• 検索結果がありません。

日英機械翻訳の効果的活用に関する考察-「中間日本語」を作成する和文英訳方略の応用-

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "日英機械翻訳の効果的活用に関する考察-「中間日本語」を作成する和文英訳方略の応用-"

Copied!
15
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Consideration for Effective Use of Japanese-English Machine Translation: Application of an English Writing Strategy

石川 佳浩 麗澤瑞浪中学・高等学校

ISHIKAWA, Yoshihiro Reitaku Mizunami Junior and Senior High School

Abstract

To use machine translation effectively, it is necessary to do advance-editing which makes an original text easier to translate into the target language. Also, it is necessary for users of machine translation to know the target language grammar to do advance-editing.

In this research, to get suggestions for better use of machine translation, two Japanese university students were the research participants: “A” in the course for elementary school education and “B” in English Education. Participants of this research wrote one e-mail passage as they usually do, and one in being conscience of making it easier to translate into English. Both e-mails were written in Japanese. After that, these e-mail passages were translated into English by machine translation. The author analyzed the complexity of the output sentences, focusing on whether the meaning of these sentences was understandable. As a result, “A” produced appropriate sentences for machine translation.

On the other hand, “B” produced many complex sentences, and there were errors that make them hard to understand the meaning. In addition, the author applied the rules of machine translation being suggested in the previous research to the error sentences and proposed the application of a writing strategy to advance-editing of machine translation.

1.

はじじめめに

近年,機械翻訳(Machine Translation)の進歩が目覚ましく,かなりの精度で翻訳することが可能 となっている。しかしながら,まだ十分な翻訳精度が得られるとは言い難い。ますますグローバル化 が進み,多国籍化する現代社会において外国人に対する情報発信の重要性はますます高まって いる。

1

つの方法として,標識等に日本語のほかに英語や中国語等を併記することにより情報伝達

(2)

をする方法が考えられるが,多言語併記には限界があるだろう。日本で暮らす外国人にとって理解 しやすい日本語の研究としては,これまで「やさしい日本語」としての研究が存していた(庵,

2014

)。

また,

NHK

はその「やさしい日本語」での発信をする

Web

ページを開いている(

NHK NEWS Web Easy, n.d)。在日外国人に情報発信をする際にはNHKのようにふりがなをつけたり,文法的に複雑

ではない日本語による発信をしたりするというのは1つの方法と言えるだろう。他方では,より身近な 存在となりつつある機械翻訳により情報の受け手にとって理解しやすい言語に翻訳しやすい形で 発信する方法も考えうる。しかし,現状において機械翻訳の精度は十分とは言えず,巷では機械 翻訳を使用した,意味の通らない英語の誤文も増えている。日英語間の翻訳に関して言えば,英 日翻訳よりも日英翻訳のほうが難しいとされている。英語は「構造維持的な言語」なのに対し,日本 語は「非構造維持的な言語」であるからと考えられている(成田

, 2007, pp.217–218

)。したがって,

翻訳の精度を上げるには英語に訳しやすい日本語にする,「前編集」という作業が必要となり,そ れには目標言語の文法構造に関する理解が必要とされる(宮外

, 2017, p.35

)。そこで,本稿では新 しい機械翻訳というツールに着目し,「やさしい日本語」とは別の発信方法として提案する。加えて,

言語教育の分野ではあまり研究の蓄積がない,日本語話者の産出する日本語文を機械翻訳した 場合の誤文の特徴を明らかとし,英語に機械翻訳しやすい日本語文作成への示唆を得ることを研 究目的として設定する。今回は,大学での専攻の違いから日常的に英語に接する機会の異なる日 本人大学生2名に,普段書いているように1通,機械翻訳に通すことを意識して1通の計2通の電子 メールを書いてもらい,意味が通じなくなるような誤文を収集し,日本語文の文法構造の複雑さ,及 び機械翻訳後の英文の文法適合性の変化について考察した。

2.

先先行行研研究究

日本に滞在する外国人に対する日本語の研究としては、「やさしい日本語」に関する一 連の研究がある。「やさしい日本語」とは,外国人の日本語能力に合わせて情報を伝える ため,文法や語彙等をやさしくした日本語である(庵,2014)。

「やさしい日本語」に関する研究のなかで本稿の実験と類似しているのは,田中・美野

(2010)で実施されている実験である。田中・美野(2010)は特に日本語教授経験等を有 さない日本語母語話者

2

名に「やさしい日本語」構文条件を指示し,ニュースの書き換え 作業を行っている。その後書き換えられたニュースは日本語教師に評価され,①一定水準 の書き換えが得られた,②構文的には日本語能力試験出題基準の

3

級以下のやさしい文法 におさまっている,③分野固有の用語,固有名詞などを中心にかなりの難語が残ったとい う知見が得られたと結論づけている。田中・美野(

2010

)の研究は日本語のまま読まれる 日本語文を書くという点で本稿とは異なっているが,書き換え基準のなかには文を短くす る,連体修飾句のある複文を避け,単文とする等,機械翻訳前編集とも共通する部分も見 られ,次に紹介する山下ほか(2006)と合わせて本稿執筆の参考となった。

機械翻訳に関しては英語教育学のなかでは筆者の知る限りほとんど研究の蓄積がないが

(3)

入手できた論文の一つに

Gally

2018

) がある。

Gally

2018

) は,我が国の英語教育 の目的は,英語で情報を得たり,人々と交流したりするという「実用」か,他国の文化や 言語を理解し,英語を学ぶことにより日本語への気づきを促進し認知能力を養うという

「教養」かで議論されてきた歴史について述べ,もし「実用」目的なら機械翻訳の性能向 上とその効果的利用法への習熟により,すべての子どもたちに莫大な時間を使ってコミュ ニカティブな技能獲得への妥当性はますます弱まり,もし「教養」目的なら英語ではない 他の言語でもよくなり,英語であることの必然性が弱まるとした(Gally,2018,p.52)。

情報科学の分野の研究である,山下・坂本・野村・石田・林・小倉・井佐原(

2006

)は,

機械翻訳を活用したチャットによるやりとりの事例に着目し,そこでは原文を目標言語に 機械翻訳し,それをまた元の言語に翻訳して意味が通るかを確認する「折り返し翻訳」を 行って,また編集をするという作業が繰り返し行われていたことを観察した。そこでその 前編集にかかる手間を軽減するため,機械翻訳時に注意するべきルール(表

1

)を設定し,

それを研究参加者の日本人大学生

65

名中の

32

名に教示し,教示したグループと教示なし のグループで比較して検証した。教示の効果は書き換え回数と翻訳精度から算出される点 数により表した。結果として,①母語の知識が豊富なユーザはルール獲得が早かった,② 教示によりルール獲得が促進された,③原文をどのように変更するべきかを明示しない

「操作自由型ルール」より原文をどのように変更するべきかを明示した「操作指示型ルー ル」のほうが効果的だった,④教示の効果は母語知識が中程度のユーザが最も高かった,

⑤専門性や性別は書き換え作業に影響を与えなかった,ということが明らかとなった。山 下ほか(

2006

)におけるルールをまとめると以下の表のとおりとなる。

1

山下ほか(

2006

)における前編集のルール一覧

操作指示型ルール 操作自由型ルール

1 述語の明記 A 修飾関係は非交差条件を満たす。

2 主語の明記 B婉曲表現の回避 3 漢字表記 C曖昧表現の回避 4 格助詞の明記 D 口語表現の回避 5 目的語の明記 E 方言の回避 6) 不必要な同一語句の削除 F) 体言止めの回避 7 長文の分割 G 不完全文の回避 8 節と節の論理関係の明確化 H 受動態の回避

I慣用表現の回避

J 副詞句表現の回避

K 動詞の書き換え

(4)

宮外(

2016

)では,前編集の作業を機械にさせるシステムの提案をしている。これまで 前編集は翻訳者が行っていた。書き手の意図を明確に伝えるためには前編集から書き手が 行うべきであるが,前編集には目標言語の知識が必要ということ,書き手に前編集の効果 を実感するのは難しいということの問題がある。それを克服するためのシステムの機能に ついての実験を,日本人大学院生を対象に行った。研究の結果は,当該システムは,①書 き手への指示内容を長文の短文化,主語の加筆,および誤字脱字の指摘の

3

点に絞ること,

②書き手が前編集の効果を実感するために折り返し翻訳を画面に表示することの

2

点の示 唆が得られた。

一方で,機械翻訳の前編集に活用できそうな,英作文指導の研究として山岡(

2009

)が ある。山岡(

2009

)は,英語にするのに必要な文の要素を補い,英語の語順に日本語を書 き換えることによって,日本語から英語に訳す前に便宜上「中間日本語」という英語に訳 しやすい日本語を作る指導を研究参加者にした。その際に活用した「中間日本語」を作成 するためのモデルは,「だれが,なには/~する,である/だれ/なに/どこ/いつ/どのよう/なぜ」

というもので,田地野(1999)で示されたモデルを一部改変したものである。田地野

(1999)はこのモデルの長所として「省略を補える」ことを挙げており,この長所は機械 翻訳における前編集にも活きてくるものと考えられる。山岡(2009)は,このモデルを適 用することにより,単に訳しやすい形に日本語をパラフレーズするのではなく,学習者の 日本語力に依存せずに活用できる点で,習熟度の異なる学習者の英作文指導において有効 であると考察している。本稿においてはそのモデルを前編集で活用することを提案する。

3.

実実験験 3.1 実実験験参参加加者者

本稿においては,実験参加者の個人情報保護のため,「アヤ(Aya)」,B を「ミホ

(Miho)」と仮称し,置き換えることとする(明治安田生命 生まれ年別名前ランキング 平成元年

2

位,3 位より引用)。実験参加者は関西圏の大学に在籍する日本人女子学生

2

名(Aya, Miho(仮名))である。

まず,Aya は小学校の教員養成課程に所属する学部

1

年生の学生である。彼女は中学 校

3

年生のときに実用英語技能検定準

2

級を取得している。最近は英語力を確認するよう な試験等は受けていない。これまでの英語学習歴を尋ねると,英語学習が最も進んだのは 各技能によって違い,

Speaking

は中学生のとき,

Writing

は高校

2

年生のとき,

Reading

Listening

は高校

3

年生のときだと答えた。普段から機械翻訳を活用しており,「

LINE

英語」

を使用して外国人観光客に道案内をし,雑談までしたという。日本語文を英文に機械翻訳 し,それを機械翻訳でまた日本語文に翻訳して意味が通るかどうかを確認して,翻訳文の 妥当性を確認することを折り返し翻訳というが,Aya は普段から折り返し翻訳を活用して,

翻訳文の精度を確認している。機械翻訳を使いこなしている感がある。

(5)

一方で

Miho

は,中等英語教育専攻の学部

3

年生であり,中学校の英語科教員を目指し ている。彼女は

2018

年の夏に実用英語技能検定準

1

級を取得している。これまでで最も英 語学習が進んだのは高校

3

年生のときだと答えた。機械翻訳は普段使用しておらず,課題 等で英語を読んだり書いたりする必要が生じた場合には自分で訳している。

2

人の現在の英語力を把握するためのテストとして,実験参加者の負担を考え,Laufer

and Nation(2016)の語彙レベルテストを使用して英語力確認をした。2

人とも

2,000

語未

満という結果になった。

実験参加者は英語の講義の受講者や英語教育専攻の学生から募集した。そのうち,快諾 してくれた

2

名に実験参加を依頼した。実験前に実験内容を説明した。さらに個人が特定 できるような情報については公表せず,研究上必要最小限度の使用しかしないこと,また 得られたデータは研究発表以外の目的に使用しないこと等を説明して協力してもらった。

3.2 実実験験設設定定

実験参加者にはテーマに従い,2 通の電子メールを書いてもらった。テーマは尹(2016)

の実験で使用されたものをそのまま使用した。テーマは次のとおりである。

あなたが借りたいと思っている『環境学入門』という本が図書館にはなく,

面識のない田中先生の研究室にあることがわかりました。レポートを書くた めにはどうしてもその本が必要です。田中先生にそのことをメールでお願い してください。

本研究においては,実験参加者の言語能力や機械翻訳への適性や習熟といった部分に焦 点を当てており,電子メールの書き方をわかっているかどうかは射程におさめていない。

そのため電子メールでよく使用される構成も次のとおり指示した。①はじめのあいさつ,

②名乗りの文,③メールを送るに至った経緯(本が必要な理由,先生のところに本がある ことを知った経緯 等),④本の貸し出しの依頼,⑤終わりのあいさつという構成で書い てもらった。

メール

2

通のうち

1

通は特別な指示なしで普段書いているように書いてもらった。もう

1

通は,機械翻訳や翻訳者に訳させる際に英語に訳しやすい日本語文となるように,主語 述語を明確にするよう指示して書いてもらった。その後,収集したそれらの電子メールを

著者が「

Google

翻訳」にかけて,英語にした。

複雑さの日本語及び英語の文の複雑さの指標としては,複文の割合を調べるというのが 一般的である。本稿では,内容に自由度があまりないことから,この内容を表すのにどれ くらいの節を使用したかという尺度として複文や節の数を使用した。本稿の分析における 日本語と英語での節の操作定義であるが,日本語は主語を明記しないことがよくあるため,

(6)

「文や節のなかで述語相当の役割を持っている述語相当句を含んだまとまり」

(

石橋

, 1997 p.

71)

とし,英語においては「主語と定型動詞を備えているまとまり」とする。

4.

実験験結結果果とと考考察

研究参加者が産出した日本語文及び,それを機械翻訳した英文は下記,表

2

及び表

3

の とおりである。電子メールを書いてもらうというタスクの性質上,原テキストには参加者 のメールアドレス等の個人情報が書いてあったが公表するに適さないと判断し,伏せるこ ととする。

実験参加者の産出した原文には彼女らの本名や学籍番号が記載されているが,それらも アヤ(

Aya

)及びミホ(

Miho

)と置き換えた。また

B

の産出文には誤字が含まれていたが,

誤字による誤翻訳は,語彙・文法を考察対象とする本研究の目的の阻害要因となり得るた め,修正した。

2

実験参加者

A

の産出日本語文・機械翻訳産出英文対照表

日本語文 機械翻訳文

実 験 参 加 Aya

初めまして。

こんにちは。

私は天王寺キャンパスの1回生Aクラス アヤです。

現在私は「環境学入門」という本を探し ています。

図書館でその本を探していたところ,図 書館にはその本がなく,田中先生の研究 室にあるということを聞いたため,今回 メールを送らせていただきました。

「環境学入門」の本をお持ちでしたら,

私に貸していただけませんか。

よろしくお願いします。

それでは失礼致します。

(メールアドレス) アヤ

Nice to meet you.

Hello.

I am 1st class A Class Aya at Tennoji Campus.

Currently I am looking for a book called

"Introduction to environmental studies".

While I was looking for the book in the library, there were no books in the library. I heard that Mr.

Tanaka is in the laboratory, so I sent an email this time.

Would you please lend me a book with

"Introduction to environmental studies"?

Thank you.

Please excuse me.

Active mail A (e-mail address) Aya

初めまして。こんにちは。

私の名前はアヤです。天王寺キャンパス の大学1年生Aクラスです。

Nice to meet you. Hello.

My name is Aya. (a)It is a first grade A class of the Tennoji campus.

(7)

今,私は「環境学入門」という名前の本 を探しています。

私はその本を図書館で探していました。

しかし,その本はそこにありませんでし た。

その本は田中先生の研究室にあることが わかりました。

以上の理由で私は田中先生にメールを送 りました。

もし田中先生が「環境学入門」の本を持 っていれば,私にかしてほしいです。

よろしくお願いします。

さようなら。

(メールアドレス)アヤ

Now, I am looking for a book named "Introduction to environmental studies".

I was looking for the book in the library.

But the book was not there.

I found that the book is in the laboratory of Professor Tanaka.

For the above reasons I sent a mail to Dr. Tanaka.

If Professor Tanaka has a book on "Introduction to environmental studies", I would like you to give it to me.

Thank you.

goodbye.

(e-mail address) Aya

3

実験参加者

B

の産出日本語文・機械翻訳産出英文対照表 実 験

参 加 Miho

田中先生へ

初めまして。

私,大阪教育大学英語科専攻中学校コ–

3回生のミホです。

私が取り組んでいるレポートを書くため には,『環境学入門』という本が必要で あり,図書館にはなく,田中先生の研究 室にあるということを知り,お借りさせ ていただきたく,連絡させていただきま した。よろしければ,1 週間程貸してい ただけないでしょうか。

お返事お待ちしております。よろしくお 願い至します。

英語科専攻中学校コース3回生 ミホ

To Professor Tanaka

Nice to meet you.

I am Miho, the 3rd grader of ×× University English Language Course Secondary School Course.

In order to write the report I am working on, I need a book called "Introduction to environmental studies", I know that it is in the laboratory of Professor Tanaka, not in the library, I will let you borrow, let me borrow I had you. Would you please lend me around a week?

We look forward to your reply. Thank you for your consideration.

Junior High School Course 3rd course Miho

(8)

田中先生へ

初めまして。

私は大阪教育大学英語科専攻中学校コー 3回生所属のミホです。

私が今取り組んでいるレポートを書くた めに,『環境学入門』という本が必要で す。しかしながら図書館になく,田中先 生の研究室にあることを知り,お借りさ せていただきたいので,連絡させていた だきました。もしよろしければ,1週間 程貸していただけないでしょうか。

お返事お待ちしております。よろしくお 願いします。

英語科専攻中学校コース3回生 ミホ

To Professor Tanaka

Nice to meet you.

I am Miho, ×× University English Language Department, Junior High School Course 3rd class.

(b)In order to write the report I am working on now, I need a book called "Introduction to environmental studies". However, since I want to know that I am in the laboratory of Professor Tanaka but not in the library, I will contact you. If it's okay, would you please lend me around a week?

We look forward to your reply. Thank you.

Junior High School Course 3rd course Miho

当初は,訳しやすいようにと指示をすると,実験参加者は英語への訳しやすさを優先し,

「指示あり」のほうは日本語としての自然さについては犠牲になるものと想定していたが それほど犠牲になっていなかった。

参加者

Aya

については概ね「機械翻訳を意識する」ということがうまくいっている。機 械翻訳を通して産出された英文を見ると,社会文化的に,あるいは冗長で不自然という箇 所は見受けられるものの,意味内容の伝達という面においては意味が通じなくなる文が一 文(下線部(

a

))あるもののほかは一応意味が通じていると判断することができる。一方 で参加者Mihoは「指示あり」文においても意味を誤解させる誤りが含まれており,あまり うまくいっていないように思える。この違いは文の切り方にあると解する。両者共,「指 示あり」で文を書く時には,英語を意識したと筆者の質問に答えており,参加者

Aya

は自 分の頭の中の「英語」と照らし合わせ文を細かく切っている。一方,参加者

Miho

は「指示 あり」の文においても依然として複文が多くなっている。統語的な複雑性を考えるために,

機械翻訳を通した後の英文に着目すると,参加者

Aya

の産出文と参加者

Miho

の産出文を機 械翻訳した英文の接続詞,接続副詞,関係詞等の数を数えると,参加者

Aya

の文は

3

か所,

参加者

Miho

の文は

6

か所(

1

か所は関係詞の省略(下線部(

b

)))確認できる。参加者自 身が産出した和文に着目して,産出された日本語文の複文の数と節の数を以下の表にまと めてみる。比較的うまくいった参加者

Aya

の「指示あり」の文では複文は

1

つしかない。

(9)

その

1

文も節間の意味の関係が明確であり,「英語に翻訳しやすい日本語」という指示にふ さわしい文になっている。一方,参加者

Miho

の産出文は複文が

3

つあり,そのうちの

1

つ は節が

5

つもあり,かなり統語的に複雑となっている。その

5

つ節がある文はやはり翻訳 がうまくいっていない。

4

複雑さの分析:複文数及び節数による検討

複文数 複文 節数

実 験 参 加 Aya

2 図書館でその本を探していたところ,/ 図書館にはその本がなく,/ 田中先生の研究室にある / ということを聞いたため,/ 今回メール を送らせていただきました。

5

「環境学入門」の本をお持ちでしたら,/ 私に貸していただけませ んか。

2

1 もし田中先生が「環境学入門」の本を持っていれば, /私にかして ほしいです。

2

実 験 参 加 Miho

2 私が取り組んでいるレポートを書くためには,/『環境学入門』と いう本が必要であり,/ 図書館にはなく,/ 田中先生の研究室にあ る / ということを知り,/ お借りさせていただきたく,/ 連絡させ ていただきました。

7

よろしければ,/ 1週間程貸していただけないでしょうか。 2

3 私が今取り組んでいるレポートを書くために,/ 『環境学入門』と いう本が必要です。

2

しかしながら図書館になく,/ 田中先生の研究室にある / ことを知 り,/ お借りさせていただきたいので,/ 連絡させていただきまし た。

5

もしよろしければ,/ 1週間程貸していただけないでしょうか。 2

一般的に第二言語習得の分野では,習熟度の高い学習者のほうがより複雑な文を産出す ると考えられる。参加者

Miho

は英語教育専攻に所属し英検準

1

級を取得しており,複雑な 構造の文に日常的に出会っていると考えられる。そのことが参加者Mihoの英語に関する認 識に影響したことと,機械翻訳を日常的に使用していないため,複雑な文を産出させたの ではないだろうかと推測される。また複文よりも単文のほうが,機械翻訳がうまくいくと

(10)

いうことが確認できたと思う。

山下ほか(

2006

)では,機械翻訳使用時の注意点を研究参加者に教示して,母語のみを 使用して機械翻訳で原文の意図を正確に伝えるタスクをしている。その注意点を参加者

Miho

の「指示あり」文に当てはめて誤翻訳の原因を考えてみる。

5

研究参加者

Miho

の産出文への山下ほか(2006)のルールのあてはめ 研究参加者Mihoの産出文 機械翻訳の産出英文 違反ルール 私は××大学英語科専攻中学校

コース3回生所属のミホです。

I am Miho, × × University English Language Department, Junior High School Course 3rd class.

E)方言の回避

しかしながら図書館になく,田 中先生の研究室にあることを知 り,お借りさせていただきたい ので,連絡させていただきまし た。

However, since I want to know that I am in the laboratory of Professor Tanaka but not in the library, I will contact you.

2 主語の明記 5 目的語の明記 7 長文の分割

8 節と節の論理関係の 明確化

山下ほか(

2006

)で示されたルールのなかに方言の回避がある。本件例で言うと,「

1

回 生」,「3 回生」という表現は,西日本に位置する大学のみで使用されている用語であるた め,機械翻訳が認識できなかったと考えられる。また,参加者

Miho

の「指示あり」の次の 文「しかしながら図書館になく,田中先生の研究室にあることを知り,お借りさせていた だきたいので,連絡させていただきました。」は翻訳に失敗している。山下ほか(2006)

におけるルールに当てはめてその原因を考えると,各節には主語が欠落していることから

2

)「主語の明記」に反している。また,上記のとおり節が

4

個もある複文になっており,

7

)「長文の分割」ができていない。各主語に着目し,冗長となることを承知で主語を補っ て考えてみると,「しかしながら(その本は)図書館になく,(私は)研究室にあることを 知り,(私は)お借りさせていただきたいので,(私は)連絡させていただきました。」と なり,第

1

の節と他の節の主語が異なっており,機械翻訳のその点の誤訳は

2

)と

7

)に反 しているのが原因であると考えられる。またこの箇所は「~を知り,お借りさせていただ きたい。」の部分でなにを借りるのか目的語が欠けており、5)目的語の明記への違反,さ らに前の節と後の節の接続関係も曖昧となっている点で

8)「節と節の論理関係の明確化」

にも反していると考えられる。

本稿では,意味内容の伝達において誤解が生じるかどうかを中心に考察していることを 考えると主語に由来する誤りは文の意味伝達に大きく影響するという点で重要である。主 語を明記するという方略は改善が容易であるため,すぐに機械翻訳使用に寄与することが

(11)

できるだろう。

また主語の認識にも問題がある。参加者

Aya

の「指示あり」の文はかなり改善されてい るが,

It is a first grade A class of the Tennoji campus.

という文は原文の意図を正確に伝えてい ない。原因は原文の対応部分に主語が抜けているからであると解する。そこで,和文英訳 のモデルを機械翻訳に導入することを提案する。山岡(2009)は,田地野(1999)の英文 産出モデルを一部改変し,「だれが,なには/~する,である/だれ/なに/どこ/いつ/どのよう/

なぜ」というモデルに当てはめていき,和文英訳を指導し,報告している。田地野(1999)

はこのモデルの長所として,「省略を補える」ということを挙げている(

pp.107

108

)。こ のモデルは本来,日本語を英語の語順に並び替え,英作文の手助けをするものであるが,

「省略を補える」という長所は機械翻訳の前編集においても役立つと考える。また当該モ デルは複文を作ることを想定していないように思うため,単文の産出を強要するという点 においても役立つものと考える。

以下,本実験で参加者

Aya

及び

Miho

が産出したいくつかの文に,和文英訳モデルを当て はめ,その後機械翻訳にかけて出力された英文がどのようになるか見てみる。まず参加者

Aya

の文に当てはめる。まず意味の伝わる英語に機械翻訳されている例である。

1. 「今,私は「環境学入門」という名前の本を探しています。

」へのモデル適用例

誰が なには

~する である

だれ なに どこ いつ どのよう なぜ

私は 探す 「 環 境 学 入 門 と い う 名 前 の

1

のように文の各要素をモデルのなかに入れることができた。主語や述語動詞のよう な機械翻訳に必要な要素が明記されているからであろう。

2.

「天王寺キャンパスの大学

1

年生

A

クラスです。」へのモデル適用例 誰が

なには

~する である

だれ なに

いつ どのよう なぜ

である 天王寺キャンパスの 大学1年生

Aクラス

2

の文は主語が原文から欠落しているため,機械翻訳が誤った主語を補い,機械翻訳 に失敗している。「誰が/なには」の欄には「私は」を入れるべきであろう。「A クラス」を どこに入れるべきかで悩むが,「Aクラス」も「天王寺キャンパス」と同じく所属を表すも

(12)

のであるから,補語として「だれ」のなかにいれるべきであろう。「私は,

A

クラス所属の 天王寺キャンパスの大学

1

年生です。」とすれば

“I am a university freshman at Tennoji Campus

of A class.”

と主語の間違いは解消し,不適切な表現は残るものの元よりは意味の通る文に

なっている。

つぎに参加者

Miho

の産出文について当てはめる。

3. 「私が今取り組んでいるレポートを書くために,『環境学入門』という本が必要で

す。」へのモデル適用例 誰が

なには

~する である

なに

いつ どのよう なぜ

私が 必要です 『 環 境 学 入 門』という本

私が今取り組んでいるレ ポートを書くため

この文は表

3

によると機械翻訳に成功している。意味関係は複雑であるが,省略なく,

明確に表せば機械翻訳は読み取れることがわかる。

「しかしながら図書館になく,田中先生の研究室にあることを知り,お借りさせていた だきたいので,連絡させていただきました。」という文は機械翻訳に失敗している。長す ぎてモデルへの当てはめが難しい。主語も 節によって,『環境学入門』なのか「私」なの かで一致しておらず,文脈による解釈に頼りすぎている。機械翻訳で確実に翻訳するには 適当なところで文を切って,主語と述語を明確にする必要があるだろう。下記図

4

から図

6

で適用例を示す。

4. 「しかしながら図書館になく,田中先生の研究室にあることを知り,お借りさせて

いただきたいので,連絡させていただきました。」へのモデル適用例その

1

誰が

なには

~する である

だれ なに どこ いつ どのよう なぜ

その本は ない 図書館に

5.

「しかしながら図書館になく,田中先生の研究室にあることを知り,お借りさせて いただきたいので,連絡させていただきました。」へのモデル適用例その

2

誰が なには

~する である

だれ なに どこ いつ どのよう なぜ

私は 知った その本が 田中先生 の研究室

ある

(13)

6.

「しかしながら図書館になく,田中先生の研究室にあることを知り,お借りさせて いただきたいので,連絡させていただきました。」へのモデル適用例その

1

誰が なには

~する である

だれ なに どこ いつ どのよう なぜ

私は 連絡した 田中先生

その本を借りたいの

上記の図

4

から図

6

の要素をつなげて文にすると 「しかし,その本は図書館にありませ んでした。そして,私はその本が田中先生の研究室にあることを知りました。その本を借 りたいので,私は田中先生に連絡しています。」という文ができあがる。これを機械翻訳 にかけると

“However, the book was not in the library. And I learned that the book is in Mr. Tanaka's laboratory. I want to borrow the book, so I am contacting Mr. Tanaka.”

という文になる。日本語の 自然さは犠牲となっているし,英文も語彙の面では疑問な部分もあるが,文法は正しいし,

通じない文ではないだろう。

このモデルによって単文の前編集はできるだろう。しかし,文と文とをつなぐ「しかし」

や「そして」は入れる欄がない。また語彙の面でも研究参加者が産出したものをそのまま 使っていない場合もあり,工夫が必要である。そこは人間の言語知識や山下ほか(

2006

) で示されたような別のルールに頼るほかなく,前編集にこのモデルを活用する際の課題と なるだろう。

5.

ままととめめ

本稿では,日本語話者の産出する日本語文を機械翻訳した場合の誤文の形式を明らかに することと,英語に機械翻訳しやすい日本語文作成への示唆を得ることを研究目的として 設定し,日本人女子大学生

2

名に日本語で普段通りに

1

通,機械翻訳を意識して

1

通の電 子メールを書いてもらった。その後それらを機械翻訳に入力し,分析をした。その結果と して,誤文の形式としては,原文が複文である場合の産出文の誤りが目立った。とりわけ,

構造的な面では,節と節の間で主語が変わる場合,日本語で省略された主語を,機械翻訳 が英語にする際に適切に補うことができない誤りが見られた。また,実験参加者の属性に 注目すると,英語への習熟度が翻訳を意識した際の日本語に影響し,機械翻訳の阻害要因 となる可能性が示唆された。

そのような誤りを防止するべく,日本語の文の省略を補うため,山岡(

2009

)で用いら れた和文英訳指導のモデルを機械翻訳使用時にも応用することを提案し,その適用例をい くつか示した。

反省点としては,英語力測定としては,参加者の負担軽減を考え,語彙テストのみを実 施した。しかし,本稿の研究は文構造を大きな関心事としており,語彙のテストのみでは

(14)

なく,より総合的なテストにより測定すべきであった。また,

Laufer and Nation

2016

)を 語彙テストとして実施したが,より日本人英語学習者に適したテストを課すことも改善点 となる。実験参加者

Miho

は英検準

1

級を取得しているが,英語力を発揮できなかったと考 えられる。

今後の展望としては,まずタスクの性質に関するものがある。本稿の実験では電子メー ルを,構成を教示して書いてもらうという,制約の大きなタスクを選択した。しかし,こ れでは文の形式において自由度が小さく,一定になったと推測される。今後の研究では,

より自由度の高いタスクにより実験設定をしたい。次に今回は

2

名のみを対象とした研究 を行ったが,今後はより大人数を対象とした実験を行いたい。上記の

2

点を改良し,より 多様な産出文サンプルを収集したい。

後続の研究においては,上記の反省点及び展望を盛り込み,より多くの参加者に和文英 訳モデルを意識して作文してもらい,その通用性について検証したい。

最後に,ますます国際化,多国籍化していく社会においては,さまざまなバックグラウ ンドを持つ人々への言語的配慮が必要である。複言語への対応が紙幅や予算,人員の点か ら限界があるなかで,機械翻訳や

AI

の活用により,「外国語に訳しやすい日本語」で表記 するというのは新しい複言語社会への対応の一つの可能性として研究されるべきであろう。

日本語と英語しか解することのできない筆者自身の言語知識の制約から今回は日英翻訳を 対照にしたが他の言語ペアでの研究も待たれる。

付 付記記

本稿は,

2019

8

8

日に早稲田大学にて開催された

International Conference on Foreign Language Education & Technology (FLEAT 7)

での口頭発表に基づくものである。

参 参考考文文献献

Gally, T. (2018). Machine translation and English education in Japan. Komaba Journal of English

Education,9, 23–55. http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/eigo/KJEE/009/043-055.pdf

Laufer, B., & Nation, P. (2016). Vocabulary levels test (Productive). https://www.lextutor.ca/tests/

levels/productive/

庵功雄

(2014).

「『やさしい日本語』研究の現状と今後の課題」『一橋日本語研究』

, 2,1

12.

http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/hermes/ir/re/27981/jle0000200010.pdf

石橋玲子

(1997).

「第

1

言語使用が第

2

言語の作文に及ぼす効果-文の流暢性と複雑さの点

か ら - 」 『 言 語 文 化 と 日 本 語 教 育 』

, 131, 67

77.

https://teapot.lib.ocha.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_mai

n_item_detail&item_id=38978&item_no=1&page_id=64&block_id=115

(15)

田中英輝・美野秀弥(

2010

.

「やさしい日本語によるニュースの書き換え実験」『情報処 理学会研究報告』

. 1

8. http://id.nii.ac.jp/1001/00071035/

明 治 安 田 生 命

(n.d.).

「 生 ま れ 年 別 名 前 ラ ン キ ン グ 」

.

https://www.meijiyasuda.co.jp/enjoy/ranking/year_men/girl.html

宮外真理子 (2016).「英語に翻訳しやすい日本語文章作成システムの提案」慶応義塾大学大 学院修士論文. http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=

KO40002001-00002016

NHK NEWS Web Easy (n.d.). https://www3.nhk.or.jp/news/easy/

成 田 一

(2007).

「 機 械 翻 訳 の 歴 史 と 今 後 の 展 望 」『

Japio2007YEARBOOK

. 214

221.

https://japio.or.jp/00yearbook/files/2007book/07_4_02.pdf

山岡大基

(2009).

「「直訳的」和文英訳指導-語順変換モデルによる和文分解を通じて-

『中等教育研究紀要』

. 49. 287

292. https://doi/10.15027/32977

山下直美・坂本知子・野村早恵子・石田亨・林良彦・小倉健太郎・井佐原均 (2006). 「機 械翻訳へのユーザの適応と書き換えの教示効果に関する分析」『情報処理学会論 文誌』. 47. 4. 1276–1286. http://id.nii.ac.jp/1001/00010342/

尹 テレサ (2016). 「第二言語から第一言語への言語転移現象に関する実証的研究-韓国人 日本語学習者の「てもらう〔a/eo batda〕」表現に注目して-」東京学芸大学大学院 博士論文

. http://hdl.handle.net/2309/145674

田地野彰

(1999).

『「創る英語」を楽しむ』丸善

表 3  実験参加者 B の産出日本語文・機械翻訳産出英文対照表  実 験 参 加 者 Miho  指示なし 田中先生へ 初めまして。 私,大阪教育大学英語科専攻中学校コ– ス 3 回生のミホです。 私が取り組んでいるレポートを書くため には,『環境学入門』という本が必要で あり,図書館にはなく,田中先生の研究 室にあるということを知り,お借りさせ ていただきたく,連絡させていただきま した。よろしければ, 1 週間程貸してい ただけないでしょうか。 お返事お待ちしております。よろしくお 願い至します。 英
図 6.   「しかしながら図書館になく,田中先生の研究室にあることを知り,お借りさせて いただきたいので,連絡させていただきました。」へのモデル適用例その 1  誰が なには  ~する である  だれ なに どこ いつ どのよう なぜ 私は 連絡した 田中先生 に      その本を借りたいので 上記の図 4 から図 6 の要素をつなげて文にすると 「しかし,その本は図書館にありませ んでした。そして,私はその本が田中先生の研究室にあることを知りました。その本を借 りたいので,私は田中先生に連絡しています

参照

関連したドキュメント

Θ naive cannot be compatible w/ the holomorphic str., i.e., Θ naive is compatible w/ only certain mono-an. On the other hand, the degree computation is, at least a priori, performed

Although the holonomy gives infinitely many tight contact structures up to isotopy (fixing the boundary), this turns out to be a special feature of the nonrotative case. This

As in the previous case, their definition was couched in terms of Gelfand patterns, and in the equivalent language of tableaux it reads as follows... Chen and Louck remark ([CL], p.

The principal theorem of Brink and Howlett, and in my opinion one of the most remarkable facts about general Coxeter groups, is that the number of minimal roots is finite.. That

 英語の関学の伝統を継承するのが「子どもと英 語」です。初等教育における英語教育に対応でき

I stayed at the British Architectural Library (RIBA Library, RIBA: The Royal Institute of British Architects) in order to research building materials and construction. I am

I stayed at the British Architectural Library (RIBA Library, RIBA: The Royal Institute of British Architects) in order to research building materials and construction. I am

I stayed at the British Architectural Library (RIBA Library, RIBA: The Royal Institute of British Architects) in order to research building materials and construction. I am