9──中国の産業競争力の評価(2000‒2010)
一 中国のこれまでの産業競争力研究の概要
一九九〇年代半ば︑中国の研究機関や大学は産業競争力研究を開始した︒中国人民大学は︑一九九六年に『中国国際競争力報告』を出版し︑中国社会科学院工業経済研究所は︑一九九七年に『中国工業国際競争力││理論︑方法と実証研究』を出版した︒両書はともに︑国際産業競争力の評価指標体系を参考にするとともに︑中国の実情に基づいて︑それに見合った数値を足し引きし︑中国の特色をもつ初歩的な産業競争力の評価指標体系を作った︒その後︑産業競争力研究は︑中国学界が注目する論点の一つとなり︑ 研究者はさまざまな角度から︑さまざまな産業競争力の評価指標体系を提起している︒ 研究の深化につれて︑中国学界は︑産業競争力に関する海外の研究も次第に重視するようになり︑海外の学界の研究成果が中国語に翻訳された︒例えば︑ローザンヌにある国際経営開発研究所︵IMD︶所属の世界競争力センター︵WCC︶が一九八九年以降毎年発表している『世界競争力年鑑』や︑アメリカの経済学者マイケル・ポーターの産業競争力と企業競争力に関する著作等は中国語に翻訳されている︒中国政府も︑産業競争力の評価体系と評価結果をますます重視するようになった︒海外の関連成果を参考に︑中国学界の産業競争力に関する研究は徐々に深化し︑研究成果はさらに精緻になっている︒しかし海外研究との
中 国 の 産 業 競 争 力 の 評 価 ( 二 〇 〇 〇 ‒ 二 〇 一 〇 )趙
英
︵訳=高橋真理子︶
●●●●● 論 説 ││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││││中国の産業競争力
リンクには注意を要する︒というのは中国の国情︵中国は発展途上国であること︑中国の経済システムは先進国と大きく違うこと︑正確なデータの取得が比較的難しいこと等︶から︑中国学界が行っている評価と研究の指標体系は︑海外の指標体系とかなり違いがあるからである︒ WTO加盟後︑中国経済システムの開放度はかつてないほど上昇し︑各産業は外部からの競争に対して非常に警戒しているが︑産業に対して中国政府のできる保護はWTOの枠内にとどまる︒そのため政府関係部門や仲介機構︑企業は︑産業競争力研究をより重視し︑産業競争力研究が政策制定の根底になっている︒例えば︑商務部が産業損害調査を行うさい︑産業競争力と産業の安定性︹訳注=原文は「産業安全」︒公平な経済貿易関係のもとでの安定・調和した秩序ある産業の発展を意味するが︑日本語として馴染みにくいので「産業の安定性」と訳す︺の研究を非常に重視する︒国家発展改革委員会も関連する研究を行っている︒関係政府部門は研究を進め︑さまざまな産業競争力の評価体系を作成している︒これらの評価体系はそれぞれ重点が異なるが︑明確な政策指向をもっている︒例えば︑科学技術部は海外の関連成果を参考に︑中国の科学技術競争力の評価を行っている︒ 筆者は︑政府関係部門が委託した「WTO加盟以後の産業の安全性の状況評価」を主宰した︒求められる課題に 従って︑政府部門が操作しやすく︑産業の安定性評価に基づいた産業競争力の評価体系を作成し︑これらの指標体系を用いて︑中国の産業競争力と産業の安定性について三度︵二〇〇六年︑二〇〇七年︑二〇一〇年︶の評価を行った︒ 二〇一〇年以降︑筆者は︑産業や企業の競争力を視覚的かつ平易に評価できる初歩的な「企業のコア技術力の評価体系」を作成した︒この体系は操作しやすく︑産業や企業のコア技術力と技術水準を大まかに表すことができる︒中国は世界の工業大国になったが︑いまだ工業強国の段階には至っていない︒この指標体系を用いると︑中国工業の真のレベルがよりはっきりと映し出され︑中国と先進国の同種産業のレベルの差が浮き彫りになる︒ 本論では︑政府部門のために作成した産業競争力の評価指標体系を用いると同時に︑企業のコア技術力の指標体系を用いている︒この二つの評価指標体系を用いて︑中国の産業競争力についてそれぞれ評価した後︑さらにこの二つの体系の評価結果に照らして︑中国の産業や企業の競争力についての全体的かつ基本的な総合分析を行った︒
表1 産業競争力の評価指標体系
産業競争力の評価指標
一次指標 二次指標
産業生存領域の 評価指標
貿易特化係数 国際市場占有率 国内市場占有率 産業集中度 顕示比較優位指数 産業支配力の
評価指標
産業技術の対外依存度 ブランドシェア 外資の市場支配率 産業成長性の
評価指標
販売収入増加率 資産総額増加率 従業員数増加率
11──中国の産業競争力の評価(2000‒2010)
二 産業競争力の評価指標体系に基づく中国の産業競争力分析
㈠ 産 業 競 争 力 の 評 価 指 標 体 系
産業の安定性という角度からみた産業競争力の評価指標体系は表1のとおりである︒ 貿易特化係数は︑当該産業について当該国が純輸出国かあるいは純輸入国かが明らかになり︑純輸入あるいは純輸出の相対的な規模が明らかになる︒貿易特化係数がプラス︵すなわち純輸出︶なら︑当該製品の生産効率は国際レベルを上回り︑輸出競争力がより強いことを表すが︑逆に貿易特化係数がマイナス︵すなわち純輸入︶なら︑輸出競 争力がより弱いことを意味する︒
国際市場占有率は︑世界輸出総額に占める当該国の輸出総額の比率で︑当該国の産業や製品の国際競争力および競争地位の変化を明らかにし︑比率の高低は当該国の産業と当該製品の輸出競争力の強弱を表す︒比率が高ければ当該製品の国際競争力はより強く︑逆の場合はより弱い︒ 国内市場占有率は︑国内当該産業の国内市場売上高と国内市場総売上高の比である︒この指標は︑国内当該産業の国内市場における生存領域を表し︑比率が大きいほど生存領域は大きい︒ 産業集中度は︑市場において︑生産量︑売上高︑資産総額などの面で当該産業の上位にいる企業の︑当該産業に対する支配の程度を示す︒産業集中度の如何によって︑当該産業内の競争状態や産業組織の構造︑当該産業の主要企業の規模と競争力が明らかになる︒ 顕示比較優位指数︵RCA︶は︑当該国の産業総輸出額に占める当該産業の輸出額のシェアと︑全産業の世界輸出総額に占める当該産業の世界輸出総額のシェアの比率である︒この指数は︑一国の当該産業の競争優位性を明らかにし︑産業競争力の強弱を評価する重要な指標の一つである︒ 産業技術の対外依存度は︑海外技術に対する国内産業の依存の度合いで︑科学技術総支出に占める技術導入費の比
率を用いて技術依存度を表すことができる︒技術の対外依存度が高いほど︑産業の自発的創造力は劣り︑国際競争力や産業の安定性にも影響を及ぼす︒ ブランドシェアは︑市場に対する国内ブランドの影響度を表し︑当該産業の国内ブランドの市場シェアと当該総産業の市場シェアの比率によって測られる︒国内ブランドシェアが高いほど︑産業競争力は高く︑産業の安定性も高い︒ 外資の市場支配率は︑主に国内市場シェアの面から国内産業に対する外資の支配状況を映し出すもので︑主に外資系企業の国内市場に対する支配の度合いを表す︒この指標は︑国内当該産業の市場総売上高に占める外資系企業の市場総売上高の比で測ることができる︒ 販売収入増加率は︑国内当該産業の一定規模以上の企業︵中国統計局の統計範囲に入る企業︶における本年の販売総収入と前年の販売総収入との比率である︒この増加率が高いほど︑当該産業の市場成長性が良好である︒ 資産総額増加率は︑国内当該産業の一定規模以上の企業における本年の資産総額と前年の資産総額との比率である︒この増加率が高いほど︑当該産業の要素投入成長性は良好である︒ 従業員数増加率は︑国内当該産業の一定規模以上の企業における本年の従業員総数と前年の従業員総数との比率で ある︒この増加率が高いほど︑当該産業の成長性は良好である︒
㈡ 産 業 生 存 領 域 の 評 価 指 数 に よ る 評 価
⑴ 貿易特化係数 計算式︵Xi −Mi︶/︵Xi+Mi︶を用いて中国の重点産業の貿易特化係数を計算し︑二〇〇一〜二〇一〇年のこれらの産業の生産効率レベルを分析し︑その輸出競争力の変化を述べる︒選択した産業は表2︑計算結果は表3のとおりである︒ 分析結果から︑選択した七種の産業の二〇〇一年の貿易特化係数はいずれもマイナスで︑その生産効率は国際レベルを下回っており︑輸出競争力が比較的弱いことが見て取れる︒二〇一〇年になると︑貿易特化係数がプラスの産業は三種になっている││金属製品業︑電気機械および器材製造業︑交通輸送設備製造業││︒二〇〇一年の貿易特化係数に比べてこの三種の産業は︑二〇一〇年の貿易特化係数がマイナスからプラスに転じ︑輸出競争力が強まっただけでなく︑純輸入から純輸出に転じている︒このうち金属製品業と電気機械および器材製造業の製品の貿易特化係数の上昇はより大きく︑それぞれ〇・一九ポイントと〇・二四ポイントである︒そのほかの四種の産業の二〇一〇年の貿易特化係数はマイナスで︑なかでも採掘業と計器類製造業
表2 産業競争力分析のため選択した製品
産 業 代表的な製品
採掘業 鉱産物
化学原料および
化学製品製造業 化学工業およびその関連工業の製品 プラスチック製造業 プラスチックおよびプラスチック製品 金属製品業 卑金属および卑金属製品
電気機械および
器材製造業 電気設備およびその部品:テープレコーダーおよびテーププレー ヤー、テレビ画像・音声録音・再生装置とその部品・付属品 交通輸送設備製造業 自動車・航空機器・船舶および関連輸送設備
計器類製造業 光学、写真、映画、計量、検査、医療・外科用器具および設備、精 密機械および設備:これら製品の部品・付属品
出所:『中国統計年鑑』2011年版による。
表3 2001年と2010年における主要産業の貿易特化係数とその変化 産 業
2001年 2010年 貿易特
化係数の変化 輸出 輸入 貿易特
化係数 輸出 輸入 貿易特 化係数
採掘業 98.54 225.04 ‒0.39 303.75 3,030.28 ‒0.82 ‒0.43 化学原料および
化学製品製造業 127.95 190.71 ‒0.2 749.73 932.07 ‒0.11 0.09 プラスチック製造業 83.22 173.32 ‒0.35 495.92 806.3 ‒0.24 0.11 金属製品業 161 219.13 ‒0.15 1,107.99 1,030.93 0.04 0.19 電気機械および
器材製造業 848.91 964.42 ‒0.06 6,985.68 4,864.72 0.18 0.24 交通輸送設備製造業 93.83 100.17 ‒0.03 888.74 655.95 0.15 0.18 計器類製造業 84.67 106.54 ‒0.11 566.25 923.36 ‒0.24 ‒0.13 出所:『中国統計年鑑』2002、2011年版の関係データをもとに整理・計算した。
表4 2010年における中国の輸出競争優位性のある産業
産 業 代表的製品
金属製品業 卑金属および卑金属製品 電気機械および
器材製造業 電気設備およびその部品:テープレコーダーおよびテーププレー ヤー、テレビ画像・音声録音・再生装置とその部品・付属品 交通輸送設備製造業 自動車・航空機器・船舶および関連輸送設備
出所:表3をもとに整理した。
13──中国の産業競争力の評価(2000‒2010)