第66巻 第 2号 ,2007 ( 2 3 1 〜2 3 3 )
学校の安全 と環境 ワークショップ 2
I . は じ め に
思春期の心理社会的発達課題 を達成するうえ で,安 定 した学校生活でさまざまな体験 をする ことは欠かせ ない。慢性疾患 を有する患児が, 適切な体調管理 を行いつつ,仲 間とのかかわ り を とお して 自己実現す ることが可能 な学校 と は,い ったい どのような学校であろうか。
慢性疾患患児の安全な学校生活 を保障するう えで,「身体的な安全」お よび 「′亡ヽ理社会的な 安全」の保障が課題であろう。前者 は,「体調 の維持 ・管理」がその対象 となるであろう。後 者 は,「安全で信頼で きる環境のなかで,自 尊 感情 をは ぐくみ, 自己実現 をめざす こと」,「身 体的な課題か らくる 二次的な障害"を
予防す る視点」が対象 として考えられる。
慢性の疾患 を抱 えた患児が学校 とい う環境の なかで,病気 を理解 し,身体管理 を中心にサポー トをして くれる拠 り所 として養護教論の呆たす 役割は大 きい。
本論 は,養 護教諭 を対象に行 った,慢 性の疾 患 を有する患児 を取 り巻 く学校環境の現状 と課 題 に関する調査結果 を中心 に,患 児が安全な学 校生活 をお くるための要件 について検討するこ
とを目的 とする。
Ⅱ.質 問紙調査の分析
HttH市 お よびK市 内で,本 研究の主旨に賛 同 し,協 力が得 られた58名の養護教諭 の調査 データを分析対象 とした。養護教諭の所属の内 訳は,小 学校26名,中 学校13名,高 等学校19名 で,す べて女性であった。
慢性疾患患児 を取 り巻 く学校環境 の現状 と課題
―米国でみた糖尿病患児への支援事例 を含めて考 える一
片 山 美 香 ( 岡山大学教育学者6 幼児教育講座)
印象 に残 っている慢性疾患患児 の一事例 につ いて想定 して もらい,そ の事例 について回答 を 求めた (表1)。
養護教諭 が相 談 を受 けた相 手 と して最 も多 く 挙 げたの は 「担任教 師」で36.8%,次 いで 「保 護者」 で26.3%,3番 目が 「本人」 で20.0%で あ った。
さ らに,養護教諭が相談 を受 けた相手 ごとに, 相 談 内容 に関す る 自由記 述 を分類 した ところ, 患児 は養護教諭 に病気 に関す ることを多 く相談 し,保 護者 は緊急時の対応 を非常 に気 に して養 護教諭 に相談 していた。 また,担 任 を含 む教 師 は,行 事へ の参加 の仕方 を検討す るための情報 源 を求 めて養護教諭 に相談 してい ることが示 さ れた。
患児 の学校生活 にお ける心理社会 的適応上の 問題 につ いて質問 した結果,「友 だちの 目を過 度 に気 にす る傾 向」 や 「活 動 の制 限が あ るた め,何 をや って もダメだ と無気力 にな りやすい こと」,「自己主張が苦手であること」,「消極 的
表 1 養 護教諭が印象に残ったケースとして挙げた 患児の病名一覧
人数 (%) 糖尿病
てんか ん が ん 低 身長
筋 ジス トロフィー ぜ んそ く その他 病名記載 な し
20 (345) 15 (25.9)
5 ( 8 . 6 ) 4 ( 6 . 9 ) 3 ( 5 2 ) 2 ( 3 4 ) 7 ( 1 2 . 1 ) 2 ( 3 . 4 ) 58 (100) 岡山大学教育学部幼児教育講座 〒 7 0 0 8 5 3 0 岡 山県 岡山市津 島中3 1 1
E―mail:[email protected]― u.ac.Jp
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であること」など,患 児 と他の児童 ・生徒 との かかわ りのあ り方への配慮や具体的な支援の必 要性 を認識 していることが うかがわれた。
一方,患 児をめぐる校内の連携体制について 4段 階評定を求めたところ,平 均評定値は3.05 (SD=0.62)と 比較的良好な体制であると捉 え ている結果 となった。 自由記述の内容か ら,「患 児の病気に関する事実の共有」に連携の焦点が あてられていることが明 らかになった。
慢性疾患患児 を支援 してい くうえでの養護教 諭の不安度について 4段 階評定 を求めた結果, 平均 評 定値 は2.76(SD=0.67)と ,「やや不 安」 に近い意識 をもっていることが示 された。
「患児 と病気のことについて話す程度」 との関 連について検討 した結果,有 意な弱い負の相関 が認め られた (″=一 .293,p<.o5)。 患児 自 身と病気 についてよく話す ことが支援上の不安 を低 めることにつながっていた。 また,「校内 体制 における連携度」 との関連 について検討 した結果,有 意 な弱い負 の相 関が認め られた (″=一 。378,p<.ol)。 校内の連携体制が整っ ていると,養 護教諭が安心 して患児の支援 を行 えるといえよう。
現在の学校環境における慢性疾患患児への心 理社会的支援上の課題 として,患 児本人に対 し ては,① 自信 をもたせるよう本人ができること を最大限にさせる,② 病気であることを過度に 意識 させないようにする等の 4点 にまとめ られ た。患児の親については,① 親 自身の不安や葛 藤 を受け入れる,② 親の学校 に対する要望 と学 校 として実際にで きることとの妥協点 をみいだ すためのサポー トを行 うことの 2点 にまとめ ら れた。他の児童 ・生徒 については,必 要に応 じ て緊急時の患児への対応 を含めて,病 気への理 解 を深めさせること (一見健康 な児童 ・生徒 と 変わらないようにみえる患児が,体 育などの き つい練習を見学 した り軽減された りすることに 対する中傷防止 も含め)に まとめられた。教職 員については,患 児への理解 と対応について共 通認識 をもつ よう理解 を促すことにまとめ られ た。
さらに,質 問紙調査の対象者のうち,面 接調 査への協力 を得た養護教諭か らは,小 学校では 患児への直接的な支援ではな く,保 護者 を介す
小 児 保 健 研 究
る こ とが多い ものの,患 児 の年齢 の上昇 ととも に患児 自身へ の はた らきか けの重要性 が増す, つ ま り患児の発達 に応 じた支援 の工夫 の必要性 が示唆 された。
実際の学校現場 にお け る養護教諭 を と りま く 状 況 としては,医 療 的ケアを求め られ る場合 の 無力感や,時 間的問題か ら十分 な個別対応がで きない こ とへ の不全感,医 療 的 な知識や技術 の 不足 を感 じる とい った限界感 を抱 く養護教論の 存在 が挙 げ られた。慢性疾患患児 の安全 な学校 生活 を保障す るためには,患 児 の医療面 に関す る校 内での唯一の理解者 であ り,重 要 な支援者 で もある養護教諭が十分 に機能で きるための整 備 が急務 であることを再認識 した調査結果で も あ った。
こうした 日本 の慢性疾患患児 をめ ぐる学校環 境 と対 比 して,米 国 ワシ ン トン州 にあ る人 口 約 4万 人 の造船 工 業都 市 であ る Bremerton市 の Bremerton学 区12校を受 け もってい る 3名 のス クールナースの実践 を紹介す る。 ここのス クールナースは,1校 につ き週 1回 勤務が原則 で,医療 の専 門職者 と しての意識 を もっていた。
児童 ・生徒へ の必要 な医療 的ケア,健 康教育 を 担 うことがその役割であ った。 日本の保健室 に あた る Health roomには,Health rOom assist―
antが 存在 し,勤 務 日外 のス クールナース に連 絡 を とる役割 を担 つていた。 I型 糖尿病の患児 を支援す るス クールナースの役割 としては,患 児 の医療 情報 を満 載 した個 人 フ ァイルの作 成, 患児 に直接 かかわ り,血 糖値測定や,イ ンシュ リン注射 な どの医療 的なスキル を教育的 に支援 していた。 また,担 任教 師な どに対 しては,適 宜 ,医 療 の専 門家 と しての指導 ・助 言 を行 い, かかわ りのポイ ン トを周知徹底 していた。遊 び 時 間の ボラ ンテ ィアの監視員用 に写真票 を作成 し,要 配慮児童 。生徒 の注意事項 を列記 し,緊 急 時 の対応 を徹底 してい るこ とが注 目され た。
また,非 常勤職ゆえに連絡が滞 らない ように携 帯電話 を保持 し,適 宜,対 応 し,指 示が出せ る ような体制が作 られていた。保護者 に対 しては, ス クールナース佃1から積極 的に関与 し,情 報収 集 や親指導 を行 っていた。学校 医 との連携 もス クールナースの重要 な役 割の一つであ り,と く にス クールナースの所管 である校 内の薬物管理
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と与薬 に関 して緊密 な連携 を図 って い る との こ とであつた。
教諭 としての専門職者である養護教諭の役割 とスクールナースの役割 とを比較 したとき,専 門性 とともに求め られる役割上の違いはあるも のの,慢 性疾患患児 に対する支援 としては,患 児の自己管理能力 をは ぐくむための教育的支援 の重要性が示 されたといえよう。
Ⅲ.ま と め
慢性疾患患児の安全な学校生活 を保障するた めには,身 体的な安全の保障 として,自 己管理
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能力 を高めるための教育的支援の重要性の指摘 へ とつなげること,養 護教諭の医療的知識の不 足か らくる限界感への対処が課題であることが 示 された。心理社会的な安全の保障 としては, 患児の病気理解 を深める支援へ とつなげられる よう,患 児 と養護教諭 との個別対応の時間の確 保が望 まれる。 また,担 任教師 と連携 し,さ ま ざまな特徴 をもった他者への理解 を深めるとい う広い教育的視点か ら,児 童 ・生徒全体が,慢 性疾患 を有する児童 。生徒 に対する理解 を促進 するための教育プログラムの開発 も,今 後取 り 組む必要のある課題であると考 える。
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