縦方向の追跡眼球運動の周波数応答
(昭和63年11月8日 原稿受付)
設計生産工学科松岡清利
易 建 強
Frequency Characteristics of Vertical Tracking Eye Movements by Kiyotoshi MATSUOKA Jian.qiang YI
Abstract
Th・ugh・1碇・f・X瞬m・nt・h・v・bee・m・d・・n h・・輌・・m・l t…k輌ng・y・m・v・m・m・輌n h咀。n、,
there are few reports that dealt with vertical eye movements. That might l)e because it is believed that both movements essentiaUy have the same characteristics. This paper describes some experi−
m孤tresults that were made to see the validity of that s叩Position.
As moti◎n◎f a v輌suaharge玄, elthαasinuso輌d wave(pred輌ctable)or a gaus§輌an r頒dom wave
(unpredictable)was used, Recorded eye movements were firstly separated into smooth pursuit and saccadic components, and then frequency characteristics of each were calaulated. The result shows th・t f・・q・…y・h・・act・・i・ti…f…ti・al・y・m・v・m・nt・a・・essenti・lly th・・ame a・k・・w・fi・di・g
・パ・・1・・滋・lt・・c帷・y・m・v・m・m・・,
Lまえがき 遅れを持つの囎動性システムのためではなく陶
動性システムのためである。
運動する視標を目で追う場合の眼球運動は,一般に衝 (2)低周波の領域では,予測できない視標に対する 動性眼球運動(Saccadic Movement,以後SMと略す SPMは大きな位相進みを持つが,予測できる視標 る)と滑動性眼球運動(Smooth Pursuit Movement,以 (滑らかに規則的に動く視標)に対するそれは0に 後SPMと略する)とが混在したものとなる。 SMは眼 近い位相を持つ。一方,高周波の領域では,予測で 球を飛躍的に回転させて視軸を急速に変更する眼球運動 きない視標に対するSPMは予測できる視標に対す であり,SPMは低速で滑らかに視標を追従する眼球運 るSPMに比べて,より大きな位相遅れを生じる。
動である。今日までの研究では,両者は一応独立な神経 (3)SPMのゲインと位相は,低周波のとき負の相関 系によって生成されていると考えられている。 を持つのに対して,高周波数のときは正の相関を持 Matsu◇ka and Ueda(刊86)は水平方向の追従眼球運 っ。
動の周波数特性を調べ,以下のような特徴を見出してい ところが,これまで追従眼球運動の特性について非常 る。すなわち, に多くの研究がなされてきたが,ほとんど水平方向の運 (1)SPMの位相(進み)はどの周波数領域において 動に限られており,垂直方向の運動の研究は非常に少な も,SMのそれよりずっと大きい。元々の眼球運動 い。そこで本実験では,縦方向の眼球運動も上述のよう (Raw Eye Movement, REMと略する)の位相は な特性を持っているかどうかを調べてみた。
両者の中間にある。予測できない視標(ランダムに 動く視標)を追従する場合の眼球運動が大きな位相
理に使った。ランダム波の場合,20秒間データを取り,
2.実験
まん中の17秒間のデータを解析した。
2.1 実験装置 実験は暗い部屋で行った。被験者は椅子に座り,頭は 実験装置をFig.1に示す。関数発生器で発生した正 固定された。各試行の初めに眼球運動測定装置の線形校 弦波,或は,雑音発生器から発生したガウス性ランダム 正を行った。被験者はディスプレス上に順次呈示される 波は輝点の垂直方向の運動としてオシロスコープに呈示 輝点を注視する。呈示された輝点の視覚と眼球位置の間 される。それらは同時にA/Dコンバーターを通してコ の相関係数が0.98より小さければ同じことを繰り返さな ンピューターに蓄えられる。被験者はオシロスコープ上 ければならない。相関係数が0.98以上になったら前述の の輝点を追うように指示される。一方TVカメラおよび 実験を開始する。一回の試行が終わったら,被験者は1 X−Yトラッカーを用いて眼球の運動を測定し,結果を 分間休んで,それから次の実験を続けた。一ブロックが
コンピューターに蓄える。 終了したら被験者は10分間ほど休む。
X−YトラッカーとA/Dコンバーターのサンプリン 被験者はすべて男子で,M. K.22歳, Y.24歳, K. K.
グ周波数はともに60Hzである。眼球運動の測定の精度 31歳である。
は約0.1°であった。
2.2実験方法 3・データ処理
視標の運動として,正弦波とランダム波を用いた。正 3.1 SMとSPMとの分離
弦波の周波数としては0.3,0.5,0.8,1.0,1.5,2. 実験から得られた眼球運動データはSM成分とSPM OHzの六種類を与えた。ランダム波については,周波 成分を含んでいる。 SMとSPMの各々の特徴を調べる 数帯域が0−1.OHzと0−2.5Hzの二種類のガウス性 ために,この二つの成分を分離する必要がある。松岡と ランダム波を用いた。波形の振幅実効値はいずれの場合 原戸(1983)は三階微分を利用してSMとSPMを分離 も視角で1.25°である。 する方法を示しており,本実験でもその方法を採用した。
一人の被験者は合計32回の試行を行うが,それらは四 Fig.2は分離処理の一例である。
つの同一ブロックに分けられる。各ブロックは正弦波の 3.2 正弦波視標に対する周波数応答
実験6回,ランダム波2回を含む。視標が正弦波の時は, 周波数fの視標s(t)の正弦波の振幅,位相をそれぞれ 25秒間データを取り,まん中の20秒間のデータを後の処 A,θ1とし,眼球運動r(t)のそれをB,θ2とすると,
視標の位置s(t)と出力の位置r(t)は
FUNCTlON GENERATOR
ORNOISE
GENERATOR
A/D CONVERTER
OSCILLO−
SCOPE
GRAP田C DlSPLAY
s(t)=Asin(2πft十θ1) (1)
計算を行う。
まずB,θ2などを求めるのに,周波数fにおいての r(t)の有限時間nT内のフーリエ変換R(f)は
R(f)一∫n㌔(t)・xp(−j・・ft)d・
=図嚇嚇 一一)−B−)刀 G)
卿
,、g.1. Measu,em。,, S,、,。m。, E,。 M。.← 1−∫加・(・)・i・(・・ft)dt−B・T・・s(の/2(・)
ments
lA} 3・3 ランダム波形に対する周波数応答
μ
4. ランダム波形s(t)に対する出力r(りの周波数応答を求
詳^^吾…へ… へ める時,まず余弦テーパ・データウインド噸数をかけ
:{二‥w 2パ 4パ い ζ国 てから高速フーリエ変拠た.視標と目賊迦のテ
{B) リエ変換をそれぞれS(k)とR(k)とするとパワーとクロ 1婚、4. ススペクトルが次の式により求められる。
:;;ドレ≒1寸ヤ吉へ元ノー欄 聡⇔s(K)1・ 働
4 @ P,。(K)⇒R(K)戸 ⑪ 胸 {C) P。。(K)−S・(K)P(K) ⑫
同
・2 o:
°ぎ
・∀・
挺
.4°
りプ o◆
°2:
・4
S*(k)はS(k)の共役複素数である。それに,下の式に
♪し・2ム… 1・則 したがってスムージング硫した.
ら バロ
》いへW〜rパ 臥(k)一ユ(k+i)/9 (13
》 ゾちく 輌 4
倒__二三 系のゲインG(k)と位相P(k),および相互朋係数の
一一口、 一 Coh(k)はそれぞれ
− G(k)−201・g(恒。。(k)}/予ss(k)) ⑭一
12」4{」 1 ▲江c」 __ __
P(k)=tan−1(IPsr(k)/RPsr(k)) ⑮ C《)h(k)=P§r(k)/(P§s(k)Prr(k))1/2 ㈹ 日g.2.Separation of smooth pursuit and sac− _ __
cadic components. Positi鴨angles in一 で求められる。 RPsr(k)とIP。r(k)はそれぞれ予。。(k)の dica拍upward eye m◎vements, and 実数部と虚数部である。
胎gative ones indicate downward 6ye
movements. 相互相関係数C◎h(k)が,0.5より大きい場合には,
{A}rno地n o鴇e vi鉗a{target; そのデータに信頼性があると考えた。 C◎ぷk)が0.5より
8蒜㍍隠臨。刷 小さ・場合には,この臓のデータを除去して,線形 くD)saccadic◇◎mponent. 関数で内挿を行った。
4.結果
とすると, 上に述べた方法にしたがって処理した結果をFig.3,
4,5に示す。三人の被験者の実験データは一緒に合わ
B=2〈R2÷12)1/2/(nT) {6)
θ、一, 一・(1/R> (,〉せて示されている・Fi・・3は視標が正弦波の日寺の周麟 応答である。左図はゲインで,右図は位相である。Fig.
となる。 パ 4,Fig,5は周波数帯域が◎−1.◎Hzとo−2.5Hzのガ 同様に,A,θ1も求められる。したがって,系のゲ ウス性ランダム波の場合の周波数応答である。
インGと位相Pは次の式で表される。 F輌g、6は周波数がそれぞれ◎.3}lzから2. O珪までの各 周波数における眼球運動のゲインと位相との散布図であ G=2010g(B/A) (8)
る。
P=θ2一θ1 (9)
Figぴからわかるように,視標が正弦波,つまり,視 ゲインが非常に小さい場合には,眼球がほとんど動い 標の動きが規則的で予測が可能な場合は,SPM成分と ていないわけで,位相の計算に信頼性がないと考えられ REMは似ている。これは,正弦波に対しては眼は滑ら る。そこで,ゲインが一30dBより小さい場合は結果か かに動き, REMはほとんどSPM成分からなり, SM ら除いた。 成分をあまり含まないことを意味している。低周波領域
砧川ID司 h|As〔1〔」EC】
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Fig.3. Frequency responses of eye move−
mentS tO Sine WaVeS.
○,十and口are the results for sub−
lects M. K., Y. and K. G., respectively.
(A) gain and phase diagrams of raw eye mOVementS.
(B) gain and phase diagrams of smooth pursuit components.
(C) gain and phase diagrams of sac−
cadic components.
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.唖晶三!1・‖ 漁I i:i議1言
㌧二:Q
Fig.4. Freq緩ency resρonse§of eye mo》e−
ments to rand◎m waves with O−1.OHz bandwidth. ○,十and口repres③nt
sub拍ct M. K., Y. and K. G., respec−
tively.
(A}gain and phase diagrams of raw eye movements.
(B) gain and phase diagrams of srw◎◎th pursu目c◎m「)one情s.
(C)gain靹d phase diag頂ms◎f sac−
cadi◎compon前ts.
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鷲籟謄護6鶯FRE°
心 % ・% ・ −40
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礪蓮煕鍵fkE°:
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Fig.5. Frequency resp◎nses of ey6 mov8− 6 me1宿s to 7andom wa》es wi梧0−2.5ト{z
bandwidth. ○,十and口ar⑧experiひ . m朗tresults for sublects M. K, Y. and
K.G., respectively.
(A)gain and phase diagrams of raw eye「W《〉》eme滋s.
(B)gain and phase diagrams of.
. S「nO◎廿}pursuit con1ρ◎「)ents.
{C)gain and phase diagrams of sa◎聯 cadiC COmponents.
秘・ 令 砕ξ攣
鮎6】8ψ命 .・.
句, o
l・璽竃i…iii㍉ 「
㌔::慨㌔.哨蓑蕊;{1!1,
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仏馳 棚》ε10E司 o故 棚sε10ε口 ・
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一1εo
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●
Fig,6. Gain−diag恰ms of smooth pursuit com−
ponents at each fre卯ency. Emρty cir−
・ cl6s, filled circles and squares repre−
sent subjects M, K., and K. G., resp白cヂ tively.
においてはゲインは零に近く,位相は幾分進んでいる。 のデータは下半分に入り全部位相遅れとなっている。
周波数の増大に従って,ゲインが小さくなり,位相の遅
5.結論れが現れ,それが増大している。
Fig.4は, REMとSPM成分は周波数に伴って,ゲ 上の結果からわかるように,縦方向の眼球運動は横方 インが大きくなる傾向を示している。また,REMの位 向の眼球運動とほぼ同じ特性を持つといえる。つまり,
相がだいたい遅れているのに文寸して・低周波数の時, 予測できない視標について,SPMの位相はSMの位オ目 SPMの位相は大きな進みをもち,高周波数になると位 より普通大きい。低周波数の時,予測できない視標に対 相はすこし遅れになっている。SMは,位相はほとんど してのSPMは非常に大きな位相進みを持ち,予測でき 遅れで,ゲインも小さい。これから,REMに位相遅れ る視標に対してのそれは小さな位相進みがある。高周波 があるのはSPM成分のためではなく, SM成分のため 数の時,予測できない視標の場合のSPMの方が大きな であることがわかる。 位相遅れを持つ。しかし,水平方向の眼球運動において Fig.5に示されるように, o−2.5Hzのガウス性ラン 見られたような,ゲインと位相の相関関係は明確に現れ
ダム波に対する応答においては,REMのゲインは周波 なかった。
数による変化が小さく,位相はほとんど遅れで,周波数
が増大すると遅れが大きくなった。しかし,SPMの図 参 考 文 献
をみるとSPMの位相はずいぶん違い,低周波数の時進 1)K. Matsu・ka and Y. Ueda: Frequency characteri・tics・f みで,それに,周波数が小さいほど,位相の進みは大き the smo°th Pu「suit comPonent in t「acking eye m°ve一
くなる・〈数の時は,遅れになった.一方,SMは,)蒜慧㌶雀㌶;1㌶;㌫の検出。,
大きな位相遅れを持つことがわかる。やはり,眼球運動 人間工学,19,No 3,147−153,1983.
の元々の出力に大きな位相遅れが現れるのはSMにょ3) Btl蒜1蕊1罐驚t蒜三F驚蕊
ると言えるであろう。 and Estimati・n,1984.
Fig.6はSPMのゲインと位相が周波数によって変化 4)LY・ung and D・Sheena: METHODS&DESIGNS , する様子をはっきり表している.例え1掴灘が。. 霊麟1;1「ch Meth°ds&Inst「umentati°n 7・N。5
3Hzと0.5Hzの時,データはほとんど図の上の半分にあ 5)D・A・R・bins・n・J・LG・rd・nandS.EG・・d・n: ・AM・d一
る・すなわち,酬波数の・寺,SPMは位オ目が進みであ li㍑き熟1㌻;1㍑ement Syste㎡Bi°1°L
るといえる。しかし,周波数が増加するとデータはだん 6)渡部,久澄:ミ随従眼球運動の制御特性とそのモデル・,
だん下の半分に移っていって,2.・H。になると,全て 電樋信学会論媒・V・LJ69−D・N・・1…986・