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研 究
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特別支援学校において医療的ケアに従事する看護師の ストレスについての検討
一日本語版NIOSH職業性ストレス調査票を用いて一
空田 朋子1),林 隆2)
〔論文要旨〕
医療的ケアを実践している特別支援学校の看護師を対象に,日本語版NIOSH:職業性ストレス調査票 を用いて医療的ケア業務上のストレスについて調査を行った。医療的ケア実施形態別2群による看護師 のストレスを比較すると,「労働負荷の変動」で2群間に有意差が認められ,「教員・看護師協働型」群 の看護師が「看護師主動型」群よりストレスの高い値を示した。看護師配置人数別2群の比較では,「役 割葛藤」,「役割曖昧さ」,「量的労働負荷」,「労働負荷の変動」,「仕事のコントロール」,「グループ問対
人葛藤」の6つの尺度で2群間1には有意差があり,「看護師2人以上配置」群の看護師が「看護師1人配置」
群よりストレスの高い値を示した。「教員・看護師協働型」群の看護師は,仕事の負荷が変動すること に対してストレスを感じている傾向がうかがえた。「看護師2人以上配置」群の看護師は,看護師が複 数配置されているが労働負荷が大きいと感じており,学校への看護師の配置数不足が推測された。また,
学校に複数の看護師がいることで,看護専門職グループが実質的に成立し,看護師と教職員の間で葛藤 が生じやすく,看護専門職としての「役割」におけるストレスを強く感じていると考えられた。
Key words:特別支援学校,ストレス,看護師,学校における医療的ケア,専門職としての役割
Lはじめに
医療的ケアの必要な子どもたちの健康で安全 な学校生活を保障するために,平成10年から文 部科学省は厚生労働省と共同し実践研究やモデ ル事業を進めてきた。その結果,平成17年より 本格的に全都道府県の盲・聾・養護学校(現在 の特別支援学校)へ看護師配置や派遣が実施さ れている。また,学校で行われる医療的ケアの 法的な問題については,平成16年10月,文部科 学省から,看護師が盲・聾・養護学校に配置さ れていることを前提に,研修を受けた教員が医
療的ケアを行うことが許容される標準的範囲が 示され1>,医療的ケアを必要とする子どもたち への支援は「看護師と教員の協働体制で行う」
という方向性が示された。平成17年文部科学省 の「盲・聾・養護学校における医療的ケア実施 体制整備状況に関する調査」によると,盲・聾 養護学校に在籍する者のうち6%が医療的ケア を必要とする児童生徒であり,看護師配置校数 は330校で597人の看護師が配置されていると報
告されている2)。
上記のように医療的ケアの子どもたちの支援 体制の検討や法解釈が進み,学校への看護師配
A Study of the Job Stress of Nurses Engaging in “Medical Care” in the Special Support School by Using the Niosh of Japanese Version
Tomoko SoRATA, Takashi HAyAsHi
1)山口県立大学看護栄養学部看護学科(教育・研究職/看護師)
2)山口県立大学看護栄養学部看護学科(教育・研究職/小児科医)
別刷請求先=堅田朋子 山口県立大学看護栄養学部看護学科 〒753-8502山口県山口市宮野下 Te1:083-933一ユ450 Fax:083-933-1483
(2084)
受付08.11。5
採用09,6.23
置が増加する中で,看護師の取り組み状況につ いての実践報告や,教員と看護師との各職種間 の連携・役割分担の課題についての研究が散見 されるようになり,養護学校で働く看護師の実 態や看護師が抱える課題も浮き彫りになってき ている3~8)。下山は「医療的ケアを必要とする 児童生徒の数に対して看護師数が十分ではなく 看護獅の確保や看護師の雇用形態,勤務条件そ して看護師配置人数などの課題も多い」と報告 している2)。さらに,配置されている看護師は 非常勤職員が多く,教員との情報交換や会議等 への参加のための時間が確保しにくい,勤務条 件等から雇用期間が短くなりやすいなどの課題 があることも報告している2)。また勝田は総説 的な実践報告資料の中で,一人(少数)配置さ れた看護師が,悩みが生じても孤独で解決の糸 口さえ見つからず,他職種間の葛藤やケア面で の不安などで辞めてしまうということも多くあ り,現場では看護師が続かないという悩みを抱 えていることを示した4)。そして,学校での医 療的ケアの実施形態は,看護師や教員・養護教 諭が連携して行う場合や看護師のみが主に行う 場合などさまざまな形態をとっているのが現状 である2)。教育現場に配置された看護師は,新 しい取り組みの中でさまざまな職場環境に置か れており,戸惑いや何かしらの困難を感じてい ると考えられる。実践研究やモデル事業の結果 から文部科学省は,教員と看護師との連i携協働 体制の確立の必要性を示しているが,今後の医 療的ケア実施体制を円滑に進めていくために は,教職員への支援だけでなく,学校で医療的 ケアに従事する看護師の負担と支援ニーズを明 らかにしていくことが重要である。教育現場に 配置された看護師の課題が少しずつ明らかに なってきているが,看護師への支援の視点から の調査はあまり見られない。今回,学校で医療 的ケアに従事する看護師の支援を検討するため に,学校での医療法ケア実施形態の違いや看護 師の雇用形態・配置人数の違いに着目して,医 療的ケアに従事する看護師の医療的ケア業務上 におけるストレスの特徴を明らかにするために 調査を行った。
皿.用語の定義
本研究は,学校で医療的ケアに従事している 看護師の医療的ケア業務に関するストレスにつ いて調査を行うため,ここで使用する「ストレ ス」とは「医療的ケア業務によるストレス」と 限定する。
本研究で示すストレスとは,米国国立職業 安全保健研究所(Nationa11nstitute for Oc-
cupational Safety and Health:NIOS且,以下 NIOS且とする)による職業性ストレスの定義
を引用し,「仕事の心理的または社会的な特徴 や環境によっておきる身体的精神的反応のこと であり,特に健康に影響を与える可能性がある
もの」9)とする。
皿.研究方法
1.対象および方法
看護師を導入した医療的ケアを実践している と公開している全国286校の特別支援:学校の学 校長にまず研究協力を依頼した。研究協力依頼 心とともに,参加協力の諾否を確認する返信用 葉書を送付し,協力を得られる場合は,その葉 書に協力が可能な看護獅の人数を担当者から記 載してもらうようお願いした。依頼した286校 のうち,168校から研究協力を得ることができ た。対象者は168の研究協力校で働いている看 護師342名とした。調査方法は,研究協力校の 担当者に研究依頼書を添付した調査票と返信用 封筒を送付し,対象者へ配布してもらい,対象 者は記入後,対象者自身が個別に研究者へ返送 する自記式郵送法とした。調査期間は平成19年
1月~2月であった。
2.調査の内容
調査の内容は,(1)対象者の背景,(2)日本語
版NIOSH職業性ストレス調査票99項目とし
た。本研究で使用した日本語版N工OSH職業性
ストレス調査票は,米国国立職業安全保健研究
所(NIOSH)の職業性ストレスモデルに基づ
いて作成された職業性ストレス調査票を原谷ら
が翻訳した日本語版の調査票である10)。原谷ら
の研究によると,日本語版NIOSH職業性スト
レス調査票は,信頼1生は比較的高く,因子分析
による因子構造は尺度の内容を反映していた。
そして,1万人を超える大規模調査における各 尺度のα信頼性係数は概ね良好であり,長期間 の聞隔で再測定を行った場合の結果の安定性も 比較的高く,職業性ストレスの職種による差異 などの測定にも有効であったと報告されてい
る11“一13)。
本研究ではこの日本語版NIOSH職業性スト レス調査票の中から推奨版の11尺度下位項目数 99項目を選択し使用した。調査票の内容を表1
に示す。仕事のストレッサー尺度として,「役 割葛藤」,「役割曖昧さ」,「量的労働負荷」,「労 働負荷の変動」,「仕事のコントロール」,「技術 の低活用」,「グループ内対人葛藤」,「グループ 間対人葛藤」がある。ここで示す「グループ」
の定義として,「同じグループ」は「看護師」
とし,「他のグループ」を「看護師以外の医療 的ケアに関わる学校教職員」と指定した。緩和 要因尺度として「社会的1支援」がある。ストレ ス反応尺度として,「抑うつ」,「職務満足感」
がある。
調査票の評価方法は,尺度を構成する下位項 目の質問の回答の得点を合計し尺度得点を算出 する。仕事の役割に関する尺度「役割葛藤」8 項目と「役割曖:昧さ」6項目は,7件法で尋ね ており,尺度の合計得点は「役割葛藤」は最低
表1 日本語版NIOSH職業性スト1/ス調査票99項目
@ 尺度名 項目数
・ストレッサー
役割葛藤 8
役割曖昧さ 6
量的労働負荷 11
労働負荷の変動 3
仕事のコントロール 16
技術の低活用 3
グループ内対人葛藤 8
グループ間対人葛藤 8
・緩和要因
社会的支援
上2・ストレス反応
抑うつ 20
職務満足感 4
8点から最高56点までの範囲となり,「役割曖 昧さ」は最低6点から最高42点までの範囲とな
る。仕事量の多さに関する尺度「量的労働負荷」
11項目は,5件法で尋ねており得点は最低11点 から最高55点までの範囲である。仕事の負荷や 集中度スピードが著しく増えることなど仕事 の変動を示す尺度「労働負荷の変動」3項目は
5件法で尋ねており,得点は最低3点から最高 15点の範囲である。仕事上の影響力(裁量権)
に関する「仕事のコントロール」16項目は,5 件法で尋ねており,得点は最低16点から最高80 点までの範囲である。自分の身につけている経 験や知識・技能を職場で活かす機会が少ないこ とに関する「技術の低活用」3項目は5件法で 尋ねており,得点は最低5点から最高15点の範 囲である。仕事における対人葛藤を問う「グルー プ内対人葛藤」8項目と「グループ間対人葛藤」
8項目は,5件法で尋ねており,それぞれ最低 5点から最高40点までの範囲である。緩和要因 尺度としての,上司・同僚・家族からの支援を 含む尺度「社会的支援」12項目は,5件法で尋 ねており,得点は最低5点から最高60点までの 範囲である。ストレス反応尺度としての「抑う つ」20項目は,4件法で尋ねており,得点は最 低0点から最高60点までの範囲であり,「職務 満足感」4項目は,3件法および4件法で尋ね ており,得点は最低4点から最高13点までの範 囲がある。調査票の尺度は,ストレスを強く認 識しているほど高い得点を示すことになる。し かし,「仕事のコントロール」,「社会的支援」,「職 務満足感」の3つの尺度は逆転項目であり,スト レスを強く認識しているほど低い得点を示す10>。
3.分析方法
有効回答の得られた278名(回答率81.2%)
を分析対象とした。日本語版NIOSH職業性ス トレス調査票によるストレス評価を、.対象者の 背景別に,1)医療的ケア実施形態別,2)雇用 形態別,3)看護師配置人数別の3つの視点に 着目して分析した。
1)医療的ケア実施形態別
医療的ケアの実施形態については,丸山らの
先行研究8)から引用・改変した実施形態の分類
を使用した。看護師が他職種(教員や養護教諭)
と協働して医療的ケアに対応する実施形態を
「教員・看護師協働型」,そして,看護師のみが 主に医療的ケアに対応する実施形態を「看護師 主動型」と定義して対象者を2群に分類した。
2)雇用形態別
対象者の勤務形態の回答から「常勤」と「非 常勤」の2群に分類した。
3)看護師配置人数別
一人(少数)配置された看護師が葛藤や不 安などで辞めてしまうという実態報告4)を踏ま え,学校に配置される看護師総数に着目し対象 者を分類した。学校に配置される看護師総数が 1人だけの:場合を「看護師1人配置」とし,そ れ以上の看護師配置人数の場合を「看護師2人 以上配置」と定義して対象者を2群に分類した。
4)統計解析
対象者を,1)医療的ケア実施形態別,2)雇 用形態別,3)看護師配置人数別において,そ れぞれ2群に分けて看護師のストレスの特徴を 分析した。2二間の各尺度の平均値の比較には t検定を用いた。すべての有意水準は5%と した。統計処理および分析にはSPSS日本語版 Ver12.Ofor Windowsを用いた。
4,倫理的配慮
対象者へ書面により,調査票は無記名であり データは統計処理を行い個入は特定できないこ と,研究目的以外で使用しないこと,学会等 で発表することについて明記し説明を行った。
個々の対象者からの調査票の返送により同意が 得られたものとみなした。
lV.結 果 1.看護師の背景(表2)
学校における医療的ケア実施形態は,教員・
看護i師協働型と回答したのは141名(51.6%),
看護師主動型と回答したのは132名(48.4%)
であった。
雇用形態は,常勤43名(15.5%),非常勤196 名(70.5%)で,その他の雇用形態として,訪 問看護ステーション派遣14名(5%)委託等が 25名(9%)であった。
対象者が勤務する学校で働く看護師の配置人 数は,学校に看護師が1人だけ配置されている
表2 看護師の背景
N(%).
教員・看護師協働型 141(51.6)
医療的ケア
タ施形態 看護師主動型 132(48,4)
常勤 43(15.5)
雇用形態 非常勤 196(70.5)
その他(訪問看護ステーション
h遣,委託等) 39(14)
看護師1人配置/校 42(16.1)
看護師配置
l数/校 雇師・人以上配置/校
219(83.9)
N一一278
「看護師1人配置」と回答したのは42名(16.1%)
で,2人以上配置されている「看護師2人以上 配置」と回答した対象者は219名(83,9回目であっ たQ
2.日本語版NIOSH職業性ストレス調査票による 看護師のストレス評価(表3)
1)医療的ケア実施形態別のストレス評価
医療的ケア実施形態別に「教員・看護師協働 型」と「看護師主動型」の2群に分けて日本語 版MOSH職業性ストレス調査票の各尺度の得 点の平均値を比較した。
ストレッサー尺度の中で,仕事の変動を示す
「労働負荷の変動」に関して2群間で有意差が 認められ,「教員・看護師協働型」群のほうが「看 護師主動型」群よりストレスの高い値を示した。
その他の尺度には有意差は認められなかった。
2)雇用形態別のストレス評価
雇用形態別の「常勤」と「非常勤」の2群に 分けて,日本語版NIOSH職業性ストレス調査 票の各尺度の得点の平均値を比較した。すべて の尺度において「常勤」と「非常勤」の2三間 には:有意差がなく,常勤看護師と非常勤看護師 ではストレスの差は認められなかった。
3)看護師配置人数別のストレス評価
看護師配置人数別の「看護i師1人配置」と「看 護師2人以上配置」の2群に分けて,日本語版 NIOSH職業性ストレス調査票の各尺度の得点 の平均値を比較した。
仕事の役割に関する「役割葛藤」,「役割曖昧
さ」,他職種(教職員)との問に感じる「グルー
プ問対人葛藤」について2群問には有意差があ
表3 看護師の医療的ケア実施形態別・雇用形態別・看護師配置人数別の日本語版NIOSH尺度得点の比較
得点の平均値 得点の平均値 得点の平均値
尺度
医療的ケア実施形態別2群 雇用形態別2群 看護師配置人数別2群 教員・看護師
@協働型
@n=141
看護師 蜩ョ型 氏≠P32
P値 常勤 氏≠S3
非常勤 氏≠P96
P値
1人配置 氏≠S2
2入以上配置
@n=219 P値
役割葛藤 24.39 22.92 n.S 26.30 23.33 n.S 21.40 24.52
串
役割曖昧さ 17.43 17.08 n.S 16.93 17.77 n.S 14.67 17.89
**量的労働負荷 31.68 29.88 n.S 31.03 31.05 n.S 28.60 31.53
*労働負荷の変動 7.52 6.67
*
7.12 7.15 n.S 6.14 7.30
*
仕事のコントロール 44.46 46.45 n.S 48.48 45.64 n.S 49.05 44.58
*
技術の低活用 8.74 8.89 n.S 8.58 8.67 n.S 8.95 8.75 n.S
グループ内対人葛藤 15.09 14.04 n.S 15.26 14.41 n,S 『 一 一
グループ間対人葛藤 16.15 15.36 n.S 15.43 15.52 n。S 13.50 16.23
*