(東女医大誌 第45巻 第2号頁 177∼181昭和50年2月)
〔特別掲載〕
血中ジギトキシン濃度
:その測定法と臨床的意義
東京女子医科大学日本心臓血圧研究所内科(主任 広沢弘七郎教授)平盛勝彦・高橋早苗・本田 喬・村上健志
ヒラモリ カツピコ タヵハシ サナエ ホン ダ タカシ ムラカミ ケンジ笠貫 宏・.楠元雅子・近藤面面・広沢弘七郎
カサ ヌキ ヒロシ クスモト ミヤ翼 コンドウ ミズカ ヒロサワコウシチロウ 自治医科大学循環器内科松本陽子・細田瑳一
マツ モト ヨウ コ ホソ ダ サ イチ (受1」’昭和49年12月11日)Semm Digitoxi駄Concentration by Radioimmunoassay 31ts Metkodology
and Clhオca1正:valuatio鳳
*Katsuhiko H夏RAMORI,*S狐ae TAKAHASHI,**Y6ko MATSUMOTO,
*Taka5準i HONDA,*K呵i MURAKAMI,*Hiroshi KASANUKI, *Miyako KUSUMOTO,*Mizuka KONDO,**Saichi HOSODA
and*K5sbichiro HIROSAWA
*The Heart II1『titute Japan・(Director:Pro£K6shich.iro HIROSAwA)
Tokyo Women,s Medical College
**Depar【.nlent of(ゴardiology, Jichi IMedical scllool
Assay..pfocedurc of thc CIS 3H−digitoxin radioimlhunoassay kit was cxamillcd, Bccause of re− lativdy rapid dissociation of thc digitoxin∠a互1tibody complcx by dextran−coated charcoal, it was im−
portant to deliver the charcoa正suspension illto all the tubes within t脇・o or three minutes. As a routine
clinical examinatio11, relativc standard d6viation oF the rcproducibility of this method was lcss thal1
10%.
Two hundred and twenty且ve cases rcceiving maintcnance doses of digitoxin were studied. Mean± stan4ard deviation. of the serum digitoxin concentration of l 92 nontoxic cascs and 33 toxic cascs wcrc 23・9土9.o ng/ml and 33・7土7・o ng/ml, respectivdy. Thc dif琵rence betweem thcm was statistically significant(p<0.0005).;However, there were many nontoxic cases wi重h high serum digitoxin con− ccロtration. Regarding this.overlap, discrepancy between the immuno正ogical and biological activity of φgitoxin were discusscd. Relating to this prob】.em, our clinical data conccrning the intcraction of digitαin alld phenobarbital suggestcd thc importance to study digitoxin metabolism.
はじめに われわれは先に,血中ジゴキシン濃度の測定法 とその臨床的意義について報告した1).今回T・W・ Smith2)の方法によるCIS 3H一ジギトキシンラジ オイムノアッセイキットについて同様の検討を行 ない,特にその臨床的意義について,ジゴキシン と異なる方面からの検討が必要なことを指摘した い. Kitの内容およびその使用法の概略 このKitは,各々50検体用の2セットから成 り,各セットには次のものが含まれている.3H−
labe11ed digitoxin, Standard digitoxin, Digitoxin antiserum,上yophyllized human seruln, Phosphate bu任er, CharcoaLdextran dry mixture・使用時には,
これらを再溜水または8u{ferで希釈して用いる. 使用法は,まずStandard digitoxinまたは被験 血清(0.05ml)にBufferを加える.これらに3H− Digitoxin, Antiserumをこの順に加えて,2∼4℃ 30分間の反応を行なう.さらにDextran−coated charcoal suspensionを加えて15分間放置した後, 1,000∼2,000×9で4℃,10分間遠心する.こ れらの上清の一部の放射能をLiquid scintillation spectrometerで測定する.これらから算出した Binding%(B%)から標準曲線を描き,被験血 清中のジギトキシン量を読みとる. 測定法とその検討 当Kit中の3H−DigitoxinおよびStandard digi− toxinの純度,抗血清の力価, Dextran−coated ch− arcoa正の活性,反応時間,吸着時間,遠心,放射 能測定,計算について,ジゴキシンと同様の方法 で検討を行ない,同様の結果を得た1).図1は, 反応時間を15,30,60,90, 120分としてB%を みたものであり,30分以上ではB%に有意の差が ないことを示している.また,4℃と室温での反 応には有意の差は認められなかった.図2は, Dextran−coated charcoalによる吸着時間を0,5, 15,30,60,120分と変化させて,Bound 3H−Di− gitoxinの解離動態をみたものである.吸着時 間が・分から15分の間では・1・分ち・・うと一
吹
の差が5%ほどになるため,全測定試験管への loo 番% 50/1_1ニゴ空
●/ 10.0 〔}一一rコー ▲/▲ ▲ 20.O ▲ 40.0 Ioo 8 石『% 30 60 90 図1 1ncubation Time 120m}n卜
癖
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にトこ三こ=讐↑
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●\一・_.一1
。 一一こ=呈
40,0 30 60 90 120min図2 Dissociatめn Curve of 3H−Digitoxin−Antibody
Complex 90 旦% B。 70 50 30 1o 0.25 0.5 1 2 図3 Standard Curve 4ng
Dextran・coated charcoal suspensionの分注はでき
るだけ短時間(3分以下)に行ない,さらに15分 間放置して反応させた.図3は,Logit−log紙上
に直線で描いた標準曲線である.直線上の各点の
Between−assayでのRelative standard deviation(R
SD)が5弩程度あるので,毎回新たに標準曲線を 作製している. 本測定法による同一人血清の測定値の再現性 は,Within−assay,およびBetween−assay共に,10 同ずつの測定でRSDが10%以下であった.二重 測定の差の平均±SDは,2.6±1.9ng/ml(136 例)であり,4.5ng/ml未満の測定値は“Unde− tectable”とした.また,20例のジギタリスを投 与していない正常人血清は,すべてOng/mlであ った. 採血した血液の血清分離までの時間は1日以内 としているが,2,3日後であっても有意の差は 認められなかった.また凍結保存,溶」血.,凍結融 解などの測定値への影響も,明らかなものはなか った。 臨床例 維持量のジギトキシンを経口投与されている当 院受診中の患者225例で,最終のジギトキシン 投与後8時間以後,主に早朝空腹時に採血を行な い,血中ジギトキシン濃度を本法によって測定 し,その分布をみた. 225例中33例は,特徴的な心電図所見,すなわ
ち,Supraventricular tachycardia with block, Fre− quent or multifocal ventricular premature beats, or ventricular tachycardia, Atrial fibri11ation with ventricular response<50/min, Sinus rhythm with second or third degree atrioventricular block等
と,その他の臨床豫から中毒と診断されたもので あった. 225例の病名は,弁膜疾患131例,虚血 性心疾患48例,先天性心疾患20例,原発性心筋症 10例,その他16例であった. 非中毒群192例と中毒群33例の各々の血中ジギ トキシン濃度の平均値は,23。9±9.Ong/m1と 33.7±7.Ong/mlで,両者の問に明らかな差を認 めた(P<0.0005). 図4は,非中毒例と中毒例の血中ジギトキシン 濃度の頻度ヒストグラムである.非中毒例と中毒 例の血中ジギトキシン濃度の重なりは大きく,高 10 20 30 40 50 cqses 1 2 3 4506/ml 口N。ntOxic 。T・xic 23.9土9.0 R3.7士7.O
図4 Frequency Histogram of Dig三toxin Concen−
tratlon 濃度で中毒例が多いのはもちろんであるが,高濃 度で非中毒例もかなりの数で認められた. 既報の108例と同様に3),血中ジギトキシン濃 度とNYHA分類による心機能,胸部X線写真上 の心胸比,血清尿素窒素値等との間には心機能が 悪く,心拡大が著明で,腎機能が不良な例ほど血 中ジギトキシン濃度が高く,中毒例も多いという 傾向は認められた.その他,年令,体重,併用利 尿剤,心房細動の有無,血清電解質等の臨床的事 項と血中ジギトキシン濃度の関係を検討したが, 明らかな傾向は認められなかった. 図5は,症例(Y・Y・47才,男)の血中ジギト キシン濃度の経過を示したものである.この症例 ng/m「 30 10
口.22 26 29 12.4 8 13dαy
図6 Case S.W., Serum Digit・xin Concentration
は,虚血性心疾患で心房細動と心不全の治療の ため,ジギトキシン0.1㎎/日を1ヵ月間投与さ れ,心拍数36の心室性補充調律を現わし,ジギタ リス中毒と診断されたものである.7月3日から ジギトキシン服用を中止し,7月4日の.血1中ジギ トキシン濃度が27.4ng/mlで,上記の中毒心電図 が記録された.2日後には19.8ng/mlになり,心 拍数も56に回復し,以後半減期約5日の率で血中 濃度が下降した.図6は,症例(S・W・,50才, 女)の伯L中ジギトキシン濃度の経過である.この 症例は,僧帽弁狭窄症兼三尖弁閉鎖不全症で,心 房細動と心不全の治療のため,ジギトキシン0.1 m9/日を連用して,多子性心室性二段脈を現わ し,ジギタリス中毒と診断されたものである.11 月22日の血中ジギトキシン濃度は43.2ng/mlと高 値で,上記不整脈が記録された.翌日からジギト キシン投与を中止した.26FIは35.2ng/mlで,な お心室性期外収縮から中毒と診断さオ/た,29日は 32.4ng/m1で,心拍数85の心房細動で,心室性期 外収縮も殆どなく,中毒が改善したと思われた. 27日から Digitox五n O.1mg十Phenobarbita10.19/ 日を投与し,16日後には26ng/ml程度の血中濃度 に落着いた. 考 案 1血中ジギタリス濃度の測定については,種々の 方法が行なわれてきたが,現在では,T・W・Smith, V.P. Butler, Jr.2)4)らによるラジオイムノアッセ イが,その感度や特異性が良いことと,簡便な ことから,最もよく行なわ淑ている.われわれ は,CIS 3H一ジギタリスラジオイムアッセイキッ ト(ミドリ十字)を使用して,現在までに延べ 2,500検体の並巳中ジゴキシンおよびジギトキシ ン濃度の測定を,日常の臨床検査として行なって きた。 本Kitによる血中ジギトキシン濃度の測定法 については,反応時間は30分で,Dextran−coated charcoal suspensi・nの分注は3分以内のできる だけ短時間に完了してさらに15分間放置すること で,遠心は1,500×9,10分間で行なうというKit に指定してある操作のとうりで十分目ある.また 測定値の再現性についても,日常検査として数人 が交代して行なってRSDが10弩以下であり,臨 床使用上に支障はない.さらに,Dextran−coated charcoal法より安定したBinding digitox量nの分離 法を行なったり5)6),標準曲線の再現性をよくし て,毎回の作製を不要とするなどの改善を行なっ て,より簡便な検査法とすることができると考え られる. 臨床例の血中ジギトキシン濃度については,中 毒群は非中毒群よりも著明に高く,図5,6の例 の如く同一症例で血中濃度の経過を追ってみる と,各症例毎の血中濃度は投与量に比例し,中毒 の出現も血中濃度の上昇と一致するということが できる.しかし,図4のヒストグラムをみると, 高濃度で非中毒の例も多く,NYHAによる心機 能分類や心胸比その他の臨床的諸事項と血中濃度 との相関も確かなものではない.このことは,ジ ゴキシンでは高濃度例は全例中毒を現わし,臨床 的諸事項との相関もかなりよいということと比べ て,注意しなけれぽならないことである,すなわ ち,個々の症例で至適投与量を考えるとき,血中 濃度の経過は有力な指標となりうるが,1回の測 定値が高いということだけでは,投与量減:量の根 拠とはなりえ.ない. これらのことには,先に才旨摘 したように3),血中ジギトキシンのアルブミン結
合や,代謝の問題があるため,ラジオイムノアッ セイによるジギトキシンが,投与されたジギトキ シンの生物学的活性を十分に反映しないことを 考慮しなければならない.さらに,肝臓の12β一 hydroxylase inducerであるPkenobarbitalをジギト キシンと長期併用した16例の血中ジギトキシン濃 度が著明に低く,中毒例もなかったことから,ジ ギトキシンの臨床薬理には代謝の検討が重要であ ることを述べたが3),図6の症例も同様の問題を 提起している. ジギトキシンについてもジゴキシンに.ついて も,血中濃度を知ることの意義は大きいが,比較 的低濃度で中毒の症例があるように,心筋のジギ タリスに対する感受性ということは,また別の臨 床上の大きな問題であり,今後の検討が必要であ る. おわりに 当Kitによる血中ジギトキシン濃度の測定は 日常の臨床検査として行なうことができ,その測 定値も有用である.しかし,ジゴキシンと比べて ジギトキシンは,血中濃度と臨床所見との相関ぱ やや劣り,ジギトキシンの代謝などについての険 討が必要であることを述べた. 文 献 1)平盛勝彦・高橋皐苗。松本陽子・本田 喬・近 藤瑞香・細田瑳一・広沢弘七郎:ホと臨 23 (5)(1975)掲載予定
2)Smith, T・W・3 J pharmacol Exp Ther 175
352 (1970)
3)平盛勝彦・高橋早苗・松本陽子・本田 喬・近 藤瑞香・細田瑳一・広沢弘七郎:呼と循23(3) (1975)掲載予定
4)Smith, T.wりV.P. Eutler, Jr. and E. Haber 3 New Eng J Med 2811212(1969)
5)Meade, R.C. and T。J。 Kleist 3 J Lab Clin
Med 80748(1972)
6)Drewes, P.A・and v.J. Pileggi;(〕lin Chem