法 律 エ キ スパ ー トシス テ ム の た め の
知識表現 に関す る考察
杉 本 英
目 次
1. は じめに
法律エキスパー トシステム 知識表現と推論機構
従来の研究
2.
拡張格構造 システム日本語理解の研究と意味構造 構文
意味構造
3.
民法8 8 7
条の格構造表現8 8 7
条の特徴と知識表現8 8 7
条第1
項 (子の相続)8 8 7
条第2
項 (代襲相続)8 8 7
条第3
項 (再代襲者 の相続)4.
その他の議論1
. は じめに法律エキスパー トシステム
吉野
[ Yo 2
]によれば,法律 エキスパ ー トシステムとは,
「法律家 の専門的知 識 を組込 んでいて,法律家の行 う判断や問題作業 を代行, あるいは補助す ることので きる コ ンピュー タ上 の システ ムであ る」 と定義 し, さ らにその 目的 を
「その論理構造 が体系的 に分析 された法規範文 を搭載 し,法的推論 の メカニズ ムを実際 そ うあ るよ うに コ ンピュー タ上 に実現 して, システム利用者 のニーズ に適合 した法的論理的証明を行 うこと」 と している。
この毒義 と目的か ら,、法律 エキスパ ‑ トシステムは次 の
2
つの要素 で構成 さ〔
1 〕
2 商 学 討 究 第
4 0
巻 第4
号れている。
(1) システムは,法律家の専門的な知識 を,論理構造が体系的に分析 された法 規範文 として含んでいる。
( 2 )
システムは,法律の専門家が実際行 うよ うに法的推論 のメカニズムをコン ピュータ上 に実現 している。知識表現 と推論機構
人工知能 の分野で は, ある専門家の知識 を コンピュータが推論 ・変形 に利用 で きる形式 で, コンピュータ上 に記号化 して表現す ることを知識表現 という。
この知識表現 を推論 ・変形で きるためには,知識表現 と両立 した推論 ・変形 の 計算手続が存在 している必要がある。人工知能 の分野ではそのよ うな表現形式 と して提案 された ものに, 論理構造, ルール ・ベース構造, セマ ンテ ック ・ ネ ッ ト構造, フレーム構造, オブジェク ト指向などがある。 それぞれの構造 に は各 々の表現や推論 に特徴があるので,表現 の対象 としている専門的知識の特 性 に適合 した表現構造 を選択す ることが重要 である。 どのよ うな構造 を採用す るにせよ, その構造 の推論 ・変形 の方式 に適 した形 に専門的知識 が整理体系化 されなければ, エキスパ ー トシステムの利用者が期待す る結果 を得 ることがで きない。
上記 の法律 に関す る専門的知識 で考 え ると,(1)法令文やそれ らに関す る知識 が コンピュー タ上 に知識 と して記号表現 され
,( 2 )
法律家 の法の解釈や適用など の法的推論が推論機構 と して コンピュータに実現 され,記号化 された知識表現 を操作す る。従 って,人工知能 の分野で提案 された知識表現の方法の中か ら, 法律上 の知識 を適切 に表現で きるものを選択すれば,法律 エキスパー トシステムが完成す るように見えるが, それは簡単 にはいかない。
従来の研究
これまでの多 くの研究 は,知識表現 と推論方法を
1
階述語論理 に基礎 を置 い て進 め られて来ている。水谷 [Mi]はゲーデルの集合論言語を使 って特許法を法律エキスパートシステ.ムのための知識表現に関する考察
3
記述 し,法的推論を論理学の証明公式を用いて実現 し, この分野の草分けを果 た した。 杉本
[ Su]
,池田[ I k]
などはPr ol og
言語を用いて法令文や条文をPr ol og
のプ ログラムとして表現 し,法的推論 はPr ol og
の証明手続 を利用 し た。吉野[ Yo
l]は契約法を法的要件 と法的効果か ら整理体系化 しそれ らの関 係をPr ol og
言語の関数表現を用いて表 し,法的推論 はPr ol og
の証明手続を利 用 した。杉本,池田の方法 との主な違 いは,関数の組合せで法的な概念構成を 表 したので, より複雑 な法的関係が表現で きるようになった点である。新 田 [Ni] らは, 手続 き法の表現のために時間の関係表現 と法的事象の関係表現を 重視 し,区間論理 とオブジェク ト指向をPr ol og
言語 に導入 した。さらにmay
, mustなどの法的様相表現 も可能 に して工業所有権法を記述 した。法的推論は, オブジェク トとして表 された出願,公告,審査などの手続間のメッセージ交換 というオブジェク ト指向の計算方法で行 う。これまでの知識表現では,法令文に書かれている法律的な内容の要点を, と もか くコンピュータの機械的推論可能な形 に翻訳 した。例えば,水谷 [Mi]の 方法 と池田
[ I K]
の方法を法令文 と共に示す (部分的説明が[ Su3]
にある) :(水谷の方法) 「出願公告があった時は, 何人 も, その日か ら
2
カ月以内 に,特許庁長官に特許異義を申立てることが出来 る」(
Ⅹ,
p,S )∈特許願 n o
‑ くくX ,p ,S )
,特許願)∩
くO,t)∈出願公告n
t∈日 ⇒ (t+2
月≧un
u≧tn く q
,くy, 0 ,q
,特許庁長官,u),異義申立て)
∈ J
可能(池田の方法) 民法
8 8 7
条第1
項 「被相続人の子 は相続人 となる」それぞれの表現を法令の原文 と比較すれば,「これが同一の内容であること をどのように説得で きるのであろうか」 とい う素朴 な疑問が起 こるに違 いな
4
商 学 討 究 第 40巻 第4号い。我 々は,知識表現 された ものの妥当性 ・説得性 において,原文 と知識表現 された もの との間の違 いが大 きす ぎることは問題 があ ると考 えて いる。
吉野
[ Yo 2
]や新 田[ N
i] らは,法令文 と解釈 の知識,適用の知識 を法的な 要件 と効果 の観点 か ら積極的 に整理 ・翻訳 しているよ うに見え る。確 かに法的 要件 と効果 q)関係 が きちん と表現 されて いれば法的推論 に支障 はないか, オ リジナルの法令文 とは変質 して いるのではないか とい う疑問が残 る :
(1) 翻訳過程 で行 われ る法令文 の要約が,必要 な表現 まで捨象 して はいないだ ろ うか?
(2) 法令文 の言葉 だけで は完結 で きない内容 を補 うために,関連す る解釈や適 用 の知識 の付加 が行われ るが, オ リジナルの法令文 とそ うでない部分 とを区 別 しな くて も構 わないのか?
これ らの問題 は,法令文 とコ ンピュー タ上 に表現 された もの とが余 りに も構 造が異 なることが大 きな原因であ る。 そ こで我 々は, この
2
つの表現構造 の問 の構造 変換 を容 易 にす るため に,格構造 とい う中間的 な表現構造 を提案 した[ Si 2
]。 この方法 は, 自然言語 で書 かれた法令文 の文表現 を出来 るだけ忠実 に 形式化す る方法であ る。 こうして作 られた中間構造 で,法的 な抽象化, あるい は,解釈 と適用 の知識 を追加す るなどを行 な って も, オ リジナルの表現異 な る 部分 を区別 す ることが可能 とな り,知識表現 に対す る不信感 を減少で きると考える。 .
これが我 々の提案 の主 旨であ った。我 々は法令の各条文 を単文 に分解 して格 構造 で表現 し, これ らを フ レーム構造 で階層的 に組 み立 て, さ らに個 々の法令 文 の表現 を越 えたメ タ知識 は関係 のあ るものをまとめて制御 フレームと して階 層の最上部 に置 き,法的知識全体 を表現す る構想 であ る
[ Si
2]。メタ知識 を除 き,法令文 に忠実 に表現 された知識 は格構造 にまとめて整理 されているので, さ らに これ らを論理構造, ルールベース構造, フ レーム構造, オ ブジェク ト構 造 などの変換 す1ることは, オ リジナルa)文か ら直接変換 す るよ り簡単 で,統一 的 に行 えるなどの利点 があ る。 その意味で,格構造 は中間的役割 を担 え る構造 であ る。法律 エキスパ ‑ トシステムのための知識表現 に関す る考察 5
法令文 は各条文の法的な意味 ははっきりしているのであるが,文面 が法的な 意味 をそのまま表現 していないことが コンピュータ化 の問題であるO そ こで, 実際 に民法の一部 を格構造 で表現 し,法的な意味をどれだけ表現 で きるかを検 討 した。
2.
拡張格構造 システム日本語理解の由究 と意味構造
日本語 を含 めて 自然言語理解 の技術 が応用可能 な所 まで完成 されっつあ る [No
1 ,2]
[Tul]。 自然言語理解 というのは,人間が 日常生活 で使用す る文 の意味を コンピュータが理解す ることを指 している。 つまり,入力 された文が 持っそれぞれの語嚢 の意味 と,各語嚢相互 の構文構造 が指 し示す意味 と, さらにそれ らを総合 した文の意味 とを,既 にコンピュータ上 に記号化 されて蓄積 さ れている知識 と関連づ けることである。 このよ うに意味を記号化す るための表 現を意味表現 といい,意味表現 のために句構造,依存構造,格横暴 機能構造,
Le xi c as e
,述語論理式,モ ンクギュー文法の論理式 など種々の表現構造 が提案されている [Nol]。 これ らの中で も, 日英の機械翻訳 などの意味表現 として 格構造 が非常 に多 く用 い られ [No
2
,3]
, 日本語 の意味表現 に適 してい、ることが理解 されて きた。
,法令文 は日本語で書かれてお り,書かれている内容 について格構造表現 を試 み ることがで きる。格構造 といった場合,文の主格, 目的格 などの文法上 の表 層格 を意味す るのではな く,述語 の動作 に深 く関わ る事物 を示す動作主,動作 の相手, 目的物,原因などの深層格 を意味 している。 文の述語 に関係す る名詞 がそれぞれ どの格 の役割を果 しているかを調べ ることを格解析 といい, この格 解析 によ って文 の意味を表現す ることを格構造表現 という 。 ところが, これ ら の格の種類 として どのよ うな格 を揃 えると良 いのか とい う格 システムの設計が 困難 [Nol]である。 ここでは,日本語 として は複雑 な法令文の知識表現のた めに,単文の格構造 を拡張 した野村 [No
2
] の拡張格構造 を採用す る。6 商 学 討 究 第
4 0
巻 第4
号構 文
まず野村 [No
2]
に したがって,次のルールで定義 されたものを文 とする。ここで言弓号 ::‑ は志義,
I
は 「もしくは」 と読む, +は連接を表す。文 ::‑複合文 l単位文
複 合 文 ::‑単位文 +接続要素 十単位文 単 位 文 ::‑述部 l格要素 +述部
述 部 ::‑用言 I述部 +法要素
格 要 素 ::‑体言句 +格標識 仁副詞句 l形容詞 ・形容動詞連用修飾文要素 体 言 句 ::‑名詞句 l代名詞 月旨示詞 l形容詞 ・形容動詞連用修飾文要素 名 詞 句 ::‑名詞 l複合名詞 l付加詞句十体言句 t埋込み文 +体言句 複合名詞 ::‑名詞 +複合名詞
付加詞句 ::‑体言句 + 「の」
埋込み文 ::‑述部が連用形の単位文
用 言 ::‑動詞 l形容詞 l形容動詞 l陳述の助動詞 「だ」
法 要 素 ::‑助動詞 I補助用言 I終助詞 格要素部の法要素 ::‑副助詞
接続要素 :;‑接続助詞 I句点 J連用中止
意味構造
上で定義 した文構成素の意味を特徴づけるものとして,意味構造がある。 意 味構造 には,原始意味構造 と複合意味構造がある。 原始意味構造 とは,文の語 に対応づけられた意味構造である
。
これは,表現 された意味構造を受取 って推 論する機構の構成 によって決められるので, ここでは議論 しない。意味構造を 次のように定義す る。意味構造 ::‑原始意味構造 l複合意味構造
複合意味構造 ::‑意味構造 +意味関係 +意味構造
意味関係 には大別 して
5
つの関係があり,次のように定義 される。意味関係 ::‑名詞概念関係 l格関係 l法関係 l埋込み関係 I事象関係
法律 エキスパ ー トシステムのための知識表現 に関す る考察
7
それぞれの意味関係 を以下 に示す。
LL名詞概念関係 ::〒格関係 l
被修飾語が性質 ・属性 ・数量 ・時 ・場所 ・状況を指定 l
修飾語が所有 ・全体 ・部分 ・数量 ・性状 ・方法 ・場所 ・時 ・特定化 により被修飾語を限定
格 関 係 ::ニー対象関係群 l方法関係群 l方向関係群 】時空関係群 【 付帯関係群 l形容関係群
対象関係群 ::‑対象 l対象
2
1比較対象 l並列対象 】主題 l陳述対象 l 動作主 I経験者方法関係群 ::‑道具 l手段 ・方法 l原料 ・材料 l構成素 l原因 ・理由 方向関係群 ::‑源泉 ・起点 l着点 ・方向 】目的 ・目標 l結果 l与手 l受手 時空関係群 ::‑場所 l時
付帯関係群 ::‑場合 l内容 l役割 I対照 ・従属 l範囲
形容関係群 ::‑回数 l割合 l程度 l数量 】強調 】真偽 】様態
法 関 係 ::‑相 】時制 l判断 ・態度 l様態 (副助詞 ・文修飾副詞)
埋め込み関係 ::‑ 格関係 l被修飾名詞が埋 め込み文の格要素を修飾する関係
】同格 ・事象 一結果
事象関係 ::‑時 l仮定 l並列 l原因 ・理由 l確定 l前置 き I対照 l 順接 l逆接
特 に格関係 に対応す る格標識 として
.
格助詞 :が,を, に,へ,か ら,より, まで, と,で 係助詞 :は
などがある。さらに野村 は,格助詞以外 にも格助詞相当の意味的な役割 を持 ち, 格関係 としての構文的制約を満たす ものを格助詞相当語 としてL.1るが, ここで
は省略す る。以上の格助詞 もしくは格助詞相当語を目印に して法令文q)格関係 を同定す る。 同定 された格構造を形式的に表現す るために,述語 に対 して格構 造記述 した格 フ レームを使 う。 フレームは, フ レーム標識 とフ レーム値 を記 早 :で区切 って表 したものの集合であ り,全体をカギカ ッコ [ ]で囲 って,
♂
商 学 討 究 第4 0
巻 第4
号[フ レーム標識
1
:フレーム値 1‥.フレーム標識 n:フレーム値 n]のよ うに表す。 フレーム値 はア トム (一意名)か フ レームである。 ここでは, フ レームには格情報だけでな く,浅情報,接続情報 なども含めて上記 の意味構 造 を記述す る拡張格構造 に拡張す る。述語 に関す るフ レームの構文 は上記の構 文を使 う。 複合意味構造 の構文 に従 って,拡張 された部分で使われる意味関係
は
2
引数関数で表す ことがで きるので,次 の構文を使 う。拡張格構造 ::‑格 フレーム 【[関数子 拡張格構造 拡張格構造]
関数子 は,関数子 が所属す る分類 を表示 で きるよ うに,所属す る分類項 目 を .でつないで表す。
A
分類項 目のB
分類項 目のC
項 目の場合 は,A. B. C
と 表す。最後 の項 目は,関数子 を具体的に表示 している体言であ って も良 い。3.
民法8 8 7
条の格構造表現8 8 7
条の特徴 と知識表現知識表現 の対象 と したのは,民法第五編相続第二章相続人 の
8 8 7
条の部分で ある。文 として は短 いなが らも, この部分 には複雑 な構造がある。人工知能 の 分野 では再帰的手続 と呼ばれ る手続が,3
項 に含 まれている。 また,主文の次 に例外事項 を書 くとい う法令文の特徴がある。 つ ま り,1
項 に主文を書 き,2
項 に例外 を書 く。例外 の書 き方 において も,最初 に一般 ルールを書 き,次 に但 し書 きでさ らにルールの例外 が書かれ る。 つ ぎつ ぎに例外 の例外を果て しな く 書かないですむよ うに,準用 とい う便利 な方法がある。 これ らは法令文の特徴 である。
次 に
8 8 7
条を示す。8 8 7
条 被相続人 の子 は,相続人 となる。2
項 被相続人の子 が,相続の開始以前 に死亡 したとき,又 は第八百九 十一条の規定 に該当 し,若 しくは廃除 によって, その相続権 を失 ったときは,その者の子が これを代襲 して相続人 となる。但 し,被相続人の直系卑 属でない者 は, この限 りではない。
法律 エキスパ ー トシステムのための知識表現 に関す る考察
9
3
項 前項の規定 は,代襲者が,相続の開始以前 に死亡 し,又は第八百 九十一条の規定に該当 し,若 しくは排除によって, その代襲相続権を失 った場合 にこれを準用す る。
以下, 日本語 としての条文の論理表現 と (拡張)格構造表現 について比較検 討す る。今後格表現 と書 いたときは,拡張格表現を指す ことにす る。 まず,請 理表現では計算の意味論がすでに確立 しているので,条文の論理表現 と方法 に ついて,オ リジナルの文の意味 との違 いを検討す る。次に,格構造の表現 に書 換えを行 う。 格構造 の一般的な計算手続が完成 していないので,論理式のよう
に計算上の意味を議論す ることはで きない。 しか し,格構造 の一部を論理式や その他の構造 に変換す ることは容易 と思われるので,格構造表現の手法が確立 す るな ら, この表現を経由 して表現すれば,表現の一貫性 を保つ ことがで きる であろう。 法令文,知識表現,計算 システムとの関係を [図
1]
に示す。左 に 近 いほど人間に近 い表現で,右が コンビチークのプログラムシステムを示す。格構造 は他の表現 より日本語 に近 いので,他の表現よ り左 に位置 している。 ま たこの図の中の格構造計算 システムは, 日本語 の格構造での意味分析の進展に 伴 って実現化 されてい くであろう。
論理計算 システム
亡:ii l:il ノ′
■i 7 ,55
「‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑I l格構造計算 システム l L̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲」
オ ブ ジェク ト表現 ー オブジュクト計算 システム
図
1
法令文 の知識表現 と計算 システムの関係10
商 。学 討 究 第4 0
巻 第4
号(論理表現)
「被相続人の子 は,相続人 となる」 は,「相続人 となるための法的要件が,被 相続人の子である」 ことを明快 に表現 している。論理学的には,人を表す変数
Ⅹ,Yを導入 して,任意の Ⅹ,Yについて,法的要件
「
Ⅹ がYの親子関係を満
足する」な ら,法的効果「 Y
は‑
Ⅹ の相続人 となる」が成立する。論理式 では,これを次のように表す。
(1)
∀ⅩVY
(相続人(
Ⅹ,Y)
C=親子関係(
Ⅹ,Y) )
Pr ol og
では,全称記号を省略 し,記号 C= を記号 .'‑で置 き換え最後 に ピリ オ ッ ド.を置 き,次のようにす る。( 2 )
相続人 (Ⅹ,Y) :一子 (Ⅹ,Y).一般 に複数の法的要件がある時 は,次のよ うにす る :
( 3 )
法的効果 :一法的要件 1,法的要件2
, ∴ ,法的要件 n.もしくは,
( 4 )
法的効果 :一法的要件 1.法的効果 :一法的要件
2.
法的効果 :一法的要件
n.
( 3 )
の書 き方では,法的要件の1
か らn
まで順番 に調べ,すべての法的要件が 真であるとき,法的効果が成立す る。 つまり法的要件がAND結合の場合であ
る。 ( 4 )
の書 き方では法的要件がどれ も独立で, どれか1
つの法的要件が真であ るとき,法的効果が成立す る。 つまり法的要件が OR結合の場合である。池田はこの条文を,
( 5 )
相続人 (Ⅹ,Y,8 8 7‑1)
:一親子関係 (Ⅹ,Y).と表 した。命題 の根拠 となった条文番号
8 8 7‑1
を論理式の中に書込み,推論 の 過程 を見 ることが出来 るようにな っている。吉野 らはこの辺 りの形式化 を進 め,条文に関す る様 々の情報を付加す る機構 を設計 している[ Yo
.2
]。吉野の 表現を次に示す。法律 エキスパ ー トシステムのための知識表現 に関す る考察
11
( 6 )
法規範文 (条文番号, レベル,\ (出典,学説,妥 当範囲,優先情報, ルール タイプ,適用条件), (法的効果 :一法的要件要素 1,法的要件要素
2)) .
このよ う1こ論理表現 では,推論 も含 め端的 に条文 の意味 を表現 で きる。
(格構造表現)
条文 の動詞 (なる),主語 (被相続人 の子), 目的語 (相続人)が はっきりし ているので,簡単 に書 き表す ことがで きる。
( 7 )
[なる : [格要素 : [格関係 :動作主格 体言句 :相続人の子 格標識 :は]格要素 : [格関係 :対象格 体言句 :相続人 格標識 :と
] ] ]
ところが, これで は法的要件 が はっきりしない。そのためには
,
「な る」およ び 「被相続人 の子」 の 「の」 の推論 における意味を明 らか にす る必要 がある。「なる」には,等 しくな る,権利 の付加 などさまざまの意味 に使 われ,体系的分 析がまだなされていないので
,
「なる」の意味 は原始意味構造 のままに してお きたい。 ここで は,法的効果 を 「なる」 の 目的格 とす ると,主格 は法的要件 を示 していると考 え る。 「相続人 の子」を要件 と解釈す ると,「の」 の意味が重要 に なる。 野村 [No
2
]の分類 によれば, ここの 「の」の意味 は,『
「の」の意味分類
5
の3
』の人間関係 に相 当 して いるので,論理式 の親子関係(
Ⅹ,Y)で解釈で きるであろ う
。
意味表現 と解釈 につ いて補足す る。条文 を格構造表現 に変換す る時 には, ど の意味 の 「の」かが分析 され る必要 があ る。 [図
1
]に示 したよ うな格構造計算システムで は,格構造表現 に書 かれた 「の」に
『
「の」の意味分類5
の3
』 とい うマークがあれば,親子関係(
Ⅹ,Y)
で計算す るよ うにな って いる。 こうした 表現 を計算可能 な式 に対応 させ ることを解釈 (もしくはモデル) とい う。8 8 7
条第2
項 (代襲相続)この条文の中 に 「または」 と 「若 しくは」 があ る。 それぞれ用法 が決 ってい るので,その用法 に注意 して文 の構造 を理解す る
。「 A
またはB
」では,A
とB
が独立 した関係 で併記 され るか ら,要件が2つ (死亡要件 と相続権 の喪失要件)12
商 学 討 究 第4 0
巻 第4
号あることを示 している。条文 「第八百九十一条の規定 に該当 し,若 しくは廃除 によって,その相続権 を失 ったとき」を
「 A
,若 しくはB
,C
」 と略 して書 くこ とにす ると,C
となる原因がA
若 しくはB
であるか ら,条文 は「 AC
若 しくはBC
」を意味 している。この様 にす ると,条文 は6
っの単位文か らで きている。主文 を表 している単位文 は
TO
で, その他 に名詞 「とき」 を連体修飾 している3
っの埋 め込み文がT l ,T2,T3
であ り,この修飾 は具体的に内容 を記述す る 「内容記述型」 [ Sa ]
の連体修飾 とな っている。TO
[そ̲の者 の子が これを代襲 して相続人 となる]T
l
[被相続人の子 が,相続開始以前 に死亡 した] ときT 2 [ T 4
[(被相続人の子が,)第8 9 1
条の規定 に該当 し,]T
5
[(被相続人の子が,) その相続権 を失 った] ]
ときT 3
[(被相続人の子が,)廃除によ って, その相続権 を失 った] ときただ し,( )で囲われた部分 は,文 と して不足 している部分を元 の文 に補 っ た ものであ る。
文
T2
は複雑で,2
らの事象 の因果関係 を指す文 であるo つ ま り 「第8 9 1
条の規定 に該当す る」事象が原因 とな って 「相続権 を失 う」事象の結果 になるの である。 この因果関係 を連用中止 「該当 し」が示 している。つ まり,連用中止
とい う接続要素 によって,事象関係 の中の原因 ・理 由を示 している。実際
,8 9 1
条 (相緯欠格事 由)では
,
「左 に掲 げる者 は,相続人 となることがで きない」と して,5
項 目を指定 していもので,8 9 1
条で先程 の2
つの事象の因果関係 を具 体的に調 べ ることがで きる。(論理表現)
上 の文では
TO
が法的効果で,3
っの文T l ,T2,T3
がそれぞれ独立 の法的要件を表 しているか ら
,Pr ol og
言語で はそれぞれの場合 に分 けて,概ね次 の よ うなプ ログラムになるだろう。( 8 ) TO: ‑T l.
TO: ‑T2.
TO: ‑T3.
法律 エキスパ ‑ トシステムのための知識表現 に関す る考察
13
具体的 に論理表現 に書 き直 して い くために,代名詞 の代 りに人 を表す変数
Ⅹ,
Y
,Z
を導入 し,文の形式化 を行 う。
Ⅹ を被相猿人,Y
を被相続人の子,Z
を Y の子 の意味で使 う。
(丑
TO
[その者 の子が これを代襲 して相続人 となる] について法的効果 は 「代襲相続人」 で,要件 は 「その者 の子」である。「その者 の子」
を論理的推論可能 にす るのには
,
「その者」をはっきりさせ る必要がある。前後 の文脈か ら 「その者」が被相続人 Ⅹ の子Y
を表 しているか ら,親子関係(
Ⅹ,Y)
を満 たすY
だ とい うことがわか る。 そ うす ると,代襲相続 で さる者 はY
の 子Z
であるか ら,池田の方法 に従 うと,文TO
は次 のよ うに書かれ るはずである。
( 9 )
相続人(
Ⅹ,Z,8 8 7‑2)
:一親子関係(
Ⅹ,Y)
,親子関係( Y
,Z) .
ここでプログラ ミング上 の問題点 を指摘す る。 上記 の表現 には代襲 とい う言 葉がない
。ここでは,代襲であ ることを相続人 の第3
引数の8 8 7‑2
で表示 して いる。 しか し, この表 し方 は複数 の方法があ り, どの表現が最良かを決 める方 法がない。例 えば,代襲相続人 とい う述語 で定義す ることもで きる :(10)
8 8 7‑1
相続人(
Ⅹ,Y)
:一親子関係(
Ⅹ,Y) . 、
8 8 7‑2
代襲相続人(
Ⅹ,Z)
:‑親子関係(
Ⅹ,Y)
,親子関係( Y
,Z) .
この場合 には代襲相続であ って も相続 には違 いないか ら,相続人 と代襲相続 人 との関係をなん らかの方法で定義 していないと,階層構造 を持つ相続概念 と 矛盾す ることになる。 そ こで次のよ うな定義が必要 となろう。( l l )
相続(
Ⅹ,Y)
:‑相続人(
Ⅹ,Y) .
相続
(
Ⅹ,Y)
:‑代襲相続人(
Ⅹ,Y).
つま り,
8 8 7‑1
の相続人 も8 8 7‑2
の代襲相続人 も相続であることを示すの である。②
T
l[被相続人 の子 が,相続開始以前 に死亡 した] ときについて これを論理表現で書 くには,「誰がいっ死亡 したか」がわか る述語( 1 2 )
死亡す る (誰が, いつ)を設定 して,
14
商 学 討 究 第4 0
巻 第4
号(13) 死亡す る
( Y,YTi me )
, 相続開始時刻(
Ⅹ,Kai s i Ti me)
,YTi me<‑Kai s i Ti me
と表 せ る。記号 <‑は数値 の大 きさを判定 す る述語 で,
Y
さんの死亡時間YTi me
が相続開始時間Kai s i Ti me
より小 さいか等 しい時, 真 となる。 この場 合,等号 を含むか含 まないかは法律的にも重要で,昭和3 7
年 に等号 を含むように改正 されている
。 8 8 2
条 には相続開始の時刻を被相続人の死亡時刻 とすると 定義 しているので,そこには,つ ぎのプログラムがあるであろう :掴
相続開始時刻(
Ⅹ,T)
:一死亡す る(
Ⅹ,,T) .
③
T 2 [ T 4
[(被相続人の子が,)第8 9 1
条の規定 に該当 し,]T 5
[(被相続人の子が,)その相続権を失 った] ]
ときについて これを論理表現で書 くには,条文の 「該当す る」 と 「失 う」の述語 に注 目 し て,(15) 該当す る (Y
,8 9
1),失 う (Y, ̀相続権') と表せ る。ここでプログラ ミング上の問題点を指摘す る。 まず第
1
には,条文の文面で は「 8 9 1
条に該当 して,相続権 を失 う」のであるが,その因果関係を直接表す こ とがで きていない。これを表すのは,8 9 1
条 (相続欠格事由)の条文で行 う。8 9 1
条では 「左 に掲 げる者 は,相続人 となることがで きない」と書 いて,各項 目を
5
項 目あげているか ら,相続人 となることが出来ない効果 :‑欠格事由要件 1.
(16) 相続人 となることが出来ない効果 :一欠格事由要件
2.
相続人 となることが出来ない効果 :一欠格事由要件
5.
と表 されているに違 いない。 となると,該当す る (Y
,8 9
1) との情報交換がで きない。該当す る( Y ,8 9
1)と相続人 となることが出来ない効果 との間をっな ぐなん らかの機構が必要である。 第2
には,8 9 1
条で5
つの欠格事由の要件 に 該当 しさえすれば,自動的に相続人 となれないのだか ら,「相続権を失 う」こと を8 8 7
条2
で確認する必要がないのではないか。そ うな らば,文T2
の論理表法律エキスパートシステムのための知識表現に関する考察
15
現 は,次 の式 だ けで良 いはずであ る。
(川 該当す る
( Y
,8 9
1)④ T
3
[(被相続人 の子 が,)廃除 によ って,その相続権 を失 った]ときについ て8 9 2
条 に廃除 の規定 があ り, 廃除す る人 を家庭裁判所 に請求す ることにな っ ている。 これ は被相続人の死亡以前 に前 もって行 われ るか ら, 「誰」 が廃除 に な って いるかの情報 は記録 されて いる。従 って文T3
は, その記録 に被相続人 の子 があ るかを調べ,記録 に名前 があれば廃除 されて いることがわか る。廃除 について は記録 でわか るが
,
「廃除 され ると相続 で きない」とい う明確 な 規定がないので,これを補 う必要があ る。どのよ うに して補 うかが問題 である。 第1
の方法 は,
「廃除」の原始意味構造 の定義が 「相続 で きない ことである」と 定義す る方法 である。 これ は同一 の概念 を2
っの言葉 で表現 していると考 え る 立場 であ る。 第2
の方法 は,2
つの概念が異 なる概念 であると考 え,
「廃除」概 念 を 「相続 で きない」概念 に推論す るルールを設 ける方法であ る。この方法 は, 一般 に書換 え規則 とかルール ・ベースとよばれ,人工知能 の1
つの手法 と して 確立 している。 ここで は,第1
の方法 を採用 しよ う。 す ると,廃除 の記録 を調 べ るだ けで良 いので,文T3
の論理表現 は(18)のよ うになる。 ただ し廃除 の記録 は,被相続人 Ⅹ が,推定相続人 Y について請求 した ものであ るか ら,記録 の検 索 には Ⅹ とY
の情報 が必要 で,廃除の引数 は Ⅹ,Yである。(18) 廃除
(
Ⅹ,Y)
これが真 であれば,同時 に相続 がで きないと解釈 し,相続権 が失 われたか ど うかのチ ェ̲ツクは しない。
以上 まとめよ う。 まず,式
( 8 )
に( 9 )
を代入 して,( 1 9 )
相続人 (Ⅹ,Z,8 8 7‑2)
:一親子関係 (Ⅹ,Y),親子関係 (Y,Z),T l.
相続人 (Ⅹ
,
Z,8 8 7‑2)
:‑親子関係 (Ⅹ,Y),親子関係 (Y,Z),T2.
相続人 (Ⅹ
,
Z,8 8 712)
:一親子関係 (Ⅹ,Y),親子関係 (Y∴Z),T3.
を得 る
。Tl
に( 1 2 )
香,T2
に(17)を,T3
に( 1 8 )
を代入す ると代襲相続 の主文 が完成 し,次 のよ うになる。16
商 学 討 究 第4 0
巻 第4
号(20) 相続 人 (Ⅹ,Z,
8 8 7‑2)
:一 親子関係 (Ⅹ,Y),親子関係 (Y,Z), 死亡 す る( Y
,YTi me)
,相続開始時刻(
Ⅹ,Kai s i Ti me )
,YTi me < ‑Kai s i Ti me .
相続人 (Ⅹ,Z,
8 8 7‑2)
:一親子関係 (Ⅹ,Y),親子関係 (Y,Z), 該 当す る (Y,8 9
1).相続 人 (Ⅹ,Z,
8 8 7‑2)
:一 親子関係 (Ⅹ,Y),親子関係 (Y,Z), 廃除 (Ⅹ,Y).(格構造表現)
文
TO
,Tl ,T3
の格構造 は,( 7)
とはぼ同様 であ る。文T2
は,2
っの単位 文が原因 ・理 由格 で接続 されて いることの表示 が必要 であ る。 原因,結果 な ど の事象 を指示 す るラベルが野村 [No2]
には記述 されて いないので,事象要素ラベルを用意 し,原因 とな った事 象 を原因格,結果 とな った事 象 を結果格 と し
た 。
(21)
TO
の格構造[なる :[格要素 :[格関係 :動作主体 体言句 :その者の子 格標識 :が]
格要素 : [格関係 :対象格 体言句 :相続人 格標識 :と
] ] ] ( 2 2 ) T
lの格構造[ 死亡する:
[格要素:[格関係 :動作主体 体言句 :被相続人の子 格標識 :が]格要素 :[格関係 :時格 体言句 :相続開始 格標識 :以前に
] ] ]
( 2 3 ) T 2
の格構造 [接続関係.因果関係[格要素 :[格関係 :原因格
事象要素 :
[ 該当する:
[格要素 :[格関係 :動作主体 体言句 :被相続人の子 格標識 :が]格要素 :[格関係 :対象
体言句 :第
8 9 1
条の規定 格標識 :に] ] ]
法律 エキスノ.ヾ一 トシステムのための知識表現 に関す る考察
17
格標識 : 連用中止 ] ] [ 格要素 :[ 格関係 : 結果格
事象要素 :
[失う:[ 格要素 :[ 格関係 : 動作主体 体言句 : 被相続人の子 格標識 :が]
格要素 :[ 格関係 : 対象格 体言句 : 相続権 格標識 :を ] ] ]]] ]
( 2 4 )T 3
の格構造[失う:
[ 格要素:[ 格関係 : 動作主体 体言句 : 被相続人の子 格標識 :が]
格要素:[ 格関係 : 対象格 体言句 : 相続権 格標識 :を]
格要素 :[ 格関係 : 原因・理由格 体言句 : 廃除 格標識 :によって ] ] ]
個 々の単位文の格構造表現 が終 わ ったので,「とき」 につい ての表現 を加え, 文全体の表現作 る。Tl ,T2
,T3
の 「とき」の意味 は,文TO
の述語 「相続 人 となる」場合を示す 「とき」,つ ま り,格関係 ・時空関係群 の時格である。 この時格 の法的な意味 は,法的要件の指示である。さて
,
「とき」は,先 に見たよ うに,「又 は」 と 「若 しくは」で接続 された3
つの 「とき」であ る。つ まり,( 2 5 ) Tl
とき 又 はT2
とき 若 しくはT3
ときである。 この接続 の意味構造 は,句 の接続詞 を
2
項演算子 と看倣 し,演算子 と しての強 さを考慮すれば,次 のよ うに書かれ る。C 2 6 ) ( T
lとき 又 は( T2
とき 若 しくはT3
とき))上 の論理表現では(8)のよ うに単純 にOR結合 として表現 したが,実際 には鍋 のよ うに複雑 な結合構造 を している。 しか し, 日本語 としてい くら複雑 な表現 で も, それを(8)bよ うに単純化 した推論で出て くる結果 と比較 して,違 いがな ければ複雑 さは見かけだけの ものである。 そのよ うな基準 で意味 を捉 え ると, (26)の意味 はOR (並列)結合 の意味 とみなす ことがで きる。 従 って,C26)は (27)
T
lとき ORT2
とき ORT3
ときと書換 えることがで きる。
18
商 学 討 究 第4 0
巻 第4
号さて名詞 「とき」を修飾する埋込み文 は内容修飾型の連体修飾
[ S a ]
である が,上で定義 した埋込み関係 には,相当す る格分類が見当 らない。 ここでは, 埋込み関係の内容説明型であることを表示するために,関係子を 「埋込み関係 .内容説明」 と表す ことにする。従 って,
3
っの時をまとめている格構造は,吹 の構造である。( 2 8 )
[事象関係 .並列 .又 は [埋込み関係 .内容説明[格要素 : [格関係 :動作主格 事象要素
: ( 2 2 ) ] ]
[格要素 : [格関係 :目的格 ・ 体言句 :とき
] ]]
[事象関係 .並列 .若 しくは [埋込み関係 ・内容説明
[格要素 : [格関係 :動作主格 事象要素
: C 3 ) ] ]
[格要素 : [格関係 :目的格 体言句 :とき
] ] ]
[埋込み関係 .内容説明
[格要素 : [格関係 :動作主格 事象要素 :
( 2 4 ) ] ]
[格要素 : [格関係 :目的格 体言句 :とき
] ] ]]]
但 し,式
任
8)の( 2 2 ) ( 2 3 ) ( 2 4 )
はそれぞれの式の代入を意味する。まだ,但 し書 きが残 っているが,(28)を(21)の条件を示す時格 として挿入すれば, 代襲相続の主文の格構造表現が完成することになる。
任9) [なる : [格要素 : [格関係 :動作主体 体言句 :その者の子 格標識 :が]
格要素 : [格関係 :対象格 体言句 :相続人 格標識 :と
] ]
格要素 : [格関係 :時格 体言句 :(
2 8 ) ] ] ]
ようや く完成 した格構造であるが,まだ問題が残 っている
。
それは,動作主 体の 「その者」が具体的に指示 されていないことである。オ リジナルの文では,「被相続人の子が」で始 っているか ら,「その者が」 これを指す ことが明 らかで あるが,表現
C
g)になってか ら 「その者」が何かを決定す ることは困難である。
となると,格解析の最中に指示代名詞 「その」を決定すべきである。民法相続 法には
,
「これ」
「その」
「この」の表現が多いので,代名詞の内容決定 は重要な法律 エキスパー トシステムのための知識表現 に関す る考察
19
部分である。
但 し文 「但 し,被相続人の直系卑俗でない者 は,この限 りではない」は
,
「こ の限 りでない」が主文を指 しているので,文脈構造である。
さらに文脈か ら,「被相続人の直系卑俗でない者」 は,主文の 「被相続人の子」 と対応 し,「被相 続人の子であって も,直系卑俗でない者 は」を意味 している。文脈解析 は研究 段階にあるので,但 し文 は割愛せざるえない。
(但 し文を含めた論理表現)
池田の第
8 8 7
条第2
項のPr ol og
表現を(30)に示す。(30) 相続人 (Ⅹ,Z,
8 8 7‑2)
:‑親子関係 (Ⅹ,Y),親子関係 (Y,Z), 代襲原因 (Y,Z),直系卑属
(
Ⅹ,Z).
代襲原因 と直系卑属の
Pr ol og
の定義 は別 に書かれ, 代襲原因 は3
っの条件 (死亡,欠格,廃除)をまとめた概念 としてプログラム化 している。但 し文の内 容は,直系卑属(
Ⅹ,Z)
と して書かれている。論理表現の意味 は,Ⅹ とY
が親 子で,Y
とZ
が親子で,Y
とZ
の間に代襲原因があり,さらに Ⅹ とZ
が直系卑 属の関係 にあれば,Z
は Ⅹ の相続人 となれるというものである。条文の法的な 意図 は正確 に表現 しているが,明 らかに, この書 き方 は条文の文 としての構成 を無視 している表現である。8 8 7
条第3
項 (再代襲者の相続)この規定 は,第
2
項の代襲相続 とほぼ同 じであるが,代襲原因の主語が 「被 相続人の子」か ら 「代襲者」 に代 り,法的効果の 「その者の子が これを代襲 して相続人 とな る」 の部分を第
2
項 を準用す ることが特徴である。 この準用 に よって,
「その者の子」が第2
項の文で意味 していた 「被相続人」か ら第3
項の 代襲原因の主語 「代襲者」 と入替わる。従 って,(29)では 「その者 の子」の 「そ の」の意味を格解析時に決定すべ きであると上で論 じたことと矛盾す ることに なろう。格構造e
g)の 「その」 は第2
項だけで適用 される場合 と,第3
項の準用 として適用 され る場合 とでは,明 らかに異 なる対象を指 さな くてはな らない。2( )
商 学 討 究 第4 0
巻 第4
号又 さらに,第
3
項 の代襲者 がなん らかの代襲原因を作 った場合,再 び第3
項が 適用 され る (再再代襲)ので,適用 され る文脈 に依存 して 「その」 を決 めることがで きる必要がある。
「準用す る」の原始意味構造 が以上 のよ うな機能 を果すためには,準用 の構造 の分析 と,」頁始意味構造 の精密化が必要であ る。第
3
条の格構造表現 はCZg)にほ ぼ従 うので省略す る。4.
その他の議論岡
[ Oka]
は,法 と社会的 な運用 システム (立法府,行政府,裁判所,裁判官, 検察官,弁護士 なども含んだ システム)を全体で1
つの 「法律 システム」 と見なす と,この システムは 『数千年間をかけて万人がその システムの出力 (解答) 結果 に納得す るよ うに開発 されて きた, いわば,究極 のエキスパ ー トシステム
であるといえ る』 と述べている。 この観点か ら 「法律 システム」 を考察 し,戟 判官 の法的推論のプロセスが,法規か らの機械的演梓 を重視 した 「概念法学」‑ 主義 を排 し,法の欠陥を認 め具体的社会 の事実 の中か ら自由にかつ科学的に法
を発見す ることを重視す る 「自由法学」主義 に移 っていることを論及 し,人工 知能 の伝統的な記号論理主義 の限界 を指摘 した。従 って法律 エキスパ ー トシス テムは 『人間の助 けを借 りるか, もしくは直感的な判断を も組込んだ複合的 シ ステムを構成 しない限 り,高度 な判断を行 うことは将来 も無理 である』 と主張
して いる。
筆者 も,‑この意見 に同意す る。確かに法令文その ものは 「法律 システ ム」 の 一部 にす ぎないので,条文 の文面 をい くら操作 して も
,
「法律 システム」が行 う「法的推論」を模倣す ることはで きない。 しか し一方で,法令文 によって法の根 拠があることも事実である。 我 々が コンピュータにこれ らの知識 を入れ,その 知識 を利用す る時,知識 の確 か らしさと推論 の確か らしさの根拠 が欲 しい。 そ の根拠 とな り得 るのは, やはり誰 もが読む ことが可能 な日本語 と して表現 され た知識 ではなかろうか。
3
章 で見 たよ うに,民法8 8 7
条 のよ うに人間 に とって は単純 な文 であ って法律エキスパートシステムのための知識表現に関する考察
21
ち,人工知能 の知識表現 としては手 に負えないはどの複雑 な関係構造がある。
にもかかわ らず,意訳を用いて知識表現 を試みると,誤 った解釈や,知識表現 その ものが意図どお りには作 られていず,数 々の誤 りが紛れ込む ことが起 こり
うる。多少 は制限 された日本語で も良 いか ら,書かれたままに動 くシステムが 必要 なのではなかろうか。岡の指摘す るような大 きな 「法律 システム」を目指 すのではな く,条文や推論 ルールを明確 な日本語 に書 き直 した,小 さ くて も信 頼がおけるものであれば,有用なェキスパ ー トシステムとなれるであろう。
参考文献
[ I K]
池田純一 :人工知能言語 による法律の解釈 と適用, 日経 コンピュー タ,N o . 7 3
,7 4( 1 9 8 4 ) .
[M