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金融

ADR

の現状と問題点

甘 利 公 人

■アブストラクト

2010年は金融ADR元年である。裁判外紛争解決制度(ADR)には,裁 判との比較において,迅速性,簡易性,廉価性,柔軟性,秘密性,専門性な どに利点がある。新たな金融ADR制度のもとで,生命保険協会など7団体 が指定紛争解決機関として認定された。そこで,金融ADRの概要をみたう えで,各協会の相談所等の業務規程を比較しながら,金融ADRの裁定等の 判断基準,裁定の受諾義務,裁定申立手続の要件などの主要な問題点を検討 する。

裁定等の判断基準については,金融ADRのメリットを十分に生かすこと を主眼とするならば,イギリスのFOSのように法律や判例にとらわれない 解決方法が望ましい。また, 裁定の受諾義務については,契約者等の保護 の観点から,裁定機関との契約上の義務として,これを認めるべきである。

さらに,裁定申立手続の要件として, 苦情等の申立を受け付けるために一 定の要件を課している場合があるが,これを厳しくすると保険契約者の保護 に欠けるので,このような制限は合理的に制限すべきである。

■キーワード

ADR,裁判外紛争解決,消費者保護

*平成22年10月24日の日本保険学会大会(早稲田大学)報告による。

/平成23年4月1日原稿受領。

ADR

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1.はじめに

⑴ ADR の意義

裁判外紛争解決制度(Alternative Dispute Resolution,以下ADRとい う)は,訴訟手続によらずに民事上の紛争解決をしようとする紛争の当事者 のために,公正な第三者が関与して,その解決を図る手続をいう(裁判外紛 争解決手続の利用の促進に関する法律1条,以下ADR法)。2004年にこの ADR法が制定され,ADRについての法的な基盤が整備された 。この法律 は,ADRの基本理念や国の責務等を定める総則部分と認証紛争解決手続

(認証ADR)について定める部分からなる。ADRには,裁判との比較では,

迅速性,簡易性,廉価性,柔軟性,秘密性,専門性などに利点がある,とい われている 。

⑵金融 ADR

また,いわゆる金融ADR制度に関する金融商品取引法等の一部を改正す る法律が2009年6月に公布され,2010年の4月1日に施行された。この金融 ADR制度は,一定の能力のある中立・公正な指定紛争解決機関を設立して,

この機関により紛争の解決を図るものである。これにより金融ADRは,金 融商品取引法,銀行法,保険業法等において,共通の枠組みが整備されたこ とになる。

そして,金融ADR制度のもとで金融庁から,生命保険協会など7団体が 指定紛争解決機関として認定された 。そこで,本共通論題では,現在行わ れている各協会ベースでの苦情相談がどのようなスキームで処理されている のかについて,そこにある問題点を検討したうえで,2010年の4月から施行 1) 山本和彦=山田文・ADR仲裁法(日本評論社・2008年)参照。また,和田

仁孝編・ADR理論と実践(有斐閣・2007年)参照。

2) 山本=山田・前掲注1)12頁参照。

3) 他には,全国銀行協会,信託協会,日本損害保険協会,保険オンブズマン,

日本少額短期保険協会,日本貸金業協会がある。

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された保険法との関係で,今後の指定紛争解決機関の課題を検討・考察する ものである 。

2.金融 ADR の概要

金融ADRについては,平成21年6月24日に公布された 金融商品取引法 等の一部を改正する法律(平成21年法律第58号) により創設され,保険業 務における裁判外紛争解決制度についても,金融商品取引法等の一部を改正 する法律により改正された保険業法の規定により創設されたものである。

金融商品取引法等の一部を改正する法律 が公布された後,平成21年12 月28日, 金融商品取引法施行令の一部を改正する法律の施行期日を定める 政令(平成21年政令第302号) および 金融商品取引法等の一部を改正する 法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令(平成21年政令第303号) ,

金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令 の整備等に関する内閣府令(平成21年内閣府令第78号) が公布され,これ により保険業法施行令,保険業法施行規則についても改正がなされた。

⑴指定紛争解決機関の指定・監督

内閣総理大臣は,申請に基づき紛争解決等業務を行う者(法人)の指定・

監督を行う。指定紛争解決機関が,中立性・公正性あるいは実効性等を有し ているかは,行政当局による指定・監督により担保される(保険業法308条 の2第1項)。

⑵保険会社の義務

保険業関係業者は,指定紛争解決機関への加入義務すなわち手続実施基本 4) 野口直秀 金融分野における裁判外紛争解決制度について 生命保険論集 171号153頁(2010年),松澤登 英国オンブズマン制度に関する一考察 生命 保険論集168号207頁(2009年)参照。また,権藤幹晶 生命保険業務における 裁判外紛争解決制度について 生命保険論集174号143頁(2011年)参照。本報 告は,権藤論文に多くの示唆を受けているものである。

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契約の締結義務を負う。指定紛争解決機関の申請を行おうとする者は,保険 業関係業者に対し,業務規程の内容を説明しなければならない(308条の2 第2項)。

加入保険業関係業者は,手続実施基本契約上の義務として,①苦情処理手 続,紛争解決手続の応諾,②事情説明・資料提出,③特別調停案の受諾の各 義務を負う(308条の7第2項)。正当な理由がなくこれらの義務に違反した 場合には,指定紛争解決機関により業者名の公表,監督当局への報告がなさ れる(308条の8)。これらの義務は,手続実施基本契約上の義務であり,そ の債務不履行が生じた場合には,保険業関係業者の意見を聞いたうえで,正 当な理由がないと認めるときに,はじめて公表することができる。しかし,

その正当な理由がないことの判断はどのようになされるのであろうか。

⑶金融 ADR の利用

①苦情・紛争の定義

指定紛争解決機関が行うべき紛争解決等業務は, 苦情処理手続 及び 紛争解決手続 に係る業務ならびにこれに付随する業務である(2条40項)。

保険業法上の 苦情処理手続 とは,保険業務等関連苦情を処理する手続を いい(同条38項),保険業法上の 紛争解決手続 とは 保険業務等関連紛 争について訴訟手続によらずに解決する手段 をいう(同条39項)。

②保険の業務に関連する苦情・紛争

業務分野に則して種別が指定される。この紛争解決等業務の種別とは,紛 争解決等業務に係る生命保険業務,損害保険業務,外国生命保険業務,外国 損害保険業務,特定生命保険業務,特定損害保険業務,少額短期保険業務及 び保険仲立人保険募集の種別をいう(2条41項)。

③紛争解決委員等による苦情・紛争の限定

紛争解決委員は,申立てに係る当事者である加入保険業関係業者の顧客が,

その保険業務等関連紛争を適切に解決するに足りる能力を有する者であると 認められること,その他の事由により紛争解決手続を行うのに適当でないと

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認めるとき,または当事者が不当な目的でみだりに申立てをしたと認めると きは,紛争解決手続を実施しない(308条の13第4項)。

⑷金融 ADR における苦情処理・紛争解決手続き

紛争解決委員は,人格が高潔で識見の高い者であって,次の各号のいずれ かに該当する者(当事者と利害関係がある者を除く)から選任されなければ ならない(308条の13第3項)。①弁護士であって,その職務に従事した期間 が通算5年以上である者,②保険業務等に従事した期間が通算して10年以上 の者,③消費生活に関する消費者と事業者との間に生じた苦情に係る相談そ の他の消費生活に関する事項について専門的な知識経験を有する者として内 閣府令で定める者,④当該申立てが司法書士法3条1項7号に規定する紛争 に係るものである場合にあっては,同条2項規定する司法書士であって同項 に規定する簡裁訴訟代理等関係業務に従事した期間が通算して5年以上であ る者,⑤前各号に掲げる者に準ずる者として内閣府令で定める者,以上であ る。

⑸紛争の解決

①特別調停案

特別調停案とは,和解案であって,加入保険業関係業者が受諾しなければ ならないものをいう。ただし,1)当事者である加入保険業関係業者の顧客 が当該和解案を受諾しないとき,2)当該和解案の提示の時において当該紛 争解決手続の目的となった請求に係る訴訟が提起されていない場合において,

顧客が当該和解案を受諾したことを加入保険業関係業者が知った日から1月 を経過する日までに当該請求に係る訴訟が提起され,かつ,同日までに当該 訴訟が取り下げられないとき,3)当該和解案の提示の時において当該紛争 解決手続の目的となった請求に係る訴訟が提起されている場合において,顧 客が当該和解案を受諾したことを加入保険業関係業者が知った日から1月を 経過する日までに当該訴訟が取り下げられないとき,4)顧客が当該和解案

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を受諾したことを加入保険業関係業者が知った日から1月を経過する日まで に,当該紛争解決手続が行われている保険業務等関連紛争について,当事者 間において仲裁法2条1項に規定する仲裁合意がされ,または当該和解案に よらずに和解若しくは調停が成立したとき,以上の場合には受諾義務はない。

②時効の中断

紛争解決手続によっては保険業務等関連紛争の当事者間に和解が成立する 見込みがないことを理由に紛争解決委員が当該紛争解決手続を終了した場合,

当該紛争解決手続の申立てをした当該保険業務等関連紛争の当事者が,その 旨の通知を受けた日から1月以内に当該紛争解決手続の目的となった請求に ついて訴えを提起したときは,時効の中断に関しては,当該紛争解決手続に おける請求の時に,訴えの提起があったものとみなされる(308条の14第1 項)。

指定紛争解決機関の紛争解決等業務の廃止が,308条の23第1項の規定に より認可され,または308条の2第1項の規定による指定が,308条の24第1 項の規定により取り消され,かつ,その認可又は取消しの日に紛争解決手続 が実施されていた保険業務等関連紛争がある場合,その紛争解決手続の申立 てをした保険業務等関連紛争の当事者が,308条の23第3項もしくは308条の 24第4項の規定による通知を受けた日またはその認可もしくは取消しを知っ た日のいずれか早い日から1月以内に紛争解決手続の目的となった請求につ いて訴えを提起したときも,1項と同様である(同条2項)。

⑹他の ADR との関係

指定紛争解決機関は,他の指定紛争解決機関又は他の法律の規定による指 定であって紛争解決等業務に相当する業務に係るものとして政令で定めるも のを受けた者(受託紛争解決機関という)以外の者に対して,苦情処理手続 又は紛争解決手続の業務を委託してはならない(308条の6)。しかし,この ような委託の制限は,利用者の立場から見た場合には,不当な制限となり利 便性を害するものであり,利用者の不利になる場合を除いては,制限的に解

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するべきである。

3.金融 ADR における問題点

⑴裁定等の基準について

紛争解決機関には裁定型と調停型があるが,いずれにしてもその際の判断 基準は何によるものか。裁判外紛争解決といっても,その判断基準は従来の 判例や保険法などの規律によることになるのであろうか。個別具体的な事案 のもとでは,これらと異なる判断基準が必要となる場合もあるであろう。し かし,そうであるからといって場当たり的な判断基準により裁定がなされる ならば,裁定そのものへの信頼を損なうことにもなり,ひいてはADRの存 在意義も疑問視されることにもなりかねない。

この点については,大岡裁きか簡易裁判手続のどちらかという議論がかつ てなされた 。例えば,裁判に準ずる形で,証拠を集めて事実を立証し真実 をできるだけ明らかにしたうえで,同様の事実関係から得られる結論が,毎 回そんなに違わず,法的安定性があり,先例拘束性に近い性格が与えられ,

当事者による予見可能性が高い制度をより重視するという簡易裁判手続と,

このような手続は,その分事実認定を厳密にすべきこととなり,時間がかか りがちなので,事実認定についてそれほど厳密なことを求めずに,より柔軟 性,迅速性を重視し,当事者の納得を優先するという大岡裁きが想定される。

どちらにウエートを置くのか,どちらをより目指すのかは,意見が分かれる ところである。

金融ADRの創設に際して参考とした英国の金融オンブズマンサービス

(Financial Ombudsman Service,以下FOS)では,裁定基準について,

衡平かつ合理的(fair and reasonable)な判断基準によることを明らかに している。この衡平かつ合理的という判断原則は,関連法令,規則・規定,

ガイドライン,業界の行動規範などがあるが,個々のケースにおいて一律的

5) 座談会 金融ADRのあるべき姿 金融法務事情1887号59頁(2010年)〔井 上聡〕参照。

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な法律の解釈では必ずしも衡平な結果をもたらさない場合,法律からだけで なく,何が衡平であるかをより広い観点から吟味して,場合によっては法律 に従わない救済策を提供することが認められており,一般的な裁判所の仲裁 は法的処理の色彩が濃く関係者の法律上の立場(合法性の要件を満たしてい るか否か)のみに拘束されるのに対し,FOSは法律以外の多様な要素を吟 味し,当事者の相互理解を促進し,問題の原因を認識し,衡平な解決方法を 柔軟に検討する 。ただ法律や判例に拘束されないということは,FOSにと ってメリットではあるが,それはまた個々の事案ごとに判断基準を変える危 険性もあることにもなる 。

日本共済協会の相談所は,苦情の受付・対応にあたっては,常に中立・公 正にこれを行い,苦情申立人から事情を十分に聴き取る等により,苦情申立 人の正当な権利が保護されるよう配慮する,と規定している(規程10条2 項)。この規定が,裁定基準までをも含むものであるかは明確ではないが,

中立・公正の意味がなんであるかが重要である。要はADRのメリットを十 分に生かすことを主眼とするならば,FOSのように法律や判例にとらわれ ない解決方法が望ましいであろう。その場合には,審査委員会の力量が試さ れることになる。

なお,生命保険協会や損保協会の業務規定には,同様の規定はないが,各 協会の業務規定の目的条項には,公正かつ中立的な立場から迅速な対応を行 うという文言はある。

⑵裁定等の受諾義務

各協会の裁定審査会では,裁定書による和解案を提示して,当事者双方に 受諾を勧告する。この場合,相手方である保険会社には和解案を尊重しなけ 6) 冨永紅 英国金融オンブズマンサービス(FOS)につい て 共 済 と 保 険 2009年8月号19頁,20頁(2009年)参照。また,犬飼重仁=田中圭子・日本版 金融オンブズマンへの構想186頁(雄松堂出版・2007年)。

7) 甘利公人 英国の消費者保護法制の現状と課題 共済と保険2009年11号31頁

(2009年)参照。

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ればならない旨の規定がある。申立人に対してはこのような規定はない。尊 重であるから,応諾義務ではないが,実質的には義務に近いものがある。仮 に申立人の保護の立場から,保険会社に対して義務化した場合,いろいろな 問題が出てくる。

日本共済協会の相談所では,裁定結果について,団体は正当な理由がない 限り尊重しなければならないが,契約関係者は,これに拘束されない,と定 めている(規程6条)。また,審議会は,当事者双方またはいずれか一方が 裁定結果を受諾しなかったときは,裁定不調によりその裁定を終了するもの とし,その旨を当事者双方に配達証明郵便またはこれに準ずる方法により通 知する(規程42条3項)。相手方団体が裁定結果を受諾しない場合,当該団 体は,審議会に対して受諾しない理由を説明するものとし,この場合におい て,審議会がこれを正当な理由にもとづかないと判断した場合には,委員会 は,紛争の概要,団体名および当該団体が受諾しなかった理由を公表するこ とができる。

このように規程では,共済事業者が裁定結果を尊重する旨を定める一方で,

申立人には裁定に拘束されないことを明らかにしている。尊重であるから受 諾義務を定めているわけではないので,共済事業者が裁定結果を受諾しない 場合には,その理由について説明義務を課している。そして,審議会がこれ を正当な理由にもとづかないと判断した場合,委員会は,紛争の概要,団体 名および当該団体が受諾しなかった理由を公表することができる。しかし,

正当な理由とは何かが明記されていないので,公表の判断基準が明らかでは なく,裁定の尊重義務が有名無実になる可能性は否定できない。むしろ相談 所と会員団体との契約上の義務として,共済事業者に裁定の応諾義務を課す こともできるのではないであろうか。そのほうが,裁判を受ける権利を保障 している憲法上の疑念も払拭できるし,より契約者等の保護になるからであ る。

なお,生命保険協会の業務規程では,裁定書による和解案の提示を受けた 場合,①保険契約者等が和解案を受諾しないとき,②保険契約者等が和解案

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を受諾したことを会社が知った日から1か月以内に会社から当該申立ての内 容に係る訴訟が提起され,同日までに当該訴訟が取り下げられないとき,ま たは訴訟係属中の場合に当該訴訟が取り下げられないとき,③保険契約者等 が和解案を受諾したことを会社が知った日から1か月以内に当該申立ての内 容について,当事者双方で仲裁法に定める仲裁合意がされたとき,または当 該和解案によらずに別の和解や調停が成立したとき,以上のいずれかに該当 する場合を除き,会社はこれを受諾しなければならない(業務規程34条2 項)。また,受諾義務に違反する行為があったと審査会が判断した場合,審 査会の求めに応じ,会社は受諾義務違反行為を行った理由を審査会に説明し なければならない(同35条1項)。さらに,審査会が会社が受諾義務違反行 為を行ったことにつき正当な理由がないと判断した場合,協会は,会社名,

当該受諾義務違反行為の具体的内容,会社が当該受諾義務違反行為を行った 理由を公表するとともに,法律(保険業法308条の8第1項)に基づき金融 庁長官に報告する(同2項)。

また,損害保険協会の業務規程では,和解案の受諾について定められてお り,保険会社が受諾しない場合には,和解案不受諾理由書を提出する旨が定 められているだけである(業務規程38条)。

このように,受諾義務については,各協会ごとに異なった規程が定められ ていて,契約者側からみると統一性がなく保護に欠ける恐れがある。

⑶裁定申立の手続き要件

苦情等の申立を受け付けるために一定の要件を課している場合があるが,

これを厳しくすると保険契約者の保護に欠けることになるが,問題はないで あろうか。

共済協会の相談所規程では, 紛争 とは,相談所に共済契約に関する苦 情を申し立てたにもかかわらず,契約関係者および団体との間でなお問題が 解決しない場合で,苦情を申し立てた契約関係者から審査委員会に解決を求 めるものをいう,と定めている(規程5条)。したがって,苦情申立人が裁

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定を申立てるためには,①相談所による助言または当該団体への苦情の取次 等にもかかわらず,当事者間でなお問題が解決しない場合で(規程24条),

かつ,②審査委員会が行う裁定開始の適格性の審査を経なければならない

(規程14条2項)。裁定の申立を受け付けるために,一定の要件を課している のであるが,これらの要件を厳しくすると保険契約者の保護に欠けることに なる。とくに適格性の審査において問題となるのは,申立事項が,㈶自賠責 保険・共済紛争処理機構,㈶交通事故紛争処理センター,㈶日弁連交通事故 相談センターの対象案件である場合には,適格性がないことである(規程27 条1項6号)。これらの機関は,自動車共済(保険)の賠償案件に係る事案 のみを取り扱っているADR機関であるが,何故にこれらの対象案件である と適格性を欠くのか理解できない。おそらく同一事案を二つ以上のADR 扱うことの経済的不合理であろうか。しかし,たとえば,自動車共済の人身 傷害特約の損害算定において,被害者の後遺障害の等級が問題となった場合,

自賠責紛争処理機構の判断を待って裁定する必要が出てくることを想定する ならば,被害者にとってより迅速で有益な解決となるから,適格性を否定す る必要はない。実際の裁判でも,紛争処理機構の判断をもとに判決すること が一般的に行われているのは参考となる。

生命保険協会の業務規程(24条)や損害保険協会の業務規程(33条)にも,

同趣旨の規程があるが,間口を広げることも重要であるから,見直すべきで ある。

4.おわりに

2010年は金融ADR元年であることから,まだ始まったばかりのADR この段階で批判することは早計であるかもしれない。しかし,鉄は熱いうち に打てという諺のように,始まったばかりであるからこそ,真に消費者や利 用者のためになるADRを早急に確立すべきである。その際には,日本の金 ADRの模範となる英国のFOSのオンブズマンが,必ずしも法律家だけ から構成されているものではないことが大いに参考となる。fair and rea-

(12)

sonableは,日本の金融ADRにも当てはまるのであり,この精神こそが ADRの神髄である。

(筆者は上智大学法学部教授)

参照

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