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グイ・ブッシュマンにおける儀礼と治療

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(1)

グイ・ブッシュマンにおける儀礼と治療

著者

今村 薫

雑誌名

名古屋学院大学論集 人文・自然科学篇

34

2

ページ

43-83

発行年

1998-01-31

URL

http://doi.org/10.15012/00000828

Copyright (c) 1998 今村薫

(2)

名古屋学院大学論集 人文 。自然科学篇 第34巻 第2号

(1998.1) 43

グイ・ブッシュマンにおける儀礼 と治療

I

:こ グイ・ブ ッシュマ ン

0は

,ア

フ リカ南部 のカ ラハ リ砂漠 にすむ狩猟採 集民 で あ る。彼 らの儀 礼体系 は未 発達 で あ り

,初

潮儀 礼 と結婚 式 をの ぞ いて は儀 礼 ら しい もの はな い と報 告 され て きた

(Silberbauer,1963;田

中,1971)。 私 も調査 を始 め た最 初 の

1年

間 は

,女

性 たちが集 まって ダ ンス を踊 る初潮儀 礼 以外 には儀礼 ら しい もの には出会 わず

,先

人の研究 を確 認す るだ けだ った。 ところが

, 2回

目の調査 では じめて結婚の儀 礼 を 目にす る機 会 に恵 まれ

,

自 分 が儀 礼 一般 につ いての固定観 念 に とらわれ て い るこ とに気づ い た。そ して, これ を きっか けに儀 礼の収集 と儀 礼体 系の研究 に着手す るこ とになった。

1991年

1月

,調

査 助 手 と して雇 って いた グ イの青 年 が結婚 に漕 ぎ着 け

,明

,結

婚式 をお こな う と私 に伝 えた。 当 日の朝

6時

前 に調 査 助 手 が呼 び に来 たの で

,私

は ビデ オ と写真機 を持 って花嫁 の い るキ ャンプ まで駆 けつ けた。 大 勢の参列者 を予想 していた私 は

,会

場 で あ る小屋 に着 いた とたん い ささか 拍 子抜 け した。 花婿 で あ る調 査助 手 と花嫁 と

,花

嫁 の お ばの合 わせ て

3人

の 他 に

,野

次馬 の大 人が

2人

居 ただ けだ ったか らだ。 ま もな く

,お

ば は

,お

も む ろ に剃 刀 を手 に とって新郎 新 婦 の身体 の数 力所 に小 さな傷 を付 けは じめ た。新郎新婦 の家族や 友人が加わ るわ けで もなけれ ば

,歌

や 踊 りが踊 られ る わ けで もな く

,実

に淡 々 と して静か な朝 が過 ぎてい った。 もし

,私

が結婚式 が お こなわれ てい るこ とを知 らず にこの小屋 に近づ いた とした ら

,ま

った く 気づ かず に通 り過 ぎたで あろ う と思 われた。

ダイ語で儀礼のことを「ッォー

(tsoo)」

という。ッォーとは本来「治療」

(3)

44

名古屋学院大学論集 や 「薬」 を意味 す る言葉 で あ る。彼 らに とって儀 礼 とは治療 行為の一部 なの で あ る。彼 らの結婚式 も

,結

婚 に よって被 る身体 的 な不調 を治す ための治療 とい う実用的 な比 重が大 きい。彼 らの儀 礼 はパ フ ォーマ ンス的要素が極端 に 少 な いの で

,異

文化 か らの観 察者 には見 えに くい。 グ イ 。ブ ッシュマ ンの儀 礼研 究が これ まで周辺的で あったの は

,こ

の よう な「見 えに くさ」 に くわ え

,彼

らの儀礼が近 隣の農牧民 で あ るカラハ リ族の 影響 を受 けて い る と考 え られて きたか らで あった。た とえば

,グ

イ・ブ ッシュ マ ンの研究 を長年精 力的 に続 けて い る菅原 は

,以

下 の ように述べ て い る。「現 在 サ ン (ブッシュマ ンの こ と

)が

頼 ってい る儀 礼 や呪薬 の か な りの部 分 はサ ン独 自の もので はな く

,カ

ラハ リ族 との長 い接 触 の過程 で と りいれ た もので あ る可能性 が高 い」(菅原

,1991)

本 論 文 で は第一 にグイ・ブ ッシュマ ンの儀 礼体 系の詳細 な記述 をお こな う。 これ までの私 の調査 に よ り

,誕

,成

,結

婚 とい った 人生 の通過 点 は もち ろん

,狩

猟 での不 成功 や 肉親 の死 とい った不幸

,

また

,突

発的 な事故 や 重 い 病 気 な どの災厄 にたい して も

,彼

らが儀 礼 をお こな ってい るこ とが明 らか に な って きた。 第二 に

,儀

礼 の形 式や儀 礼 で使 われ る薬 草 を比較 す るこ とで, ブ ッシュマ ン起 源の儀礼 とカ ラハ リ起源の儀 礼 とを峻 別す るこ とを試み る。 その うえで

,カ

ラハ リ族の影響 を受 けた儀 礼 を も合 め た

,現

在 のブ ッシュマ ンがお こなってい る儀礼の 全体 を貫 く彼 らの世 界観 を浮 かび上 が らせ る。 さ らに

,災

因論 の民 族誌 間の比較 か ら

,災

いの源 泉 と社 会構 造の関係 につ いて 考 察 す る。

II

調査地域 の概 略 と調査方法

セ ン トラル・ ブ ッシュマ ン (グイ とガナ

)は

,著

し く乾燥 した環境 に適応 した生 活 を営 む狩猟採 集民 で あ り,その生 態 と社 会 につ いては,田中,Silber―

bauerに

よって詳細 に研究 されて きた(田中

,1971,1978:Tanaka,1980;

Silberbauer,1963,1981)。 彼 らは

1970年

代 まで 自給 自足的 な狩猟採 集生 活 を送 っていた。 しか し

,ボ

ツワナ政 府の遠 隔地 開発計 画 に よ り

,1979年

よ り

(4)

グイ・ ブ ツンュマ ンにおける儀礼 と治療 45 カデ地 区 にデ ィーゼル・エ ンジン付 きの井戸が整備 されて定住化 が始 まった。 調 査 対 象地 で あ るカデ地 区 は

,セ

ン トラル・ カ ラハ リ動物保護 区の 中央 部 西 寄 りにあ る。カデ地 区で は集住化 が著 しく

,1990年

の 人 口は

750人

を越 え た(今村 ,1993)。 カデ地 区で は現 在 も狩 猟 と採 集 が お こなわれ て い るが

,政

府 か ら配給 され る トウモ ロ コシ粉 が主 食 とな ってお り

,道

路工 事 や民芸 品製 作 か ら得 られ る現 金収 入 に も生 計 を依 存 させ る よ うに な って きた (Osaki,

1990;Tanaka, 1987)。

本研 究 の資料 は

,1994年

度 お よび

1995年

度 に集 中的 にお こな った儀 礼 に 関す るイ ンタ ビューが もとにな って い る。 また

,1988年

度 よ り収 集 して きた 植 物 の利 用方法 と植 物標 本

,1988年

度 よ り参 与観 察 を始 め た初潮儀 礼 に関す る記録

,1990年

度 に立 ち会 った結婚儀 礼

,食

物 回避 に関す る儀 礼 の観 察記録 な ど も資料 に加 えた。本稿 で用 い るグイ語の音韻表記 は中川

(1993)の

確 立 した正 書法 に したが った(2)。 儀 礼 の 名称 な どで グイ語 を直訳 した もの は く 〉 で くくった。 III

個 々の儀礼 の説明

1

通過儀礼 グイ社会では

,誕

,成

,結

婚 とい う人生の節 目において儀礼 をおこな う。 これ らの儀礼の うち

,誕

生 と結婚 における儀礼は

,ご

く少人数でおこな われ人目につかない。 とくに結婚の儀礼は

,序

文で述べた ように荘厳 な儀式 や盛大な被露宴 とはかけ離れている。「儀礼」を指すツォー とい う言葉が本来 「治療」 を意味す るように

,結

婚の儀礼は性交 による病の実質的な治療 と予 防であ り

,親

族間の結束 を固めた り社会的に結婚 を公認 させ るための もので はないか らである。 この儀礼 を経ずに性行為 をおこなうと

,男

性 あるいは女 性が激 しい頭痛 に襲われ

,死

に至 ることもあると信 じられている。 子 どもに関す る儀礼 も

,子

どもの健康 と病気予防のために内輪でおこなわ れ る。両親の血 を子 どもに入れ る儀礼では

,両

親 と子 ども

,そ

れ と年長者が 早朝 に集 まり

,ひ

っそ りと執 り行われ る。子 どもに膀の緒 を探 させ る儀礼で

(5)

,母

親 と子 ど もの

2人

で お こな う。 一 方

,少

女 が迎 え る初潮 の儀 礼で は

,遠

方 か ら も多数 の女性 が集 まって来 て ダ ンス を踊 り

,少

女 を祝福 す る。初潮儀 礼 には少女 自身の健や か な成長 と 多産 を願 う側 面 と

,

自然 を畏敬 し自然 か らの恵 み を祈 願 す る

2つ

の側面 が あ る。 また,「 親族 には物 を分 け 与え よ」「親 族 は助 け合 え」「隠 し事 はす るな」 な ど

,高

い共 同性 に根 ざ したグイ社 会の イデオ ロギー を年長者 か ら再教 育 さ れ る機 会で もあ る。 男性 の成 人儀 礼 で も彼 自身の壮健 と自然 の慰撫 を目指 してい るが

,初

潮 を 迎 えた少女一 人 に対 して個 別 にお こなわれ る初潮儀礼 と異 な り

,男

性 の成 人 儀 礼 で は

10人

前 後 の青 年 を一 カ所 に集 め て集 団生 活 を させ る。男性 の成 人儀 礼 で は年 長者 に よる青 年支 配 の場 を形成 して い る意味 あいが強 い。

1-1

初潮儀 礼 少女 が初潮 を迎 える と

,同

じキ ャ ンプ の女性 たちは急 いで小屋 を建 てて少 女 をその小屋 に隔離 し

,初

潮 儀 礼 が始 まる。 少女 は頭 か ら毛 布 を被 り

,無

駄 口を聞 くこ とを許 されず

,お

よそ半 月間 じっ と横 たわ っていなければな らな い。 この間

,他

の キャ ンプ の女性 たち も集 まって きて

,少

女 の小屋 の まわ り を踊 りなが らまわ る。 この踊 りはエ ラン ド・ ダ ンス とい う。 エ ラン ドは

,カ

ラハ リ砂漠 に生 息す る脂肪 に富 む大型の レイ ヨウ類 で あ り

,神

が特 別 に人間 に与 えた動物 であ る と考 え られ てい る。 また

,エ

ラ ン ドは豊饒 と多産の シ ン ボル で もあ る。 エ ラン ド・ ダ ンスは一連 の初潮儀 礼の 中で

,最

も華や かな ク ライマ ックスだが

,初

潮儀 礼 その もの は

,完

了す るには

1年

近 くを要 す る多 数 の儀 礼 と行動規制の連 な りか らな る。初潮儀 礼 の詳細 は別稿 にゆず るこ と に し

,本

稿 で は初潮儀 礼 の 中で も「薬草 」 を使 う儀 礼 にの み注 目す る。儀 礼 は少女 のオバ(3)が 中心 にな ってお こな う。

(1)初

潮 の は じま リ く帰 らせ る〉 採 集 に出ていた少女 が

,初

潮 が始 まった こ とに気づ くとその場 に うず くま る。一緒 に採 集 に行 っていた女 たちが少女 を寝 かせ

,年

長者 がsaasaと い う

(6)

グイ・ブ ッシュマ ンにおける儀礼 と治療 47 植物 を噛んでか ら唾 を少女の足 に吐 きかける。 まず

,少

女の足の甲に

,次

に 足の裏に

,そ

れか ら経血の染み込んだ砂 に唾 を吐 きかける。 さらにその砂 を 灌木の根本 に捨 てる。 こうす ると

,雨

期 になると雨が降 って豊作 になる。そ れか ら女性 たちは,人日に触れ させ ないように少女 を取 り囲んで,彼女 をキャ ンプ まで連れて帰 る。 これ らの行為 を く帰 らせ る〉 という。 「

saasaを

噛んでか ら唾 を吐 きかける」とい う動作 は

,そ

の後の一連の初潮 儀礼において度々み られ る。初潮後の最初の食事

,最

初の排便

,最

初の採集, 最 初 の水汲 み において儀 礼 をお こな うが

,こ

れ らすべ ての儀 礼 で オバ は

saasaを

噛んでか ら唾 を

,少

,排

使用の小枝

,採

集の掘 り棒

,薪 ,草 ,水

場 を清め る枝 に吐 きかける。 いわば「お清め」の ような働 きがあると考 えられ る。

(2)最

初 の食べ 物 を く食べ させ る〉 キ ャ ンプ に戻 って きて

,別

の小屋 に隔離 された少女 は

,小

屋 の 中で初潮後 始 め ての 食事 を とる。 この食事 の前 に

,オ

バ がsaasaを 噛 んでか ら唾 を少女 に吐 きか け る。 それ か らオバ は少女 の利 き手の親指 甲側 をわずか に二本剃 刀 で切 り,そ の傷 口にく食べ薬 〉(粉に した

munnam tsOoと

い う植物 と豆科 の ≠ nin≠kё を混ぜ た物。 成長促進 の作 用が あ る と考 え られてい る

)を

のせ て少 女 に食べ させ る。 この儀礼 を く食べ させ る〉とい う。 それか ら食事 を とるが, 皿 に盛 られた料理 の半分 は必ずオバ に分 け

,残

りの半分 を少女 が食べ る。〈食 べ させ る〉 は最 初 の食事 の時 のみお こな うが

,料

理 を分 け る とい う行為 は食 事 の度 に毎回お こな う。 (3)「F踊離 され て い た小屋 か ら出 る 一 く垢 を こす って小屋 か ら出す〉 オバ た ちは

,少

女 を隔離 していた小屋 か ら出す 日取 りを決 め る。満 月の こ ろが望 ま しい とされ るので

,月

齢 を見 はか らって決定す る。個 人 に よって異 な るが

,平

均 して

2週

間少女 は小屋 に こ もるこ とにな る。小屋 にこ もってい る間

,毎

日 ‖

nanと

い う野生 ス イカの種 を粉 に した もの を

,体

に付 けて垢 と 一緒 にこす り落 と して きれ いにす る。体 に付 いた経血 もをまぶ して こす り落

(7)

とす。 小屋か ら出る日の朝 も

,体

の垢 をこすって落 とす。それか ら体の 11カ 所 に 剃刀で傷 を付 け

,薬

草 と く食べ薬〉 を傷 口に入れ る。 さらに

,首

飾 りや儀礼 用の帽子 (かつてはスプ リングボ ックの皮で作 ったが現在 はスカーフ

)を

身 につけ

,小

屋か ら出る。 これ らの

,朝

におこなう儀礼 を く垢 をこす って小屋 か ら出す〉 という。

(4)小

屋 の外の光 を見せ る 一 く顔 の前 で折 る〉 小屋 に こ もって い る間少女 は薄 暗が りの 中 にい るの で

,は

じめ て小屋 か ら 出 る と光 で 目が くらむ。 オバ が イネ科 の草 !k'aoで 少女 の視 界 を遮 ってか ら, 草 の 中心 を折 って少女 に光 を見せ る。 これ を く顔 の前 で折 る〉 とい う。 少女 が隔離 されていた小屋 か ら出 る 日は,女 性 たちが小屋 の入 り口付近 に集 まる。 少女 は若 い女性 に連 れ られ て

,小

屋 か ら

3方

向 に歩 いてみ る。少女 は

,翌

日, 女性 た ち に連 れ られ て 人 々の小屋 を訪 問す る。 訪 問 され た人 は

,少

女 に食べ 物 を分 けてや らな けれ ば な らな い。 この儀 礼 を く訪 問 させ る〉 とい う。

(5)弓

矢の儀礼 隔離 されていた小屋か ら出た少女 は

,オ

バ と一緒 にキャンプに住む男性 た ちの弓矢 を集め

,弓

と矢軸 にl xaa‐

xoと

い う薬 を塗 る。それか ら

,オ

バ と一 緒 に次 々 と矢 を放つ。 これが終わってか ら

,弓

矢 を男性 たちに返す。 この よ うに「治療」 された弓矢は

,特

別の力を持つ ようにな り

,そ

の後狩猟 に成功 す るという。

(6)親

族の男性 たちへの治療―一―く親族の女 たちがおこな う治療〉

3回

目の月経が終 わると

,キ

ョウダイや イ トコ

,ま

,同

じキャンプ に住 む男性 を集めて治療 をおこな う。集め られ る男性 は

,少

年期か ら

30歳

くらい までの独身の男性 ばか りである。彼 らは初潮儀礼中の少女が料理 した食べ物 を口にす る可能性のある若者 たちで

,こ

の治療 を受けない と

,歯

痛 と腹痛 に 苦 しむ ことになる。男性 たちの下顎 と胃の ところにつけた傷 口に薬草 を塗 り,

(8)

グイ・ ブ ツンュマ ンにおける儀礼 と治療 〈食 べ 薬 〉 を食べ させ る。 49

1-2

成 人儀 礼 男性 の成 人儀礼 (‖ k

)も

かつ てお こなわれ たが

,1967年

頃 を最 後 にお こなわれな くなった。厳格 な「女 人禁制」 で

,居

住地 か ら離 れ たブ ッシ ュの 中で お こなわれ た。

10代

後 半 か ら

30代

前 半の青 ∼壮 年の男性 を

10人

あ ま り 集 め

,年

長者 の定め る規律の もとで集団生活 をお こな った。毎年 お こなわれ る もの で はな く

,雨

に恵 まれ野生 の動植 物 が豊富 な年 に しか お こな われ な か った。強制参加で はな く,I機 会が あって も参加 しなか った人 もいた(4)。 この儀 礼 は雨季 の終 わ りにお こなわれ た。 日陰 をつ くる大木 と赤 々 と燃 や した焚 き火の間 に

,若

者 た ちは並 んで眠 る。若者 たちの頭側 と足側 に丸大 を お いて

,儀

礼 の ための 空間の境 界 をつ くった。昼 は両側 を年長者 には さまれ た一列横 隊で狩猟 に出掛 け る。狩猟 か ら帰 る と焚 き火 を飛び越 えて

,丸

大 の 間 の寝場所 に まで もどらなければな らない。寝返 りを うつ ときも

,年

長者 の 命令 に従 わなけれ ばな らない。菅原 に よる と

,若

者 た ちは灌木 の枝 で作 った 鞭 で背 中 を打 たれ た りしなが ら「人の もの を侵 す な。 お まえが物 を侵せ ば, お まえは殺 され る」といった説教 を受け,「 もの を見 るための分別」について 教わった(菅原,1996)。 また

,眉

間に剃刀で傷 をつけられ ‖

gaaで

作 られた 呪薬 をす りこまれた (菅原,1995)。 儀礼の際に

,超

越的存在である「神」 を呼び寄せ るために「うな り板」 を 振 り回 して旋回音 を出す(菅原,1996)。 この うな り板はl gaaで作 った紡錘 形の板 にダチ ョウの脚の腱 を くくりつけた ものである(5)。 儀礼は新 月か ら新 月 までの約一 カ月間続 いた。 この集団生活 を解除す る日 の夕暮れに

,若

者 たちは野生 スイカの種 を粉 に した ものを体 にまぶ して垢 を こす りお とす。年長者がイネ科 の草!k'aoで青年の視界 を遮 ってか ら

,草

の中 心 を折 って青年 に月光 を見せ る。 それか ら

,各

自が 自分のキャンプ に帰 って 日常の生活 を再開す るが

,そ

の後 さらに数力月か ら数年間は

,数

種類の動物 の肉を食べてはいけない0。 また

,少

年が初めての狩 りに成功 した ときの儀礼 を田中が報告 している。

(9)

以下

,原

文の まま掲載す る。 「少年が親か ら与 えられた縄製の罠で獲物 を捕 らえることに成功 した とき, 彼の年上 の親族たちは彼の上腕部や背中に小 さな切 り傷 を何条に もつけ

,何

種類 もの植物の汁 と消 し炭の粉 とを混ぜ合わせ た薬 を塗 りつけて入れ墨 を行 う。少年 は誇 らしげにこの儀式 に耐 え

,い

よい よ一 人前の男の世界に仲間入 りす る。」(田中

,1978)

この儀礼は本稿で後述す る「罠猟の儀礼」に似てお り,「薬」とは, │l gaa, ‖g5re,≠xariの 根 を黒 く焼 いた ものではないか と推察 され る。

1-3

結婚の儀礼 一 〈血 を混ぜ合 う〉

1970年

代 までは初潮前の少女 に親のすすめ る「いいなずけ」がいる場合が 多 く

,結

婚の儀礼は初潮儀礼の中でおこなわれていた。初潮儀礼の く垢 をこ す って小屋か ら出す〉 ときに

,少

1人

ではな く少女 と「いいなずけ」の2 人が身体 を剃 刀で傷つけ

,互

いの血 を混ぜ合 ったのである。 近年 は

,初

潮ののち数年経 ってか ら結婚す る女性が大半であ り

,初

潮儀礼 と結婚の儀礼は完全に切 り離 されている。結婚の儀礼 において

,ま

,男

性 と女性 は互 いの身体の垢 を手で こす り落 とす。 この ことを く垢 を混ぜ合 う〉 とい う。次に

,身

体 を剃刀で切 って

,互

いの血 を混ぜ合 う。それで

,結

婚の 儀礼の ことを く血 を混ぜ合 う〉と表現す る。 また,く血を混ぜ合 う〉時 に胸の 傷 日の血 を混ぜ合 うことを

,

とくに く心 を混ぜ合 う〉 といい

,こ

うす ること で男女 は互 いの ことを深 く愛す るようになるという。 結婚の儀礼に臨む男女 は厳粛その ものであ り

,強

力なパ ワー を持つ血 を混 ぜ合 うという行為は

2人

が心身 ともに一体 となることを目指 している。結婚 の儀礼 を経 るこ とによって

, 2人

が制度的な結婚 とい う状態へ移行 したこと は明 らかである。 しか し

,こ

の儀礼は形式的 に結婚 と非結婚 を分けるための ものではな く

,性

行為 とい う実態の後の対策 として機能 しているのだ という 点 も強調 してお きたい。

(10)

グイ・ブッシュマンにおける儀礼と治療

51

1-4

子 ど もに両親 の血 を入れ る儀 礼 一 く子 どもの治療 〉 子 ど もが生 後2カ月ほ どた って首がすわ って くる と

,両

親 の血 を子 ど もに 入れ る。 この儀 礼 に よって子 ど もは丈大 に育つ とい う。

1-5

膀 の緒 の儀礼 ― く膀 の緒 を掘 らせ る〉 グ イ・ ブ ッシュマ ンの出産 は

,か

つ て はブ ッシュの中でお こなわれ た。年 長の女性 たちが出産 を手伝 い

,謄

の緒 はブ ッシュにはえてい る

kx'oamの

枝 で 切 った。胎盤 は穴 を掘 ってブ ッシュに捨 てた。 母親 は生 まれたての赤ん坊 を抱 いて キャ ンプ に戻 り

,産

後 の休 養 と育児 は小屋 でお こな った。 母親 は出産後 は小屋 にこ もり

,新

生 児 を父親 も合 めたすべ ての男性 の 目に 触れ させ ない。生後

3∼

4日 で子 ど もの膀 の緒 が乾 いて落 ち る と,≠

kanと

い う薬 草 を膀 に塗 り

,母

親 は磨の緒 を しまってお く。 約

2週

間経 って子 ど もを 小屋 か ら出す 日が くる と

,母

親 は子 ど もの身体 を洗 って産毛 を剃 刀で剃 り落 と し

,そ

の産毛 で子 ど もの膀の緒 を包む。 この磨の緒 を

,

さ らに皮紐 で巻 い て小屋 の 中に大切 に保管す る。 子 ど もが

1歳

前後 にな る と,母 親 は小屋の床 の砂 に磨の緒 をいったん埋 め, それ を子 どもに 自分 で探 させ る。子 ど もが 自分 で掘 り当て るの を確 認 してか ら

,母

親 は膀 の緒 を再 び袋の 中に しまい込む。鱗の緒 は

,体

内で子 ど もと母 親 を結 び付 けて いた ように

,子

ど もと小屋 を結 び付 け る働 きが あ る と考 え ら れ て い るの で あ る。子 どもに く踏 の緒 を掘 らせ た〉 その 日を境 に

,母

親 は肌 身離 さず 負ぶ っていた子 ど もを小屋 に残 して採 集 に出か け るようにな る。膀 の緒 が小屋 に しまってある限 り

,暦

の緒 の 力に よって子 ど もは小屋 に戻 るこ とが で きるので あ る。 伝 統 的 な遊動生 活 をお くって い た頃 の最 も危険 な子 ど もの事故 は

,小

屋 か らブ ッシュヘ迷 い出 るこ とで あった(7)。ブ ッシュで迷 子 になれば,肉 食獣 や毒 蛇 に殺 された り

,飢

えや渇 き

,

ときには寒 さで死 ぬ こ とが あ る。定住 す る よ うにな った現 在 も

,子

ど もの無事故 を祈願 した「お守 り」 と して

,膳

の緒 を 大切 に保管 してい る人は多い。 ところが

,膀

の緒 は子 ど もが

6∼ 7歳

にな る ころには

,い

つ の間 にか消失 して しまうとい う。この くらいの年齢 にな る と,

(11)

名古屋学院大学論集 子 ど もは大 人 た ち につ い て 活 発 にブ ッシ ュの 中 を歩 き回 る よ うに な り

,母

親 は以 前 ほ ど子 ど もの こ とを気 に か け な くな るか らで あ る。

2

食物 回避 を解 除 す る ときの儀 礼 グ イ 。ブ ッシュマ ンは動物性 食物 につ いて

,い

くつ かの タブ ー を持 って い る (田中,1971)。 一 つ は老 入 しか食べ られ な い「老 人の 肉」で あ り

,

もう一 つ は

,若

い 女性 や乳幼 児の両親 が 肉食 を避 けなけれ ばな らない動物 であ る。 前者 の老 人の 肉 と して

,セ

ンザ ンコウ

,ア

フ リカオオ ノガ ン

,ク

ロエ リノガ ン

, 2種

類 の カ メが菅 原

(1994)に

よって報 告 され て い る。 本稿 では

,ゲ

ム ス ボ ックの腸

,ハ

ー テ ビー ス トの骨髄

,ク

ー ズーの骨髄 を新 たに老人の 肉 に 加 え

,

と くに クーズーの骨髄 につ いての儀 礼 を記述 す る。 老 人の 肉を若 い者 が食べ る と

,下

痢 と腹痛 にお そわれやせ 衰 え る と信 じら れ て い る。老 人の 肉 を食べ るこ とは年 長者 の特権 なので あ る。 これ らの 肉 を 食べ始 め る儀 礼 にお いては

,薬

草や 年 長者 の唾液 や脇 の下 の汗 が 「薬」 と し て使 われ る。 しか し

,こ

れ ら薬 の効果 よ りも

,年

長者が手ずか ら若者 に肉 を 与 え る とい う行為 自身 に意義 が あ る ようだ。 初潮 を迎 えるころの 14∼

15歳

の少 女は,クー ズー とダイカーの 肉を食べ て はい けない こ とにな ってい る。その後

16歳

前後 で初潮 が は じまる と,これ ら

2種

類 の動物 の 肉 は肉食回避 の対 象 か らはずれ る。 初潮 を経 た少 女は

,

クー ズー とダイカー につ いては と くに何 の儀礼 もお こなわず にそれ らの 肉 を食べ 始 め る。 しか し

,今

度 は

,ゲ

ム スボ ック

,ス

テ ィー ンボ ック

,ハ

ー テ ビース ト

,

トビウサ ギ

,ヤ

マ ア ラシの

5種

類 の動物 の 肉 を食べ て はいけない。 これ ら

5種

類 の動 物 の 肉 は「強 い」 あ るいは「毒 を持 って い る」 とされ

,初

潮 を 迎 えたばか りの大 人 にな りきって い ない少女 が 口にす る と,i敷 しい腹痛 と食 欲 不振 をお こす とい う。 肉食 回避 を解 く順 番 は

,獲

物 を得 る機 会や少女 個 人の好 み に よって異 な る が

,ゲ

ム スボ ックか ら先 に食べ始 め る場合 が 多い。 ゲム スボ ックは短期 間で 回避 を解 いて よ く

,早

い 人で は初潮 を迎 えて1カ月以 内 にゲ ム ス ボ ックの 肉 を食べ始 め る。 他の

4種

類 の動物 は

,比

較 的長 い間 肉食 を回避 し

,少

な くと

(12)

グイ 。ブ ッシュマ ンにおける儀礼 と治療 53 も半年か ら

1年

はこれ らの肉を食べ ない。ゲムスボ ック,ス テ ィー ンボ ック, ハーテビース ト

,

トビウサ ギ

,ヤ

マアラシの

5種

類の動物 については

,肉

食 を再開す るときに必ず儀礼 をおこな う。 これ ら

5種

類の動物の肉は,乳幼児の成長 を阻害す るとも考 えられている。 乳幼児 を持つ両親 は,子どもにこれ らの動物の肉を食べ させ ないだけでな く, 両親 自らも肉を食べない。 とくに母親 は母乳か ら子 どもに肉が伝 わるので, 長期 にわたって厳格 に肉食回避のルール を守 る。母親が肉食回避 を解 くとき は,「子 どもの身体 に剃刀でつ けた傷 口に薬 をいれ る」とい う方法 をとる。一 方

,父

親 は数力月で肉食回避 を解 き

,儀

礼の方法 も「薬 を含んだ父親の唾液 を子 どもに飲 ませ る」 とい うより簡便な ものである。 女性 は初潮 を迎 えてか ら彼女 自身のために肉食 を止め

,結

婚 して子 どもを 生んでか らは子 どものために肉食回避 をおこな う。そのため

,人

によっては, 初潮か ら結婚 して子 どもを出産 し

,そ

の子が成長す るまでの

10年

あま りも, ある動物の肉を食べ続 けないことがある。 いずれの場合 も儀礼 を怠 ると

,ひ

どい腹痛

,下

痢 に襲われてやせ衰 え

,最

悪の場合は死 に至 るという。 この ように

,儀

礼は必要不可欠な ものだが

,彼

らは

,儀

礼をおこなってか ら肉食回避 を解 くのではな く,ま ず肉を食べてか ら儀礼 をおこな う。これは, 肉に出会 う機会が偶発的で予測で きないので

,

まず

,機

会 をとらえて肉を食 べ

,そ

の後お もむろに儀礼 をおこな うと考 えられ る。 さらに

,こ

れはグイ 。 ブ ッシュマ ンの儀礼全般 に共通す ることだが

,一

般 に考え られ る儀礼 と異な り

,彼

らの儀礼は「新 しい状態 に移行す るための境界」 として機能 していな い。つ まり

,儀

礼 という形式的な「け じめ」 を通過 した後 に

,肉

食回避 を解 除す るのではな く

,実

質的に解除 して しまってか ら事後処理 として儀礼 をお こな うのである。 薬草 として

,│l gaaま

たは ‖

g5reを

もちいる。その他

,ヤ

マアラシには≠ xariを

,

トビウサ ギにはl kOё や!nan(8)を追加す る。≠xariは ヤ マ ア ラ シ

の, l kOё と!nanは トビウサギの食物であ り

,そ

れぞれの動物 に関係の深 い

(13)

3

不猟 に対 す る儀 礼 彼 らが伝統的 にお こなった猟法 は

,罠

,弓

矢猟

,槍

猟 で あ る。 これ らの うち

,弓

矢猟 は現在 お こなわれ な くな ったが

,民

猟 と槍猟 は今 日にい た る ま で堅実 にお こなわれてい る。槍猟 には大 を伴 う場 合が多い(池谷,1989)。 ま た

,近

,馬

が導 入 されて集 団騎馬猟が盛 ん にな ってい る (Osaki,1984)。 狩猟 は

,第

一 に彼 ら自身が食べ る肉 を得 るための生業活動 で あ る。 また

,毛

皮 は彼 らの伝統的 な衣類 であ り

,さ

らに

,近

隣 のバ ンツー系農牧 民 との交 易 品 と して重要 であ った。現在 も

,狩

猟 活動 は肉の供給源 と して

,

また

,皮

か ら民芸 品 を製作販売 して現金収 入 を得 るため に重要 で あ る。 不猟 が続 くと

,儀

礼 をお こな う。儀 礼 には,〈民猟 の儀 礼 〉く弓矢猟 の儀 礼 〉 く大の儀 礼〉が あ る。これ らは

,早

朝 に妻 が大 に施 す こ とが 多 く,「ま じない」 的 な要 素が強 い。儀 礼の方法 は

,身

体 を剃 刀で傷 つ け

,そ

の傷 口に薬 卓を塗 り込 む タイプ と

,キ

ノ コを使 うタイプが あ る。 いずれ も

,狩

猟 の対 象 で あ る 動物 が 人間 を発見 で きな くな るこ とに よって

,狩

猟 が成功 す る とい う。

4

病 気

,け

,突

発 的 な事 故 に対 す る治療 お よび儀 礼

4-1

対症療法 腹痛

,胃

,頭

,筋

肉痛

,関

節痛

,吹

き出物 な どには

,そ

れ ぞれ症 状 に 応 じて薬 草 を煎 じて飲 んだ り

,傷

口に塗 り付 けた り

,薬

卓を煮立 たせ た蒸気 を身体 に浴 びせ た りす る。 また

,胃

や 関節 な どの傷 む場 所 を剃 刀で切 って潟 血 させ る とい う治療 もあわせ てお こなわれ る。傷 口には

,薬

用植 物 を砕 いて 粉 に した もの をエ ラ ン ドの脂 肪 と混ぜ て塗 り込 む。

4-2

災 いの原 因 「 ツ ォ リ」 と「カバ ー」 対症療 法 的 に治療 をお こな って もなかなか回復 しない場合

,人

々はその病 気 の原 因が別 にあ るので はないか と推 察 し始 め る。重 い病 気

,あ

るいは

,突

発 的 な事 故 にあ った本 人の家族や親 族が

,人

々 とうわ さ話 を重ね る中で災難 の原 因 を特 定す るので あ る。 災 い を もた らす もの は,「 ツ ォ リ」 と「 カバ ー」 に三 分 され る(9)。

(14)

グイ・ブ ツンュマ ンにおける儀礼 と治療 55 (1)` ソォ リ ツ ォリ (/qx'6ri)は 「よごれ」や「垢」のことである。体の表面の垢や, 手の よごれな どの眼に見える物質 も意味す るが

,血

液や尿の中に潜む 日に見 えない物 として も理解 されている。性 交渉

,

とくに婚外の性行為 によって伝 染す るものだ と考 えられている。 また

,独

身の男女であって も一方が (と く に女性が

)経

験 をつんだ年輩である場合 には

,ツ

ォリが発生す るという。 性 交渉 によって伝染 したツ ォリは

,性

行為 をおこなった男女の体中に蔓延 し

,次

にそれぞれの配偶者へ伝染す る。 さらに

,食

べ物な どなん らかの方法 によって

,ツ

ォリは子 どもたちへ も伝わると考 えられている。 ツ ォリによっ て

,ま

,幼

い子 どもたちが病気 にな り

,大

人 も重い病 にかか る。 ツ ォリに よる病 は

,大

人に対 しては頭痛

,腰

,腹

,急

激 な痩せ としてあ らわれ, 子 どもには下痢

,腹

,嘔

,食

欲不振

,発

育不全な どの症状が見 られ る。 これ らは徐 々に進行 し

,最

悪の場合は死 に至 る。 ツ ォリによる病 を防 ぐために

,あ

るいは

,誰

かが病気になってか らの治療 として,「ツォリの儀礼」がおこなわれ る。 ツォリの儀礼 には,「尿 を混ぜ合 う儀礼」「 くしゃみの儀礼」「汗 をか く儀礼」の

3種

類がある(10)。 これ らの う ち

1種

類 だけおこなって も

, 3種

類 ともおこなって もよい。 「│ノ1を混ぜ合 う儀礼」 は

,血

を混ぜ合 う「結婚の儀礼」 と手順や使われ る 薬 卓が よ く似 ているが

,

血の中に尿 を混ぜ る点が異 なる。尿は最 も「よごれ ている状態」であるが故 に

,治

療のための薬 になるのだ とい う。 ツォリは, 人間の血ir々

,精

液,I′

R,汗 ,唾

,鼻

,息

などの体内に潜 んでいる。 尿 を,[こぜ合 う儀礼 には

,性

関係 を持 った男女

,お

よび

,そ

の配偶者 と子 ど もたちの全員が参加す る。誰か (と くに小 さい子 ども

)が

病気 になってか ら おこな うこともあるが

,病

気 を恐れてあ らか じめおこな うことも多い。性関 係 を持 った男女 にすでに子 どもがいる場合は

,大

人たち自身の病気 よ り

,子

どもが病気に冒され るのを恐れ るので

,こ

の儀礼では「子 どものたちへの治 療」 といった側面が重要 になる。 関係す るすべての人々が集 まると

,年

長者が儀礼 を始め る。大 人たち全員 が 1カ 所 に尿 を溜め

,皮

膚 を傷つ けて血 を流 し

,体

内に潜んでいるツォリを

(15)

追 い出す。次 に

,そ

の尿 と血 を混ぜ合 わせ さ らに薬用植物 を混ぜ る と

,今

度 はそれ らが強 力な「薬」 に転 じる。 この薬 を人々の傷 口に塗 り込む。 また, 大 人た ち全員の血 と尿 で

,子

ど もたち全員 にたい して も治療 す るc 「 くしゃみの儀 礼」 と「汗 をか く儀 礼」 には

,性

関係 を もった男 女 とそれ ぞれ の配偶者 が参 加す るのが望 ま しい とされ るが,子 ど もたちは参加 しない。 くしゃみの儀礼 で は

,参

加者 が 〈くしゃみ薬 〉 を嗅 いで くしゃみ を飛 ばす。 くくしゃみ薬 〉 は

,彼

らの手足 の爪 に薬草 を混ぜ てつ くる。くしゃみが なか なか 出 ない ときは

,そ

れ だ け病 が重 い とい う。 「汗 をか く儀 礼」 で は

,儀

礼 の ための参 加者 全 員が

,薬

草 を煮 え立 たせ た 湯 を取 り囲んで座 る。身体 をす っぽ りと毛 布 で覆 い

,皆

が薬草 の蒸気 を浴 び て汗 をか く。 これ らの儀礼 で は

,

くしゃみや 汗 とともに体 内の ツ ォ リを外 に 出す こ とに よって

,病

か ら回復 す る と考 え られてい る。 ツ ォ リの儀礼 は

,性

交渉 をお こな った男女 の 関係 をそれぞれの配偶者や親 族 に明 らか にす るこ とに

,社

会的 な意味 が あ る。 また

,ツ

ォ リの儀 礼 は

,婚

外 の性 関係 (いわ ゆ る姦通

)だ

けで な く

,再

婚 す る男女 の あいだで もお こな われ る。 す なわ ち

,ツ

ォ リの儀礼 は

,形

式 的 な「結婚」 と「婚 外」 を分 け る 儀 礼 で はな く

,

まさ しく性 関係 を結んだ こ とに よる身体 的

,社

会的 問題 を解 決 す るための儀 礼 とい え よう。

(2)カ

バー カバー

(qhaba)の

意味 としては「恨み」が最 も近 いが

,必

ず親族の年長者 か ら年少者へのみ発せ られ るとい う特徴 を持つ。下の世代の親族 (息子

,娘

,オ

,メ

)の

誰かの正 しくない行為が

,上

の世代 (父母やオジ

,オ

バ) の人々を苦 しめ るこ とに よってカバーが生 じ

,そ

の カバーが息子や オ イに く入って〉

,彼

は重病 になった り事故 に遭 う。正 しくない行為 とは

,以

下の も のである。①親族に肉やお金 を分 けない。②誰 もが認めない婚外性関係 を続 ける。③遠方へ出かけた きり消息不明になる。 カバーは恨み一般 に拡張 され ることはな く

,あ

くまで

,親

族の年長者か ら 発せ られ るものに限定 され る。 カバーによる被害 として説明 され るものは,

(16)

グイ・ブッンユマンにおける儀礼と治療

57

①突然の事故

,②

重い病気

,③

出産が遅れるといった障害などである。以下

にカバーの具体例 をあげる。

事例

1

ライオ ンが小屋 にぶつ か る 1972年 ごろ, まだ

,定

住せ ず にブ ッシュに住 んで いた ころの こ と だ。明 け方,ツ ォウ大妻の小屋 にライオ ンが突進 して きた。大 の ツ ォ ウは恐怖 の あ ま り震 えて意識 を失 った。妻 は ツ ォウの キ ョウ ダイた ちの所へ行 き,「わた したちは こんな 日にあった。 まるで カバ ーの よ うだ った」と訴 えた。キ ョウ ダイたちは即座 にカバ ーの儀 礼 をお こな い

,薬

草の 入った水 をツ ォウ に降 り注 いだ。 ツ ォウは意識 を取 り戻 し

,回

復 した。 ッ ォウは狩 りを して はキ ョウ ダイた ちに肉 を分 けて いたのだが, キ ョウダイたちはその 肉の分 配 に不満 だ ったので

,そ

の カバ ー (恨 み

)が

ツ ォウに入 ったので あ る。 事例

2

長 き不在 の息子が帰 る ッ ォーテベ とナエ コー ビ夫妻 の息子のハ ケバ ギーサ は

,1982年

ご ろ よ り都会 に出た きり消 息 を絶 っていた。夫妻 は大 変心 を痛 め,何度 か都 会 まで息子 を捜 しに行 ったが見つ か らなか った(H)。 その息 子が , 1993年 にひ ょっこ りと帰 って きた。両親 は喜んで息子 を迎 え入れつ つ も,カ バーの儀礼 をお こなった。なぜ な ら,ハケバ ギーサの帰 りを 待 ち望 んで両親や親 族の心 は悲 しみで充 た され,ツォ リで汚れてくカ パーの状態〉 になってい る。 カバーの状態の両親 とともに生活す る と,い ずれハ ケバ ギーサ にカバ ーが入 り病 気や事故 に遭 うだ ろ う。そ の 予防処iliり と して両親 や 親 族 が一 堂 に会 し

,カ

バ ーの 治療 をお こ な った。 事例3 `守猟 での事故 1995年 8月,若者の トゥ トゥは仲 間数 人で,狩 猟 に行 った。彼 は獲 物 を狙 って槍 を投 げたのだが

,そ

の槍が誤 って ジュブ とい う若者 に 刺 さって しまった。ジュブ は大怪 我 を負 ったが,町 の病 院 に運 び込 ま れて一命 を と りとめ た。 この事 故 につ いての 人々の解 釈 は次 の よう で あ る。

(17)

トゥ トゥは 日頃,狩 })で得 た肉 を両親や親 族 に分 けてお らず,両 親 は悲 しんでいた。その ため に トゥ トゥはカバ ーの状 態 にな っていた。 また, ジュプの両親 はカデか ら200キ ロほ ど離れ た別の集落 に住 ん でお り,長 い間息子 に会 っていなかった。その両親の悲 しみ故 にジュ プ はカバ ーの状態 になっていた。 カバーの状態 であ る2人が一緒 に 狩猟 に出か けたの で

,こ

の ような惨事がお きたのである。 この事例 ではカバーの儀礼 をおこなったか否かは不明であ る。 事例

4

出産 の遅延 1994年 12月 中旬

,若

い女性 の ゴー コは臨月に入っていたが,なか なか子 ど もが生 まれ なか った。 ゴー コの 出産 が遅 れ て い るこ とにつ いての, ゴー コの母親 と兄嫁の解釈 は次の ようであった。 ゴー コの 兄の シエホが

,彼

の母親 の イモ ウ トにあた るモ レツァに 肉 を分 けなか ったので,モ レツァに恨 まれ てカバ ーが生 じた。その カ バ ーが妹 の ゴー コに入 り

,彼

女 の出産が遅 れ てい るので あ る。 結 局,翌 月の 1月 9日 に子 ど もが産 まれ,カ バ ーの儀 礼 はお こなわ れなか った。 これ らの事例の ように

,突

発的な事故や問題が起 きて しまったあ とか らの 説明 として

,カ

バーが人々の 日にのぼ る。突発的な事故は強 く人々の心 を揺 さぶ るものであ り

,事

1の

ようにカバーか らの回復 も劇的な ものである。 事例

3の

事故 も衝撃的な事件であったが

,幸

いなことに命は助かった。 長期間不在だった息子が帰 って きた場合 (事例

2)に

もカバーの儀礼がおこ なわれ る。親族は彼 を「切実に欲 している」(菅原

,1987)の

,そ

の欲望ゆ えに くッォリで よごれている状態〉になるという。「極端 に長い不在は

,人

の 体 にある種の汚れ を沈着 させ る。 しか も

,そ

の汚れの源は

,不

在の人を希求 す る者たちの欲望 なのである。」(菅原

,1987)

臨月を迎 えて も子 どもがなかなか産 まれない とき (事例

4)は

,難

産や死 産

,あ

るいは母体の死 に結びつ くと考えられてお り

,グ

イは出産の遅延 を災 難 として受 け とめてい る(12)。 出産の遅延の原因 として

,彼

らはツォ リとカ バーの どちらかを考える。 ツォリは夫妻

,

とくに妻が以前に別の男性 と性交

(18)

グイ・ブ ツンユマ ンにおける儀礼 と治療 59 渉 を持 った こ とに よる。 カバ ー は夫 あ るいは妻 が

,親

族 た ちの恨 み をか った こ とに よって生 じる。 出産の遅 れが ツ ォ リに よる ものか カバ ー に よる ものか で対処の方法 (儀礼

)も

異 な る。 カバ ー は

,年

少者 の行為が年長者 を苦 しめ

,年

長者 た ちが くツ ォ リで よご れ て い る状 態 〉 にな るこ とに よって生起 す る。 したが って

,年

少者 にカバ ー が 入 って命 の危険 に冒 され た と き

,親

族 の 年 長 者 た ち は 自分 た ちの 手 の垢 (ツォ リ

)を

水 で洗 って

,ツ

ォ リを外へ追 い出そ うとす る。 したが って

,カ

バ ーの ための儀 礼 は 〈手の垢 〉 といわれ る。 カバ ー を「恨 み」 と訳す と

,ア

フ リカ に広 く見 られ る「邪術」や 「呪 い」 を連 想 させ る。 しか しなが ら

,カ

バ ーは恨 みや妬 み全般 に拡張 され るこ とが な く

,あ

くまで

,親

族 の年 長者 か ら年 少者 へ

,多

くの場合 には親 か ら子へ発 せ れ らる もの に限定 されて い る。 突 発的 な事 故 や 急病 で 人が死 んだ場 合 は「呪 い」が囁 か れ る場 合 が あ るが, これ は必ず近 隣の カラハ リ族 あ るいはツワナ族 に よる もの とされ る。私 の滞 在 中 に「落 雷 で子 ど もが死 ぬ」 とい う事 故 が起 きた こ とが あ るが

,こ

の事故 につ いて は「 子ど もの父親 が カ ラハ リ族 に呪 い をか け られ たか らだ」 とい う 暉 が流 布 して い た。 人 を死 に至 ら しめ る よ うな呪 い はバ ンツー系農牧 民 の カ ラハ リ族 あ るいは ツ ワナ族 の もの で あ り

,ブ

ッシ ュマ ンはその よ うな恐 ろ し い もの は使 わない とい うのが

,グ

イた ち 自身の主張 であ る(13)。 ヵバ

_は

呪 い で はないので

,カ

バ ー に よって 人が死 んだ とい う例 はほ とん どない。 カバ ー に よる被害 は

,危

う く命 を落 と しか け るが最 終 的 には助 か る とい う もの で あ り

,決

して年少者 を死 に至 ら しめ る もので はない。被害 が この程 度 に限定 さ れ る点が

,い

か に も親 族の仕業 で あ るように思 われ る。 カバ ー は親 族 とい う枠組 みの 中で生起 す るので

,災

厄 の責任 とい う点 で は 加害者 (年長者

)と

被害者 (年少者

)は

「共犯 関係 」 にあ る。事例

1で

は被 害 者 の妻 が

,災

厄 に あ った その瞬 間 か ら「 これ はカバ ー に よる ものだ」 と判 断 して い る。 被害 者 の妻 が キ ョウ ダイた ちの ところへ駆 けつ けたの は

,彼

ら を責め に行 ったので はな く

,人

を集 めてカバ ーの儀 礼 をお こな って くれ と懇 願 に行 ったの で あ った。私 は

,加

害 者 とされ るキ ョウ ダイの

1人

に過去 の こ

(19)

の事件 について尋ねたことがあるが

,彼

は「わ しがカバーを入れたのか と言 われて も

,わ

しは知 らない。だが

,人

々がカバー と言 うのな ら,そ れはカバー なのであろ う」と答 えた。被害者大妻の「われわれは

,肉

を取 りす ぎている」 とい う自責の念 を

,キ

ョウダイたちが共有 してや った と考え られ る。 事例

2で

は災厄の起 きる前に

,両

親が 自分 たちのせ いで息子に災いが起 き るの を自党 している。両親 は

,息

子 を強 く希求 した欲望や悲 しみを「手の垢」 とともに発散 させ たい と感 じ

,息

子 は自分のせ いで両親が心 を痛めたことを 認め る。 こうして

,両

親 と息子はカバーにおいて共犯者 となるのである。 事例

4で

は,カバーは妊婦 自身のせ いではな く兄への恨みのせ いであると, 彼女の母親たちは考 えている。兄のせ いで妹が災厄 に遭 うとは理不尽 な話で ある。 また

,妊

婦の夫 も優秀な騎馬猟のハ ンターであ り

,夫

の方こそ恨みを 受 けそ うであると

,最

初 に私 は考 えた。 しか し

,こ

の「診断」 を下 していた のは

,兄

の母 と妻その人であった。つ ま り

,兄

シエホが

,肉

の分配の ことで 母のイモウ トを怒 らせ ているのではないか とい う恐れが

,シ

エホの母 と妻に はすでに共有 されていたのではないか。そ して

,シ

エホの妹が初産への不安 に加 えて出産が遅れているの を

,母

のイモウ トのカバーのせ いであると彼 女 たちは考えた。被害者側の強い自責の念が

,カ

バー とい う加害被害関係 を発 生 させ たのである。

4-3

治療 の ダ ンス (ヒー リング・ ダンス) グイ・ ブ ッシュマ ンは

,病

人 を回復 させ

,キ

ャ ンプ に 平安 と救済 を もた ら す ため に ダ ンス を踊 る。 この治療 の ダンスは

,グ

イに とって重要 な宗教 的儀 礼 で あ るばか りで な く,す べ てのブ ッシュマ ンに共通 した もっ とも顕者 な「文 化 の核 」(菅原

,1993)で

あ る。 ダ ンスの形式や機 能 につ いては

,田

中(1971,

1978),今

村 (1991)を参照 され た い。 ここで は「薬」につ いての記述 に とど め る。 ヒー ラーで あ る男性 の踊 り手 は,≠k'aaとい う薬 草や

,ゲ

ム ス ボ ックの角 を刻 んだ もの を病 人 に投 げつ けて失神 させ る。 また

,

ヒー ラーの身体 か ら流 れ る汗 を手 でぬ ぐい

,病

人 た ち に振 りか け る。 ダンスでの感 きわ まった状 態

(20)

グイ・ブ ツンュマ ンにおける儀礼 と治療 61

について「コップ をとって水たまりを飲む」

(菅

原,1993)と いう表現がある。

病人だけでな く

,一

般の女性たちもこの治療 を受けようと歌 を歌いなが ら参

加 してお り

,女

性たちは「われがちに踊 り手の腫を掌でこす り

,

自らの頼に

なす りつける」

(菅

,1993)菅

原は

,彼

らが「水たまり」にたとえるものこ

,男

性の身体か ら放射 される「活力」または「精気」なのであろうと断 じ

ている。

IV

1

治療 としての儀礼 グイ 。ブ ッシュマ ンは

,人

間の成長段階に応 じて被 るとされ る病気や災い への予防

,

また

,実

際に起 こって しまった事故や病気への治療 として儀礼 を おこな う。「儀礼」をあ らわすツォー とい うグイ語 は,「治療」「薬」が本来の 意味である。グイの社会では,「治療儀礼」の ように儀礼の一部 として治療 が あるのではな く

,治

療行為の一部 として儀礼がおこなわれ る。 人類学 における儀礼理論 として代表的な ものに,ヴァン・ジェネ ップ とター ナーの儀礼論がある。ヴ ァン・ ジェネ ップ

(1909,邦

1977)は

さまざまな 文化の通過儀礼の過程 を分析 し,「分離」「過渡」「統合」の

3段

階に分 けた。 ターナー

(1969,邦

訳1976)は

,儀

礼によって生 じる不連続性 に注 目 し,「境 界状態」の概念 を提 出 した。両者の理論は

,儀

,

とくに通過儀礼において, ある地位か ら別の地位へ と移行す る「境界」 にこそ特別な象徴的機能がある ことに注 目している。 グイの儀 礼 において

,は

っ き りと境 界の構 造が読 み とれ るの もの は

,初

潮 儀 礼 と成 人儀 礼 だ けで あ る。誕 生

,結

婚 な どの通 過儀 礼

,

また

,食

物 回避 解 除の儀 礼 (この儀礼 も通過儀 礼の一種 で あ る

)で

,別

の状 態 に移行 して し まった後 か らその状態へ の「事後処理」と して儀礼 がお こなわれ る。 したが っ て

,グ

イ に とって は儀 礼 とは「形 式的 な」 け じめなので はな く,「 実質的 な」 治療 なの で あ る。

(21)

2

薬草の比較 グ イ 。ブ ッシュマ ンが

,治

療 お よび儀礼 において利 用す る植 物 の リス トを 作 った。全部 で

50の

方 名が集 まったが

,学

名が 同 定 され た

44種

の うち

26種

が 同種 あ るいは同属 で,薬 用植 物 と して文献 に報告 されて い る ものだ った(表 1)。 これ らの植物 の い くつ か は

,成

分分析 な どに よ り薬 効成分が明 らか に さ れ て い る

(Iwu,1995な

ど)。 グ イたちは

,経

験 に よって

,あ

るいは他の民族 か らの伝播 に よって

,鎮

,下

,咳

止 め な どに効果 の あ る植物 に関す る知 識 を保 有 してい る。 グイの儀礼の 中で

, │l gaa ttπ

″α πgι・力

)は

,罠

猟 や 肉食 国避 を解 除す る ときの儀 礼 に使 われ る重要 な薬草 であ る。この植物 はボツワナ

,ナ

ミビア, 南 ア フ リカ共 和 国 な どの南部 アフ リカー帯のバ ンツー系民族の間で「幸運の ま じない」 とされてお り

,獲

物 の 力 を弱 らせ るため にハ ンターが身 につ けた り

,凶

暴 な牛 をお とな し くさせ るため に家 畜囲 いの間 に使 った りす る (Pal‐ grave,1977)。 歴 史的 にブ ッシュマ ンがバ ンツー系 の民族 よ り先 に南部 アフ リカ に住 んで いた こ とは確 かだが

,

どち らが先 に考案 して他 方 に伝 えたのか は不 明で あ る。 しか し

,民

族 を越 えた植 物 の利 用 方法 の共 通性 か ら

,儀

礼 に お いて もなん らかの影響 を 与え合 って きた と考 え られ る(14)。

3

儀礼群間の関係 通過儀礼

,肉

食回避

,不

猟 に対す る儀礼

,お

よび

,ツ

ォリの儀礼の うちの 「尿 を混ぜ合わす儀礼」は

,薬

草が!gari ii,gmexa,!gbo l kδa, │l gaa,

g5reと

共通 してお り

,こ

れ らを黒 く焼 いてか ら剃 刀で切 った傷 日に塗 り 込む とい う行為のパ ター ンも共通 している。 また

,儀

礼方法が聞 き取 りをお こなった人によって異なることはな く

,グ

イとガナで もほほ一致 していた。 そこで

,こ

れ らの儀礼群 を次の儀礼群 と対比 させ て「ブ ッシュマ ン起源」 と 分類す る。 一方

,ツ

ォリの儀礼の うちの「 くしゃみの儀礼」と「汗 をか く儀礼」

,お

よ び

,カ

バーの儀礼は

,儀

礼の方法 にヴァ リエーシ ョンが多 く

,そ

の中には「ヤ ギの血 と耳 を用いる」な ど明 らかに農牧民の影響がみ られ るものがある。 ま

(22)

グイ・ ブ ツンュマ ンにおけ る儀礼 と治療 63 た,く くしゃみ薬〉の ことをグイ語のほかに

,

ミリリョとツワナ語で言 うこと があ り,「汗 をか く儀礼」にはグイ語での名称 はな くムハーキ ョというッワナ 語で しか呼ばれない。 したが って

,こ

れ らの儀礼群 は,「ツワナ・カラハ リ起 源」であろうと推察 され る。 ブ ッシュマ ン起源の儀礼群 は

,使

用す る薬革 によって

,

さらに二つに分 け られ る。一つは薬 単にlgari iiを 用いる

,初

,結

,ツ

ォリの儀礼である。│ gari iiと は,「月経の木」とい う意味であ り

,女

性原理が根底 にある。 もう一 つは ‖

gaaを

用いる

,男

性の成 人儀礼,肉 食回避

,罠

猟の儀礼である。│l gaa は「罠猟の薬」であると彼 らは言い

,男

性原理 を象徴 している。 不猟 に対す る儀礼で も

,弓

矢猟 については!gari iiが使われているのが興味 深 い。月経中の女性 は弓矢に触れてはいけないな ど

,弓

矢猟のい くつかの部 分 は女性 を排除 しているが

,初

潮儀礼中の少女 は

,逆

に く弓矢の儀礼〉 をお こなって狩猟 を成功 に導 く。また,「両親の血 を子 どもに入れ る儀礼」では

,!

gari liではな く, │l g5reを使 っている。 │l gOreは , │l gaaに 準 じて罠猟

, 弓矢猟

,肉

食回避の儀礼の薬で もある。〈弓矢の儀礼〉とく子 どもの儀礼〉は, 女性原理 と男性原理が交差す る場である。

4

グイの身体観 儀礼 を支 える物質的な要素は

,薬

として使われ る植物 と

,血

や尿

,垢

など の人間の身体か ら分離 された物質である。 儀礼において よリパ ワーフル な ものは,薬 草 よりもむ しろ血や尿

,汗 ,唾

"

,爪

といった人間の身体か ら分離 された物質である。 これ らの物質は

,結

婚の ときの血 を混ぜ合わす儀礼での血

,肉

食回避の儀礼で使われ る血

,汗

, 唾な どの ように「清 くて」 ポジテ ィブな ものであると同時 に

,ツ

ォリの儀礼 やカバーの儀礼で使われ る血

,尿 ,汗 ,垢 ,爪

の ように「 よごれて」いてネ ガテ ィブであるがゆえにパ ワーを持つ とい う両義的存在である。 グイは,これ ら身体か ら分離 された物質 は皆一つの力の源か ら発 してお り, 見かけは異なっていて も同 じものであると考 えている。以下 は

,初

老の男性 が語 った身体か らの分離物 についての見解である。

(23)

人間を作 るの は,男の水 (精液の こ とをさす)と女の水だ。血 と水。 これ らは, どち ら も強 い ものである。すば らしい効 力を持 っていて, しか も強力である。だか ら,子どもを 作 るこ とがで きるのだ。(中略)血の こ とを,血の こ とをこそ水 とい うのだ。水は血である。 ここを切 る。これ は

,赤

い。 これは血だ。 これが陰部か ら出ると赤 くない。男 と女 が寝 る ところに出 ると

,赤

くない。 しか し,これは血 と同一の ものである。水 と尿 と血。これ ら は同一の ものだ。汗 と唾 と血 と尿。これ も同一の ものである。 どれ も人間の身体か ら発す る同一の もので,すば らしい力を持 っている。グイ人はこの ように考 えてい る。だか ら, 血 も尿 も唾 も汗 も垢 も治療 に使 う。 彼は人間は どの ようして生 まれ るのか とい うグイの「生殖理論」 と合わせ て

,グ

イの身体観 について語 っている。 これ らの分離物のパ ワーは

,人

間が 誕生 し

,生

きてい くその生命の力に発 しているのである。 ここには

,人

間 と 生への確 固たる肯定 と信頼が存在 している。

5

社会 関係 の軋蝶 と災 い 人 と人 との社 会 関係 の葛 藤 か ら生 じる災 い と して

,ツ

ォ リとカバ ー をあげ た。主 と して ツ ォ リは性 的関係 の

,カ

バ ーは親族 にお け る上 下関係 の矛盾 に 起 因 し

,こ

れ らの儀 礼 は相補 的 で あ る といえ る。 しか し

,カ

バ ー を発生 させ た年長者 たちは「ツ ォ リで汚れ てい る」 と表現 す るので

,ツ

ォ リの方が よ り 広範 囲で基 層部 に位 置す る概 念で あ る。 また

,ツ

ォ リは具体 的 な 「垢 や よご れ」 も意味す る ように

,

よ り身体 レベル に近 い。 一方

,カ

バーは「若者は

,親

族の年長者 を尊重 しなけらばな らない」 とい うイデオロギーを災い とい う形で

,人

々に再認識 させ るものである。漠然 と 日常生活 に潜むツォリと比べ

,カ

バーはより意図的に共同体の意志が働 き, 被害 も劇的である。 ツォリとカバーの儀礼では

,体

液や垢

,爪

が強力な治療効果 を持つ。前節 で述べた ように

,身

体か ら分離 された物質は強力な薬であるというグイの身 体観が この治療効果の基底 にある。 また

,人

々が儀礼 に参加 し

,

自分 たちの 尿や垢 を混ぜ合わせ るとい う行為 には呪術的な意味がある。「身体か ら分離 さ れた物質が身体 それ 自体の隠喩的象徴 として扱われ

,そ

れ らを混 じり合わせ

(24)

グイ・ブ ッシュマ ンにおける儀礼 と治療 65 るこ とが 人 と人 との一体化 を達成す る とみな されてい るので あ る。」(菅原, 1993) さ らに,子 ど もたちを も合 め た災厄 に関与す る人間すべ てが儀礼 に参加 し, 自分 た ちの関係 に矛盾 が生 じた こ とを認め合 い

,関

係 を よ り正 しい ものへ修 復 しよ う とす るその行為 自身 に

,す

ぐれ て社 会的 な機 能が あ る。 グイ社 会 は 食物 か ら情報

,人

間関係 まで を も共 有す る社 会 なので あ る。

6

災 因論 と社会構造 呪 誼や邪術 につ いては

,ア

フ リカの 多 くの民族誌 で記述 されて きた。 この ような「呪 い」 は

,持

た ざる ものか ら持 て る ものへ の 「妬 み」 に起 因す る。 掛 谷 はア フ リカの農耕民社会 で は,「制 度化 され た妬 み」と して呪 いが機 能 し, 呪 い は「食物の平均化」に役立 って い る と指摘 した (掛谷,1983)。 ケニ アの テ ソ族 (ナイ ロー ト系牧 畜民

)の

災 因論 の体 系 を分 析 した長 島 (1987)も , 邪 術 は よ り恵 まれ た者 を自分 と同 じレベル まで引 き下 げ るため に行使 され る と記述 してい る。 長 島 に よる と

,テ

ソ社会 にお け る災厄 は呪諷

,邪

,死

霊 に よって もた ら され

,そ

の うちの死 に至 る病 の ほ とん どが

,邪

術 な ど被害者 の側 に責任 の な い不 当な攻撃のせ いに されてい る。 さ らに

,彼

らの コスモ ロジー は

,神

との 関係 にお いて倫理 的 責任感 が弱 く

,

また「運命観 」が欠如 してい る。 したが っ て

,テ

ソに とって個 々の災厄 は

,運

命 な どに よって決 定 されて い るわ けで は な く

,

しか も自分 にはまった く責任がない という,「楽天主義」で「無責任」 な論理が彼 らの災因論の中心 にあるとい う。 一方

,ケ

ニアのナイロー ト系半農半牧畜民チャムスは

,病

気 をは じめ

,不

幸の責任 を他者 に求めず

,運

命論的 に不幸 を受 け入れ る傾向が強い (河合, 1994)。 チャムスにおいては病気 とは「カ ミの病」と認知 されているものが多 く

,社

会関係の歪みによって もた らされ る呪誼や邪術 とは別の もの と位置づ けられている。 したがって

,病

気 には詳細 な身体の観察 と

,薬

草 などに関す る莫大 な知識 を動員 して治療 をおこな う。 グイにとっての災厄の大半は運命論的ではないが

,死

につ いてだけは「そ

(25)

の人の生 に神が同意 しなかった」 と運命 として受 け とめる。 また

,数

々の怪 我や病気 について,「儀礼中のタブーを破 って神 を怒 らせ たか ら」と神 を使 っ た表現 を用いることがあるが

,こ

れ らの「責任」は災難 に遭 った人 自身にあ るとされ る(15)。 社会関係の軋礫か らオ│:じる「カバー」は恨みや妬みの感情 に 近 いが

,こ

れは親族の枠組みの中に限定 されてお り

,人

を死 に追いや るもの ではない。 また

,カ

バーにおける災厄の「責任」は加害者 と被害者が共有す るとい う構造になっている。 グイの儀礼全般 を見 ると

,千

ばつなどの 自然現象 における災害

,身

体の不 調

,社

会関係の葛藤な どの諸問題 に対 し

,薬

草や呪術で もって積極的に操作 しようとは しない傾向がある。む しろ

,

自らの行動 を律す ることによって災 厄 を未然 に妨 げようとしている。雨が降 り

,

自然が動植物で満 たされ ること を祈 って

,初

潮儀礼中の少女 は行動規制 をおこな う。両親 はわが子の成長の ために

,あ

る動物の肉を食べない。恨みについて も

,む

しろ被害者の方が責 任 は自分 にあると自党す る。妬みによって他人を引 きず りおろすのではな く, 自らの行動 を抑制す ることによって

,さ

まざまな問題の解決 をはかっている のである。 カバーの儀礼は

,ツ

ワナ・ カラハ リ起源の可能性が高いことは先述 した と お りである。その ような「呪術」 に近い もの を他民族か ら導入 しなが ら

,実

際の運用は自分たちの社会の価値観 に合わせ て変容 させ る。 この ようなこと が

,ブ

ッシュマ ンとツワナや カラハ リとの文化接触の過程でお きたのではな いだろ うか。文化変容の動態 を明 らかにす るために

,ダ

イの近隣民族の儀礼 との比較研究 を次の課題 としたい。 謝辞 本稿 は名古屋学院大学経済学部研究奨励金 (1997年 度

)の

助成による研究 成果の一部である。本研究の もとになっている資料の多 くは

,文

部省科学研 究費(国際学術研究)「アフ リカ伝統社会の持続 と変容 に関す る生態人類学的 研究」(代表者 。田中二郎),「変容す るカラハ リ狩猟採集民サ ンの生態 と社会 に関す る人類学的研究」(代表者・菅原和孝),「カラハ リ砂漠 とその植生移行

(26)

グイ°ブツンユマンにおける儀礼と治療

67

帯 にお け る民 族 多様性 に関す る生態 人類 学 的研 究」(代表 者・田 中二郎

)の

交 付 を受 けて収 集 され た。隊長の田 中二郎博士 (京都大学 教授

)を

は じめ

,調

査 隊の皆 さん には貴 重 な情報 と協 力 をいただ いた。と くに

,菅

原和孝博 士(京 都大 学教授

)か

らは

,貴

重 な コメ ン トと未発表 の情報 をいただ いた。 これ ら の方 々に感謝 の意 を捧 げたい。 註 (1)調査対象のセ ン トラル・ ブ ッシュマ ンは

,グ

イ とガナの二つの言語集団か らな る。彼 らの言語の違 いは方言程度で

,彼

らどう しは1´分 に言葉が通 じ合 い, また

,通

婚 も互 い に し合 う。 (2)植物の グイ名の収集 と記載 な どは

,す

べて私がおこなった。 したが って

,表

記 に誤│) が あった とした ら,それはすべ て私の責任である。 (3)グイの親族 名称では

,父

, または母 を共有す る兄弟姉妹 のほか に

,父

母の同性 の兄弟 姉妹 の子 どもたち (人類学でい う平行 イ トコ)も

,同

じカテゴ リーに入 る。 これ らをこ こではキ ョウダイとす る。 また

,父

母 と同性で父母 よ り年長の キ ョウダイ

,父

母 と異性 の キ ョウダイは,オジ,オバ といわれ る。 また,このオ ジと祖父

,オ

バ と祖母 は親族名 称 においては同一 である。父母 と同性 で父母 より年少のキ ョウダイは,「小 さい父」「小 さい母」とい う。 グイの親族 名称 につ いては

,大

野 (Ono,1996)の詳細 な研究がある。 本稿 では,オバ,キ ョウダイ,イモウ トな ど片仮 名で記 した ものは

,グ

イの親族カテ ゴ リー を指 す。文脈の中で,実際に意味す る ものが 日本語の カテ ゴ リー と一致す るときは, 母

,兄

な ど漢字で記 した。 (4)私の間 き取 り調査 によると,男性 の成 人儀礼 は1930年代後半か ら1960年代 まで2回 しかお こなわれていない。2回目の成 人儀礼 について,年輩の男性19人に成人儀礼 に参 加 したことが あるか否か を聞いた ところ

,11人

は参加 したこ とがあ るが

,8人

は参加 し ていなか った。理由は,「儀礼が苦痛」「儀礼の期間中

,肉

食同避 しなければな らないの が嫌だ った」 な どであった。成 人儀礼 に参加 しなければ

,儀

礼 をお こなった正確 な場所 を知 らず,その場所 を横切 って足が萎 えて しまうとい う災難 に遭 うことが ある。 (5)私はこの うな り板 を「ホローハ」 と聞いているが

,菅

原 (1996)は

,男

性の成 人儀礼 の名称 を「ホローハ」と報告 してい る。 うな り板 は「 ‖gaa‐ iiと呼 ばれ,(中略)本部 は l gaaな どのあ りふれた木で作 るが

,わ

ざと ‖gaaと言い替 え られ る(菅原,1995)。」 (6)私の聞 き取 り調査 に よると

,グ

ムスボ ック,オオ ミミギツ不,セグロジャッカルの3 種 は

,ブ

ッシュで集団生活 を してい る 1カ 月の間食べ ない。集団生活 を解 いた後 も数カ 月間は,ステ ィー ンボ ック,ハーテ ビース トを食べてはいけない。さらに,ワイル ドキャ ッ トは,老齢 に達 しある儀礼 を施 してか ら食べ なければな らない。成人儀礼 に参加 しなか っ た男性 は,これ らの肉食回避 をお こな う必要がない。

(7)4∼

5歳の子 ど もが,自分の小屋 か ら20メ ー トルほ ど離れた隣の小尾へ遊びに行 く途

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