上の取引費用論のストーリーを踏まえると,図表3の議論をさらに検 討することができる。セールスマンがニーズ伝達困難な製品を販売するた めには,長い時間と労力をかけてその製品の販売ノウハウを習得する必要
がある(Anderson 1985)。図表3に示されるように,セールスマンが特定
の製造業者の製品の販売にしか役立たない資産特殊性を高めると,直接販 売の費用曲線が右下にシフトすることになる。このことは,同じ販売費用 でも,ニーズ伝達がより困難な製品を販売することが可能となることを示 している。この特殊なノウハウは,セールスマンにとっては特定の製造業 者に対してしか役に立たない特殊資産であるため,製造業者からホールド アップされる危険がある。それゆえ,流通業者は自ら雇用するセールスマ ンに対して,資産特殊性を高めさせようとはしない。したがって,資産特 殊性を高めてニーズ伝達困難な製品を販売しようとする製造業者は,流通 業者との関係を強化したり,彼らを垂直統合しようとするものと考えられ る(Anderson 1985)。
一方,間接販売への資産特殊性の効果は,図表3には描かれていない。
間接販売の場合であっても,セールスマンが資産特殊性を高めると,同じ 販売費用でもよりニーズ伝達が困難な製品を販売できるようになる。した がって,資産特殊性は間接販売の費用曲線を下方にシフトさせる効果を持 っている。しかし同時に,資産特殊性は,ホールドアップのリスクを感じ るセールスマンに特殊な資産に投資させるための追加費用を生じさせるた
め,間接販売の費用曲線を上方にシフトさせる効果も持っている。お互い に相殺しあう2つの効果のどちらが相対的に強く働くかは,分析的に確定 することはできないため,図表3には資産特殊性の効果は描かれず,費用 曲線の位置は不変のままに描かれている。
ここまでの議論を総合すると,資産特殊性は,ニーズ伝達が困難な製品 の販売を製造業者に可能とさせ,製造業者に直接販売を促すものと考えら れる。すなわち,それまで間接販売されていたE点からE′点の範囲のニ ーズ伝達困難度を持つMC製品であっても,製造業者はコミュニケーシ ョン方法を垂直統合して,直接販売を選ぶことになる。本節の議論から は,製品のニーズ伝達困難度が高まると,製造業者が価値実現のためのコ ミュニケーション機能を内部化して企業境界を拡張すること,そして,資 産特殊性は製造業者によりニーズ伝達が困難な製品の供給を可能にさせ,
ひいては直接販売の採用を促すものと主張されうる。
5.仮 説
前節の議論から仮説を抽出し,MCを採用する製造業者のコミュニケー ション・チャネルの選択問題を描写するモデルを構築する。このモデルの 意思決定主体はMC製品を供給する製造業者である。モデルには消費者 要因も含まれるものの,それは製造業者の知覚として測定される。そもそ もマーケティング戦略は,顧客に関する企業家の知覚に基づいて意思決定 されるためである(Hombrug, Hoyer, & Fassnacht 2002)。
モデルには,チャネル構造を表現する2つの変数が導入されている。第 1に,コミュニケーション方法を表現する変数として,「セールスマン販
売比率」なる変数を導入する。この変数は,製造業者が販売するMC製 品の総売上に対して,セールスマンを経由して販売される売上高が占める 比率として定義される。この比率が高いほど,製造業者はウェブサイトで
はなく人間を用いてMC製品を販売しているものとみなされる。第2に,
企業境界を表現する変数として,「セールスマン内部化比率」なる変数を 導入する。この変数は,製造業者がセールスマンおよびウェブサイトを通 じて販売するMC製品の総売上高に対して,直接雇用したセールスマン による売上高が占める比率として定義される。この比率が高いほど,製造 業者は間接販売ではなく直接販売を行っているものとみなされる。
これら2つのチャネル構造変数を規定する要因として,理論モデルの説 明変数であった「ニーズ伝達困難度」という変数を導入する。さらに,こ の変数を規定する2つの要因として,理論モデルにおいてシフト・パラメ ータとして分析された2つの変数,すなわち「消費者知識」と「資産特殊 性」を導入する。これら3つの変数の定義は理論モデルと同様である。以 下,モデルを構成する仮説を提唱する。
最初に,ニーズ伝達困難度は,消費者が当該製品カテゴリーについてど の程度の知識を持っているかによって影響を受けるであろう。消費者が当 該製品カテゴリーの使用経験が豊富である場合や,あるいはインターネッ ト上の製品評価サイトやクチコミによって当該製品カテゴリーについて相 当程度の情報を得られる場合には,消費者はそれほど困難を感じることな く製品仕様を確定し,製造業者に伝達できるものと考えられる。したがっ て,
仮説1:「消費者知識」が高まるほど「ニーズ伝達困難度」は低くなる。
次に,ニーズ伝達困難度は,製造業者が保有する資産の特殊性によって も影響を受けるであろう。特定の製造業者に対してしか役に立たない人 的・物的な資産を保有するということは,製造業者が自らにカスタマイズ された経営資源を持つことと同義である(Williamson 1985)。この経営資源 を利用することで,製造業者はよりニーズ伝達が困難な製品であっても,
それまで同程度の費用で販売を行うことが可能となる。したがって,
仮説2:「資産特殊性」が高まるほど「ニーズ伝達困難度」は高くなる。
続いて,製品のニーズ伝達困難度は,製造業者がMC製品のコミュニ ケーション方法を選択するにあたって,最も重要な要因であると考えられ る。消費者が自らのニーズを製造業者にうまく伝達することができず,そ の結果,製造業者も製品をモジュール化して消費者に製品仕様の確定を任 せることができない状況下では,セールスマンが消費者のニーズを細かく 把握する必要がある。こうした活動はウェブサイトで代替することは難し
い(Rayport & Jaworski 2005)。それゆえ,ニーズ伝達困難度が高いとき,製
造業者が採用するコミュニケーション・チャネルにおいてセールスマン販 売が占める比率は高まるであろう。このことは逆に,ニーズ伝達が容易な 簡素な製品においてEカスタマイゼーションが頻繁に観察されることを 裏付ける論拠であるとも考えられる。したがって,
仮説3: 「ニーズ伝達困難度」が高まるほど「セールスマン販売比率」
は高くなる。
最後に,製品のニーズ伝達困難度は,製造業者がMC製品の企業境界を 選択するにあたっても,最も重要な要因であろう。消費者が製品仕様を自 ら確定し,その仕様を製造業者に容易に表明できる場合は,販売ノウハウ を形式知化できるため,販売ノウハウを他社に移転することも容易である と考えられる(Langlois & Robertson 1995)。逆に,消費者が望む製品を自ら 確定できない時には,その製品について深い知識を持ったセールスマンが 消費者の注文作業を補助することになろうが,そうした深い知識は暗黙知 的であり,販売ノウハウを他社に移転することは容易でないであろう。そ れゆえ,自社セールスマンが採用されることになるであろう。したがって,
仮説4: 「ニーズ伝達困難度」が高まるほど「セールスマン内部化比率」
は高くなる。
以上に提唱された4つの仮説は,図表4に描かれるようなパス図として 表現される。
6.実 証 分 析
モデルの経験的妥当性をテストするために,消費者向けのMC製品を 販売している日本の製造業者のビジネス・ユニット(全社・支社・事業部・
営業所・直営店など)を対象とした質問紙調査を行った。本論では,産業横 断的な母集団を設定した。MCのためのコミュニケーション・チャネルの ありようを従属変数とする本論のモデルでは,母集団の中にセールスマン 販売を採用するビジネス・ユニットだけでなくウェブサイト販売を採用す るビジネス・ユニットも含まれている必要がある。この点を考慮すると,
同一産業内のみからサンプルを抽出する方策では,サンプルに含まれる企 業が採用するチャネル構造が類似する傾向があるため,チャネル構造の分 散が著しく低下するであろう6)。それゆえ,本論の分析目的に照らすと,
6) 例えば,自動車はMCが盛んに行われている産業であるが,そのコミュ ニケーション・チャネルはほとんどがディーラーのセールスマンを経由する
図表4 コミュニケーション・チャネル決定モデル
消費者知識 ξ1
資産特殊性ξ2
ニーズ 伝達困難度η1
セールスマン 販売比率η2
セールスマン 内部化比率η3
H1:γ11(−)
H2:γ12(+) H4:β31(+)
H3:β21(+)
産業横断的な母集団設定が望ましい。
産業横断的にMCを採用するビジネス・ユニットを母集団とする場合,
サンプリングのためのデータソースの選択が問題となる。消費者向けの MCを行っている製造業者だけを集めたデータソースは筆者が知る限り存 在しなかったため,サンプリングは2通りの方法で行われた。第1に,日 本経済新聞社発行のデータベース『日経NEEDS』を用いて,消費財メー カーを抽出した。産業は繊維,輸送機器,精密機器,電気機器,窯業,建 設であり,抽出条件は上場企業および非上場企業とした。その上で,各社 のウェブサイトを1つ1つチェックして事業内容を判断し,MCを行って いるものと判断されるビジネス・ユニットを収集してサンプルとした。第 2に,検索エンジンGoogleを用いて,MCを行っている製造業者を集め た。検索に用いたキーワードはMCがしばしば行われている「製品カテ ゴリー名」に加えて,「オリジナル」,「受注生産」,「カスタマイズ」,「オ ーダーメード」,「直販」などである。無論,このようなサンプリング手法 は作為サンプリングであるため,MCを採用する製造業者の母集団を偏り なく反映したものと主張することはできない(Malhotra 1999)。しかし,先 進的なマーケティング戦略であるMCを採用する製造業者のみを集めた データソースが入手不可能であり,ランダム・サンプリングが不可能な現 状を考慮すると,本論で採用した作為サンプリング法も次善の策として許 容できるかもしれない。
かくして,682のビジネス・ユニットからなるサンプルが構成され,質 問票が郵送された。回答を依頼したのは,各ビジネス・ユニットにおいて マーケティングに従事するマネジャーであった7)。データ収集は2008年2
間接販売で占められている。
7) ただし,日本企業ではマーケティングが営業部や経営企画室など様々な部 署において分散的に担われていることを考慮したこと,そしてマーケティン
月に行われ,124通(18.2%)の質問票が回収された。有効回答は122通
(17.9%)であった。
モデルに含まれる構成概念の測定尺度については,可能な限り既存研究 の尺度を利用し,既存尺度が存在しないものについては独自に尺度を開発
グ・リサーチなどの狭義のマーケティング部門として誤解されることを回避 するため,回答依頼文書では「マーケティング・営業・販売・流通に従事す る方」に回答をお願いした。
図表5 変数の定義
消費者知識[ξ1](α= .77):Ghosh et al.(2006)を修正して利用。
消費者は,この製品の製品分野の経験が豊かである。
消費者は,この製品の製品分野の知識が豊富である。
資産特殊性[ξ2](α= .93):Klein et al.(1990)を修正して利用。
この製品の販売のためには,御社の販売ノウハウをセールスマンに長期 間かけて教育する必要がある。
この製品の販売のためには,製品知識をセールスマンに長期間かけて教 育する必要がある。
この製品の販売のためには,セールスマンは顧客のニーズについて長い 時間をかけて知る必要がある。
ニーズ伝達困難度[η1](α= .72):新規開発の尺度。
消費者がこの製品に関する細かなニーズを形にするためには,セールス マンが説明をする必要がある。
消費者がこの製品を発注するとき,製品仕様を自分で決めるのは難しい。
セールスマン販売比率 = X2/(X1+X2+X3)
セールスマン内部化比率 = (X2/(X1+X2+X3))*(X6/(X4+X5+X6+X7))
ただし,X1:ウェブサイト・ルートの販売額のパーセンテージ X2:セールスマン・ルートの販売額のパーセンテージ X3:その他の販売ルートの販売額のパーセンテージ X4:自社ウェブサイト・ルートの販売額のパーセンテージ X5:他社ウェブサイト・ルートの販売額のパーセンテージ X6:自社セールスマン・ルートの販売額のパーセンテージ X7:他社セールスマン・ルートの販売額のパーセンテージ
した。まず,消費者知識についてはGhosh et al.(2006)の測定尺度を,資 産特殊性はKlein et al.(1990)の測定尺度をそれぞれ修正して用いた。ニ ーズ伝達困難度については,既存研究に適切な測定尺度が存在しなかった ため,測定尺度を独自開発した。測定尺度の信頼性を示すCronbachのα 係数はいずれも0.7以上という推奨水準を満たしていた(Bagozzi 1994)。次 に,コミュニケーション・チャネルを示すセールスマン販売比率とセール スマン内部化比率については,当該ビジネス・ユニットにおける販売額比 率を単一指標として用いた8)。
構造方程式モデルの分析結果は図表6の通りである。このモデルに対す るχ2統計量は32.96(p > 0.05)で,自由度は24であった。有意確率は0.10 であり,モデルは首尾よく棄却された。GFIおよびAGFIは0.94および 0.90であり,AGFIは既存研究の推奨水準である0.90を満たしたものの,
GFIは 推 奨 水 準 で あ る0.95を 僅 か に 下 回 っ た(Bagozzi & Yi, 1988 ; 豊 田
1992)。RMSEAは0.06であり,データがこのモデルによく適合しているこ
とを示唆している(Steiger 1980)。構造方程式のパスについては,3つの パラメータ推定値が1%水準で有意であったものの,1つのパラメータ推 定値が非有意となった。
「消費者知識」の「ニーズ伝達困難度」への負の影響は非有意であった
(γ11 = 0.01, t = 0.54, p > 0.05)。このことは,消費者が当該製品カテゴリーに ついて高い知識を持っている状況の下では,消費者が自らの望む製品仕様 を容易に確定できるであろう,と主張した仮説1を棄却する分析結果であ
8) 近年のマーケティング研究では,従属変数に離散変数を用いた多項ロジッ トモデルなどの離散選択モデルの利用が盛んであり,企業調査にも数多く利 用されている(John & Weitz 1988 ; Aulakh & Kotabe 1997)。しかしコミュ ニケーション・チャネルの場合,製造業者は単一のタイプのチャネルのみを 利用するとは限らないため,比率そのものを変数とする必要があった。そこ で,図表6の通りに定義した変数を単一指標として用いた。
った。1つの解釈として,あまりに複雑な製品の場合,消費者が事前に知 識を高めても複雑さを埋めることができないのかもしれない。少なくと も,MC製品のニーズ伝達困難度は,消費者の製品知識とは独立であると いう結果が得られた。
他方で,「ニーズ伝達困難度」に影響を与えるものと仮説化された「資 産特殊性」は,仮説どおり正の効果を持っていた(γ31 = 0.96, t = 12.83, p <
0.01)。係数推定値およびt値を見ても,この変数は極めて大きな影響力を 持っている。このことは,製造業者が資産特殊性を高めることで,ニーズ 伝達が困難な複雑な製品を販売できるようになることを示唆しているもの と考えられる。
次に,「ニーズ伝達困難度」の「セールスマン販売比率」への正の効果 と,最後に,「ニーズ伝達困難度」の「セールスマン内部化比率」への正 の効果は共に有意であった(β21 = 0.27, t = 2.90, p < 0.01 ; β31 = 0.25, t = 2.69, p <
0.01)。この2つのパスはいずれもほぼ等価な効果を与えていた。このこと から,提唱された理論モデルの主要な主張が経験的に一定の支持を得られ たものとみなしてよいであろう。
図表6 モデル推定の結果 カイ二乗値
(自由度)
(有意確率値)
GFI AGFI RMR RMSEA
32.96
(24)
(.10) .94 .90 .05 .06 H1(消費者知識 → ニーズ伝達困難度)
H2(資産特殊性 → ニーズ伝達困難度)
H3(ニーズ伝達困難度 → セールスマン販売比率)
H4(ニーズ伝達困難度 → セールスマン内部化比率)
‑.01 .96a .27a .25a 注:a:1%水準で有意,無印:非有意。
分析の最後に,仮説から離れて,コミュニケーション・チャネルの構造 比率の相関を見ておきたい。2つのコミュニケーション方法それぞれの販 売比率と内部化比率を算出し,相関分析を行った。その結果,図表7の相 関表の通り,製造業者はコミュニケーション方法を内部化して行う強い傾 向が示された。この点はとりわけウェブサイト販売において顕著であり,
ウェブサイト販売比率とウェブサイト内部化比率の相関は0.98という極め て高い値となっている。全ての販売をウェブサイトで行う場合,ウェブサ イトも自らに対してカスタマイズすることで使い勝手がよく個性的なサイ トを作ることができるのであろう。一方,セールスマン販売においては,
セールスマン販売比率とセールスマン内部化比率の相関は0.80であり,こ ちらも十分に強い相関が見られた。セールスマンによって販売する場合に も,その販売量が多い場合には,セールスマンを内部化する傾向が見られ るのである。また,異なるコミュニケーション方法との組み合わせについ て販売比率と内部化比率の相関を見ると,セールスマン販売比率とウェブ サイト内部化比率の相関は ‑0.69で,ウェブサイト販売比率とセールスマ ン内部化比率の相関は ‑0.60であり,ともに有意な負の相関を持っていた。
図表7 コミュニケーション・チャネル比率の相関関係 セールスマン
販売比率
セールスマン 内部化比率
ウェブサイト 販売比率
ウェブサイト 内部化比率 セールスマン
販売比率
1
セールスマン 内部化比率
.80
(.00)
1
ウェブサイト 販売比率
‑.67
(.00)
‑.60
(.00)
1
ウェブサイト 内部化比率
‑.69
(.00)
‑.60
(.00)
.98
(.00)
1 注:上段は相関関係,下段括弧内は有意確率値(両側検定)を示す。
以上の分析結果は,MCの下では,特定のコミュニケーション方法を内部 化して遂行することが頻繁に観察されていることを示している。このこと は,MCの実行には特定の製造業者に特化したマーケティング・システム が必要とされることが原因であるものと考えられる。
7.結 論
結論として,知見と今後の課題をまとめたい。本論の第1の知見とし て,理論モデルで定式化されたニーズ伝達困難度とコミュニケーション・
チャネルの関係が経験的に見出されたことはとりわけ重要である。コミュ ニケーション方法の選択は顧客インターフェイス研究が扱ってはきたもの の,その原因となる要因は概念化されてこなかった。本論はその空伱を埋 めるものである。またこの知見は,セールスマン販売からウェブサイト販 売へのコミュニケーション方法の代置にも関わっている。現代の情報通信 技術のイノベーションによって,消費者の製品仕様の確定作業や注文作業 は劇的に容易になった。この種のイノベーションが更に進行するならば,
セールスマンが担うべき活動は全てウェブサイト販売に代置されると考え られるかもしれない。しかし,実際にはニーズ伝達困難度の高低に応じ て,この度合いが高い製品カテゴリーではセールスマン販売が選択され,
この度合いが低い製品カテゴリーではウェブサイト販売が選択されること になるものと考えられる。
第2の知見として,資産特殊性は製造業者が提供するMC製品のニー ズ伝達困難度を高めていた。本論の理論モデルでは,製造業者が販売費用 をかけることでニーズ伝達困難度が解消されるという想定がなされてい る。理論モデルから窺える通り,資産特殊性が高まると,よりニーズ伝達 が困難な製品をこれまでと同程度の費用で販売可能となる。このことは,
資産特殊性が高まることで,よりニーズ伝達が困難で丁寧な販売が必要と
される製品カテゴリーでも,MCされることになるものと解釈される。事 実,現代のイノベーションは,それまでMCなど考えられなかった製品 カテゴリーについてもMCを可能としているのである。
第3の知見として,MCの下では,選択されたコミュニケーション方法 を垂直統合する傾向が強いこともまた見出された。既存のコミュニケーシ ョン研究は企業境界選択を取り扱ってこなかったが,誰がコミュニケーシ ョンのための物的資産を所有するかによって,資産特殊性への投資インセ ンティブが異なり(Grossman & Hart 1986),ひいてはコミュニケーション の質が変わってくる。事実,丁寧な販売活動が要求されるMCにおいて は,セールスマン販売を選択してもウェブサイト販売を選択しても,その 販売活動は垂直統合されることが示唆された。現代の企業境界は垂直分離 が進んでいるといわれているものの,MCのようにサプライチェーン全体 を巻き込んだビジネス・モデルを運営する場合には,垂直統合がフィット している可能性がある(Langlois & Robertson 1995)。
最後に,研究過程で浮上した諸課題をまとめて本論の結びとしたい。第 1の課題として,コミュニケーション・チャネルの組み合わせを分析する
必要があろう。ウェブサイト販売をメインに行っていても,コールセンタ ーを設置して電話による問い合わせを受けている企業は数多く存在してい る。コミュニケーション研究において,各種のプロモーション手段のミッ クスが研究課題となってきたことと同じように,MCにおいても,ウェブ サイトとセールスマン,あるいはそれ以外のコミュニケーション方法の最 適な組み合わせがどのような要因によって左右されるかを分析することは 価値ある研究課題である。
第2の興味深い研究課題は,日米比較である。本論の分析結果からは,
我が国の企業は,ニーズ伝達困難度が高い場合にはセールスマンによる販 売を選択することが示された。しかし,その場合には,そもそもMCの