ま え が き
本書は,「コンピュータ将棋の 進 歩」シ リ ー ズ(第 1 巻 1996年,第 2 巻 1998年,第3巻 2000年,第4巻 2003年)の第5巻に当たる。これまでの巻 と同様に最新のコンピュータ将棋の研究成果を論文集の形でまとめたものであ る。 コンピュータ将棋の強さは最近目に見えてわかるようになってきた。2005 年のコンピュータ将棋選手権に優勝した激指(第4巻に収録)はアマ竜王戦と いう都道府県代表がアマ日本一を争う大会に特別出場して予選を突破してベス ト 16になった。将棋雑誌の企画でプロ棋士との角落ち戦にも勝利した。アマ トップに勝つのも時間の問題になっている。第4巻の題名は「アマ4段を超え る」であったが,現時点ではとうとうアマ5段の実力に達した。現在のコンピ ュータ将棋に勝つことのできる人間はプロ棋士(百数十人)を含めてせいぜい 四,五百人だと思われる。将棋人口が約八百万人だとすると,コンピュータ将 棋はその上位 0.01%以内にはいったのである。編者は(弱い方の)アマ5段 だが,プログラム内のアルゴリズムを知っていることもあって本気を出せばこ れまでのコンピュータ将棋には負けなかった。しかしいまは勝てなくなってし まった。複雑な気持ちではあるが,この「コンピュータ将棋の進歩」シリーズ とともに強くなってきたことを率直に喜びたい。 第1章は,2004年のコンピュータ将棋選手権で優勝した YSS についての解 説である。YSS の解説は第2巻にも載っているが,7年ぶりの優勝に当たっ ての改良点を作者の山下氏に詳しく論じていただいた。YSS は多くのコンピ ュータ将棋の手本となっており,貴重な情報が数多く含まれている。 第2章は,最近強くなった TACOS(タコス)について橋本氏に解説してい ただいた。TACOS は元プロ棋士の飯田弘之氏が率いる研究グループで開発し ているもので,2005年の選手権でも上位に入賞した。売り出し中の若手のプ ロ棋士と平手で対戦して,負けはしたものの途中までは圧倒的に優勢であった。 第3章は,詰将棋に関するものである。玉一枚だけが盤上にあるという特殊 な詰将棋を裸玉と呼ぶ。その裸玉の中で玉が1八にある詰将棋を詰将棋作家で ある岡村氏が詳細に 析している。第3巻で故小山謙二氏が論じた 析を発展 させたものである。 第4章は,将棋に関する認知科学的な研究を伊藤氏他が解説している。チェ スや囲碁を対象とした実験はなされていたが,将棋の実験はこれが初めてであ る。プロ棋士から初心者まで人間が将棋を指すときにどのように えているか を明らかにしようと試みている。 第5章は,恒例の小谷氏による最近のコンピュータ将棋の強さの 析であ る。そろそろ人間のトップクラスといい勝負をするだろうという予想に基づい て,そのときの心構えを論じている。 付録は,元プロ棋士の飯田氏による 2004年のコンピュータ将棋選手権の主 な対局の解説である。コンピュータ将棋の実力がプロ棋士の解説の対象になる までに進歩したという点でも興味深い。 もうすぐプロ棋士のレベルに達すると期待される。本書の 正中に,プロ棋 士の組織である日本将棋連盟がソフトとの無断対戦を禁止したというニュース が入ってきた。次の第6巻では,このようにしてプロ棋士に勝てるまでになっ たという研究成果をぜひ報告したいと思っている。 編集にあたっては,前巻同様に共立出版(株)の担当者に大変お世話になっ た。小山透,羽生田洋子,成田文雄の各氏に深く感謝する。 2005年 11月 22日 雪がちらつくようになった函館にて 編者 原 仁 ま え が き iv