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名古屋大学構内の水田におけるマルタニシ

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Academic year: 2021

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なごやの生物多様性 5:119-120(2018)

記録

名古屋大学構内の水田におけるマルタニシ

Cipangopaludina chinensis laeta(Martens, 1860)の確認事例

野呂 達哉

(1)

  川瀬 基弘

(2)

(1)なごや生物多様性センター 〒 468-0066 名古屋市天白区元八事五丁目 230 番地

(2)愛知みずほ大学人間科学部 〒 467-0867 愛知県名古屋市瑞穂区春敲町 2-13

Cipangopaludina chinensis laeta (Martens, 1860) found in a paddy field in Nagoya University

Tatsuya NORO(1)  Motohiro KAWASE(2)

(1)Nagoya Biodiversity Center, 5-230 Motoyagoto, Tempaku-ku, Nagoya 468-0066, Japan.

(2) Department of Human Science, Aichi Mizuho College, 2-13 Shunko-cho, Mizuho-ku, Nagoya, Aichi 467-0867, Japan

Correspondence:

Tatsuya NORO E-mail: [email protected]

採集記録

マルタニシCipangopaludina chinensis laeta (Martens,

1860)は,酒井(2002)による 1990 年頃の守山区志段 味地区での記録を最後に名古屋市内からは長らく確認さ れていなかった.すでに市内からは絶滅した可能性が高 いと考えられていたが,2013 年になって中川区の水路 で再発見された(川瀬・石黒,2015).しかし,これ以降,

市内の他の地域からはまったく報告がなかった.

2016 年 6 月 26 日,著者の一人の野呂が,子供と昆虫 採集のために名古屋市千種区東山元町 6 丁目にある名古 屋大学構内の水田(N 35°09'15.5",E 136°58'20.6")を訪 れたところ,水田の水底に数個体のタニシ類が潜んでい るのを発見した.このタニシ類を手に取って観察したと こ ろ, 市 内 に 多 産 す る ヒ メ タ ニ シ Sinotaia quadrata histrica とは明らかに殻の形状が異なっていたため,標 本として持ち帰った.その後,なごや生物多様性センター の標本として仮収蔵し,後日,著者の一人である川瀬が 確認したところ,マルタニシと同定された(図 1).

今回の確認場所である名古屋大学の構内には,農学部 の研究用として水田が整備されている(図 2).この水 田はコンクリートの三面張り水路(図 3)で囲われてい るが,側壁の高さは 20 cm 程度と低く,小規模なもので ある.さらに水路の水底には植物が繁茂し,畦は土壌で

形成されているため,水田に生息する生物にとっては比較 的良好な環境が保たれている.現在でもアマガエル Hyla japonica やトノサマガエル Pelophylax nigromaculatus と いった水田環境を選好する種が生息している(野呂,未 発表).元々,名古屋大学の構内は,市内東部丘陵に広 がる緑地と繋がっていたことから,現在でも一部に樹林 地や湧水湿地を残しており,ヒメボタル Luciola parvula やヒメタイコウチ Nepa hoffmanni といった移動性に乏 しい残存的な種が生息している(松田ほか,2010;野呂,

未発表).名古屋大学の周辺は都市化が進行し,すでに 図 1 .名古屋大学構内の水田(名古屋市千種区東山元町6丁目)

で採集したマルタニシ.

― 119 ― ISSN 2188-2541

(2)

水田環境は皆無であるが,1920 年代の地図(国土地理 院 1/25000「名古屋南部」大正 9 年測図・大正 12 年 12 月 28 日発行)の地図記号を確認すると,現在の水田の西 におよそ 150 m 離れた地点から鏡ヶ池までは,「乾田」

の記号が,また,東におよそ 500 m 離れた現在の東山動 植物園の上池周辺には「水田」の記号が表記されている.

その他,かつての生物相が垣間見られる記述も残されて いる.高嶺(1967)によると,昭和 17 年頃,現在の農 学部東南には清水の小池があって,小型のサンショウウ オやカワバタモロコ,コモウセンゴケ,イシモチソウ,

タヌキモ,ヒカゲノカヅラが見られたという.この小池 は,現在の水田の東側にあったと推測され,この場所に は今でも湧水湿地が残っている.このように,かつて周 辺地域には乾田や水田があり,現在の水田のあたりには 池や湿地が存在していたとすれば,構内の水田とその周 辺には隔離される以前から生息していた種が生き残って いる可能性もあり得る.今回確認されたマルタニシにつ いても当時からの残存個体群である可能性は十分に考え られる.しかし,一方で,過去に水田の泥等が他地域か ら運ばれてくるような事があったとすれば,今回のマル タニシも,その時にやって来た移入個体群である可能性 が生じる.今後,この水田の由来や採集したマルタニシ の DNA など,詳細を調べる必要があるだろう.

マルタニシは宅地開発による水田・水路の減少や圃場 整備によって生息環境自体が激減したと考えられること から,名古屋市のレッドリストで絶滅危惧Ⅰ A 類に選 定されている(木村,2004;川瀬,2015).今回,千種

区の名古屋大学構内の水田で新たに確認されたマルタニ シの個体群は,再発見された中川区の生息地とは隔離さ れた地域にあり,貴重な個体群であるのかもしれない.

引 用 文 献

川瀬基弘.2015.マルタニシ Cipangopaludina chinensis laeta(Martens, 1869).名古屋市の絶滅のおそれのあ る野生生物レッドデータブックなごや 2015―動物編

―,pp.392.名古屋市環境局環境企画部環境活動推進 課,名古屋.

川瀬基弘・石黒鐐三.2015.名古屋市内で再発見されたマ ルタニシ.なごやの生物多様性,2: 33-34.

木村昭一.2004.マルタニシ Cipangopaludina chinensis laeta(Martens, 1869).名古屋市動植物実態調査検討 会(監修).名古屋市の絶滅のおそれのある野生生物  レッドデータブックなごや 2004―動物編―,pp.272.

名古屋市環境局環境都市推進部環境影響評価室,名古 屋.

松田 学・大場由美子・小西哲郎・大場裕一.2010.名古 屋大学構内におけるヒメボタル幼虫の分布調査.名古 屋大学博物館報告,No. 26: 153-163.

酒井 類.2002.名古屋市守山区の淡水産貝類.かきつばた,

28: 15-17.

高嶺 昇.1967.開学当時の思い出.名古屋大學理学部 25 年小史編集委員会(編).名古屋大學理學部二十五年 小史,pp.97-98.名古屋大学理学部,名古屋.

図 2.マルタニシが確認された水田と周辺の環境. 図 3.水田を囲うコンクリートの三面張り水路.

― 120 ―

野呂ほか(2018) 名古屋大学構内の水田におけるマルタニシ Cipangopaludina chinensis laeta(Martens, 1860)の確認事例

参照

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