Ⅳ 調査結果の分析
ハラスメントに関する近畿大学学生の意識
近畿大学人権問題研究所 教 授 北口末広 近畿大学人権問題研究所 准教授 熊本理抄
本稿は、ハラスメントに関する近畿大学学生の意識を分析し、本学のハラスメント防止対策にお ける今後の課題を明らかにすることを目的に、2018 年 6 月に人権問題研究所が実施した「ハラ スメントに関する意識調査」結果の紹介と分析である。
本学では、ハラスメント全学対策委員会を設置し、「近畿大学学園ハラスメント防止ガイドライ ン」(以下「ガイドライン」という)を定めている。ガイドラインでは、1 目的、2 基本方針、3 ハラスメントとは、4 ハラスメントの防止のために、5 ハラスメントに対する対策、6 まとめ、の 規定を置き、その規定に基づいて「調査調停委員会細則」まで定めている。しかしながら各種ハラ スメント事案は後を絶たない。本学園関係者へのハラスメントに対する認識を高め、ハラスメント 防止の取り組みを強化しなければならない。
そうした取り組みの一助になればとの認識のもと、本学学生を対象に「ハラスメントに関する意 識調査」を本学園の人権教育・研究の拠点機関として実施した次第である。
以下、ガイドラインの規定や公的基準等をふまえ、2012 年 9 月に実施した前回調査(以下、
「2012 年調査」)と比較しながら今回の調査結果を分析し、その特徴を紹介していく。
1.ハラスメント問題についての学習経験
問 14 では、これまでに学校や地域で、ハラスメント問題について学習を受けたことがあるかを 尋ねている。その回答結果が図 1 である。
2012 年調査と比較すると、小学校・中学校、高校、大学のいずれにおいても学習経験が減少し ている。一方、「はっきり覚えていない」
と「受けたことはない」は増加し、い ずれも 3 割弱にのぼる。また「大学で 受けた」と回答した学生の割合は学部 によって大きな開きがある。3 割近く が「大学で受けた」と回答した学生が いる学部もある一方、「大学で受けた」
と回答している学生は 1 〜 2% のみと いう学部も存在する。調査結果から、す べての学部でハラスメント防止教育を 確実に実施しなければならないという ことを指摘できる。
図 1 ハラスメント問題についての学習経験
2.ハラスメントに関する意識
「問 1. あなたは、ハラスメントという言葉の意味を知っていますか」の回答結果は、「関心があ り、よく知っている」3.6%(2012 年調査 3.1%)、「意味は知っている」43.6%(2012 年 調査 47.0%)、「言葉は聞いたことがあるが意味はよくわからない」15.2%(2012 年調査 22.4%)、「まったく知らない」0.5%(2012 年調査 0.9%)である。2012 年調査と比較し て、ハラスメントに関する関心と認識を有する回答者の割合は増加していない。
図 2 は、問 2 のいわゆるセクシュアルハラスメントに該当する 16 の行為について、「ハラスメ ントになる」「くりかえし行われればハラスメントになる」「ハラスメントではない」「わからない」
から選択した回答を、「ハラスメントになる」の回答割合の降順で並び替え図示したものである。さ らに、2012 年調査との比較もしている。
2012 年調査と比較した今回調査の特徴として、ジェンダーハラスメントへの認識が高まってい ることがあげられる。「男性・女性であるという理由で用件を強要される」が「ハラスメントにな る」「くりかえし行われればハラスメントになる」と回答した回答者は 85.2%で、前回調査の 76.0% から 9.2 ポイント高くなっている。また「『男のくせに』『女のくせに』などジェンダーを 理由に不快な言葉を言われる」が「ハラスメントになる」「くりかえし行われればハラスメントに なる」と回答した回答者は 86.3%で、前回調査の 75.8%から 10.5 ポイント高くなっている。
2012 年調査と比較したもう一つの特徴は、「酔って抱きつかれたり肩を抱かれたりする」と「カ ラオケでのデュエット、酒席でのお酒を強要される」といった、お酒をともなったセクシュアルハ ラスメントの認識について、「ハラスメントになる」の割合が増加していることである。「酔って抱 きつかれたり肩を抱かれたりする」は 7.7 ポイント、「カラオケでのデュエット、酒席でのお酒を 強要される」は 13.1 ポイント、「ハラスメントになる」の割合が増加している。
図示した 16 の行為は一般的に、セクシュアルハラスメント、ジェンダーハラスメントにあたる。
しかしハラスメントと捉えていない回答者が少なからず存在する。ハラスメントを防止していくう えでもっとも重要な一つが、「ハラスメントとは何か」ということを全員が認識していることであ る。調査結果からは、ハラスメントとは何かということの認識をさらに高める必要があるという課 題が明らかになっている。
実際にハラスメントが疑われる事案に関しハラスメントであるかどうかを判断する場合、
5W1H(内容、関係、時間、場所、目的、態様)等をふまえて、厳密に判断していくことが求めら れる。加えて、多くの行為について「ハラスメントではない」「わからない」と回答している学生 が一定の割合で存在することは、今後の重要な教育・啓発課題である。これらは後述するアカデ ミックハラスメントについても同様である。
図 2 セクシュアルハラスメントの認識
82.7 83.0
82.0 83.1
80.3 80.1
77.3 75.1
74.4 67.7
73.6 77.0
60.5 52.8
59.0 48.9
58.6 55.9
55.0 44.3
52.0 48.6
41.2 28.1
35.6 25.3
32.0 28.0
27.3 25.0
7.1 4.3
11.4 11.8
12.3 11.9
14.3 15.4
16.6 19.3
15.3 16.6
12.7 12.2
28.2 32.9
26.2 27.1
30.1 33.8
31.3 31.5
36.3 39.2
38.7 41.0
48.9 57.1
48.4 49.8
46.3 46.1
16.4 14.5
2.7
1.8 2.4
2.0 2.6
1.4 2.3
2.1
4.2 6.7
5.7 4.0
5.5 7.3
6.9 12.7
5.9 5.4
7.0 14.8
6.4 7.1
12.4 22.9
9.5 11.9
13.7 16.2
20.4 23.3
62.6 70.5
2.7 2.9
2.8 2.4
2.2 2.6
3.0 2.5
5.7 8.6
7.5 6.1
5.4 5.9
7.7 10.9
4.6 4.3
6.3 9.1
4.7 4.5
7.3 7.3
5.7 5.0
5.5 5.5
5.6 5.2
13.3 9.5
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
性的な関係を迫られる 2018 2012
性的なうわさを流されたり 2018 性的なからかいを受ける
2012
不必要に体に触られる 2018 2012
性的な内容の電話や手紙、Emailを送られる 2018 2012
男性・女性であるという理由で 2018 実績を不当に低く評価される
2012
公的な場に性的な写真や絵が貼られていたり 2018 性的なパソコン画面などが使われている
2012
酔って抱きつかれたり肩を抱かれたりする 2018 2012
男性・女性であるという理由で 2018 用件を強要される
2012
性的に卑猥な話を聞かされる 2018 2012
「男のくせに」「女のくせに」など 2018 ジェンダーを理由に不快な言葉を言われる
2012
胸やお尻、足など身体の一部をじっと見つめられる 2018 2012
カラオケでのデュエット、酒席でのお酌を強要される 2018 2012
容姿、体型、年齢、服装、化粧などについて 2018 話題にされたり、 スリーサイズなど身体的な特徴について聞かれる
2012
食事やデートにしつこく誘われる 2018 2012
「恋人いるの?」「つきあっている人いるの?」などと 2018 性的な経験や性生活について尋ねられる
2012
「○○ちゃん」などなれなれしく名前で呼ばれる 2018 2012
ハラスメントになる くりかえし行われればハラスメントになる ハラスメントではない わからない 無回答
図 3 は、問 3 のいわゆるアカデミックハラスメントに該当する 16 の行為について、「ハラスメ ントになる」「くりかえし行われればハラスメントになる」「ハラスメントではない」「わからない」
から選択した回答を、「ハラスメントになる」の回答割合の降順で並び替え図示したものである。
2012 年調査と比較し、アカデミックハラスメントの認識は高まっている。一方、先に紹介した セクシュアルハラスメントと同じく、アカデミックハラスメントに関する認識も一定の割合で、ア カデミックハラスメントとは何かということを認識していない学生が存在する。これらも今後のハ ラスメント防止教育の重要な課題である。
本学では先に示したガイドラインで、ハラスメントの定義について、「相手側の意に反する不適 切な言動等を行うことによって、相手側に不快感や不利益を与え、又は相手側を差別的若しくは不 利益な取扱いをすることによって相手側の人権を侵害し、教育研究・学習及び労働環境等を悪化さ せることをいう」と定義している。さらにアカデミックハラスメントについても、「研究・教育・
医療の場における権力を濫用した嫌がらせや差別をさす。性別を問わず、研究活動、教育指導の際 に、暴力的発言や行為などで相手に身体的・精神的苦痛を与えることをいう。なお、教職員から学 生へのみならず、教職員間・学生間における人格をおとしめるような言動も含まれる」と規定して いる。こうしたアカデミックハラスメントの定義等を広く学生に周知する課題が調査結果から明ら かだと言える。
図 3 アカデミックハラスメントの認識
3.ハラスメントに関する実態
表 1 は、16 のセクシュアルハラスメント行為について、「受けたことがある」と回答した度数 と割合、「目撃したことがある」「相談を受けたことがある」「聞いたことがある」のいずれかを回 答した回答者の度数と割合について、2012 年調査と比較したものである。2018 年調査の「受 けたことがある」の回答割合の降順で並び替えて表示している。
全体的な特徴として、セクシュアルハラスメントを受けた割合ならびに見聞きしたり相談を受け たりした割合は 2012 年調査から減少している。
被害経験についてみると、性的な経験や性生活について尋ねられる、なれなれしく名前で呼ばれ る、身体や外見について話題にされる、性的に卑猥な話を聞かされる、といった言葉によるセク シュアルハラスメントがもっとも多く、次に、ジェンダーハラスメントが続く。言葉によるセク シュアルハラスメントは、名前や身体、性的経験や性生活といった会話を通じて、容易に他者との 境界線を越えてしまおうとする暴力であり、これらが「人間関係の潤滑油」との誤った認識から生 じていると言える。また、ジェンダーを理由に不快な言葉を言われたり、用件を強要されたりする ことは、他者の人間としての存在価値や尊厳の否定にもつながる。
16 の行為のうち 1 つでも「受けたことがある」と回答した回答者は 549 人(35.4%)で 3 人に 1 人にのぼる。5 つ以上の行為について「受けたことがある」と回答した回答者は 138 人で 8.9%であった。
16 の行為のうち 1 つでも「目撃したことがある」「相談を受けたことがある」「聞いたことがあ る」と回答した回答者は 677 人(43.6%)でほぼ 2 人に 1 人である。5 つ以上の行為について 見聞きしたり相談を受けたりしたと回答した回答者は 315 人で 20.3%であった。
割合としては高い数値を示さない行為においても、度数として示されるのは、実際にその行為を 受けている人の数である。深刻な被害経験が起きていることを真剣に受け止めなければならない。
これらの回答は、「問 4. あなたは近畿大学、またはそれに準じた場(サークル・コンパ・学会・
懇親会など)で大学の構成員(教職員・学生)または関係者から次のような行為を受けたことがあ りますか。またはそのような行為を目撃したり、聞いたり、相談を受けたことがありますか」との 質問に対する回答である。つまり本学に入学するまでの期間のことを聞いているのではなく、本学 に入学して以後のことを聞いているのである。かなりの学生が本学あるいは本学関係のところでハ ラスメントの被害を受けている、あるいは被害について見聞きしたり相談を受けたりしている実態 が浮かび上がる。
見聞きしたり相談を受けたりした経験についてみると、少ない分野でも 1 割、内容によっては 2 割を越えており、見聞きしたり相談を受けたりしたときの対応等をどのように教育するかが重要な 課題として存在していることが指摘できる。
表 1 セクシュアルハラスメントの実態
受けたことがある 見聞きした
相談を受けたことがある
「恋人いるの?」「つきあっている人いるの?」
などと性的な経験や性生活について尋ねられる
2018 404
26.0 336
21.6
2012 396
35.5 286
25.7
「○○ちゃん」などなれなれしく名前で呼ばれる 2018 305
19.7 358
23.1
2012 299
26.8 298
26.8 容姿、体型、年齢、服装、化粧などについて話題にされ
たり、 スリーサイズなど身体的な特徴について聞かれる
2018 231
14.9 274
17.7
2012 245
22.0 262
23.5
性的に卑猥な話を聞かされる 2018 226
14.6 332
21.4
2012 225
20.2 293
26.3
「男のくせに」「女のくせに」などジェンダーを理由に不 快な言葉を言われる
2018 125
8.1 244
15.7
2012 103
9.2 223
20.0
男性・女性であるという理由で用件を強要される 2018 108
7.0 239
15.4
2012 114
10.2 185
16.6
性的なうわさを流されたり性的なからかいを受ける 2018 101
6.5 293
18.9
2012 83
7.5 221
19.8
不必要に体に触られる 2018 101
6.5 261
16.8
2012 126
11.3 219
19.7
酔って抱きつかれたり肩を抱かれたりする 2018 87
5.6 256
16.5
2012 133
11.9 243
21.8
食事やデートにしつこく誘われる 2018 85
5.5 277
17.8
2012 91
8.2 239
21.5
カラオケでのデュエット、酒席でのお酌を強要される 2018 75
4.8 266
17.1
2012 101
9.1 209
18.8 男性・女性であるという理由で実績を不当に低く評価さ
れる
2018 60
3.9 224
14.4
2012 67
6.0 149
13.4
胸やお尻、足など身体の一部をじっと見つめられる 2018 57
3.7 253
16.3
2012 75
6.7 210
18.9
性的な内容の電話や手紙、Email を送られる 2018 53
3.4 199
12.8
2012 67
6.0 156
14.0
性的な関係を迫られる 2018 42
2.7 206
13.3
2012 48
4.3 174
15.6 公的な場に性的な写真や絵が貼られていたり性的なパソ
コン画面などが使われている
2018 30
1.9 181
11.7
2012 38
3.4 134
12.0
表 2 は、16 のアカデミックハラスメント行為について、「受けたことがある」と回答した度数 と割合、「目撃したことがある」「相談を受けたことがある」「聞いたことがある」のいずれかを回 答した回答者の度数と割合について、2012 年調査と比較したものである。2018 年調査の「受 けたことがある」の回答割合の降順で並び替えて表示している。
被害を受けた割合ならびに見聞きしたり相談を受けたりした割合は 2012 年調査とほぼ変化が ない。見聞きしたり相談を受けたりした経験についてみると、1 割前後の学生が、アカデミックハ ラスメントを見聞きしたり相談を受けたりしている。前回調査と変化がないということは、これら 実態が恒常化していると言える。
16 の行為のうち 1 つでも「受けたことがある」と回答した回答者は 271 人(17.5%)で 6 人に 1 人にのぼる。5 つ以上の行為について「受けたことがある」と回答した回答者は 67 人で 4.3%であった。
16 の行為のうち 1 つでも「目撃したことがある」「相談を受けたことがある」「聞いたことがあ る」と回答した回答者は 440 人(28.4%)で 3.5 人に 1 人である。5 つ以上の行為について見 聞きしたり相談を受けたりしたと回答した回答者は 192 人で 12.4%であった。
セクシュアルハラスメント同様、割合としては高い数値を示さない行為においても、度数として 示されるのは、近畿大学で学習権を保障されるべく学生である。その権利を侵害する深刻な被害経 験が起きていることを真剣に受け止めなければならない。
表 2 アカデミックハラスメントの実態
受けたことがある 見聞きした
相談を受けたことがある
好き嫌いや機嫌によって、対応が異なる 2018 165
10.6 248
16.0
2012 110
9.9 216
19.4
理不尽なルールに従うことを強要する 2018 129
8.3 188
12.1
2012 80
7.2 142
12.7 人前で激しく叱責されたり、「こんなこともできないの、
わからないの」などと暴言をはかれる
2018 95
6.1 221
14.2
2012 70
6.3 151
13.6 学生の私生活(恋人との関係、 余暇の過ごし方など)に関
して干渉する
2018 81
5.2 196
12.6
2012 91
8.2 150
13.5 学生の学習や研究に対する否定的な評価を重ねて、学習
や研究の意欲をそぐ
2018 59
3.8 160
10.3
2012 33
3.0 127
11.4
学生の従順度に応じて、資源配分や評価を決める 2018 59
3.8 177
11.4
2012 38
3.4 150
13.5 学生の属性などによって差別的な待遇をしたり、それを
正当化しようとする
2018 54
3.5 151
9.7
2012 33
3.0 137
12.3
「放任主義だ」と称したり、多忙を理由に、 研究指導や教 育を怠る
2018 52
3.4 163
10.5
2012 31
2.8 115
10.3 自分だけ無視されたり、他の学生に比べて、十分な指導
をしてもらえない
2018 51
3.3 170
11.0
2012 45
4.0 115
10.3
教育・研究とは関係ない私的な用事を命じられる 2018 48
3.1 153
9.9
2012 38
3.4 118
10.6
不必要に思える個人指導を受ける 2018 46
3.0 164
10.6
2012 38
3.4 113
10.1 特定の学生の能力・人格などについて、 好ましくない評
判を流す
2018 45
2.9 175
11.3
2012 30
2.7 145
13.0 ゼミなどで、研究内容に関係のない事柄を取り上げ誹謗
中傷する
2018 39
2.5 143
9.2
2012 22
2.0 95
8.5
進級や進学に関して、 自分だけ不当な扱いを受ける 2018 35
2.3 147
9.5
2012 37
3.3 108
9.7
休学・退学を強要するような言動をされる 2018 32
2.1 138
8.9
2012 17
1.5 85
7.6 文献・図書や機器などを使わせないという手段で、学習・
研究の遂行を妨害する
2018 31
2.0 132
8.5
2012 23
2.1 82
7.4
表 3 を見ると、セクシュアルハラスメントを受けた経験、セクシュアルハラスメントについて見 聞きしたり相談を受けたりした経験がある人のほうが、ハラスメント問題についての学習経験があ ることが分かる。表 4 も同様に、アカデミックハラスメントを受けた経験、アカデミックハラスメ ントについて見聞きしたり相談を受けたりした経験がある人のほうが、ハラスメント問題について の学習経験があることが分かる。学習経験がある人のほうが、ハラスメント行為を認識できている とも言える。つまり、ハラスメントについての知識や認識がなければ、自己や他者の行為について それがハラスメント行為だと自覚することもできないのである。
表 3 セクシュアルハラスメントの実態と学習経験
ハラスメント問題についての学習経験 小学校・中学校 高校 大学 一般市民
対象の講座
覚えていない 受けたこ
とはない 無回答 合計
セクシュアルハラス メントを受けた経験
ない 170 270 105 6 266 319 35 959
17.7% 28.2% 10.9% .6% 27.7% 33.3% 3.6% 100.0%
ある 137 192 115 3 152 112 20 549
25.0% 35.0% 20.9% .5% 27.7% 20.4% 3.6% 100.0%
セクシュアルハラス メントについて見聞 きした・相談を受け た経験
ない 143 232 92 3 249 269 25 831
17.2% 27.9% 11.1% .4% 30.0% 32.4% 3.0% 100.0%
ある 164 230 128 6 169 162 30 677
24.2% 34.0% 18.9% .9% 25.0% 23.9% 4.4% 100.0%
表 4 アカデミックハラスメントの実態と学習経験
ハラスメント問題についての学習経験 小学校・中学校 高校 大学 一般市民
対象の講座
覚えていない 受けたこ
とはない 無回答 合計
アカデミックハラス メントを受けた経験
ない 235 358 160 6 348 378 43 1233
19.1% 29.0% 13.0% .5% 28.2% 30.7% 3.5% 100.0%
ある 74 101 62 2 65 54 20 271
27.3% 37.3% 22.9% .7% 24.0% 19.9% 3.6% 100.0%
アカデミックハラス メントについて見聞 きした・相談を受け た経験
ない 192 303 128 3 306 336 34 1063
18.1% 28.5% 12.0% .3% 28.8% 31.6% 3.2% 100.0%
ある 116 155 93 5 107 96 24 440
26.4% 35.2% 21.1% 1.1% 24.3% 21.8% 5.5% 100.0%
4.行為者・場所
次に行為のあった状況について、「問 6. あなたが受けた行為でもっとも深刻だった行為はどのよ うな状況で起こりましたか。見聞きした場合には知っている範囲でお答えください」との質問では、
図 4 のような回答順位になっている。
クラブ・サークルの活動中や合宿中のハラスメント行為が減少している一方、講義中、実験中の ハラスメント行為は微増している。
図 4 行為のあった状況
図 5 は、問 7 で尋ねているハラスメント行為をした人についての回答順位を図示した。
学生間のハラスメント行為は 2012 年調査から減少している一方、教職員によるハラスメント はほぼ変化がない。教職員に対してのハラスメント防止教育・啓発を大学として早急に進める必要 がある。ハラスメントは教育面、労働面でのコンプライアンス違反でもあり、ハラスメントが発生 した事後のコンプライアンスよりも、発生しないよう事前のコンプライアンスが重要だと言える。
そのためにも予防的コンプライアンスの視点から、教育・啓発だけではなく、予防システムの構築 という面からもガイドラインの周知とその理解の徹底が求められる。
ガイドラインではアカデミックハラスメントの具体例として、「正当な理由なく教育指導を行わ ず、研究及び学習活動を困難にする」「実習結果・学習成果・論文などを不当に評価し、人格をお としめたりして、精神的に虐待する」「本人の意に反して、一方的な研究計画や研究テーマを強要 する」「心身の健康を害する可能性を生じさせる不当な課題達成を強要する」「文献・図書や機器類 を使わせないなどによって、研究遂行を妨害する」「研究成果を不当に奪取する」「他の専門領域を 不当に低く評価するような言動をする」をあげている。こうした具体例をふまえた、アカデミック ハラスメント基準の理解を教職員間においても深める必要がある。
図 5 行為をした人
5.被害者の実態と対処
ハラスメント行為を経験したあと、被害者がどのような状態になったのかを尋ねる問 8 では、「特 に影響はなかった」が 38.7%でもっとも多く、それ以外の項目について割合が高かった回答をあ げると次のような順になっている。
①「大学に行くのが憂鬱になった」11.1%(2012 年調査 8.1%)
②「人に対する不信感・嫌悪感・恐怖感などなんらかの精神的な負の感情を持つようになった」
9.1%(2012 年調査 10.0%)
③「精神的に強いダメージを受け、不安定になった」8.1%(2012 年調査 7.0%)
また、ハラスメント行為を経験したあと、行為を受けた当事者がどのような行動をとったかを尋 ねる問 9 では、割合が高かった回答をあげると次のような順になっている。
①「特に何もしなかった」34.4%(2012 年調査 36.4%)
②「親しい先輩・後輩・友人に相談した」12.6%(2012 年調査 13.7%)
③「我慢した」11.5%(2012 年調査 13.7%)
④「気にしないようにした」10.2%(2012 年調査 12.2%)
⑤「態度などでそれとなく抗議した」7.0%(2012 年調査 8.1%)
問 10 では、「問 9 の行動の結果、事態はどうなりましたか」と尋ねている。「状況は変わらな かった」が 29.2%(2012 年調査 28.4%)で、「好転した・解決につながった」が 8.4%(2012 年調査 11.8%)である。
これら 3 項目の回答結果は、被害者に対する支援の重要性を明示している。精神的な負担から何 の行動もとれずに状況が変わらない、状況は変わらないから我慢したり気にしないようにし、それ がさらなる精神的不安定をもたらしている、そうした相互作用も推察される。
ガイドラインでは、「基本方針」として「本学園及び本学園構成員の責務」を定め、「本学園は、
ハラスメントを防止し、平等かつ健全な学習・教育・研究環境と安全な就業環境を維持するよう努 め、ハラスメントに対する全学的な対策について責任を負うものとする。本学園の長は、具体的な 予防策を遂行し、問題が発生した場合には、このガイドラインに則って、適切・迅速・公正に対応 する責務を負う。本学園構成員は、互いの人格を尊重し、人の尊厳を傷つける可能性のある言動を 行うことは許されない。また、人権侵害を受けた場合は名誉回復を要求する権利を有する。それと ともに、人権侵害を目撃したり相談を受けた場合には、このガイドラインに従って、適切かつ迅速 な行動をとる義務を負う」と規定し、被害者への支援を本学園構成員に義務づけている。
調査結果からは、ハラスメント行為が精神的な衝撃や負の影響を与えている実態、行為を受けた 当事者が我慢したり気にしないようにしたりするなど事態を変化させる行動をとれていない実態 が明らかになった。さらに行動の結果、事態が「好転した・解決につながった」事例は、2012 年 調査からポイントを下げ、1 割にも満たない数字に止まっている。本学園構成員へのガイドライン 徹底が重要な課題だと指摘できる。
6.ハラスメント行為を受けた時の対処
問 11 の「あなたがハラスメント行為を受けた時、どのような行動をとりますか」の回答結果を 図示したものが図 6 である。
2012 年調査に比べ、「態度などでそれとなく抗議する」「親しい先輩・後輩・友人に相談する」
が減少し、「相手との接点をなくすように行動する」「家族に相談する」が増加している。「学内の 相談機関に相談する」は 3.6 ポイント増加しているが、依然として 1 割強にとどまる。被害を受 けた学生とその家族の消極的な自助努力による対応でしか解決できないと学生自身が思っている のではないかと推察する。それでは事態が解決に結びつかないどころか、被害を受けた学生側の行 動や人間関係の選択肢が狭められてしまうことも考えられる。
ガイドラインでは、「ハラスメントに対する対策」の項で、「ハラスメントの被害を受けたり、目 撃したり、又はハラスメントの疑いを感じたなどの相談があった時には、本学園は次のような手続 きをもって対応する。この対応の中で各担当者は相談者の立場に立って守秘義務を守り、被害者の 保護・ケアを最優先することに心がけなければならない」と一般的な規定を置き、個別項目で詳細 を定めている。また、「相談窓口」の規定では、「ハラスメントの相談に対応するため、各学部・学 校・事務部等に相談窓口を設け、両性からなる相談員を配置する。相談員の任期は 2 年とし、再任 を妨げない。相談員は相談者のプライバシーを守り、相談者の訴え等を聞く。被害が明らかな場合 には、とりうる救済方法を具体的に説明し、解決策を探るとともに、相談者の主体的な選択、判断 を尊重する。相談員の主な役割は次のとおりである」と定め、「相談方法の公開」「相談員の責務」
等の詳細な規定が置かれている。しかし本学園構成員にガイドラインのこれらの規定が十分に徹底 されていない現実が、調査結果から指摘できる。
以下において検討しているが、学生たちが学内の相談機関に相談しない理由や、本学におけるハ ラスメント防止対策に必要なものとしてあげている回答結果をふまえ、学内相談機関の実情を把握 し、ガイドラインの主旨を徹底する取り組みが必要であると言える。
図 6 ハラスメント行為を受けた際の行動
問 11 で「学内の相談機関に相談する」に回答しなかった学生に、相談しない理由を問 12 で尋 ねた回答結果が図 7 である。
「相談するまでもないことだと思っている」「相談システムの存在を知らない」が 2012 年調査 から減少しているが、依然として 3 割近くの学生が、学内の相談システムの存在を知らない。ハラ スメント防止のための基本的なシステムが周知されておらず、ガイドラインの周知・啓発が重要な 課題であると指摘できる。
また、「話した内容が外部にもれるのではないかと心配」等の危惧は、ほとんどの相談者が抱え ている心配であり、それらの危惧を解消することは、あらゆるハラスメントの相談機関にとって最 重要課題である。ガイドラインでも相談者のプライバシー保護を明記し、「相談員の責務」として、
相談のすべての段階において相談員は、「不用意な発言をしたり、守秘義務に違反したり、相談者 をさらに傷つけることのないように努める必要がある。また、相談者が、必要な手続きをとること を、加害者とされる人やそれをかばう人から妨害(脅迫、懇願等)を受けないように配慮しなけれ ばならない。相談員及び関連委員は、積極的に研修を受けなければならない」と定めている。これ らの諸規定を学内に周知・徹底するとともに、相談員への研修実施が重要であることを調査結果は 示している。
図 7 学内の相談機関に相談しない理由
7.ハラスメントの捉え方について
図 8 は、ハラスメントに関する考えを把握する問 13 の 5 つの項目の回答結果を図示したもの である。2012 年調査との比較においては、大きな変化は見られない。
「ハラスメントに対して神経質になりすぎると、人間関係が窮屈になる」の項目には、78.3%が 賛同している。また「ハラスメントだという訴えを、いちいち取り上げていたらきりがない」の項 目には、59.7%が賛同している。「性的な冗談も、ときには人間関係の潤滑油になるのだから、い ちいち気にする必要はない」の項目には、37.9%が賛同している。「ハラスメントは受ける側にも 責任や原因がある」という項目には、31.0%が賛同している。
こうした考え方が、ハラスメントを放置する雰囲気をつくり、ハラスメント被害者が訴えること や、相談する行為を抑止することにつながっており、泣き寝入りをしなければならない状況を醸成 することにつながっている。その結果としてハラスメント事案が訴えられるケースでは、かなり悪 化した状態になっていることが多い。調査結果から指摘できることは、ハラスメントが明確な人権 侵害であり、被害者の立場に立って考えることの重要性をハラスメント防止教育の中で強化する必 要がある。
図 8 ハラスメントに関する考え方
被害者の立場に立って考えることの重要性とハラスメント防止教育の関連を見るために、問 13 の項目のなかから、「被害者非難(victim-blaming)」についての考えを尋ねている項目と学習経 験との関連を見たものが表 5 である。学習経験のないもののほうが、「被害者非難(victim- blaming)」に賛同する傾向にあることが分かる。
表 5 学習経験とハラスメントに関する考え方
ハラスメントは受ける側にも責任や原因がある
そう思う そうは思わない 合計
ハラスメント問題に ついての学習経験
小学校・中学校 90 222 312
28.8% 71.2% 100.0%
高校 139 330 469
29.6% 70.4% 100.0%
大学 69 157 226
30.5% 69.5% 100.0%
覚えていない 136 286 422
32.2% 67.8% 100.0%
受けたことはない 153 283 436
35.1% 64.9% 100.0%
無回答 9 15 24
37.5% 62.5% 100.0%
また、表 6 で示すように、ハラスメント行為を受けたことがある人の方が、差は小さいが、「被 害者非難(victim-blaming)」の考えをもっている可能性を秘めている。被害者が自責感から解放 される教育アプローチが必要である。加えて、ハラスメントの被害者という当事者になったことに よる体験や実感が、当事者になっていない学生に比較して、より明確な意見をもつようになったと 考えられる。体験や実感が存在することによって、ハラスメントに対して肯定・否定の意見を明確 にもつようになった結果とも考えられる。一般的に結婚等に関する質問においても、当事者ではな い世代に聞く場合と、当事者だという自覚のある世代に聞く場合では、回答に上記のような傾向が 出てくることがある。以上のことを受け止めたうえで、ハラスメントに関する教育のありようを考 えていく必要がある。
表 6 ハラスメントを受けた経験とハラスメントに関する考え方
ハラスメントは受ける側にも責任や原因がある
そう思う そうは思わない 合計
セクシュアルハラスメント を受けた経験
ない 290 647 937
30.9% 69.1% 100.0%
ある 178 353 531
33.5% 66.5% 100.0%
アカデミックハラスメント を受けた経験
ない 376 828 1204
31.2% 68.8% 100.0%
ある 92 168 260
35.4% 64.6% 100.0%
8.ハラスメント防止対策について
問 15 では、近畿大学におけるハラスメント防止システムについて知っていることを尋ねている。
回答結果は図 9 のとおりである。2012 年調査と比較すると、ガイドラインの存在と「誰でも相 談できること」の認知はごくわずかであるが高まっている。一方、具体的なシステムとしての相談 窓口や専門相談員の存在に関する認知は低下している。
図 9 近畿大学のハラスメント防止システムに関する認知
問 16. 大学におけるハラスメント防止対策として必要だと思うことの回答結果は、図 10 のと おりである。2012 年調査との大きな変化は見られない。「大学でハラスメント問題は取り上げる 必要はない」との回答率は 4.8% であったため、ほとんどの学生が何らかの防止対策が必要だと考 えている。こうした調査結果を厳正に受け止める必要がある。
図 10 大学におけるハラスメント防止対策として必要だと思うこと
9.分析のまとめ
上記の分析に基づいて総括的に以下のことが重要だと考えられる。
小学校・中学校、高校、大学におけるセクシュアルハラスメント問題についての学習経験が減少 していること、学習経験がある人のほうがハラスメント行為を認識できていること、セクシュアル ハラスメントを受けた割合ならびに見聞きしたり相談を受けたりした割合が減少していること、こ れら調査結果をふまえると、学習経験の減少が、自己や他者のハラスメント行為を認識する学生の 力を低下させている可能性があるとも考えられる。また学習経験のないもののほうが、被害者非難 に賛同する傾向にあることも分かった。多くの学生が、ハラスメント行為について見聞きしたり相 談を受けたりしている。こうした結果から、ハラスメント防止に関する教育実践の重要性とともに、
その方法や中身が問われていると指摘したい。
ハラスメント行為を受けた時の対処について、抗議すると回答した学生が減少し、相手との接点
をなくすように行動すると回答した学生が増加している。自分の権利を守るために、大学や社会が 抱える問題解決に協働でとりくむ、変化のために行動する、学んだことを社会的問題の解決のため に使う、といった視点からの人権教育とエンパワメント教育も必要である。
実際にハラスメント行為を学生が受けた場合を想定すれば、具体的なハラスメント防止システム としての相談窓口や専門相談員の存在に関する認知が低下していることは重く受け止めなければ ならない。相談システムの存在を知らないがゆえに、ハラスメント行為を受けても学内の相談機関 に相談しないという学生もいる。ほとんどの学生が何らかの防止対策が大学において必要だと考え ていることをふまえ、学内における相談体制の整備・充実・周知広報が急務である。
クラブ・サークルの活動中や合宿中のハラスメント行為が減少している一方、講義中、実験中の ハラスメント行為は微増している。また学生間のハラスメント行為は減少している一方、教職員に よるハラスメントはほぼ変化がない。教職員に対するハラスメント防止教育・啓発を大学として早 急に進める必要がある。
なおいくつかの大学では、学生のみならず、非常勤職員を含む教職員に対しても、ハラスメント に関する調査を行っている。教職員間におけるハラスメント実態調査の実施は、本学における今後 の課題であり、そうした調査結果をふまえたハラスメント防止対策のさらなる強化が求められてい る。
ハラスメント被害者個人にとって、その結果は非常に深刻である。ストレス、うつ病、自尊心の 低下、自己非難、恐怖症、不眠、消化器系及び筋骨格系障害といった身体的・精神的な症状や心身 相関の症状が現出し、心的外傷後ストレス障害になったりする場合もあり、学生、教職員を問わず 本学園構成員すべての問題として認識する必要がある。また本学園組織にとっても重大な悪影響を 及ぼす。
最後に、以上の認識のもと、上記に示した確実な実践がハラスメントのない学園を創造していく ことにつながることを申し上げ、「ハラスメントに関する意識調査」の結果と分析とさせていただ きたい。
10.調査結果分析をふまえた追記 ① ハラスメント防止の重要性
以上の調査結果の分析をふまえ、ハラスメント防止の重要性と本調査では取り上げなかった「レ イシャルハラスメント」の定義、メンタルヘルスケアについても簡潔に述べておきたい。
今日、多様な学生が快適に学べる条件を整備しつつ、多様な学生の違いを学びのチャンスにする 発想が求められている。こうした視点でハラスメントの防止は教育責任の面だけでなく、以下の三 つの視点からも重要だといえる。
第一に大学運営上の視点である。多様な人々が快適に学べる教育環境を創造することは、学生の 活性化という視点で欠かすことのできない課題である。多くの大学内でうつや適応障害等のメンタ ル不調を訴える学生が一定の割合で存在している。その背景にパワハラやセクハラ等の存在が上げ られている。ハラスメントが横行する学園で快適な教育環境はあり得ない。学園の「いじめ・嫌が らせ」といったハラスメントは、学生の尊厳や人格を侵害する許されない行為であるだけではなく、
周囲の人々、加害者、学園にとっても損失が大きいといえる。
まさに大学にとっての最重要テーマである学ぶ学生の能力を最大限引き出し、学園のイメージを
上げるためには、ハラスメント防止は最低限の条件である。
第二にコンプライアンスの視点でも重要テーマだということを忘れてはならない。ハラスメント は間違いなく教育・人権分野の不祥事でありコンプライアンス違反である。ハラスメントが横行す る学園で人権面のコンプライアンスが守られていると考える人はいない。それはハラスメント行為 自体が教育・人権面でのコンプライアンス違反という面だけではなく、不正行為などを放置する学 園体質をつくるという面からもコンプライアンス上の重要テーマだと認識するべきである。
第三に SR(社会的責任)の視点でもハラスメント防止は重要な課題である。学園の社会的責任 は、学生が教育環境を守られた状態で学ぶことができる環境を創造する責任も存在する。この教育 責任は学園の社会的責任である SR 上、重要な課題の一つである。
以上の三つの視点からハラスメント防止の重要性を理解した上で、アンケート対象であった学生 だけではなく、本学園に関係するすべての人々がハラスメント防止へ理解を深める必要がある。
教育現場における多くのハラスメントは、教職員と学生、学生同士等の場合が多く、表面上は指 導・教育等の形態を取っているため、ハラスメントが行われていても表面化しにくく、ハラスメン トを受けている被害者の精神的苦痛がピークに達するまで問題が明らかにならないことが多い。表 に現れたときには問題がかなり悪化しているケースも目立つ。近年、学園のハラスメント防止の取 り組みが推進され、早期の相談・通報も増加してきている。これらの取り組みを一層推進する必要 がある。
一部において教育目的が忘れられ、指導・教育ではなく学生に精神的苦痛を与えることになって いるのではないかと疑念を抱かせるような指導も存在してきた。教育にとっても大きなマイナスに なる。ハラスメントを行っている側は主観的には指導・教育のつもりでも、客観的には明確にハラ スメントであるということも珍しくない。ある面では、指導・教育といじめ・ハラスメントは紙一 重であり、両者の関係性も判断基準の重要な要素になる。
こうしたハラスメントの手段として最も多いのは言葉である。言葉によるハラスメントの場合、
差別的な言葉が使われることも多く、表現と人権はハラスメントをなくすためにも重要な視点であ る。言葉は最も重要なコミュニケーションの手段でもある。
教育界で語られる言葉に「木は光を浴びて育つというが、人は『言葉』を浴びて育つ」というフ レーズがある。同僚や学生、友人に日々どのような言葉をかけているのか。自身では気づかないう ちにやる気を削いだり、差別的な言葉をかけていないか。今一度、自身のコミュニケーションのあ り方や言葉を客観的に見つめていただくことを要請しておきたい。
② レイシャルハラスメントをなくすために
また近年、レイシャルハラスメントも大きな問題になっている。本アンケート調査では取り上げ なかったが、レイシャルハラスメントとは、職場や教育現場で行われる特定の人種、民族、国籍に 係わって不快を感じ、不適切で配慮に欠くと感じる言動を行うことである。特徴的なタイプとして、
第一に日本国籍を持つ日本人しかいないことを前提に会話、組織運営が行われたりすることであ る。具体的には「みんな同じ日本人だから」、「いつ日本に来たの?」といった発言で傷つく人もい る。第二に身体的、文化的特徴を揶揄、侮辱の対象とすることである。「日本語話せるの?」、「ニ ンニクくさい」、「そんなもの食べるの?」といったことや、じろじろ見たり、肌や毛髪に触ったり、
隣に座ると席を離れるといったようなことである。第三に特定の人種、民族、国籍に係わる事柄に
ついて、あたかもその集団の専門家、代表者、責任者であるかのように扱うことである。「あなた の国について、あなたはどう思う」といったようなことや「あなたは○○人らしくない」といった 発言である。第四に本人の意思に反して特定の人種、民族、国籍に係わる属性を公表したり、問い ただしたりすることである。その他にも仕事上の成功やミス、考え方の違いを特定の人種、民族、
国籍に結びつけて評価することである。「外国人だから考え方が違う」、「外国人だから仕方ない」等 というその属性に係わる誹謗中傷を流布することである。
より酷いものとしては、特定の人種、民族、国籍に係わる属性に対する侮辱的、否定的、攻撃的 言動、直接的暴力がある。特定の人種、民族、国籍に係わる属性に対して不当な一般化を行うこと もレイシャルハラスメントである。さらに特定の人種、民族、国籍に係わる属性を理由に不利益扱 いを行うことである。不適切対応による二次被害も入る。
こうしたレイシャルハラスメントの防止と救済に取り組むことも求められている。今日、日本の 総人口の約 1.8%が、外国籍の人々であり今後さらに増加する。セクハラやパワハラ防止の取り組 みをレイシャルハラスメントにも適応する必要がある。レイシャルハラスメントの背景・原因に日 本の人種差別、民族差別、国籍差別意識の現実があることも忘れてはならない。
③ メンタルヘルスケアのポイント
次にハラスメントと関わって、メンタルヘルスケアのポイントについて紹介しておきたい。
まず何の予兆もなくうつ病になることはほとんどない。それらの予兆に気づくことも教職員や学 生リーダーの重要な役割である。身体面では、心身のエネルギーが低下すると活力が失われていく。
心気症では、心身のエネルギーの低下が、頭痛、腹痛、動悸などが発生し、検査上は異常が見られ ないが、症状が出てくることがある。また心身症では胃潰瘍、過敏性腸症候群、免疫力の低下、円 形脱毛症等の検査上も明らかな所見を伴う疾患や症状が現われる。
行動面では、欠席、遅刻、早退が増加し、集中力低下、ミスの増加、記憶力の低下等が起こる。
対人関係では、協調性低下、孤立なども現われる。こうした症状の場合では、コミュニケーション を取り、悩みを聞いたりして休ませることも重要である。体調が元に戻れば、うつ病等を回避でき ることもある。
精神面では、情緒不安定になり、イライラが募り、感情の起伏が激しく安定しないという症状が 出てきたりする。あるいは性格が変化したように暗く陰気になり、無気力・無感情になることもあ る。またパニック・過呼吸・抑うつ状態という症状が出てきたりすることもある。こうした場合は、
すぐに病院で診察を受けることが必要である。顕著な症状としては、不眠の継続(2 週間続いてい る)、食欲の低下、自殺をほのめかすといったことが起こる。
以上のようなことを防止するためには、コミュニケーションは極めて重要である。教職員や先輩 学生が後輩学生等を叱る上で重要なことは共感である。最悪は学生を罵倒することである。これは 教職員や学生リーダーとして、自身の感情をコントロールできていない証である。時にプロセスを 全否定する学生リーダーがいるが、結果が出なくても全否定せず、努力の成果を認識させることが より良い関係の構築につながっていく。
コミュニケーションを取る場合にも、アサーティヴネスの視点を堅持することが重要である。日 常のコミュニケーションで自分の気持ちや要求を的確に伝えているか、自己検証すべきである。ア サーティヴネス(非攻撃型自己主張)とは、相手を攻撃することなく、自身の見解を相手に伝える
力である。心の栄養は人によって与えられて人によって奪われるといわれている。心の栄養を奪う ような指導や会話になっていないか、十分に注意する必要がある。
ここではアサーティヴネスの詳細を述べることはしないが、分かりやすい言語表現がすべての基 本だということを認識しておくべきである。もう一つ聴く姿勢が持つ力は侮れないということも忘 れてはならない。聴けなければ問題点にも気づけないし、人から信頼もされない。話を聴くことは 相手を認めることであり、信頼関係が築ければ、意見交換や率直な交流が実現できる。
以上の点をふまえて早期発見・早期対応の重要性を申し上げ追記としたい。