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あいさつ言語行動の記述モデルと「あいさつ」教材 の分析

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(1)

奈良教育大学学術リポジトリNEAR

あいさつ言語行動の記述モデルと「あいさつ」教材 の分析

著者 沖 久雄

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 38

号 1

ページ 1‑12

発行年 1989‑11‑25

その他のタイトル A Model for Description of Greeting Behavior in Japanese and An Analysis of Teaching

Materials

URL http://hdl.handle.net/10105/1974

(2)

あいさつ言語行動の記述モデルと「あいさつ」教材の分析

沖  '/、 Mi (奈良教育大学国語学教室)

(平成元年4月28日受理)

1 はじめに

沖は先に、沖(1985) 「あいさつ言語行動分析の観点」において、あいさつ言語行動を言語学 として分析するための観点を整理し、あいさつ言語行動の記述モデルを提示した。本稿は、その 記述モデルを教材分析の原理として位置づけ、「あいさつ」を扱ったいくつかの言語教材を分析し、

そのことを通じて以下の2点について明らかにしようとするものである。

(1)言語の記述モデルが言語教材の分析の原理として有効であること。

(2)教材分析には分析の原理が必要不可欠であり、言語教材の分析の原理は言語学の体系の中に 求められねばならないこと。

2 「あいさつ」の伝達形態

コミュニケーションとしての「あいさつ」は、あいさつ言語・あいさつ行動・あいさつ言語行 動の3種の伝達形態で成立している。日常の言語生活において、しばしば話題にされる「あいさ つことば」は、 「あいさつ」を構成する成分のひとつであって、 3種ある「あいさつ」の伝達形 態のうちのひとつではない。 3種は、それぞれの伝達形態を構成する成分のありかたによって〔図

1〕のように整理することができる。

例えば、あいさつ言語の例としては、 [イ: 「拝啓」と、ロ:便隻に毛筆で書く]という「あ いさつ」があげられる。その場合の「拝啓」と言う言語形態がイ:独立的言語成分、 [便聾に毛 筆で書く]ということが、その言語形態(独立的言語成分)に不随して成立するロ:随伴的言語 成分にあたる。あいさつ行動の例としては、 [黙礼する]という「あいさつ」があげられる。言 語成分である独立的言語成分や随伴的言語成分は存在せず、ハ:非言語成分からのみ構成されて いる。あいさつ言語行動の例としては、 [イ: 「おはようございます」と、ロ:丁寧に言って、

ハ:頭を下げる]という「あいさつ」があげられる。言語成分であるイ:独立的言語成分とロ:

随伴的言語成分に加え、ハ:非言語成分の3成分から構成されていると捉えることができる。

つまり、イ:独立的言語成分とは、 「あいさつ」に使用される言語記号(あいさつことば)の ことであり、ロ:随伴的言語成分とは、声の質、用紙や筆記具の種類などのことで、イ:独立的 言語成分とで、あいさつ言語を構成する成分のことである。このロ:随伴的言語成分は、イ:独 立的言語成分の存在があって初めて成り立つ成分である。ハ:非言語成分とは、表情や身振り、

服装、態度、贈り物など、言語成分なしであいさつ行動を構成したり、言語成分とであいさつ言

語行動を構成する成分である。

(3)

沖   久 雄

構成成分 伝達形態

言 語 成 分

ハ ‥ 非言語成分

イ ‥独立言語成分 ロ ‥随伴的言語成分

あい さつ言語 + 十 ‑

[「 拝啓」 と便葺 に毛 筆 で書 く]

「 拝啓 」 [毛筆]

[便葺]

[「 こんにちは」 と丁 寧 に言 う]

「こんにちは」 【 丁寧な音調]

あ い さつ行動 ‑ ‑ +

[黙礼す る] [買 糾 し す る]

[握手す る] [握手す る]

あいさつ言語行動 + + +

汀 おはようござい ま す」 と丁寧に言 って 頭 を下げ る]

「 おは ようございます」 [丁寧な音調 ] [頭 を下げ る]

3記述モデル

3.1フレームワーク

以上のように捉えることにした「あいさつ」を、言語学として記述するモデルとして〔図2〕

に示す「あいさつ」生成のフレームワークを仮定する。詳細は、沖(1985)にゆずる。要点は以 下のとおりである。(1)

(i)A:内容部門、B:材料部門、C:統合部門、D:伝達部門の4部門を設ける。

(2)IとIのふたつの分析の観点を設ける。

I:表現内容・表現材料・実現形態・伝達形態の選択についての規則と制約に関する観点 I:選択された表現内容・表現材料・実現形態・伝達形態の構造に関する観点

(3)「あいさつ」を構成する3成分に従って、イ:独立的言語成分、ロ:随伴的言語成分、ハ:

非言語成分の3成分を分析の対象とする。

(4)あいさつの分析は、4部門(A・B・C・Dにおける、2観点I・Iからの、3成分

(イ・ロ・ハ)についての各々の分析が独立に行われることによって成立する。この状態を示 したのが〔図2〕の①〜⑲である(2)

。 3.2配述例

このフレームワークに従って「あいさつ」を分析するならば、具体的にどのような記述になり、

また「あいさつ」のどのような側面を捉えることができるのであろうか。以下、このフレームワー

クに従って(つまり(カー⑲の順に)みていくことにする。(以下①〜⑲は〔図2〕の丸数字に対

応する)

(4)

IN21

バ ー 択

⑲ 1 料

⑲ ロ   ー   遭

‑ 1  

イ   1  

⑲        

ハ     料

⑨ 1  

⑮ 柿

IUl

現 秦

・ 1  

‑ 1  

‑a

㊧ 1 態

‑ 統

⑬ 1  

蝣 n  

‑   蝣 蝣   蝣 ァ .

の           形

態㊧‑‑l ㊧‑

形         現 現

⑳   1  

‑ B :材料部門

I.表現内容と伝達形態に対応する 表現材料の選択に関する規則と 外的条件による制約に関する 観点からの分析‑・‥‑‥‑‑・一一‑‥

Ⅱ.選択された表現材料の構造に 関する観点からの分析‑ll‥‑‥

脚,;  ・蝣  TJ,

C :統合部門

I.実現形態の統合に関する規則と 内的条件による制約に関する 臥ll・:からの分析  一  一 一‑

Ⅲ.選択された実現形態の構造に

関する観点からの分析一一1‑I‑

(5)

s^^Ha 那

3.2.1内容部門について

3.2.1.1表現内容の選択規則と外的条件による制約に関する分析 (1)身内・非身内による制約(力

どこまでを身内とするかは議論の余地があるが、 「慶弔」の表現内容のうち「弔」については、

身内対身内(例えば、祖父の「弔」について親と子)では選択されないという制約がある。

3.2.1.2 選択された表現内容の構造に関する分析(「あいさつ」の意味構造の分析) (1)鈴木孝夫(1981)の分析(彰

a.人が知人に会った時に用いる「ヤア」など

b. 「おはよう」、 「こんにちは」、 「さようなら」のたぐい

C.いわゆる「ごあいさつ」のたぐい。祝詞、哀悼の辞、宴会でのスピーチなど (2)生田目弥寿1982)の分析(令

a.人に出会ったときのあいさつ   b.別れのあいさつ

C.寝る前のあいさつ        d.飲食をする前後のあいさつ

e.家を出入りする場合のあいさつ  f.自己、又は、他を紹介するときのあいさつ g.訪問したときのあいさつ

h. 「ちょっとうかがいますが」のように人にものを尋ねるときのあいさつ i. 「すみませんが」のようにものを頼むときのあいさつ

j.謝意のあいさつ      k.わびを言うあいさつ 1.相手の安否を聞くあいさつ    m.慶弔のあいさつ n. 「もしもし、ちょっと」のように呼び掛けるあいさつ (3)甲斐睦朗(1985)の分析 ②

a.人に出会ったとき C.寝る前

e.家を出入りするとき g.何か依頼するとき、その後

i.慶弔

3.2.2 伝達部門について

b.別れるとき d.食事をする前後 f.他家を訪ねたとき h.相手の安否を尋ねる 主 呼びかけ、その他

3.2.2.1表現内容に対応する伝達形態の選択規則と外的条件による制約に関する分析 (1)伝達形態の選択と制約(彰

内容部門において選択された伝達内容に対して、あいさつ言語行動・あいさつ言語・あいさつ 行動の3種の伝達形態の中からどれを選択するかについての規則が存在する。例えば、車どうし の状況で道を譲ってもらった時の「あいさつ」の表現内容「謝意」に対応する伝達形態として「ク ラクションを鳴らす」「手をあげる」「会釈する」といったあいさつ行動の伝達形態が選択される。

つまり、言語成分は伴わないのである。これは、車の中と中とでは、音声言語の伝達は困難であ るという外的条件が制約として働くためであろう。

3.2.2.2 選択された伝達形態の構造に関する分析 (1)相互性(彰⑤⑥

a・受け手あり T 受け手の返事あり 受け手の返事なし‑店員の「いらっしゃいませ」

b.受け手なし    (一人の食事における) 「いただきます・ごちそうさま」

(6)

3.2.3 材料部門について

3.2.3.1表現内容と伝達形態に対応する表現材料の選択規則と外的条件による制約に関する分 析

(1)物理的時間による制約 ⑦⑲

例えば、 「玄関前での訪問のあいさつ(表現内容)」に対応する表現材料として「おはようござ います/こんにちは/こんばんは」のいずれの表現材料を選択するかに対して物理的時間(外的 条件)の制約が働く。

(2)媒体による制約 ⑦⑲

コミニュケ‑ションの媒体の種類(直接口頭・電話・書簡など)によって、制約を受ける。例 えば、 「さようなら」という独立的言語成分は、書簡という媒体においては身内に対しても「別 れのあいさつ(表現内容)」に対応する表現材料として選択可能であるが、直接口頭・電話など では選択できない。表現内容自体は選択され得るので(実家から帰る場合など)、別の表現材料 である「では、また」とか「また、来ます」などが選択される。

(3)性(男・女)による制約(勃⑲

「感謝(表現内容)」のあいさつ言語行動には、 「お辞儀(非言語成分)」を伴わせることがで きる。その時、両手を脇に付けておくか、からだの前で重ねるようにするかの選択は、性別によっ て制約をうける。一般に、前者は男性に、後者は女性に多く見られる0

3.2.3.2 選択された表現材料の構造に関する分析 (1)語種 ⑬⑲

表現材料のうち独立的言語成分は語種の観点から、和語・漢語・外来語・混種語に分類できる。

・和語   おはよう・さようなら・いただきます・すみません・ようこそ

・漢語   無沙汰・恭賀新年・失礼

・外来言計‑グッバイ・バイバイ・サンキュー

・混種言計‑御馳走様・今日は・今晩は (2)声の質・早さ ⑩⑫

(3)用紙(葉書、便聾、封筒、 〔名入りかどうか〕) ⑭⑰

(4)筆記具(手書き、印刷、毛筆、万年筆、ボールペン、印刷の種類、字体) ⑭⑲ (5)縦書き・横書き ⑲⑰

(6)表情(無表情、視線、微笑む、泣く、顔をしかめる)⑮⑲ (7)身振り(姿勢,おじぎ、手を挙げる、うなずき)⑮⑲

(8)自己接触(口に手をあてる、手を合わせる、後頭部に手をやる、手を前で重ねる) ⑮⑲ (9)相手接触(握手、抱擁) ⑮⑲

(10)対人距離(距離、位置関係) ⑮⑲ 3.2.4 統合部門について

3.2.4.1表現材料を統合して実現形態を生成するための統合規則と内的条件による制約に関す る分析

(1)副用語との共起関係 ⑲㊧

電車の中で席を譲ってもらった場合など、 「感謝」の表現内容に対応する実現形態として「あ

りがとうございます。」と「おそれいります。」のいずれもが成立し得る。しかし、その程度を副

用語で修飾しようとした場合、「大変」は「ありがとうございます」と共起しにくい。しかし、「お

(7)

沖   久 雄

それいります」には、そのような制約がない。また、 「謝罪」の「すみませんでした」と「失礼 いたしました」も同じような関係にある。

a.誠に/?大変 b.誠に/ 大変 C.誠に/?大変 d.誠に/ 大変 e.?誠に/?大変 また、同じ「謝罪」でも

ありがとうございます。

おそれいります。

すみませんでした。

失礼いたしました。

ごめんなさい。

「ごめんなさい」は「大変」 「誠に」の両方とも共起しにくい。 「本当 に ごめんなさい。」などと表現される。このように、同じ「謝罪」という表現内容を表す表現 材料(すみませんでした・失礼いたしました・ごめんなさい)に対して副詞との共起関係という

内的条件が働き実現形態が生成される。

3.2.4.2 統合された実現形態の構造に関する分析 (1)構文 ⑮⑳

・主語的表現   こんにちは・こんばんは

・述語的表現   おはよう・ありがとう・失礼します・行っていらっしゃい

・修飾的表現   ごゆっくり・どうも・おおきに・お久しぶり・お先に・お大事に

・接続詞的表現‑さようなら・では・さらば・はじめまして

・疑問詞的表現‑御機嫌いかがですか・お借りできますか

・助動詞的表現‑ごめんなさい・いらっしゃいませ・おやすみなさいませ・お待たせしまし

t.

・感動詞的表現‑あっ、先生!

(2)テンス ⑮⑲

・夕形のみのもの‑ただいま帰りました・ようこそ、おいでくださいました

・ル形のみのもの‑お帰りなさい・ごめんなさい・おやすみなさい・おはようございます

・両形あるが、表現内容の異なるもの‑お邪魔します「訪問」 /お邪魔しました「辞去」 ・ 失礼します「訪問」 /失礼しました「謝罪」 ・行って参ります「外出」

/行って参りました「帰宅」

・同一場面で、両形が同じ表現内容を示し得るもの‑御馳走さまです(でした) ・ありがと うございます(ました) ・おめでとうございます(ました)

4 教材分析

「あいさつ」を扱った教材を、このモデルを分析の原理として分析してみると、それぞれの教 材が「あいさつ」のどのような側面に対して言及しているものであるかが明らかになる(〔図2〕

の①〜⑲で示した)。結果は〔図3〕に示すとおりである。

4.1 「心を伝える」高田敏子.'『国語‑』 (光村図書 昭55.3 検定済)

(1)駅の売店に勤めているA子さんが、こんなことを言いました。 「わたし、この仕事につくと

き、お客様には、できるだけ親切にしてあげようと決めたのですよ。でも、いざ店に立ってみる

と、 『ありがとうございます。』などとていねいに言っているひまはありません。 『はい。』と言っ

(8)

て次々に早く品物をわたし、おつりを出してあげるのが、いちばんの親切だということがわかり ました。だって、みんな大急ぎで電車に飛び乗っていくのですもの。」 (p.15) ⑲⑲

(2)朝起きて、 「おはよう。」と言う言葉。それはたいした意味もない言葉と思われますが、その あいさつがあって一日が始まります。 (p.17) ㊨

4.2 「<参考>時候のあいさつ」池田摩耶子: 『国語‑』 (光村図書 昭55.3 検定漬) (3) ′日常のあいさつ、手紙の書き出し、すべて、天気の話から始まるようです。 (p.223) ㊨ (4)私どもE]本人の日常のあいさつで、よく学生が問題にするのは、隣近所の人たちとのあいさ つです。

A いいお天気になりましたね。

B お出かけですか。

A ええ。ちょっとそこまで。

B 行っていらっしゃい。

というやりとりです。日本に住んでいる外国人で、少し日本語が話せると、きっと日本人からこ んなふうに声をかけられるようになります。

こんなアメリカ人が、 「どこへ行こうと、私の自由だ。」などと言いだすと、私は「そらきた。」

といつも思います。

「日本人はね、あなたがよそゆきの格好をしているのを見て、外出するらしいと思うでしょう。

いつもと違うと感じるわけです。そのときに、その洋服はすてきだとか、今日はおきれいだとか は言わないのですO 日本人は人とのつきあい方が慎重だから、そういうことを言うのは、考えよ うによっては、失礼になることだってあるでしょう。けれど、なんとかして、今日のあなたは特 別だ、ということを相手に伝えたいのです。どこ‑行くかを聞いているのじゃないのです。そん なことを聞くのが失礼なことは、十分知っているんです、日本人だって。だから、それを受ける ほうも、 『私のことを認めてくれてありがとう。でも、私の出かける先は私事であって、あなた には関係のないことだし、またあなたも、そこまで聞いているわけではないことを、私はよく承 知しております。けれど、だまっていては、せっかくの好意を無にすることになるでしょう。』

と考えるのです。だから、いちばん無難な答え方として、 『ちょっとそこまで。』と答えるのです。

そうすればね、相手は、出かける人に対するあいさつとして、これはほんとの気持ちで、 『行っ ていらっしゃい。』って言うんです.わかるでしょう、 E]本人の心のやりとりが。」 (p.226‑

4.3 「日本語と国際交流」宮地 裕: 『国語二』 (光村図書 昭61.3 検定済)

(5)教えることは教わることだというが、日本語を外国人に教えてみると、彼らから日本語につ いて教えられ考えさせられることがよくある。

「先生、日本人、 『さよなら』つて言いませんね。」

「え?」

「good‑byeのことですよ。人と別れるとき、 『さよなら』つて言うのでしょう。国で習いました。」

「いや、 『さよなら』って言いますよ。」

「でも、学生たち、使いませんね。」

「なんて言いますか。」

(9)

沖   久 雄

「バイバイ。」

なるほど、親しい者どうし、特に若い人たちはバイバイ」とか「バイ」とか言って、手を振っ て別れることが多い。年輩の私などでも使うことがある。幼児に向かっては当然のように言う。

一般の辞典の中には、 「バイバイbye‑bye (俗語) 〔もと、幼児語〕さようなら」と解説するもの もあるが、掲出していないものもある。日本語教育の教科書にも、普通は出ていない。いわゆる 教室日本語と生活日本語の違うところなのである(p.169‑70) ⑲⑫

4.4 「話す生活の向上を求めて」: 『国語二』 (学校図書 昭61.3 検定済)

(6)朝の「おはよう。」というあいさつ一つをとってみても、この言葉が人と人との快いつなが りをつくり出すはたらきをしていることが分かります。はつらつとした「おはよう。」という言 葉は、それだけでさわやかな人間関係をつくり出します。もし、このあいさつなしに一日が始ま

るとしたら、その日は初めから楽しくないものになるでしょう。 (p.18)⑮

4.5 「「こんにちは」の用法」水谷 修:『新編新しい国語二』 (東京書籍 昭61.3 検定済) (7)このように、 「こんにちは」という言葉をわれわれはふだん何気なく使っているが、いった

いどんな意味で使っているか、また、いったいどんな場合にこの言葉を使っているのか、という ことを考えてみよう。 (p.221) ⑦⑲

(8)例えば、もし外国人に、

用こんにちは』という言葉は、いつ使うんですか。」

という質問をされたら、どうであろうか(p.221) ⑦

(9) 「『おはよう』というのは朝のあいさつである。 『こんにちは』というのは昼間のあいさつで

!Jtm

という答えを引き出すであろう。 (p,222) ⑦

(1(》 「いったい何時ごろまでが朝なのですか、また、何時ごろからが昼なのですか。」

ということまできいてきたとすると、今度はだれもが、一様に、答えを探し出すのに悩むであろ う。(p.222) ⑦

(ll)時間ではなくて、いったいだれに対してこれらの言葉が使用されるのか、ということをもう 少し考えてみよう。 (p.223) ⑦

(12)両親に対して、 「おはよう」 「おはようございます」と、その表現の型はどちらであっても、

その言葉の使用は許される。しかし、両親に対して、例えば仕事に出ていて昼に帰宅した父親に 対して、 「こんにちは」と言うことはないのである。 (p.224) ⑦

(13)近所の人に対しては、「こんにちは」を使うことは、これは許されるようだ。しかし、それも、

だれに対してもよいというわけではないかもしれない。職場の同僚に対してはどうであろうか。

毎日、朝から夕方まで、机を並べていっしょに仕事をしている仲間との場合を思い浮かべてみよ う。何かの都合で遅れて、昼少し過ぎに出勤した場合を考えてみよう。ドアを開けて部屋に入っ たとき、われわれは「こんにちは」というあいさつをするであろうか。もちろん、だれもが「こ んにちは」を使わないというわけではない。しかし多くの場合は、 「こんにちは」と言うことに ためらいを感じるはずである。おそらく、別の言葉を探す努力をして、

「やあ、遅れてしまって。」

「今日は、急に用ができてしまったもので。」

(10)

などの言葉を、あいさつの代わりに用いることが多いであろう。もし、そこで「こんにちは」を 使うとすれば、それはある表現効果を、つまりその言葉を発する人間の他の人に対する態度を、

表してしまう可能性がある。職場のその部屋の中に、「こんにちは」と言って入ってくる人たちは、

最も典型的な場合は、出前のそば屋さんであるとか、あるいは出入りの商人たちなのではないだ ろうか(p.225‑6) ⑦

(14) 「こんにちは」という言葉、 「おはよう」という言葉、あるいは「こんばんは」「おやすみな さい」といった言葉など、それらを使えない日本人はだれもいない。その言葉の意味を知らない と思っている人もまた、いないであろう。しかし、改めて、いったいいつ使うのか、どんな人に 対して使えるのか、といった観点から見つめ直してみると、自分たちが意外に無反省に言葉に依 存して生活をしていることに気がつくのである(p.227) ⑦

4.6 「沈黙の世界」加藤秀俊: 『新版中学国語2』 (教育出版 昭52.4 検定漬)

(15)わたしは、日本文化の改造などというだいそれたことに気焔をあげたくはない。しかし、満 員電車から降りる時には、 「すみません、降りますよ。」というひと言を、また、何かのサービス

を受けたときには、 「ありがとう。」というひと言を口にするという簡単な習慣が、一人でも多く の日本人の中に定着してほしいと思う。 (p.216‑7) ⑦

4.7 「「オアシス運動」を推進しよう」友田 誠:『新版中学国語2』 (教育出版 昭52.4 検定 済)

(16)朝、初めて顔を合わせたときの「おはよう。」のひと言が、そのEl一日のぼくたちの心をど んなにさわやかにしてくれることだろう(p.231) ⑮

(17)まず、ぼくたちの足もとからこの運動を推し進め、やがてそれが池の波紋のように、社会の すみずみにまで広がっていくとしたら、すばらしいことではないか。 (p.232)

4.8 「どうも」林屋辰三郎・梅樺忠夫・多田道太郎・加藤秀俊: 『現代の国語2 新版』 (三省 堂 昭52.4 検定済)

(18)日本に来た外人に、これを知っているとたいへん便利だからぜひ覚えておくといいという日 本語を一つだけ教えてほしい、などといわれたら、皆さんはどうするか。

「こんにちは」ではない。「さよなら」でもない。「ありがとう」でも「すみません」でもない。「ど うも、どうも」‑これである。

「どうも」 ‑このことばさえ知っておれば、先にあげた四つのことばも、すべてこれで代用が きく。友人に道で会ったら「やあ、どうも。」といえばいいし、別れるときは「それでは、どうも。」

といっておけばよろしい。応用範囲は、きわめて広い。婚礼のとき、あるいは葬儀の場合には、

堅苦しいあいさつを長々と述べる必要はなくて、 「本日はどうも。」といって頭を下げるだけで意 味が通じる。日常の社交用語として、これほど便利重宝なものはない。

「それでは、いったい、どうもとはどういう意味内容を持ったことばなのですか。」

外人に改めてそう尋ねられた日本人が、

「さあ、それはどうも‑‑。」

といって頭をかいた。これは笑い話。 ‑ (p.87‑」 ⑲⑲⑲

(19)大体、東方の君子国である日本には、あいさつことば一つにも、めんどうなしきたりやきま

(11)

10

沖   久 雄

りのようなものがある。 「このたびはふしぎな御縁で。」といえば婚礼のときの、 「だんだんとお さみしゅうございますO」と言えば初七日のときの、それぞれ慣用あいさつことばである。これ らをいちいち覚えて使いこなすのはたいへんだ。それに、こうした慣用句はいわば紋切り型になっ て、しらじらしい感じを相手に与えることにもなる. 「どうも」‑この一語のほうにどれほど 情感がこもることか。 (p.90) ⑮

5 ま と め

分析の結果は、 〔図3〕にまとめたとおりである。今回取り上げた教材はわずか7教材と少な いが、「あいさつ」の様々な側面のうち教材として取り上げられているのは⑦⑲⑲⑲⑮の側面で、

極端な偏りのあることが明らかになった。 「あいさつ」教材の望ましい姿は、やはり「あいさつ」

の様々な側面を捉えそれに言及していることにあろう。その意味では、今回取り上げた7教材は 充分なものとは言えない。また、 「あいさつ」教材のもつ意義は、 (15Xl別こみられるようなE]々の 生活において正しく「あいさつ」を実践させることにあることは確かであろう。しかし、それだ

けであれば道徳としての教材に終始してしまうのである。道徳としての教材意義を否宜しはしな いが、ことばとしての「あいさつ」のしくみについて理解を深めるための教材であってもよいの ではなかろうか。両者は決して対立する関係にあるものではなかろう0 「あいさつ」のしくみに ついての深い理解は、道徳的な意味においての「あいさつ」の実践をきっと援護するものであろ

つ。

〔[2]3〕

対 象 あ い さ つ 言 語 あ い さ つ 行 動 あ い さつ 言 語行 動

部 門 観 一 類 イ ロ ノ、 イ ロ ノ、

a : 内 容 部 門

観 点 I ① 観 点 n ② D ‥

伝達 部 門

観 点 I ョ

観 点 IT ¥‑r ゥ 蝣 (".'

B ‥ 材 料 部 門

観 点 I ゥ (7 ) (15) ョ .!!蝣 ㊨ (1 )(4 )<5 )(18) ⑭ ゥ (1) (5 ) (18)

観 点 lI ⑲ (7 ) ⑲ ㊨ ゥ (18) .r ⑲

C : 統 合 部 門

観 点 I ⑲ ㊨ ㊨ ㊨ ㊨ ㊨

観 点 n ㊨ (2 ) (3 ) (6 ) 16 (19)

C‑V ㊨ ㊨ ⑳ ㊨

注 目

D

伝達部門の位置については、沖(1985)を修正した。

以上の記述モデルによって、ひとつの共時的分析が成井するO二つ以上の共時的分析を比較すること

によって、適時的分析・方言学的分析・対照言語学的分析が成立する。また、社会言語学的分析(男女

差・年齢差・職業差等)は、観点Iにより成立する.

(12)

m x m

1.国立国語研究所報告18 (1960) 『話しことばの文型(汁‑対話資料による研究‑』秀英出版 2.国立国語研究所報告23 (1963) 『話しことばの文型(2トー独話資料による研究‑』秀英出版

3.鈴木孝夫(1968) 「あいさつ論‑あいさつの言語社会学的考察」 (『言語生活』 196, 『ことばと社会』中 央公論に再収)

4.南不二男(1974) 「言語行動研究の問題点」 (南不二男編<講座言語3> 『言語と行動』大修館) 5. J.V.ネウストプニー(1976) 「社会言語学入門」 (『言語』 5‑4)

6.南不二男・林大・林四郎・芳賀綴(1979) 「敬語の体系」 (林四郎・南不二男編<敬語講座1> 『敬語の 体系』明治書院)

7.比嘉正範(1981) 「あいさつの言語学」 (『言語』 10‑4)

8.鈴木孝夫(1981) 「『あいさつ』とは何か」 (文化庁<「ことば」シリーズ14> 『あいさつと言葉』大蔵省 印刷I.,}1

9.生田目弥寿(1982) 「あいさつ表現」 (日本語教育学会編『日本語教育事典』大修館)

10.甲斐睦朗(1985) 「現代日本語のあいさつ言葉について」 (『国語国文学報(愛知教育大学)』 42)

ll.沖 久雄(1985) 「あいさつ言語行動分析の観点」 (『日本語学』 4‑8)

(13)

L'

A Model for Description of Greeting Behavior in Japanese and An Analysis of Teaching Materials

Hisao OKI

(Department of Japanese Linguistics, Nara University of Education, Naγa 630, Japan )

(Received April 28, 1989)

OKI (1985) argued "viewpoints for an analysis of greeting behavior in Japanese'and gave "a model for description of greeting behavior". This model aimed at description of greeting behavior from linguistic viewpoints.

In this paper, I researclled some teaching materials and revealed the relation between this model and the method for the analysis of teaching materials.

The main topics are as follows:

(1) Three types ofgreetingbehavior (See Table 1).

(2) Four components for description of greeting behavior (See Table 2).

(3) 1、he linguistic model is useful for the analysis of teaching materials.

参照

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