顔刺激に対する視覚的注意の予備的検討
一視覚認知の生涯発達モデルの構築をめざして一
坂田陽子※ ・亀井 宗※2・熊田孝恒※3
研究の全体構想は,様々な視覚認知能力にっいて,人の新生児期から高齢期までの一生涯に渡る 変化をとらえ,一般性のあるモデルを構築することである。その一連の流れの中で本稿では,様々 な視覚認知能力の中でも顔への視覚的注意が一生涯でどのように変化するか,という点についての 予備実験を紹介する。具体的には,成人を対象に,眼球運動や反応時間などを測定することにより,
顔刺激とそれ以外の刺激への注意の向け方の相違点を検討した上で,乳幼児や高齢者への汎用性を 考察する。
最近の10年で 顔 に関する研究は,取り扱うテーマや手法,理論やモデルに至るまで,急速 に発展している。発達的観点からの研究では,古くは,生まれて数時間しかたたない乳児でも顔へ の視覚的選好を示すことを明らかにしたFantz(1963,など)の研究はあまりにも有名であるが,
現在でもこの結果を支持する研究は後を絶たず,さらに進んで,顔への視覚的選好を産出させる決 定要因の検討がなされている(Esterbrook, Kisilevsky, Hains,&Muir,1999;Goren, Sarty,&
Wu,1975;Johnson&Morton,1991;Simion, Velwnza, Macchi, Turati&Umilta,2002;Turati,
Simion, Milani,&Umilta,2002)。さらに成人や視消衰(visual extinction)の患者を対象とし た研究においても,顔刺激は他の刺激よりも注意をひきやすいことが実証されっっある(Ro,
Russell,&Lavie,2001;Vuilleumier,2000)。
しかしながら,この顔への視覚的選好や注意の発達的観点からの研究では,乳児期初期のみを対 象とした研究が多く,乳児期初期のあと,すなわち幼児期や成人期や高齢期までの連続的観点から 検討した研究はみあたらない。特に顔への視覚的選好や注意が加齢によってどのように変化するか,
また処理過程やメカニズムのどの要素が発達もしくは崩壊・衰退し,どの要素は残存するかなどは ほとんど明らかにされていない。
ところで,先に述べたように本研究の全体構想は視覚認知の生涯発達における一般的なモデルの 構築であるが,すでに筆者らは,視覚的パタン認知の生涯発達的モデルを構築している(坂田・ロ
ノ町・中島,2003他;Sakata,2005)。そこで使用された主な課題は,次のようであった。
健康で視覚異常のない幼児(3歳児,4歳児,5歳児群各20名),大学生(20名)及び高齢者
(前期高齢者,後期高齢者群各20名)に,視覚的パタン認知能力を測定するたあに,2っの幾何学 図形間において共通の特徴を抽出し答えさせるという「共通特徴抽出課題」を課した。幾何学図形
※1 コミュニケーション心理学科
※2 愛知学院大学文学研究科博士課程前期心理学専攻
※3 産業技術総合研究所 人間福祉医工学研究部門認知行動システム研究グループ
愛知淑徳大学論集 一コミュニケーション学部篇一 第6号
は3属性(形,模様,色)からなっていた。形,模様,色はそれぞれ8種類ずっあり,各図形ごと に,形,模様,色の組み合わせが変えられた。実験参加者は,15インチの液晶モニターの前に座り,
「提示される2っの幾何学図形間は必ず何かが共通かもしくは似ているのでそれを見つけて答えて ください」との教示を受けた。そして,2つの図形のセットが継時的に24試行提示された。1セッ トにっき,必ずひとっの共通特徴(形か模様か色)が含まれた。1セットごとの刺激提示時間は実 験参加者が答えるまでとして,統制されなかった。全ての試行終了後,実験参加者に対して,上記 の課題で使用された形か模様か色8種ずっを同時にモニターに提示し,8種の形の違い,模様の違 い,および色の違いをすべて弁別できることを確認した。
幼児3群,大学生,高齢者2群の正答率をFig.1(Sakata,2005)に示した。共通特徴として形・
模様・色を利用する発達的傾 向は,それぞれ異なることが わかった。特に,低年齢児や 後期高齢者は,模様や色特徴 は知覚・弁別レベルは可能で あるが,共通特徴として抽出 しにくいという現象が著明で あった。また,視覚的パタン 認知の生涯発達モデルは単純 な逆U字曲線になるわけでは なく,「形」特徴のような発 達初期に発達した能力は高齢 期後期まで残存し,「色」特
100
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Pt 20 10
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20 70 80 Age groups
Fig. 1 Performances in the common feature abstractiom task in 6 age groups.
徴のような発達後期に発達した能力は高齢期初期に衰退することが明らかとなった。これを坂田ら は, cognitive first in,1ast out とよんだ。これは脳神経の発達と衰退を説明した理論
(Jackson,1881)を応用したものであるが,近年,顕在記憶(Gulya, Rossi−George, Hartshorn,
Vieira, Rovee−Collier, Johnson,&Chalfonte,2002)や抑制機能(Connelly&Hasher,1993)
の発達と衰退を説明するモデルとしても有効であることが報告されている。
しかし,上記のモデルが視覚的パタン認知以外の視覚認知の発達と衰退を説明するのに有効か,
またどの程度一般化できるかは明らかにされていない。そのため,筆者らが先に得たパタン認知の データに加えて,本研究では顔への視覚的選好や注意の生涯発達的データを加えることでその有効 性を拡張できるかを確かめる。その上で,視覚認知の発達と衰退を説明するための,一般的でより 強固なモデルの構築を目指す。この目的を達成するにあたって,多数の視覚研究の中でも顔刺激に 対する視覚的選好や注意を対象とする。ではなぜそれを対象としたか,およびその研究意義にっい て述べる。
近年,生後間もない乳児が顔へ選好を示すという現象が起きることにっいて,有力な仮説が出さ れている。それは,人に近い脳構造をもつ霊長類(サル)の脳において顔に応答する専用のニュー ロンが発見され(Perrett, Hietanen, Oram,&Benson,1992),またその詳細も明らかにされてき
ている。このことから,人の脳にも生得的もしくは生後間もなく同類のニューロンが働き,それに より,顔へ注意が向くと予測できる。このニューロン(もしくはそれが関与する能力)は発達初期 から有効であると考えられるので,先の cognitive first in, last out 説に当てはめると,高齢 期後期まで残存するという仮説が成り立つ。つまり顔への視覚的選好や注意の能力は,高齢期後期
まで残存している可能性がある。この仮説の解明を目指すことから,様々な視覚認知能力の中でも 当該能力を対象とした。もし予想される結果が得られれば,高齢期になると対象物への注意や眼球 運動が衰退する(Kramer, Hahn, Irwin,&Theeuwes,1999)という研究結果に一石を投じること
となり,高齢期でも刺激や対象の内容によっては,注意や眼球運動が衰退しない場合があるという ことを示せる可能性がある。もしこのような結果が示せれば,日常生活において標識などに顔図式 を取り入れることにより,高齢者のみならず幼児やひいては全世代の人にとって注意を引きやすい ものが作成できるといった応用研究にもっながり,意義深いと考えられる。
以上のような研究の全体像の中で,本稿では,成人(大学生)を対象に,顔刺激を用いて注意補 足実験を行い,顔刺激への注意の向け方を検討した。指標として,アイマークレコーダーを用いて,
眼球運動,サッケード潜時,およびターゲット同定の反応時間を測定した。注意捕捉(attentional capture)とは,意識的ではなく, っい見てしまう というような反射的な注意機能の現象のこ
とである。注意補足を起こす例として,例えば,フラッシュ,ネオンサイン,運転中の急な飛び出 しのような 突然出現した刺激(abrupt onset) に対しては反射的に注意を向けてしまうという ことがあげられる(例えば,Theeuwes, Kramer, Hahn,&Irwin,1998)。一方,先述したとおり,
脳内の 顔ニューロン が発見され,ヒトは生得的に顔のような刺激へ注意が向くということが 示唆されてきた。っまり 顔 刺激は,突然出現した刺激(abrupt onset)と同様に,反射的に注 意を向けてしまう性質を備えているのかもしれない。そこで,顔,顔以外の一般的な刺激,および 突然出現した刺激への注意機能の相違点を探るために,実験を行った。なお,本実験では顔刺激と して,単純な顔図式を,一般的な刺激としてアルファベットのCの文字を用いた。一般的刺激の選 定および実験手続きは,注意捕捉の先行研究であるKramerら(1999)の研究に倣った。
方 法
実験参加者 大学生6名(年齢範囲20−22歳,平均21.3歳,SDO.8歳)であった。いずれも健常で,
視覚にも異常がなかった。
刺激・装置 直径視角3.7度の円刺激で,円内の文字の大きさは視角0.4度×0.2度であり,固視点は 視角0.3度×0。3度で画面の中心に配置された。個々の円は,半径視角12.6度の大円上に,時計の,1 時,3時,5時,7時,9時,11時の位置に配置された。刺激は21インチモニタにより提示された。
反応時間はキー押しにより測定された。Visual Basic 6.0により刺激提示は制御された。眼球運動 測定のため,非接触型アイマークレコーダーnac製EMR−8b,および顔面固定器が使用された。
要因計画:刺激提示条件2(突然の刺激出現あり,なし条件)×ターゲット条件2(絵条件(顔刺 激),文字条件(c刺激))であった。どちらも被験者内要因であった。
課題および手続き(Fig.2)実験参加者は,まず「*」を固視し,次の画面に変化したら,どれか 1つ色が異なる刺激があるのでそこへ目を動かすよう教示された。また,それが絵なら「Z」キー
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を,文字なら「M」キーをなるべく速く 押すよう教示された。キーの種類はカウ ンターバランスがとられた。試行数は,
1ブ・・クは突然出現あり課題は32試行 O;;‡あ隻琴㌶《‡;
(顔16,文字16),突然出現なし課題は32 0 試行(顔16.文字16)の合計64試行であ O
り,・・ダム順序により継時的に提示さ 8°+°。◎か○
れ・これが4ブロック行われた。突然の 00
「単一の色の円の中が 出現刺激は,ターゲットに対して90度と 文字か絵かを判断して キーを押せ」150度の位置に出現した。突然の出現刺 Fig.2 予備実験における謀題例 激はいっも妨害刺激として出現し,ター
ゲットになることはなかった。また,教示の際に「顔」ということばを使用しなかった。「顔」出 現に対する構えを防止するためであった。
結 果
Fig.3は突然の刺激出現あり条件のときの, Fig.4は突然の刺激出現なし条件のときの,眼球運 動の散布図である。突然の刺激出現がある時の方がない時よりも,眼球運動の散布が大きいことが 分かる。
⇔
儀..違)
⊆凄
゜ヂ
◆︵ 糞
※)
義⁝ーパ滝
Fig.3 突然の刺激出現あり条件のときの 眼球運動の散布図
正答率
分析に先立ち,顔刺激と文字束1撒に対するキー 押しの正答率を算出した。前者は96.5%,後者
は97.4%であり,どちらもほとんど差はみられ ず,高成績であることが分かった。以下の分析
は正答した反応のみを使用した。
サッケード潜時について(Fig.5)
サッケード潜時(刺激の色が変わってから眼
⑧
⑭
④ 違
澆治.w
驚
Fig.4 突然の刺激出現なし条件のときの 眼球運動の散布図
(ms)
350 300 250
潜200 時150 100
50
0
園顔 圃文字
突然出現あり 突然出現なし (条件)
Fig.5 条件別の平均サッケード潜時
球が動き出すまでの時間)を,眼球運動の記録ビデオをコマ送りで再生し,時間を測定した。その 測定値を基に,要因計画に従い,2×2の分散分析をおこなったところ,有意な主効果および交互 作用ともに見られなかった(刺激提示条件;F(1,5)=3.11,n.8.,ターゲット条件;F(1,5)=
2.66,n.8.,交互作用;F(1,5)=O.01, n.8.)。
キー押し反応時間について(Fig.6)
ターゲット同定に対するキー押し反応時間に っいて,要因計画に従い,2×2の分散分析を おこなったところ,ターゲット条件の主効果が 有意傾向にあった(ターゲット条件;F(1,5)
=5.68rp<.10)。この結果から,顔刺激に対 しては,文字刺激よりも反応が速いことが分かっ た。刺激提示条件の主効果と交互作用は有意で はなかった(刺激提示条件;F(1,5)=0.00,
n.s.,交互作用;F(1,5)=2.53, n.&)。
刺激到違時間について(Fig.7)
刺激到達時間(ターゲットが出現してから視 線がターゲットへ到達するまでの時間)につい てサッケード潜時と同様の時間測定方法をとり,
測定値を算出した。そして,要因計画に従い,
2×2の分散分析を行ったところ,有意な主効 果および交互作用ともに見られなかった(刺激 提示条件;F(1,5)=0.31,n.s.,ターゲット 条件;F(1,5)=1.88,n.8.,交互作用;F(1,
5)=0.00,n.s.)o
寄り道率について(Fig.8)
ターゲットへ視線が到達するまでにターゲッ ト以外の刺激を見ることを「寄り道」とよび,
その試行の数を全試行数で割り,寄り道率を算 出した。その数値に基づき,要因計画に従い,
2×2の分散分析を行ったところ,有意な主効 果および交互作用ともに見られなかった(刺激 提示条件;F(1,5)=0.48,n.8.,ターゲット 条件;F(1,5)=1.87,n.s.,交互作用;F(1,
5)=0.96,n.8.)。参考までに,有意確率15%
⑭蜘醐伽剛珈伽鍋加働o
反応時間 ⇔郵
到
達250 時200間 150 100
50
0
囲顔 ■文字
突然出現あり 突然出現なし (条件)
Fig.6 条件別の平均反応時間
囲頗 ■文字
(%)
35 30
寄 25 り 20道
率 15
10
5 0
突然出現あり 突然出現なし (条件)
Fig.7 条件別の平均刺激到違時間
圏顔 ■文字
突然出現あり 突然出現なし (条件)
Fig.8 条件別の平均寄り道率
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水準で顔刺激の方が文字刺激よりも寄り道率が低かった。
考 察
本研究は,成人を対象に顔刺激を用いて注意補足実験を行い,顔刺激への注意の向け方を検討し た。そのため,顔,顔以外の一般的な刺激,および突然出現した刺激を用いて,それぞれの刺激へ の注意機能の相違点を探求した。指標として,アイマークレコーダーを用いて眼球運動,サッケー
ド潜時を,またターゲット同定のキー押し反応時間を測定した。
その結果,,サッケード潜時や刺激到達時間は,顔刺激と文字刺激との間に有意差はみられなかっ た。これは,情報入力時の処理に違いはみられず,顔刺激と文字刺激で同じような情報処理が行わ れる可能性を示唆する。一方,キー押し反応時間は,突然の出現の有無にかかわらず,顔刺激の方 が文字刺激に対するそれよりも速かった。これは,情報が入力された後の脳内の処理が刺激によっ て違うからかもしれない。っまり,顔刺激に対する脳内の処理と,文字刺激に対する脳内の処理が 異なる可能性を示唆する。
このように,顔刺激に対する反応は,文字刺激と比較して,情報入力のための初動は変わらない が,一旦情報が入力されると,それに対する反応は速いことが分かる。このような現象はなぜ起こ るのだろうか。ひとつの可能性として,各刺激に対する周辺視の処理の違いがあげられよう。参考 データであるが,顔刺激よりも文字刺激がターゲットのときの方が寄り道率は低かった(有意確率 15%水準)。このことは,解像度の低い周辺視の段階でも顔刺激は認識できており,すぐに同定処 理が始まるため,解像度の高い眼球内の中心窩で情報をとらえる前に処理ができ,結果として反応 時間が速くなるのではないだろうか。顔処理「専門」の脳システムがあるので,そこへ情報が入れ ば軽負荷で処理できるため解像度が悪くても処理可能であるのかもしれない。一方,文字刺激に対 しては,周辺視では処理は始まりにくく,刺激が何であるかという同定処理に時間を要するため,
反応時間が遅くなるのではないか。っまり,顔のような「専門」脳がなく,初期の処理として,そ の刺激が何であるか弁別・同定処理を行わなくてはならない。そのためには,高い解像度が求めら れ,周辺視よりも眼球内の中心窩での処理が必要である。弁別が達成できた次の段階で「文字」刺 激を認識し同定反応を行うので反応時間は遅くなる。つまり,顔刺激のときの処理と比較して,
「それが何であるか」にっいての弁別・同定処理が余分に行われ,そのため反応時間には差が見ら れるのかもしれない。このような周辺視とのかかわりは,本実験からは明らかにならないため,今 後検討する必要があろう。
突然の出現刺激の有無にっいての効果は,本研究結果からは顕著には見られなかった。しかし,
Theeuwes, Kramer, Hahn, lrwin,&Zelinsky(1999)が,成人を対象に本実験とほぼ同様の手続 きをとり,単一の色の円の中の文字を同定させるという研究結果では,突然の出現刺激あり条件で は,全試行の約35%が突然の出現刺激へ一旦視線が行って,そこで瞬時(100ms㏄以下)止まって からターゲットへ移動した,と報告している。そして,突然の出現刺激への注意は反射的であると 結論付けている。また,高齢者と若齢者を対象とした同種の実験でも,どちらの年代でも,突然の 出現刺激への注意は抑制できず,反射的であると報告されている(Kramerら,1999)。本研究と 先行研究の結果の差異は,本研究の実験参加者の年齢は,20 一 22歳,平均21.3歳であったが,
Theeuwesら(1999)の研究およびKramerら(1999)の研究の実験参加者は,範囲18−30歳であ り,成人といっても広範囲であったから生じたのかもしれない。抑制機能は,乳幼児期から発達し,
20−30歳ごろピークをむかえ,その後加齢と共に衰退するといわれる(Willams, Ponesse,
Schachar, Logan,&Tannock,1999)。このように,抑制機能は年齢の影響を強固に受ける。先行 研究の実験参加者は成人といえども年齢範囲が大きかったために,すでに抑制機能が衰退しっっあ
る実験参加者も含まれており,そのため,突然の出現刺激への注意は抑制できず,反射的であった のかもしれない。この点についても,成人でも,もっと年齢範囲を狭めて厳密に年齢を統制した上 で再度突然の出現刺激への注意と抑制の関係を検討する必要があろう。
加えて本稿は予備実験であり,今後は高齢者や乳幼児を対象として実験を行う予定であるが,そ のためには,今回の実験から次のような手続き上の問題が浮上し,克服しなくてはならないだろう。
それは,実験手続きの第2フェーズでは,刺激が出現するにもかかわらず,注視点を固視し続け,
第3フェーズになって初めて眼球運動を行うという手続きが取られている。しかし,この手続きを そのまま高齢者や乳幼児に用いても妥当なデータが得られるかは疑問の余地が残る。なぜなら,高 齢者や幼児は,先述したとおり,抑制機能が成人よりも劣っているとされる(Hasher, Stoltzfus,
Zacks,&Rypma,1991;Tipper, Borque, Anderson,&Brehaut,1989, Willamsら,1999)ので,
注視点を固視し続けることができず,出現した刺激へすぐに眼球が動いてしまう可能性は否めない からである。今回の予備実験では,成人のみを対象としたので,第2フェーズの間は刺激が出現し ようとも,そちらへ眼球が動くのを抑制し注視点を固定し続けていたたあ妥当な測定値が得られた が,高齢者や乳幼児を対象とする場合に,この方法が妥当かどうか検討する必要があろう。その上 で,顔刺激に対する視覚的注意についての生涯発達的データを収集すべきであろう。
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