模擬患者を活用した高齢者看護学演習に関する文献 検討
著者名(日) 佐野 望, 中原 順子, 野田 陽子, 北川 公子
雑誌名 共立女子大学看護学雑誌
巻 1
ページ 25‑32
発行年 2014‑03
URL http://id.nii.ac.jp/1087/00002983/
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止
資 料
模擬患者を活用した高齢者看護学演習に関する文献検討
A r e v i e w o f t h e l i t e r a t u r e on g e r o n t o l o g i c a l n u r s i n g p r a c t i c e u s i n g s i m u l a t e d p a t i e n t s
佐野 望 中 原 順 子 野 田 陽 子 北 川 公 子
Nozomi Sano J u n k o N a k a h a r a Yoko Noda K i m i k o K i t a g a w a
キーワード:模擬忠者、高齢者看護学、演習、看護学教育、文献検討
k e y w o r d s : s i m u l a t e d p a t i e n t . g e r o n t o l o g i c a l n u r s i n g . p r a c t i c e . n u r s i n g e d u c a t i o n . l i t e r a t u r e r e v i e w
要 旨
高齢者看護学における模擬忠者または訓練を受けていない演者(準模擬患者とする)を活用した演習 の効果について
1 0
件の文献を検討した。結果、阿波者の演習の共通点は、リアリティのある演習ができ る、高齢者の現実の姿に適合するコミュニケーション技術を獲得するための教育方法になることがわ かった。さらに、模擬患者の演習では、症状の表現が難しい認知症事例や、障害をもち生活の不安を抱 えた患者を社会背景も含めて演じる事例、継続した患者の過程を再現できるー速の看護過程演習の実施 が可能である。加えて、認知症高齢者の世界に寄り添おうとする姿勢を育み、対象を理解する力と個別 の援助の工夫と実施ができる効果が得られる。一方準模擬患者の演習は、演者の実年齢が高齢期であれ ば、自身の体験談を語ることで、身体的機能低下や「死の受容」の発達課題など高齢者の特徴とその人 の生き方による個人差があることの理解が深まる。および大勢の演者を準備することが可能であり、そ の場合は全学生のロールプレイが実施できるo
はじめに
看護は実践的な専門領域であるがゆえに、基礎 教育における臨床実習は看護学教育の全課程の中 で必要不可欠である。しかしこの臨床実習では、
患者の安全と安楽を優先するため、知識や技術の 未熟な看護学生が患者の安全を守りながら学習主 体の看護を提供することは難しい。そこで、臨床 実習前に、学内でのシミュレーション学習が実習 へ向かう積み上げ学習の一段階を担い、様々な方 法で展開されている。看護学教育におけるシミュ レーション学習の方法は、記述された患者の事例 から学習する記述シミュレーション、他者の役割 を演じるロールプレイ、ロールプレイを録画した ビデオシミュレーション、人体モデルを活用した 人体シミュレーション、患者を演じる模擬患者等
受付
E I: 2 0 1 3
年1 0
月2 5
日 受理日:2 0 1 4
年1
月1 6
日共 立 女 子 大 学 看 護 学 部 高齢者看護さ子:
がある1)。
我が図の近年のシミュレーション学習の傾向で は、模擬患者を活用した演習が工夫されている。
模擬患者は、
1 9 7 5
年 に 日 本 に 紹 介 さ れ た 後 、 医 学教育では総合的な臨床能力の評価のための客観 的 臨 床 能 力 試 験( O b j e c t i v eStructuerd C l i n i c a l Examination
:以下OSCEとする)として広まっ
ている2 )
。本田3 )
は、看護学教育での模擬患者活 用の状況について文献検討を行い、1 9 9 9
年をは じめとして2 0 0 6
年までに2 9
件の実践報告がある ことを示した。その中で、模擬患者が作り出すリ アリテイや、日常とは異なる学習環境、模擬とい う状況によって生じる効果などを明らかにする一 方、模擬患者の定義である「訓練をうけた健康人J
を活用した教育方法に焦点を絞って結果を分析す ることができていないことを研究の限界とし、語
1 1
共立女子大学看護学雑誌 第
1
巻( 2 0 1 4 )
練の有無を含め模擬患者の背景別に丁寧な分析を 進めることを課題として提言した。
高齢者看護学においてもシミュレーション学習 は様々な方法で活用されている。それは、看護学 生の祖父母との同居率の低下や交流体験の減少に 加え、先入観などにより高齢者の正確な理解に困 難を伴うため、実際に近い状況下における教育技 法が有用である
4 )
ことが理由である。高齢者看護 学で導入されているシミュレーションの内容は、高齢者疑似体験、シミュレーションゲーム、紙お むつへの排尿体験、ロールプレイ、高齢者との対 話等である。
2 0 0 3
年の小J114 )
の高齢者看護学に おけるシミュレーションに関する教育研究の分析 によると、1 9 9 9
年までは他の様々なシミュレー ション内容の研究であり、模擬患者を活用した演 習による教育効果を調査した研究の発表は2 0 0 0
年以降であることがわかった。
.今後、シミュレーション教育の重要性が増す中 で、後発の模擬患者による演習においても、模擬 患者の背景や演習内容、およびその適合性等につ いて検討を加えることで、より効果的な演習プロ グラムの開発が期待される。そこで本報告では、
模擬患者の背景や内容の違いによる演習の効果の 特徴を文献より検討し、高齢者看護学における模 擬患者を活用した演習の効果的なプログラムへの 資料としたい。
1 .方法 1 .
用語の操作的定義 1) シミュレーションT o r n y a y . R .
ら1)が定義した「現実の物事また は過程の構造ないし力動を実際に再現するもの (モデル)であって、参加者がそれを用いて実際 に体験するのと同じように人や物にかかわり、こ れまで学んできた知識を応用して問題ないし状況 に対して反応(意思決定と行為)するもの」とす る。2 )
模擬患者と準模擬患者本調査での模擬患者とは、医療場面のロールプ レイにおいて、医療従事者以外の人が援助者役の 学生を相手に患者役を演じる演者を指す。また、
模擬患者は、演じる際の基礎的な内容について
「一定の訓練を受けている」ことが前提であり、
実際の患者と同じような症状や会話を再現できる
こと
5 )
が特徴となる。加えて、ここでは「一定の 訓練を受けているJ
模擬患者と区別できるよう、「一定の訓練を受けていなしづ患者役を準模擬患 者と表現する。
3)ロールプレイ
一人の人間が他者の役割を演じるシミュレー ション技法をロールプレイとする
1 )
。4)フィードパック
フィードバックは、シミュレーション学習にお いて、学生に自分が行った行動の結果を認識させ るという重要な役割jがある。模擬患者を用いた演 習では、学生が実際行った援助と、それを受けた 患者として客観的な立場で意見、感想を伝えるこ とであるl)。模擬患者を活用した演習の構成上、
ロールプレイ中その都度フィードパックを受けな がら進めていく場合と、ロールプレイ終了後にま とめてフィードバックする場合とがある。構成上 様々な方法はあるものの、模擬患者より受ける意 見や感想をフィードパックと定義する。
2 .
文献の選定高齢者看護学の教授方法の一つである模擬患者 を活用した演習の学習効果を明らかにするための 文献の選定を行った。キーワードは、「模擬患者
J
「高齢者
J i
看護J
とした。データベースは、医学 中央雑誌web
版と、国立情報学研究所が提供す る論文データベースC i N i i
(国立情報学研究所論 文情報ナピゲータ)を使用した。遡及可能な時期 から2 0 1 3
年8
月末の検索日までを検索対象期間とした。
さらに医学中央雑誌
web
版では、「原著論文」を条件に絞り該当した文献
1 3 7
件中、高齢者看護 学の演習であること、医療者以外の人を患者役に 用いていることを精選の条件とし、また患者役の 背景による学習効果の特徴を検討するため、模擬 患者の訓練の有無がはっきりしない研究論文を除 いた。以上の観点より精選した8
件と、C i N i i
か ら該当した7
件から医学中央雑誌web
版で選定 した論文との重なりと会議録を除いた2
件を選定 し、計1 0
件を対象とした。3 .
検討方法検討方法は、演者の特性として模擬患者と準模 擬患者に分類し、その演習内容、事例設定、演者
背景、演習構成と方法、演習の効果について整理 した。その上でそれぞれの文献を比較検討して、
共通点や特徴を抽出し、今後の演習プログラムへ の示唆を得ることとした。
4 .
倫理的配慮著作権を侵害しないように文献の出典は明確に 表記した。
n .
結果対象とした文献
1 0
件の概要を表l
に示した。発表の年次推移は、
2 0 0 1
年に始まり2 0 0 2
年まで に2
件、2 0 0 7
年から2 0 1 3
年8
月までに8
件であっ た。1 0
件のうち模擬患者は7
件、準模擬忠者は3
件であった。
1 .
模綴患者を活用した演習 1) 概要(1) 演習内容と事例設定
コミュニケーションを演習内容とする文献は
2
件6 . 7 )
あり、グループホーム入所中の認知症高齢 者の入所間もない帰宅欲求の発言の場面、入所1
カ月ごろの食事を要求する場面、症状が進み外出 予定時刻に姿を現さない場而の
3
場面設定してい た。看護過程を踏む演習内容は5
件制2 )
であり、3
件は特別養護老人ホームに入所中の認知症高齢 者の食後に食行動を欲求する場面1 0 )
、帰宅欲求を 示す場面8 . 9 )
、水分摂取を促すが拒否される場面8 )
であった。
2
件は脳梗塞により片麻痔のある高齢 者が独居生活への不安を示す場面1 1 )
と、事例は 不明であるが、看護過程の一連を同一模擬患者で 展開する演習1 2 )
であった。(2) 演者背景
模擬患者は、認知症の
3
件8 ‑ 1 0 )
の事例と一連の 看護過程を同一模擬患者で展開する事例1 2 )
がボ ランテイア団体からの派遣であった。また所属は ないが演習担当教員が作成した事例を再現できる ように訓練を受けた人が脳梗塞の患者役1 1 )
、日ご ろからコミュニケーショントレーニングの患者役 を演じている人が認知症高齢者とのコミュニケー ション演習の模擬患者として協力7)
していた。他 l件は不明6)
であった。(3) 演習構成、方法
演習の方法は、学生グループの代表者が模擬息
模擬忠者を活用した高齢者看護学演習に関する文献検討
者とロールプレイを体験し、ロールプレイ後、
1 0
から2 0
分間、または1
単元時間を模擬患者から のフィードバックを受けて学生との意見交換をす る演習構成6 ‑ 1 2 )
であった。2 )
演習効果(1) 演習の特徴より得られた効果
認知症を事例とした演習
6
・1 0 )
では、接したこと のない認知症高齢者とのロールプレイを臨床の場 であるかのようにリアルな体験として受け止める ことができていた。また、その様子から認知症高 齢者のイメージがつき、肯定的に捉えることができていた。
脳梗塞による片麻縛の障害を抱えたまま独居生 活に戻る高齢患者の演習
1 1 )
では、事例患者の身 体、心迎、社会面の把握ができている模擬患者と のロールプレイにより、高齢者と向き合い、やり 直しのきかない看護を現実的に体験しつつ生きた 人間のリアリティを受け止め、看護者としての専 門的認識を形成する学習の場となった。一述の看護過程を展開する演習
1 2 )
では、同一 の模擬患者が事例に対して必要な援助を理解して いるため、それを考慮した継続的な演技が可能で あった。また回を重ねて模擬患者と関わること で、患者の理解が深り個別性に合わせた看護を工 夫、創造することが可能であった。(2) コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 工 夫 と フ ィ ー ド パックによる高齢者理解
コミュニケーション演習を目的とした認知症高 齢者の事例
6 . 7 )
からは、模擬患者から、学生の不 慣れな対応に対する意見や感想をフィードバック され、人の気持ちが表れる非言語的コミュニケー ションの意味について深く考えることができた。その考えから、対象者が納得できるような働きか けや対象者の話を理解することが、双方的な関係 基盤となり信頼関係につながることを学べてい た
7) 。
認知症高齢者の初期の中核症状を演じる模擬患 者に対応する演習
8
・1 0 )
では、学生は、コミュニ ケーションに戸惑いながらも真剣な模擬患者に向 き合い、学生自身が、対象への理解や行動を変化 させることで、適切な対応ができることを学べて いたo
そして、学生自身の戸惑いを塚本9 . 1 0 )
は「困 難感」と表現し、学生はその困難感を乗り越え、認知症高齢者の正直な心情に敬意を持って近づく
共 立 女 子 大 学 看 護 学 雑 誌 第1巻 (2014)
表 1 高齢者看護学における模嫌患者または準模鑓患者を活用した演習の概要
分
類 筆顕年 著 者 演内容 習 ロー E ル U 倒プ股レ定 イ設定 演 者 背 景 演習構成、方法 演 習 効 果
国 武 和 子 6) 記穏なし。
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姿勢へと変化することができ、さらに模擬患者か らのフィードパックにより認知症の高齢者の世界 に近づき、内省的なコミュニケーションのあり方 を思考し、共感的姿勢から認知症高齢者のケアへ の抱負を学ぶことができる
9 )
と述べている。看護過程の実施段階で模擬患者を活用した演 習
1 1 )
では、退院後の生活に不安を抱く脳梗塞の 高齢患者に対し、その思いを聴き片麻揮でありな がら独居生活を送るための支援について考える場 面であった。そのロールプレイからは、高齢者の 身体的機能低下による非言語的コミュニケーショ ンの方法や高齢者を尊重する姿勢や配慮を学び、高齢者と親和的関係を築くための方法を意識化す ることができた。また、高齢者には独自な生き方 があることを理解できていた。
同一の模擬患者に対して一連の看護過程を展開 する演習
1 2 )
では、看護過程展開の情報収集、不 足情報収集、看護計画の実施、報告会(フィード パック)の計4
回と重ねて同一模擬患者と関わる ことで、その患者の思いを知り患者像が膨らむこ とで、人となりを捉えることができるようになっ た。2 .
準模擬患者を活用した演習 1)概要(1)演習内容と事例設定
準模擬患者を活用した
3
件は、事例設定が不明 なフィジカルアセスメントの演習1 3 )
と、7 0
歳代 女性が左大腿骨頚部骨折で人工骨頭置換術を受け 術後4
日目の情報収集をするコミュニケーション 演習1 4 )
と、車椅子に座ることができるが自ら動 くことができない要介護5
の高齢者への援助技術 を5
項目実施する演習1 5 )
であった。( 2 )
演者背景フィジカルアセスメント演習
1 3 )
での準模擬患 者は、地域で催し物に参加する高齢者がボラン ティアとして5 8
名( 7 0‑83
歳 の 男 性7
名、女 性5 1
名)が協力していた。人工骨頭置換術後の 高齢者1 4 )
と要介護5
の高齢者1 5 )
は、特定の悶体 に所属してない一般の高齢者が演じていた。(3) 演習構成、方法
フィジカルアセスメント演習
1 3 )
では、地域で の催し物に参加する高齢者ボランティア5 8
名の 協力を得て、全学生が1
対1
でロールプレイする模擬忠者を活用した高齢者看護学演習に関する文献検討
ことができ、パイタルサイン測定と他の観察、問 診を40分間実施する演習が報告された。ロール プレイでは事例設定はなく、参加した高齢者ボラ ンテイア自身のフィジカルアセスメントの実施と なっていた。中には健康相談を受ける場面もあ り、教員がその対応に応じる構成となっていた。
コミュニケーション演習
1 4 )
と技術演習1 5 )
では、代表学生がロールプレイする演習であった。 演習構 成は、ロールプレイ中の模擬患者の反応や意見を フィードバックとして捉えて演習をすすめていた。
2 )
演習効果(1)淡習の特徴より得られた効果
準模擬患者の演習
1 3 . 1 4 )
では、実年齢が高齢期 である人を起用することで高齢者の加齢変化の実 態をリアルに感じ取る効果があり、高齢者を尊敬 する存在として捉えると同時に学生がエンパワー メントされる機会となった。それは、高齢者の身 体的特徴を既存の知識と関連づけながらその実態 を確かめ理解がより深まり、身体的特徴はその人 の生活史やライフスタイルの違いにより個別差が 他の年齢層より大きいことを実感していた。ま た、加齢変化を補う知恵により生活を工夫してい る一方、思いもよらぬ危険が潜み、安全な生活を 保障する支援が必要であることに気付けた。さら にコミュニケーションが発展すると、戦争体験を 語る高齢者から、歩んできた背景や経験から得た 価値観を次世代に伝承される貴重なものであると 捉えることができた。そして、身近な人の死や自 己の死についての誇りから、老年期の発達課題で もある「死の受容J
に関して、学生は実感をもっ て理解していた1 3 )
。(2) コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 工 夫 と フ ィ ー ド パックによる高齢者理解
一般高齢者が演じる準模擬患者の情報収集段階 におけるコミュニケーションの演習
1 4 )
では、学 生は得たい情報を得ることができない体験を通し て、自己中心的に情報を得ょうとしている傾向に 気づけた。そして、コミュニケーション演習の ロールプレイの過程において、準模擬患者がその 時に感じた気持ちを言葉や態度でフィードバック するため、相手の気持ちを予測や想像で終わら ず、一つの見解を得ることができた。要介護
5
の高齢者演じる準模擬患者を対象に看 護技術を提供する演習1 5 )
では、ロールプレイ中、共 立 女 子 大 学 看 護 学 雑 誌 第
1
巻( 2 0 1 4 )
その都度フィードパックを受けることで、高齢者 のイメージを実像化しながら看護技術を実践する ことができた。
m .
考察1 .
演者の特性を生かした多様な演習内容 コミュニケーションi
寅習、フィジカルアセスメ ント演習、技術演習、看護過程展開演習、疾患を 持った高齢者事例、認知症高齢者事例など様々な 演習内容においても、リアルな臨床場面を再現で きていた。模擬患者が本物の患者のように振る舞 い、自由度の高い演技ができる状況は、高齢者看 護のシミュレーション学習の1
つ1 6 )
として活用 性は広い。高齢患者の特色ある様々な場面設定で あっても、模擬患者を活用した演習は基礎的な学 習を得る有用な方法と言える。このリアルな状況 の再現は、既存の知識からさらに実感を得た理解 に変化し、学生は高齢者のイメージがより深まる ことになる。現在、看護学教育で活用されている模擬患者の 種 類 は 、 標 準 模 擬 患 者
( s t a n d a r d i z e dp a t i e n t )
と一般模擬患者
( s i m u l a t e dp a t i e n t )
であるo
一 定のレベルで標準化され、学生に対して公平かっ 公正に対応する標準模擬患者はOSCE
に活用さ れる1 7 )
のに対し、高齢者看護学では一般模擬患 者が主流であった。一般模擬患者は、簡単なシナ リオによる自由度のある演技ができ、数名で同じ 設定を演じる事例であっても他の模擬患者と演技 を厳密に合わせる必要はなく、また学生の演習へ のフィードパックはするが演習内容の評価はしな い、といった特徴がある1 7 )
。高齢者の特性や個別 性を学習する目的には、一般模擬患者を用いることが適していると考えられる。
そして、演者の背景は、高齢者を理解すること を演習目的の一つにしていることが多く、演者の 実年齢が高齢期であることが特徴であった。この ことは、高齢者を理解する学習効果があった。高 齢者との関わりの少ない看護学生は、実習におい て高齢者とのコミュニケーションを難しく感じて おり、看護学生が高齢者の現実の姿に適合するコ ミュニケーション技術を獲得するための教育方法 の工夫が迫られている
1 6 )
。その工夫のーっとして 高齢期にある模擬患者を活用した演習は、コミュ ニケーション技術の獲得に有用であると言える。それは、人である模擬患者を相手に実施する演習 であることから、どのような演習内容であっても 看護の基本となるコミュニケーション技術の実践 は必須である。高齢者とのコミュニケーションを 体験することで、視聴覚に関連した加齢変化や認 知機能の低下を実感するとともに、その対応の難 しさの理解につながる
7
・1 4 )
ことは明らかであっ た。そして、コミュニケーションが発展すること で、その人の心情や生きてきた生活史、身近な人 の死の体験の語りより、老年期における発達課題 である「死の受容J
に触れることができる1 3 )
。ま た、高齢者を援助する者として、高齢者の尊厳を 意識する姿勢について自己洞察する機会となって いるか1 1 . 1 3 )
。高齢者の身体的加齢変化に関連した コミュニケーションの工夫を考え実施する演習 や、その人個人の体験を語ることで老年期の発達 課題を実感できることを目的とするなら、準模擬 患者であっても実年齢が高齢期であることでその 効果は期待できる。そして、模擬患者を活用した 演習では、代表学生のみが模擬患者とロールプレ イをすることが構成上の限界であるが、大勢の一 般高齢者の協力を得られる状況であれば、準模擬 患者としてその学習目的は達成できると考える。模擬患者は、設定された事例をリアルに「演技」
することと、学生から受けた対応や援助に対する 感想、や意見を「フィードバック
J
する役割を担う ために、一定の訓練を受けている。「演技J
の点 では、自分とは違う人生を送っている患者を演じ るため、病気や症状、治療における身体、精神的 苦痛、それらを含めた患者の考え方、心配や不安、家族や仕事なと
e
の社会的背景を演技の中で学生へ 伝えること1 8 )
が求められている。また、「フィー ドパック」は、ロールプレイで見ているだけでは 分からない患者の心の動きについて学生に伝える 役割がある。そしてこの心の動きを伝えること で、学生が自己の対応について内省できることが 模擬患者の最大なる目標になる。それには、ロー ルプレイ中の患者の感情がどのような事実で動い たかを思い起こす能力が必要となる1 8 )
。これらの 模擬患者の役割から考えると、高齢者看護学の演 習においては、初期段階の認知症高齢者の世界を 表現したり、ある疾患の高齢患者の一連の看護過 程の展開では同じ事例を数回演じたり、機能障害 を持った生活を営むことへの不安をその人の社会模擬患者を活用した尚齢者看護学演習に関する文献検討
背景も含めて表現することが求められる。そし 力を育めるのではないかと考察する。
て、ロールプレイで受けた援助に対するフィード バックのために、患者役として受けた心の動きを 看護実践者としての学生が振り返り内省できるよ うな感想や意見を伝えるには、訓練を受けた模擬 患者こそが担える演習内容であると考える。
2 .
認知症高齢者事例演習の可能性認知症のケアは、認知症の人たち自身の声に耳 を傾けきめ細やかに心を配りながら寄り添い、認 知症の人 その人"の視点に立ち共感を持って理 解しようとする姿勢そのものが重要である
19)o
そ して、認知症高齢者の言動の理解にはその人が持 つ本質や人間性を看護師自身が実感することが重 要である2 0 )
と言われている。しかし、臨床の看 護師であっても認知症の特異的行動に衝撃を受け 混乱し、嫌悪や恐怖、苛立ちといった感情を持 つ2 1 . 2 2 )
ため、認知症高齢者と関わりのない学生 にとっては、認知症のケアに対して驚きや困惑と いった否定的な感情を持ち対応が困難であると感じるお)ことは、当然のようである
o
このように、認知症高齢者に対する否定的な認 識を持つ学生が、認知症のケアの基本について学 ぶ学習方法として、模擬患者を活用した演習は有 用であると考える。それは、症状の表現が難しい 認知症高齢者をリアルに演じることができること が理由のーっとなる。また、認知症高齢者とのコ ミュニケーションのとり方の原理や患者の心情の 学習が深められ、学生のケアに対する安心感や気 遣いについてのフィードパックが学習の動機付け になる
7 )
成果や、模擬患者が演じる認知症高齢者 の世界に歩み寄ることの大切さを喜びとして感じ ることができる1 0 )
成果が得られたからである。よって、認知症高齢模擬患者を活用した演習は、
ロールプレイで模擬患者が受けた感情をフィード パックで知ることができ、学生が自己洞察する機 会を得られることになる。認知症高齢者はコミュ ニケーションの疎通が難しく、率直な心情を伝え ることが困難である
o
患者の立場に近い人から、援助を受けるものとして直接本心を伝えてもらえ る、数少ない機会になりうる
w
のではないかと 考える。実習前に臨床の場では得ることのできな い体験をすることで、認知症高齢者の世界に寄り 添おうとする姿勢やその世界を想像しようとする3 .
模擬患者の活用における課題本調査では、訓練を受けていない一般高齢者が 準模擬患者として参加した演習においても学習効 果があることが分かった。 演者が高齢者であれ ば、個別差はあるものの外見上の変装は不要で、あ り、コミュニケーションに関連した諸機能の低下 も自然体のままで十分高齢者のリアリティは表現 できる。演者が高齢者であるだけでも、学生は高 齢者の理解が深まることが確認できた。しかし、
OSCE
の活用の広がりとともに、一般模擬患者を 用いた演習も普及しつつある1 8 )
経過の中で、模 擬患者の定義上、一定の訓練を受けた演者を模擬 患者と称するところ、訓練を受けていない患者役 も「模擬患者J
と表現している文献があった。一 定の訓練を受けたものを模擬患者として活用する ことが教育効果を高める上で重要で、ある1 8 )
ため、模擬患者の定義を厳守した表現が求められるとと もに、加齢による身体的機能低下やコミュニケー ション方法の特徴を実感として学生が理解するた めにも、高齢期演者の実年齢も学習効果を上げる 要素として考慮する必要があると考える。
N .
結論高齢者看護学における模擬患者または準模擬患 者を活用した演習の効果について
1 0
件の文献を 検討した結果、どちらもリアリテイのある演習が できることと、高齢者の現実の姿に適合するコ ミュニケーション技術を獲得するための教育方法 になるという点に加え、以下の2
点の示唆が得ら れた。l. 模擬患者の演習は、症状の表現が難しい認 知症事例や、障害をもち生活の不安を抱え た患者を社会背景も含めて演じる事例、継 続した患者の過程を再現できる一連の看護 過程演習の実施が可能で、ある。これらの事 例より、認知症高齢者の世界に寄り添おう
とする姿勢を育むことができ、対象を理解 する力と個別の援助について考え実施する ことができる。そして、模擬患者が疾患を 理解し患者の背景も含めた演技ができるこ と、学生の学習を深める効果的なフィード
共立女子大学看護学雑誌第
1
巻( 2 0 1 4 )
パックができるように訓練を受けていると いう特性を活かすことが重要である。
2 .
準模擬患者の演習は、演者の実年齢が高齢 期であれば演者自身の体験談を語ることで、高齢者の身体的機能低下や「死の受容」
の発達課題など、高齢者の特徴を理解する ことができる。この場合、大勢の演者を準 備することで全学生のロールプレイの実施 も可能であり、その人の生き方による個人 差があることへの理解が深まる。
今後の高齢者看護学における模擬患者または準 模擬患者を活用した演習の課題は、模擬患者の演 習が普及しつつある経過の中、模擬患者の定義を 厳守するとともに、演者の実年齢も学習効果を上 げる要素として考慮することである。
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