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施設整備プロセスからみた小中一貫校の建築計画的課題 -品川区の施設一体型小中一貫校を対象に- [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)施設整備プロセスからみた小中一貫校の建築計画的課題 ー品川区の施設一体型小中一貫校を対象にー. 中原 千尋 1. 研究の背景と目的 近年、系統的で質の高い義務教育の実施を目的とし て小中一貫教育を導入する自治体が増加傾向にあり、 より一体的な運営や老朽校舎の改善等の目的から、多 くの自治体が施設一体型小中一貫校の整備を進めてい る。しかしながら、施設計画に関する具体的な指針は 示されておらず、各自治体は試行錯誤を重ねながら手 探りで施設整備を進めているのが現状である。 そこで本研究では、教育課程編成と施設整備の両面 において先進的な取り組みを行っている品川区の複数 の新設施設一体型小中一貫校の整備事例を対象とし て、その計画設計プロセスを把握する。それらの分析 を通して、今後の施設計画の指針となる知見を得るこ とを目的とする。本報では特に、平面計画の変遷と設 計変更の要因に着目し、施設一体型小中一貫校の計画 課題について考察を行う。 2. 研究方法 2-1. 調査対象校 品川区では、2006 年度に全国初の公立小中一貫校 として日野学園が整備された。その後、一体型校舎で の工夫や課題を次の計画に反映させながら整備を進 め、現在までに5校の施設一体型小中一貫校を整備し ている。本研究では、新設校4校(日野学園、伊藤学園、 荏原平塚学園、品川学園)を調査対象校とした。各調 査対象校の概要を図1に示す。 2-2. 調査方法 調査概要を表1に示す。まず、プロポーザル案、基 本設計、実施設計の各段階の図面から平面計画の変遷 を把握した。その後、品川区教育委員会と設計を担当 した各設計事務所を対象にヒアリング調査を行い、各 学校の計画条件や設計意図、平面計画に関する設計変 更の内容、時期、要因等を把握し、分析を行った。. 表 1. 調査概要. 図 1. 調査対象校の概要 調査概要. 調査. 調査時期. 資料調査①. 2011年 9 月 品川区小中一貫教育要領等から品川区が行う小中一貫教育の概要を整理した。. 資料調査②. 2011年 9 月 調査対象校の施設台帳、図面を収集し、平面計画の特徴を把握した。. 資料調査③. 2011年11月. 各学校の設計を担当した設計事務所から、プロポーザル提案、基本設計、 実施設計の各段階の図面を収集し、平面計画の変遷過程を把握した。. ヒアリング調査① 2011年11月. 品川区教育委員会の施設整備計画の担当者へのヒアリング調査から、各調査 対象校の施設整備方針を把握した。. 3. 品川区の小中一貫教育. ヒアリング調査② 2011年11月. 各調査対象校の設計担当者へのヒアリング調査から、平面計画における設計 変更とその時期や要因を把握した。. 3-1. 小中一貫教育課程. は学級担任制、中・高学団は教科担任制を行っている。. 教育課程編成においては小中の区別を完全に無く. 3-2. 施設整備の方針. し、全9学年を1〜4学年、5〜7学年、8〜9学年. 教育委員会へのヒアリング調査から、施設整備の方. のまとまりで低学団、中学団、高学団のブロックに分. 針や手順を把握した。設計者は全校においてプロポー. ける4−3−2制の教育区分を採用している。低学団. ザル方式で選定されるが、提案前に教育委員会からの. 31-1.

(2) 現地説明会が行われ、担当者が過去の施設整備を踏ま. さらに、地域開放されることとなったため、受付ロビー. えての課題や要望を設計者に伝える機会が設けられ. 等が地域開放棟5階に新たに配置された(図 3)。. た。なお、品川区では諸室面積表の作成も設計者の業. 4-3. 荏原平塚学園 地域住民の強い要望により、建替以前のグラウンド. 務として委託されている。 4. 各学校施設の計画設計プロセス. 面積を維持することが求められ、配置計画に大きな影. 4-1. 日野学園. 響を与えた。また、近隣住宅地への日影の影響を考慮. 狭小な敷地において総合体育館との複合が求められ. して北側壁面を階段状に後退させている。. た。また、地区計画により校地内に歩道を通す必要が. なお、基本設計段階において幼保施設との複合化が. あったため、防犯の目的で2階レベルの人工地盤上に. 決定して大幅な設計変更が行われたが、実施設計段階. グラウンドを配置することを設計者が提案し、採用さ. において複合化が中止となったため、再び大掛かりな. れた。最初の施設整備であり、基本設計段階では細や. 設計変更が行われることとなった(図 4)。. かな配置や室数、面積の変更が多数回行われた(図 2)。. 4-4. 品川学園 プロポーザル段階から幼保施設との複合化が求めら. 4-2. 伊藤学園 同時期に設計が進められたことから、日野学園を参. れ、道路を挟んだ隣接敷地に配置された。また、基本. 考としている部分が多く、類似した平面構成となって. 設計段階に地域住民の要望により屋内温水プールの地. いる。但し、伊藤学園においては総合体育館との複合. 域開放が決定したため、校舎棟の4階から幼保施設棟. 化は行われなかったため、人工地盤の非設置等、日野. の1階にプールの配置変更が行われることとなった。. 学園と異なる部分もみられる。. また、先に開校した日野学園と伊藤学園の状況から. また、設計開始当初は屋外プールの計画であったが、. 児童・生徒数が増加することが予想されたため、行政. 全9学年の授業時間数確保のためには利用可能期間を. の要望によりオープン形式であった複数の特別活動室. 延長する必要があり、屋内温水プールに変更された。. が CR と同じ造りに変更された(図 5)。. 図 2. 日野学園の計画設計プロセス. 図 3. 伊藤学園の計画設計プロセス. 図 4. 荏原平塚学園の計画設計プロセス. 図 5. 品川学園の計画設計プロセス. 31-2.

(3) 各学校の計画設計プロセスを比較すると、日野学園. 学団 CR を同階に配置している。加えて、中学団 OS に. と伊藤学園においては殆ど見られなかった実施設計、. おける学団内の交流促進するため、各 CR との連続性. 施工段階での設計変更が、荏原平塚学園と品川学園で. を高める等の工夫を行っている。. は増加していることがわかる。これは、日野学園と伊. 5-3. 特別教室. 藤学園の利用開始後に判明した課題が教育委員会の要. 4層に渡って配置される CR からの移動を考慮し、. 望により随時設計に反映されたためと考えられる。. 特別教室(以下 SCR)は低学団と中・高学団それぞれ. 5. 全校を通してみた計画の変遷. に用意されている。一方で、教育委員会は小中一体型. 5-1. アプローチ空間. 校舎の利点を活かしたコンパクト化を要望しており、. 日野学園設計者は、9学年の児童・生徒が集中する. 準備室の面積削減や家庭科室の共用化が行われた。. ことによる危険防止と混雑解消を目的として、低学団. また、学習室や講義室等、多目的利用を想定した多. は分散昇降口、中・高学団は集中昇降口という形式を. 様な規模の室が複数配置されており、施設整備が進む. 提案し、この考え方はその後の学校にも継承された。. につれてその室数が増加している。. 一方、全校において昇降口のコンパクト化が課題とさ. 5-4. 管理諸室 校務センターは、教育委員会の要望により全校で小. れ、保健室等のグラウンドに面する必要のある諸室と の調整も合わせて多くの設計変更が見られた。. 中一体型が採用された。日野学園と伊藤学園で、児童・. 5-2. 普通教室とオープンスペース. 生徒数の増加に伴い教師数も増加したため、品川学園. 日野学園と伊藤学園の計画当時は、小中一貫教育. で校務センター面積を拡大する設計変更が行われた。. に適する学習空間を模索している段階であったため、. 保健室は、教育委員会の要望により全校で小中一体. 様々な学習形態に対応できるフレキシブルな学習空間. 型となっている。室内の計画には2つの方針があり、. が求められた。そこで、全学年共通で CR に面して広. 管理面を重視したワンルーム形式とするか、児童・生. いオープンスペース(以下 OS)を配置し、その間に可. 徒の心理状態やプライバシーに配慮して間仕切りを設. 動間仕切りを配置する形となった。しかし、開校後に. 置するかの検討と設計変更が繰り返された(図 6)。. OS の利用が促進されなかったことから、その後計画. 6. 小中一貫校の空間計画. された荏原平塚学園と品川学園においては OS の面積. 6-1. 高層校舎と動線計画. を CR 内に取り込み、学齢段階毎に特徴ある学習空間 を計画する方針に転換することとなった。. 小中一貫校は都市部に立地する場合、限られた敷地 に小・中学校を配置するため、校舎が高層化する傾向. また、教育委員会は小・中学校の円滑な接続のため. にある。このことから、上下階の垂直移動の負担を考. に中学団の生活空間を重視しており、全校において中. 慮して、少ない移動で日常生活が完結するような動線. 図 6. 全校を通してみた計画設計プロセス. 31-3.

(4) 計画が重要である。 また、特に登下校時に児童・生徒が集中することに よる危険防止、混雑解消のために昇降口や階段の計画 も重要となるが、調査対象校でも昇降口の分散化や階 段の複数配置等、様々な工夫がされていた ( 図 7)。さ らに、外部から直接出入り可能な CR 毎玄関や昇降口 の分散配置は各昇降口面積の縮小につながり、保健室 等のグラウンド階配置が可能となる点でも有効である と考えられる。 6-2. 学団ユニット 教育区分毎に特色のある小中一貫教育課程の有効性 を高めるために、各教育区分において実践される学習 形態に適した学習空間の計画が求められる(図 8)。特 に、小・中学校の円滑な接続のためには中学団の交流 が重要であり、中学団 OS は日常的な異学年交流の場 としての役割が大きくなると考えられる。 また、施設一体型小中一貫校では児童・生徒は9年. 図 7. 調査対象校のアプローチ空間. 間継続して同一校舎を利用することになるが、学団毎 に特徴的な生活空間は、学団の移行という節目におい て児童・生徒に成長の自覚を促す点からも有効である。 6-3. 特別教室 SCR の小中共有による高機能化やコンパクト化は、 施設一体型小中一貫校の利点の一つである。しかし、 高層校舎においては上下階の垂直移動の負担が大きく なるため、本格的な小中共用化を進める事例は多くな い。調査対象校においても家庭科室と視聴覚室の共有 に留まっており、SCR の小中共用化には慎重な検討が 必要であると言える。また、多様な学習展開に対応す るため、科目に関わらない多目的利用が可能な SCR の 配置も有効である。様々な規模の室を複数用意し、主 に利用する中・高学団の CR 付近に配置することが望. 図 8. 学団ユニットの計画. 7. まとめ. ましい。これらの室は学級数増加により SCR の利用調. 本研究では施設整備プロセスの分析から、1) 危険防. 整が困難となった場合に、特定科目での代用や補助的. 止と混雑解消のために昇降口の分散化や階段の数、配. な利用が可能なことからも有効であると考えられる。. 置の検討が重要なこと、2) 教育区分毎に特徴ある学習. 6-4. 管理諸室の拠点化. 空間は小中一貫教育の有効性を高め、児童・生徒に成. 小中一貫教育においては小・中学校教師の協働が不. 長の自覚を促す点でも有効なこと、3)SCR の小中共用. 可欠であり、校務センターや会議室、保健室等の管理. 化は垂直移動の負担を考慮した慎重な検討が必要なこ. 諸室は小中一体型が望ましい。調査対象校の計画内容. と、4) 多目的に利用可能な SCR の配置は柔軟な学習展. や設計プロセスからも明らかなように、1カ所に集約. 開や SCR の利用調整を容易にすること、5) 小中一体型. して高機能化を図ることで各室の拠点性強化に繋がる. の管理諸室は教師の恊働促進と拠点性強化に繋がるこ. が、小中一貫校では教師数が多く、公務分掌組織も複. とが明らかになった。今後は、計画設計意図と各学校. 雑となることから、面積や配置に関する十分な検討. の利用実態との比較を通して考察を行う必要がある。. が必要である。また、各 CR からの移動距離を考慮し、. 謝辞 本研究を行うにあたり、品川区教育委員会と各調査対象校の設計を担当された設計事務所の方々に多 大なご協力をいただきました。記して心より感謝申し上げます。. 校務センターを中間階に配置したり、CR 付近に教師 コーナーを設置する等、柔軟な計画を行う必要がある。. 参考文献 1)「品川区学校改築計画指針」 品川区教育委員会,2002 年 5 月 2) 八木真爾 ( 佐藤総合計画 )、長井厚「品川区における小中一貫校の一連の施設整備について (1),(2)」日 本建築学会大会学術講演梗概集 ( 関東 ),2011 年 8 月. 31-4.

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