奈良教育大学学術リポジトリNEAR
算数・数学教育における問題解決学習の研究
著者 重松 敬一, 井戸野 佐知子, 横 弥直浩
雑誌名 教育実践研究指導センター研究紀要
巻 4
ページ 69‑80
発行年 1995‑03‑31
その他のタイトル Research on Problem‑Solving in Mathematics Education
URL http://hdl.handle.net/10105/4400
重 松 敬 一(数学教育学教室)
井戸野 佐知子(京都府加茂町立加茂中学校教諭)
横 弥 直 浩(大学院数学教育専攻)
Research on Problem−SoIvingin Mathematics Education
KeiichiSHIGEMATSU(Department of Mathematics Education)
SachikoIDONO(Kamo Elementary School)
Yasuhiro YOKO(Graduate Student of Mathematics Education)
要旨:生涯学習ということが強く意識されるようになった今日,自己教育力の育成とあわせて子 どもの主体的な学習が強調されてきた。この社会的動向は,今後,知識・理解,表現・処理の側 面だけでなく,数学的な考え方,関心・意欲・態度の面での教育効果をより一層期待して止まな いであろう。それだけに,問題解決学習が重要になると考える。本稿では,小学校における問題 解決学習のプロセスと,中学校における課題学習をもとにした問題解決に限定して研究し,指導
上の問題点を明らかにした。
キーワード:問題解決学習、課題学習
1.はじめに
今日のわが国の算数・数学教育において,問題解決がとりわけ注目されるようになったのは,
1980年に全米数学教師協議会(NCTM)の出した1冊のパンフレットの影響が大きい。このパ ンフレットは,アジェンダ(An Agenda for Action)と呼ばれ,この中には,8個の勧告(Re−
Commendations)がなされ,その8項目に,「問題解決が1980年代の学校数学の焦点でなければ ならない」と勧告されている。
なぜ問題解決が,1980年代の学校数学の焦点として重視されなければならなかったのであろう か。1960年代は,いわゆる数学教育の現代化によって,学校数学を現代数学に近づける立場から,
初等・中等教育としてはかなり高度な数学的内容が,カリキュラムに取り込まれた。現代化の反 動としての1970年代は,指導内容を基礎的・基本的なものに精選し,学習者が少しでもできるよ うに,そしてわかるようにしたのであるが,その結果はやはりうまくいかなかった。基礎技能だ けは徹底させようという立場をとると,基礎技能を計算技能だけに限定してしまう可能性がある。
そして,こうした基礎技能観が,算数・数学の授業を,ドリル中心の詰め込み的指導に終始させ てしまう危険性を有していた。結果として,計算ができても問題が解けない子どもが増えたのは 当然であろう。このような傾向に歯止めを掛けるべく,問題解決能力の育成が強調され,基礎技 能を計算能力に限定しないで,進んで社会生活での問題解決にも生かしていくことの重要性が認
識され,前述のアジェンダにおいて結実したといえよう。1)
算数・数学が好きであったというよい恩い出をもっている人は必ず問題解決したことの満足感,
重松 敬一・井戸野佐知子・桟弥 直浩
達成感や問題解決を主体的に取り組んだよい感情をもっており,長じて,社会人になっても算数・
数学の問題集を買い込んで問題を解くことを趣味とするような人になる可能性が強い。おそらく,
問題解決するプロセスで算数・数学のよさを味わうことができたのではないかともいえる。小学 校での算数のよさを味わったことがよい経験となり,中学校以降の数学の学習を支えていくと考
えられる。
ここで,小学校においては新しい学力観のもとでの授業実践例,中学校においては課題学習の 授業実践例を紹介しながら,問題解決学習についての問題点を明らかにしたい。
2.算数・数学教育における問題解決について 2−1問題解決学習のねらい
(1)問題解決学習のねらい
問題を解決することにより,その問題となっていた内容の把捉はできる。しかし,問題解決学 習がねらっているのはそれだけではない。
例えば九九表を構成していくときに単に今まで知っているやり方で表をつくるだけでは問題解 決学習にならない。また,決まりを教師から与えて,「このようにして考えてみましょう。」と指 示したのでは,子どもは結果を出せるようになるであろうが,成功経験を得ることはできない。
2の段,3の段,5の段の加法の結果や構成の手続きから,表の中に見られる決まりを見つけさ せる。そして,「他の段でも使えるのかな,それではやってみよう。」と支援するのが教師の役目 である。今までと違った見方ができるようになってはじめて問題解決学習になったと言えよう。
問題解決の過程は,数学的な見方や考え方が身に付いているかどうかが顕著に現れる場面であ り,また,問題解決を通して数学的な見方や考え方が深まってくるので,数学的な見方や考え方 の指導と問題解決の指導は表裏一体のものである。
このように,問題解決学習のねらいには,問題解決を通しての内容の把握と問題解決能力の育 成という二つの面がある。特に,生涯学習体系の中の学校教育として,学び方の学習,問題解決 能力の育成が望まれている。
しかし,現実として,小学校段階では,問題解決学習のし方を学び,問題解決を通して内容の 把握をすることが中心、に行われている。問題解決能力は小学校で基礎づくりをし,中学校の課題 学習や選択数学で本格的に育成されていき,高等学校の数学学習に発展していく。
(2)問題解決学習における問題とは
問題解決の「問題」は,子どもにとって今までに学習したことを直接当てはめるだけでは解け ないものである。既知のことを組み合わせたり,見方を変えたりしないと解決しないものである。
根本博は,
「問題」とはある種の「状況」である。しかも,それは傍観的状況ではない。主体(学習者)
が自然にそこに巻き込まれる状態であることが望ましく,主体が無理なく関わり,納得しながら 自然に思考をすすめることができ(親近性),また,目標とする知識を支える豊かな活動を必然的 に促し(数学的行為の誘発性),将来の自己活動に対する先見性を誘発するように工夫されたもの
(先見性)が好ましい。
と述べている。2)っまり,①子ども自身が解いてみたい,②解いていること自身に数学的意味があ
る,しかも,③更に次の問題にチャレンジしたくなる,そういう問題が好ましい問題と考えられ る。
2−2 望ましい問題解決学習と指導の在り方
(1)自力解決過程を大切にしたい
子ども自身が解いてみたいと思っているからこそ,子どもが自分のすでにもっている力を発揮 して,わからないこと,できないことに全力でぶつかっていく。この自力解決の過程を重視する ことによって,子どもの授業への参加感を大切にすることができる。また,自力解決は,子ども 自身で,何がわかり,何がわからないか,何ができ,何ができないかを意識できることが必要と なる。不十分であっても,自分で出した結論だからこそ,その後の集団での問題解決活動に積極 的に参加しようとするし,その結果としての学習のより高い達成が期待できる。
ではどのように自力解決を保証すればよいのであろうか。
ア.自力解決の時間的,空間的保障をしたい
A.シーンフェルド(A.H.Schoenfeld)の研究によると,個人の問題解決過程は解決できた場合で あっても,必ずしも問題解決段階を直線的に進むのではなく,各段階を行ったり釆たりして,や がて解決にいたることが示されている。3)
このような試行錯誤にも見える問題解決活動を保障するためには,十分な時間と,ときには教 室といった固定的な空間だけでなく,家庭での学習活動をも統合して考えることが必要であろう。
ただ,問題解決も解決過程の指導や応用問題の解決ばかりではなく計算のアルゴリズムの導入な どの場合もある。このような場合には,解決時間を5分ぐらいに制限する中で自力解決させるこ とも考えられる。
ィ.自力解決の結果が誤った発想であっても否定しない姿勢を示したい
自力解決で大切にすべき冒険的恩考は,冒険的であるだけに算数的には誤ることが多い。それ だけに誤りを認め,むしろ誤ったときにどのように正しい解決へ修正するかのモデルを集団解決 で示してやりたい。
ウ.低学年から発達を踏まえた自力解決力を育成したい
1年生の子どもに最初から子ども自身に自力解決させることは難しい。この段階では,問題と は何か,問題を解くとはどういうことかというよいモデルを示す必要がある。中学年では,自力 解決だけでなく自力解決と集団解決とを比較させることも可能となろう。高学年ではさらに,問 題解決を自分の言葉で表現するようにさせ,筋道を立てて説明できるようにさせてみたい。
(2)子どもの個人差を配慮したい
内容に関する学習の達成度や進度差だけでなく,グループ学習で学習効果のあがる子,一人で 学習した方がよい子というように,量的,質的な個人差が問題解決に影響を及ぼす。
ア.授業前にすること
量的な個人差はペーパーテストなどで把握することが比較的易しいが,併せて質的な個人差に ついても日々の指導を通して把握しておくことが大切である。例えば,机間観察や指導の際に,
次のような3っのタイプの子ども(①Aタイプ:遅れがちで,自力で解決できない子ども,(診B タイプ:自分でおよその解決の見通しが立てられるが,教師の支援が必要な子ども,③Cタイプ:
自力でうまく解決できる進んでいる子ども)を把握し,それぞれの子どもに応じた指導を計画し
重松 敬一・井戸野佐知子・槙弥 直浩
ておく必要がある。
ィ.授業の中ですること
自力解決の過程では,机問指導を行って個別に指導することが大切であるが,1クラス全員の 個別指導は毎時間できないので,Aタイプの子どもには,解答の過程を示したヒントカードや解 決の見通しを指示した指示カードなどを用意して渡してやりたい。Bタイプの子どもには,子ど
もが必要としている支援の内容を把握しながら,ヒントカードを渡してやりたい。その一方で,
Cタイプの子どもには,よりよい解決の方法を探究させたり,深化,発展的な問題を渡してチャ レンジさせてみたい。
集団解決の過程では,Aタイプの子どもの発想も取り上げながら,子ども自身に解法を分類さ せ,最初の自分の解法と比較させながら,よりよいと思える解法の立場を決めさせ,できればノー トに書かせたい。このような立場をしっかり意識させることによって,個人差を踏まえた集団学 習のよさを味合わせられる。
ウ.授業の後ですること
一時間の短い時間ではあまりわからない子どもの質的な個人特性も単元を通してみていくと子 どもの問題解決の変容過程を通して把握できる。そのためには,あらかじめ単元中の学習のチェッ クポイントを決め,そのポイントに絞って指導の過程を把握することが大切である。ときには,
各タイプの子どもを2人ずつ抽出して単元全体での変容過程を明らかにすることもやってみたい。
また,子ども自身に自己評価表をもたせて記入させることも個人差を捉えるのに有効な方法で ある。
(3)操作的活動や思考実験を大切にしたい
J.ピアジェ(J.Piagit)が,算数・数学の知識は子どもの主体的な活動を通して頑の中に構成 されていくことを示して以後,算数・数学でも,物の操作からの学習ということが強調され始め た。問題解決過程でも実測や実験を含んだ操作的活動はたくさん行われるようになった。例えば,
長さを実測したり,間接比較したり,拡大縮小図で学校の校舎や山などの高さを測量したりする。
最近では,ノヾ−ソナルコンピュータによるシミュレーションによって,琵琶湖の広さを調べたり,
山の等高線を作図したりする実践も報告されている。もちろん操作的活動には物を直接的に扱わ ない念頭的な操作活動もある。平成元年度改訂の学習指導要領では,この念頭的操作活動をより 強調し,「恩考実験」という言い方で,物を直接対象とした理科とは違った,算数・数学固有の実 験というものを大切にしようとしている。
では,どのように操作的活動や実測・実験を問題解決活動で活用すればいいのだろうか。
ア.子どもの自然な数量・図形感覚を大切にし,子どもが操作する目的のある学習の文脈を大 切にする必要がある
例えば,実測・実験で生じる誤差の処理は,教師だけが知っている算数・数学的事実に合わせ るためではなく,子どもの問題解決の文脈に即した処理を教師ともども検討することが大切であ る。
ィ.操作的活動や実測・実験は算数・数学の世界への単なる導入ではなく,算数・数学の知識 構成に欠くことができないことを意識させたい
事実の確認のためだけの操作的活動や実測・実験であるなら,教師のつくった路線の一つの導
入にすぎないことが多い。大切なことは,現実の世界から算数・数学の世界へと世界を転換し,
問題を処理しようとするプロセスにおいて,操作的活動や実測・実験が,子どもの知識の構成に 役に立つものであることといえる。操作と式を比較し,操作がどのように式に転化していったか を考えさせなければ,操作をした子ども自身で算数・数学の知識を構成した意識が残らないであ
ろう。(4)論理的思考や直観力,反省的恩考を育成したい
子どもにとって問題解決は,挑戦的でワクワクした喜びが味わえるものであり,解ければその 喜びはなおいっそう強いものとなる。問題を理解し,「ああでもないか,こうでもないか。」と解 決のための計画をしているときの,冒険的で,拡散的な愚考の場面では直観力が牽引車のごとく 問題解決の方向を示唆する。この後,解決の方向の正しさを系統的,演繹的に裏づけていくのが 論理的恩考であるといえる。さらに,解決の過程を振り返りながら考えを巡らしたり,解決の結 果を検証という形で振り返ってみるときには反省的思考が大いに働く。
これらの思考を問題解決過程で育成するには,次の2点を大切にしたい。
ア.思考を働かせるためのよい課題と場面を用意し,恩考が働いている問題解決のプロセス が見えるよいモデルを示したい
文章題の例を用いて,どのように図に表すか,式に翻訳するかを説明するときに,「この数を使っ てこのような図がかけると思ったけれど,こっちの方がよりわかりやすいので…。」と,子どもの 頭の中にこのような解決の方法,プロセスが内面化されるようによいモデルを示したい。
ィ.問題解決過程で働いている思考活動を子ども自身に意識させるために,教師がモニター し,知らせたい
適切な場面で,「何をしたいの?」,「答は問題と合っているのかな?」など,それぞれの思考活 動がうまく働き,その働きを意識させるような発問,指示を行いたい。
(5)算数のよさを味わえる問題解決過程を演出したい
算数のよさは,①道具のよさ:知識・理解,表現・処理のよさ,②プロセスのよさ,③結果に 対するよさという3つの観点で考えることができる。このようなよさを感じることができる問題 解決であってはじめて,問題解決が単なる指導方法に終わるのではなく問題解決力の育成という 目的の達成が期待できる。よさの感じ方は個人的な感情の営みであり,差も大きいが,次の段階 の算数・数学の学習を支えていく意欲と大きく関わるものである。
では,どうすればよさを味合わせることができるのだろうか。
ア.教師が問題解決の過程においてよさを認めることがあったら,感動してみせてやる 子どもに押しつけるのではなく,「うまくできてる。」,「うまくいった。」などと素直に教師が感 動して見せることにより,子どもによさを意識させていく。
ィ.よい教材の工夫
単に教師の演技だけではだめで,そのためのよい教材の工夫も大切である。そのためには,教 師自身が算数のよさに対する感受性を磨くことが必要である。
3.小学校における問題解決学習の実践事例と問題点
小学校では,平成元年度から問題解決学習を進めていこうとする努力が教師の間で見られるよ
重松 敬一・井戸野佐知子・桟弥 直浩
うになった。研究推進校は一斉に「問題の把握」,「解決の計画」,「解決の実行」,「解決の検討」,
「まとめ」という5段階を学習過程とした「問題解決学習」の研究をし,それが地域全体に広がっ て行って,自力解決,集団解決という言葉を知らない教師はいなくなったぐらいに問題解決学習 は浸透していっているように見える。しかし,質的な面はどうであろうか。
3−1自力解決の場面の事例
2−2(1)のウで示したように,第1段階(低学年)では,認知・メタ認知がどのように働いて問 題解決学習をしていくのか教師が形式を教える必要がある。第2段階(中学年)では,教師の支 援により問題解決が子ども自身によって進めていけるように,また,第3段階(高学年)では,
できるだけ自分で解決していけるようにしていくことが大切である。ところが,次に述べるア.
イの事例は,第1段階のような指示の多い授業を中・高学年まで引きずっているため,子どもの 解いてみたいという気持ちを半減させたり,多様な考えを規制してしまう例である。また,ウ.
の事例は,一つの解決を求めるだけで,他の解決方法を工夫することに数学的意味を兄いだすこ とがない例である。
ア.指導に問題がある例(過度の方略指示)
高学年になっても,文章問題の意味理解のとき,「この問題でわからないことは何ですか。」「わ かっていることは何ですか。」「それを図に表したらどうなりますか。」といったように,教師の発 問や指示に従って問題を解く,教師中心の問題解決の授業が多い。教師によって提起された問題 から子どもの解決活動が動機づけられるのはやむをえないとしても,教師が用意した問題解決過 程の中に子どもの主体的な問題解決活動がどれだけみられたかというと,はなはだ心もとない。
子どもの参加感とか達成感といった言い方が大切にされるのは,この問題を指摘したものであろ
う。
ィ.指導に問題がある例(観点まで指示)
6学年の立体の形について考察する授業で,「面についてこれらの立体を仲間分けしてみましょ う。」というように,仲間分けの観点まで教師が指定している場合,子どもにとって面以外の要素 は捨て去ることになるし,この要素で分けたらこういう仲間分けになり,こちらの要素で分けた らこういう仲間になるという他の見方ができなくなる。自力解決をしているのは先生ということ になりかねない。
ウ.教材と発間に問題があり,他の解決が無意味な例
一応の解決ができている子どもに対し,教師は,他の解決方法を見つけるように指示すること も多い。が,子ども自身が,必要性を感じていないときがある。例えば,面積の求め方を考えさ せることがめあてだったとする。子どもの興味を引くための問題に作り替えて工夫をしたっもり
で,いくつかの図を見せ,「この中で一番面積が広い土地の持ち主がお姫さまと結婚できます。誰 でしょうか。」と聞くと,問題自身と教師の発問の問題から,子どもは他の解決方法を考える必要 がないと言える。
3−2 集団解決の場面の事例 ア.教師の考えの押しつけの例
自力解決したものを集団の力によって練り上げていこうとする場面も大切である。ところが,
この場面で気になることは,練り上げの場が発表会,品評会になっている場合があるということ
である。教材研究の段階と自力解決中の机間指導の段階で,集団解決の段階の授業の構成をきち んとしておかないと,子どもにいっぱい意見を言わせておいて,「この意見もあの意見もよいです ね。」と発表会になったり,「でも,この考え方が一番いいので,こういう場合はこのようにとき ます。」と,最後は教師の考える方向へ強引に引っ張って行くという形になる。また,最後によい とされた解き方と異なっていた子どもにとっては,自分の自力解決の意義がなくなり,「どうせやっ てもだめか。」となる。発表順位をあらかじめ考え,子ども達の力により練り上がって行くように 授業を仕組む必要がある。そのためには,練り上げる視点が明確でなければならない。考えられ る視点としては,「解決の方法や考え方の共有」と「比較検討による発展」であろう。視点に合わ せて練り上げられていったとき,子どもは,友達の考えと自分の考えの同じところや違い,友達 の考えのよさに気付き,更に,自分の考えを高めることもできる。
ィ.グループ学習
自力解決を基にしたクラス全員での集団解決をすることが多いが,教材によっては,グループ での集団解決も考えられる。
集団での取り組みが好ましい方向に向かえば,教室全体がいきいきしてくる。集団を構成する 各個人がその存在を認められていると感じられたとき,子どもは未知のもの,困難なものにも向 かっていく意欲が湧いてくる。しかし,グループで取り組んで発表する場合,グループの誰かの 意見がそのグループの中で広められ,しっかり理解しないままグループの意見として発表されて いることが多い。そうではなく,例えば,九九表の構成でいえば,全員が同じ段を使って考える のでなく,グループ毎に構成する段を分担する。つまり,あるグループが8の段を構成するとい う分担になれば,グループ内では2の段と6の段を使う者,3の段と5の段を使う者,4の段を 使う者など自分が試してみようと思うもので仕事分担をして行うよう促すのが教師の役目である
と恩われる。また,9を越える段を考えるグループがあればさらにすばらしいと思う。
3−3 まとめの段階
まとめの段階まで自分の力でやりきることは小学校段階では難しいので,本稿においては詳し くは述べない。ただ,練り上げによって得られた共有の知識が子どもの個人の知識として身に付 くためには,子ども自身の言葉でまとめさせることが大切であろう。しかし,小学校の段階では,
理解の不十分な子どもや表現力の不十分な子どもの実態に合わせて,教師のまとめもよきモデル として必要であり,ときには「わかった気になる。」ようにすることもまた大切である。
4.中学校における課題学習の実践事例と問題点
4−1「課題学習」の目的について
日本の子どもの学力は,内容学習の達成は高いもののプロセス学習の達成は必ずしも高くない といわれてきた。例えば,第1回,第2回国際教育到達度評価学会(IEA)の報告でも日本の子ど もの数学的な考え方の弱さが指摘されている。
このような状況が起こるのは,プロセス学習に焦点をおいた指導が行われてこなかったからで はないかと考えられる。中学校は,高等学校等への進路保障のためのパターン学習が申し、であり,
数学に魅力を感じ,積極的に学習しようとする子どもがますます少なくなっているように思われ
る。実際,学校で学習したことは少々難しくとも解くことができるが,反対に,解いたことがな
重松 敬一・井戸野佐知子・構弥 直浩
いものは簡単なことであっても解くことができない,といった子どもが多い。
知識・理解,表現・処理という内容は学習対象としてかなり形式化されてきたものである。そ の一方で,数学的な考え方,関心、・意欲・態度という内容は,末形式のままで,焦点化されるこ とはなく,知識・理解,表現・処理の学習を通して,間接的に指導されてきたといえるかも知れ ない。それだけに,この未形式なものを学習内容として扱い,焦点化した指導を行うことによっ て,プロセス学習でも学習成果をあげようというのが「課題学習」の目的と考えられる。
そこで,「課題学習」の目的について次のようにまとめることができる。
①数学的な考え方と数学的活動へのよい関心・意欲・態度の育成
数学的な考え方が弱いと指摘される原因は,知識・理解,表現・処理の形式化された学習内容 を通して,未形式の考え方を副次的にしか育成してこなかったためであり,考え方を学習内容と して焦点化して指導することが必要である。
②内容の総合と日常事象との関連付け
日々の指導では単元構成にしたがって,各領域ごとにバラバラに指導されることが多かったと いえる。これでは,それぞれの領域での学習達成は十分であっても,それらを総合した数学的活 動となると考え方と同様に弱いという指摘につながっていたといえる。これに対して,数と式,
図形,数量関係の内容領域の総合,日常的考え方と数学的な考え方の総合,小学校と中学校の内 容的総合等が大切となる。
4−2「課題学習」の指導内容について
2で指摘した問題を,「課題学習」についてもう一度考察することにする。「課題学習」の目的 を達成するために,指導内容の選択条件は次のように考えられる。
①数学性がある
数学の授業だけに,いたって自明なことをあげると思われるかも知れない。とはいえ,問題解 決の教材の中にはクイズ・パズルに類したものも多くあり,科学の方法論としての数学の特質が
ないものもあるから,数学性の再確認が必要である。教材の構造が,数や図形の性質に帰着でき たり,応用できたりといった関連が考えられる。
また,その教材が,それ自身発展する可能性があり,他の教材とも関連したりすることが望ま しい。そのためには,問題に対して,子どもの自由で,多様な解決への試行錯誤を認めることが 必要であろう。
②JL、理・教育性がある
何よりも,子どもに,問題として取り組む面白さが感じられなければならない。上記① と矛 盾するようであるが,表だって数学の押しつけにならないような娯楽性と子ども一人ひとりに達 成感,成長感が感じられるものでありたい。というのも,子どもにとって自分への価値を実感で
きない教材は,数学的には価値があっても受け入れられないことは明かである。そのためには,
自由な取り組みだけでなく,時には特異な発展や変容,解決を許してやりたい。
以上から「課題学習」では,解決できることが主たる日的ではなく,子ども自らが規則をっく り,構造を表現するといった,数学言語を話し,書くという形式化の過程を総合的に経験するこ とが大切といえよう。
4−3課題学習の実践事例と問題点
(1)実践事例1
ア.異体的な課題について
この授業は,「ハノイの塔」を題材として中学1年の11月に行ったものである。日常の場面から 問題解決への興味・関心を持たせるため,「ハノイの塔の円盤の移動」ではなく,「水害による品 物(箱,本,人形,ボール)の移動」という設定で行われた。
「一一一一一一一一 d一日− 一一一一. −−−T一一一一一課 題一一一一一一一一 一一−M−√−一一−−
;水害により,倉から運び出して山積みにした4個の品物を,できるだけ少ない回数で倉に戻 す。
ルール:(1)1回に運べるのは1個。
(2)品物は大きい物から上へ積み上げる。
(3)台は3カ所。
(4)以上をできるだけ少ない回数で行う。
ィ.授業の流れ
課題提示
〕
①教師「品物が2個のときでは,3回で運ぶことになる」(実演し,ルールの説明を行う)
J (全ての生徒が課題の内容を理解する)
②教師「さて,4個のときでは何回で運べるでしょう」 (6人グループで考えさせる)
教師「積み木,色紙,おはじき,ペンなどあるものは自由に使ってもいいよ」
J (積極的に具体物を使う)
③教師「答えまで出なくていいから,まとめてみよう」
J 生徒「書くのは,不可能や」「やり方忘れてしまった」
教師「H君は,法則みたいなものを見っけてくれました」
J
④教師「できた人は,発表してください」
J (H君は,黒板で説明する)
⑤教師「何か規則性があるようですね」
I
教師「品物が5個のときを予想しよう」
①(具体的な操作例,およびルールの説明)
日常の場面から導入していくことで,生徒の課題への興味,関心を抱かせる。また品物を2個 で説明することによって全ての生徒に課題の内容を理解させる。
②(自力解決)
形態は粧活動とし,班での話し合いを通して,個々の考えを発展,統合させる。
生徒の身の回りの品物を利用させることで思考の補助とさせ,異体的な思考から解決方法を発見 させる。
③(思考過程の記録)
考えや思考の過程を記録させることで,問題の解決への補助とする。
重松 敬一・井戸野佐知子・横弥 直浩
④(集団解決)
発見した結果を全体に発表させることで,理解を深め,さらに課題を発展させる意欲を養う。
⑤(課題の拡張)
生徒がよりいっそう課題に興味を持ち,発展,拡張しようとする。
ウ.本実践事例の問薗点
①課題設定:この授業では,「水害の話題」から課題の構造を明らかにし,生徒の解決意欲を 喚起しようとした。それがかえって非現実的に感じられ,最小回数の条件が不自然なものとなっ た。「ハノイの塔」をそのまま課題に設定した方が,生徒の知的好奇心を刺激し,数学の世界(抽 象化)での課題解決になると考えられる。
②授業内容:この思考過程には,特殊から一般,表にして考える,帰納的に考えるという数学 的な考え方が使われる。授業展開としてはオープンではなく,生徒にとって課題の方向性は明白 であった。ところが1つの答えに収束してしまい,解き方も表にして数列の考えで解くしかなく,
生徒の多様な考え方が出てこない内容であった。
(診授業方法:教師側から問題の発展を提示してしまい,生徒から課題の拡張ができなかった。
生徒は,特定の問題の解決で十分であったといえる。
(2)実践事例2
ア.具体的な課題について
この授業は,中学3年の11月に三平方の定理を学習した後,行われたものである。誰もが一度 は手にしたことのある折り紙を教具として問題解決への興味・関心を持たせた。
: 、、−11 也
; 、 1
序との正方形のrrの面積の正方形を作ろう0
1」_.−_,.__.._−−−__._.___−−▼−一.−____._−−−_,M..____一_−.・−_−−.__.__.,_._,,__.._____−−_−_−_,▼_′__・..−__._.._−−___,・一__.__・.−−__._−_・__,_,__一..__..ム_.ィ.授業の流れ 課題提示
J
①教師「□=4のときをまずやってみよう」(実演し,ルールの説明を行う)
J (全ての生徒が課題の内容を理解する)
②教師「□=4以外で,自分の好きな数字をいれて考えてください」
教師「この折り紙を使って考えましょう」(全員に折り紙15枚ずつ配布)
J
③教師「できた人に発表してもらいます」
J (生徒は,ロ=2,8,9,16のときを発表する)
教師「むやみに折らずに,対角線を学習したのでその利用も考えてください」
1 (教師は,三平方の定理を利用させたい)
教師「何か規則はないかなあと,考えながら折ってください」
J (教師は,□=3,5を出させたいが,生徒には難しい)
④教師「プリントに自分が折ったものを書いてください」(プリント配布)
①(具体的な操作例,およびルールの説明)
貝体物(折り紙)を使って導入することで,生徒の課題への興味,関心を抱かせる。また□二 4で説明することによって全ての生徒に課題の内容を理解させる。
②(自力解決)
学習形態は,生徒の実態により班活動としなかったが,周りの生徒と相談しながら,個々の考 えを発展,統合させる。
③(集団解決)
発見した結果を全体に発表させることで理解を深め,さらに課題を発展させる意欲を養う。
④(まとめ)
プリントに自分の考えを整理して書くことで,筋道を立てて自分の考えを説明できるといった 数学的な表現・処理の力を身に付けさせる。
ウ.本事例の問題点
①課題設定:この課題設定では,課題内容が理解しにくく,いきなり「昔の正方形の面 積を作ろう」と問うより「折り紙でどんな正方形を作れるか」ともう少し広く問う方が,生徒の
多様な考えが生じたのではないかと考える。
②授業内容:この授業では,具体物を使って課題の構造を明らかにしようとしたが,生徒は折 り紙を折るという操作に拘束され,数学的な世界には進めなかった。そのため,三平方の定理を 使うという考えも出なかったし,プリントに自分のまとめが書けなかった。この課題には,面積
と一辺の関係や筋道を立てて考えるという数学的な考え方が包含されている。しかし,生徒はそ の視点で課題に取り組めなかった。
③授業方法:授業展開としてはオープン的で,生徒にとっては自分で課題が設定できる。しか し50分の授業時間枠では,教師が意図した方向には進めず,生徒にとってもこの授業で何を学習 したか明確にはならなかった。
(3)2つの実践事例に共通する課題学習の問題点
①課題設定:課題内容は同じでも,課題の設定の仕方により,生徒の数学的なイメージをかき 立てたり,多様な思考を引き出せるような授業となる。そして,教師の課題の進め方が問題の発
展性につながる。
②授業内容:課題解決のプロセスとして,「変数に対する関係に気づく。」→「表や図を作っ て考える。」→「数学的な見方や考え方のよさに気づく。」ことが望ましい。課題学習は,プロ セスが大切であり,生徒が数学的な見方や考え方ができたときの満足感やよさを感じとれること に重点を置きたい。
③授業方法:教師が問題の発展を提示するのではなく,生徒が自ら課題を拡張して行けるよう な授業展開が望まれる。また中学生にとって,具体物をどのように扱うか。そして,どこで具体 物から離していくかがポイントになる。
5.おわりに
本稿では,小学校,中学校における問題解決学習について概観し,指導事例をもとに実践的な
問題点を指摘した。
重松 敬一・井戸野佐知子・桟弥 直浩
例えば,小学校の問題解決学習では,問題解決のプロセスにおいて,解決の段階の枠組み,解 決の方法に授業展開が拘束され過ぎることを指摘した。実際,子どもの発達段階に合った教師の 支援のし方が必要にもかかわらず,教師主体の問題解決となり,子ども主体の問題解決学習になっ ていないことを明らかにした。中学校の問題解決学習では,「課題学習」の課題についての研究が 必要であること。さらに,子どもが解決した満足感や数学のよさを感じとれるような課題学習の 進め方の研究が必要であることを指摘した。
科学的成果を摂取するための知力の高い国民を育成するためには戦後の教育課程は大きな成果 を残してきた。しかし,今後の不確実な社会に生きて発展させることができる国民にとっての知 力の育成のためには,現在の教育課程で十分とはいえない。
そのために,最近では,学校教育内だけで教育期間は終わりでなく,生涯教育ということが強 く意識されるようになった。ここに一層,自己教育力の育成とあわせて生徒の主体的な学習が強 調されてきた背景がある。この社会的動向は,今後,知識・理解,表現・処理の側面だけでなく,
より一層,数学的な考え方,関心・意欲・態度の面での教育効果が期待される。それだけに,問 題解決学習が重要になり,小学校における問題解決学習のプロセス,中学校における課題学習に ついての論議が必要である。そして,小学校,中学校,高等学校を一貫としてとらえ,問題解決 力の育成を重視していかなければならない。
引用・参考文献
1)岩合一男編:『算数・数学教育学』 福村出版,1990
2)新算数教育研究会編集:『算数授業の新展開講座7問題解決の指導』東洋館出版社刊,1990
3)Schoenfeld,A.H., MathematicalProblem SoIving ,Academic Press,1985