論 説
フィンランドと比較した日本における年齢別
0職業別死亡の特徴
藤 岡 光 夫
1、 は じめ に
WHOのHealth for All計画では、健康の不平等の改善 に取組み、すべての人間の基本的人権 と して到達可能な健康水準の実現が 目標 とされている%そ の実現のために、1998年の世界保健宣言 では参加各国の責任が再確認 された②。健康問題 を考える際に、 とくに労働 と健康の問題 は重要で あ り、労働者 の健康問題の実態把握 と改善が国際的な課題 として位置付 けられている。WHOの
Declaration on Occupational Health For All″ (1994)では、労働 と健康の問題 に関 して、労 働災害、職業病、過重労働や精神的ス トレスに関わる労働者の健康問題改善のためには、性別、年 齢、国籍、職業、雇用形態、事業所規模、労働場所による差異を解消すべ きことが強調 されている°。
労働者の健康状況を把握するための基本的な統計 は、労働災害・ 職業病統計である。労災統計に は、災害事故 による障害や疾病、死亡の他、職業病による疾病や死亡が含まれる。 しか し、一般的 な労災統計 は、労災補償制度 と関連 してお り、職業病 リス トに基づ き労働 との関連が明確に立証 さ れたものが対象 となっている。 このため、過重労働やス トレスなどに起因する疾病 は、従来型の伝 統的な職業病の概念に含まれず、労災統計に反映するものは実態のごく一部 にすぎない。そこで、
ILOとWHOは共同の研究成果 と して、伝統的な職業病概念 に含 まれないより幅の広い新 しい概念 として、労働関連疾患を定義 し、筋骨格系疾患、循環器系疾患、呼吸器系疾患を対象 とした゛。そ の中で も、循環器系疾患 は、過重労働 と結びつ く労働者の健康破壊の重要な疾患 として注 目され、
ILOの世界労働報告書 (1993年)でも、 日本やアメ リカの過重労働やス トレスに起因す る労働関連 疾患の問題が取 り上 げ られた。 日本では、過重労働 に基づ く循環器系疾患を中心 とす る突然死が過 労死 と呼ばれ、多 くの調査研究が積みあげ られて きた。 さらに、1998年にILOで開催 された「労働 災害統計」 に関する労働統計専門家会議では、職業病の把握方法 と分類 について議論がなされた。
そこでは、最終報告書 には盛 り込まれなかったものの、ス トレスの影響による問題 も含めた労働 と 健康 に関わる全ての領域での関連疾患についての統計作成の重要性が強調 されたGL
本稿では、 このような労働者の健康実態を把握す る統計の 1つ である職業別死亡統計を用いて、
フ ィンラン ドとの死因別、年齢別 の比較 を通 じて、職業別 にみた 日本 にお ける労働者 の健康実態 の 特徴 を明 らか に したい と思 う。
2、 労働者 の健康 実 態 と労災職 業 病 統 計
日本における労働者の健康問題を検討する際に、 もっとも大 きな問題は、過重労働に基因する過 労死の問題である。表 1に は、弁護士を中心 に組織 された過労死110番への1988年か ら1999年にか けての被災者の家族等 による相談事例の集計結果を示 した。過労死110番では、 この期間に過重労 働 と発症 に関する労災補償を求 めた相談事例が3,501件あり、内2,336件が過労死 に関わる相談事例 であ ったとされている。男性 は3,205件、92%を占め、被災者の年齢層は、30歳未満が 9%、 30〜 39 歳が15%、 40〜 49歳が25%、 50〜 59歳が24%、 そ して60歳以上が 5%、 不明21%となってお り、過 労死が中高年層だけでな く、若い年齢層にも及んでいる。1980年代か ら深刻化 して きた過労死問題 が、 日本経済が不況期 に入 った1990年代において も、依然 として改善 されていないことが分かる。
さらに、表によれば、被災者の疾患 は、循環器疾患が66%を占め、 さらに、職業分野 は、 ホワイ トカラー層である管理職や販売、事務職、技術職、公務労働者で67%を占めている。 この数値 は、
過労死の全体を示す ものではな く、あ くまで過労死110番に相談を した事例の合計 に過 ぎない。 し か し、過重労働に基 く循環器疾患による健康破壊が若い世代か ら中高年に及び、 ブルーカラー層だ けでな く、多数のホワイ トカラー層が含 まれている傾向は、注 目すべ きである。
表1 過労死110番による相談事例 (1988年〜1999年)
職 業 件 数 %
合 計 100%
会社経営者・ 役員 140 4%
会社管理職 24%
現業労働者 749 21%
営業・ 事務職 774 229イ
運転手 9%
技術職 9%
公務員 263 8%
病名等 件 数 %
合 計 1009イ
脳 出血 479 14%
くも膜下出血 740 21%
脳血栓・ 脳梗塞 214 6%
心筋梗塞 358 10%
急性心不全 15%
自殺 9%
その他 32%
資料 :過労死110番、 ホームページ
これ らの過重労働 と健康破壊の背景には、 日本の長時間労働があることが従来か ら指摘 されてい る。 日本の労働時間は、不払い残業時間を含めた労働力調査か ら得 られた水野谷の計算によると、
男性の場合、1985年で2,540時間、1990年で2,490時間、1995年では2,330時間 となっている。同氏の 研究では、北欧のデ ンマークでは、男性の労働時間は1985年で1,860時間、1990年、1995年のいず
れ も1,800時間であ り、1990年では690時間、1995年で も530時間の格差がある。支払 い年間労働時 間で比較 して も、 日本 の1990年では2,124時間であったが、スウェーデ ンでは1992年で1,485時間で あり、639時間 も日本 の労働時間が長 い。 日本 の労働時間が著 しく長い原因の第一 は、残業時間が 長 い点である。年間の支払 い残業時間 は日本 の男性の場合、1990年で、208.8時間、不払 い残業時 間は300時間、合わせて508.8時間 となっている。1995年では、前者が154.8時間、後者が290時間、合 計444.8時間である。第二 に、平均週休 日数が1990年で1.6日、1995年1.8日 と少な く、完全週休 2日 制 の普及率 は1990年で39%、 1995年で58%に過 ぎない。第二 に、年間の有給休暇 日数が少 な く、
1990年で8.2日、1995年で9.5日である。 これは、北欧諸国の5〜 8週や ドイツの31.2日 (1995年)と 比較すると格段の格差がある°。
このような過重労働を背景 とする過労死に代表 される現代 日本 における労働者の健康破壊の実態 は、労災認定を求める過労死裁判の判例に詳 しく記述 されている。表 2に 、労働災害の認定が得 ら れず、労災補償請求のための裁判を行い、そこで扱われた事例の一部を具体例 として掲げた。
Aのケースは、技術職 に属す るコンピュータの システムェンジニア (男性、33歳)のケースであ
るが、彼の場合、残業 は日常的にあり、発症前1週間の平均で 1日 あた り3時間の残業があった。
また、発症前2ヶ月の間は、顧客への納期に追われたり、 トラブル処理のため、休 日労働や深夜労 働が増加 し生体 リズムに反する労働が続いたりした上、プロジェク トリーダーとして情動 ス トレス を蓄積 していた。生活習慣では、喫煙 もな く、飲酒量 も少なか ったが、睡眠時間は 1日 5時間程度 しかない生活が続いていた。その結果、高血圧が長期間に及び脳出血で突然死にいたったのである。
ケースB、 エ ンジニアは、残業が 1日 平均4時間30分あ り、残業時間の合計がlヶ月 に100時間 を越えることもあった。通勤には1時間30分程度かか り、睡眠時間は平均 して5時間程度 しか とれ ていなか った。飲酒、喫煙習慣があり、朝食 は欠食で、夕食 は深夜に摂 るという不健康な生活習慣 となっていた。
Cのケースは、31歳の男性、管理職であり、通常の労働状態では、出張や休 日出勤が非常に多 く、
2週間の連続勤務 もあり、身体的疲労を蓄積 していた。 さらに、取引先のクレーム処理で、精神的 ス トレスも増大 していた。発症1週間前には、 自宅での睡眠時間が十分に確保できず、わずか 3日 間のみであった。基礎疾患はなか ったが、急性の心筋梗塞 により心不全で死亡 した。 このように若 い管理的職業従事者 において、精神的ス トレスだけではな く、労働時間が長 く、身体疲労の蓄積が 加わ り、発症にいたるケースは、販売業やサー ビス業の管理職 にもみ られる。
Dの男性46歳のケースは、貨物 トラック運転手であり、荷物の積み込み、運転、積み下 ろ しの重 労働に加えて、残業や早朝出勤による超過労働時間が毎 日3時間程度あり、休 日は月 3日 程度 しか とれてお らず、生体 リズムに反する生活が続いていた。睡眠は 1日 6時間程度で飲酒、喫煙習慣が あった。 日常的な肉体的疲労の蓄積が副交感神経の過度の興奮 につなが り、致死的不整脈か ら、急
A・ 男 性 、・ 33,裁、・ コ ン
ピュー タ シス テムェ ンジニ ア、・ 責 任 感 が強 い
◎通常:・ 時間外労働 日常的、・ 発症前2
ヶ月間は休 日出勤増加、深夜勤務増加、
◎発症前1週間:・残業 1日 平均 3時 間、・ プロジェク トリーダー (納期厳守、 トラブ ル処理、心労)
・ 通勤時間は 1時 間30 分強、・ 睡眠時間 は5 時間程度、・ 休 日は ド
・ライブヽ音楽を聴 く、・ 飲酒は週 1〜2臥̀ビー
ル 1本、・ 喫煙な し
0長期間の高血圧症、
・ 血圧 :上170下120、
・ 心拡張、・ 高血圧 の 治療や精密検査を放置、
・ 脳幹部出血 (死亡)
B・ 男性、・ 43歳 、・ エ ン
ジニ ア、・ 責 任感強い、仕 事第一、神経 質
◎通常:・宿直勤務月 1〜 2回 、・ 土 日に は日直業務2ヶ月に 1回、 ・ 残業は 1日 平 均約4時間30分、多 い月には1月当たり10 0時間超える、・ 残業の労働密度は軽い
・睡眠時間 は平均5〜6 時間、・ 月 に7〜 8日程 度 の休 日有 り、・ 飲酒 は1日 日本酒1.5な い し2合 、または缶 ビー ル 1〜2本、・ 喫煙 は 1日20本程度、・ 朝食 抜 き、夕食深夜摂取
・ 発症 2日 前:・ 感冒 と血圧上昇 による緊張 性頭痛、・ 右 中大脳動 脈瘤破裂 によるくも膜 下出血 (死亡)
CO男性、・ 31歳 、・ 電 子 機器製造業、
地方営業所の 所長
◎通常:・出勤 日数の大半が出張、・ 出張に 車を使用することによる肉体疲労蓄積、・ 長 時間運転による精神的緊張・ 休 日出勤多数
◎発症前:2週間連続勤務、取引先のクレー ム処理 による精神的ス トレスの蓄積
・休 日出勤が多 く、休 養 日が少 ない、・ 発症 1週 間前の自宅での睡 眠は 3日 間のみ
・ 基礎疾患 な し、0急 性心筋梗塞 に基づ く不 整 脈 、・ 急 性 心 不 全 (死亡)
D・ 男性、・
46歳 、・ 貨物 トラック運転 手
◎通常:・毎 日十数店舗配達・ 積み込み、運 転、荷卸 し作業の重労働、・ 早朝勤務、・ 出勤 日数は25〜 27日、・ 休 日は3日程度、・ 労働時 間は3時間以上恒常的に超過勤務、
◎発症直前:・新業務で休憩時間なし、・ 待 機時間は場所を離れられない、休める場所が ない、・ 冬季寒冷下における積み下ろし作業
・睡眠は約 6時 間、・ 飲 酒は夏季にビール 1本、
水割 り2杯 程度、他の 季節 は焼酎 2〜3杯程 度、・ 喫煙 は 1日 約20 本
・ 肉体的疲労の蓄積、・ 副交感神経の過度の興 奮状態、・ 致死的不整 脈、0急 性心不全 (死 亡)
性心不全 で死亡 したケースであ る。
表2 判例一技術職、管理職等 (システムエンジエア①②、管理職、 トラ ック運転手)
出所:東京高裁、1998年、(ネ)1785。 大阪地裁、1999年、(行―ウ)85。 京都地裁、1998年、(行ウ)3。 大阪地 裁、1998年、(行ウ)17。
このような日本の労働者 における過重労働を背景 とする健康破壊 は、過労死 として国際語にもな り、 とくにサラリーマン (ホワイ トカラー層)の過労死 として注 目されている。
しか しなが ら、わが国においては、労災認定の基準が極めて厳 しいために労働災害 として過重労 働 と発症 との関連が認定 され、数字 となって現れるものは、全体のごく一部に過 ぎない。現在の認 定基準では、対象疾患 は、脳血管疾患 (脳出血、 くも膜下 出血、脳梗塞、高血圧性脳症)、 虚血性 心疾患等 1心筋梗塞、狭心症、心停止 │い臓性突然死を含む)、 解離性大動脈瘤)とされる。認定 要件 は、第一に発症直前に異常な出来事に遭遇 したこと、第二に、発症 に近接 した時期 (発症前お おむね1週間)において、特に過重な業務 (長時間労働、不規則勤務、交替制・ 深夜勤務、出張過 多、精神的緊張を伴 う業務等)に就労 したこと、第二 に発症前 (発症前おおむね6ヶ月間)に長時 間の、著 しい疲労蓄積をもたらす、特に過重な業務に就労 したこと、 とされる。長時間の過重負荷 の有無の判断は、時間外労働が2ヶ月か ら6ヶ月にわたってlヶ月当たり80時間を超えると発症 と の関連が強いと評価 される°。 しか し、時間外労働が80時間未満の場合、労働時間以外の要因が重 なる場合、被災者本人 にとって過重な場合などで認定 されない可能性が強い。
これ らの過重労働やス トレスに起因す る循環器疾患等 による労働者の死亡 は、労働関連疾患の一 部に含まれると考え られるが、 日本の労災統計では労働災害 として認定 されたものが統計数値 とし て示 されるため、 これ らの実態は統計 にはほとんど反映 していない。表3は、 日本 における1985年 か ら1995年にかけての、循環器疾患に関する男性20〜 64歳の一般死亡数及び在職死亡数、循環器疾 患 による疾病を労働災害 として認定申請 された件数 (男女計)、 その中で過重労働 によるものとし て認定 された件数の一覧表である。 この表によれば、1995年の循環器疾患による男性の死亡総数 は 30,775件、男性労働者 の死亡数 は18,324件であるが、労働災害 申請件数558件 (男女計)の中で認 定数 は140件、 さらに過重労働 に起因す るものとして認定 されたケースは、わずか76件のみである。
したが って、 日本 における職業病が対象 となる「労働者災害補償保険労働災害統計年報」(厚生 労働省)には、労働者の健康破壊の実態が示 されないことになる。
表3 脳血管疾患及び心疾患による死亡数 と労災認定数
1985生F 1990生F 1995準F
(1)20〜64歳死亡数 (男性人 口全体) 34,211 34,575 30,775 侶)20〜64歳死亡数 (男性就業者) 21,487 20,842 18,324
6)労働災害申請数 441 558
に)認定数 140
に)過重労働 による労災認定数
出所 :(1)は、「人 口動態統計」(厚生省、現厚生労働省)、 惨)「人 口動態職業・ 産業別統計」(同)、
ほkにヽG)については、労災問題研究所「週刊労災」、 原資料 :労 働省 (現厚生労働省)
旧厚生省が行 った臨時の調査である「人 口動態社会経済面調査 (壮年期死亡)」 (1989年)では、
30〜 64歳の死亡者のうち、8人に1人は、脳・心臓疾患の突然死であるという結果が示 されている。
また、旧労働省の「労働者の健康状況調査」(1997年)では、現在の健康状態が「不調である」者 の割合 は、所定外労働時間が1時間未満で17.0%、 1〜 2時間で20.1%、 2〜 3時間で22.6%、 3
〜5時間で30。3%となっている。
このような過重労働やス トレスに起因する労働者の健康破壊の実態把握 は差 し迫 った重要課題で あると考え られるが、上記の壮年期死亡 に関す る統計 は1回きりのものであり、現在のところ、労 働 と関連す る労働者の死亡実態を示す政府統計の整備 はきわめて遅れている。
3、 職 業別 死亡 統計 を利 用 した年 齢別標 準 化死亡 比 (SMR)の日・北 欧比較
日本における労働者の健康実態を把握する上で、関連する統計 として唯一利用価値が高いものが、
就業者全体を対象 とした職業別死亡統計である。職業別死亡統計あるいは、社会階層別死亡統計は、
労災補償制度 とは関わ りな く、労働 と死亡 との因果関係を把握することはできない。 しか し、 この 統計 は、全人口を対象 としたものであり、死亡の社会階層間格差を把握するための基本的な統計 と して、北欧諸国をはじめヨーロッパ各国で利用 されている。 日本では、セ ンサスの実施 される年度 にあわせて5年毎 に、産業別、職業別 にみた死亡統計が作成 されている。 ただ し、 日本の職業別死 亡統計 は、北欧諸国の職業別死亡統計のような長期間の変化を捉えるロンジテューディナル調査で はな く、対象 となる職業が死亡時点の職業に限定 されている。そのため、労働移動があった場合、
長期間の職業的な影響をみることはで きないという限界がある。 また、職業の他 に産業 も調査 され るが、いずれ も大分類で しか調査 されてお らず、詳細な職業間の比較ができない。そのため、 日本 の労働者の健康状態を把握する上で、国際比較がむずか しいという制約がある。
職業別死亡統計の国際比較については、マ ッケ ンィヾッハ らによるヨーロッパ11カ国やアメ リカを 加えた12カ国の比較°が最近の もっとも重要な研究成果である。それ らの結果 は、 これまで各国で 行われてきた死亡の職業間格差の研究成果を確認するものであった。すなわち、管理職や専門職 な どのホワイ トカラー層における相対的低死亡水準 とサービス職従事者や作業労働者などの高死亡の 健康格差が共通の傾向として把握 された。 しか し、 この比較研究においては、 日本 は対象 に含 まれ ていなか った。 日本を含めた国際比較研究 としては、鏡森 らによる日本の1980年データを用いた公 表 された職業大分類データによる日英比較研究がある。 そこでは、専門職、管理職 は悪性新生物、
循環器疾患のいずれで も死亡水準が低 く、事務職、販売職、運輸通信職、技能労務職では、平均水 準、農林漁業、サービス職で高死亡 とい う結果が出ている。年齢別比較でも、管理職、専門技術職 での低死亡傾向は30歳以上、 とくに45〜 54歳で確認 されている°。
このような研究状況に対 して、 日本では、森、藤岡、良永、金子の共同研究の成果 として、1975 年か ら1990年の死亡統計の ミクロデータを利用 して産業 と職業をクロスした独 自集計が行なわれ、
その結果が2000年に公表されたこ0。 藤岡 らは、 このデータをもとに北欧諸国 との概略的な比較を行 っ た。1。
森、藤岡 らによる職業別死亡統計 の日本 と北欧諸国のSMR(標準化死亡比)の比較研究 は、 日 本の産業 (大分類)と職業 (大分類)をクロス したデータを もとに、概略的な比較が可能なように 北欧諸国の職業分類 に対応 させて両者を組替え し、20〜64歳の1970年か ら1990年のデータを用いて
SMRの比較を した ものである。 この研究成果 は、上記の法政大学 日本統計研究所の資料⑩及び、
ILOの年報Q]に発表 されているので、詳細 なデータや職業分類 の組替え方法及 びその際に用 いた
SMRの計算方法については、 これ らを参照 されたい。
SMR=年齢階級別死亡数の合計 ÷(年齢階級別人 口×標準人 口の年齢階級別死亡率)の合計
表4は、そのデータの二部を利用 して全死因及び循環器系疾患、悪性新生物による死亡について 北欧諸国 と日本のSMRの比較を行 ったものである。 なお、 フィンラン ドについては、 フィンラン ド統計局の協力により1981年〜1990年データを入手することができたが、他の北欧諸国については 1971年〜1980年のデータしか利用できない制約がある。
この表 によると、死因全体でみると、北欧諸国では「技術職」、「専門職」、管理職層の相対的低 水準の一方で、運輸労働者、建設作業者、サービス職での相対的高水準が観察 される。 フィンラン
ド(1981〜 1990年)でもほぼ同様の傾向がみ られるが、技術職、専門職、管理職、事務職の相対的低 水準 と、建設作業者及びサービス職従事者の相対的高水準 との格差が一層大 きい。 これに対 して、
日本では、1980年と1990年のいずれにおいて も、同様 に管理職、専門職の相対的低水準 と、運輸労 働者、サー ビス職での相対的高水準が把握 される。 しか し、北欧諸国の傾向と異な り、農業就業者 やホワイ トカラー層である技術職での相対的高水準が特徴的にみ られる。
循環器疾患 による死亡について も、 ほぼ同様の傾向が把握できる。北欧全体では、相対的高水準 を示す職業分野 は、運輸労働者及びサー ビス職従事者であるが、循環器系疾患の場合、やや高い水 準を示す職業分野 として、事務従事者 (106)と 販売従事者 (106)がこれに加わっている。ただ し、
フィンランド(1981〜 1990年)では、 この傾向は見 られない。 これに対 して、 日本 (1990年)では、
全死因 と同様に循環器疾患の死亡において も、「技術職」、農民、運輸労働者、サー ビス作業者、失 業者 (非就業者)の相対的高水準がみ られる。 この中で「技術職」の高水準 は、全死因 と同様に日 本の特徴であるといえよう。北欧全体でみ られた事務職のやや高 い水準 は、 日本の1980年ではみ ら れないが、1990年においては、103とわずかな上昇が観察 される。
悪性新生物についてみると、北欧では、運輸労働者 とサービス職従事者で高死亡を示 しているが、
この2つの職業で は日本で も同様 の傾向を示す。 しか し、 日本で は、 その他 に農民 や販売職 (1980)が加わ り、 さらにホワイ トカラー層に属する技術職や事務職で も相対的高死亡 (119)が観 察 され る点 に特徴がある。
ただ し、 ここで用いている日本の職業分類は、産業 と職業分類の組み合わせにより北欧の分類に 近似的に対応 させているという限界があるため、 日本の「技術職」は、厳密な分類ではない点に注 意が必要である。すなわち、 このカテゴ リーは、全産業の専門・ 技術職か らサービス業の専門・ 技 術職を差 し引いて推計 したものであり、サービス業以外の産業分野における専門職が含まれている。
なお、「専門職」 について も、同様の理由で、 日本のサービス業の専門・ 技術職を対応 させて推計 しているため、サー ビス業 における技術職が このカテゴリーに含まれる
'D。
表4 北欧と比較 した日本の職業別標準化死亡比 (SMR)(男性′20〜64歳)
出所:Ftjioka M.,Mori H.,Yoshinaga K.,Kaneko」 。, Comparison of occupational mortality between the Nordic ∞untries and 」apan, with analysis by age group in Japan, using lnicro― data and the SPA method",B ιJθιjλ o/Lαbοじr sιαιjsιjCS,2002‑1,ILO,Geneva,
4、 年齢 別 にみ た職 業別 死亡 統 計 の 日本 0フ ィンラ ン ド比 較
SMRによる職業間の死亡水準の比較 は、一般的に用いられる方法である。 しか し、SMRは、上 記の計算式か ら理解できるように、標準人 口の年齢別死亡率か ら計算 される年齢別期待死亡数の合 計 と各職業分野 における実際の年齢別死亡数の合計 との比率か ら算出されるため、一方で死亡数の 少ない若 い年齢層の影響が弱 く、他方で死亡数 の多い高齢層の影響が強 く、SMRに反映されるこ とになるbしたが って、より詳細な実態を把握するには、年齢別死亡率の比較をする必要があるが、
年齢5歳階級毎の比較では指標が多 く、 また死亡の実数が少 な くなるため、 ここでは、年齢階級を 20〜34歳、35歳〜44歳、45歳〜54歳、55歳〜64歳の5区分 とした。 また、比較を容易 にするため、
以下の計算式により標準人口の年齢階級別死亡率を100とする死亡比を計算 し、比較 に用いた。
職業別年齢階級別死亡比=職業別年齢階級別死亡率 ÷標準人口の年齢階級別死亡率 ×100
職 業
全死因 循環器疾患及 び突然死 悪性新生物
日 本 日冽ヽ 北欧4カ国計フィンラン│
(1980年)(1990自「)09718昨)098Hlrl
日 本 日本 ilg14カ酷 フィンランド (19800(199昨)097‖m098‖llTl
日 本 日本 北欧4カ酬 フィンランド
(1980年)(1990年 )(1"l‑8111098‖問
(1)人口全体 9)経済活動人 口 6)就業者計 に)技術職 (推計)
に)専門職 (推計) )管理的職業従事者
17)事務的職業従事者 に)販売従事者 0)農業就業者 10運輸通信労働者 aD製造業作業職従事者
a21建設作業者 t9サー ビス職従事者 00非就業者
133 144
100 100 100 100
257 179 80 73 48 47 83 72 60 72 91 75 95 102 100 88 109 92 103 94 129 137 89 94 110 121 109 100 67 63 102 102 92 91 108 114 139 166 126 124 445 434
133 144
100 100 100 100
264 174 85 78 50 48 84 72 57 67 91 75 91 103 106 97 114 95 106 99 133 138 91 99 97 112 112 108 69 64 103 102 91 91 101 108 150 180 114 117 431 440
100 100
319 219 91 88 53 52 84 80 73 85 100 87 116 119 103 90 118 101 107 98 117 121 82 89 114 112 110 103 67 63 103 105 69 73 107 114 129 153 120 109 355 360
日本 との比較対象国は、上記の北欧諸国の うち、詳細な年齢別データが入手 しえたフィンランド としたが、SMRの比較か らフィンラン ドの職業別死亡の特徴 は、北欧全体 と大 きな違 いはないと 考え られる。 したが って、 日本 とフィンランドの比較か ら、 日本の特徴を見出す ことは可能である
と判断できる。
フィンランドの公表データは、本研究 における北欧諸国との比較で用いている職業分類 と異なる ため、独 自の集計が必要 となった。 フィンラン ドでは、他の北欧諸国 と同様に死亡統計のデータと 他の社会経済 データとの リンケージによる統計表が作成 されている。そこで、今回の分類 に対応す るように、セ ンサスデータの個票 と死亡統計の個票を レコー ドレベルで リンケージして、再集計を 行 った。具体的には、第一 に、本職業分類 に対応 させた1980年時点の男女年齢別職業別人 口を算出 し、第二に、 このセ ンサスの個票データと死亡個票を結合 し、1980年時点 の職業分類 に基づ く各集 団に属する個人別の1981年〜1990年にいたる死因別の死亡を確認 し、 この間の職業別の死亡数を算 出 した。 ここまでの過程 は、個票データを用いることか ら、必要なデータの作成をフィンランド統 計局 に依頼 して作成 した。その結果をもとに、第二 に、分母 は、1980年のセ ンサスデータによる男 女年齢別職業別人口×10と し、分子 は、1981年〜1990年の間の職業別の男女年齢別、死因別死亡数 として、男女、年齢階級別死因別死亡比率 (厳密な死亡率ではない)を算出 した。 さらに、第四に、
この死亡比率をもとに、 フィンラン ドの場合は経済活動人口を、 日本の場合は就業者総数を標準人 口として、職業別の男女年齢階級別、死因別死亡比 (標準人 口=100)を計算 した。
以上のような手順を経て求め られた男性の年齢別の死因別死亡比について、 日本 とフィンランド の比較を行 ったのが、表5である。 表 5に よれば、 フィンラン ドと比較 した場合の、 日本の年齢 別 にみた循環器疾患 による職業別死亡の特徴 は、以下の通 りである。循環器疾患のSMRで相対的 に高い値を示 した運輸労働者及びサービス職従事者においては、 フィンランドと同様、 日本におい て も、 ほぼ各年齢層で も相対的に死亡比が高い傾向がみ られる。ただ し、 日本の運輸労働者におい ては、35〜44歳層で他の年齢層 よりもとくに高い傾向がみ られる。農業就業者の場合は、 日本では とくに20〜44歳層で高水準であるが、 フィンランドで もこの年齢層ではやや高い傾向がみ られる。
建設業労働者に関 してはフィンランドの20〜44歳層で年齢別死亡比のかなり高い水準が見 られるが、
日本ではそのような傾向は認め られない。
SMRでみた場合の日本の特徴 として見出された技術職 については、 フィンランドが全ての年齢 層で相対的低水準を示すが、 日本では、いずれの年齢層でも相対的に高水準 となっている。 とくに、
45〜 64歳の中高年層では非常に高い死亡比が観察 されることは特徴的である。また、循環器疾患の
SMRではやや高い水準 (103)しか示 さなか った事務職 において、20〜34歳では134と高水準 を示 し、 さらに35〜44歳で110、 45〜54歳で も109とやや高い水準を示す ことには注 目すべ きである。表 には掲載 していないが、事務職従事者の年齢階級別死亡比は、1985年では、それぞれ121、 101、 94、
また、1980年では、それぞれ103、 92、 94であり、20〜34歳の年齢層の死亡比が次第 に上昇 して き ている傾向がわかる。 さらに、管理的職業従事者では、循環器疾患のSMRはフィンラン ド75、 日 本67の低水準であったが、 日本の場合、20〜34歳の若い年齢層の死亡比が169とかな り高い水準 に あることが判明 した。 しか し、35〜44歳では77、 45〜 54歳では61と、かなり低い水準 となる。 これ らの各年齢層 における日本の管理的職業従事者の年齢別死亡比 は1980年では64、 53、 57、 1985年で
は119、 74、 70であり、20〜34歳の死亡比が次第 に上昇 していることが把握 しうる。なお、 この管
理的職業従事者の20〜 34歳における年齢別死亡の実数は、 フィンランド(1981年〜1990年)で29件、 日本で1980年 17件、1985年 14件、1990年 17件となつてお り、実数 は少ない。 これ らのことか ら、事 務職や管理職 の若い年齢層 の相対的高死亡が、実数が少ないためにSMRには十分 に反映 されてい なか ったことが理解 しうる。
さらに、悪性新生物においては、技術職や事務職 における相対的高死亡の特徴が一層明確になっ た。 とくに、事務職 においては、20歳か ら50歳代 にいたる若年及び中高年層での相対的高死亡傾向 は (159、 136、 124)特徴的である。
表5 日本 とフィンラン ドの年齢階級別死亡比 (男性、20〜 64歳、全死因)
資料,No.64,2000年 。
Statistics Finland, 雲αbι /or POpLJαιjοπ(■想の αんごD"ι んs(19∂1‑199の め′06αηαιjοんjη FれJαtt」
(じ″ bιおルの,Helsinki,2002。 (筆者の依頼 によリフィンランド統計局 にて作成)
日本 (1990年) フ ィンラン ド(1981‑1990年)
職業 年齢階級(歳) SMR 20‑34 35‑44 45‑54 55‑64 SMR 20‑34 35‑44 45‑54 55‑64
(1)人口全体 157
υ)経済活動人 口 6)就業者計 に)技術職 (推計)
6)専門職 (推計) )管理的職業従事者
17)事務的職業従事者 侶)販売従事者 0)農業就業者 00運輸通信労働者
0つ製造業作業職従事者
Ca建設作業者 117
αЭサー ビス職従事者 αO非就業者
出所 :法 政大学 日本統計研究所『 産業・ 職業別死亡統計 一日・ 北欧比較 と年齢別死亡分析一』統計研究参考
日本 (1990年) フ ィンラ ン ド(1981‑1990年)
職業 年齢階級(歳) SMR 20‑34 35‑44 45‑54 55‑64 SMR 20‑34 35‑44 45‑54 55‑64
(1)人口全体 1襲
9)経済活動人 口 G)就業者計 に)技術職 (推計)
幅)専門職 (推計) 16)管理的職業従事者
17)事務的職業従事者 侶)販売従事者 0)農業就業者 00運輸通信労働者
0つ製造業作業職従事者
υ建設作業者 110
αЭサー ビス職従事者 00非就業者
表6 日本 とフ ィンラ ン ドの年齢階級別死亡比 (男性、20〜 64歳 、循環器疾患)
表7 日本 とフィンラン ドの年齢階級別死亡比 (男性、20γ 64歳、悪性新生物)
日本 (1990年) フィンラン ド(1981‑1990年)
職業 年齢階級(歳) Sh/1R 20‑34 35‑44 45‑54 55‑64 SMR 20‑34 35‑44 45‑54 55‑64
(1)人口全体 0)経済活動人 口 0)就業者計 に)技術職 (推計)
6)専門職 (推計)
16)管理的職業従事者 244
)事務的職業従事者 侶)販売従事者 0)農業就業者
10運輸通信労働者 142
0つ製造業作業職従事者 uO建 設作業者 α9サー ビス職従事者
m非就業者 780
5、 むす び
以上の比較か ら、 日本においては、循環器疾患においてフィンランドと共通にみ られる運輸労働 者やサービス職従事者の相対的高死亡の他に、 日本の特徴 としてホワイ トカラー層の技術職の全年 齢層 (と くに45〜 64歳の中高年層事務職)管理職の20〜34歳層で相対的な高死亡が見出された。 ま た、事務職 においては、35〜 54歳層 において も死亡比が平均水準よりも若干高い傾向がみ られた。
さらに農業就業者 において も、各年齢層で高い値が観察 される。欧米における職業別死亡統計の国 際比較の二般的傾向か らは、循環器疾患 について、一方で、サービス職やブルーカラー等、労働条 件の劣 る職業階層における相対的高死亡傾向 と、他方で、労働条件の恵 まれたホワイ トカラー層 に おける相対的低死亡傾向が確認 されている。 しか し、 日本 においては、 これとは異なり、技術職の 高死亡、事務職の若年層での相対的高死亡、管理職の若年層での高死亡傾向が見出された。さらに、
悪性新生物 に関 しては、上記の技術職や事務職、若年管理職の相対的高死亡の特徴が一層明確に現 れた。
このような日本の職業別死亡の特徴は、従来の北欧や ヨーロッパ各国の比較研究では見出されな か った点であり、注 目に値するといえよう。
過重労働やス トレスと循環器疾患発症 との関係 については、上畑鉄之丞氏を中心 とする一連の過 労死研究⑫の中で、研究が蓄積されてきている。その点において、今後、 さらに綿密な検討が必要 であるが、従来の理論的研究や事例研究、実態調査などによる研究 と本稿での分析結果 には整合性 のある部分 もあると考え られる。一方で、本稿での比較か ら、従来の平均化 されたSMRでの比較 や職業大分類による比較では十分 に見出されなか った悪性新生物による職業別死亡の特徴が明 らか にされた。悪性新生物 に関 しては、特定の職業性の癌 についての研究 はあるが、過重労働やス トレ スとの関係についての研究 はまだ十分に進んでいないと思われる。免疫力の低下 と悪性新生物の関 係 についての研究 は、安保徹氏 の研究mに見 られるが、今後、過重労働やス トレスとの関係 につい て検討を深める必要があろう。
注)
(1)WHO, Health For All in the Twenty―first Century",WHO Health For Allのホー ムペ ー ジ参照 (http://wwWoWhO.int/archives/hfa/default.htm)。
(2)WHO, World Health Declttration",Adopted by the world health community at the Fifty― first World Health Assembly,M[ay 1998.
(3)WHO, Declaration on Occupttional Health For All",WHO/OCH 94.1,Geneva 1994.
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安保徹『 医療が病をつ くる一免疫か らの警鐘』岩波書店、2001年。
謝辞
本研究 は、 日本学術振興会、平成13年度〜平成14年度、科学研究費補助金、基盤研究lCl、 課題番号13630028
「労災・ 職業病統計及 び職業別死亡統計の国際比較 に関す る研究」の補助を受 けて行な った研究の一部であり、
謝意 を表 したい。
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