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リスニングの指導

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Academic year: 2021

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リスニングの指導 大坪喜子

(平成6年10月30日受理)

Teaching the Comprehension of Spoken Speech

Yosh,iko OTSUBO

(Recelve(i October30, 1994,)

はじめに

 日本の英語科教育においては,これまで英文法についての知識を与え,その知識に基づ いて,与えられた英文を日本語に訳させたり,また,日本語の文を与え,それを英語に訳 させたりするという,いわゆる,書かれた文字中心の指導が主流であった。そしてそのよ うな書かれた文字中心の指導を受け,書かれた英語になじんでいた筆者には,音声で与え られる英語の流れの中から必要な情報を聞き取るのは至難の技であった。事実,聞こえて くる英語の音の流れは,むなしく空中で消えさってしまうことをわれわれの多くは経験を とおしてよく知っている。このように,書かれた文字をとおして英語を学習してきた文字 依存度の高い学習者が,空中で消えてゆく英語の音の流れの中から必要な情報を聞き取れ るようになるために,日常的に英語が使われていない日本で,英語科教員はどのような指 導をすることができるのであろうか。これは,今,まさに.高等学校の英語科教育が直面 している課題である。それは,1994年度からの新カリキュラムで高等学校の英語科教育に

「オーラル・コミュニケーションA,B,C」が導入され,高等学校3年間のうちに,「オー ラル・コミュニケーションA」,「オーラル・コミュニケーションB」,「オーラル・コミュ ニケーションC」のいずれか一つを必ず教えるように義務づけられたことにより,英語科 教員の多くがはっきりと認識できるようになった新しい課題であると言うことができる。

 本稿では,高等学校の英語科教育で,高校生たちがリスニング・スキルを身につけるた めに,英語科教員たちはどのような「手助け」または,「指導」をすればよいのかという ことに焦点を当て,まず,1では,Robert J.Dixson(1975)に基づいて言語学習にお けるスキルの獲得とはどういうことであるのかを示し,ついで,リスニング・スキルの獲 得について考える。∬では,Wilga Rivers(1972)に基づいて,リスニング・スキルを 獲得させるためにどのような指導をすればよいのかについて,特に,教材の情報量の問題

と教材の提示のしかたを中心に検討する。そして,最後に,皿では,まとめとして,教師

の役割についてふれる。

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1.リスニング・スキルの獲得

 リスニングの指導目標を具体的にするために,本節では,どういう状態をリスニング・

スキルが獲得されたと考えるのかを示すことにしたい。このため,まず,スキルの獲得と いうことについて検討することからはじめる。

1.1.スキルの獲得

 Dixson(1975)によれば,スキル(skil1)とは,長い時間をかけ,練習を繰り返えし することによってできた能力であると次のように規定する。

 Askillisanabilitydevelopedthroughprolongedpracticeandrepetition.

Playing the piano is a skil1。Typing is a skill.Such skills,since they must operate almost automatically,take a long time to develop.They require continuous practice and drill.      Dixson(1975:8)

ピァノを弾くことは一つのスキル(a skill)である。それは,ピアノを弾く練習を繰り 返えしすることによってできた能力(anability),すなわち,スキルである。タイプが できるということもスキル(askill)である。そして,これらのスキルは,ほとんど自 動的に操作しなければならないので,身につくまでに長い時間を必要とし,また,絶え問 ない練習を要するものである。

 このようなスキルの考えかたを英語学習の場合に置きかえてみるとどうなるであろう。

たとえば,パタン・プラクティスで, I am walking. というパタンの練習をし,教師 の指導のもとで, wa1どをread,talk,write,speakなどの動詞で置き換え練習をする。

そして,このパタンがどのような場面で用いられ,どんな意昧を表わすのか,そして,文 法的には現在進行形という文法形式であるということなどを学習したとする。ここまでは,

音型を含めて,この文法形式についての知識を学習したことになる。これらの知識を得た あと,さらに,このパタンを何度も練習し,このパタンが具体世界で用いられるべき場面 で,学習者が自分で自由に使えるようになったとき,このパタンについて,スキルを獲得

したということができる。

 次に示すDixson(1975)からの引用は,このような外国学習におけるスキノヒの獲得の 意図するところを述べたものであるが,これは1994年度からの高等学校学習指導要項( )

(外国語)の主旨とほぼ同じことを述べていると言うことができよう。

 Today,as we have already explained,the emphasis has shifted.Because of a general change in world conditions,we now study foreign language in order to be able to use them in our every・day!ife。Our aims are immediate and practical.

The new approach to language leaming,moreover,considers language as a

dynamic activity rather than as a body of passive information.We leam to

speak by speaking,not by studying abstract grammar forms,reading the

classics,or extensive translating.Furthermore,slow,labored speech,the result

of translating from the mother tongue,is not acceptable。Language should be

spoken freely and easily,even if it is limited in range.It should proceed almost

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unconsciously from carefully established habits.It should operate,in other words,as an acquired.skilL       Dixson(1975:8)

概略的にまとめると,われわれは,外国語を学習する場合,必要あれば,その外国語を使 えるようになるために学習する。したがって,われわれの外国語学習の目標は,すぐに役 に立ち,また,実践的であるということ,そして,これからの新しい言語学習への接近法 は,言語を動的な活動(a dynamic activity)として捕えており,これまでのように知 識中心の受身の情報の集大成としては捕えていないということ,したがって,話すことが できるようになるためには,抽象的な文法形式を勉強したり,古典を読んだり,翻訳をし たりすることによってではなく,話すことは話すことによって学習する。その場合,母国 語で考えたことを翻訳して創り出す,のろくて,骨の折れるスピーチは受け入れられない。

単語や語句や文型などの範囲が限られていても,学習した言語は,自由に,らくに話され るようになっているべきであり,それは,教師によって注意深く準備され,そして,訓練 されてできた習隈により,ほとんど無意識に創り出されるようになるべきである。言いか えれば,学習した言語(たとえば,英語)は,一つの獲得されたスキル(an acquired skill)として運用されるべきものである。

1.2.リスニング・スキルの獲得と問題点

 学習した英語は,一つの獲得されたスキルとして運用されるという視点からみれば,そ のスキルの一部であるリスニング・スキルが獲得された状態とはどういう状態をいうので あろうか。結論的に言えば,それはどんどん流れて消えてゆく英語の音声の流れの中から 単語・語句・文型・音調などを見分けることができ,必要な情報を聞きとれるようになる

ことである。

 それではこのようなリスニング・スキルを獲得させるために,日本の高校生たちにどの ような指導をすればよいのであろうか。ここで,日本の英語学習者の現状に目を向けてみ ることにしよう。高校生の場合は中学校3年間,そして,大学生の場合は高等学校までの

6年間,そのほとんどが,文法・訳読中心の指導法,言いかえれば,文字中心の指導で英 語を学習している。その結果,与えられた英文について訳読はできるけれども,英語をコ

ミュニケーションの手段として使えるようにはなっていない。つまり,英語の文法規則に ついての「知識」はあるが,「スキル」は獲得されていない。彼らにとって,英語は文字 の形でテキストの中にあり,テキストに書かれている英文は,日本語に翻訳されて理解さ れる。その場合,テキストの中の英文は,英文構造に従って,左から右へという方向で内 容が把握されるのではなく,日本語に訳するために,先へ行ったり,後戻りしたりして,

日本語に置き換えなければその内容がとれない習慣がついている。

 一方,リスニングの場合,英文構造にしたがって,左から右へ,どんどん流れて消えて

ゆく音声の中から情報をとることができなければならない。つまり,リスニングでは後戻

りしたりして訳をしたりしていれば,次に入ってくる情報がとれなくなってしまう。した

がって,リスニングの場合,耳に入ってくる順に情報をとることができなければならない

わけであるから,高校生たちがすでに身につけている習慣,すなわち,英語を日本語に訳

する習慣は,リスニングのためには大きな障害となるのである。

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 しかし,他の習慣と同様に,いったん,英語を日本語に訳して意味を理解する習慣がつ いてしまっている人に,その習慣をすぐにやめさせるのは無理である。ここでは,その習 慣をやめさせるという発想ではなくて,むしろ新しい習慣,つまり,英文構造に従って,

左から右へ理解してゆく習慣を新しく身につけさせることを目指すのである。それは,古 い習慣の上に新しい習慣をつくることを意味する。この新しい習慣,すなわち,リスニン グ・スキルの獲得のための左から右へ理解してゆく習慣は,スピーキング,リーディング,

ライティングのそれぞれのスキルの訓練により,それぞれの方向から補強されることは言 うまでもないことである。これは,まさに,新しい指導要領が意図しているところである。

∬.リスニングの指導法

 本節では,リスニングの指導目標をどこにおくのかを示し,その目標を達成させるため の教材の情報量の問題および,リスニング教材を提示する場合の速度とポーズにふれる。

2.1.「認識のレベル」と「選択のレベル」

 流れてくる英語音声を,耳に入ってくる順番に理解してゆくという新しい習慣をつくる ためにどのような指導がなされなければならないのであろうか。まず,その出発点として,

1953年8月にセイロンで開催されたユネスコ(UNESCO)の国際セミナーでまとめられ た現代語教育の基本的考えかたを示す5項目の一般原則を取りあげることにする。

1.The approach to the teaching of all foreign languages should be primarily  oral.

2.Active methods of teaching should be used as much as possible.

3.The greatest possible use of the foreign language should be made in the

 classroom.

4.The difficulties of the foreign language in the matter of pronunciation,

 vocabulary and grammar should be carefully graded for presentation.

5.The teaching of a language should enable the students to develop their own  skills,rather than provide information about the form of the Ianguage.

       Dixson(1975:2)

これらの5項目の一般原則は,外国語教育において,学習者が学習している外国語を一つ

の獲得されたスキル(an acquired skil1)として運用できるように指導するための基本的

方針を示している。すなわち,外国語教育においては,まず第一に,学習する外国語は口

頭で導入されるべきであるということ,言いかえれば,その外国語の音声に馴れさせるこ

と,第二に,学習者にその外国語をできるだけ多く使う機会を与える指導法が用いられる

べきであること,第三に,教室内でその外国語を学習者に最大限に使わせるべきであるこ

と,第四に,用いられる教材は,発音,語彙,文法についてやさしいものからむづかしい

ものへと配慮して提示すべきであること,第五に,その外国語の形式についての情報を与

えるより,学習者自身にその外国語のスキルを伸ばさせる指導をすべきである,というも

のである。これらの原則は,日本の英語科教育において,特に,入門期の指導である中学

校1年・2年・3年の英語の指導,および,高等学校における「英語1」,「オーラル・コ

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ミュニケーションA」などの指導では,必ず,実践されるべきものであろう。

 しかし,現在,日本の英語科教育においては,これらの5原則に基づいた指導はまだ充 分行われていないというのが現状であろう。事実,日本の高校生たちは,英語についての 知識は学習しているけれども,学習した英語を,「一つの獲得されたスキル」として運用 することはできない。このような高校生たちのためのリスニング指導は,彼らがすでにもっ ている英語についての知識を生かしながら,左から右へ,あるいは,耳に入ってくる順番 に,英語の音声の流れの中から情報をとってゆくスキル,すなわち,リスニング・スキル を獲得させることを目指さなければならないことになる。

 次に示すリヴァースのリスニング指導についての考えかたは,このような日本の高校生 にリスニング指導を行なう場合に有益なヒントを与えてくれる。

 Listening to a foreign language may be analyzed as involving two levels of activity,both of which must be taught.The first,the recognition level involves the identification of wQrds,phrases in their structural interrelationships,of time sequences,logical and modifying terms,and of phrases which are redundant interpolations adding nothing to the (ievelopment of the line of thought. The second is the level of selection,where the listener is drawing out from the communication those elements which seem to him to contain the gist of the message.This process requires him to concentrate his attention on certain sound groupings while others are a、urally perceived without being retained.

       Rivers(1972:92)

リヴァースは,リスニングの指導を二つのレベルに分け,それぞれのレベルはきちんと指 導されるべきであると指摘している。二つのレベルとは「認識のレベル」(the recognition level)と「選択のレベル」(the selection leve1)である。「認識のレベル」

には,消えてゆく音の流れの中で,発話の構造関係を理解すること,語や語句を見分るこ と,時間的前後関係や論理的・修飾語句関係を見分けること,また,伝えられようとして いる内容にとってあまり重要でない語句を見分けることが含まれる。一方,「選択のレベ ル」には,「認識のレベル」の次の段階として,聞き取った情報の中から,当面のコミュ ニケーションにとって必要な情報に集中し,必要でないものは,音では把握していても切

り捨てるという,いわゆる,情報を選択するということが含まれる。

 本稿では,便宜上,前者,すなわち,「認識のレベル」をリスニング・スキルの訓練が 目指すレベル,そして,後者,すなわち,「選択のレベル」を聴解力 (listening comprehension skill)の訓練が目指すレベルというように区別し,以下,主として,前 者に焦点を当てて論を進めることにする。

 「認識のレベル」の指導目標についてもう少しふれることにすると,それは,英語の音 型,文法構造,きまり文句,談話のレベル,そして,構準語か方言かなどを見分けること ができることを含む。そして,リスニングの場合,発話の流れの中の要素を知っていれば いるほど,当面の目的に不用なものはすばやく切り捨てることができるようになると,

「認識のレベル」と「選択のレベル」との関係を次のようにリヴァースは述べている。

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 ・・in a listening situation the student must be so familiar with the component of a stream of speech that he can react quickly to some of them and pass rapidly over others which are redundant or irrelevant to his immediate purpose.

H:e must be able to recognize without effort sound patterns (sound discriminations affecting meaning,intonation pattems,significant levels of pich,

word groupings),grammatical sequences and tenses,modifiers and function words,clich6s,expletives or hesitation expressions which can be ignored as irrelevant to the message,levels of discourse(colloquial or formal),emotional overtones (excited,disapPointed,peremptory,cautions,angry utterances),as well as regional,social or dialectal variations.      Rivers(1972:92−93)

この「認識のレベル」の指導目標を日本の高等学校の現状に対応させてみると,高等学校 英語科で,1994年度から採用されている「オーラル・コミュニケーションB」の教科書,

たとえば,研rdZαηd:OrαZ Co1π肌醜 cα伽πB(文英堂),OrαZ Co醜醜肌εcαむ oπCourse B:瓦s伽(桐原書店)などで取りあげられている教材は,「認識のレベル」が目指して

いるものと同じ指導目標であることがわかる。単語,語句,文型,きまり文句の多くは,

中学校英語教材ですでに学習したことのあるものであるが,高校生たちは,すでに文字を とおして学習した英語を,用いられる場面を理解しながら,音声をとおして,もう一度学 習していることになる。言いかえれば,高校生たちは,「認識のレベル」の訓練に相当す る「オーラル・コミュニケーションB」の授業をとおして,単語,語句,文型∫きまり文 句などが音声で与えられたものを,日本語に訳することなく,そのまま理解できるように 訓練されることが期待できることになる。

2.2.リスニング教材の情報量

 次に,リスニング指導に用いる教材の情報量についてふれておきたい・発話に現われる いろいろな単語,語句,文型, きまり文句などが学習者にとってすでになじみのものになっ ていれば,それらがある脈絡で用いられる場合,どこで生ずるのかを予期(expectation)

できるようになる。そのような状態を,リヴァースは聞き手にとってその発話の情報量が 減少していると説明する。

…・ s these aspects of speech become familiεしr to the student his expectation of their occurence in certain contexts rises and their information content is,as a conse(luence,lessened.As the human organism is able to absorb only・a certain alnount of information at one time,this familiarity,by decreεしsing the information content,increases the number of items with which the student can cope in one utterance.      Rivers(1972:93)

すなわち,リヴァースは,ある脈絡で発される発話に現われる要素について,前もって知っ ていることが多ければ多いほど情報量は少なくなると考えるのである。そして,情報量が 少なければ少ないほど,聞き手の負担は軽くなり,発話の中で対応できる項目の数が多く

なると考えるのである。もう一度言いかえるなら,ある外国語を聞く場合,前もって知っ

ていることが多くあるということ(すなわち,familiarityがあるということ)は,聴解

力(listening comprehension)の助けとなる。すなわち,人間が1度に受け取れる情報

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量には限界があるため,発話の中にすでに知っていることがあれば,発話の中で対応でき るその他の項目の数が増すことになり,したがって,頭の中で吸収できる情報量が多くな るというのである。逆の言いかたをすれば,発話に現われる項目がほとんど知らないもの ばかりであれば,情報量が多くなりすぎて,人間の脳が吸収できる情報量は少ない。

 以上のようなリヴァースの外国語を聞く場合の「情報量」と「すでに知っていること

(familiarity)」についての説明から,リスニング・スキルを伸ばすための教材は,すで に知っている項目ができるだけ多く含まれているほうが効果的な指導ができるということ がわかる。したがって,前述の指導要領で,言語活動においては,原則として,中学校の 言語材料及び高等学校の言語材料のうちから学習目標を達成するのにふさわしいものを使

うとあるのは妥当であることがわかる。

 それでは,学習者にとってあまりにも情報量の多すぎる教材,すなわち,知らない単語 や語句,また,内容についても予備知識がなければ理解できない教材を用いなければなら ない場合,教師はどうすればよいのであろうか。用いられる教科書が決められている場合,

これは,しばしば起こりうる現実的な問題であろう。そのような場合,理論的には情報量 を減少させればよいことになる。その方法は,いろいろあるけれど,たとえば,学習者が 知らない単語や語句について,前もってやさしい英語で言いかえたり(paraphrase)して その意味を教えておいたり,また,内容についても,前もってやさしい英語で説明したり することによって,すでに知っている状態,すなわち,情報量の少ない状態を人工的に作 ればよい。これは,これから聞くことについて,空中で次々に消えてゆく音の流れの中か ら,必要な情報を選んで取ってゆく作業を学習者が自分で行うことができるようになるた めの必要な準備である。

 次に示すリヴァースからの引用は,リスニングの指導において,すでに知っている語や 語句が使われている教材を聞く場合と,知らない語や語句が含まれている教材を聞く場合

の学習者の負担について述べたものである。

 Even in the very early stages familiar material can be understood when spoken at normal speed.It is obvious that difficulties will asise when unfamiliar material is included,thus increasing rapidly the amount of information to be assimilated.At more advanced stages,when unfamiliar words and phrases are intentionally included in comprehension exercises,they should be embedde(1in so much easily recognized material of low information content that the student is able to concentrate on com』paring the new elements with the surrounding context and deducing their meaning in this way.These new elements are also more easily assimilated a、t this stage becanse their characteristic acoustic and structural patteming is recognized by the trained ear of the student, Rivers(1972:96)

ここで示されているリヴァースの考えかたの背後には,「入門期の指導は口頭(oral)でな

されていることが前提であるということ」があることを見逃がしてはならない。「まさに

初期の段階においても,すでにおなじみの教材なら,ふつうの速度で話されても理解され

うる。」ということができるのは,一つ一つの語,語句,そして,文型が,口頭で何度も

聞かされ,なじみの音となっていることが前提である。また,上級レベルでの練習では,

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意図的に,新しい語や語句を教材に含めたりするけれども,その場合,その新しい語や語 句を脈絡の中での前後関係からその意味をとれるように,情報量の少ない,わかりやすい 脈絡の中にそれらの新しい要素は入れられるべきであるということ,そして,この段階で は,それらの新しい要素は比較的容易に吸収されると述べている。その理由として,学習 者の訓練された耳には,それらの新しい要素の音響的・構造的に意味のあるパタンは認識 されるからであると述べていることから,前述のように,英語学習の最初の段階から,口 頭で語,語句,文型がすべて導入されるという指導法で学習が進められていれば,上級レ ベルになればこのようになるということを示していることになる。残念ながら,日本の英 語科教育では,これまでのところ,このような方向で英語が教えられてきていないため,

これはわからないというのが多くの人の本音であろう。近い将来,このようなリスニング の指導が日本の英語科教育でも実現することを期待したい。

2.3.リスニング教材を提示する場合の速度とポーズ

 ここでは,実際にリスニングの練習をさせる場合の発話の速度(speed〉とポーズ

(pause)についてふれることにしたい。リヴァースは,聴解力訓練のための発話は,最 初から普通の速度で伝えられるべきであると次のように述べている。

 All utterances for listening comprehension should be delivered at normal speed from the earlist lessons.Normal speed does not mean rapid native speech,but a speed of delivery which would not appear to a native speaker to be unduly la−

bored−a speed which retains normal word groupings,elisions,consonant assimilations,natural rhythm and intonation。Utterances which are delivered at an unnaturally slow pace are inevitably distorted and the acoustic images stored by the student will not be immediately useful when he hears a na加ral form of speech.       Rivers(1972:96)

ともすれば,最初であるからということで,必要以上にゆっくり発話をし,普通の音型で はなく,むしろゆがんだ音型をモデルとして示していることがあるかもしれない。リヴァー スは,普通の速度,すなわち,母国語話者にとって,速くも遅くもなく,自然に感じられ る速度で示されるモデルに最初からなじませるほうが,実際にその発話が使われている場 面ですぐに役に立つど指摘している。

 ついでながら,日本の高校生のリスニング指導の一つの方法として,普通の速度でモデ ルを示し,学習者に口頭でそのモデルを練習させ,言えるようになったら,その発話を文 字で示し,単語や文型などを確認させるという方法がある。このようにすれば,普通の速 度の発話では,聞こえなくなる音があることも学習できる。さらにこの場合に,口頭で言 えるようになった発話を書いて確認することができ,綴字,構文なども確認できることに なる。これは「ディクティション」につながる仕事をしていることにもなる。言いかえれ ば,能動的(active)にリスニングの練習をしていることになる。E S L(English as a Second Language)関係の論文では,「ディクテイション」は,普通の速度で読むべきで

あり,読まれる教材は,すでに学習した教科書の中の1部を利用すべきではないと指摘す

る。ディクティションでは,普通の速度で読まれた発話を聞いて,聞き手の側で聞きとれ

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ない音も補なって,正しい発話文が書ければ,その発話文の背後にある文法規則が内在化 されていると考えられるからである。

 リスニング教材を学習者に提示する場合に,ポーズの用いかたが重要な役割をすること を指摘しておかなければならない。長い発話の中から必要な情報をとることは,聞き手に は負担の重い仕事である。そのような場合,教師はどのような工夫をすればよいのであろ うか。リヴァースは,簡単で,役に立つ方法を提案している。つまり,ポーズを入れると いうことである。長い発話が,「普通の速度」(normal speed)で話されたとしても,そ の途中にポーズを入れることで,聞き手はそれまでに聞いた発話の内容をまとめたりする ことができ,記憶の負担が軽くなるというのである。

 The length of the segment,emitted in each breath group and the length of the pauses between the segments are of more important than the actual speed of delivery within the segments.The amount of information in a segment increases rapidly with the length of the segment,a greater number of words allowing for a greater number of altematives.The longer the segment the grea.ter is the strain on the auditory memory.During the pauses between segments,the organism rehearses what it has heard,thus strengthening the memory trace.

       Rivers(1972:96)

さらに,リヴァースは,自然な発話においては,ポーズはいろいろな形で提供されている と次のように指摘する。

 一Such pauses are supPlie(l in natural speech by hesitations,a certain amount of hemming and hawing,some re−stating,and by certain conventional expressions containing nothing to the meaning of the utterance but ha、ving a high frequency of occurence which reflects their usefulness in extending the pauses in a normal utterance.      Rivers(1972:97)

すなわち,自然な発話では,「あ一」とか「え一」とか,また,言い直したりすることで,

ポーズが自然に提供されているということ,そしてまた,発話の内容に特に情報を加える ことのないきまりきった表現(conventional expressions)もポーズと同じ役目をすると いうことを指摘している。ここで指摘されていることは,リスニングの教材提示にいくつ かのヒントを与えてくれる。すなわち,教師は,きちんと録音されたテープを用いること に安住しないで,教師が教材を自分で読んで聞かせるほうが,特に,リスニングに馴れな い日本の高校生には負担が軽くなるということができる。それは,教師が,学習者の様子 を見ながら,ポーズを置いたり,言いかえたり,繰り返えしたり,自由に工夫できるから である。

皿.ま と め

 以上,1では,リスニング・スキルの獲得について,そして,Hでは,リスニングの指

導について検討を加えてきた。最後に,学習者にリスニング・スキルを獲得させるための

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教師の役割についてふれておきたい。すでに明らかなように,スキルを獲得するというこ とは,何度も繰り返えし練習をして実現する。リスニング・スキルの獲得も,偶然に獲得 されるということは期待できない。それは,学習者のレベルに合わせて,体系的にやさし いものからむづかしいものへと順序だてて,繰り返えし訓練されて獲得される。学習者に 適する教材が見つからなければ,手に入る教材を,自分の学習者に適する教材に,教師が

自分で作り直して提供すべきであるとリヴァースは指摘する。

 ・・lf suitable materials are not available,the teacher will choose,adapt and re−

fashion those which are obtainable,or prepare his own,with these basic requirement in mind.      Rivers(1972:93〉

 学習者にスキルを獲得させることを目指す英語科教育は,当然のことながら,学習者中 心の授業でなければならない。そして,その場合の教師の仕事は,学習者が積極的に授業 に参加し,みずからスキルを獲得できるように手助けをすることである。さらに言いかえ れば,スキルを獲得させることを目指す英語科教育においては,教師は,これまでの英語 について何でも知っている権威のある人からスキルを獲得させるために手助けをする人

(a teacher as a facilitator)にみずからの意識を切り換えなければならない。つまり,

これからの英語科教員は,英語についての知識を与える役割だけでなく,スキルを身につ けさせる手助けをする役割に対応できなければならなくなっている。そして,それは,英 語運用力のある英語科教員であることを要求するものである。

注1)1994年度から実施されている高等学校指導要領(外国語)では,外国語教育の指導   目標として,「外国語を理解し,外国語で表現する能力を養い,外国語で積極的にコ   ミュニケーションを図ろうとする態度を育てるとともに,言語や文化に対する関心を   高め,国際理解を深める。」とあり,「英語1」,「英語1」,「オーラル・コミュニケー   ションA」,「オーラル・コミュニケーションB」,「オーラル・コミュニケーションC」,

  「リーディング」,そして「ライティング」の7科目が用意されている。これら7科目   の指導計画として,「英語H」,「リニディング」,「ライティング」は「英語1」を履   習した後に履習させること,そして,「オーラル・コミュニケーションA」,「オーラ   ル・コミュニケーションB」,「オーラル・コミュニケーションC」については,少な   くとも1科目を履習させるように留意すること,となっている。

   さらにそれぞれの科目の指導目標について述べると,「英語1」,「英語H」,の目標   は, 「話し手や書き手の意向などを理解し,自分の考えなどを英語で表現する基礎的   な能力を養うとともに,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育てる。」

  とある。「オーラル・コミュニケーションA」の目標は,「身近な日常生活の場面で

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相手の意向などを聞き取り,自分の考えなどを英語で話す能力を養うとともに,積極 的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育てる。」とあり,「オーラル・コミュ ニケーションB」の目標は, 「話し手の意向などを聞き取る能力を養うとともに,積 極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育てる。」,そして「オーラル・コミュ ニケーションC」の目標は,「自分の考えなどを整理して発表したり,話し合う能力 を養うとともに,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育てる。」とあ る。さらに,「リーディング」の目標は「書き手の意図などを読み取る能力を一層伸 ばすとともに,英語を理解しようとする積極的な態度を育てる。」とあり,そして,

最後に,「ライティング」の目標は,自分の考えなどを的確に書く能力を一層伸ばす とともに,英語を表現しようとする積極的な態度を育てる。」となっている。

参考文献

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* 本稿は,1994年10月2日に長崎純心大学で開催された日本コミュニケーション学会九州支部第1 回大会におけるパネルディスカッション,「オーラル・コミュニケーションA・B・Cはいかに教  えるか」を背景にしてまとめられたものである。筆者は,このパネルディスカッションのコーディ  ネイターとして,また,司会者として,その目標と構成を考える過程および当日のパネルディスカッ  ションを通して,多くの知見を得ることができた。パネラー役を快く引き受けていただいた,独協 大学の石井敏教授(元日本コミュニケーション学会会長),明治大学のジェイムス・バワーズ教授  (元日本コミュニケーション学会会長),長崎県立長崎西高等学校の田崎一哉教諭,そして,長崎県

立長崎南高等学校のケリー・ポンド英語指導助手に心からお礼を申しあげたい。

参照

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