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Probing the Neural Mechanism of Binocular Information Processing with VEPs Ryusuke HAYASHI, Yoichi MIYAWAKI, Taro MAEDA, and Susumu TACHI random-dot s

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(1)

視覚誘発電位計測に基づく両眼視覚情報処理過程の解析

隆介

宮脇

陽一

前田

太郎

Probing the Neural Mechanism of Binocular Information Processing with VEPs

Ryusuke HAYASHI

, Yoichi MIYAWAKI

, Taro MAEDA

, and Susumu TACHI

あらまし 両眼立体視過程の解明を目的として,random-dot stereogram( 以下 RDS)提示時の視覚誘発電

位( visual evoked potential,以下 VEP)を計測した.本研究では刺激提示位置,視差量,両眼画像間の相関の 三つを実験パラメータとして,VEP の反応潜時の変化に注目した解析を行い,両眼立体視過程と両眼競合過程 との関係を探った.RDS 提示時の VEP 波形は大きく三つの成分に分けられる.第 1 成分は後頭部に局在して 見られる初期視覚反応であることから,局所的な視差検出処理を反映していると考えられる.一方,第 2,第 3 成分は後頭部からより前頭部領域に広がる中∼長潜時の反応で提示位置,視差量に依存して潜時が大きく変化し た.潜時は周辺視野より中心視野に提示した方が短く,非交差視差より交差視差の方が短かった.こうした潜時 差は提示位置や視差間の処理機構の差を反映していると考えられる.更に両眼間でコントラストが反転した RDS ( anti-RDS)を用いた実験では非交差視差より交差視差の方が潜時が長くなり,RDS の場合と逆転した.この現 象は V1 の視差選択性ニューロンの応答特性によって説明できることから,両眼立体視と両眼競合は共に局所的 な視差検出機構を神経基盤としていることが示唆された.そして視差選択性ニューロンの応答を両眼エネルギー モデルでシミュレートして二つの両眼視処理の違いを検討し ,両眼間の非対応を検出する機構を提案した. キーワード 両眼立体視,両眼競合,両眼非対応領域,random-dot stereogram,視覚誘発電位

1. ま え が き

人間の両眼立体視過程を解析する実験手法として, random-dot stereogram( 以下RDS)[1]を用いた視 覚誘発電位(visual evoked potential,以下VEP)計 測が有効である.VEP計測により,非侵襲かつ高い 時間分解能で知覚過程に対応した脳内の電気生理反応 を測定することができる.RDSを用いてVEPを計 測した実験は過去に多数報告されている[2]∼[5].い ずれもRDS知覚時に後頭部で生じ る潜時200 msの 陰性帯電活動が解析され,視差検出処理に特徴的な活 動と考えられてきた.しかし,刺激パラメータに依存 したVEPの時間変化はほとんど 検討されてこなかっ た.また,視野の中心部に刺激を提示し ,反応を解析 した実験が多いが,一般に視野位置によって視覚特性 は異なる.視差刺激の提示位置とVEP波形の関係を 調べた研究[3]もあるが,十分な提示視野を確保して 行われてこなかった.そこで,本研究では提示視野角 東京大学大学院工学系研究科,東京都

Graduate School of Engineering, The University of Tokyo, Tokyo, 113–8656 Japan を拡大し ,刺激を上下方向に偏位して提示したときの VEPを計測することとした.提示視野を大きくし,刺 激を偏位した位置に提示することは,反応時間を増幅 し実験パラメータの影響を解析しやすくする効果も期 待できる.その他のパラメータとして,RDSの視差 量,両眼画像間の相関にも注目し ,両眼競合過程も含 めた両眼視機構全体の神経基盤とその時間特性につい て考察した.そして,視差選択性ニューロンを両眼エ ネルギーニューロンでモデル化したシミュレーション を行い,両眼立体視と両眼競合の双方にとって重要な 役割を果たすと考えられる両眼間の非対応を検出する 機構を新たに提案する.

2. 両眼立体視について

2. 1 両眼立体視のメカニズム 両眼視差を手掛りに視覚対象の奥行を求める両眼立 体視過程では,左右眼間で画像要素の対応付けを行う 必要がある( これを対応問題という ).一般に脳内に おける両眼立体視処理は大きく二つのステップに分け て考えられている.一つは局所的な視差検出過程で, 単純に局所的な情報だけから誤対応を含めた両眼間の

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網膜像差を検出する過程である.もう一つは全体的な 立体視過程と呼ばれ,画像全体のパターンの整合性か ら対応問題を解き,奥行知覚を生成するより高次な処 理過程である[6]. 両眼立体視の神経基盤となる視差選択性ニューロン は,現在までにV1をはじ め,V2,V3,V3A,VP, MT,MSTと背側経路に位置する視覚関連領野で数多 く確認されている[7], [8].局所的な視差検出は初期視 覚情報処理であり,V1,V2の視差選択性ニューロン によって行われると考えられている[6].一方,意識的 な奥行知覚に関与するのは,ニューロンへの電気刺激 実験などから,MTを中心とした高次視覚領野である と推定されている[8]. 2. 2 Marrの計算理論

対応問題の理論的な解法として,Marr & Poggioは 物理環境によって規定される制約条件( 適合性,一意 性,連続性)を設定した.そして,三つの制約条件に 基づき視差検出器間の結合様式を決定し ,反復計算に よって解を一意に出力するモデルを提案した[9].Marr の計算理論は多くの両眼立体視モデルの基礎となった が問題点も多い.特に視覚対象の奥行変化は連続的で あると仮定しており,物体形状に直接結び付く奥行不 連続部を無視してし まっている.Marrらのモデルを 拡張する形で奥行不連続の問題を扱ったものとしては, ラインプロセスの導入など 一定の視差変化を不連続と みなす処理を加えたモデルが提案されている.しかし, 変化としては小さいが不連続である場合や,変化とし て大きくとも連続である場合に対応できない欠点があ る[10]. 2. 3 両眼非対応領域 奥行不連続部の処理に対する有効なアプローチとし ては両眼非対応領域(interocularly unpaired region) の与える情報に着目するものがある[11].二つの面に 奥行差があり,手前の面が背景面を遮へいする場合, 奥行不連続の部分には一方の眼からしか見えず,他眼 に対応をもたない領域が 必ず存在する.この両眼非 対応領域の存在が,奥行不連続の情報を提供し,境界 で 生じ るエッジ 感の生成に 重要であるといわれてい る[12].両眼非対応領域の処理にはその正確な網膜位 置情報が重要であるため,V1のニューロンが関与す ると推定されているが,詳しい神経機構は明らかでは ない. 2. 4 両眼競合(視野闘争) 一般に両眼の画像が大きく異なり非対応な場合,両 眼競合( 視野闘争ともいう)が生じ る.両眼競合によ る視野の抑制は初期視覚過程で局所的に生じ ,知覚は 左右眼間で競合するため,両眼競合は 左右の単眼性 ニューロンが相互に抑制し合うことで起こると考えら れてきた[13]. ところが,競合要素が左右眼でない条件が確認され る[14]など ,単眼性ニューロンの相互抑制では説明で きない現象が明らかになった.むしろ,近年の神経生 理研究から,両眼競合の起源はV1の両眼性ニューロ ンであり,眼優位コラムに対する抑制により生じ るこ とが示唆されている[15].しかし ,ど のような両眼性 ニューロンが抑制に関与するのか不明であり,両眼性 ニューロンに基づく両眼競合のモデルも提案されてい ない.また,両眼立体視と両眼競合はともに両眼間で 網膜像差がある場合に生じ ,両者の知覚は相互に抑制 し合う[16]など 密接な関係があるのに,両者を統一的 に扱った両眼視モデルもない.そこで,本研究では両 眼立体視と両眼競合の神経機構の相違にも注目して実 験を行うこととした.

3. 実 験 方 法

3. 1 被 験 者 両眼視機能の正常(Stereo Optical社製ステレオテ ストで40以上)な視力矯正後の成人男子4名につい て測定した. 3. 2 実 験 装 置 実験装置の概略を図1に示す.被験者はシールド ルームに入り,手前100 cmの距離に置かれた前額平 行なスクリーンに提示される画像を観察した.頭部は 顎台を用いて固定した.シールド ルームの外に液晶プ ロジェクタ(SHARP社製XV-E550)を設置し,金網 格子付きガラス窓を通して画像を映し出した. 3. 3 計測及び記録方法 電極は国際10-20法に従って頭皮上に19 ch若し く は後頭部のみに8 ch,眼球運動や瞬目のモニタとして 両下まぶたに各1 chずつ装着した.電極のインピーダ ンスは5∼30 kΩになるようにした.不関電極は両耳た ぶ,接地電極は鼻頭とし単極誘導法を用いた.計測に は多チャネル生体アンプ( 日本光電社製MME-3132) を用い,増幅率を 5 µV/V,総合周波数帯は0.53∼ 100 Hzに設定した.脳波計からのアナログ出力をいっ たんサンプル・ホールドボードに入れA–Dボードによ りサンプリング周波数1 kHzで同時サンプリングした. 計測したデータは提示した刺激ごとにIBM PC/AT

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図 1 実 験 装 置 Fig. 1 The experimental system.

互換機に保存し ,実験後に50回分のデータで加算平 均処理を行った.画像生成は専用のグラフィックワー クステーション(SGI製Indigo2)で行い,チャネル オプション機能を用いて画像信号と同期したトリガ信 号を出力した.このトリガ信号も同時に記録し,加算 平均処理時の同期原点に利用した. 3. 4 提示法及び刺激条件 刺激画像はRDS画像を30 Hzで 切り換えた dy-namic RDSで,赤緑のアナグリフ法により提示した. コントロールに用いたただのランダムな点配列の画像 (binocularly correlated random-dot stereopattern,

以下CRD)もやはりdynamicに提示された. 図2に画像提示の手順を示す.まず最初にCRDを 100 ms提示する.次に両眼視差の付いた刺激画像若し くはCRDの中からランダ ムに一つ選び700 ms提示 し ,最後にもう一度CRDを600 ms提示する.これ を1セットとし ,各刺激に対して25セット分のデ ー タを1回の試行で取得した.各セットの間はCRDを 1∼2 sのランダムな時間提示し ,刺激の出現が周期的 になるのを避けた.これを3分程度の休息を挟んで2 回行い,各刺激に対して計50セット分のデ ータを取 得した.実験中,被験者は画面中央の点を注視するよ う教示された. 視差刺激画像とし て,視差の付いた 方形領域が 注 視点から上 10,上 5,中心 0,下5,下 10 に 図 2 刺激の提示順序

Fig. 2 The sequence of events in a single trial of stimulus-presentation. シ フトし た 画 像を 用 意し た .画 面 全 体の 視 野 角は 31.3◦× 39.6◦,注視点の大きさは 1.2◦× 1.2◦,打点 密度は50 %,1画素[pixel]の大きさは12.1×12.1, 画面解像度は213 pixel×160 pixel,スクリーンの平均 輝度は41 cd/m2である. 実験では主に−36.3の交差視差と36.3の非交差視 差のRDSを用いて測定した.刺激領域の大きさは交差 視差の場合6.9◦×6.9◦,非交差視差の場合5.2◦×5.2◦ とし ,以下の実験が主に中∼長潜時反応に注目するた め大きさの恒常性を優先し て設定し た.すなわち視 差量を θ [rad],観察者からスクリーン までの距離を dscr[m],眼間距離をdeye[m]としたとき,立体面の スクリーンに対する奥行d [m]d≈ d 2 scrθ dscrθ− deye (1) と近似し,奥行dにおける刺激領域の1辺の長さが一 定になるよう視差領域を決めた.刺激領域の大きさの 違いが与える影響は後で(5. 1参照)考察する.

4. 実 験 結 果

4. 1 提示位置の影響 RDS提示時のトポグラフィを見ると,はじ めに後 頭部で陰性帯電が生じ ,やがて前頭部へ広がる反応を 示す[5], [17].交差視差(−36.3)のRDSを提示した とき,右後頭部(O2)と頭頂後部(Pz)の電極から得

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(a)

(b)

図 3 交差視差の RDS を提示したとき O2,Pz 電極から 得られた代表的波形例

Fig. 3 VEPs to RDSs of a crossed disparity for sub-ject RH (a) and SS (b), recorded at scalp sites O2 and Pz . られたVEP波形例を図3に示す.特にPzを選んだ のは背側経路に沿った視覚領野が両眼立体視過程に関 係しているといわれるからである(2. 1参照).縦軸 は振幅を表し,上向きが陰性である.横軸は時間であ り,刺激提示から800 msまでのデ ータのみ示してあ る.図中の波形は視差領域の提示位置に対応して描画 されており,上から上10,上5,中心 0,下 5, 下10に刺激をシフトして提示した場合のVEPをそ れぞれ示している.視差刺激を中心0に提示した場 合,後頭部において潜時約200 msに大きな陰性ピー クが生じ ,過去の研究報告と整合性を示した.しかし, その潜時は下5に提示した場合を除き,周辺視野に 図 4 RDSと単眼手掛り刺激を提示したときの陰性ピーク 潜時

Fig. 4 The latencies of the negative peaks to RDSs and monocular-cue stimuli.

図 5 RDSと単眼手掛り刺激を提示したときの陽性ピーク

潜時

Fig. 5 The latencies of the positive peaks to RDSs and monocular-cue stimuli.

刺激を提示するほど 遅れることが確認された.この陰 性ピ ークに引き続いて生じ る陽性ピ ークも同様の潜 時遅れを示す.周辺視野ほど 潜時が遅れる要因として は,皮質拡大率の違いにより,刺激を受ける視差選択 性ニューロンの数が視野位置によって変化することな どが考えられる. ただし,単眼手掛りによって知覚できる刺激(明ドッ トと暗ド ットの中間階調で描画した方形画像,大きさ は6.0◦× 6.0◦,両眼で観察)を提示した場合,提示位 置に依存した潜時変化はこれほど 顕著に見られなかっ た( 図 4,図5は被験者4人のO2波形のピーク潜時 を平均し ,提示位置に対してプロットしたグラフであ

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る.上視野に提示した場合,最初に大きな陽性ピーク が現れるため,図4は下視野に提示した場合のみをプ ロットした ).このことから両眼立体視過程では視野 位置( 特に上下方向)による影響がより顕著であるこ とが示唆された.また,交差視差のRDSの場合,中 心よりも下5に提示した方が潜時が短い傾向にある ことからも,潜時遅れに視差選択性ニューロンの数が 影響しているとしても,単純に皮質拡大率のみに依存 しているわけではないと考えられる. 先行研究[5], [17]によれば ,RDSに対するVEPは 最初に後頭部に局在した陰性帯電が生じ ,続いて後頭 部を含んだより前頭部領域に広がり,やがて陽性帯電 へと転じる.図3でも刺激が大きく周辺に提示される 場合( 上10,下10)を除いてその様子が確認でき る.したがってRDS知覚時のVEP波形は大きく三 つの成分に分けられる.すなわち,第1に後頭部に局 在した陰性成分,第2に後頭部からより前頭部領域に 広がる陰性成分,第3に後頭部からより前頭部領域に 広がる陽性成分である. 本実験条件ではdynamic CRDからdynamic RDS への切換を行っているため,刺激出現の知覚に両眼視 差以外の手掛りは排除されている.このため,局所的 な視差検出が最初の視覚情報処理となる.そして神経 生理学の知見より,局所的な視差検出はV1,V2など 低次視覚領野で行われることが知られている(2. 1参 照).したがって後頭部で局在して生じる最初の視覚反 応である第1成分は,局所的な視差検出過程を反映し ていると考えられる.過去の研究でも同様の陰性反応 が両眼網膜像差のある画像に対して共通に誘発される 反応であることが知られている[2], [4].また刺激を上 10,下 10と大きく周辺に偏位して提示すると第1 成分が確認できなくなったのは,周辺下視野のV1へ の投射先が鳥距溝上部の内側部であり,周辺上視野の 投射先が鳥距溝下部の内側部であるために,頭皮上電 位分布で見た当該領域の活動はO2を中心とした後頭 部に局在しなくなったと考えられる. 4. 2 視差量の影響 次にRDSの視差量がVEPに与える影響を調べる ため,非交差視差(36.3)のRDSを用いて同様の実 験を行った.非交差視差の場合でも,第2,第3成分 の潜時は刺激を周辺視野に提示するほど 大きく遅れる ことが確認できた( 図 6).しかし ,顕著な違いとし てすべての提示位置で交差視差より非交差視差の方が 潜時が長くなることがわかった.視差−12.1(刺激領 図 6 交差視差,非交差視差の RDS を提示したとき O2 電 極から得られた代表的波形例

Fig. 6 VEPs to RDSs of crossed and uncrossed dis-parities for subject RH, recorded at site O2.

図 7 交差視差,非交差視差の RDS を提示したときの陰

性ピーク潜時

Fig. 7 The latencies of the negative peaks to RDSs.

域:6.3◦× 6.3◦),視差12.1(刺激領域:5.8◦× 5.8◦) のRDSを用いて計測した結果とも比較すると,ピー ク潜時の時間帯は交差視差か非交差視差かによってほ ぼ二つに分離した( 図7,図8は被験者4人のピーク 潜時の平均である ).したがって視差の符号が潜時に 大きく影響していると考えられる. 4. 3 両眼画像間の相関の影響 4. 3. 1 anti-RDSについて 両眼立体視と両眼競合の神経機構の相違を明らか にすべく,逆相関RDS(anticorrelated RDS,以下 anti-RDS)を用いて実験を行った.anti-RDSとは図9 に示したように,RDSの視差領域に相当する部分の

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図 8 交差視差,非交差視差の RDS を提示したときの陽 性ピーク潜時

Fig. 8 The latencies of the positive peaks to RDSs.

図 9 anti-RDSの例 Fig. 9 An example of anti-RDS.

コントラスト符合が左右眼間で反転した刺激である. 両眼に提示すると両眼間で対応がないため両眼競合が 生じ る.anti-RDSではコントラスト反転した領域の 左右眼間のずれをもって視差と定義する.実験の提示 条件はanti-RDSであることを除いてRDSの場合と 同じである. 4. 3. 2 非相関刺激について

anti-RDSのほかに,非相関刺激(binocularly un-correlated random-dot stereopattern, unCRD)を 提示したときのVEPも測定し ,両眼非対応の影響を 更に詳しく調べた.非相関刺激は左右画像間で方形領 域の点配列に全く相関のない刺激で,anti-RDS同様, 両眼競合が知覚される.実験では両眼非対応な方形領 域の大きさを6.0◦× 6.0◦とした. 4. 3. 3 結 果 交差視差(−36.3)と非交差視差(36.3)のanti-RDS を提示したとき,O2から得られた波形例を図10に示 す.刺激の提示位置によりピークの潜時が大きく変化 したり,VEP波形が三つの成分に分かれるなど ,RDS 図 10 交差視差,非交差視差の anti-RDS を提示し たと き O2 電極から得られた代表的波形例

Fig. 10 VEPs to anti-RDSs of crossed and uncrossed disparities for subject RH, recorded at site O2. と共通する波形変化が確認された. しかし ,第2,第3成分の潜時は非交差視差の方が 交差視差より常に短くなり,RDSの場合と傾向が逆 転した. anti-RDSと非相関刺激に対する,被験者4人のピー ク潜時の平均を図11,図 12に示す.ただし ,被験 者によっては両眼非対応な刺激を周辺に提示すると VEPの振幅が小さくなり,ピークが決定できない場 合があった( 上10は1人,上5は2人,下5は 3人,下10は2人分の平均である).anti-RDS同士 の比較によって上述の視差に依存した潜時変化の逆転 が確認できる. 更に,非相関刺激とanti-RDSを比較すると,デー タの 分散は 大きいが 交差視差のanti-RDSに 対する ピーク潜時だけが遅れる傾向が認められた.

5. 考

5. 1 交差視差と非交差視差の処理機構の差 交差視差より非交差視差のRDSを提示した方が第 2,第3成分の潜時が常に長くなったが,要因として 刺激領域の大きさの違いによる影響が考えられる.刺 激領域を 6.9◦× 6.9◦ から4.6◦× 4.6◦と変えて交差 視差(−36.3)のRDSを提示すると,刺激領域の減少 による潜時の遅れが確認された.しかし ,非交差視差 (36.3)で刺激領域が5.2◦× 5.2◦のRDSを提示した 場合と比較すると常に潜時が短かった( 図13参照).

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図 11 anti-RDS,非相関刺激を提示したときの陰性ピー ク潜時

Fig. 11 The latencies of the negative peaks to anti-RDSs and unCRDs.

図 12 anti-RDS,非相関刺激を提示したときの陽性ピー ク潜時

Fig. 12 The latencies of the positive peaks to anti-RDSs and unCRDs.

更にanti-RDSの場合,刺激領域の大きさでは交差視 差より非交差視差の方が小さいのに,潜時では非交差 視差の方が常に短かった.このことから,VEPの潜 時差に刺激領域の大きさも影響するが,視差の符号に よる影響がより大きいと考えられる. 過去の心理実験でも交差視差と非交差視差に機能差 があることが示唆されている.Richardsは交差視差, 非交差視差いずれか一方向の視差に対して選択的な立 体視盲が生じ ると報告している[18].また他の研究に よれば ,一般に交差視差の方が非交差祖差より弁別能 図 13 交差視差,非交差視差の RDS を提示し たときの O2電極から得られた代表的波形例( 刺激領域の大 きさの影響)

Fig. 13 VEPs to RDSs of crossed and uncrossed dis-parities for subject RH, recorded at site O2. The effect of stimulus size.

力が高く,反応時間が速く,検出に必要な提示時間の しきい値が低い[19]. したがって交差視差と非交差視差では処理機構に違 いがあり,非交差視差の方が機能的に劣っていると推 定され る.機構の違いとし ては関係する視差選択性 ニューロンの数や高次知覚過程との結合様式の差など が考えられる. 5. 2 眼球運動の影響について 提示位置,視差に依存して第2,第3成分の潜時が 変化した要因として,眼球運動の影響が考えられる. 視差刺激を周辺視野に提示すると潜時が遅れる現象は, 刺激を捕捉するのに必要なサッカード 運動時間を反映 していると考えることもできる.しかし ,眼電位を計 測した限りでは実験中サッカード は確認されず,刺激 へサッカード するよう指示した場合でも眼球運動開始 時間は刺激の提示位置によって変化した.更に,同じ 位置に単眼性刺激を提示しても大きな潜時変化は生じ なかったことから,サッカード 運動が潜時遅れの原因 とは考えにくい. また,視差刺激が 提示され ると ふくそう 輻 輳性運動が 起こ り,視差を融合範囲内に調節するといわれるが,交差 視差,非交差視差の潜時の違いが輻輳と開散の運動機 構の差によって生じた可能性がある.今回の一連の実 験では刺激提示時間を700 msと十分長く設定し ,輻 輳性運動が誘発されるのを許している.実験で用いた 視差のうち±36.3はPanumの融合域よりも大きい

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ので ,実験中に輻輳性運動が 生じ ている可能性があ る.しかし,Panumの融合域以内の視差(±12.1)で も潜時差が確認できることや,同じ2種類の視差を比 較しても提示位置によって両者の潜時差が変化するこ とを考えると,潜時差に輻輳性運動が関与するとして も,眼球の運動時間ではなく,運動の発現時間が重要 であるといえる.すなわち,その要因は眼筋など 運動 機構にではなく,神経機構にあると考えられる.特に, 潜時60∼80 msと早い輻輳性運動はV1の視差選択性 ニューロンの反応と相関があるといわれており[20], 交差視差と非交差視差の潜時差の起源はV1の視差選 択性ニューロンまでさかのぼれると考える. 5. 3 anti-RDSの処理過程について 特定の視差をもつRDSに反応するV1の視差選択 性ニューロンは同じ 視差のanti-RDSを提示すると, 反応が抑制される場合があるとCumming & Parker は報告している[6].視差に依存したピーク潜時の変化 がanti-RDSの場合で逆転する現象は,Cumming & Parkerの報告をマクロ的な電気活動として確認したこ とに相当し ,anti-RDSが対応する視差選択性ニュー ロンに対し抑制的に作用することを強く示唆している 点で非常に興味深い. anti-RDSの知覚には両眼競合のメカニズムが関与 すると考えられる.そのanti-RDSに対するVEPが 視差符号に依存し て潜時変化し ,かつその視差依存 性がRDSの場合と逆転する現象はV1の視差選択性 ニューロンの応答特性と対応することから,両眼競合 の知覚過程もまた局所的な視差検出機構に基づいてい ると考えられる.両眼競合は両眼立体視と密接に関係 し(2. 4参照),anti-RDSに対するVEPもRDSと 同様な波形変化を示すことからも(4. 3. 3参照)両者 が共通の神経基盤上にあって相互作用していると考え られる. 両眼競合を両眼立体視から区別する機構としては両 眼間の非対応を検出する仕組みを仮定するのが妥当で あろう.両眼非対応の検出は2. 3で述べたように奥行 不連続部の情報を抽出するといった形で通常の両眼視 覚体験に関係すると考えられる.両眼非対応検出を行 う神経機構を考察するために,以下のモデルを用いた シミュレーション実験を行った. 5. 4 両眼エネルギーモデル V1の視差選択性ニューロンの応答を記述するモデ ルとして,両眼エネルギーモデルがOhzawaらによっ て提案されている[21].これは神経生理実験から得ら 図 14 両眼エネルギーモデル

Fig. 14 A binocular energy neuron that prefers non-zero disparity. れた視差選択性ニューロンの応答と非常によく一致す るモデルで,ニューロンの視差応答特性がanti-RDS に対し反転する現象も説明できる. 両眼エネルギーモデルの概要を図14に示す.この モデルではニューロンの受容野特性をガボール関数で 記述する(1次元空間のみを考えた場合,式(2)とな る ).xは空間あるいは網膜位置を表す連続変数,σi はガウス関数の標準偏差で窓関数のサイズ[pixel]を表 し,ωiは中心空間周波数[cycle/pixel],φはガボール 関数の位相[rad]である.左右眼の各空間位置におけ る画像の強度をそれぞれIl(x),Ir(x)とすると,左右 の単眼性ニューロンの応答(ElEr)は式(3)のよう に畳込み積分で表される.xlxrは左右眼の受容野中 心の位置[pixel]である. g(x, φ, i)= 1 32σi exp



x2 2 i



× sin(2πωix + φ) (2) El(xl, φ, i)=



Il(x)g(x− xl, φ, i)dx Er(xr, φ, i)=



Ir(x)g(x− xr, φ, i)dx (3) 視差選択性を示す両眼性ニューロン のうち,単純細 胞(Simple Cell)の出力を左右の単眼性ニューロンの 線形和( 式(4))とし ,複雑細胞(Complex Cell)の 出力を互いに 位相が 直交する二つの単純細胞の2乗 和で記述する( 式(5)).本研究では両眼間は同じガ

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ボ ール 関数の受容野特性をもち,両眼間の受容野中 心のずれが両眼視差をコーデ ィングすると仮定した. S(xl, xr, φ, i)C(xl, xr, φ, i)は視差 (xr− xl) に選 択性を示す. S(xl, xr, φ, i) = El(xl, φ, i) + Er(xr, φ, i) (4) C(xl, xr, φ, i)=S2(xl, xr, φ, i) +S2



xl, xr, φ +π 2, i



(5) 更にガボール関数の位相や空間周波数が異なる様々な ニューロンを設定し ,同一視差に対応する複雑細胞の 出力和をとる(式(6))と,繰返し演算なしでRDSに 対しても視差をほぼ正しく検出できる[22]. Out(xl, xr) = π 2



φ=0



i C(xl, xr, φ, i) (6) 5. 5 両眼エネルギーモデルによる処理結果 両眼エネルギーモデルを用いて,RDS,anti-RDS, 非相関刺激に対する視差選択性ニューロンの応答をシ ミュレートした. 画素数は50 pixel,刺激領域の 大きさは17 pixel, 視差は 交差視差で4 pixelとし た .ガ ボ ール 関数の 位相は20通り用 意し ,[0, π) の 範囲で 均等に 割り 振った .空 間 周 波 数は オ ク タ ーブ ご と に 5種 類 , 窓 関 数の 大きさは 空 間 周波 数と 反 比例に 設定し た ((σi, ωi) ={(1,14), (2,18), (4,161), (8,321), (16,641)}). 最終出力は5回の演算結果を加算平均し ,式(7)に 従って正規化した.



Out(xl, xr)= Out(xl, xr) maxxl(Out(xl, xr)) × Out(xl, xr) maxxr(Out(xl, xr)) (7) RDSに対する処理結果を図15に示す.横軸はxl, 縦軸はxr を表し ,各画素はOut(x



l, xr)の強度を示 す.中心部の視差領域で ,対応する視差に 選択的な ニューロンが大きく活動し ,正しく視差検出できてい るのが確認できる.また,anti-RDSの場合,刺激領域 の視差に選択的なニューロンだけが逆に強く抑制され る( 図16).非相関刺激では刺激領域に特定の視差が ないので,様々なニューロンが全体に活動するだけで ある( 図 17).ところが,それぞれの結果を比較する と,RDSの両眼非対応領域における視差選択性ニュー 図 15 RDSに対するシミュレーション結果 Fig. 15 The responses of binocular energy neurons to

an RDS.

図 16 anti-RDSに対するシミュレーション結果 Fig. 16 The responses of binocular energy neurons to

an anti-RDS. ロンの活動パターンと,anti-RDSや非相関刺激に対 する視差選択性ニューロンの活動パターンに共通点が あるのがわかる.いずれも,ある網膜位置に注目した 場合,特定の視差選択性ニューロンが大きく活動する のではなく,様々な視差選択性ニューロンが一様に活 動している.したがって特定の網膜位置で様々な視差 選択性ニューロンが活動した状態であれば ,その領域

(10)

図 17 unCRDに対するシミュレーション結果 Fig. 17 The responses of binocular energy neurons to

an unCRD. は両眼間で非対応であると考えられる. 5. 6 両眼非対応検出器 以上の結果から,筆者らは両眼間の非対応を検出す るメカニズムとして,図18のような両眼非対応検出 機構を提案する.この機構は各眼の各網膜位置ごとに 存在し ,対応する網膜位置で様々な視差選択性ニュー ロンが一様に活動した場合,この位置を両眼非対応領 域として検出して,両眼競合を引き起こすと考える. 他方,両眼立体視における融合過程とはある網膜位置 で特定の視差選択性ニューロンのみが大きく活動する ことであると考える. 両眼競合は視野の局所領域ごとに生じ るので,各網 膜位置ごとに両眼非対応検出機構を設定したのは適当 であろう.また,左右眼ごとに検出機構を仮定したこ とは両眼競合が主に左右眼間で生じることや(2. 4参 照 ),両眼非対応領域の知覚がその入力眼によって変 化することと対応する[12].そして提案したモデルは 近年の研究報告[15]が示唆するように,両眼性ニュー ロンに基づいて両眼競合を実現するモデルであり,同 時に両眼立体視過程をも統合的に扱えるものとなって いる.両眼非対応検出機構は共通の眼優位性コラムか ら入力を受ける視差選択性ニューロン 群で構成され , かつ同ニューロン群を抑制することで遮へい条件にお ける両眼競合の抑制[1]や視野闘争を引き起こすと考 える. 図 18 両眼非対応領域の検出機構

Fig. 18 A model for the detection mechanism of interocularly unpaired regions.

両眼非対応領域を扱った両眼立体視モデルとしては McLoughlin & Grossbergのモデル[11]が提案されて いる.しかし,彼らのモデルは両眼立体視における奥 行不連続の処理に特化した問題設定から導かれており, anti-RDSなど 両眼競合を引き起こす両眼非対応な刺 激一般の処理を念頭においていない.また,彼らのモ デルは両眼非対応領域を検出する神経基盤として単眼 性ニューロンを想定しており,両眼競合の起源は両眼 性ニューロンであるとする神経生理学的な知見[15]と 適合しない. 提案した両眼非対応検出機構を想定すると,交差視 差のanti-RDSのみが ,非交差視差のanti-RDSや非 相関刺激より潜時が遅れる傾向(4. 3. 3参照)を定性 的に説明できる.RDSを用いた実験から,交差視差 の方が非交差視差より処理能力が優れており,視差選 択性ニューロンの数や活動度に違いがあると仮定でき る(5. 1参照).非相関刺激や非交差視差のanti-RDS が提示される場合,主要な交差視差選択性ニューロン 群を含めた多数の視差選択性ニューロンが活動するが, 交差視差のanti-RDSが提示されると,主要な交差視 差選択性ニューロンが抑制されて両眼非対応の検出処

(11)

理が遅れ,潜時が長くなると解釈できる. 5. 7 両眼視機構の枠組み 以上の考察から,両眼視全体を包括した神経機構の 枠組みを提案する( 図19).両眼からの視覚入力は後 頭部に投射され ,最初に局所的な視差検出機構によっ て処理される.刺激が両眼間で対応がある場合,特定 の視差選択性ニューロンのみが活動し両眼視差が決定 するのに対し,両眼間で非対応な場合,様々な視差選 択性ニューロンが活動し 両眼非対応検出が行われる. 両眼非対応検出機構は奥行不連続の情報を抽出するこ とで両眼立体視過程と関係する.そして局所的な視差 情報や両眼非対応の情報は背側経路に沿ったより高次 な視覚領野へ送られる過程で,奥行感や両眼競合の知 覚を生成すると考えられる. 第1成分は局所的な視差検出過程を反映しているこ とが示唆された.一方,第2,第3成分は後頭部だけ でなくより前頭部領域に広がる反応であるため,それ よりは高次な視覚処理過程,例えば全体的な立体視過 程や両眼競合過程を含めた両眼視覚情報処理などを反 映していると推測されるが,本研究だけから詳細な知 覚過程との対応を明らかにすることはできなかった. また本研究では頭頂後部Pzの電極を代表として取 り上げ,後頭部O2電極のデータと比較したが,局所 的な視差検出以降の両眼視処理が頭頂後部に限定され 図 19 両眼立体視と両眼競合の神経機構の枠組み

Fig. 19 A model framework for stereoscopic depth perception and binocular rivalry.

るわけではない.頭頂後部よりも側頭後部の役割を強 調する研究もある[17].

6. む す び

RDS提示時のVEPを計測し ,そのピ ーク潜時が 刺激の提示位置,視差量,両眼画像間の相関の有無に よって大きく変化することを明らかにした.実験結果 から,両眼競合と両眼立体視は局所的な視差検出機構 を共通の神経基盤としており,両者を区別する機構と して両眼非対応検出機構があると考察された.そして 視差選択性ニューロンの応答を両眼エネルギーモデル でシミュレートした結果をもとに,各網膜位置で様々 な視差選択性ニューロンが活動した場合,その位置を 両眼非対応領域として検出する機構を提案した. 文 献

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図 1 実 験 装 置 Fig. 1 The experimental system.
Fig. 4 The latencies of the negative peaks to RDSs and monocular-cue stimuli.
図 7 交差視差,非交差視差の RDS を提示したときの陰 性ピーク潜時
図 9 anti-RDS の例 Fig. 9 An example of anti-RDS.
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参照

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