Ⅰ 研究の目的
平成 20 年 10 月に、東京都教育委員会は、学校を取 り巻く社会状況の変化による複雑・多様化する課題や 大量退職・大量採用時代の到来への対応から、人材育 成を急務とし、基本方針を策定した。それに基づく「OJT ガイドライン」では、校内で行う職務を通しての意図 的、計画的、継続的な人材育成を推進することが求め られている。また、平成 21 年度に主任教諭が制度化さ れ、教諭に対する OJT 責任者として位置付けられた。
この流れに伴い、OJT に関する研究が行われている。
その中で、「学校における OJT の実践に関する研究ⅰ」 の「教員の OJT に関するアンケートの調査結果」への 考察に注目した。ここでは、OJT についての理解、推 進者の自覚、OJT の必要性の実感等の調査項目におい て、主幹教諭の8割程度、主任教諭と教諭の5割弱が 高い意識を示している。一方で、約5割の主任教諭と 教諭は、意識が高くない状況である。このことから、
「主任教諭の更なる意識の向上と主任教諭の役割を活 かした校内体制づくり」が課題として挙げられている。
この課題に対する取組は、主任教諭としての自らの 役割への期待を考えれば、避けることができない。そ こで、研究の目的を、OJT に対する意識が高くない状 況にある教員組織において、OJT を意図的、計画的に 実践するための要件を明確にすることに設定した。
Ⅱ 研究の方法
まず、教員の OJT に対する意識を把握するために、
インタビュー調査を実施し、実態を捉え、問題を明確 にする。次に、OJT が実践されている教員組織の特徴 を参観により分析する。同時に文献研究を行った上で 仮説を設定する。そして、実際に OJT に対する意識が 高くない状況にある教員組織を抽出し、実態を把握し、
実践による意識の変容を調査し、取組を推進する自身 のリフレクションを含め仮説の検証を行う。
Ⅲ 研究の結果
1 課題を明確にするための調査と仮説の設定 (1) 小学校教員の OJT に対する意識調査
17 区7市の主幹教諭6名、主任教諭 15 名、教諭 29 名を対象に、6~9月の期間にインタビューで意識調
査を実施した。内容としては、「OJT を意識する場面の 有無」について質問を行い、「有」の回答者に、具体的 な場面、効果、課題、意見を、「無」の回答者に、課題、
意見の聞き取りを行った。
調査の結果より「OJT を意識する場面の有無」につ いて、研究の目的でふれた先行研究と同様の「主幹教 諭の意識が高い一方で、主任教諭と教諭の意識は5割 程度にある」という傾向が明らかになった(表1)。
「有」の回答者が挙 げた具体的な場面から、
所属する組織により取 組が異なっていること、
複数名が挙げている場 面から、既に組織にあ る取組に工夫を加えて いることがわかった。
成果に関する質問に対 し、28 名の全回答者が
「ベテラン教諭の振り
返りの機会」「コミュニケーションの活性化」「若手教 諭の学びの機会」等、何らかの意義を示した。
「無」の回答者からの課題では、「時間設定や人間関 係の構築が困難」「体制が未確立」「OJT を理解ができ ていない」「新たな取組は負担」が挙げられた。中には、
人間関係の問題から OJT を意識できる場面がなくなっ てしまったという意見があった。
調査より、OJT に対する意識が高くない教員組織で も、意図的、計画的に OJT を実践できれば、対象者の 意識が変容する可能性を見出すことできる。
(2) OJT の実践に意欲的な教員組織における調査 OJT の実践に意欲的な3つの組織を対象に調査を行 った。調査より、時間設定や内容の精選、組織にあっ た体制の構築に工夫があるという共通性を見出すこと ができた。さらに、管理職の経営方針を理解して積極 的に OJT を推進する主幹教諭、又は、主任教諭(以後 OJT 推進者)の存在があった。OJT 推進者は、自身の経 験を生かした実践や良好な人間関係づくりに主体的に 取り組んでいた。このことから、OJT 推進者は、組織 職/回答 有(人) 無(人)
主幹教諭 6 0 主任教諭 8 7 教諭 14 15
小学校教員組織における OJT の意図的計画的実践の要件の究明
― 主任教諭としての実践研究 ―
所属校:品 川 区 立 京 陽 小 学 校 氏 名:村 上 正 昭 派遣先:帝 京 大 学 教 職 大 学 院 キーワード:OJT 推進者、意識の変容、OJT 研修会、メンタリング、リフレクション
表1 OJT を意識する場面の有無
表2 具体的な場面
※( )は複数の回答者数
・校内研究(6)・年間計画研修会(5)
・若手研修会(4) ・授業観察(3)
・管理職実施 ・模擬授業
・OJT 朝会 ・組織体制 等
の構成員が OJT を自分の問題として捉えるためのモデ ル、又は、意図的、計画的に OJT が実践されていくた めの核となる役割を果たしていることがわかった。
(3) 仮説の設定
ここで、OJT に対する意識が高くない状況にある教 員組織において、OJT を意図的、計画的に実践するた めに、次の3つの要件を設定した。
・OJT 推進者が組織において、核、又は、モデルとな って OJT を意図的に実践していくこと
・OJT 推進者の視点から、組織の特徴を捉え直し、実 践に生かすこと
・組織、及び、個に働きかけること
これらの要件を満たすことで、教員の意識が変容す ると考えた。
2 課題解決への取組とその結果 (1) 抽出校の OJT の実態
調査より、OJT に対する意識が高くない状況にある 教員組織の研究対象として、A小学校(学級数 11)を 抽出した。6月中旬に質問紙で意識調査を実施したと ころ、主幹教諭1名と主任教諭2名が「OJT を実践し ている」、教諭9名が「OJT を特に意識していない」、 教諭2名が「OJT について知らない」と回答した。
次に、OJT の実践について調査を行った。実際には 電子黒板活用の研修会、相互授業参観、メンタリング 等の OJT の実践が行われていたが、取組の意義につい て、特に意識されていなかった。
(2) 実践計画
ここで、組織、個における OJT に対する意識の変容 を促すための取組を表3、4のように計画した。
(3) 実践結果
研修会の実施について質問紙で調査を行ったところ、
実践2のグループ討議は、半数以上が「課題意識や具
体案の共有」という意義を見出していた。実践1と3 に対しては、「興味をもてた」等の肯定的な意見と「説 明の長さ、分かりやすさ」等の課題が挙げられた。
メンタリングでは、質問紙調査より、全員が取組の 意義を感じていることがわかった(表5)。また、当初 は、メンターの働きかけが主であったが、次第にメン ティーの働きかけが主になり、継続性が生じた。これ は、意図的な働きかけによる人間関係の変容である。
表5 メンタリングの効果
(4) 意識の変容
実践後の9月中旬の意識調査では、6月に「OJT を 特に意識していない」と答えた9名の教諭が「意識す るようになった」と回答した(図1)。回答理由には、
「必要感」「日常の取組の見直し」等、意義を感じてい るという意見が多く出された。一方で、「OJT について 知らない」と答えた内の1名の教諭(メンタリング対 象外)は、「特に意識していない」に留まった。
Ⅳ 考察
仮説に設定した3つの要件を満たし、実践すること によって、OJT に対する意識が高くない状況にある教 員組織の意識は変容することを検証することができた。
これは、OJT 推進者がモデルとなり、組織の特徴を OJT に生かし、実践を行った効果であると考えることがで きる。一方で、組織に対する実践後も「特に意識して いない」という1名の回答から、個に対する働きかけ が不可欠であることがわかった。
さらに、OJT 推進力分析シートⅱを活用して行ったリ フレクションでは、当初の2項目から実践後は9項目 の内容を達成することができた。つまり、OJT の推進 を通して自らの意識も大きく変容した。今後は、研究 で明確になった課題の究明に取り組んでいきたい。
ⅰⅱ 東京都教職員研修センター2010『東京都教職員研修センター紀要第9 号』
回 内容 ※所要時間 30 分 特徴 1 OJT を共通理解するための研修会 プレゼンテーション 2 人権教育に関する研修会 グループ討議 3 太陽光、風力発電に関する研修会 レポート発表
対象 ねらい 実践
初任者 教諭
児童に即した授業展開、
授業研究の視点を身に付ける
シートを活用し、2 度の授業観察、協議 基礎形成
期教諭
メンターの専門分野の授業力向 上、職務全般に関する理解
授業観察、協議、模 範授業、職務の助言 伸長期
教諭
次年度以降主任教諭として OJT に取り組むための意識を高める
外部連携、キャリア プランについて助言
対象 メンタリングの効果(質問紙より) 継続性 初任者
教諭
・参観シートが有効であった
・児童の特徴を具体的に把握できた
授業参観 希望 基礎形成
期教諭
・目標、評価を模範授業で具体的に学ぶ
・教材研究の姿勢を学んだ
職務の助 言 伸長期
教諭
・日常の職務で OJT を意識し、実践する
・新たなことを学ぶ機会となった
情報交換
図1 OJT に対する意識調査の結果 6月中旬 (人)
表3 組織に対する働きかけ(研修会の実施)
表4 個に対する働きかけ(メンタリング)