物理化学Ⅱ講義資料(第2章
熱力学第一法則)
エネルギーの保存 2・1系と外界 系:注目している空間。下記の3つに分類される。 開放系:外界との間でエネルギーの交換ができ、さらに物資の移動も可能 閉鎖系:外界との間でエネルギーの交換はできるが、物質の移動はできない 孤立系:外界との間でエネルギーも物質も移動できない 外界:系と接触している巨大な世界。例えば、エネルギーの出入りがあっても、温度が変化しないほど巨 大なエネルギーのたまり場。また、系が外界に向けて膨張しても、外界は圧力変化しないし、体積 変化もしないほど大きい。 2・2熱と仕事 仕事も熱もエネルギーの移動様式の一つである 仕事w :外界に対して一様な動きを与える、あるいは外界から一様な動きを受けるエネルギー の移動様式 熱q :温度差のある系を移動するエネルギーであり、外界に対して乱雑な動きを与えたり、 外界から乱雑な動きを与えられるようなエネルギーの移動様式 温度T :示強性の性質であり、エネルギーが熱として流れる方向を決める 系がとり得るエネルギー準位について、その相対的な占有数を与える唯一のパラメーターは温度 発熱的:熱としてエネルギーを放出する過程 吸熱的:熱としてエネルギーを吸収する過程 重要な点:熱と仕事は状態関数(状態だけで決まる変数)ではない!この点は後々とても重要であり、 熱および仕事として移動したエネルギーの大きさは、通った経路(変化した過程)に依存する。 2・3仕事の測定 熱と仕事の向き 外界から系に熱が移動したとき、および外界が系に対して仕事をしたときを“正”とする。 熱力学のデータは全て符号付きで与えられており、(これから学習する)原則通り取り扱えば、符号は自 動的に決まる。 膨張の仕事:これは系が圧力(外圧)に対抗して膨張するときの 仕事である。 ・一定の外圧P に逆らって系が膨張するときの仕事 wex V P w exΔ 一定の圧力下での気体をV からi V まで膨張させるときのf 仕事w は、右図のP 曲線図において長方形で示されるV 領域の面積に等しい。 ・自由膨張:外圧が0(ゼロ)の時の膨張。この時の仕事はw0 である。 自習問題2・1 反応で生成する CO2は、一定の外圧P (この場合、大気圧ex 100kPa)に逆らって膨張する訳であるか ら、その仕事は、wPexΔV で表される。よって、 kJ 2.5 J 10 5 . 2 m m N 10 5 . 2 m Pa 2500 10 25 10 100 Δ 3 3 3 3 2 3 3 ex P V w となる。 一定の外圧下における気体の膨張・等温可逆膨張 最大仕事:外界と力学的平衡を保って膨張するとき、系は最大の仕事をする 完全気体をV からi V まで膨張させるときの仕事は、f
i f i f ln ) ln (ln ln 1 dw , d f i f i f i V V nRT V V nRT V nRT w dV V nRT dV V nRT dV V nRT dw V P dw V V V V V V
これは右図(テキストp.45, 図 2・10)のP 曲線図において、V V nRT P の関係にある関数をV からi f V まで積分した結果(斜線の部分の面積)に等しい。 ここで可逆膨張について説明する。 系が膨張する際に、系の圧力P と外圧P が力学的平衡を保った状態にある膨張。右上図のモデex ルによれば、外圧(この場合は無限小の重りの集合体により発生する圧力)とピストン内部の圧 力(系の圧力)が釣り合った状態にあるとき、無限小の重りをゆっくりと外すと、系は力学的平 衡を保ったまま膨張する。このような(仮想的な)膨張を可逆膨張という。実際には、無限小の 重りなど存在しないので、このような膨張は実現できないが、「可逆変化」は熱力学の最も重要な 思考実験の一つである。 例えば、変化の経路(道筋)に依存する物理量である仕事w は、一定外圧の元での膨張や可逆 膨張以外の膨張では簡単に求めることができない。「最大の仕事」という表現は、膨張の仕事は、可逆 変化以外ではいずれの場合も、可逆変化の時よりも小さくなることを意味していて、その値は変化の経路 に依存するので、経路を特定しない限り求めることはできない。 自習問題2・2 等温可逆膨張における仕事は、 i f ln V V nRT w で表されるから、これに与えられた数値を代入し て 8.31 298 0.693 1.72 10 J 1.7kJ 10 0 . 1 10 0 . 2 ln 298 31 . 8 0 . 1 3 3 3 w となる。 問題を解く際には、まず、系の変化を良く考えてから(膨張に伴って、圧力、温度の変化は?)、式を使 うこと。適切な式を使わないと、正しい解が得られない! 完全気体の等温可逆膨張 可逆膨張のモデル2・4熱の測定 定義: 熱容量 T q C Δ (系に入ったエネルギー(熱)q 、温度上昇 TΔ ) もっと明確な物理量として、以下の熱容量が定義されている。 比熱容量C :S m C CS 、単位はJ K1g-1。これを比熱と呼んでいる。 モル熱容量C :m n C Cm 、単位はJ K1mol-1。 定圧熱容量C 、モル定圧熱容量P CP,m:圧力一定の元で系に流入(あるいは放出)したエネル ギーと温度変化の関係を表す 定容熱容量C 、モル定容熱容量V CV,m:一定体積の元で系に流入(あるいは放出)したエネル ギーと温度変化の関係を表す。 (定圧熱容量、定容熱容量の定義は、この章の後半部分で解説する) 系に流入した熱量は熱計(calorimeter)を用いて測定する。 測定は、予め熱量計(装置)の持つ熱容量を測定しておき(熱量計自身も加熱すると温度が上 昇する!)、そこに試料を入れて系に流入した熱量と温度の関係を求め、装置の熱容量を補正すれ ば、試料の熱容量が求まる。 このとき、系に熱を供給する良い方法の一つは、ヒーターによる加熱である。ヒーターに流し た電流I (単位:アンペア、 )、電圧V (単位:ボルト、 V )と時間 t の関係は、以下の式で表 される(これは高校で習っている)。 IVt q (この式から、熱量の単位は、JAVsであることがわかる) 自習問題2・3 まず、ヒーターから供給した熱量と温度変化から、装置の熱容量C を求める。' 系に供給された熱量は、q' IVt1.1211.51622086Jである。この熱量で装置の温度は、 K 11 . 5 C 11 . 5 上昇したことから、装置温度を1.00 上昇させるために必要な熱量(装置の熱容C 量)は、 408J K 1 11 . 5 2086 ' C となる。一方、気体の燃焼で、装置の温度は2.78C2.78K上昇し た訳だから、この時装置の供給された熱量は、求めた比熱容量より、 kJ 1.13 J 1134 K 78 . 2 K J 408 1 q 2・5膨張時の熱流入 次の項でまとめて取り扱う。 内部エネルギーとエンタルピー 2・6内部エネルギー 熱力学的パラメーターとして、内部エネルギーU 、モル内部エネルギーUm Unを定義する。内部エ ネルギーと仕事、熱の関係は以下の式で表される。 q w U Δ (内部エネルギーの定義式:墓場まで持って行くこと!) (1)等温膨張 完全気体の等温膨張では、内部エネルギー変化はないΔU 0 式(2・9)。 ・・・完全気体では、内部エネルギーは気体分子の運動エネルギーのみに由来するから、温度が変わらな ければ、内部エネルギー変化もない(分子の平均速度が温度のみに依存するため)。 この結果から、ΔU wq0, qwの関係が導かれる。 この関係はとても重要で、「完全気体の等温変化」ときたら、即座にΔU 0につなげて欲しい。この 関係から仕事を求める問題は多い。
自習問題2・4 内部エネルギー変化 UΔ は、系の成した仕事 w と系に出入りした熱 q より、ΔUwqで表される。 よって、ΔU 25103250103 225103J225kJとなる。 系に流入した熱は+(プラス)、系が外界にした仕事は-(マイナス)なので、符号に注意すること! 2・7状態関数としての内部エネルギー 状態関数・・・おかれている状態のみで決まる関数で、その状態がどのように実現されたのか(すなわち 通った道筋=経路)には依存しない関数。我々が日常的に使っている温度、圧力、体積な ども状態関数である。 ・孤立系の内部エネルギーは一定である=熱力学第一法則 あたりまえ!孤立系とは、物質もエネルギーも移動できない系・・・内部エネルギーは一定!(体積変 化もしちゃダメよ! 外部に仕事をすることになるので。) ・体積一定で非膨張仕事がない場合 内部エネルギーの定義は、ΔUwqである。 非膨張仕事がない → 仕事は膨張(体積変化)のみ:wPdV 。 体積変化がない → dV 0 よって、w 0 これより、ΔU qV(q は体積一定での熱量変化を表す)。V 測定はボンベ熱量計を用いる(テキストp.52,図 2・17) 定容熱容量CV この結果から、重要な物理量が定義される。ボンベ熱量計により得られたデータを、横軸に温 度、縦軸に内部エネルギー(変化)をとってプロットすると、その傾き dT dU は定容熱容量C を表V す(テキストp.52, 図 2・17)。内部エネルギーにモル当たりの値を使えば、モル定容熱容量CV,mと なる。これを数学的に正確な表現で書くと、以下のようになる。 V V,m T U C (定容熱容量の定義:墓場まで持って行くこと!) 2・8エンタルピー 生態系を含む化学反応は、一般に大気圧下(一定圧力下)での反応である。 教科書に書かれている反応、CaCO3(s)の熱分解、を例に考える。 (g) CO (s) CaO (s) CaCO3 2 この反応では、気体のCO2が発生するが、この気体は周りの気体を押しのけて生成する → すなわち 体積膨張している。 この結果、加えた熱q は、① 内部エネルギーの増加(温度上昇)Δ とU ② 体積膨張の仕事w に使わ れる。 このような変化に対応した新しい物理量を定義する。 H UPV (エンタルピーの定義式:墓場まで持って行くこと!) H :エンタルピー 仕事だからと、wPdV としたいところだが、エンタルピー自体は圧力変化する系でも使えるの でPV としている。 あくまでも定圧条件下では、系に出入りした熱量q と系のエンタルピー変化 HΔ が等しい → 容易に求めることができる、ということである。 すなわち、dHdUd(PV)dUPdVVdP ここで、圧力一定であるからdP0より、 PdV dU dH となる。さらに、内部エネルギーの定義ΔU wqPdV qより、 q dH となる(テキスト 2・15a 式)。
よって、一定圧力の元では、以下の関係が成り立つ。 吸熱反応・・・外界から系に熱が移動するので、エンタルピーは増加する(ΔH 0)。 発熱反応・・・系から外界へ熱が移動するので、エンタルピーは減少する(ΔH 0) 完全気体の場合、PV nRTより、H UPV UnRTとなり、両辺をn で割れば、 RT U Hm m (式2・13b)となる。 このエンタルピーという物理量H は、名称は違うが既に高校で学習している。例えば、高校で習う「反 応熱」は、標準反応エンタルピーと同義である(高校では、「標準条件」の定義を明確にしていないので厳 密に同じではないが、少なくとも記載している数値は同じものである。例えばアンモニアの生成熱など) 2・9エンタルピーの温度変化 内部エネルギーの場合と同様に、横軸に温度、縦軸にエンタルピー(変化)をとってプロットす ると、その傾き dT dH は定圧熱容量C を表す(テキスト p.56, 図 2・21)。内部エネルギーにモル当P たりの値を使えば、モル定容熱容量CP,mとなる。これを数学的に正確な表現で書くと、以下のよ うになる。 P P,m T H C (定圧熱容量の定義:墓場まで持って行くこと!) 標準条件において、ある物質をその物質を構成する元素の担体から合成する反応のエンタルピー(こ れを標準生成エンタルピーΔfHと呼ぶ)は、色々な物質についてテキスト巻末のデータ部(p.550 以降) にまとめられている。 エンタルピーの基準 標準生成エンタルピーは、標準条件において、その元素の最も安定な単体の値を0(ゼロ)とする(定 義)。ここで、熱力学では標準条件を規定する物理量は、圧力(1 bar = 105 Pa)ただ一つである。しかし、 エンタルピーを初めとする熱力学で重要な物理量は、温度の関数であるから、温度も定義せねばならな い。一般に温度の基準は、298.15 Kにとる(巻末のデータも全てこの温度の値である)。 例えば、アンモニア NH3について見ると、構成する元素、すなわち標準条件における水素と窒素の安 定 な 単 体 は 、 H2 お よ び N2 で あ る か ら 、 定 義 よ り 、 こ れ ら の 値 を 0 と す る (ΔfH(H2,g)0, ΔfH(N2,g)0)。 一 方 、NH3 の そ れ は 、 テ キ ス ト p.555, 表 D1 ・ 2 よ り 、 1 3, ) 46.11kJ mol NH ( Δ H g f であることが分かる。 別の見方をすると、水の標準生成エンタルピーΔfH(NH3,g)は、 H ( ) NH ( ) 2 3 ) ( N 2 1 3 2 2 g g g という反応の、標準反応エンタルピー(反応熱)と同義である。高校の教科書には、2倍した値、 92 kJ mol-1が記載されている。 定圧熱容量の温度依存性 定圧熱容量の温度依存性は、多くの物質について、 以下の形の経験式でまとめられている(テキスト, p.55, 式2・17a)。 2 , a bT cT CPm (a, b, cは物質固有の定数) 幾つかの物質について、テキスト表 2・2 に定数 c b a, , がまとめられている。窒素N2(g と二酸化炭) 素CO2(g について、その値をグラフにすると右) のようになる。 CO2(g) N2(g) CPの温度依存性
エンタルピーの温度依存性 エンタルピーの定義式 P P,m T H C より、圧力一定下では、dH CP,mdTとなるから、 先の定圧熱容量の温度依存性 2 , a bT cT CPm をこれに代入して、298.15 K から求めたい温度 までを積分すればよい。よって、 1 2 ' 298 2 ' ' 2 ' ) 298 ( Δ ) ( ) 298 ( Δ ) ' ( Δ Δ ) 298 ( Δ ) ' ( Δ