奈良教育大学学術リポジトリNEAR
家族の再編成 ―『砂の城』における自己認識の獲 得と社会化の過程―
著者 門田 守
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 36
ページ 23‑33
発行年 2000‑03‑01
その他のタイトル The Reorganization of a Family: The
Acquisition of Self‑awareness and the Process of Socialization in The Sandcastle
URL http://hdl.handle.net/10105/7034
家族の再編成
一『砂の城』における自己認識の獲得と社会化の過程 ‡
門田 守.
(英米文学研究室)
要旨:『砂の城』は平凡な中年夫婦と若い女流画家がそれぞれの自己認識 を獲得し、社会化の過程を遂げるまでの小説である。モア夫妻はいわば倦 怠期に陥った夫婦であり・彼らの家庭を崩壊寸前にまで追い込む画家のレ インは最愛の父親を失ったばかりの状態で登場する。彼女は己の芸術的支 えを失っているのだ。彼らに加え、モア夫妻の息子ドナルドと娘のフェ■j
シティはそれぞれがパブリック・スクールと義務教育の終了年次にあり・
両者とも進路に対して展望が開けていない。彼ら全員がそれぞれに己のア イデンティティを掴みきれず、自閉塞的環境において岬吟している。彼ら が己の自閉塞状態から脱却するメイン・プロットは、『砂の城』がイギリ ス伝統の、登場人物の自己教育力に関わる教養小説に樟ざしていることを 表している。主要登場人物のアイデンティティの獲得と社会化の過程につ いて追ってみたい。
キーワード:マードック、アイデンティティ、社会化
1、崩壊していく家庭
マードック(Iris Murdoch,1919−99)の『砂の城』(肋e Sαηdcαs此,1957)は、平凡なイ ギリス人夫妻の家庭が崩壊していくさまと、その再構築を扱っている。その家庭は夫のウィリア ム(Wi11iam)、妻のナン(Nan)、息子のドナルド(Dona1d)、娘のフェリシティ(Fe1icity)
のモア家(the Mores)である。彼ら家族の関係はかつての親密さを失った、もはや崩壊の寸前 の状態にある。いわばこの家庭は乾ききった、崩れつつある「砂の城」なのだ。
この家族はそれぞれに自己認識を獲得していき、盤石とはいえないまでも安定した相互関係を 築き上げていく。そのいわば自己回復能力の称揚という面を考えてみれば、この小説がイギリス 伝統の教養小説(B〃α昭sro肌㎝)に樟さしていると言えるだろう。『オックスフォード英文学 案内」(肋e0ガ。rd Co肌ρα兀{㎝士。肋8脆ん〃θrα炊e)の編者トラブル(Margaret Drabb1e)
は、教養小説を定義して [the]nove1s of education川(100)と言う。教育が自己の成長に関 わるアイデンティティの獲得を促すものであれば、『砂の城』は主要登場人物の人間的成長を扱 いつつ・まさに教養小説の側面を露わにしていると言えるだろう。
まず、モアはこの家庭から逃避したかったのである。彼はセント・ブライス校(theStBride s
‡The Reorganization of a Fami1y:The Acquisition of Se1f−awareness and the Process of Socia1ization inク狗e Sαηdcα8〃e
ヰ