リスニングの指導 大坪喜子
(平成6年10月30日受理)
Teaching the Comprehension of Spoken Speech
Yosh,iko OTSUBO(Recelve(i October30, 1994,)
はじめに
日本の英語科教育においては,これまで英文法についての知識を与え,その知識に基づ いて,与えられた英文を日本語に訳させたり,また,日本語の文を与え,それを英語に訳 させたりするという,いわゆる,書かれた文字中心の指導が主流であった。そしてそのよ うな書かれた文字中心の指導を受け,書かれた英語になじんでいた筆者には,音声で与え られる英語の流れの中から必要な情報を聞き取るのは至難の技であった。事実,聞こえて くる英語の音の流れは,むなしく空中で消えさってしまうことをわれわれの多くは経験を とおしてよく知っている。このように,書かれた文字をとおして英語を学習してきた文字 依存度の高い学習者が,空中で消えてゆく英語の音の流れの中から必要な情報を聞き取れ るようになるために,日常的に英語が使われていない日本で,英語科教員はどのような指 導をすることができるのであろうか。これは,今,まさに.高等学校の英語科教育が直面 している課題である。それは,1994年度からの新カリキュラムで高等学校の英語科教育に
「オーラル・コミュニケーションA,B,C」が導入され,高等学校3年間のうちに,「オー ラル・コミュニケーションA」,「オーラル・コミュニケーションB」,「オーラル・コミュ ニケーションC」のいずれか一つを必ず教えるように義務づけられたことにより,英語科 教員の多くがはっきりと認識できるようになった新しい課題であると言うことができる。
本稿では,高等学校の英語科教育で,高校生たちがリスニング・スキルを身につけるた めに,英語科教員たちはどのような「手助け」または,「指導」をすればよいのかという ことに焦点を当て,まず,1では,Robert J.Dixson(1975)に基づいて言語学習にお けるスキルの獲得とはどういうことであるのかを示し,ついで,リスニング・スキルの獲 得について考える。∬では,Wilga Rivers(1972)に基づいて,リスニング・スキルを 獲得させるためにどのような指導をすればよいのかについて,特に,教材の情報量の問題
と教材の提示のしかたを中心に検討する。そして,最後に,皿では,まとめとして,教師
の役割についてふれる。
1.リスニング・スキルの獲得
リスニングの指導目標を具体的にするために,本節では,どういう状態をリスニング・
スキルが獲得されたと考えるのかを示すことにしたい。このため,まず,スキルの獲得と いうことについて検討することからはじめる。
1.1.スキルの獲得
Dixson(1975)によれば,スキル(skil1)とは,長い時間をかけ,練習を繰り返えし することによってできた能力であると次のように規定する。
Askillisanabilitydevelopedthroughprolongedpracticeandrepetition.
Playing the piano is a skil1。Typing is a skill.Such skills,since they must operate almost automatically,take a long time to develop.They require continuous practice and drill. Dixson(1975:8)
ピァノを弾くことは一つのスキル(a skill)である。それは,ピアノを弾く練習を繰り 返えしすることによってできた能力(anability),すなわち,スキルである。タイプが できるということもスキル(askill)である。そして,これらのスキルは,ほとんど自 動的に操作しなければならないので,身につくまでに長い時間を必要とし,また,絶え問 ない練習を要するものである。
このようなスキルの考えかたを英語学習の場合に置きかえてみるとどうなるであろう。
たとえば,パタン・プラクティスで, I am walking. というパタンの練習をし,教師 の指導のもとで, wa1どをread,talk,write,speakなどの動詞で置き換え練習をする。
そして,このパタンがどのような場面で用いられ,どんな意昧を表わすのか,そして,文 法的には現在進行形という文法形式であるということなどを学習したとする。ここまでは,
音型を含めて,この文法形式についての知識を学習したことになる。これらの知識を得た あと,さらに,このパタンを何度も練習し,このパタンが具体世界で用いられるべき場面 で,学習者が自分で自由に使えるようになったとき,このパタンについて,スキルを獲得
したということができる。
次に示すDixson(1975)からの引用は,このような外国学習におけるスキノヒの獲得の 意図するところを述べたものであるが,これは1994年度からの高等学校学習指導要項( )
(外国語)の主旨とほぼ同じことを述べていると言うことができよう。
多