九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
遠心ブロワ・遠心圧縮機の高効率化・広作動範囲化 に関する研究
平舘, 澄賢
http://hdl.handle.net/2324/4496065
出版情報:九州大学, 2021, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
遠心ブロワ・遠心圧縮機の
高効率化・広作動範囲化に関する研究
平舘 澄賢
2021 年 7 月
i
目次
第1章 序論 ... 1
1.1 本研究の背景および目的 ... 1
1.2 本研究における研究対象 ... 2
1.2.1 下水曝気用IGV付き多段遠心ブロワ ... 2
1.2.2 一軸多段プロセス遠心圧縮機 ... 4
1.3 従来の研究と本研究の位置付け ... 6
1.3.1 遠心ブロワや遠心圧縮機の高性能化に関する従来の研究 ... 6
1.3.2 遠心ブロワや遠心圧縮機の低流量域不安定流動現象に関する従来の研究 ... 10
1.4 本研究の概要 ... 11
第2章 2次元遠心羽根車搭載ブロワの高効率化・広作動範囲化 ... 13
2.1 はじめに ... 13
2.2 遠心ブロワ段の構造... 13
2.3 φs=0.063遠心ブロワ段の高性能化 ... 15
2.3.1 羽根車の設計... 15
2.3.2 ディフューザの設計 ... 20
2.3.3 リターンチャネルの設計 ... 25
2.3.4 段性能の予測... 27
2.3.5 モデル機による性能実証試験 ... 30
2.4 φs=0.040 遠心ブロワ段の高性能化 ... 36
2.4.1 従来段性能試験結果および高性能化検討方針 ... 36
2.4.2 従来羽根車の失速要因の検討 ... 38
2.4.3 羽根車の改良設計 ... 50
2.4.4 静止流路の改良設計 ... 59
2.4.5 モデル機による性能実証試験 ... 61
2.5 第2章のまとめ ... 63
第3章 3次元遠心羽根車への曲線要素羽根適用による遠心圧縮機の高性能化 ... 64
3.1 はじめに ... 64
3.2 従来直線要素羽根車の諸元 ... 65
3.3 曲線要素羽根の設計手法 ... 66
3.3.1 形状定義手法... 66
3.4 フルシュラウド遠心羽根車向け曲線要素羽根の設計指針 ... 70
3.4.1 数値解析手法... 70
3.4.2 TGLが羽根車の性能に与える影響の考察 ... 72
3.4.3 羽根車の機械的応力に対するTGLの影響 ... 79
3.4.4 曲線要素羽根を有するフルシュラウド遠心羽根車の設計指針 ... 81
ii
3.5 曲線要素羽根設計指針を適用した,新たな曲線要素羽根車の設計 ... 81
3.5.1 RLE羽根車の翼負荷分布の修正 ... 81
3.5.2 TGL分布の詳細と新たに設計した曲線要素羽根車の外観 ... 83
3.5.3 新羽根車を搭載した圧縮機の段性能予測結果 ... 84
3.6 モデル性能実証試験結果 ... 87
3.6.1 試験装置 ... 87
3.6.2 計測装置と試験方法 ... 89
3.6.3 モデル試験結果 ... 89
3.7 第3章のまとめ ... 93
第4章 フルシュラウド遠心羽根車向け曲線要素羽根設計指針の 高吸込流量係数段への展開 ... 94
4.1 はじめに ... 94
4.2 従来直線要素羽根車の諸元 ... 94
4.3 新たな曲線要素羽根車の設計詳細 ... 96
4.3.1 形状定義手法および数値解析手法 ... 96
4.3.2 曲線要素羽根車の設計 ... 97
4.4 モデル性能実証試験結果 ... 108
4.4.1 試験装置と計測装置,試験方法 ... 108
4.4.2 モデル試験結果 ... 110
4.5 第4章のまとめ ... 113
第5章 インレットガイドベーン付き多段遠心ブロワの 低流量域不安定流動現象に関する考察と作動範囲拡大指針 ... 114
5.1 はじめに ... 114
5.2 試験装置と試験方法... 115
5.2.1 試験装置 ... 115
5.2.2 試験方法 ... 116
5.3 試験結果と考察 ... 118
5.3.1 ブロワ全段特性 ... 118
5.3.2 IOR=100%条件における計測結果 ... 120
5.3.3 IOR=10%条件における計測結果 ... 122
5.3.4 IOR=4.5%条件における計測結果 ... 125
5.3.5 非定常静圧変動の発生要因に関する考察 ... 128
5.4 Mild surgeの発生メカニズムに関する仮説の検証 ... 132
5.4.1 試験装置と試験方法 ... 132
5.4.2 供試ブロワの静圧上昇特性 ... 134
5.4.3 IGV付き多段遠心ブロワのシステム動特性計算における課題 ... 136
iii
5.4.4 システム動特性計算向け集中定数モデルの定式化 ... 136
5.4.5 配管系の寸法... 143
5.4.6 供試ブロワの無次元静的圧力上昇特性 ... 143
5.4.7 システム動特性計算手法 ... 145
5.4.8 システム動特性の計算結果 ... 146
5.5 低流量側作動範囲の拡大指針 ... 153
5.6 第5章のまとめ ... 154
第6章 結論 ... 156
謝辞………...161
参考文献………...162
iv 記号
主な記号
a 音速 [m/s]
A 流路面積 [m2] b 流路幅 [m]
B GreitzerのBパラメータ [-]
C 絶対速度 [m/s]
多段遠心ブロワの静圧上昇 [Pa]
Cp 定圧比熱 [J/(kg・K)]
静圧回復係数 [-] =
Ps4-Ps3
Pt3-Ps3
静圧上昇係数 [-] = ΔPss/(0.5ρ0U22) Cp’ 静圧変動係数 [-] = ΔPsu/(0.5ρ0U22) Cr 半径方向速度 [m/s]
Css 定常状態におけるブロワ静圧上昇 [Pa]
Cu 周方向速度 [m/s]
D 直径 [m]
f 周波数 [Hz]
F 羽根車回転周波数 [Hz]
絞り弁における圧力降下 [Pa]
g 重力加速度 [m/s2] H ヘッド [m]
i 入射角 [degree]
L 配管長さ [m]
m 質量流量 [kg/s]
子午面座標 [m]
Mu2 周速Mach数 [-] = U2/a N 回転数 [min-1]
Nτ 失速セルが完全発達する間に羽根車が回転する数 [rev]
p 静圧 [Pa]
P 軸動力 [W]
Ps 静圧 [Pa]
Pss 定常静圧 [Pa]
Psu 非定常静圧 [Pa]
Pt 全圧 [Pa]
v Q 体積流量 [m3/s]
R 半径 [m]
気体定数 [J/(kg・K)]
s 流れ方向 [-]
S キャンバーライン長さ [m]
t 羽根厚み [m]
時間 [s]
T 静温 [K]
Ti 羽根車回転周期 [s]
Tt 全温 [K]
U 周速 [m/s]
W 相対速度 [m/s]
x x座標 [m]
y y座標 [m]
Z 羽根枚数 [-]
z z座標 [m]
α 周方向から測った絶対流れ角 [degree]
β 周方向から測った羽根角度 [degree]
γ リターンベーン開き角 [degree]
シュラウド直線部傾き角 [degree]
負圧面とシュラウド壁面とがなす角度 [degree]
Δα 転向角 [degree]
ΔΨsimp 羽根車部の静圧上昇係数 [-] =
Ps3-Ps1
1U22
ΔΨsLSD ディフューザ部の静圧上昇係数 [-] =
Ps4-Ps3
1U22
ζ ζ座標 [-]
全圧損失係数 [-]
η 効率 [-]
θ θ座標[-]
κ 比熱比 [-]
22 12
1- - 2 th
Λ C C g H 反動度 [-]
λ=d(rCu)/dS 翼負荷係数 [m/s]
μ 粘性係数 [Pa・s]
ξ ξ座標 [-]
vi ρ 密度 [kg/m3]
Uターンベンド内壁側子午面曲率 [m]
σ 弦節比 [-]
応力 [MPa]
τ 時定数 [-]
φ 流量係数 [-] = 4Q/(πD22U2) Ψ 圧力係数 [-] = Had/(U22/g)
静圧上昇係数 [-] = ΔPss/(0.5ρ0U22) ω 角速度 [rad/s]
Helmholtz共鳴周波数 [rad/s]
主な添え字
ad 断熱変化
all 全段
b 羽根
ボス
conv 従来
d ディフューザ
des 設計点流量
e 羽根車目玉部
等価条件
h ハブ側
i 羽根車
吸込配管
imp 羽根車
m 中間点
r 半径方向
rtc リターンチャネル rtv リターンベーン
s 吸込
シュラウド側
th スロート
理論上の
th,s スロート部シュラウド側
vd ディフューザベーン
0 大気圧条件
vii 1 (単段条件)羽根車入口
(多段条件)初段
2 羽根車出口
3 ベーンレスディフューザ入口 3v 羽根付きディフューザ前縁 4 ベーンレスディフューザ出口 45 Uターンベンド中間点
5 リターンベーン入口
6 リターンベーン出口
略号
・CFD (Computational fluid dynamics):数値流体力学
・D.F. (Diffusion factor):拡散係数
・DHD (Dihedral):ダイヘドラル
・D.P. (Design point flowrate):設計点
・IGV (Inlet guide vane):インレットガイドベーン
・IOR (IGV opening ratio):IGV開度
・LSD (Low solidity cascade diffuser):小弦節比ディフューザ
・MDL (Meridional lean):子午面方向リーン
・MOGA (Multi-objective genetic algorithm):多目的遺伝的アルゴリズム
・NURBS (Non-uniform Rational B-Spline):非一様有理Bスプライン
・RANS (Reynolds averaged Navier-Stokes equation):レイノズル平均ナヴィエ-ストークス方 程式
・RLE (Redesigned Line Element impeller):再設計直線要素羽根車
・RTC (Return channel):リターンチャネル
・RTV (Return vane):リターンベーン
・SST (Shear stress transport):せん断応力輸送モデル
・SSWP (Similarity sweep):相似スウィープ
・SWP (Sweep):スウィープ
・TGL (Tangential lean):周方向リーン
・VLD (Vaneless diffuser):ベーンレスディフューザ
1
第1章 序論
1.1 本研究の背景および目的
ターボ機械は,民生用から産業用まで様々な分野において液体やガスを圧送するために 用いられている。民生用では例えば,家庭用電化機器の冷却・送風向けや空調向け,あるい はビル給水向けとして,また産業用では例えば,発電所や種々の石油化学プラント,各種工 場の基幹となる装置として,様々なサイズのターボ機械が用いられている。
遠心ブロワや遠心圧縮機は,ガスを昇圧・圧送する遠心式ターボ機械として分類され,タ ーボ機械の中では比較的小流量かつ高圧力比なガス仕様が求められる際に用いられる機械 である。遠心ブロワや遠心圧縮機の用途は広く,過給機,航空エンジン,化学プロセス,石 油精製,冷凍機,小型ガスタービンなど多岐にわたり,様々な産業分野で用いられている。
機器運転時の消費電力削減によるランニングコスト低減や,広い流量範囲での安定したガ ス取り扱いに対するニーズから,遠心ブロワや遠心圧縮機には継続した高効率化と広作動 範囲化に関する取り組みが要求されている。一般にターボ機械においては,機器の高効率化 と広作動範囲化はトレードオフとなることが知られている。従って,遠心ブロワや遠心圧縮 機において高効率化と広作動範囲化を両立させるためには,高効率化を実現するための設 計指針,ならびに広作動範囲化を実現するための設計指針,それぞれを明確化しておくこと が非常に重要である。
遠心ブロワや遠心圧縮機の高効率化にとって重要な構成要素の一つが,これら遠心式タ ーボ機械の主要コンポーネントである遠心羽根車である。遠心羽根車の高効率化を可能と する設計指針を獲得するためには,羽根車の翼や流路形状と,翼負荷や羽根車内部の二次流 れとの関係を詳細に把握することが重要である。また,遠心ブロワや遠心圧縮機の広作動範 囲化に対しては,遠心羽根車やディフューザが重要な構成要素となる。広作動範囲化を実現 するための設計指針を獲得するためには,羽根車やディフューザにおいて,特に低流量域に て発生する不安定流動現象に関する詳細な理解が必須である。
このように,遠心ブロワや遠心圧縮機の高効率化と広作動範囲化を実現するためには,設 計流量点から低流量側までの広い流量範囲にわたって内部流動場を詳細に把握することで,
遠心羽根車やディフューザの流路形状と内部流れ場との相関を深く理解し,それを改善す るための形状設計についての知見を生み出すことが必要となる。
以上より本研究では,遠心ブロワや遠心圧縮機の高効率・広作動範囲化に資する知見を得 ることを目的に,これら機器の主要コンポーネントである遠心羽根車やディフューザなど の内部流れに関する設計流量点から低流量域までの詳細分析,および分析結果を活用した 高性能化設計指針の構築に関する検討を行う。
2 1.2 本研究における研究対象
本研究では,以下の2種類の遠心式ターボ機械を研究対象とする。
1.2.1 下水曝気用IGV付き多段遠心ブロワ
本研究における1つ目の研究対象は,下水処理場における曝気用として利用される,イン レットガイドベーン(以下,IGV)付き多段遠心ブロワである。
本研究対象の使用用途について説明するため,図 1.1に,下水処理場での下水処理工程と 本遠心ブロワの外観図を示す。家庭や工場からの汚水は下水処理施設に送られ,水中の比較 的大きな浮遊物質を除去する工程を経た後に反応タンクに送られる。反応タンク内には,下 水中の有機物を分解する微生物が存在する。微生物は,有機物を分解する際に酸素を必要と するため,反応タンク内の下水中に空気を供給する必要がある(これを曝気と言う)。本ブ ロワは,曝気の際に反応タンク内に空気を送風する為に用いられる。
地球環境保護の観点から,下水処理施設での省エネ化の要求が高まっている。曝気ブロワ は,下水処理施設全体の電力消費量の半分近くを占める。そのため,ブロワの高効率化によ る消費電力削減が強く求められている。また,下水処理施設に送られる下水量は、季節毎,
時間帯毎に大きく変動するため,曝気に必要とされる風量も大きく変動する。従ってブロワ には,低流量側から大流量側までの広い作動範囲が求められる。
ブロワ本体
電動機 2m
空気を送風(曝気)
下水曝気用IGV付き多段遠心ブロワ 汚水
処理水 下水処理場
*横浜市環境創造局より一部転載 (https://www.city.yokohama.lg.jp/kuras hi/machizukuri-kankyo/kasen- gesuido/gesuido/shori/hyoujun.html)
図 1.1 下水処理場での下水処理工程と下水曝気用IGV付き多段遠心ブロワの外観
3
図 1.2に,下水曝気用のIGV付き多段遠心ブロワの構造図を示す。本ブロワは,吸込口 と吸込ノズル,ならびに環状流路から構成される吸込流路,流量制御装置であるIGV,なら びに両端を軸受で支持された回転軸に締結された羽根車,ディフューザ,リターンチャネル
(以下,RTC)から構成される各段,そして吐出スクロール流路から構成される。ディフュ
ーザは,円周上に配置された翼列から成る小弦節比ディフューザ(以下,LSD)で構成され る。ここで,羽根車とディフューザ,およびRTCに設置されている各翼は,翼断面形状が スパン方向に一様な2次元翼形状となっている。
吸込口から吸い込まれた空気は,吸込ノズルを通過した後,流れを周方向に均一化するた めの環状流路を経て,IGVへと流入する。IGVは,ケーシングに設置されたリンク機構によ り回転可能となっており,初段羽根車へ吸い込まれる流れに,羽根車回転方向と同一方向の 旋回成分(予旋回)を与える。IGV回転角度に応じた予旋回を与えられた流れは,初段の羽 根車へ流入して昇圧され,更にディフューザで動圧が静圧へと変換され,RTC で流れの旋 回速度成分が除去された後,次段羽根車へと流入する。これを段数分繰り返して必要な吐出 圧まで昇圧された後,吐出スクロールを経て吐出ノズルから吐き出される。
shaft
Air
Motor
Suction nozzle
Inlet guide vane (IGV)
Discharge scroll
Centrifugal impeller Low solidity diffuser
To next stage
Impeller rotation
Return Channel
direction ω Bearing
Bearing
図 1.2 IGV付き多段遠心ブロワの構造 Air
Circular passage
Shaft
Discharge nozzle
4
1.2.2 一軸多段プロセス遠心圧縮機
本研究におけるもう1つの研究対象は,天然ガスプラントや石油精製・石油化学プラント 等で用いられる,一軸多段プロセス遠心圧縮機である。これらプラントでは,生成物の反応 促進などを目的とした,炭化水素系をはじめとしたプロセスガスの圧縮工程が存在する。プ ロセス遠心圧縮機は,この圧縮工程で主に使用されるプラントの心臓部品である。
図 1.3(a)に,プロセス遠心圧縮機の外観図を示す。また図 1.3(b)に,高圧仕様機向けに採
用される垂直分割ケーシングタイプの,プロセス遠心圧縮機の断面図を示す。本圧縮機は,
最外周に位置する円筒ケーシングの内側に,圧縮機流路を構成するインナーケーシングや,
駆動機と締結されるとともに両端を軸受で支持され回転するロータ等を格納し,更にケー シング両端部をヘッドフランジで封ずる形式を採る。なお,駆動機としては,固定速/可変 速のモータや蒸気タービンが用いられる。本図は,図中の青色四角の枠内で示される遠心圧 縮機段が 7 段含まれる,多段のプロセス遠心圧縮機の例である。圧縮機で昇圧されるガス は,吸込ノズルから圧縮機内部に流入し,各段でそれぞれ昇圧された後,スクロールもしく はコレクタを経由して,吐出ノズルから吐き出される。圧縮機回転部と静止部との間には,
高圧部から低圧部へと向かって生じる漏れ流れを抑制するための,シール部が設けられて いる。
図 1.3(b)の青色四角の枠内で示される遠心圧縮機段の構造について説明する。本研究で対
象とする遠心圧縮機段は,ロータと締結されて回転し,流体にエネルギーを付与する羽根車,
羽根車からエネルギーを付与され昇圧された流体の動圧を静圧へと変更するディフューザ,
および流体の旋回速度成分を除去して次段羽根車へ流れを導くためのRTCから構成される。
羽根車には主としてフルシュラウドタイプの遠心羽根車が用いられ,仕様に応じて 2 次元 羽根車と3次元羽根車とが使い分けられる。ディフューザについては,ベーンレスディフュ ーザ(以下VLD)またはLSDが用いられる。
運転コスト低減の要求や製品信頼性の観点から,プロセス遠心圧縮機においても高効率 化や広作動範囲化が求められる。
5 (a) 外観図
(b) 断面図 Suction
nozzle
Discharge nozzle
Impeller
Shaft Diffuser
Return channel
Collector Inner
casing
Cylindrical casing
Balance drum
Radial / thrust bearing Dry gas seal Process gas
図 1.3 プロセス遠心圧縮機の外観図と断面図 Head
flange
Head flange
6 1.3 従来の研究と本研究の位置付け
本節では,本研究に関連する従来の研究について,遠心ブロワや遠心圧縮機の羽根車,な らびにディフューザの高性能化の観点で,文献調査を実施した結果について述べる。羽根車 については,翼断面形状がスパン方向に一様な2次元羽根車と,羽根断面形状がスパン方向 に変化する3次元羽根車とで分けて説明する。また,遠心ブロワや遠心圧縮機に関する低流 量域不安定流動現象の観点で,文献調査を実施した結果についても説明する。さらに本研究 の位置づけについて述べる。
1.3.1 遠心ブロワや遠心圧縮機の高性能化に関する従来の研究 (1)遠心羽根車
①2次元羽根車
前述の通り,2次元羽根車は翼断面形状がスパン方向に一様な形状を有する羽根車であり,
壁面摩擦損失が主要な損失発生要因となる低比速度域にて主に採用される羽根車である。
一方で中・高比速度段では,生産技術の発達により形状がより複雑な3次元羽根車が実用化 され,2次元羽根車を3次元羽根車に置き換えることで性能向上が図られている。しかしな がら,特に製造コスト抑制の要求がある場合などは,依然として2次元羽根車が用いられる 場合も多い。中・高比速度域では,2次元羽根車は性能面で不利となる場合が多く,2次元 羽根車における高性能設計指針を確立することは工学的に重要である。
まず,極低比速度段を対象とした遠心羽根車の高性能化に関する従来研究事例を列挙す る。Rusak(1)は,設計流量点における吸込流量係数が φs=0.0062 である極低比速度域におい て,羽根車内部の壁面摩擦損失低減による高効率化を目的に,羽根を厚翼の2次元羽根とす ることで流路幅を広げた「くさび形羽根車」(Wedge羽根車)を開発した。本研究において 著者らは,薄翼で流路高さの狭い従来2次元羽根車に対する高効率化を実証した。また田中
ら(2)は,φs=0.0118および0.021 の従来薄翼遠心羽根車へのWedge翼の設計適用検討を実施
した。内製の1次元式性能予測ツール(3)(4),およびこれを利用した羽根車形状パラメータ最 適化プログラムを用いて Wedge 羽根車を設計し,近年急速に実用化が進んだ数値流体力学
(以下,CFD)解析ならびに性能実証試験により,従来形状に対する高効率化と広作動範囲
化を実証した。近年ではLettieriら(5)により,超臨界CO2を圧送するための高圧かつφs<0.01 となるような極小流量の遠心圧縮機の高効率化のため,Wedge羽根車と同様に厚翼化・幅広 流路化の思想を取り入れた羽根車の設計事例が報告されている。
続いて,極低比速度段以外の従来研究事例について述べる。Behzadmehrら(6)は,空調ファ ン向け 2 次元遠心羽根車の吸込部における寸法諸元が,仕様流量におけるファン効率に与 える影響を明らかにするため,実験計画法とCFD解析を用いた検討を行っている。杉村ら は,家庭用掃除機向け遠心ブロワに搭載される 2 次元遠心羽根車の設計点効率向上を目的 に,CFD と数値最適化手法を組み合わせた羽根車の形状最適化を実施している。ここで数
7
値最適化とは,特定の制約条件の下であらかじめ設定した目的関数を最大化(あるいは最小 化)するように設計変数を自動的に最適化する手法である。目的関数が1つである単目的最 適化の例(7 ),ならびに目的関数が複数となる多目的最適化の例(8 )(9 )が報告されている。
Bambergerら(10)は,広範な比速度域かつオフデザイン点も含む幅広い流量域にて,遠心ファ
ン向け 2次元遠心羽根車の高効率設計を高速に実施するため,実験計画法とCFD,ならび に多目的最適化を組み合わせた設計手法を報告している。本報告では,形状パラメータに加 え,事前に複数流量点でのCFDを実施することで性能カーブの応答曲面も作成しておくこ とで,幅広い仕様域での形状最適化を実現している。
このように,極低比速度域を除く2次元遠心羽根車の高性能化に関する従来研究では,実 験計画法と CFD,ならびに数値最適化手法を組み合わせた,設計点性能のみに着目した形 状最適化事例が多い。オフデザイン性能まで考慮した形状最適化例も存在するが,設計点流 量を含む複数流量点での効率などを,CFD にて直接評価する手法を採用している。羽根車 における翼負荷分布や減速比など,設計点効率と作動範囲のトレードオフに対して相関の 高い内部流れに関する指標を目的関数化し,最適化した事例は少ない。
②3次元羽根車
3次元羽根車は,羽根車内部における二次流れ損失の割合が増加してくる,中・高比速度 段にて主として採用される。羽根車への流入流れとのマッチングが取り易く,複数流線にて 翼形状を設計できるなど,2次元羽根車よりも高性能化が図れる。一方,翼形状が複雑にな り設計パラメータが増すなど,設計難易度は上がる。このような複雑な流路形状を有する3 次元羽根車において,高性能化を実現するための設計手法を確立することは,工学的に重要 である。
スパン方向に羽根断面形状が変化する 3 次元羽根車における翼設計手法としては,羽根 車における望ましい翼負荷分布を定義し,その翼負荷分布を満足するような翼形状を逆問 題的に得る手法や,前記の数値最適化による形状最適化を用いる手法などが知られている。
このうち前者は,逆解法設計として知られている。Zangeneh ら(11)は,斜流および遠心羽根 車内部の二次流れと,スパン方向の翼負荷分布ならびに翼傾斜との関係性を考察するとと もに,二次流れを抑制するために好適な翼負荷分布や翼傾斜方法について検討している。更
に,φs=0.16の遠心圧縮機の3次元羽根車を対象に,そのような好適な翼負荷分布や翼傾斜
を有する羽根車を 3 次元非粘性逆解法により設計し,逆解法設計を用いない従来羽根車に 対する羽根車出口流れの一様性向上と効率改善効果を実証している。八木ら(12)は,吸込流量
係数φs=0.073 の遠心圧縮機用 3次元羽根車を対象に,翼負荷分布が羽根車の効率や作動範
囲に与える影響について検討している。柴田ら(13)は,吸込流量係数 φs=0.125 の遠心圧縮機 用 3 次元羽根車を対象に,羽根車高反動度化と逆解法による翼負荷分布調整を元にした設 計検討を実施し,高効率化と広作動範囲化を実証している。また,多目的最適化を用いた3 次元羽根車の高性能化に関する従来研究も多数報告されている。例えばDemeulenaereら(14)
8
は,ターボチャージャー用のハーフシュラウドタイプの 3 次元遠心羽根車の効率向上と作 動範囲拡大,遠心応力低減を目的に,多流量点かつ多目的の最適化を実施している。
これら 3 次元遠心羽根車の従来研究例の多くは,翼面が直線線素の集合体から構成され る直線要素羽根を搭載した羽根車に関してのものである。図 1.4(a)に示すように直線要素羽 根は,2次元翼断面を直線状のガイドラインに沿って翼高さ方向へ積み重ねることで形成さ れる。直線要素羽根は,製作が比較的容易であるものの,羽根車内部流れの緻密な制御には 適さないという特徴を有する。一方,羽根車内部の二次流れの制御に対して最適な技術の一 つである曲線要素羽根を,3次元遠心羽根車に適用した事例は少ない。図 1.4(b)に示すよう に曲線要素羽根は,スパン方向への曲線状のガイドラインに沿って 2 次元翼断面を翼高さ 方向へと積み重ねることで得られ,翼面が自由曲線から構成される羽根のことである。
(a) 直線要素羽根 Shroud side
Hub side
Suction surface
Leading edge Trailing edge
Two-dimensional blade section
Straight guideline Pressure surface
Shroud side
Suction surface Trailing edge
Leading edge
Hub side Curvilinear guideline
(b) 曲線要素羽根
図 1.4 直線要素羽根と曲線要素羽根の形状に関する説明図
9
翼傾斜を有する直線要素羽根あるいは曲線要素羽根に着目した従来研究例は,軸流式の ターボ機械に集中している。例えばZhongoiら(15)は,軸流タービン翼における圧力損失分布 に対する周方向への翼傾斜の影響について調査し,曲線要素翼における圧力勾配と二次流 れの方向の変化について説明している。Sasakiら(16)は軸流圧縮機の翼に対し,「ダイヘドラ ル」と「スウィープ」と呼ばれる傾斜直線要素翼を導入し,翼傾斜の方向と二次流れパター ンについて調査している。
一方で前述の通り,曲線要素羽根を遠心羽根車に適用した事例は少ない。早くには 1994
年にHowardら(17)により,ハーフシュラウド遠心羽根車を対象として,直線要素翼を周方向
へ傾斜させた場合の効果をCFDで検討した例が見られる。翼端漏れ渦の挙動に変化がある ものの,羽根車効率に与える影響は少ないという結論が得られている。Krainら(18)はCFDと 実験により,翼傾斜を付与したハーブシュラウド遠心羽根車では内部流れの一様性が増し たことを確認している。Ohら(19)は,ハーフシュラウド羽根車への翼の周方向傾斜の影響を CFDにて分析している。
これら曲線要素羽根の遠心羽根車への適用事例は,全てハーフシュラウド羽根車を対象 としたものである。一方で,フルシュラウドタイプの3次元遠心羽根車への曲線要素羽根の 適用事例は著者の知る限り殆どなく,その体系的な研究事例は杉村らの先行研究(20 )が初め ての事例であると思われる。この先行研究事例の少なさの理由については,以下が考えられ る。まずそもそも,形状が複雑な遠心羽根車に対する曲線要素羽根の形状モデリングが困難 であることが挙げられる。また,特にフルシュラウドタイプの遠心羽根車内の二次流れパタ ーンは軸流式流体機械よりも複雑であり,二次流れ損失を低減するのに最適な翼形状を見 出すことが困難であることも挙げられる。このように,フルシュラウドタイプの3次元遠心 羽根車への曲線要素羽根適用による効果や,その高性能化設計指針については,まだ十分に 確立されたとは言えない。
(2)ディフューザ
遠心ブロワや遠心圧縮機のディフューザの高性能化に関しても,従来から数多くの研究 事例がある。Ishidaら(21)は,VLDにおけるディフューザ側壁の部分的粗面化による,旋回失 速初生マージンの拡大について報告している。三浦ら(22)は,高比速度遠心圧縮機のディフュ ーザ部シュラウド側に流路幅の2分の1の高さの案内羽根(リブ)を設置することにより,
羽根無しディフューザ搭載ケースに対して効率が大幅に改善することを示している。Kmecl ら(23)は,羽根付きディフューザの中でも弦節比が大きい通路型ディフューザについて,効率 や作動範囲に影響の大きい設計パラメータについて実験検討を実施している。また妹尾 ら(24)は,羽根付きディフューザで弦節比が 1 未満であり,翼間流路に重なり部がなくスロ ート部が形成されない小弦節比ディフューザ(LSD)を考案した。LSDの適用により,遠心 送風機にて広い失速マージンと高い揚力係数が実現できることを実証するとともに,小弦 節比ディフューザにおける広い失速マージンが,ディフューザ側壁上の特徴的な 2 次流れ
10 に起因することを明らかにした(25)。
小弦節比ディフューザに関しては,その後,数多くの研究事例や製品適用事例を生み出し ている。例えば坂口ら(26)は,遠心送風機向けLSDの性能改善ため多目的最適化を使った検 討を行い,ベースライン形状に対する失速マージン拡大を実施している。この際,形状最適 化における目的関数と制約条件としては,設計流量点および低流量側流量点それぞれにお ける,ディフューザ部の静圧上昇係数と揚力係数とが選択されている。このようにオフデザ イン性能まで考慮したLSD の形状最適化例も存在するが,2 次元羽根車に関する前記説明 同様,設計点流量を含む複数流量点でのディフューザ部静圧上昇などを,CFD にて直接評 価する手法を採用しているケースが多い。
1.3.2 遠心ブロワや遠心圧縮機の低流量域不安定流動現象に関する従来の研究
遠心ブロワや遠心圧縮機では,低流量域において,旋回失速やサージングなどの不安定流 動現象が発生することが広く知られている。機器の安定作動範囲は,これら低流量域不安定 流動の発生状況により大きく影響されてしまう。そのため,低流量側作動範囲を拡大するた めには,旋回失速やサージングの初生メカニズムや,関連する流れ場についての理解を十分 深めることが重要である。
遠心ブロワや遠心圧縮機における旋回失速やサージングに関する研究は,従来,単段機に おいて数多く実施されて来た。
旋回失速に関しては,Senooら(27)(28)が単段の遠心ブロワのVLD部における旋回失速の初 生とVLD部の逆流との関係性について,実験的および解析的に検討を実施している。この 検討の中で著者らは,VLD部における旋回失速の初生基準を提案している。Spakovskyら(29) は,単段の遠心圧縮機の羽根付きディフューザにて発生する旋回失速の初生について検討 を行っている。この検討の中で著者らは,軸流圧縮機の分野においては良く知られていた2 つの旋回失速の初生パターンを確認している。一つ目のパターンは,短波長の圧力変動を伴 う旋回失速であり,その波形の特徴から「Spike型旋回失速」と呼ばれる。もう一つのパタ ーンは,長波長の圧力変動を伴う旋回失速であり,その波形の特徴から「Modal型旋回失速」
と呼ばれる。何れも,対象とした遠心圧縮機の羽根車出口からディフューザ翼前縁の間の VLD 部にて確認された旋回失速である。この研究にて著者らは,系の不安定状態への突入 の仕方は,ディフューザの圧力上昇特性がピーク値に達する前にディフューザ半開部の圧 力上昇特性の傾きがゼロになるか否かによりその初生形態が決まる,このSpike型もしくは
Modal 型の旋回失速により支配されると述べている。Joukou ら(30)は,単段の遠心ブロワに
搭載されているLSDにおいても,Spike型の旋回失速が発生することを実験で確認した。こ の研究の中で著者らは,Spike型の旋回失速が発生した際,羽根車出口からLSD翼前縁の間 のVLD部ハブ側壁面付近にて,逆流が生じていたことを示している。更に,LSDの翼前縁 径を小さくすることで,このハブ側壁面付近の逆流の発生ならびにSpike型旋回失速の発生 を抑制できたと報告している。
11
サージングに関しても,Greitzerが軸流圧縮機向けに提案した非線形集中定数モデル(31)(32) のようなシステム動特性の理論的予測モデルを詳細な非定常圧力・速度計測と組み合わせ た,多くの従来研究がなされて来た。Hansen ら(33)は,単段の遠心圧縮機において発生した サージングの実測結果をGreitzerモデルを用いた予測結果と比較し,遠心圧縮機への本モデ ルの適用可能性を確認した。Fink ら(34)は,単段の遠心圧縮機における不安定性の初生から サージング発生までの流れ場計測を行った。更に著者らは,Greitzerモデルにおいて羽根車 の回転数変化を考慮することで,サージング発生中のシステム動特性の予測精度を向上す ることに成功している。
一方,多段の遠心式ターボ機械における低流量域不安定流動現象に関する従来研究例も,
数は少ないながら幾つか存在する。例えばArnulfiら(35)は,VLDを搭載した2段構成および 4段構成の遠心ブロワにおける,旋回失速の発生前ならびに発生中の非定常流れ場に関する 計測を実施している。更にArnulfiら(36))(37)は,羽根付きディフューザを搭載した4段構成の 遠心ブロワにおける,旋回失速やサージングが発生している最中の非定常圧力・速度変動の 計測を実施している。この研究の中で著者らは,Greitzerモデルを用いたシステム動特性の 解析予測結果と計測結果とを比較し,Greitzerモデルは多段遠心ブロワのシステム動特性を 定量的に記述するのに十分な精度を有することを確認している。
ガス圧送向けの多段遠心式ターボ機械では,本研究における研究対象の 1 つである下水 曝気用のIGV 付き多段遠心ブロワのように,低流量域における軸動力低減と作動範囲改善 のため,初段羽根車上流に予旋回を発生させるためのIGVを設置する場合がしばしばある。
しかしながら,多段遠心式ターボ機械の性能に対する IGVの影響について検討した従来研 究事例は,Lüdtke(38)の先行研究事例などを除いて殆ど確認できない。更に,IGV付き多段遠 心式ターボ機械においては筆者が知る限り,これら低流量域不安定流動現象に関する詳細 検討を行った先行研究事例はない。
1.4 本研究の概要
前節までに述べた,IGV 付き多段遠心ブロワとプロセス遠心圧縮機に対するニーズと従 来研究の課題を考慮し,本研究の位置付けと構成について述べる。
第2章では,曝気用のIGV付き多段遠心ブロワを構成する2次元遠心羽根車を搭載した 遠心ブロワ段の高性能化を検討する。羽根車やディフューザ,RTCにおける,設計点効率と 作動範囲のトレードオフに対して相関の高い,翼負荷分布や減速比などの内部流れに関す る指標を目的関数化した形状最適化を試みる。
第 3 章では,プロセス遠心圧縮機を構成する遠心圧縮機段のうち,中比速度仕様となる
φs=0.073のフルシュラウド3次元遠心羽根車を対象に,曲線要素羽根適用による遠心圧縮機
の高効率化・広作動範囲化について検討する。先行研究事例を参考にした3次元遠心羽根車 向け曲線要素羽根形状モデリング手法の適用,ならびに羽根車の内部流れ詳細分析により,
曲線要素羽根遠心羽根車向け高性能化設計指針の構築を試みる。更に,その性能向上効果を,
12 モデル性能実証試験により確認する。
第 4 章では,第 3章にて構築した曲線要素遠心羽根車向け設計指針の,高吸込流量係数 仕様のフルシュラウド3次元遠心羽根車(φs=0.125)への横展開を試みる。構築した設計指 針を用いて,プロセス遠心圧縮機向けの高比速度曲線要素羽根車の設計検討を行うととも に,モデル性能実証試験によりその効果を確認する。
第5章では,曝気用のIGV付き多段遠心ブロワを対象に,実験計測による低流量域不安 定流動現象の考察と現象理解を試みるとともに,考察結果を元にした低流量側作動範囲拡 大指針の検討を行う。
以上の第2章から第5章までの結論を,第6章にてまとめる。
13
第2章 2 次元遠心羽根車搭載ブロワの高効率化・広作動範囲化
2.1 はじめに
本章では,1.2節で述べた下水曝気用のIGV付き多段遠心ブロワの高効率化・広作動範囲 化に向けて実施した,吸込流量係数φsの異なる2つの遠心ブロワ段の設計検討結果につい て述べる。これら2つの段のφsはそれぞれ0.063,0.040であり,低~中比速度域の遠心ブ ロワ段に分類される。φsは,式(2.1)で表される。
2
s
4Q
1D U
2 2
(2.1)ここで,Qsは羽根車入口での吸込体積流量,D2は羽根車外径,U2は羽根車周速を表す。
まず 2.2 節では,本章の検討対象である遠心ブロワ段の構造について説明する。続いて 2.3節では,実験計画法と1次元式性能予測ならびにCFDを組み合わせて実施した,φs=0.063 の遠心ブロワ段の高性能化検討結果について述べる。更に2.4節では,数値最適化手法の一 種である多目的遺伝的アルゴリズムとCFDを組み合わせて実施した,φs=0.040の遠心ブロ ワ段の高性能化に関する検討結果について述べる。最後に2.5節にて,本章のまとめを述べ る。
2.2 遠心ブロワ段の構造
図 2.1 に,本章における検討対象である遠心ブロワ段とその構成要素の概略図を示す図
2.1(a)には子午面図を,図 2.1(b)には羽根車の回転軸方向視図を,それぞれ示す。図 2.1(a)に
示すように本検討対象は,半径方向吸込流路とクローズドタイプの遠心羽根車,ディフュー ザ,ならびにRTCから構成される単段の遠心ブロワ段である。また製造コスト低減の観点
から,図 2.1(b)に示すように,これら遠心羽根車とディフューザ,RTCに設置されている円
形翼列を構成する翼の断面形状は,スパン方向に一様な完全二次元形状となっている。遠心 羽根車の羽根は,羽根厚が一定の2次元遠心羽根車である。ディフューザ部に搭載されてい る円形翼列は,LSDである。作動流体は空気である。
14
図 2.1 従来遠心ブロワ段とその構成要素の概略図 Impeller
Impeller rotation direction ω ω
Return vane (RTV)
(b) 回転軸方向視図 Low solidity cascade diffuser
(LSD)
Impeller
Diffuser user
Return channel (RTC)
(a) 子午面図 Air
Radial suction port
15 2.3 φs=0.063遠心ブロワ段の高性能化
2.3.1 羽根車の設計
まず,φs=0.063の遠心ブロワ段の羽根車に関する設計検討結果について説明する。
表 2.1に,従来2次元遠心羽根車の主要諸元を示す。表に示すように,従来羽根車の羽根 車外径D2=925mm,羽根車回転数N=3550min-1であり,羽根枚数Zimp=19,出口羽根角β2b=44°
の2次元羽根を有するクローズドタイプの遠心羽根車である。
この従来羽根車に対し,羽根車を高性能化するための設計検討を,以下の通り実施した。
まず羽根形状については,製造コストが増加しないよう,従来羽根車と同様の2次元羽根を 適用することを基本方針とする。その上で,子午面形状や羽根枚数,羽根形状に関する形状 最適化を実施し,従来羽根車と同等の作動範囲を維持しつつ高効率化を狙う。
短期間で設計検討を終えることを主眼に置き,本検討では羽根車の形状最適化を,内製の 1 次元式性能予測ツール(3)(4),およびこれを利用した形状パラメータ最適化プログラム(2)に より実施した。本1次元式性能予測ツールは,作動流体が気体である遠心式流体機械におけ る羽根車やディフューザ,リターンチャネルなどの各要素について,流れに基づく損失を簡 単にモデル化し,流れと損失との関係を実験などで得られた定数などを含んだ形で数式化
表 2.1 羽根車の主要諸元比較(数値は設計点流量での値)
Conventional Optimized
Suction flow coefficient φs 0.063
Outlet diameter D2 925mm
Rotation speed N 3550min-1
Peripheral Mach number Mu2 0.50
Number of blades Zimp 19 15
Outlet blade angle β2b 44° 45°
Meridional shape of shroud - Straight-line One-arc
Shape of blade camber line - One-arc Quadratic curve
Throat area Ath 69146mm2 68346mm2
Deceleration ratio W1/W2 1.13 1.17
Incidence angle i1 -3.4° -2.1°
Throat deceleration ratio
normalized by that of conventional impeller W1/Wth 1.00 0.98
Degree of reaction Λ 0.59 0.63
Impeller efficiency improvement Δηimp - +1.1%
Stage efficiency improvement Δηad - +2.1%
16
したものである。各要素の主要諸元を入力し,更にガス物性や流量などを指定することで,
各要素の代表位置における圧力や温度,密度,ガス流速や,損失ヘッドなどを見積もること ができる。一方,上記の形状パラメータ最適化プログラムは,指定した全ての形状パラメー タをそれぞれ独立に変化させることが可能である。前記の1次元性能予測ツールにより,全 ての形状パラメータの組み合わせで構成される羽根車の性能を予測し,効率の高い形状パ ラメータの組み合わせを探索する。探索結果は予測段効率が高い順に出力され,効率の高い ケースから順に羽根車の形状パラメータを確認することができる。
検討を開始するにあたり,羽根車に関する以下の設計諸元は固定した。シュラウド側の子 午面形状については,半径方向吸込流路からの流れをより滑らかに羽根車入口から出口ま で導くため,従来の直線形状から1円弧形状に変更した。羽根枚数Zimpについては,流路摩 擦損失低減のため従来の19枚から低減することにした。事前に1次元性能予測ツールによ り予測したZimp低減による摩擦損失改善効果は,羽根枚数を2枚低減する毎に凡そ0.4%で あった。Zimpを低減し過ぎると,羽根車出口におけるすべりが大きくなって圧力が低下した り,羽根1枚当たりの翼負荷が増大して失速が早まったりする可能性がある。最終的に羽根 枚数は,従来より4枚低減したZimp=15とすることにした。出口羽根角度β2bは,従来とほ
ぼ同一の 45°とした。羽根のキャンバーライン形状は,羽根車内部における減速分布の自
由度を上げるため,従来の1円弧形状に対して2次曲線形状に変更した。図 2.2に,2次曲 線形状で定義される羽根のキャンバーライン形状の説明図を示す。図に示すように,横軸に 示される無次元半径位置が0%(羽根前縁),100%(羽根後縁),および50%(前縁と後縁の 間の中間点)における羽根角度をそれぞれ指定し,本図中でこれら3 点を結ぶ 2 次曲線と して,キャンバーラインの羽根角分布を無次元半径位置の関数として定義する。
Normalized radius R [%]
Blade angle β b [deg.]
0 50 100
β 1bβ2bβmb
Quadratic curve (R vs. βb)
図 2.2 羽根のキャンバーライン形状(2次曲線)
17
以上を固定した上で本検討では,探索する羽根車形状パラメータを,入口羽根角度 β1b, 中間点羽根角度βmb,羽根入口流路幅b1,羽根出口流路幅b2とした。これらの諸元を振って 全ての形状パラメータの組み合わせで性能予測を実施する。従来この際,羽根車単体の効率 だけでなく,羽根車の反動度 Λ の変化がディフューザやリターンチャネルにおける全圧損 失に与える影響も考慮するため,上記形状パラメータの組み合わせで定義される全ての羽 根車に対し,VLD ならびにディフューザ下流の出口損失要素を組み合わせた遠心ブロワ段 として性能を評価することにした。ここで,Λは式(2.2)で表される。また前記の出口損失要 素は,別途導出した従来リターンチャネルにおける式(2.3)で表される全圧損失係数ζrtcに対 し,ディフューザ出口の動圧(0.5ρ4C42)を乗じることで,ディフューザ出口下流における 全圧損失を見積もった。
22 12
1 2 th
Λ C C g H (2.2)
2
rtc Pt4 Ptstage_outlet 0.5 4C4
(2.3)
上記の手法にて,羽根車効率を改善するための設計パラメータ探索は可能である。一方で 羽根車の低流量側失速マージンについては,上記の検討のみでは評価ができない。特に本検 討では,流路摩擦損失が主要な損失発生要因の 1 つであると推測される比較的比速度の低 い羽根車を検討対象としている。このような仕様の羽根車において効率を改善するための1 つの有効な方法は,羽根車出入口間での相対速度の減速比W1/W2を大きくし,流路摩擦損失 を低減することである。また表 2.1に示すように,従来羽根車の設計点におけるインシデン
スi1=-3.4°であり,これをゼロインシデンスに近づけることも,羽根車効率改善に対して有
効である。しかしながら,羽根車の減速比やインシデンスを単に大きくして羽根車効率の改 善を図ってしまうと,効率は高いが失速マージンの狭い羽根車を選択することになってし まう。失速マージンを維持しつつ羽根車効率改善を図るには,設計点および低流量側の複数 の流量点で羽根車性能を評価する必要がある。しかしながら,1次元式性能予測で新たに設 計した羽根車の失速特性を評価することは困難であり,CFD による設計点および低流量側 の複数流量点での評価が必要となる。だが,形状パラメータを振って設計した多数の羽根車 を搭載した遠心ブロワ段の全てで,CFD による複数流量点の性能評価を実施するには,多 くの検討時間を要してしまう。
そこで本検討では,従来羽根車と同等の失速マージンを維持しつつ羽根車の高効率化を 図るため,設計点流量における各ケースの羽根車出入口減速比W1/W2,羽根車の羽根前縁か らスロートまでの減速比W1/Wth(以下,スロート減速比),インシデンスi1の値をチェック することにした。特にW1/Wthについては,過去に実施した複数の2次元遠心羽根車のモデ ル試験実績から羽根車失速マージンとの相関があることが判明している。図 2.3に,過去
18
に実施した複数の 2 次元遠心羽根車のモデル試験結果から得られた,スロート減速比と失 速マージンの関係を示す。図の横軸は,図中にて青色丸印で示されたある一つの2次元遠心 羽根車モデル(Baseline)におけるスロート減速比の値を基準にした,他のモデル羽根車の 無次元スロート減速比を示す。図の縦軸は,同様にBaseline羽根車を搭載した段の実測失速 マージンを基準にした,他のモデル羽根車段の無次元失速マージンを示す。図中には,全て のプロットに対する最小二乗近似直線をあわせて黒色破線で示している。図より,バラつき はあるものの,スロート減速比と失速マージンとは相関があること,スロート減速比が小さ いほど失速マージンは増加する傾向にあることが読み取れる。そこで本検討では,W1/Wthの 値が従来羽根車を超えないよう,上限を設けることにした。また同様に,羽根車出入口減速 比W1/W2についても,従来羽根車の値(W1/W2=1.13)に対して極端に大きくなることがない ように上限を設けることにした。具体的には,従来羽根車に対しておよそ減速比 15%増加 までは許容し,W1/W2=1.30 を上限とした。そして,スロート減速比および出入口減速比が 前記上限以下となる条件を満足している羽根車について,それら羽根車を搭載した段の中 でなるべく効率が高くなるケースを選択することにした。
以上の手法にて,羽根車の形状最適化を実施した。最終的に選択した最適羽根車の諸元 を,従来羽根車と比較して表 2.1に示す。また,図 2.4(a)に従来ならびに最適羽根車の子
y = -2.0467x + 3.0643
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8
0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2
Normalied stall margin of impeller [-]
Normalized throat deceleration ratio [-]
Baseline
図 2.3 2次元遠心羽根車のスロート減速比と失速マージンの相関
19 20
25 30 35 40 45 50
0 20 40 60 80 100
Blade angle βb[deg.]
Normalized radial position (R-R1)/(R2-R1)×100 [%]
Conventional
Optimized Throat Position
New impeller (Solid line)
Conventional impeller (Dotted line)
Throat position
(a) 子午面形状比較
(b) 羽根角分布比較
図 2.4 羽根車の形状比較
20
午面形状比較を,図 2.4(b)に従来ならびに最適羽根車の羽根角分布比較を,それぞれ示す。
表 2.1 に示すように,最適羽根車のW1/W2およびi1は従来羽根車に対し増大した。その結 果,最適羽根車の設計点流量における羽根車効率は,従来羽根車に対し 1.1%向上する見込 みを得た。更に最適羽根車では,従来羽根車に対してΛが増加した。その結果,静止流路部 の損失も減少し,最適羽根車搭載段の段効率は従来段に対して2.1%向上する見込みを得た。
一方,最適羽根車のW1/Wthは,従来羽根車とほぼ同等の値を維持している。図 2.4(b)に示さ れるように,最適羽根車の羽根前縁付近の羽根角分布の増加の勾配は,従来羽根車に対して 小さくなっている。従って最適羽根車では,スロート面積Athの増加が抑制され,その結果 W1/Wthが従来羽根車とほぼ同等になったものと考えられる。
以上より最適羽根車では,従来羽根車同等の失速マージンを維持しつつ,段効率を改善で きる見込みを得た。
2.3.2 ディフューザの設計
一般に LSDでは,設計点流量における効率と失速マージンとはトレードオフの関係を有 すると言われている。従ってLSDの設計では,このトレードオフのバランスをとることが 重要である。これまでに,LSD の効率と失速マージンに影響を与える設計パラメータを明 らかにしようと試みた,多くの研究事例が存在する(Prasad, et al. (39), ほか)。これらの先 行研究では,設計点流量でのインシデンス i3v,小弦節比ディフューザで実現される転向角 Δα,およびディフューザ翼の弦節比 σ が,効率と失速マージンのトレードオフに大きな影 響を与える主要な要因であることが示されている。
本項では,LSDの設計パラメータを最適化する。LSDの設計パラメータを最適化するに あたり,本検討では実験計画法で用いられるL18直交表ならびにCFDを利用することにし た。L18直交表により設計パラメータを割り付けた18ケースのLSDを設計し,設計流量点 におけるLSD部で発生する効率低下量をCFDで算出する。更に,各設計パラメータの効率 低下量に対する感度解析を実施し,最適な設計パラメータの組み合わせを決定する。その際,
i3vとΔα,σの値は,設計点効率だけでなく失速マージンも考慮して適切な値を決定する。
本検討手法により,設計点流量におけるCFDのみで,LSDの設計点効率と失速マージンの トレードオフを最適化することを狙う。
表 2.2に,L18直交表を用いて割り付けた8つの制御因子(設計パラメータ)と水準,な
らびに参考情報を備考欄に記した表を示す。表 2.2に示すように,効率と失速マージンのト レードオフに対して影響の大きいi3v,Δα,σのほか,図 2.5に示すディフューザ部およびそ の下流の U ターンベンド部の子午面形状に関する設計パラメータを制御因子として選択し た。ここで,i3vは前述の1次元式性能予測ツールを用いて算出した。またΔαは,内製のデ ィフューザ部1 次元式流れ解析ツールにより算出した。本ツールでは,LSD翼の入口流れ 角や入口反り角,食い違い角などの設計諸元を入力することで翼の座標点列データを作成 し,更に内製の非粘性流体解析コードにより出口流れ角を算出できる。なお図 2.1(b)示す
21
表 2.2 小弦節比ディフューザL18直交表
Design variables Level
Remarks
1 2 3
Number of vanes Zvd 12 13 - Set considering rotor-stator interaction noise
Incidence i3v -3.0° 0.0° 3.0° Conventional level=3°
Vane inlet radius ratio R3v/R2 1.075 1.100 1.125 Ranging from -2.5% to 2.5% of conventional level (=1.100)
Solidity σ 0.70 0.80 0.90 Conventional level:0.76
Turning angle Δα 4.0° 6.5° 9.0° Conventional level:6.2°
Bend curvature ρ/b4 0.80 1.00 1.20
Ranging approximately from -20% to 20% of conventional level (=0.96) Passage width ratio b45/b4 0.95 1.00 1.05 Ranging from -5% to 5% of
conventional level (=1.00) Passage width ratio
at outlet b5/b4 1.00 1.20 1.40 Conventional level:1.20
Return channel
Impeller Diffuser
b45
ρ b5 b4
U-turn bend
R2
R3v L-turn bend
図 2.5 ディフューザ性能最適化における子午面設計パラメータ
22
ように,従来のLSDは翼厚みが一定の反り付き板翼であった。一方,本検討では従来に対 する失速特性の向上を狙い,LSDの翼断面形状をNACA63翼型に変更した。
以上により18ケースのLSDの形状を設計した後,CFDにより設計点流量におけるLSD の性能を評価した。解析メッシュの例を,図 2.6に示す。図に示すように,羽根車出口から U ターンベンド出口までの区間を一翼間分モデル化し,解析用のヘキサメッシュを作成し た。解析モデルと解析メッシュはそれぞれ,市販ソフトウェアANSYS BladeGen(40)とAnsys
TurboGrid 11.0(41)を用いて作成した。解析メッシュの節点数は,約360,000である。
本解析メッシュを用い,市販ソフトウェアAnsys CFX 11.0(42)による圧縮性定常 Reynolds Averaged Navier-Stokes(RANS)解析を実施した。作動ガスは,理想気体の空気とした。乱 流モデルには,CFXに搭載されているShear Stress Transport(43)(以下,SST)モデルを,壁 関数とともに用いた。入口境界条件には,2.3.1 項で述べた形状最適化後の羽根車について の1次元式性能予測結果から,羽根車出口の全温と全圧,ならびに流れ角を算出して付与し た。出口境界条件には,質量流量条件を付与した。また,解析メッシュの周期境界面には周 期境界条件を付与した。以上の設定で解析を実施し,静止流路部における効率低下量を算出 した。この際,LSDおよびUターンベンドの設計結果が,それより下流側の要素における 損失に与える影響も考慮することにした。具体的には,図 2.1に示す従来リターンチャネル と同一の全圧損失係数ζrtcを有する出口損失要素を想定し,本解析の出口境界における動圧 成分の予測結果を元に,それより下流側で生じる全圧損失を考慮した。
図 2.7に,解析結果から導出した静止流路部の効率低下量に関する要因効果図を示す。図 中の矢印は,従来のLSDの各設計パラメータの値を示している。図より明らかなように,
i3vとΔαが効率に対して大きな影響を及ぼす因子である。だが,効率が最も高い水準を選択 Inlet boundary
Outlet boundary U-turn bend
LSD
図 2.6 LSD解析メッシュ
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すると,低流量側の作動範囲が狭まってしまう。要因効果図から,失速マージンを重視して i3vとΔαを今回設定した水準の範囲内で最も小さいそれぞれ-3.0゜,4.0゜に設定したとして も,効率低下量はせいぜい0.6%ほどであると考えられる。またσに関しても,効率への影 響は小さい。従って,i3vとΔα,ならびにσについては,失速マージンを重視してそれぞれ
-3.0゜と4.0゜,0.70を選択した。
Zvdについても効率に対する影響がほとんどないため,現状と同一の13枚を選択した。ま た,R3v/R2についても効率に対する影響は小さく,現状と同一の1.100を選択した。b45/b4は,
要因効果図で効率低下の小さかった0.95を選択した。
一方でb5/b4とρ/b4とについては,値を大きくすると効率が改善する傾向にあることが要 因効果図より読み取れる。しかしながら,これらの値を大きくすることはブロワ各段の軸方 向長さの増大をもたらし,回転軸長が増大してロータダイナミクスの観点からは望ましく ない。そこでb5/b4とρ/b4についても,従来同等のそれぞれ1.00,1.20を選択した。
以上で選択した各設計パラメータの水準を,図中に丸印で示す。これら値を用いて新たに 最適LSD を設計した。そして,図 2.6 に示したものと同様の解析モデルにて CFDを実施 し,設計点流量における段効率低下量を評価した。その結果,最適LSD は,現状と比較し て入射角,転向角の値を小さくしながらも,狙い通り設計点流量における効率低下量を,従 来LSDと同等にできていることを確認した。続いて低流量側特性を確認するため,設計点
流量の60%流量点(60%Q)に相当するφs=0.038にて,従来LSDおよび最適LSDの双方の
CFDを実施した。図 2.8に,CFDの予測結果から得られた,60%Qにおける両LSD内部の 流線の比較を示す。図から分かるように60%Qにおいては,従来LSDでは翼負圧面に剥離 領域が確認できる。一方で最適LSDでは,同流量においても明確な剥離域は見られない。
以上より最適LSDでは,従来LSDと同等の設計点効率を維持しつつ,従来LSD以上の失 速マージンを実現できる見込みを得た。