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高効率高圧縮比ガソリンエンジン

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Academic year: 2021

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低温酸化反応を活用した

高効率高圧縮比ガソリンエンジン

1. はじめに

 ガソリンエンジンは理想的には定容 サイクルで近似でき,その熱効率ηは 以下のとおりである.

  η= 1 −(1/ε)κ−1

 ここで,εは圧縮比,κは比熱比で あり,圧縮比を高めることができれば 熱効率は高くなる.しかしながら,通 常,圧縮比を高めるとガソリンノック が発生する.これは図 1に示すように,

火花点火による火炎伝播で既燃領域が 膨張して未燃領域が圧縮され,火炎面 が到達しないうちに未燃領域が自己着 火を起こす.その結果,未燃領域の爆 発による圧力波がシリンダ内で発生 し,激しい圧力振動によりノック音と なる.最悪の場合,ピストンおよびシ リンダの破壊に至る場合もある.その ため,通常は点火時期を遅らせてノッ クを回避するが,このときエンジント ルクは低下してしまう.このため,高 効率化には高圧縮比化が有効であるこ とは既知の事実であるものの,ガソリ ンエンジンの圧縮比には限界があり 10〜11 程度が一般的であった.

2. 開発の進め方のポイント

 圧縮比を通常から大きく高めて 15 まで変化させた際の全負荷での図示平 均有効圧(BMEP)を図 2に示す.前 述のノックにより圧縮比 11 から 13 で は BMEP が低下するものの,13 から 15 では,ほぼ一定となる現象が見つ かった.従来とは異なるこの現象を積 極的に活用したエンジンを実用化する ためには,そのメカニズムを燃焼反応 に基づいて理解することが重要であ る.ガソリン混合気の化学反応の計測 は困難であるため,数百から数千の素 反応過程を考慮した数値計算が必須で ある.また,エンジンシリンダ内の現 象を模擬するためには,その流動を記 述するための数値熱流体解析が必要で ある.そこで,本研究開発では詳細な 素反応過程を考慮した化学反応シミュ レーションを数値熱流体解析コードに 実装した計算コードを開発し,これと エンジン実験により圧縮比が反応性流

体場に及ぼす影響を調査した.

3. 高圧縮比エンジン実現の方策

 高圧縮比化した際に,BMEP が低 下せずほぼ一定となる現象を分析した 結果,低温酸化反応を活用したもので あることがわかった.図 3に示すよ うに,ある程度以上圧縮比を上げると,

低温酸化反応が上死点近傍で起こる.

低温酸化反応はガソリンに含まれる燃 料分子の緩慢な酸化反応により生じる 発熱反応で,この分だけシリンダ内圧 力が増大する.図 4は異なる圧縮比 での - 線図を表しており,この線 図で囲まれる面積が大きいほど,エン ジンの仕事量は大きい.圧縮比 15 の エンジンにおいて,火花点火前の低温 酸化によって上死点付近でシリンダ圧 力が増大し, - 線図での面積が増大 している.このため,低温酸化が発生 しない場合に比べて BMEP,すなわ ちトルクが向上できていることがわ かった.

 この現象に加えて従来の圧縮比並み のトルクに回復させるためにガソリン ノック改善の従来の考え方に基づいて トルク改善を図った.まず,ノック改 善には,未燃混合気が自己着火する前 に火炎で燃焼させる急速燃焼が有効で ある.図 3に示したように,燃焼室 の中央部付近で起こる低温酸化反応は 混合気温度を上昇させるため火炎伝播 速度が向上する.そこで高圧縮比で圧 縮上死点での燃焼室容積が少ない中,

低温酸化をより起こしやすくしつつ,

火炎の発達を妨げないようキャビティ 付きピストンを考案した.これにより,

火炎の成長を阻害することを回避して 急速燃焼が可能となった.

 その結果,図 5に示すように従来 の圧縮比と同等のエンジントルクを得 ることができ世界一高い圧縮比 14 を 実用化した.燃費率は機械抵抗の低減 とあわせて低・中負荷域において 15%

改善を達成した.

4. おわりに

 このような,化学反応速度論から得 られる知見を高効率化に役立てたガソ

リンエンジンの量産化は世界初であ り,今後は,より多種の化学反応機構 の解明や,数値流体計算技術の向上へ 大きく寄与するものと考えられる.

(原稿受付 2013 年 8 月 30 日)

〔山川正尚・養祖 隆 マツダ(株),

草鹿 仁 早稲田大学〕

未燃領域

既燃領域

自己着火の発生

図 1 ノック発生過程の可視化

700 800 900 1 000 1 100

10

圧縮比 (−)

図示平均有効圧(kPa)

1 500rpm 全負荷 ノック限界点火時期

11 12 13 14 15 16 図 2 圧縮比と図示平均有効圧

排気側 吸気側 700K 圧縮比=14.0

(数値計算)

900K

図 3 燃焼室断面の温度分布

1 500rpm 全負荷 点火時期8 ATDC

容積(cc)

0 1 000 2 000 3 000 4 000

0

圧力(kPa)

圧縮比 11.2

圧縮比13.0 圧縮比=15.0  点火

100 200 300 400 500 600

図 4  - 線図

140 150 160 170 180 190 200

1 000

機関回転速度(rpm)

トルク(Nm) 圧縮比11.2

圧縮比15.0 全負荷

圧縮比14.5 キャビティ付き 2 000 3 000 4 000 5 000 6 000 7 000

図 5 エンジントルク比較

─ 59 ─

日本機械学会誌 2013. 12 Vol. 116  No.1141 867

参照

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