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家族とのたのしい経験の世代差  一子供時代を中心として一

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(1)

家族とのたのしい経験の世代差  一子供時代を中心として一

上田 禮子*・石本 幸枝**

 (1994年10月12日受理)

Generation Gaps of Pleasureful Experiences with Family Members       involving Parents and Children

Reiko UEDA and Yukie IsHIMoTo  (Received October l 2, 1994)

 オランダの歴史家ホイジンガJohan Heizinga(1872〜1945)は人間を「遊戯する存在」として捉 え,社会生活の組織化の進展に伴って遊びに二次的役割しか与えなくなることに危機感を示したこ

とで知られる。また,その後フランスの社会学者Roger Caillois )は,遊びを人間生活の重要な事実と

認め,遊びの分類を行い,遊びと社会生活との関係を深く考察した。すなわち,遊びと社会との関 係は遊びが社会を反映するものであり,遊びをある社会の特性をあらわす指標とみなすことができ

るという視座である。法律や経済の諸制度の研究から社会や文化の特性を知ることができるように,

遊びの研究からも社会や文化のあり方も推測されるという見方である。

 著者らは人間の生涯にわたる遊びの意味を,発達過程と関連して明らかにすることを目的として 多角的に実証的研究を開始している。すでに青年期女性を対象としたあそびの種類と内容を調査し

た結果,特にTV視聴時間の長短と次世代に残したい遊びの有無が有意に関係することを報告した7)。

本調査は人間の幼少時における遊びの意義を明らかにすることを目的とした。

 ただし,ここで言う遊びとは①仕事や勉強(課題),および食事や睡眠など生存のために必要なも のを除いた経験として広義にとらえているこど゜),②また,単なる時間つぶしや娯楽ではなく,自由

で自発的,かつ想像力,創造性を伴い,満足と達成感をあたえてくれる活動という条件をみたすこ

と4)とし,気晴らしなどと区別するために「たのしみ」と言いかえることにした。

*茨城大学教育学部(〒310 水戸市文京2丁目1番地;Factory of Education, Ibaraki University, Mito,

 Ibaraki 310 Japan)。

**三郷市役所(〒341三郷市花和田648−1;Misato City Hall, Misato Saitama 341 Japan)。

(2)

1.対象と方法

 対象は,首都圏に住む60歳以上100歳までの男性19人,女性18人(以下A世代と称す)合計37

人である。方法は質問紙法と一部面接法である。

 質問紙の内容は「たのしみに関する調査」と題し,(1)子ども時代から現在までの楽しい経験(年 代別,経験の共有者,場所を含む),(2)性別,年齢,家族構成,職業,学歴,居住地などの属性,

(3)現在の健康状態と既往歴,(4)現在の「たのしみ」と次世代に残したい「たのしみ」の有無(5)

現在の生活の満足度,(6)仕事と遊びの違い,(7)生きがい,(8)日常生活の過ごし方などより構 成されている。「たのしみ」は自由記述で回答を求めた。

 分析方法はまず被検者が年代順に自由に述べた「たのしみ」の経験内容をKJ法に準じた方法によ

り意味のとれる最小単位で分類し,量的検討を行い類型化した。次に,幼少時における「たのしみ」

の世代差の検討を行ったが,これはCohort法により被検者女性(1913〜1933年出生者)A群と同 じ調査方法で資料の得られたB世代(調査時点で19〜21歳,1973〜75年出生者185人)とを幼児

期・学童期に関して「たのしみ」の内容を比較検討した。

 本報告は,その目的から被検者の子ども時代とその結果を中心に述べる。

n.結果

(1)被検者の属性

被検者の属性は,表1に示すごとくであった。学歴は尋常小学校から大学まで幅があったが最も

表1.対象者の属性

年齢 60代 70代 80代 90代 100代

計(人)

男女 11 19Ω ρOFO −1 00 10 11 Q)00

出身地  (県) 埼玉 東京 千葉 神奈川 北海道

男女 り0只り ハ0ρ0 ll nb4 Qりn乙 1⊥1 Qり00

居住形態

自宅

借家  老人ホーム  不明

男女 ll り自∩U 14 ρ04 04 QりOQ

学  歴 小学

中学

高校   専門学校  大学 その他

男女

1 3

9臼0

 1 11

1

ぼD9自 ll 11 Qり8

婚  姻 既婚 未婚

死別

再婚

男女 11 64 AUO 9臼4 10 11 Qり8

家族形態 夫婦のみ 単身  子供と一緒  複合

男女

l

OQU り白1 −⊥− Qり0◎

(3)

多いのは大学,専門学校卒19人45.9%,

次いで高校卒12人32.4%であった。

家族形態は男女ともに夫婦のみが最も多く,

男性10人52.6%,女性9人50.0%であり,

次いで複合家族,男性6人31.6%,女性7人

38.9%であった。

 表2−aは,現在の職業の有無を示してお り,男性6人31.6%は有職であり,会社役員

3人・会社員2人・老人ホーム施設長として就 労していた。女性は家事以外の職業に従事す

る者は皆無であった。

 以前の職業の種類は,表2−bのごとくであ

った。

 女性では6人31.6%が専業主婦以外の仕事

に従事した経験をもっていた。

 表3は現在の健康状態であり,健康状態不良

の者は男性4人21%,女性1人5.6%であっ た。なお,既往疾患のある者は男性14人73,

4%,女性8人44.4%であった。

 (2) 「たのしみ」の種類と内容

  現在の「たのしみ」のある者は表4のごと

くであり,男性100%,女性94.4%であっ

た。

表2−a 現在の職業

職業

あり なし 計(人)

男女 ハbnU 11QUOO QuQO

注)種類;会社員2,会社役員3,老人ホーム施設長1 表2−−b 以前の職業

      会社 種類会社員       役員

      計

教師銀行員農業その他

      (人)

男女 『DO QuO 39臼 −↓0 10δ

6  19

1   6

注)専業主婦以外の職種従事者 表3 現在の健康状態 状態  良い  普通 良くない 不明

計人 )  (

男女  1000 41 10 11⊥QりOQ

  次に,自由記述された「たのしみ」の内容を対人関係の視点から表5−aに示すごとくに誰と共 有したかに基づいて分類し,時期別・男女別に比較した。その結果,男女ともに幼児期から学童期 になるに従って「家族と共に」が減少し,一方「友達と共に」が増加することで共通していた。し

かし,女性は男性に比較し幼児期(88.1% VS 27.8%),学童期(30.1% VS 70.8%)ともに 家族と楽しむ割合が有意に高かった。(P<0.001,P<0.006)

表4 現在のたのしみと次世代への伝承意図

たのしみ

あり なし

不明

計(人)

男女

19(100)

17 (94.4)

00 0

1(5.6)

19(100)

18(100)

伝承意図

あり なし

不明

男女

9(47.4)

8(44.4)

8(42.1)

3(16.7)

2(10.5)

7(38.9)

19(100)

18(100)

()内・%

(4)

表5−・a「たのしみ」の内容一対人関係の視点から 家族と

特に兄弟と   親と

  夫あるいは妻と   子供と

  叔父,叔母,いとこなどと 友人と

特に学友と   会社友人と

  サークル,同好会,

その他   近隣

  ガールスカウト,ポーイスカウト,

  子供の友達,PTA   宗教団体   先生,生徒

  ベビーシッター,孫の子守など

 男性は女性に比べて幼児期から「友達と共に」たのしみを経験することが有意に多かったが,「ひ とり」でのたのしみの経験も有意に多かった。(18.2% VS 3.8%)

 「家族と共に」幼児期に経験した「たのしい」あそびを詳細にみると,男女ともに伝承あそびとし ての双六,カルタや土(泥)あそびであり,学童期には女性がお人形ごっこや川遊び(水あそび)だ

ったのに対して,男性はとんぽとり,ホタル狩り,乗馬などであった。いずれも生き物に対する関

心を家族と共有していたといえる。「友達と共に」経験したたのしみに関しては,男性が幼児期から

たこあげ,コマまわしなど伝承あそびを家庭の内外で楽しんでいるのに対して,女性は学童期にな ってこれらを楽しむ者が多いという傾向があった。なお,男女ともに「ひとり」で楽しむ遊びもあ

ったが,その内容として幼児期から男性は将棋の観戦,魚つり,習字,二輪車などをあげており,学

童期には男女共に読書であった。記述された「たのしみ」の内容を屋内・屋外に分類して男女別に

比較すると図1のごとく学童期において男性は女性よりも有意に屋外の楽しみを経験していた(男性 81.1% VS 女性57.3%)(P<0.01)。

表5−brたのしみの内容」一各時期における「あそび」の件数

幼 児 期

対人的

女 男

件(%) 件(%) 件(%) 件(%)

家族と共に

F達と共に一   人

サ の 他

5 (22.7)

P3 (59.1)

S (18。2)

O

35 (85.3)

T (12.2)

P (2.4)

O

4 (7.5)

S4 (83.0)

Q (3.8)

R (5.7)

22 (29.3)

T0 (66.7)

Q (2.7)

P (1.3)

合計

22(100.0) 41(100.0) 53(100.0) 75(100.0)

平均件数

1.2件 2.3件 2.8件 4.2件

(5)

 また,「たのしみ」の内容を身体・運動的,精神的,両方を含むもの,その他の4種類に分類した

結果,男性は女性に比べて幼児期・学童期ともに身体・運動的たのしみの割合が有意に高かった。

 (幼児期77.3% VS 45.6%,学童期82.0% VS 54.7%)(P<.004, P<.002)(図2)

図1 年代別[楽しみ]一屋内・屋外

o、6歳

7㌔12歳

0、b歳

7〜工2歳

臼      田

       x 蓬灘慧慧甕難≡董嚢董垂嚢i郵      一垂奪窪一藁一一

        」7 34 一一畳

       ま 

      、壽

        一

   屋内        屡外       区別不能

     * Pく 009

「たのしみ」の時代差

図2 年代別[楽しみ]一身体・運動的と精神的

  o       iU

O、6歳

7〜12歳1

口〜6

7〜12

歳i 難  _睡

日     2目     鰐     田     聞     田

購.  屡難儲灘

[羅羅i羅塁蓬糞蘂叢  一一一一一1・Il

身体運動的  榊 u・]  両鰹   その〔也   *P(D4  **P( 002

1°1

 (3)

  子ども時代の「たのしい」経験の時代差の有無と特徴を知るためにA世代とB世代の女性の「た のしみ」の内容を同じ調査方法と分析法によって比較した結果は表6に示すごとくであった。B世代 はA世代に比べて幼児期・学童期ともに「家族と共に」経験した「たのしみ」は減少し,(85.3%

VS 21.8%,29.3% VS 15.5%),それぞれ有意であった(P<.001, P<.003表6参照)

表6 A世代とB世代の「たのしみ」の内容

共有者 A群

幼児期***

B群

A群

学童期*

B群

家族と共に 友達と共に  その他

 一人

35 (85.3)

5(12.2)

0(0)

1(2.4)

90 (21.8)

284 (68.8)

38(9.2)

 1(0.2)

22 (29.3)

50 (66.7)

1(1.3)

2(2.7)

89 (15.5)

333 (58.0)

144 (25.1)

 8(1.4)

41 (100.0) 413 (100.0) 75 (100.0) 574 (100.0)

但し A群;60〜80代(1933〜1913年)

   B群;10〜20代(1973〜1975年)

 ***P〈.OOI      **P<.003  数次…件数  ()内…%

(6)

m.考察

 子どものあそびに関する調査や報告3)6)9) °)は,多数あり,最近では都市化に伴って子どもの遊び

方にも変化をきたしているという指摘がある。しかし,人間の子ども時代だけではなく生涯を通し てあそびのもつ意義を知ること,すなわち,生涯発達とあそび・たのしみとの関係を系統的,実証

的に解明した研究は少ない。

 本調査は人間のあそびが他の動物と質的に異なる創造的・象徴的要素を含む,自発的で喜びや満

足を伴う体験であるとの認識に基づき2),老年期を健康に生活している者を対象として子ども時代の

「たのしみ」の経験内容を検討し,その結果を世代の異なる(約40〜60年の差)者と比較したもの である。その結果,男性と女性の間には「たのしみ」の内容に関していくらか違いがみられた。量 的に幼児期「たのしみ」の内容の一人平均件数が男性1.2件 VS女性2.3件,学童期のそれは男性

2.8件VS 4.2件で,いずれも女性の方が高かった。また,質的にみると女性は男性に比べて幼児期・

学童期ともに家族と楽しむ割合が有意に高かった。さらに,女性は学童期において男性よりも室内

のたのしみをより多く経験したが,一方,身体・運動的たのしみの割合は,有意に少なかった。

 これらの結果は,早期からの男の子,女の子に対する親の養育態度にみられる違い8)とともに,子

ども自身の自発的な選択によるもの5)と想定され,1910年〜1930年代の男性・女性に対する社会

的規制 女性は家庭を守る人 が子ども時代のあそびにも反映されたと解釈することができよう。し

かし,今回は例数もかぎられているので,今後このような視点から年代の異なる者を対象として更

に検討を重ねる必要があると考えられる。

 ところで,対象となったA世代の女性を40〜60年離れたB世代と比較した結果,B世代はA世代 に比べて幼児期・学童期ともに「家族と共に」経験した「たのしみ」が有意に減少していた。これ には,この間の社会状況の変化,なかんずく核家族化,少子化,働く母親の増加や父親の多忙など

家庭生活の変化と同時に安全な遊び場の減少(空間的要素),遊び時間や仲間の減少なども関与して

いるであろう。しかし,人生の最終段階において社会的責任から開放された自由な時間と知恵をも つ老年期に長い人生経験から次世代に残したい「たのしみ」があると回答した者が男性47%,女性 44%あり,これらの被検者がいずれも健康状態良好で子ども時代に家族と共にたのしい経験をして いた事実は注目に値する。すなわち,子ども時代に「家族と共に」楽しい経験をすることが,その

後の心豊かで健康な生き方に関係する1つの要素であることを示唆しているといえよう。このような

見方をすれば,子ども時代に「家族と共にたのしむ」経験が時代とともに減少することは,遊びを

介して,縦の関係・斜めの関係など多様な人間関係を経験する機会が減少していることでもあり,生 涯にわたる対人関係の発達への影響が危惧される。

 最後に,今回の調査方法は被検者が過去に経験したことで心に残った「たのしかったこと」を想

起して自由に記述したものである。したがって,記載されたものは,たんに過去にあったあそびの

種類ではなく,それぞれの個人にとって楽しかった経験として記憶され,かつ想起されたものであ

り,それらは個人の発達上なんらかの意味のあった出来事と考えられる。言い換えれば,主観的体

験としての「たのしみ」であることを附言しなければならない。それにもかかわらず,このような

時代差がみられたのであり,今後はA世代とB世代の男性を比較することや,他の世代との比較を

行うことによって結果の妥当性を検討したいと考えている。

(7)

IV.まとめ

 首都圏にすむ60歳以上100歳(1913年〜1933年生まれ)までの男性19人,女性18人,合計37

人(A世代)を対象とし,質問紙法(一部面接法)によって,子ども時代から現在に至るまでの「た のしみ」の調査を実施した。また,得られたA世代女性の結果をB世代(19〜21歳,1973〜75年

生まれ)女性の子ども時代の結果と比較することによって差異を検討した。

 その結果①A世代の子ども時代には男性と女性の「たのしみ」の量や質に差があり,当時の性別 による子育ての状況を反映しているようであった。②A世代に比べてB世代には「家族と共に」た

のしむ経験が有意に減少しており,急速な都市化の影響を示唆していた。

 これらの結果につき生涯発達の視点から特に子ども時代に家族と共に「たのしむ」ことの意義に

つき論じた。

附記)資料収集にあたり,協力いただいた生涯発達研究会メンバー羽室俊子,長谷川敬子,高橋真    理の諸氏に感謝する。本論文の要旨は第41回日本小児保健学会,1994年9月水戸にて発表し

   た。

引用文献

1)Caillois Roger(1958).清水幾太郎,霧生和夫訳.1970. r遊びと人間』(岩波書店).

2)Feitelson,D. Cross。cuitural studies of representational play. Tizard.B. and D.Harvey.edt. Biology of   Play(London:Spastic lnternational Medical Publications,1977),pp.6−14.

3)Hartley,RE,LK.Frank, and R.M.Goldenson.上田礼子訳.1978.『子どもの発達と遊び』(岩崎学術出版

  社)

4)IPA. IPA Declaration fo the Child  s Right to Play(London:lntemational Association of the Child s   Right to Play,1977).

5)Maccoby,E.E. and C.N.Jacklin. The person characteristics of children and the family as environment. In   Magnusson,D. and V.L.Allen. ed. Human Developmen t  ln te rnational Perspective.(N.Y.Academic   Press,1983),pp.75−81.

6)中沢和子.1991。「子どもの発達と遊び」『マインデックス6(1)』pp.4 一 7

7)小沢道子.上田礼子.1994.「保育学生の子ども時代の楽しみの体験」

  r第47回日本保育学会研究論文集』pp.634 −635

8)RutteLM.Statistical and personal interaction;facts and perspectives. In Magnusson,D. and V.LAllen.

  ed. Human Development;International Perspective.(N.Y. Academic Press,1983),pp.306−307.

9)仙田満.1992.r子どもとあそび一環境建築家の目一』(岩波書店)

10)上田礼子.1990.「子どもの遊び」r小児医学』23(3).pp.351−363

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