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数学教育における学習環境の 影響について(1)

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121

数学教育における学習環境の 影響について(1)

自然科学第一(数学)研究室 鈴  木  正 毅

1. ま え が き

数学教育の効果をあげるためには,指導計画や指導方法の研究が最も大切であることは いうまでもないが,その他にも幾多の面が考慮されなければならないと思っている。

子供がどんな学習環境におかれているかということが,その一つとして考えられる。私 が述べてみたいと思うのは,その一分野ともいえる家庭環境の影響についてである。この 問題については,本学の卒業生大和田憲治君が,一昨年調査したのであるが,不幸にして 若くして他界し,5000枚に近い彪大な資料も殆んど未整理のままであった。この貴重な資 料が埋もれたままであることを惜しみ,遺族から資料を譲り受け,その一部分を整理した ので,その結果を発表したいと思うQ

2. 父母の好嫌いとの関係

父母,兄弟姉妹の数学に関する調査は困難であり,受持教師に見られては,本当のこと が書かれない恐れがあるので,大和田君は,すぺて厳封のまま報告を依頼したのである。

家庭調査と児童生徒の調査と二本立になっており,すぺて番号で処理されている。この調 査は現場教師の協力と父兄の協力があったことはいうまでもないが,大和君の努力は大変 なものがあったと思うのである。この調査の一部分として,数学の好嫌いの調査が入って いる。好嫌いの調査は,子供については絶対的評価(大好き,好き,いくらか好き,いく

らか嫌い,嫌い,大嫌いの6段階)と,相対的評価(教科別順位)となっている。家族の 者については,単に好きと嫌いとに分れているが,実際の報告には,好きでも嫌いでもな

かったとしている者もあるので3段階とみてよい。家族の評価は在学時代のものと解釈さ れるが,この点は判然としない。以上のような点から見て,絶対的評価を基として,家族 の好嫌いと,子供の好嫌いとの関係を調べてみた。

まず,父母の好嫌いと子供との関係を考えてみよう。父母の何れでも,好きを+1,嫌 いを一1,好きでも嫌いでもないを0とした。例えば,父母共に好きの場合は+2,父が 好きでも母が嫌いの場合は0,父母が共に嫌いの場合は一2とした。したがって,+2,

+1,0,−1,−2の5段階となる。

(2)

このように尺度化することに問題があるかもしれないが,他に適当な方法がないのでこ のようにした。子供の方は6段階をそのままとした。

例として,B校4年生5組の結果を示す。

第1表

 ____   〜一    〜_     〜      一一山一一 父  母  の  好  嫌  い    1

一1鼈黶

@  _@ 〜一_

@   一_

一2 1−1 1 0 i 1 1 2 1 計  1

大好き 1 : 5 1 4  ヒP1 i

好  き 2 1 1 6  191

いくらか好き 3 1 1 3 1 2 10 1

いくらか嫌い 1 i 2 1 4 1  

嫌  い 3 1 4 } 卜

大嫌い 2

21

計    7i2{・・12i8i4・;

ピアソンの相関係数を求めると

r=・0.06 となる。

この調査は小学校5校,中学校5校,高等学校3校について,各学年1学級を標準とし てなされている。これらの各学級について相関係数を求めると次の第2表,第3表のよう になる。家庭調査の方に,特に困難さがあったようで,標本数は学級の人員より下廻って いるのが多い。括弧内に標本数を示す。

第2表       父母の好嫌いとの関係(その一)

学 校 別 小学2年 小学4年 小学6年 中学1年 中学2年

    i中学3年

A(工業地域) 一〇.02(53) 一〇.14(33) 0.00(44) 0.27(46) 一〇.01(51) 0.35*(49)

B(漁業地域) 0.11(44) 0.06(40) 0.30(42) 0.09(46) 0.21(49)

0.27(51)−0.11(42)

C(官庁地域) 0.14(41) 0.18(45) 一〇.09(46) 一〇.05(33) 0.38(36) 一〇.14(43)

D(農村地域) 0.15(38) 0.29(33) 一〇.08(44) 0.06(46) 一〇.14(37) 0.11(32)

E(付属校) 0.25(37) 0.38*(42) 0.22(40) 一〇.17(34)

「       「

…31…5旨…7【…41・… […9

平   均 0.12     1    0.08        1

第3表 父母の好嫌いとの関係(その二)

学校別隔校3年

H A(男) 0.07(30) 備考.(1)*は,Eβ. Peason

H B(女) 一〇.17(44) 教授のTables of the correlation Coefficientにより H C(女) 0.10(31) 危険率5%で有意。

(2)A校小学2年,4年は3年,5年の調査を示 平  均  0.00 1 す.  『

(3)

鈴 木:数学教育における学習環境の影響について(1)         123

この表を見ると,付属小学校4年生と,A中学3年を除いては,有意な場合はなく,両 親と子供との好嫌いの関係は全くないといっても過言ではあるまい。

3.兄弟姉妹の好嫌いとの関係

次に,兄弟姉妹について考えてみよう。この場合は,兄弟姉妹の人数に相異があるので 一人一人について,好きを+1,嫌いを一1,好きでも嫌いでもないを0として集計し,

人数で割ってから5倍して尺度化した。父母の場合に比べて段階が多過ぎたが,それは人 数の相異をいくらかでも緩和しようとしたためである。兄弟姉妹のいない子供もあるので 父母の場合よりも標本数が少くなっている。相関係数の信頼度が父母の場合よりもやや劣

るが致し方のないことである。

父母の場合の例にならって,一例を示すと,A校6年生3組については第4表のように

なる。

第4表

}\        「兄 弟 姉 妹 の 好 嫌 い       1

一5 1−4 1−3 i−2 !−1 i o  1  1  1 2  1 3  / 4  1 5  1 言†  1

子供

大 好  き D    き

「くらか好き 2

 i l l   I  ト

P   il 撃Q 1、

1・11  3

1

 i  4 P 1 10

@ 4

5i16111

いくらか嫌い 1 i 1 i1 1  [Q

嫌    い { 1  1 i 0

嫌い

大嫌い1

l I 1 l i 11・12;

計121・・「2「・14・151・i・[・9国

ピアソンの相関係数を求めると,

r=0.15

となる。

前と同様に,各校について表示すると,次の第5表,第6表のようになる。

第5表       兄弟姉妹の好嫌いの関係(その一)

学 校 別 小学2年 小学4年 小学6年 中学1年 中学2年 中学3年 A(工業地域) 0.02(30) 一〇.18(22) 0.15(36) 0.43*(35) 0.22(36) 0.14(42)

B(漁業地域) 一〇.17(25) 0.21(20) 一〇.20(29) 0.05(40) 0.08(42)

0.39*(45)0.29(38)

C(官庁地域) 0.08(24) 0.35*(35) 一〇.01(34) 0.07(31) 一〇.04(24) 一〇.04(30)

D(農村地域) 0.30(13) 0.28(13) 0.13(24) 0.07(33) 0.18(24) 0.10(24)

E(付属校) 0.25(15) 一〇.05(21) 0.36*(27) 0.07(31) 一   」

・…@1…21…8 …41・… i…81       ド       1

1

平   均 0.10    1    。.L4        1

(4)

第6表 兄弟姉妹の好嫌いとの関係(その二)

学校別1高校3年 危険率5%で有意になったのは,4学級のみであるが,父母 H A(男) 0.33(26) の場合よりやや高くなっているとみてよい。高校の場合は,平 lH B(女) 0.29(38) 均が有意とみてよいと思う。

FH C(女) 0.33(26) i

1平均1・・32・ 1

4.父母と兄弟姉妹の場合の比較

次に各学年別の平均を,父母の場合と,兄弟姉妹の場合について,相関係数の変化を図 示してみると,次の図のようになる。

第1図

γ α3

0.2

=f

       足弟姉妹 /       笥!

@      戸      1        ノ)一、  !1

秩│一メ天、@ /ノ  、     父遼ト

0

変宏害㌢宏雪曹学年

これからもわかるように,父母の好嫌いとの関係は次第に低下していく傾向があるのに 比ぺて,兄弟姉妹の好嫌いとの関係は次第に上昇している。また,小・中・高の平均を平 均してみると,父母の場合0.07,兄弟姉妹の場合0・19となる。相関係数を平均するという

ことに問題があろうが,若し近似的に許されるならば,調査人員の合計を基にして検定す ると,r二〇.19は,危険率5%で有意となる。このように考えると・わずかではあるが・

兄弟姉妹の影響を受けると見られることになる。

5. 知能の遺伝からの考察

以hの結果を遺伝的な統計の資料と比較してみたい。最近の統計資料がないので古いも ので残念であるが,村瀬雄平著「知能の遺伝」から要点を拾ってみる。

相関係数で示すと,第7表のようになる。

(5)

鈴 木:数学教育における学習環境の影響について(1)        125

第7表  親子,兄弟妹姉の相関関係

 〜一A 1  1  〜〜

@  、、、}

@   T、 \      、、、

@      \

      1

e と 子 の 間    兄弟姉妹の間

肉体的精神的性質 0.60以上か(?) 0.51〜0.54

知   能       } 0.44〜0.55 0.44〜0.55

数学の成績   1  0・10 ゜・33〜°・34

@ 1

これらの資料は,必ずしも信用できる数字でないかもしれないが,私たちに或る傾向を 教えてくれるものがある。即ち容貌とか性質とかは,親子間の方が,兄弟姉妹間よりも相 関が濃いと考えられるが,知能となるとほとんど同じ程度となり,数学の成績になると,

る。

この数学の成績の関係と,上述の好嫌いの関係とは,同様の傾向を示していることがわ

かる。

これらの結果は,何を物語っているか? 心理学者の中には,数学的素質を強調してい る者もあるが,これは全く疑わしいものであり,むしろ,アダマールが言ったように,数 学的素質というものはあり得ないという方が正しいのではないかと思う。 (一流の数学者 になるためには別であろうが)

親子間よりも,兄弟姉妹の方が数学の成績の相関が高く,数学の好嫌いも兄弟姉妹の方 が次第に高くなってくるというのは,学習環境に影響するものと考えてもよいのではない かと思う。学習の場合は,親子間よりも兄弟姉妹の影響の方が強いと考えられる。

数学の好嫌いと成績との関係は,教育学部紀要第4号に掲載したように,学年が進むに したがって濃くなってくるので,上述のように,成績と好嫌いの傾向が同様な傾向を示し ているのも,もっともなことかもしれない。この意味から考えても,この調査は有意義な ものであったと思うのである。

6.学校別による好嫌いの差

まず,上述の好嫌いの 第8表

相関係数を,小中校合わ 父母の好嫌 兄弟姉妹の好いとの関係,嫌いとの関係

せて,学校別(地域別) A(工業地域) 0.08 0.13

B(漁業地域) 0.18 0.09 に平均してみると, C(官庁地域)

0.07 0.07

7

D(農村地域) 0.07 0.18 E(付属機) 0.17 0.19

(6)

となり,地域によって異なるとはいえないようである。

次に,上述の標本数(父母の場合)から,子供の数学の好嫌いの分布状況を各校別に示 してみよう。

第9表  小 学 2 年

1

 = @ 一\iAIB clDlE 平均

大  好  き 26.4% 60.0%      [48.8%  42.1%

54.1% 46.3%

好     き 28.4 15.6 12.2 i 21.1 13.5 18.2

いくらか好き 20.8 8.9 9.8 31.6 21.6 18.5 いくらか嫌い 13.2 2.2 12.2 0.0 5.4 6.6 i 嫌    い 11.3 4.4 14.7 2.6 2.7 7.1

0.0 8.9 2.6 2.7 3.3

第10表  小 学 4 年

〜  一一〜_ AlB C D El平均

大  好  き 24.3 27.5

37釧394

23.8 30.6

好     き 48.5 22.5 26.7 24.2 26.2 29.6

いくらか好き 18.2 25.0 20.0 15.2 35.8 22.8 いくらか嫌い 3.0 10.0 13.3 9.1 9.5 9.0

嫌     い 6.1 10.0 2.2 { 9.1 2.4 6.0 大  嫌  い 0.0 5.0 …13・・ 2.4 2.1

第11表  小 学 6 年

1\一〜一一一_1A}B・C DlE…平均1

大  好  き 13.6 11.9 41.3 [ 22.7 17.5 21.4 好     き 45.5 52.4 28.3 36.4 42.5 41.0

いくらか好き 31.8 28.6 15.2 36.4 20.0 26.4 いくらか嫌い 4.5 10.9 0.0 10.0 5.1

嫌     い 0.0    7.2 4.4 2.3 2.5 3.3 大  嫌. い 4.5    0.0 0.0 2.3 7.5 2.9

第12表  中 学 1 年

大  好  き 15.2 26.1 レ 15.2 3.1 2.9 12.5 好     き 30.4 28.2 51.5 43.8 47.1 40.2

いくらか好き 32.6 23.9 21.2 31.3 20.6 25.9 いくらか嫌い 8.7 10.9 3.0 9.4 14.7 9.3

嫌     い 13.1 10.9 6.1 12.5 14.7 11.5 大  嫌  い 0.0 0.0 3.0 0.0 0.0 0.6

(7)

鈴 木:数学教育における学習環境の影響について(1)        127

第13表  中 学 2 年

 一 鼈黶

大  好  き 13.9 6.1 8.3 8.1 9.1

好     き 25.5 57.2 25.0 29.7 34.4

いくらか好き 39.2 26.6 50.0 48.6 41.1 いくらか嫌い 9.8 8.2 2.8 5.4 6.5

嫌     い 7.9 2.0 11.1 5.4 6.6

大  嫌  い 3.9 0.0 2.8 2.7 2.4

第14表  中 学 3 年

\ 一

大  好  き 12.31 3.2 7.0 4.4 6.7

好     き 、2.3124.7 21.0 39.2 24.3 いくらか好き 42.8 28.0 41.8 30.4 35.7 いくらか嫌い 6.1 20.4 11.6 19.6 14.4

嫌     い 22.4 19.3 11.6 2.2 13.9

大  嬢  い 4.1 4.3 7.0 4.4 5.0

第15表  高 校 3 年

 一〜〜_IHAiHBiHcl平均

大  好  き 6.7 2.3 19.4 9.5

好     き 40.0 22.7 22.6 28.4

いくらかすき 30.0 25.0 22.6 25.9 いくらか嫌い 6.7 25.0 12.9 14.g I  ;

嫌     い 0.0 20.5 9.7   ;10.1

大  嫌  い 16.7 4.5 12.9 11.4

これらを図示すると,次の第2図のようになる。学年が進むに従って,数学を好きな者 が減少していることがわかるQ中学3年と高校3年の分布状況は大差がない。

第2図

●一一●小2

o嘘_−o小4

50 一中

戟[中3

一高3

40 30

㌧、  八;      ノ        .一■つ     、淫P

20    

@   !1

^乞一一 !!

ノ   !1

^ダ  、    、    、

、、

ノ0  ノ

,瑚 、Σ

o

大嫌 ソ 2 嬉 大

嫌い 訊墓 さ妊

い   嫌 好    芝

い  ξ

(8)

また,それぞれの表からわかるように,学級によって大きな差のあることがわかる・こ れは指導者によって非常に違ってくることを示していると思う。

さらに,小中学校の場合,地域別に平均してみると次の第16表のようになる。

第16表  地  域  別 i

大  好  き ・7.6劉 22.4%   %26.4   %19.9  、

好     き 31.8 33.4 27.4 32.4

いくらか好き 30.9 23.5 26.3 32.2 いくらか嫌い 7.6 8.6 9.0 7.3

嫌     い 10.1 9.0 8.4 5.7

1 大  嫌  い 2.1 3.0 2.5 2.5

@ 一

1

       一

アの表からもわかるように,地域別に考えると,殆んど差が見られない程度である。

7. お わ り に

以上,大和田憲治君の貴重な調査を基にして,それに関連したことを考察したが,これ からどんなことがわかるか?

もっと多くの実験や調査を必要とするかもしれないが,次のようなことがいえると思

う。

(1)親と子の間には,数学の好嫌いも,数学の成績についても,ほとんど相関関係は存 在しない。

② 兄弟姉妹の間には,数学の好嫌いも,数学の成績についても,いくらかの相関関係 があるようであり,この影響は,学年が進むにつれて表われてくる。

(3)数学の好嫌いの状態は,学級別には差が認められるが,地域差はそれほどでない。

これは指導者によって左右される面が多いことを物語っているものと思う。

大和田君の調査は多方面にわたっているので,その他の機会に,更に発表したいと思

う。

(備考・日本数学教育学会研究紀要皿一1に一部分発表)

参照

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