特集
環境との調和を目指したカーエレクトロニクス技術
燃費向上を実現する自動車用発電籠
御システム
Automotive
Generating
ControISystem
for LowerFuelConsumption
増野敬一*
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バッテリ バッテリ電圧 運転状況 の検出 発電制御 燃費向上甲
エンジン コントロール C端子 ユニット B端子  ̄ ̄ ̄●-(出力端子) 自動車用発電制御システム 発電機はカーエレクトロニクスに必要不可欠なパワーソースであるが,その大容量化とともにエンジンヘの負担が増えている。そこで,実用 燃費向上を図った発電制御システムを開発した。自動車の乗り心地や安全性向上のため,電気・電
子機器などの電気負荷が増加している。このため,
発電機を駆動するトルクは増大し,燃菅への影響が
無視できなくなっている。さらに,燃費向上のため
エンジンのアイドル回転数が低く設定され,電気負
荷の突入電流による過渡トルクによってエンジン停
止などが発生しやすくなる。そこで,運転状態およ
び電気負荷・バッテリの状態に応じて発電制御を行
い,燃費向上に有効なシステムが必要となっている。
日立製作所は,このようなニーズに対人bする自動
車用発電制御システムの検討を行い,ハード面では
発電機に内戚するICレギュレータに高集積パワー
LSIを搭載し,高度な制御仕様に対応できるシステ
ムを開発した。またソフト面では,エンジン制御シ
ステムとの連携により,実用燃費を少なくとも0.5%
以上(当社従来比)向上する技術を確立した。さらに,
車両の走行条件を入力して,燃費効果や充電性能な
どを計算できるシミュレーションプログラムを開発
し,車両の開発工数の低減に役立つようにした。
*Ⅰ】打製作所臼重力車機器事業部 **口寸二製作所半導体事業部 ***「卜立製作所ト1立研究所 39172 日立評論 VO+.77 No.2(1995--2)
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はじめに 自動車の低燃雪化のために,カーメーカーではエンジ ンの燃焼効率向上技術のほか,車両質量の低減に力を注いでいる。スタータモータ・自動車用発電機(以下,オル
タネ一夕と言う。)に代表される電装品も軽量化技術によ って低燃 ̄馴ヒに寄与している。電装品の出力1kW当たりの質量の推移を図1に示す。20年前と比較して半分以
下の重さにまで軽くなった。これは,磁気1!jl路の改良, 冷却性能の向上といったハード面での技術開発によるところが大きい。一方,近年低燃費化に関して,発電制御
技術についても注目されるようになってきた。卜一抹製作所は電力・制御(コンピュータ)・半導体分野
での技術蓄積を背景に,これらの技術を応月=/た自動車 川発電制御システムを開発したので,ここではその概要 について述べる。囚
自動車用発電制御システムの概要
2.1電力マネージメントオルタネータにはさまぎまな電気・電子装置に給電す
るパワーソースとしての役割があるが,近年の高山ノJ化
とともに駆動トルクが増大し,エンジンにとって重荷に
なってきている。特に,リーンバーン,アイドルの低回 転化といった低燃貿化を指向するエンジンでは,低速担l 転時のエンジントルクが小さくなる傾向,いわゆる「ね ばり+がない状態にある。さらに,将来はEIiC(Electri-cal】yIleated Catalyst:電熱触媒)などの環境保全のための新たな電気負荷も見込まれている。このような電ノJ
需要の増加は,燃貿の悪化をもたらす。これらの問題を 解決するために,自動車用発電機の電力マネジメント技 術を確立し,オルタネータに適用した。 2,2 オルタネ一夕の発電制御 オルタネータの構造を図2に示す。オルタネータはロータコイル(同l潔l④)によって発生する匝 ̄l転磁界をステ一
夕コイル(同図⑦)でピックアップし,手話られた交流電仁i
をダイオード(同凶⑤)で直流に変換する。ICレギュレ一
夕(剛ぎ】⑧)はロータコイルに流れる界磁電流をデューテ
ィ制御して,出力電帖を一定に保つ動作を行う。オルタ
ネ一夕は現在では14V,100Aが一般的であり,駆動力は
定格山車云数(5,000r/min)で2.8kW(約4馬力)を必要と
するので,アイドル運転時や加速時には,燃菅や加速件 に景壬響をり一える1)。そこで今卜Jlのヲ芭電制御システムでは,自動車の運転状
40 0 8 6 4 つ+ (きミ空こ仙糾Gミト邪市召せヰ スタータモータ オルタネ一夕 1970年 1980年 西暦年 1990年 1995年 図l主要電装品の軽量化推移 20年前と比較して,同一出力当たりの質量は半分以下になった。 況・エンジンの状態や電気負荷に応じて発電量を制御す ることにより,エネルギーの有効活用を図ることにした。 例えば,加速するときに発電量を弱め,減速するときに 発電最を強めれば,従来減速時にブレーキパッドの発熱 として消費される運動エネルギーをw一時的にバッテリに蓄えることができる(同年制動)。この蓄積エネルギーは,
加速などのエンジンパワーが必要とされるときに電力と して供給される。以上の原理によってむだなエネルギー消雪がなくなり,燃費が向_卜する。エンジン
コントロールユニットが自動車の運転状況と電力需要から供給す
べき電力を計算し,ICレギュレータに発電指令を送るこ とにより,電力の過不足をなくすことが可能になった。同
インテリジェントICレギュレータ
オルタネータは要求される電力を単に供給するだけで なく,下記の要件を備える必要がある。 (1)エンジンの発生トルクに応じた最大発電量の制限(2)信号線の断線などに対するフェイルセイフ機能
(3)異常診断および遷幸云者への警報 このため,ICレギュレータの可1にマイコン(マイクロ コンピュータ)並みの判断機能を持つ制御川路を内蔵する必要が生じた。さらに,オルタネータへの装着条件と
温度条件(周開温度1000c)を考慮して,専用LSIを開発 した。このLSIの開発にあたっては日立製作所の半導体分野
ですでに確立しているアナログ・ディジタル・パワーの 混成回路を1チップに集約したLSI技術(IPIC:Intelli-gentPowerIC)を応用し,図3に示すチップを開発した2)。燃費向上を実現する自動車用発電制御システム173
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No. 名 称 No. 名 称 任) プーリ ⑤ ダイオード (む フアン ⑥ ステ一夕コア ③ ロータコア ⑦ ステ一夕コイル (郵 ロータコイル ⑧ lCレギュレ一夕 図2 オルタネ一夕の構造 半導体部品が発電機に一体化され,エンジン取付性が容易で ある。 このLSIでは,アナログ700素子・ディジタル1,200ゲ ートおよび1.4Aパワー素子を1チップに収めた。ICレ ギュレータの制御ブロック凶を図3(b)に示す。このLSIは500kHzの内部クロック信号によって全回路が軌作
し,界磁制御用パワーMOSトランジスタ(Tr.1)と診断 警報用パワーMOSトランジスタ(Tr.2)にⅠ)WM(パル ス幅変調)制御信号を送る。IPIC製造プロセスでは,アナ ログ回路とディジタル回路の両方の長所を乍三かした設計 が可能となる。例えば,診断警報用のチャージランプは 突入電流によって定常時の4倍もの電流が流れる。この ため,パワー素子の容量は4倍の定格で設計しなければ ならないが,ディジタル回路によって過電流発生時に竜 i充制限をかけるr白l路を追加したことにより,パワー部の面積を÷に低減できた。さらに,リプル電圧や匝l転脈動
などの自動車特有の環境下でも,ディジタル回路を配置することによってノイズ信号が識別できるので,誤動作
の排除や動作マージンの向上が可能となった。さらに, 診断警報(過電圧発生時や,端子外れなどで充電が正常に 行われていないときに警報する。)でもディジタル回路が 使われている。 (a)+Slチッ70 「 ▲ オルタネータ  ̄ ̄「:言「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄「 電 源 電圧制御 外部 コントロール 制御 回転検出 切換回路 内部 コントロール 制御 (.'1…-=(二れ クロック回路 バッテリ 電圧積出 PWM 制御 警報保護 回路 サーマル ノ/ヤ∵ノトダウン ゲート ドライ 電流検出 ゲート ドライブ Tr2 ブ エンシ/ コントロ【ル ユニット ≒』
(b)lCレギュレータの制御ブロック図 図31Cレギュレータ戸別PICチップ マイコンと同等の制御機能をパワーICに内蔵した。 (×8倍) 負叶何 バ‥ソテリ キー スイッチ 叫”巴
燃費効果シミュレーション技術
バッテリを含む充電系は,バッテリの化学的挙動の数
値解析が困難であるため,机上でのシミュレーションが 難しい。今回新しい充電システムを開発するにあたり, 蓄積された実車での試験データをベースにしたシミュレ ーションプログラムを開発した3)。 このプログラムは次のパラメータを人ノJし,発電畏・ 燃費効果を計算するものである。 (1)走行パターン(例えば,10・15,LA4モード)(2)電気負荷および使用頻度
(3)車両諸元(変速比・タイヤ径など) (4)オルタネータ・バッテリ仕様(5)エンジンの燃料1肖雪特性
(6)ICレギュレータの制御仕様従来,燃賀効果の算出のためには実車試験を行う必要
があり,多大な労力を要した。しかし,コンピュータに 41174 日立評論 VOL.77 No.2(1995-Z) における レ}ショ ノトーーーー…--研-"-山2345戊リ ルタンンンンンン ■、ヽ やl■--】 3.823 簸【=-in】 6的 ;】 15∈;8 【m】 .3■1 トルク【kg-1n】 ̄3,d. 【co′′5eC】 .219 設定】-(加速・減速 【4.d 川..414.414.d 42切にリ5 .皿「5へJ35 爪U5戊U85 つ)つし.ウ)(∂つL  ̄13.a13,8 13.51月.4 13.8 ■1上l.d 13.813.,8 ■l:∋.8川,4 †七至ユノ㌧互∠ヒタ皐「タの設定≫ 36 鵠 125A 2.月3 8
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来の一定電圧制御に対し1%の燃費向上が実現できた。 車両の運転パターンや制御パラメータを変更すると,さ らに燃雪が良くなる。ただし,渋滞路での走行や運転者によるギヤシフトの癖などを考慮すると,充電不足を誘
発しやすくなり,一概に燃曹を最優先した制御を行うこ
とが得策とは言えない。したがって,燃賀効果を0.5%程 度に抑え,従来と同等の充電性能を確保する制御パター ンが実用的である。 このシミュレーションプログラムでは,先に述べたパ ラメータを容易に変えることができるので,車両の特性 に応じた最適パラメータを選択することができるように なった。 (b)シミュレーション結果8
発電制御システムの今後の唇関
白勅車用発電制御システムは以上に述べた技術以外 に,近い将来次のようなバリエーションを持つことにな ると思われる。 (1)高電圧化:送電効率の良い24Vまたは48Vへの移行 (2)環境保全対応:EHCなど急速加熱時の高電仁Eが必要4) (3)レギュレータのAI化:AIによる燃費と充電性能の両立化田
おわりに
ここでは,口立製作所が開発した自動車用発電制御シ
ステムについて述べた。 オルタネータをいっそう′J、型化するために,ICレギュ レータに対しても低損失・界磁電流アップが要求されている。このために,低損失パワーMOSなどの半導体技術
が重要な役割を演じると思われる。H克製作所はさまざ まな分野での技術蓄積を清川し,次世代の発電制御シス テムの開発に取り組んでいる。 参考文献 1)直井,外:電圧レギュレータ,カーエレクトロニクス/サ ブシステム,161∼169,l ̄い目社(平5-4改訂版)2)Nunogawa,et al∴Intelligent PowerIC,Hitachi
Review,Vol.38,No.4(1989)
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3)国分,外:自動車の充電制御における燃軌乙止効果,H本
機械学会,茨城講演会論文集,No.103(1994)
4)Laing:"Development of an Alternator-Powered
Electrica11y-Heated Catalyst System”,SAE Techni-CalPaper No.941042(1994)