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ミトコンドリア研究小史と生化学研究の変遷

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Academic year: 2021

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!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! ミトコンドリア(Mt)が細胞内の糸状構造として発見され,C. Benda により糸球体と命名されたのは1900 年代初頭のことであった.そして様々な呼吸酵素が精製されていたが,遠心機の利用により1948年になり Hogeboom らにより正常な機能を持つ Mt が分離され,はじめて Mt がエネルギー代謝を担う重要な細胞内小 器官であることが明らかになった.私が Mt 研究に着手したのはこのような状況にあった1950年代半ばで あった.以来,生化学や分子生物学の発展に伴い,Mt が持つ独自の構造と機能の解析は大きく進歩した. 当時の生化学会では,ガン細胞の特性として細胞にグルコースを添加すると呼吸活性が低下する“クラブト リー(Crabtree)効果”(現在のワールブルグ効果)などが注目されていた.ガン細胞のエネルギー代謝に興 味を持った多くのガン研究者や生化学者たちは,毎日のようにワールブルグ検圧計と格闘したものである. 当時,米国 NIH は色々な研究分野で世界に Information exchange group を設け,毎月その月に発表された最 先端の研究論文集をメンバーに配布していた.Mt 研究グループもその1グループであり,配布された最新 の論文を貪るように読んだもので,この NIH の取り組みは Mt 研究の発展に大きく貢献した. 私は「Mt の代謝に共役した顕著な形態変化」に興味を持ち,その研究のために「ガルバニー電池の原理 を応用した酸素電極」,「蛍光色素による膜電位測定」,「Mt の酸素消費,NADH の酸化還元,光散乱による 形態変化の同時測定装置」などを開発し,エネルギー転換に共役した Mt の形態変化の詳細な機構を解析し た.ちょうどその頃,「最小偏倚肝ガン Morris hepatoma」が発見され,その細胞にはクラブトリー効果が認 められないことから,「Mt はガン細胞研究に重要ではない」として多くのガン研究者が Mt 研究から離れて いった. 一方,当時の細胞生物学は黎明期にあり,「生体膜」が盛んに研究されていた.その過程で Mt の超微形 態,内外膜の脂質二重膜構造,電子伝達系や酸化的リン酸化に関与する様々な酵素やタンパク質の分子構造 などが次々と解明され,エネルギー転換系の研究は最盛期を迎えていた.そして1966年にシカゴで開催さ れたフェデレーションプロシーディングで,Mt の ATP 合成機構に関する長年の論争について,高エネル ギー中間体に依存するとする「化学説」ではなく,内膜構造に依存した「化学浸透圧説」によることを提唱 した P. Michel に軍配が挙がり,1978年にノーベル賞が授与された.さらに,急速に進歩していた分子生物 学的手法により,Mt 構成タンパク質の分子特性,Mt 膜の再構成やエネルギー転換系の再構築などが完了 し,Mt 研究は一見終了したかに思われた. しかし,Mt に魅せられた人達は尚も研究の手を緩めなかった.電子伝達系に興味を持つ研究者の多くは, 活性酸素による疾患や老化の機構解明へと研究を発展させていった.遺伝子に興味を持つ人達は,母性遺伝 する Mt 遺伝子の解析から人類の起源がアフリカ大陸大地溝帯の東側にあることを突き止めた.また MELAS をはじめとする Mt 病の研究者たちは,Mt の遺伝子変異による疾患のメカニズムを研究した.近年 になってからも,モータータンパク質としての ATP 合成酵素の動的構造やキネシン(kinesin)による Mt の 細胞内トラフィック,分裂及び非分裂細胞における Mt の増殖機構など,インパクトの大きな研究が進行し ている.また,Mt には様々なアポトーシス誘導因子が存在し,その形態や機能に共役してカスパーゼやア ポトーシス誘導因子が活性化されて細胞死を制御している事も明らかにされた.最近では膜電位を失った Mt を選択的にオートファジーにより隔離し分解すること(マイトファジー),その過程にパーキンソン病の 原因遺伝子産物が関わることが明らかにされ注目されている.そして2000年代はじめには各国に「ミトコ ンドリア学会」が誕生し,雑誌“MITOCHONDRION”が発刊され,最近では,厚生労働科学研究費による 「ミトコンドリア病の治療」やワールブルグ効果を標的とした「ガンバイオマーカーの診断と治療」などの 国の支援による大型プロジェクトも進められている. 私は1950年代に Mt の膨潤現象や膜電位変化を解析していたが,後にそれが活性酸素の関与するアポ トーシスの制御機構やマイトファジーに繋がる重要な現象であることを誰も予想していなかった.時代の最 先端の知識といえども,それは生命現象の極一部に過ぎず,次々と明らかにされる小さな成果も,後に予想 もできない大きな発見に繋がる可能性を秘めている.最近では,「何の目的で?」「何の役に立つ?」などと, 目先の利益により研究が矮小化され,「そこに山があるから登る」といった自然科学への憧憬や基礎研究が 軽視されがちである.これでは科学の将来に大きな発展は望めない.研究では,自分の作業仮説が実験的に 証明できた時にはじめて大きな喜びが得られる.「目先の成果」に振り回されること無く,自分が不思議と 思った生命現象を,少年の様な心でどこ迄も追いかけていく情熱を持ち続けたいものである.

ミトコンドリア研究小史と生化学研究の変遷

内 海 耕 慥

* 〔生化学 第81巻 第12号,p.1029,2009〕

アトモスフィア

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科

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