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論文の内容の要旨
1 申 請 者
防衛医科大学校 野村 信介
2 論文題目
担癌モデルマウスを用いた温度制御型光温熱治療の開発とその治療効果の検証 3 論文の内容の要旨
(1)目的
癌に対する最古の治療法として温熱療法が知られているが、近年、新しい温熱 療法として、近赤外光と光吸収剤を用いた光温熱治療の研究が進められている。
光吸収剤を癌組織に集積させた状態で近赤外光を照射することで、近赤外光その ものの組織加熱に加えて、光エネルギーを高い変換効率で熱エネルギーに変換で きる光吸収剤による加熱も重奏され、癌組織を高効率で加熱することができる。
一般に癌細胞を43℃以上に加熱すると細胞死が誘導されることが知られてお り、この知見に基づき温熱療法では、測温装置を用いて腫瘍を一定の温度以上で 加温する。一方、光温熱治療では、照射強度と照射時間で規定される照射条件を 施術前に設定したまま照射するため、従来の温熱療法の治療方法とは異なる。光 温熱治療においても腫瘍温度は治療効果に寄与する重要な因子と予想されるが、
これまで腫瘍温度が治療効果に与える影響についての検討は少なく、その有効性 も明らかではない。
そこで本研究では、光温熱治療における抗腫瘍効果を向上させる要件を明らか にする目的でいくつかの検討を行った。
(2)対象並びに方法
研究1)施術前に設定した照射条件(照射強度、照射時間)で治療することの 妥当性をあらためて検証した。
マウス由来の大腸癌細胞株をBalb/cマウスの右背部に皮内注射し皮内腫瘍モ デルマウスを作製した。近赤外光照射48時間前に光吸収剤としてインドシアニ ングリーン(Indocyanine green:ICG)ラクトソーム(高分子ミセル構造を有し、
高効率に腫瘍に集積する)を経静脈投与したのち、腫瘍に対して近赤外光照射を 行った。光照射中は非接触型温度計で腫瘍温度を計測した。照射後21日目の治 療転帰と照射条件との相関について解析した。
また、同条件下において、腫瘍と正常部位それぞれへの光照射による温度上昇に ついても比較検討した。
研究2)光温熱治療においても、腫瘍を一定の温度以上で加温することが抗腫 瘍効果の決定因子であることの証明を試みた。
はじめに、腫瘍温度を目標到達温度に加温するための機構を有した温度制御型 近赤外光照射(Temperature-controlled near-infrared:TC-NIR)システムを開発
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し、2系統の正常マウスの皮膚に対して光照射を行い、温度制御能を評価した。
次いで、皮内腫瘍モデルマウスにICGラクトソームを投与して、TC-NIRシ ステムを用いて照射し(目標到達温度の設定値:40、41、42、43℃)、その治療 効果を検討した。
(3)成績
研究1)治療転帰と照射条件との間に有意な相関はみられなかった。一方、得 られたデータを、光照射中の腫瘍温度の観点から再解析したところ、最高到達温 度が43℃以上に到達した時には、ほぼ全例で腫瘍が消失していることが判明した。
同条件下における、腫瘍と正常部位それぞれへの光照射による温度上昇に関す る検討では、腫瘍温度は正常部位での温度よりも有意な温度上昇が認められた。
研究2)TC-NIRシステム照射によって2系統のマウスの正常皮膚を一定の温
度範囲内(±0.15℃)に加温できた。一方、TC-NIRシステムを用いずに一定の 照射強度(6 W/cm2)で光照射した場合、照射領域の皮膚温度は照射中に1.5℃以 上漸増した。すなわち、TC-NIRシステム照射により温度変動は1/10に抑えるこ とができた。
皮内腫瘍モデルマウスにTC-NIRシステム照射した場合も、腫瘍を一定の温度 に加温することができた。そして、腫瘍温度を43℃に設定することで腫瘍の消失 を誘導できた。
(4)考察
本研究より、光照射中に腫瘍温度を43℃以上に加温すると腫瘍の消失を誘導で きることがわかった。そして、本知見を基に、TC-NIRシステムを開発し、同シ ステムを皮内腫瘍モデルマウスに適用して治療効果を検証したところ、光照射中 の腫瘍温度の制御が治療効果の向上に重要であることが示された。
過去の温熱療法の研究において、43℃を超えると培養癌細胞の割合が急激に減 少するという報告がある。本研究においても同システムを用いて43℃以上に加温 照射することで確実な腫瘍の消失に導くことができ、光温熱治療における温度制 御の重要性が示唆された。
(5)結論
本研究より光温熱治療においても腫瘍温度を一定温度(43℃)以上に加温でき るよう光照射することが重要であることが示された。今回開発したTC-NIRシス テムを用いた光温熱治療は、安全で確実性の高い癌治療を実現し、患者に負担の 少ない新たな治療戦略を展開できるものと考えている。