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子育て支援の先駆的取り組みに関する実践研究 : A市における様々な支援から

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子育て支援の先駆的取り組みに関する実践研究

―A 市における様々な支援から― 名古屋経済大学短期大学部保育科 堀 美鈴 Ⅰ.はじめに 近年、子育てが困難と言われている。それは、社会すべての流れの中で必然的に表れてきたもの と感じている。子どもたちにとって、小山 (2011) が「「三間の喪失」と語られるように、三間す なわち、空間、時間、仲間をさし、子どもたちの遊び場が無くなり、自由に遊ぶ時間が無くなり、 それは仲間づくりもできなった。」と述べている。この窮屈さというのは、そのまま子どもを育て る困難さにもつながったといえる。 「子育て」という言葉が出現したのはいつのことなのだろうか。子どもを育てることは当たり前 で「子育て」という言葉を改めて発することは、以前にはなかったように思う。石川・堀(2010) によると、「政府関係者の、報告等で「子育て支援」という言葉が使われだしたのは、平成 3 年頃 からである。平成元年に合計特殊出生率が 1.57 であると公表され、「1.57 ショック」と言う言葉 とともに少子化の要因の分析とその対応策というものが、緊急課題であるという認識が一般化した のと同じ時期にあたる。」というものである。 筆者は、A 市で定年まで保育者として子どもたちの健全育成に関わってきた。こんな小さな A 市 でも、筆者が新任として働き始めてから、指導保育士として保育士を指導する立場になった時まで、 環境も保護者の姿もそして子育て支援の在り方にも大きな変化がみられた。 これまで筆者自身、保育園、子育て支援センター、ファミリー・サポート・センター、母子生活 支援施設、保育園、市役所と部署や立場は違うが、いろいろな角度から子育て支援に携わりながら、 定年後再任用として A 市で「子育ち支援隊」という利用者支援に携わることになった。これは翌年 度より利用者支援事業に移行したもので、子ども・子育て支援の推進にあたって、子ども及びその 保護者等、または妊娠している方が教育・保育施設や地域の子育て支援事業等を円滑に利用できる よう、身近な実施場所で情報収集と提供を行い、必要に応じ相談・助言等を行うとともに、関係機 関との連絡調整等を実施し、支援するものである。基本的姿勢として、①利用者主体の支援、②包 括的な支援、③個別ニーズに合わせた支援、④子どもの育ちを見通した継続的な支援、⑤早期の予 防的支援、⑥地域ぐるみの支援、を行っているものである。 筆者が、それまで様々なところで関わってきた事例を挙げながら、時代の流れの中で、利用者支 援事業の必要性、これからの子育て支援のありかたについて、以下に述べていく。   Ⅱ.子育て支援センター (1)子育て支援センターとは 1)子育て支援センター 厚生労働省(当時、厚生省)の通達「特別保育事業の実施について」に基づく施設である。地域 全体で子育てを支援する基盤の形成を図るため、子育て家庭の支援活動の企画、調整、実施を担当 する職員を配置し、子育て家庭等に対する育児不安等についての相談指導、子育てサークル等への 支援、地域の保育需要に応じた特別保育事業等の積極的な実施・普及促進及びベビーシッターなど

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の地域の保育資源の情報提供等、並びに家庭的保育を行う者への支援などを実施することにより、 地域の子育て家庭に対する育児支援を行うことを目的とする。 子育て支援センターという名前は、今でこそ、子育て中の保護者が利用するところとして市民権 を得ているが、平成 11 年当時、A 市で子育て支援センターを立ち上げた時は、まだ、知られてい ない存在であった。「子育ては家庭でするもの、なんで行政が入り込んでくるのか」と言われたこ とをよく覚えている。支援センターの 3 つの柱として「相談」「講座」「サークル支援」があげられ、 どの市町村も新しい事業として、担当者が工夫しながら進めていた。場所を確保すること、子育て 中の保護者に周知することなどが、当面の大きな課題であった。 2) ケース事例 ( 子育て支援センター ) ①育てづらい子どもを持った保護者の苦悩 子育て広場に 2 歳の男児 T を連れてきた A さん。T はおもちゃを見ると横取りし、小さな子ども に突進し、あちこちで泣き声が起きる。最初のころは一人一人に謝りながら A さんは動いていたが T の動きについていけず、最後は T を叩き、引きずるようにして広場を出ていった。T の泣き声と A さんの叫び声が大きく響いていた。児童センターでも同じように T が他の子を泣かせ、そのうち に A さんはどこにもいかず、家に閉じこもるようになったということを保健師から聞いた。保健師 は、「T は少し障害があるかもしれないが、保健センターには来てくれないのではっきりわからな い。今は、家に閉じこもった A さんの状態が心配である。」と、相談された。 保健師に聞くと、T さん以外にも、「子どもがみんなのいるところへ行くとトラブルを起こし、 親子の集まるところへ行けなくなり、家から出られなくなってしまった。」という親子のケースが いくつかあるとのことであった。 ②対応 < 保健センターと連携し、講座を開催する > 保健センターと子育て支援センターが協力し「講座」を作った。A さん達は保健センターへ行く と「障がい」と言われることを恐れていることもあり、保健センターではなく、支援センターの 1 室で、週に 1 回講座を開催することにした。支援センターの職員が子どもと一緒に遊ぶ、保護者は 子どもと離れ、保健師と話をする。A さん達は、同じ悩みを持った者同士の話が一番良かったよう で、明るい顔をして帰っていった。何回か繰り返すうちに子どもも徐々に落ち着き、A さん達の顔 もみるみる明るくなっていった。 数年後、A さんにあったらすぐに「先生ありがとう、あの講座がなかったら、今どうなっていた かわからなかった。どこへ行っても子どものことで、私が冷たい目で見られ、躾をしっかりしない 親だと言われているようだった。子どもは言っても聞かないし、思わず子どもに、手を出すことも たびたびだった。周りの冷たい視線や嫌でずっと家にこもっていた」と、その頃の保護者の思いを 教えてくれた。 ③支援のキーワード a) 連携  保護者は、保健センター ( 保健師 ) には抵抗を持っていることが多い。そのため、支援センター 職員 ( 保育士 ) と情報の共有を行い、子どもの実態を把握する。 b) 仲間づくり 同じ気持ちの保護者同士が集まり、話すことで、自分だけではないとの思いから保護者の気持

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ちが安定する。 Ⅲ.ファミリー・サポート・センター事業 (1)ファミリー・サポート・センター事業とは 1)ファミリー・サポート・センター事業の実践 この事業は、乳幼児や小学生等の児童を有する子育て中の労働者や主婦等を会員として、児童の 預かりの援助を受けることを希望する者と当該援助を行うことを希望する者との相互援助活動に関 する連絡、調整を行うものである ( 厚生労働省 )。 活動例としては、保育園や幼稚園、児童クラブのお迎えに間に合わない時、医者に行きたいのだ けど、子どもをつれてはなかなか行けない時、上の子の授業参観へ行きたいが、下の子がじっとし ていない、週に何日か数時間の仕事に行かなければならない時、育児に疲れてしまった時などに利 用できる。(平成 27 年度からは、「地域子ども子育て支援事業」として実施している。) 2)ケース事例 ( ファミリー・サポート・センター ) ①子どもがかわいくない、育児は嫌といってこどもにかかわろうとしない母親 父と母 S と 4 か月の女児 A、何棟も並ぶ大きな社宅に住んでいる。母 S は専業主婦、両親の実家 は遠方である。 < 状況 > 保健師より、心配な家庭があると、子育て支援センターとファミリー・サポート・セ ンターに連絡あり。(両方とも同じ事務所内)保健師の話では、母親がほとんど子どもに関わらず、 泣いてもそのままであり、父親が仕事から戻り子どもの世話をする、という状態で「こどもがかわ いくない」「子育ては嫌」と母親が言っている。 < 訪問 > 保健師と訪問、母親はリビングにいて、子どもは子ども部屋。大きな泣き声が子ども 部屋から聞こえる。子ども部屋に行ってみると、周りはぬいぐるみで囲われていて、部屋中布団が 敷いてある。その中で、真っ赤な顔をして子どもが泣き叫んでいる。母親のいるリビングではテレ ビの音が聞こえ、子どもの声が聞きづらい状態である。 「生む前には子どもはかわいいと思っていたが、泣くし、手がかかりかわいくない。生まなけれ ばよかった」と母親が言う。 ②対応 < ファミリー・サポート・センター利用 > 誰も子育てを手伝ってくれる人もいないということなので、母親自身が子どもと離れ、リフレッ シュできるようにファミリー・サポート・センターを紹介する。しばらくすると、ファミリー・サ ポート・センターへの電話あり。「お願いします」と小さな声。本来の利用に仕方は事前にお願い する人と、託児をしてくださる方と面談をするのであるが、母親 S はそのことによって利用しない ことも考えられ、あらかじめ、経験のある援助会員さんにお願いしてあった。職員が子どもを連れ てきて、支援センターで援助会員さんが託児をするという形をとり、徐々に援助会員さんと母親が 親しい関係が築くことができるようにと考えた。子どもは支援センターで援助会員さんと一緒に遊 ぶ。少し小柄で発達の遅れは少しありそうだが、表情はよくあやすと笑う。 < 社宅の集会場で、広場を開催 > 社宅の中で友達もいないとのことなので、集会場で子育て支援センター職員による遊びや、保健 師による子育て相談なども行う「子育て広場」と開催する。誘ったが出席はなかった。 < 保育園入園を進める >

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夏休みに両親の実家に帰ろうと車で出かけ、フェリーに乗ろうとしたがあまりにも子どもが泣く ので、嫌になり引き返してきた。車の中で泣き続ける子どもに手を焼いていた。 救急車が出動したとの件もあり、要保護担当の職員と保健師そして筆者が訪問し、父親も含めて 今後について相談する、子どものために保育園の入園を進める。特別、乗り気ではなかったものの、 承諾する。 < 保育園入園 > 保育士が相談相手になり、言葉をかけてくれることでほぼ休まず登園できるようになり、子ども が安定しだした。 ③支援のキーワード a) 連携 保健師、ファミリー・サポート・センター職員、子育て支援センター職員、要保護児童担当者、 保育園と、いくつもの部署が関係し、ケース会議を行いながら進めてきた。 b) 地域の支援 ファミリー・サポート・センター援助会員の協力がなかったら、子どもを預けるという最初の 段階を進むことができなかったと考えられる。 Ⅳ.母子生活支援施設 (1)母子生活支援施設とは 1)母子生活支援施設 母子生活支援施設は、児童福祉法第 38 条に「配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女 子及びその者の監護すべき児童を入所させて、これらの者を保護するとともに、これらの者の自立 の促進のためにその生活を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目 的とする施設とする。」と定められている。 「18 歳未満の子どもを養育している母子家庭、または何らかの事情で離婚の届出ができないな ど、母子家庭に準じる家庭の女性が、子どもと一緒に利用できる施設であり、(特別な事情がある 場合、例外的に入所中の子どもが満 20 歳になるまで利用が可能)さまざまな事情で入所された母 親と子どもに対して、心身と生活を安定するための相談・援助を進めながら、自立を支援している。 2002(平成 14)年に厚生労働省から出された「母子家庭等自立支援対策大綱」では、「母子生活支 援施設や住宅など自立に向けた生活の場の整備」のもと、母子生活支援施設は、地域で生活する母 子への子育て相談・支援や、保育機能の強化、サテライト型などの機能強化が求められ、施策が進 められている。またドメスティック・バイオレンス(DV)被害者保護においても、「配偶者からの 暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(2004(平成 16)年改正)による一時保護施設としては、 母子生活支援施設が最も多くなっており、DV 被害者の保護から自立支援を進めるための重要な施 設となっている」(全国社会福祉協議会・全国母子生活支援施設協議会より) 筆者は、平成 15 年から 18 年の 4 年間母子生活支援施設で施設長として支援にあたった。この施 設が児童福祉施設、つまりして子どもたちの健全育成のためにということがあまり知られていな かったが、その当時、大きな虐待のニュースが続く中で、「虐待防止法」が平成 16 年に改正され「配 偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」の中に「DV の中で育った子どもは虐待児 とみなす」とあったように、その頃から母子生活支援施設は DV 被害者が 7 割以上を占め、それと 同じだけの虐待を受けた子どもが入所していた。 知的に優れていても不安定でなかなか力が発揮できない子ども、物質的に、そして精神的に十分

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に手をかけられていないことで荒れてしまっている子がほとんどであった。また、母親の知的水準 が低く、子どもが同じようになってしまう例も多くあった。 2)ケース事例 ( 母子生活支援施設 ) ① DV、虐待の中で育った母親と子どもが自立するために 子どもを 3 人(長女 A6 歳、次女 B 1歳児、長男 Y 2歳児)を抱え、遠くの県から入所した。A は小学校に入学していなければならない年齢であったが、住所が点々としていたため、小学校から の連絡もなく家で過ごしていた。最初の日、施設に入る玄関のほとんど段差がない 4 段ほどの階段 を立って上る昇ことができず、四つ這いになりながら登って行った。 母親の話では、暴力をふるう夫から逃れ、アパートに子ども 3 人と暮らしていたとのことであっ た。仕事に行かなければならないので部屋に鍵をかけ、ミルクとパンを置いて子どもだけで過ごさ せた。部屋からはほとんど出さなかった。通報され福祉事務所から一時保護施設へ行ったようであ る。A はほとんど外へ出ていない暮らしであったため足が弱く、知的発達にも遅れがある。長男 Y も発達の遅れ、次女 B は異常なし、母親にも知的な遅れがある。 ②対応 < 警察に相談 > DV 被害者が入所すると警察に連絡する。保護命令の手続きを行う。 〈保護命令制度〉 配偶者や生活の本拠を共にする交際相手からの身体に対する暴力を防ぐため、被害者の申立てに より、裁判所が,加害者に対し、被害者へのつきまとい等をしてはならないこと等を命ずる命令。 ( 裁判所 ) < 教育委員会 > 小学校に通うことができるように手続きを行う。DV 被害者家族のため、外部に対して特別な配 慮をお願いする。 < 保育園 > 長男、次女を保育園に入園する手続きを行う。DV 被害者家族のため、外部に対して特別な配慮 をお願いする。 < 児童相談センター > 発達の遅れが見られるので、発達検査など行い、今後につなげていく。 < 就労支援 > 自立のため、就労支援を行う。 ③結果と考察 小林(2013)は「家族メンバーが自分たちが乗り越えるべき課題に気づいていない場合がある。 さらに課題に気づいていても、自らの動機づけが伴っていない場合がある。そして危機を乗り越え たいという動機付けを持っていても、自分たちがうまく乗り越える手段を持ち合わせていない場合 がある。少なくとも、課題の認知 ( 気づき ) 動機づけ、手段 ( 資源 ) の活用のプロセスが必要であ る。」と述べている。母親は困ってはいるが、プロセスの気づきの部分がはっきりしていない。課 題をはっきりさせ、どうしたら、問題が解決できるのかを母親と一緒に考えていくことが必要であっ た。とはいえ、母親は子どもを育てるという意識より、生活することが精いっぱいであり、順序立 てて物事を考えることができなかった。施設での生活は、子どもたちは人懐っこく施設で指導員た

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ちと過ごすことが多かった。しかし一歩自分たちの居室に入ると、母親の子どもたちをどなる声、 子どもたちの泣き叫ぶ声が、職員のところまで聞こえてきた。怒鳴ったり、叩いたりすることは虐 待であることを母親に伝えるが、「だって子どもたちが言うこと聞いてくれない」というばかり。困っ たことがあったら職員を呼ぶことと伝えると、「せんせい」と絶え間なく呼びに来て、指導員は居 室まで行き、子どもたちに言い聞かせ、散らかった部屋を片付けてくることが日課となった。しか し、母親は生活するための就労し、子どもたちは小学校、保育園に入学、入園するという課題をク リアすることができ、少しずつ母親が落ち着き、子どもたちも安定しだした(居室:施設内にある 風呂・台所を備えた個人住居)。 ④支援のキーワード a) 専門機関との連携 学校とは相互にパートナーとしての協働・連携が必要である。このように、特別な配慮が求めら れる場合は、児童相談センターや医療機関、時には警察なども加わって情報共有を行うほうが、学 校との理解を得やすい場合もある。 b) 母親の安定 子どもたちをかわいいと思うが、その方法がわからない。実家ともほぼ縁が切れているような状 況の中、不安定な母親の下で育っていく子どもたちには、まず母親が安定することが必要である。 生活はできるが知的に低い母親には、学校からの連絡なども理解できないことも多く、多方面での 支援が必要である。 Ⅴ.他の様々な機関 (1)ケース事例 ①両親がともにアスペルガー症候群ではないか ( 自閉症スペクトラム ) と思われる男児 A 最初に虐待として通報があったのは、子どもが 1 歳のころ、母親から「子どもを虐待したから連 れてって」というような内容だった。話を聞くと「子どもに水をかけた」「犬のえさを与えた」とい うものであった。A を一時保護し、2 週間後、子どもが戻るとき、迎えに来た夫婦の会話は、お互 いを責めることで、子どもを置いたまま帰りそうになった。その後、何回となく本人たちより虐待 をしていると通報があり、そのたびに話し合ったり、一時保護をしたりする。筆者は最初のころよ り関わっていたことで、母親より相談を受けることが多く、夫や子どもへの不満が主訴であった。 保育園では、母親は就労していないが要保護家庭ということで、朝早くから遅くまで A は保育園 で過ごした。A 自身、保育園でも突然暴れだす、勝手な行動をする、園を飛び出すなどするので、 保育者は常に A のことを気にかけていたが、A が年長児の時も、「また虐待した。保護してほしい」 と母親から連絡があり、一時保護がおこなわれた。 A が小学校へ行き始め、教員も、丁寧な対応をしていたが、母親が、「この子を、私はとても育 てられない。どこかの施設に、この子がよい子になるように入れてほしい」という相談があり、結 局、障がい児短期療養施設に入所することになり、筆者も同行し、車で施設にでかけた。A は車に 酔い嘔吐しはじめたが、母親はまっすぐ前を向いたまま、「私、こういうの無理」と言い、最後ま で黙ったままで、筆者が A の世話をした。以前 A が胃腸風邪のとき、「トイレに押し込んで放って おいた」と言う母親の言葉を思い出した。 ②対応 < 児童相談センター >

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母親の相談に乗り、ことが起きるごとに担当者と相談しながら対応していく。 < 保育園 > 子どもが安定するように細かく対応する。また母親の話を聞くなど、母親の気持ちにも寄り添っ ていく。 < 要保護担当者 > ケース事例をコーディネートする。 ③結果と考察 母親は一時保護は望むものの、施設に入所させるということは望まなかった。また、父親と離婚 したいと言いながらも離婚はせず、A が入所しているときも 2 人で暮らしていた。養護施設に対し ては嫌悪感があるが、障がい児短期療養施設(児童心理治療施設)に対しては短期なのと「良い子 にしてほしい」という思いもあり入所を望み、短期の施設ではあったが、長く入所してほしいと望 んでいた。父は保育園に迎えに来て A が少し父親に逆らったりすると「すぐ施設へ入れるぞ」と大 声で怒鳴ったことがあり、「自分の好きなことができないから、子どもは目の前にいない方がと考 えている」と母親は言っていた。 こんな環境の中で子どもは育つと、本当の気持ちを言えない、甘えることができない、わかって もらえない。どうしたらよいかわからない、と虐待児そのままの姿になる。まだ続いているケース である。 障がい児短期療養施設(児童心理治療施設)とは、児童福祉法に定められた児童福祉施設で、心 理的問題を抱え日常生活の多岐にわたり支障をきたしている子どもたちに、医療的な観点から生活 支援を基盤とした心理治療を中心に、学校教育との緊密な連携による総合的な治療・支援を行う施 設である。 児童心理治療施設が援助の対象としているのは、心理(情緒)的、環境的に不適応を示している 子どもとその家族。子どもの対象年齢は、小・中学生を中心に 20 才未満である。 ④支援のキーワード a) 専門機関との連携 長期間にわたっているので、連携はとても重要になる。違った立場でものをいうことが必要であ る。 b) 子どもの権利 両親に振り回され、子どもの気持ちはどこで満足させられるのか。両親が必ずしも育てなくても よい。子どもの気持ちをしっかり理解し温かく育んでくれる場所が望ましい。しかし親の意向が大 きく反映されるため難しいことである。   Ⅵ.おわりに いろいろな場面で支援に関わる中で、子どもたちが健全に生きることができるようにするために は、保護者の子育てを支援することが必要であるということを、最後に考えてみたい。 支援を考えるときに、第1は、ケースにはいろいろあり、支援する側は重いもの、軽いもの、と 判断しがちであるが、当事者にとっては、思い悩むことに重い、軽いはない。それが「子育て支援」 の基礎であると考える。つまり、当事者がつらかったら、周りが「こんなこと当たり前のこと」と 思って、対応してはいけないというのが原理・原則である。 上記のケース事例であげた保護者は、ほとんどの場合は母親である。今の世の中において、子育

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ては社会全体でと言われ、父親の子育ての参加も進んでいるかのように言われてきている。しかし ながら、どこかに子育ては「母親の責任」そして何より「母親自身」がそのことに追い詰められて いるのではないか。子どもを持っている母親は、社会で認められる存在であり、そのことを自分自 身で認めながら「良い母親」になろうともがく。子どもは自分の思ったように育ってくれない、そ れまでの経験では、がんばったならば成果が出たが、子育ては少し違う。そんな中、もがきながら 孤立していく姿が多くみられた。先に述べたように、原理原則である当事者の気持ちそれを推し量 ることが大切であり、「甘えていいんだよ」「できなくっていいんだ」というところから初め、徐々 に当事者に力をつけていくことが、必要であると考える。 第 2 は「連携」である。支援のキーワードの中で「連携」と言う言葉が多く認められた。どのケー スにおいても、専門知識を生かしながら役割を持ってあたることがとても重要であり、それはなく ては支援はあり得ないと考えられる。情報を共有し、それぞれの専門分野の中で何が今の状況の中、 どのような支援が子どもの健全育成のために必要かを探り、実施する。その中で大切なことは当事 者が決定するということである。その時々で当事者は迷う、そしてなかなか専門家がよいと思う道 を当事者は選んでくれないことがある。その時は少し遠回りでも、当事者の意見を汲み入れながら 進めていく。自分自身で、選択するということが、自分の道を歩くということである。 第 3 は仲間、そして地域の力である。人間はみな社会の中で生きている。専門機関が関わること も必要ではあるものの、仲間、そして地域の人たちの支えが必要である。ファミリー・サポート・ センターを、また支援を行っている市民団体を利用しながら、地域の人たちとつながっていくこと もよいことであると考えられる。 第 4 は情報収集、発信の場である。本研究において「子育ち支援隊」は色々な部署、関係者をつ なぐ場所である。情報を共有し、その時々にあった部署を紹介し、つなぐ場所であり、そこにはや さしく相談を聞きながら対応することができる保育士が常駐し、どんな小さなことでも、保護者や 子どもの立場になって対応することができる。子育て支援という言葉が一般的ではあるものの、あ えて「子育ち」としてあるのは、あくまで子どもの育ちを支援するということを強調している。子 どものためにはどうしたらよいかが基本であることを、常に考えるためにである。 現在、「子育て支援」として、どの市町村もさまざまな取り組みを行っている。A 市では初めて 母親になる人または、0 歳児を持った保護者が、安心して出産・育児ができるようにサポートする ため、保育園、実際に 0 歳児の子どもと接しながら子育てのプレ体験をし、保健師や保育士と過ご し子育てのサポートを受けることができる「マイ保育園」事業を始めている。妊婦のうちから不安 を取り除くこと、そしていつも相談できる保育者、保健師がいるという安心感を持つことができる。 また、Y 町では訪問型の「教育支援」が行われている。中学生以下の子どもを持つ家庭を 3 か月に 1 ~ 2 回訪問し子育て情報誌を届けながら相談等を受けている。支援員のメンバーは元教員や元保 育士、民生委員、子育て経験のある主婦が務め、気になったケースは学校や教育委員会、担当部な どと情報を共有するというものである。 そして最近日本でも注目されている「ネウボラ」とは、フィンランドにおいて、妊娠期から出産、 子供の就学前までの間、母子とその家族を支援する目的で、地方自治体が設置、運営する拠点であ り、また、出産・子育て支援制度のこともいう。neuvo は助言やアドバイス、la は場・場所を意 味するフィンランド語である。日本でもこの「ネウボラ」のような、切れ目のない子育て支援をし てくれる自治体が増えている。産前の両親学級の他にも、プレママ・パパを応援するプログラムの 企画や、産前産後において地域の子育てセンターなどで心配事などを相談できる体制づくり、日帰 りや宿泊のできる産後ケアの充実など、ほとんどの自治体ですでに実施されていることである。 このようにいろいろな立場の大人たちが子どもたちの育成のため様々な工夫をし、支援に取り組

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んでいる。子どもを育てるということは普通の営みであるものの、千差万別であり、その家族の前 の脈々とつながってきた、歴史の下にそれぞれの家族が存在する。「子ども」が健全に生きること ができるために、私たちは支援を続けていくのである。 参考文献 ・「今日の社会における子育て支援の意味と保育士の役割」石川昭義・堀美鈴,仁愛大学研究紀要 人間生活学部篇,第2号,2010 年. ・『児童相談所・関係機関や地域との連携・協働』相澤仁・川崎二三彦,明石書店,2013 年. ・『3 法令ガイドブック』無藤隆・汐見稔幸・砂上史子,フレーベル館,2017 年.  ・『スケッチ「親と子の 50 年」』小山敦司,赤ちゃんとママ社,2011 年. ・『ハンドブック 事例で読む学校と家庭・地域』日本学校・家庭・地域教育研究会編,教育出版, 1999 年. ・『幼児の臨床心理辞典』石川哲夫・森川史朗・昌子武司・品川孝子・品川不二郎,日本図書センター, 2016 年. ・読売新聞「くらし・教育欄」広中正則、2016 年 6 月 10 日朝刊より

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