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龍谷大學論集 480 - 009川崎昭博「黒澤貞夫の生活支援について : 現象学的視点からの理解」

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黒津貞夫の生活支援について

一一現象学的視点からの理解一一

川 崎 昭 博

は じ め に

社会福祉におけるケアワークやソーシャルワーク等の生活支援に関わってい る者の専門性について長い間議論が続けられてきている。 わが国における生活支援活動は,ソーシャルワーク(社会福祉士),ケアワ ーク(介護福祉士),ケアマネジメント(介護支援専門員)等,社会福祉に関 する法制度に基づき実施されている。黒津貞夫は,それら支援活動について, 現在,実践されている社会福祉分野の生活支援活動について,何の脈絡もなく 独自に活動しているのではなく,生活の支障を解決するための方法は異なって いても,そこには普遍的な理念の働きと相互間で共通項としての理念が存在し ており,その共通項が国家の最高規範である憲法の幸福追求権,生存権の実現 であることを指摘している。また,各分野における生活支援を学的に総合し, 体系づけられるとして人々の生活の支援をする学として,人々の生活を支援す る国家・社会の意思による体系性,思考過程と方法の論理明断性,人びとの生 活の現実性という 3つの視点から「生活支援学」を構想している。

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.研究の視点

生活支援は個人の主観的認識を基盤として行われる。黒津は人間科学におけ る生活支援のエピデンスの考え方として,生活の世界は,見る,感じる,思考 する,といった日常を経験する世界であり,現象学の理論・考え方を援用する ことと,現象学は主観の明証性(エビデンス)を解き明かすものであり,特に 相互主観による主観の共有化による客観性を理論化することが重要であること を指摘しているo わが国における生活支援は各法制度において示された目的,内容,方法によ り実施されていることから,黒津は「生活支援学においては,まず理念と現実 - 32- 龍谷大学論集

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(実践)を価値の面から見て,『理念価値・実践価値・方法としての価値』の 階層的位置づけが適切である。」と述べている。 本研究では, 1)歴史的な人権思想に支えられている生活支援の理念価値,

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)支援者と利用者(生活に支障のある人)の関係と生活支援の実践的価値, 3 )方法における生活支援の価値等について,それぞれ現象学的視点から検討 を加え, 4) 黒海の生活支援の基礎理論としての全体構造についてどのように 考えたらいいのか,イメージ化を図り, 5) その意義について考察を行う。

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.現象学的視点と現象学的視点からの生活支援に関する研究

1 )現象学的視点 現象学の基本的考え方として以下のようなことがある口 主観的,客観的なものは,あらゆる客観的検証のために理論的ー論理的な存 在妥当を究極的に基礎づけるものとして機能する。したがって,また,明証性 の源泉,検証の源泉としての機能を持っている。 また,「客観的でJr真の」世界は,理論的,論理的構築物であり,原理的に はけっして知覚することができず,原理的にその閤有の自体存在について経験 することのできないものの世界である。生活世界に主観的なものは,すべての 点で現実に経験しうる。 また,生活世界の構造は r

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それはつねにすでにく私〉という中心を持ち, そこから時間・空間の「地平」が拡がっているものとして与えられている。」 r2事物,事象はく私〉という中心のまわりに,単に実在するものとしてだ けでなく,く私〉の生活上の実践的関係からの意味や価値を持った秩序(因果 の連関)として与えられ,この意味や価値も空間的時間的繋がりの「地平」を 持つ。Jr 3この私を中心として広がる事象の存在,意味,価値の「地平」こ そ,あらゆる一般化,客観化の明証の源泉である。つまり, <私〉にとってあ るいはく私〉の生活上の必要のためにという中心から作り出されている事象 (意味・価値)の因果の秩序が,くひとびと〉にとって(のために)という観 点へ一般化されていくとき,さまざまな客観性のレベルが形成される。そして, つねに前者が後者の妥当の源泉であってその逆ではないoJといった特徴を持 っている。 事物の妥当性について「先験的自我としてわたしのうちにおいて,実際に行 われているように,他の自我が先験的に構成され,そしてそのような構成の結 果,わたしに対して生じるてくる先験的な相互主観性によって,ひとつの共通 黒揮貞夫の生活支援について(川崎) -

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33-な客観的世界が構成されるとすれば,これらのことはわたしの事実的自我に対 してだけでなく,わたしの自我から意味と存在妥当性とを獲得するこの事実的 な相互主観性と世界に対しても妥当する。」とする考え方である。 現象学的視点として,意識は対象について,その存在の妥当を行うが,その 場合,可疑性が絶えずつきまとう。疑う能力の限界を見出すとき,これ以上疑 うことができないとき,それを現実的なものとして妥当と見なす。事物の妥当 性は,意識の志向的働きによる意味統ーとして成立し,相互主観性を通して自 分にとって存在する対象的事物を他我にとっても唯一同ーものと考える。 2)現象学の視点からの生活支援に関する研究 現象学の視点からの生活支援に関する先行研究についてはいくつかある。 村田久行は対人援助においてなぜ他者理解が必要なのか,現象学的なアプロ ーチで援助者とクライエントの関係性について,対人援助における専門的な援 助関係のなかでの「他者の理解Jの意味と特性を解明することを試みている。 また,荒木重嗣は介護の基本となる人間観について,介護という行為の生きて いるその場に立ち現れる実存的な意味や価値などを現象学の思考方法にして考 察を行っている。樋口淳一郎はソーシャルワーク実践におけるクライエント・ ソーシャルワーカ一間の総合促進の試みとして,「主体・客体」聞における相 互理解の促進に関して現象学の観点導入を試みている。 これらの論文は支援における支援者と被支援者の相互理解というところで現 象学の視点を活用している。 中村剛は社会福祉学を支える基盤の研究として,その方法として現象学を捉 えている。社会福祉が拠って立つ認識論的基盤を問うには超越論的動機が必要 であるとし,社会福祉学の基盤を研究する方法として現象学を取り上げる理由 と,その理由をまとめている。また,超越論的動機の系譜として岡村重夫の社 会福祉の固有の視点に注目している。

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黒津の提唱する生活支援

黒津は図

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に示すように生活支援の思想的基盤となる価値構造を上位,中位, 低位の3層構造に分けている。生活支援を行うには,その目的や手段,方法が 必要であるが,上位の理念価値を目的,中位の実践価値を手段,低位の方法と しての価値を方法としてそれぞれ位置づけている。 最も上位には「人間尊重・生命への畏敬」といった人間にとって普遍的かっ - 34-龍谷大学論集

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生 活 支 援 の 思 想 的 基 盤 実躍上の指雲 上記の階層性│主、それらを事配合する思 想 的 な 鋤 震がなけれ ばな らな い.それ は 主体 性であり、 どこかの筒居に位置づ け る の で は なく、人聞のさ主の営みを自己 実 現 的 に 統 合していくものである. 幸福追求権:白書底下支化的な生活権 ili綾のj目標になるものではなく、 理 念 的 に絡げる人徳 思 想. 自立:省司法~:僅車庫な生活 方去としての価 値 を 直 媛 裟く. 複 数 の 価 値 同 士 の 矛 盾時価 値 観の訊利 生活安審計画にむ~る価値σ3 審周 ソーシャルワークやケアワーク を実践する限に、 ~[l芸価値をど の よ う に 綴 期 す る か の 役 点. 自立支

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というI!!!るべき価値埠 社会的承認された価値=争制度と して愛用 図1 生 活 支 援 に お け る 価 値 の3層 構 造 ( 黒 海 貞 夫(2006)r生活 支 援 学 の 構 想 ー そ の理論と笑践の統合を目指してー』川島容庖 P5の図に P3...7の記述を加筆) 客観的な概念である幸福追求権としての理念価値をおいている。

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)歴史的人権思想に支えられている生活支援の理念価値 人間はどのように生きる(行為する)かを,その都度対象世界の意味の現れ によって設定してきた。現代の人権思想は,図2に示すような歴史的経緯によ り構築されてきたと考えられる。 現象学的視点からみると,人類の苦難の歴史のなかで「私たちの生活を幸せ なものにしたい」という個々の思い(主観)が,貧困・飢餓・戦争等の歴史的 経緯のなかで「平和と安全,人々の幸せを希求した国民の総意に基づく自由権 や人権思想」というかたちで一般化(共有性)され体系づけられてきたといえ る。それは,人間の歴史や文化の諸連鎖のなかで,生活を営む上で重要な要素 となっている。この人間尊重の思想は,私たち個々(主観)が希求する「幸福 追求」を体系化(共有化)したものであり,私たちにとって,それはそれ以上 疑うことのできない普遍性をもつものである。 Åt;l~貞夫の生活支般について(川崎) -

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35-生活支謡竿 人々の生活の刻暑を異f軸事3制するさF 人権 思想を基盤・国軍の示す憲法の理主

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日本包葺~(19'6) ....ト 鼠二次世界 大 敵 近代閏軍司理念:は巴めに 自 由 窃 取 に 生 存 権 図2 生活支援の基縫となる理念倒値形成のプロセス :黒樺貞夫著「生活支援学の 梢想、JJII 島書庖 Pl~3 の記述を参考に川崎が図解化 理念価値は学問上において思惟した理念ではなく,人々が現実の生活のある べき姿を志向して,国民が合意して法規範として成文化したものである。基本 的人権としての,個人の尊重と幸福追求の権利(憲法第13条),健康で文化的 生活を営む権利(第25条)等のもとに福祉関係の各法令が制定されている。現 実の生活支援の道標としての価値・倫理をもった階層的な生活の規範体系によ り構成されている。黒海の構想する生活支援は,これら理念価値の上に人々の 生活の支援を具体的に実現するものとして考えられている。

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)支援者と利用者(生活に支障のある人)の関係と生活支援の実践的価値 中位には 「自己決定の尊重J という上位の理念価値を指標とする笑践価値を おいている。被支援者を支援者としてどのような視点で理解し,支援していく かの基本姿勢である。それは,支援の基本となる被支援者個人の主体性(その 人らしさ)をどのように理解するかということである。 図3に示すように,私たちは,社会的,地域的な共通基盤の上にある地域社 会に根づいた習俗や習慣をもとに生活をしている。そこでの個人的な体験の融 -36ー 龍谷大学論集

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支援 宥 その入品し古 人植思想・圃家の示す憲法の理念 繍互の情楠的思.の然有 t傘人的} 個人的な経厳 嶋紙社会仁保づいた習 俗・習慣置もと民生活 図3 黒海の提唱する生活支援の基礎理論の全体構造:黛深貞夫著「生活支援学の 構想JP 3 ---7, P17---20, P49~51と黒滞貞夫著「人間科学的生活支援論J P 1 ---21の記述を参考に川崎が図解化を図った。 社会的.吃属的な共温益盤 合 が,個人の人格を形成し,個々の思考様式の基盤をつくる。個人的な経験は, 社会的,地域的な共通基盤の上にあることから,支援者も被支援者も相互に理 解をすることができ,情 緒的態度も相互に共有される。支援者は被支援者を 「全人的」 に理解するという独自の視点、で支援を行う。それは,被支援者の現 在に至る時間の流れのなかの固有の生活の彩りや生活により創造されてきた 「その人らしさ」を理解することであり,その人の主体性(思いや考え)を支 援に反映させるということである。しかし,支援の過程では,支援者の主観と して支援として「こうありたい」ということと,利用者の主観として望む生活 -37一 !J.~r帯貞夫の生活支援について(川崎)

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として「こうありたいJ ということのすり合わせがある。それは,理念価値 (人間尊重・生命の畏敬)を指標とした自己決定(主体性)の尊重という実践 場面での価値の具体化である。 支援者には被支援者と同様に支援者としてのその人らしさがあるが,被支援 者と大きな違いは,支援者としての価値理念を指標として考え行動していると いうことがある。相互に理解しあうことができるのは,地域社会における共通 の環境的経験の基盤(例えば,共通の言語や教育,文化といったもの)がある からである。しかし,実践価値においては,時として支援者と被支援者の価値 どうしの矛盾が生じることもある。 現象学的視点としては,多様な価値観の調整とそれぞれの主観の共有化を図 り,支援を進めていくということになる。 上位と中位の価値は,生活支援の思想の基盤となる。 3 )方法としての生活支援の価値 低位として実践価値を指標とする方法としての価値(実践価値の援用による 課題解決)をおいている。 生活支援としての課題解決は「面接今アセスメント今計画今実施今評価Jの プロセスで行う。この課題解決を行う過程は,私たちが日常生活で行っている 問題解決の方法と同じである。それは,情報を集め,問題を分析し,どのよう に解決するか計画を立て,具体的にやってみて結果を見るという一般的な問題 解決の方法と同じである。その過程は誰が行っても変わらない。生活支援にお ける課題解決は,被支援者の個々の状況によりそのアプローチの違いはあるも のの,そのプロセスは普遍的かつ客観的なものである。 生活支援の方法では,計画が組み立てられ,支援が行われる。現象学的視点 としては,計画や支援の内容について,支援者と被支援者の主観の相互の共有 化やカンフアレンス等による他の支援協働者との情報や理解の相互の主観の共 有化により支援が行われる。特にカンフアレンスにおいては,その内容は参加 者相互の主観の一致により支援の方向性を定めることにより支援に妥当性をも たせることができる。 4 )生活支援の基礎理論としての構造をどのように考えたらよいのか 図 3は黒海が提唱する生活支援の全体構造について図解化を図ったものであ る。その構造は,現実の生活世界とそこから発生する現代社会の価値観と個人 - 38ー 龍 谷 大 学 論 集

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の価値観を基軸としている。 現代社会の価値観について,生活支援の思想的基礎となる価値構造をみると, 上位,中位,低位の3構造をなしている。上位として位置付けられている理念 価値「人間尊重・生命への畏敬」は,歴史的経緯のなかで個々の日々の生活の なかで希求する主観の共有化により積み上げられてきたものである。また,中 位として,理念価値を指標とする実践価値「自己決定の尊重Jがある。それは, 個人の価値観である主体性と大きく関係している。この実践価値は,上位の理 念価値を目的とする手段である。被支援者の個人の価値観と支援者の相互理解 による主観の共有化により進められる。 上位と中位の価値は,生活支援の思想の基盤となっているo低位として方法 としての価値「実践価値の援用による課題解決J という実践価値を指標とする。 支援者は,これら生活支援の思想的基盤となる価値構造をもちながら支援を 行うが,それは現代社会の価値観と個人の価値観を基盤としている。 生活支援における客観的妥当性の判断は,生活世界における個人の価値観 (主体性)と生活支援における価値(人間尊重を理念とする現代社会における 価値観)の共有化により行われる。したがって,生活支援における客観的妥当 性は,個人の価値観は個々異なっているのはもちろんであるが,それは時間と ともに変容していくものである。

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わが国の生活支援

わが国の生活支援のシステムは,生活に支障のある人の問題解決を図るため, 人権思想を中核に据えながら経済的な側面と法的な側面の整備とを一体にして システム化されてきた。 社会福祉士の仕事がソーシャルワーク,介護福祉士の仕事がケアワーク,介 護支援専門員の仕事がケアマネジメントという制度の位置づけは,わが国特有 のものである。ソーシャルワークとケアワークについてはその概念が対置され 議論されることが多い。 古川孝順は,少なくともケアワークという概念はわが国特有のものであり, 欧米に起源をもっソーシャルワークと概念を対置させ,それぞれの概念化や両 者の関連を問うという問題の立て方について慎重であるべきとし,さらに,改 めて指摘するほどのことではないとして,ソーシャルワークやケアワークの違 いや関連は,それが展開される場所の違いというよりも,それぞれのもつ機能, そして,それらを支える視点,知識と技術の体系の違いに着目し,そこから論 黒津貞夫の生活支援について(川崎) ー 39ー

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じられる必要があると指摘している。この古川の指摘は重要である。ソーシャ ルワークもケアワークもそれぞれ社会的ニーズにより生活に支障のある者を支 えるものとして概念化され位置付けられている。 また,大橋謙策はソーシャルワーク実践に焦点を絞り,援助を実践する専門 職者としての役割と,援助を実践する手順とそれがもたらす効果をわかりやす く示す責任という枠組みでソーシャルワーク実践を整理し,そのあるべき方向 性を論じている。日本の「場」では,ケアワークとソーシャルワークとの関わ りはケアワークを中心としつつ,ソーシャルワークの機能を展開することが最 も実際的であったことを指摘している。大学等で教えられるソーシャルワーク 理論においてはカウンセリング的機能を中核としたソーシャルワークに引き付 けられている。この“希離"を社会福祉方法・援助技術研究者やソーシャルワ ーク研究者はどう解決するのか,今後のソーシャルワークの理論化の大きな課 題のーっとして,ソーシャルワークとケアワークの考え方を整理することの必 要性を指摘している 井上千津子は,介護(ケアワーク)について先達としての看護やソーシャルワ ークなどからその知見を学び取り込んでくるなか,実践の学問や学際的である という認識の共有化ができてきており,介護の目的概念としての生活-をトータ ルで支え,自己実現を図る方法論の確立が介護福祉学の柱になることを指摘し ている。また,課題として介護が社会の表舞台に現れてきて歴史的に日も浅く, 学問的に未熟であり,介護の定義,介護の歴史性,介護にかかる言語の持つ意 味,仕事の範囲など明確な定義や共有化がなされていないこと等について指摘 している。介護の目的概念としての生活をトータルで支え,自己実現を図る方 法論の確立により介護福祉学の構築の方向性を模索してきている。 白津政和は,社会福祉方法論は本来利用者の「生活」を支援する理念やその 方法であり,そのために理論と実践とをフィードバックしていくことで,方法 論が確立し,利用者が質の高い生活を成就することを目指しており,ケアマネ ジメント論では生活を遂行するうえで困っている状態をいかに整理し解決の方 法を探っていくかを示すことから支援過程が始まるとし,また,ケアマネジメ ント研究について常に生活者の論理の貫徹に福祉の原理があるとする岡村理論 を常に意識し進めてきたと述べている。岡村理論について松本英孝が欧米の進 んだ社会福祉実践報告から形成した上で,日本的認識論により「主体性の社会 福祉」として概念構成していること,松本が岡村以上にその理論を捉え,生活 者の主体性根源的な価値を認めるところに岡村社会福祉学の生命があることを - 40- 龍谷大学論集

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紹介している。また,ソーシャルワークはその基礎とする利用者の「生活」支 援という基本となる理念において独自性を追求していくことが求められている としているo

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黒津の提唱する生活支援の意義

図3は,黒津の生活支援についての全体構造を図解化しメージ化を図ったも のである。これを見ると明らかであるが,黒津の生活支援においては,理念価 値と実践価値を思想の共通基盤としている。ソーシャルワーク,ケアワーク, ケアマンジメントは,生活の支障を解決するという共通の目的は一緒であるが, その方法は異なっているo生活支援としての構造は,きわめてわかりやすく, ソーシャルワークやケアワーク,ケアマネジメントをトータルに包み込む概念 構成となっている。 古川がソーシャルワークやケアワークの違いや関連は,それぞれの機能,そ れを支える視点,知識と技術の体系に着眼して論じる必要があると指摘してい るが,そのようなかたちになっていると考えられるo また,大橋は,日本の 「場Jではケアワークを中心としつつソーシャルワークを展開してきたこと, ソーシャルワークの理論化の課題として,ソーシャルワークとケアワークの考 え方を整理することの必要性を指摘しているが,方法としての価値ではケアマ ネジメントも含め,知識や技術において共通項もある。 黒津の生活支援は,わが国の生活支援を包括的に捉えることができると考え られる。ソーシャルワークやケアワーク,ケアマネジメント,それぞれに独自 性を追求していくことが求められているが,黒揮の生活支援では「方法として の価値」というところで,生活支援における被支援者との関わり方やそこで必 要な知識や技術の確立をしていくことが,それぞれの独自性を確立していくこ とになる。 生活支援は,私たちの現実の生活を起点にして人間をどのようにとらえ理解 し,支援していくのかといったことがプレームとなる。支援が支援者の主観に よって組み立てられるといったところで,その妥当性や客観性といったことが 絶えず課題となる。 生活支援に関わる者の専門性が議論される場合においても,主観的であるが ゆえに,支援の根拠が暖昧であり,自然科学にあるような論理明快な客観性と いったことが明確にできず,科学的でないといった批判により,その評価が低 いところに置かれているのが現状である。 黒津貞夫の生活支援について(川崎) -

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41-客観と言われるものは,現象学では主観が一般化(共有化)された意味の体 系であり,主観相互の共有化(相互主観性)によって生じるものである。私た ちの世界にとって,それ以上疑いえないものは,そのことの判断認識の核心が 成立する源泉である。また,それは私たちにとって普遍的なものであり客観的 なものとしてとらえることができる。 現象学では,これ以上考えてもそれ以上のことがでてこないとき,それは 「不可疑'性」のあるものと認識される。したがって,相互にとって,これしか ない,これ以上疑っても何も出てこないようなもの,そういうものは,現象学 では普遍的で客観性のあるものととらえる。 生活支援においての支援の客観的妥当性は何かということが絶えず、課題とな るが,それは支援者と被支援者双方にとっての客観的妥当性を意味する。その 指標は,人間尊重の理念価値と利用者の主体性にある。したがって,生活支援 における客観的妥当性は,支援者と利用者の時間的変容のなかで,変わってい くものである。客観的妥当性については,生活支援は人間科学であり,自然科 学における絶対的で普遍的な客観性とはその意味が異なるものであることを理 解する必要がある。 黒津は生活支援の価値理念を,人々の現実の生活へのあるべき姿の志向によ る国民の合意による成文化された憲法の人権思想をよりどころにしているロ現 象学的視点でみると,その思想は国民の合意(国民個々の相互主観性)により 成り立っているということになる。支援の客観的妥当性の第一の拠り所はここ にあるということの理解が重要である。そのうえで,支援者と被支援者,支援 者と他の協働者との客観的妥当性,社会的視点からの客観的妥当性と広げて考 えていくことが必要である。 黒津が提唱する生活支援での現象学的視点からのアプローチは,人間科学に おける生活支援の客観性や妥当性をどのように考えればよいのかということに 対して大きな意義を与えている。したがって,生活支援においては,その妥当 性や客観性を議論する場合,個々の主観において相互に一致するということが 基本であり重要になってくる。 関わる人たちが個々にどのような考え方や価値観をもっているのかというこ とが大きな要素となるo また,支援者の場合,確かな価値観や知識,技術,経 験といったことが妥当性や客観性を支えることになる。また,大きな影響を与 える白生活支援においては絶対的な妥当性や客観性ではなく,相対的な妥当性 や客観性が問題になるのである。 - 42ー 龍 谷 大 学 論 集

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生活支援の理論として,黒津のような現象学の視点、からその支援の客観的明 証性を論じる者は見受けられない。そういう意味では,黒津の生活支援の考え 方は,その独自性を際立たせているといえる。 黒津は,既に2006年に川島書店より「生活支援学の構想 その理論と実銭の 統合を目指して」と2010年にミネルヴァ書房より「人間科学的生活支援論」に おいて,従来の視点とは異なる新たな視点での生活支援の理論化を図っている。 黒津の生活支援は現象学の理解が前提にないと理解することが難しいこともあ り,現状の生活支援の理論や専門性の追求といったことの課題を解決する要素 を含んでいると考えられるにもかかわらず,十分に周知されていないというの が現状である。

ま と め

生活支援は学際的であるo人間科学を基本とし,自然科学における知見を活 用しながら行う応用科学でもある。 黒津の考える生活支援について理解を深めるなか,その意義について検討を 行った。 わが国の生活支援は,ソーシャルワークやケアワーク,ケアマネジメントと, その独自の展開をしてきている。ソーシャルワークをみてみると欧米から積極 的にその理論や考え方が紹介されてきているが,日本の文化に根差したものと なっているとは言い難い。黒津の生活支援は,わが国の文化に沿うかたちで憲 法を基本とする人権思想を基本とした現状の施策として行われている生活支援 システムの概念と方法を,現象学的視点をもって統合するかたちで組み立てら れている。 黒津の提唱する生活支援について,古川や大橋,井上等が指摘している現状 の生活支援の課題についてどのように考えたらよいのか検討を加えた。十分な 検討ができたとはい難い面もある。また,生活支援の客観的妥当性についてど のように考えたらよいのかについて現象学的視点から説明を試みた。生活支援 においては,科学的でなければならないといったことがいわれる。この科学的 という言葉については生活支援の現場において言葉だけが独り歩きしている感 がある。この科学的という言葉の意味について現場レベルに,その意味をおろ していく必要がある。それは生活支援の客観的妥当性をどのように考え組み立 てていくのかということである。黒津の生活支援は,生活支援の客観的妥当性 を人間科学的側面から十分説明できるものと考えられる。ただ,現象学の視点 黒津貞夫の生活支援について(川崎) -

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43-についての理解が前提となっているため,難しいといったイメージがある。 今後の課題としては,理論を深め,理論体系についてどのようなかたちでの 共通認識や社会的認識を深めていけばよいのか,また,実践において活用する にはどのようにしていけばよいのかといったことがある。 謝 辞 2009年

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月より所属する龍谷大学からサパテイカルとして

1

年間の研究のた めの時間を頂きました。この間,黒津貞夫先生のもとに通わせていただき,研 究を進めてきました。 今回,現状のソーシャルワークやケアワークの現状の課題から黒津貞夫先生 の提唱する生活支援をひもとき,その意義について検討を加えました。研究を 進めるにあたって,お忙しい時間を割いて,温かいご支援とご指導を賜りまし た黒津先生に,この場を借りて心からお礼申し上げますロまた,本研究のため に貴重な時間ときっかけを与えていただきました龍谷大学に心より感謝申し上 げます。 註 (1)黒津貞夫 (2006)r生活支援学の構想その理論と実践の統合を目指して」川島 書庖, P3-4 (2) 同上, P227 (3)黒津貞夫 (2010)r人間科学的生活支援論」ミネルヴァ書房, P73 (4) 向上(1)

P4 (5)細谷恒夫・木田元訳 (1995) E・ブツサール「ヨーロッパ諸学の危機と超越論 的現象学」中公文庫, P227 (6) 向上, P229 (7)竹田青嗣(1989)r現象学入門JNHKプック, P144 (8)船橋弘訳 E ・ブツサール「デカルト的省察」世界の名著51中央公論社, P269 (9)村田久行 (2001) r対人援助における他者理解ー現象学的アプローチ」東海大学 健康科学部紀要6,PI09-114 (1的荒木重嗣 (2009)r介護の基本となる人間観-現象学的思考を補助線として」 新潟青陵大学短期大学部研究報告39,PI-14 ( lU 樋口淳一郎 (2011)rソーシャルワーク実践におけるクライエント・ソーシャ ルワーカ一間の相互理解促進の試み 理論編(1)一岡村理論・システム理論・ 現象学一」徳山大学総合研究所紀要33,P71-80

ω

中村剛 (2010) r社会福祉を支える基盤の探求一基盤を探求する方法としての 現象学一Jr福祉図書文献研究』日本福祉図書文献学会9,P43-57 - 44- 龍谷大学論集

(14)

( 13) 向上

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