タイトル(英) Informatics education adapted to changing media environment (in Japanese)
著者 菅谷, 克行
雑誌名 茨城大学人文社会科学部紀要. 人文コミュニケーシ
ョン学論集
号 4
ページ 61‑78
発行年 2019‑03
URL http://hdl.handle.net/10109/13899
『人文コミュニケーション学論集』4, pp. 61-78. © 2019茨城大学人文社会科学部(人文社会科学部紀要)
菅谷 克行
要旨
インターネットの一般利用サービスが始まって既に
20
年以上が経過し、20
世紀型四大メ ディアの時代からインターネットを中心とした電子メディアの時代になってきた。電子メ ディア環境は未だ進展段階にあり、日々新たな電子デバイスやアプリケーション、インター ネット上のサービスが登場しているが、それに伴って、人々のメディア接触機会や時間、情 報行動、情報流通の仕方に変化が生じてきている。そして、それらが元となりトラブルや社 会問題に発展することもある。そこで本研究では、メディア環境の変化に適応した実践的情 報処理知識やスキル、情報行動・態度の育成に着目し、今後の情報教育の内容や位置づけに ついて検討することを目的とする。特に、文系理系を問わず、学生全員が情報教育で習得す べき知識、スキル、行動・態度について、情報教育の現状と課題、メディア接触時間に関す る調査データを基に検討する。Key Words
情報教育、メディア環境、情報行動、情報モラル、電子メディア1.
はじめにインターネットの一般利用サービスが始まって既に
20
年以上が経過している。この間、メディア環境の変化は激しく、
20
世紀型四大メディアの時代からインターネットを中心と した電子メディアの時代になってきた。今や、インターネットという一つの情報ネットワー ク空間(電子メディア空間)の中で、報道・ニュース、ドラマ、映画、雑誌、書籍、音楽な ど、多種多様な情報コンテンツが流通し、それらを文字、画像、動画、音声等、様々な情報 形態で受け取ることができる。そして受け取るデバイスも、パソコン、タブレット端末、ス マートフォン、ゲーム機など、ユーザが自由に選択できるようになっており、さらに日々新 たな電子デバイスやアプリケーション、サービス等が登場している。それらに伴って、人々 のメディア接触機会や時間、情報行動、情報流通、コミュニケーション方法に変化が生じて きている。そして、それらが元となってトラブルや社会問題に発展する場合もある。情報活用能力の重要性が提唱・注目され、アカデミックスキルの一部として大学初年次教 育に情報リテラシー教育が導入されて久しい。これまで様々な観点・方法で、情報教育の現
状調査や分析(例えば菅谷
2007a
,掛下・高橋2017
,立田2018
など)や、授業改善に向け た教育上の工夫・取り組みなど(例えば菅谷2007b
,小林2016
,阿部ら2018
,鈴木2018
など)の検討がなされてきた。しかし、急速に変化するメディア環境・社会や教育現場の現 状に対して十分に対応できているとはいえない。特に最近10
年間に実用化された情報テク ノロジーやソーシャルネットワーキングサービス(SNS
)等の社会への浸透は、情報教育に 対してその再検討を促しているように思われる。そこで本研究では、メディア環境の変化に適応した実践的情報処理知識やスキル、情報行 動・態度の育成に着目し、今後の情報教育に整備すべき内容やその位置づけについて検討す ることを目的とする。特に、文系理系を問わず、学生全員が情報教育で習得すべき知識、ス キル、行動・態度について、情報教育が抱えている課題や、メディア接触機会に関する現状 を調査したデータを基に考察する。
2.
情報教育の現状と課題2.1.
大学初年次教育としての情報教育大学の初年次教育の一つとして情報教育(「情報処理概論」や「情報リテラシー」など)
が位置づけられて久しい。そこでは主に、(
1
)学内情報環境の利用方法の教授、(2
)大学で の学習・研究活動に必要な基礎的アカデミックスキルの一部としての情報処理・コンピュー タ操作能力の育成、(3
)情報化社会をより良く生きるための知識の習得と態度の育成、を軸 にして教育を実施してきた。まず各項目の現状と課題について、以下で簡単に提示する。(
1
)学内情報環境の利用方法の教授では、学内アカウントの発行、学内情報環境へのログ イン/
ログアウト、パスワード管理、電子メールの使用方法、無線LAN
への接続方法、教務 情報システムの操作方法、授業支援システムの操作方法など、大学での学習・生活を始める ために必要な情報スキルを扱う。特に近年では、授業の履修登録から諸連絡、配布資料の受 け取り、レポートの提出、成績閲覧まで、学修活動に必要なことすべてが情報システムを介 して行われるようになった。そのため、ここでの教育の重要性は増しているが、これらの情 報システムを使用することに抵抗感・苦手意識を抱く学生は減少していると思われ、一昔前 と比べると、大きな混乱もなく実施できている。ただし、情報機器全般に対して慣れていな い学生が皆無ではない。そのため、このような学生を早期に発見することと適切なサポート が必要となる。これらの授業では学内システムに関する操作が中心となるが、システムへのログイン
/
ロ グアウト、パスワード管理、無線LAN
への接続など、ここで扱う多くの操作・知識は、実 生活でもインターネット・電子メディアを利用する時には必要な操作・知識である。そのた め、ここでの教育は、日常生活における電子メディア環境を活用するための基礎的スキル養成につながっていることと考えられる。
(
2
)基礎的アカデミックスキルとしての情報処理・コンピュータ操作能力の育成について は、大学での学術活動を進めるための道具として、インターネット、パソコン、ソフトウェ アをいかに利用していくのかについて、その基本操作を中心に扱っている。具体的には、イ ンターネット上の各種学術情報データベースや図書館蔵書検索システムを活用した文献・資 料の収集、ワープロソフトを利用したレポート・論文の執筆、表計算ソフトを利用した数値 データの簡易集計と視覚化、プレゼンテーション支援ソフトを利用したプレゼンテーション 用スライドの作成とプレゼンテーション演習などである。文献・資料の検索については、その操作を学んだだけでは決して十分ではなく、自分が必 要としている文献・資料に効率的に出合うためには、その分野の知識を深めるための経験量
(勉強量)や調べ方のコツ(検索ワードを入れ換えたり、
AND
検索・OR
検索を使い分けた りすること)なども身につける必要がある。そのため、ここは習熟度の個人差が大きくなる 傾向にあり、授業時における演習が重要となる。その一方で、ワープロソフトやプレゼンテーション支援ソフトの操作については、スムー ズにできる学生が多い。特に近年では、これらのソフトを大学入学前から使用している学生 がほとんどであり、中にはかなり高度な機能まで使いこなしている者もいる。そのため書類・
文書の作成演習は容易にこなしている。
ただし、注意も必要である。それは、習得内容・スキルにムラがあるという点である。例 えば、文章入力やレイアウト設定については問題なくできるが図表の挿入については全くで きない学生もいれば、文字入力や図表の挿入については問題なくできるがページレイアウト の調整ができない学生もいる。そのため、ある部分について高度な操作ができるからといっ て、その学生が全体的に習熟度が高いとは限らないという点に留意しなくてはならない。何 ができて、何ができないのか、教える側がしっかりと見て判断する必要がある。
また文字入力に関しても留意すべきことがある。それは、パソコンのキーボード入力に不 慣れな学生が少なからずいることである。多くの学生にとって、日常生活における情報端末 は今やスマートフォンである。そのため、身近な電子メディア環境(インターネットやソー シャルネットワーキングサービス等)へのアクセスはスマートフォンが中心となっており、
パソコンは使用していない。そのため、キーボード入力よりもスマートフォンからの文字入 力の方が得意・効率的だと感じている学生も少なくない(長澤
2017
)。表計算ソフトについては、文系学部の学生の場合、苦手意識を持っていることが多い。近 年は、ほとんどの学生は基本的な操作はできるが、数値データ集計の段階で関数や数式入力 を扱う場合や、セルの絶対参照・相対参照を含めた情報処理が必要な場合などについて、操 作がうまくいかなかったり、その内容理解がなかなか進まない学生もいる。
また、文系学部の専門授業では、表計算ソフトを活用した教育・演習内容や課題が少なく、
多くの学生は
1
年次の情報教育を履修した後は、3
、4
年次の専門ゼミナールや卒業研究で調査活動やデータ整理などを実施するまで、表計算ソフトはほとんど使用しないという実態も ある。そのため、教育改善に向けては、教材選択や教授方法の工夫と同時に、他授業との連 携も、課題の一つである。
(
3
)情報化社会をより良く生きるための態度・知識の育成では、情報モラル、情報倫理、情報セキュリティに関することが内容の中心である。例えば、文献引用のルールを含めた著 作権に関する基本的知識・作法や、情報の信憑性を疑う態度としてメディアリテラシー、ト ラブル発生に留意したインターネットの使用方法・態度などの育成である。必要に応じて、
動画教材や事例集(過去のインターネット上のトラブル報道など)を提示し、それらについ て学生同士が議論・意見交換しながら、メディアの特徴やそこでの行動規範について考えさ せる。限られた時間内での議論なので、十分な考察ができるとは言いきれないが、基本的な 考え方や態度についてはしっかりと養成したい。そして、自分自身の電子メディア上での行 動に、情報モラル・倫理・セキュリティの態度が反映するようにさせる必要がある。実際、
授業時の問いかけに対する回答として「情報モラルについては、知識としては解っているが、
実際にそれを行動に移しているかと言われれば、そうでない部分もある」と述べた学生もい る。このような学生は決して少なくない。情報モラル・倫理・セキュリティ教育は、その授 業の単位修得がなされて、それで終わりというものではない。その後の自身の成長やメディ ア環境の変容にも柔軟に対応して、常に知識・態度のアップデートが必要である。
2.2.
若者のパソコン離れとモバイル環境へのシフト近年、若年層のパソコン離れが多方面から指摘されるようになった(新井ら
2018
,Impress 2014
など)。NEC
パーソナルコンピュータ(2017
)は、学生や人事担当者を対象と したアンケート調査結果から「若者=デジタルネイティブは本当? 大学生の7
割以上が、PC
スキルに自信なし」と指摘している。木村・近藤(
2018
)は、相次いで指摘される若者のパソコン離れの現象を「パソコンが使 えない大学生」問題と定義し、その遠因分析と対策を検討している。それによると、大学生 に代表される若年世代がパソコンの操作に不慣れであるという指摘がメディアに現われるよ うになったのは2007
年頃からであり、これは若年層が日常的に使用する通信端末(インター ネットに接続する端末)がパソコンから携帯電話に移行した時期と重なっていることと同時 に、全国の多数の高等学校で必履修科目「情報」が未履修のまま生徒を卒業させていた「高 等学校必履修科目未履修問題」が判明し大きな社会問題となった時期とも重なっていること を指摘し、この2
つの現象が現在の「パソコンが使えない大学生」問題に繋がる遠因だと分 析している。特に最近は、個人のインターネット利用時の電子デバイスはスマートフォンが主流となり つつあり、総務省(
2018a
)が公表した「平成29
年通信利用動向調査結果」によると、個人 インターネット利用機器におけるスマートフォンの割合が54.2
%に対して、パソコンの割合は
48.7
%であった。この傾向は、特に若い世代で顕著である。また、情報通信機器の世帯別 保有状況(率)についても、スマートフォンの75.1
%に対し、パソコンは72.5
%、固定電話 は70.6
%という結果であり、完全にスマートフォンが通信用電子デバイスの主役となった。これは日本や先進国のみならず、世界的な傾向でもあるらしい(総務省
2018b
)。つまり、個人のインターネット利用環境は、スマートフォンによって場所や時間を問わず利用可能な、
モバイルメディアの時代に移行したといえる。このような時代・状況に応じた情報教育の内 容について、多方面から検討していく必要あるのではないかと考える。
2.3.
初等中等教育における情報教育大学の前段である高等学校の教育において、情報活用能力を
3
つの観点、(1
)情報活用の 実践力、(2
)情報の科学的な理解、(3
)情報社会に参画する態度、で目標を示し(文科省2012
)、必履修教科「情報」として位置づけたのが1999
年(平成11
年学習指導要領告示、平 成15
年施行)である。その後、2006
年には、多くの高等学校で必修教科「情報」を履修さ せていなかったこと(前述の「未履修問題」)が発覚し世間の注目を集めた。これは、大学 進学実績を重視する高等学校が、学習指導要領では必修だが大学入試で選択されにくい教科 や科目を生徒に履修させなかったため、単位不足となって卒業が危ぶまれる生徒が多数いる ことが判明した問題で、必修科目と位置づけられていた「情報」は、同じく必修科目「世界 史」に次いで未履修者が多数いることが明らかになった。全国の2006
年度大学新入生8,752
名を対象にした調査では、およそ4
分の1
が高校で教科「情報」を全く履修していないと回 答し(尾池ら2006
)、さらに複数年度にわたる継続的な調査においても、「未履修問題が社 会問題になった後に履修率が上がったものの平成23
年をピークにして履修率が低下する傾 向が見られる」や、「振替による未履修の学生が一定数いることや、覚えていないなどの未 履修の可能性がある学生が一定数いる状態が続いていることから、教科「情報」の実質化に 関する問題を未だに抱えていることがわかる」などの指摘があり、情報教育の軽視が常態化 している可能性が報告されている(森ら2010
,2013
)。また気になるものとして、内閣府(
2018
)が実施した「青少年のインターネット利用環 境実態調査」によると、2010
年に高校生で90
%近くあったパソコン利用率が2017
年は約26
%にまで低下していることや、国際調査においても日本の高校生が米中韓と比べて「パ ソコンの利用,プログラミング,インターネットを利用して勉強することなど情報通信技術 の活用が少ない」との報告がある(国立青少年教育振興機構2017
)。そして、教育現場にお いては、情報担当教員の不足を危惧する声(情報入試研究会2016
,中山ら2017
)や、生徒 に情報学の知識や技能を定着させるためにも教科「情報」を大学入試科目に含めてはどうか という提案(情報入試研究会2018
)などもあり、現在も情報教育の再検討は各所で行われ ている。新学習指導要領では、「情報活用能力」を「学習の基盤となる資質・能力」と位置づけ、
論理的思考や創造性、問題解決能力等を教科横断的に育成することを目指し、小中高校を通 じたプログラミング教育の充実が明記された。これにより、最近はプログラミング教育に対 する関心も高まっており、教育関連産業では様々なプログラミング教材やサービスが登場し、
教育現場や市場を賑わしている。このような状況で、
5
年先10
年先の大学における情報教育 の方向性はどうすべきか。今から検討を進める必要があろう。2.4.
情報学分野の参照基準大学教育の各学問分野に対し、日本学術会議から参照基準が提示されるようになった。情 報学分野へは「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準:情報学分野」
として
2016
年に提示された(日本学術会議2016
)。そこでは、学部レベルで情報学を学ぶ すべての学生が獲得すべき基本的な知識体系として、(1
)情報一般の原理、(2
)コンピュー タで処理される情報の原理、(3
)情報を扱う機械および機構を設計し実現するための技術、(
4
)情報を扱う人間社会に関する理解、(5
)社会において情報を扱うシステムを構築し活 用するための技術・制度・組織、が示されている。そして、「情報学は、情報学を専門に学 ぶものに限らず、広く市民が持つべき教養の一部ともなっている」と述べ、教養の一部とし て情報学を位置づける考えも示している。つまり文系理系を問わず、幅広い学生に情報学を 学んで欲しいという意思を感じる。また、これらの策定に携わった萩谷(
2016
)は情報教育の格差についても考察し、初等 中等教育から大学・大学院までの情報教育全体を体系化する「情報教育の参照基準」の必要 性についても言及している。これを受け、情報処理学会からは「一般情報処理教育のカリキュ ラム標準」が10
年ぶりに改訂された(情報処理学会2017
)。2.5.
学校や職場の情報環境の変化近年、
BYOD
(Bring your own device
)の導入が、教育機関や職場でも広がりつつある。大学
ICT
推進協議会(2018
)によると、全国で150
(30
%)以上の4
年制大学が全学規模でBYOD
を導入しており、今後も増加が見込まれている。
BYOD
とは、簡単に言えば、個人所有の電子デバイスを学校や職場に持ち込んで、それ を勉強や業務で使用することである。これは世界的な潮流にもなっており、学校・職場側の デバイスに対するコスト削減や、個人が使い慣れたデバイスで勉学・業務に取り組むことに よる勉学・仕事効率のアップなどが期待されている。しかしながら、個人のデバイスを組織内部に持ち込むことによる危険性が危惧されており、
情報セキュリティの確保、内部情報やネットワークの厳重管理、等の対策が必要である。さ らに実際に学校で
BYOD
を導入するとなると、パソコン・情報機器初心者向けの各種設定指 導や基本操作講習会、トラブル時のサポート窓口、さらには経済的にデバイス購入が困難な 学生に対する支援など、解決しなければならない課題が多々存在することと思われる。ここまで、情報教育の現状と課題をできるだけ幅広くかつ簡潔に紹介した。これら情報教 育の現状と課題を踏まえ、次章では、急速に変化するメディア環境に適応した情報教育の内 容について、メディア接触に関する調査データを交えて考察する。
3.
メディア接触に関する調査3.1.
調査の概要これまで見てきたように、パソコンからスマートフォン(モバイル環境)へのシフトをは じめ、社会を取り巻くメディア環境やメディア接触の機会に変化が生じている。そこで、情 報教育の改善方策を検討するために、実際に授業を履修している眼前の学生のメディア接触 の実態を把握することとし、調査を実施した。主な調査内容は以下のとおりである。
・調査対象:大学
1
年生(有効回答:171
名)・調査時期:前学期(
6
月)・調査方法:オンライン調査用サイトを利用したアンケート形式
・調査項目:所有している電子デバイス、平日のメディア接触時間(分)
3.2.
調査結果と考察(1
)メディア接触時間の平均値調査データの集計結果について、以下、考察を交えながら示すこととする。
まず、電子デバイスの個人所有率について集計したところ、図
1
に示すとおり、スマート フォンは100
%の所有率であった。続くパソコンも88
%の所有率であり、先に述べた「大学 生のパソコン離れ」については、眼前の学生においてはあまり心配ないようである。一因と1 2
3 17
88 100
0 20 40 60 80 100
その他 フィーチャーフォン 電子書籍専用 タブレット端末 パソコン スマートフォン
[%]
図1 電子デバイスの個人所有率 [%]
して、本学では入学手続き時に、学修・学術活動や将来の
BYOD
に向けた準備としてパソコ ンの購入を推奨しているため、このような結果となったのではないかとも考えられる。もち ろん、大学入学前からパソコンに興味関心があり積極的に活用しているような学生も存在し ているであろう。いずれにしても、今のところパソコン離れが危惧されるような状況ではな いことが確認できた。ただし、スマートフォンの所有率の方がパソコンの所有率よりも高いという事実は、他で 指摘されているのと同じであった。つまり、今の学生にとって電子メディア端末(情報通信 端末)はスマートフォンであるという事実を認識することが、メディア環境や情報教育の今 後を考える上での第一歩であるということが明確となった。
次に、平日一日のメディア接触時間(平均値)について集計したものが図
2
である。比較 のため、20
世紀型四大メディア(新聞、テレビ、印刷媒体(雑誌、書籍、マンガ))と、イ ンターネットを通じて利用する電子メディア(ニュースサイト、動画サイト、電子雑誌、電 子書籍、電子コミック、Web
検索サイト、SNS
)に分類した。メディア接触時間(平均値)を比較すると、旧来メディア接触時間が計
97
分に対して電 子メディア接触時間が計197
分であった。モバイル環境(1
台のスマートフォン)から、い つでもどこでも様々なサービスに接続可能な電子メディアに対し、メディア接触環境・場 所・内容が固定されてしまう特徴を持つ旧来メディアは、今の学生にとっては決して利用し やすいメディアとはいえない。このような大きな開きが出てしまったのは当然の結果として 受け止めることができる。ただし、動画視聴に関しては旧来メディアのテレビ(
61
分)の方がネット上の動画視聴(
44
分)よりも長かった。動画を見るためスクリーンサイズとしては、スマートフォンより図2 平日のメディア接触時間(平均値)[分]
0 50 100 150 200[分]
電子メディア 旧来メディア
新聞・ニュース, 24 新聞
5
動画, 44 テレビ, 61
雑誌, 1 雑誌,
3
マンガ, 7 マンガ,
8
書籍, 3
書籍, 20
Web, 53 SNS, 65
書籍 新聞・ニュース,
24 新聞,
5
動画, 44 テレビ, 61
雑誌, 1 雑誌,
3
マンガ, 7 マンガ,
8
書籍, 3
書籍, 20
Web, 53 SNS, 65
もテレビの方が適しているのかもしれない。また、毎日・毎週決まって視聴するテレビ番組 や、複数人で視聴する番組があるなど、テレビの受動メディアとしての特性(例えば、自分 から情報を発信する必要はなく、常に受け身の姿勢で気楽に情報と接することができること など)のほか、ネット上の動画視聴は通信データ量が大きくなるためにあまり長時間の視聴 はできない、等の理由が推測される。
接触時間が一番長かったのは、
SNS
利用時間(65
分)であった。SNS
はその特徴上、そ のサービスを集中して時間をかけてじっくりと利用するというより、細切れの利用時間が積 み重なった結果だと考えられる。今回の調査では、SNS
という大括りで回答してもらったた め、LINE
など、サービス単位での分析ができなかった。サービスによっ て、特徴、性格等が多少なりとも異なるため、詳細にメディア行動を分析するためには、サー ビス単位の調査も必要であろう。
Web
サイトの検索・閲覧も平均は53
分となり、利用時間が長い。疑問に思ったことをネッ ト検索で調べる行動は、今や当たり前になっており、対象が学術的な内容であれ、日常生活 上のふとした疑問であれ、同じようにネット検索によって調べている。旧来メディアと電子メディアに分けることなく、動画コンテンツ視聴として捉えた場合、
テレビ利用時間とネット上の動画利用時間を合わせると
105
分となり、動画視聴がメディア 接触時間として一番長いことになる。一時期(今でも時々)「テレビ離れ」という言葉が話 題になったことがあるが、やはり動画コンテンツは、電子メディアの時代になっても多くの 人に受け入れられ消費されていく一大コンテンツであることと考えられる。一方で、雑誌や書籍については、電子版よりも印刷版の方が利用されているようである。
しかし、電子版と印刷版を合わせても他に比べると非常に少ない接触時間であり、「大学生 の書籍離れ」については確実に進んでいることが示された結果といえる。
これら旧来メディア接触時間全体(計
97
分)と電子メディア接触時間全体(計197
分)を 合わせると、平日の一日で学生がメディア接触する時間は計294
分、即ち約5
時間となる。学校やアルバイト等の時間を除く、学生が自身で自由にできる時間に対して、このメディア 接触時間(約
5
時間)は多いのか少ないのか。この中には、授業レポートや課題でパソコン を使用している時間や、電子メールや通話などによるコミュニケーション時間は含まれてい ない。平均値を積算しただけなので個人差は反映されていないが、学生たちは決して少なく ない時間をメディア接触に費やしていると考えることはできるのではないだろうか。3.3.
調査結果と考察(2
)メディア利用時間の人数分布次に、もう少し詳細にメディア接触傾向を把握するため、各メディア利用時間を
0
分、〜30
分未満、〜60
分未満、〜120
分未満、〜180
分未満、180
分以上、の6
段階に区切り、それ ぞれにあてはまる人数をカウントした。その結果が表1
、表2
、表3
である。まず表
1
は、新聞・ニュースと動画視聴に関する各利用時間の人数分布を示す。新聞・ニュース報道については、全体的にメディア利用時間が非常に少なく、特に印刷版の新聞を 全く読まない学生は
144
名もいた。電子版(新聞・ニュースサイト)への接触は、30
分から60
分程度が多数となっており、こちらは学生のメディア行動として納得できる分布となっ ている。これらの結果から、眼前の学生のニュース報道に関する情報への接触は圧倒的に電 子版の方が多数であり、印刷版の新聞については、8
割以上の学生は見ていないということ が判った。動画視聴に関しては、テレビ、ネットとも似たような分布を示しており、テレビの方が少 し長めの時間の方にピークがある。それは、テレビの番組が、
1
本30
分、60
分、90
分等とい う単位で放送されているのに対し、ネット上の動画は1
本数十秒〜数分程度のものが多いた め、同じ動画という形式のコンテンツであっても視聴方法・形態が異なっているためだと考 えられる。さらにスクリーンのサイズも大きく異なるため、動画内容によっては、メディア を使い分けることも考慮に入れているのかもしれない。ただ、動画コンテンツ全体として捉 えれば、利用時間が長いコンテンツであるといえよう。少し興味深い点として、動画を視聴しない学生(利用時間
0
分回答)が、テレビでは31
名、ネットでは
23
名いた。この数字は、決して少なくない数字だと考えられる。この点の分析は、今後の課題としたい。
表
2
は、旧来、印刷媒体(本)として流通していた雑誌、書籍、マンガに関する各利用時 間の人数分布を表す。今や、それぞれが印刷版、電子版を出しており、市場的には選択肢が 広がった印象がある。しかし、出版不況とも呼ばれる状況は10
年以上続いており、雑誌の 廃刊や書店の減少など、課題は山積されている業界でもある。今回の調査でも、そのような 傾向が垣間見える。3
メディアとも、利用時間0
分の人数が最多となっている。しかも、印 刷版、電子版を問わず、全体的に利用者が少ない。特に、雑誌利用者が少なく、印刷版雑誌 は8
割以上、電子版雑誌では9
割を遥かに超える学生が利用していないと答えている。理由 として考えられるのは、雑誌が扱っている内容が、深い知識というより軽めの情報であるこ とが多いため、それらの多くはネット検索やSNS
利用によって十分得ることができる点であ る。そのため雑誌を利用する必要性を感じていないのだと思われる。授業時の学生との会話表1 平日のメディア利用時間の人数分布(新聞・ニュース、動画視聴)
利用時間 新聞・ニュース 動画視聴 印刷版 電子版 テレビ ネット
0分 144名 20名 31名 23名
〜30分未満 15名 83名 12名 20名
〜60分未満 7名 45名 33名 61名
〜120分未満 3名 21名 68名 50名
〜180分未満 1名 1名 16名 16名
180分以上 1名 1名 11名 1名
から、電子版雑誌については、その存在をあまり認識していない学生がいたり、そもそも雑 誌に興味がない学生もいること、さらに使い勝手が良くないことを理由にあげる学生もいる ことが判った。今後、雑誌メディアはどのような方向に進むのであろうか、その動向を注意 深く見ていきたい。
書籍に関しては、調査対象が大学生なので、授業・勉学に関する書籍を読んでいるであろ うことは十分推測できる。しかし、約半数(
85
名)は印刷版書籍の利用時間0
分と回答して おり、時折問題提起される「大学生の書籍離れ」の現状を示している。電子版については、もっと利用者が少なく、
9
割以上の学生は電子書籍を利用していないことが判った。これは、書籍全体(出版業界)に対する課題なのか、電子版の書籍に対する課題なのか、判断が難し いところである。今や電子書籍利用サービスは初期段階を経て市場規模もそれなりに大きく なってきている。初等中等教育の現場では、電子版の教科書導入も進みつつある。今後の書 籍メディア、書籍文化を考えた場合、看過できない状況であることは間違いないことと思わ れる。
マンガに関しても、予想外に読者が少なかった。利用時間
0
分回答者が、印刷版も電子版 もそれぞれ7
割以上。利用時間30
分、60
分程度に多少の人数はいるが、大多数の学生はマン ガを読んでいなかった。もちろん、調査対象は平日のメディア接触時間なので、学校に行く 時間もあればアルバイトの時間もある等の制約の中で、雑誌、書籍、マンガ、さらに電子版、印刷版を問わず、書籍メディア全体への接触時間が削られていると見ることができる。一体 何によって読書時間が削られてしまったのか、メディア接触要因のみならず改めて考えてい きたい。
表
3
は、インターネット上におけるニュース、動画、SNS
、Web
各メディアの利用時間の 人数分布を示す。ここでは、電子メディア間の比較をするため、表1
で既出の電子版の新聞・ニュース、ネット上の動画視聴に関するデータも入れた(各書籍メディアの電子版について は、利用人数が少数のため、ここには入れなかった)。
まず各メディアの最多人数(ピーク)の時間を確認すると、ニュースは
30
分未満、動画 は60
分〜120
分、SNS
は120
分未満、Web
は60
〜120
分、である。これは、各メディアの性格表2 平日のメディア利用時間の人数分布(雑誌、書籍、マンガ)
利用時間 雑誌 書籍 マンガ
印刷版 電子版 印刷版 電子版 印刷版 電子版
0分 139名 166名 85名 157名 122名 122名
〜30分未満 24名 2名 23名 5名 18名 32名
〜60分未満 6名 3名 40名 5名 27名 13名
〜120分未満 2名 0名 18名 3名 3名 3名
〜180分未満 0名 0名 5名 1名 1名 0名
180分以上 0名 0名 0名 0名 0名 1名
や特徴が反映された結果だと考えている。まず、ニュース報道は、長時間かけて収集する情 報ではなく、流しながら読んでいくものであろう。そのため多くの学生は
30
分未満で読み 終えているのではないかと思われる。動画については、ネット上の動画サイトでは数十秒〜数分程度の短い動画が主流であるが、
次々にリコメンドされる関連動画を見ているうちに長時間過ぎてしまったという状況が十分 予想できる。その結果、
60
〜120
分にピークがあるのではないかと思われる。
SNS
については、今や若者にとってはコミュニケーションの中心的ツールであり、学生 によっては生活の中心になっていることもある。ニュース閲覧や動画視聴などとは異なり、SNS
は自分から情報を書き込んだり写真等を掲載・提示したりする、送信者としての役割 も担うことが多いメディアである。そのため、どうしても利用時間が長くなってしまうのだ と思われる。今回の調査の中でも、利用時間180
分以上と回答した学生が12
名(最多)いた のがSNS
である。そのため、SNS
の使い方やメディアとしての特徴などを含め、今後の情報 教育の中で丁寧に扱っていく必要があるのではないかと考えられる。3.4.
調査結果のまとめ今回の調査結果から、眼前の学生のメディア接触・環境の特徴は次のようにまとめること ができる。
・電子デバイスの個人所有率トップはスマートフォン(
100
%)であり、インターネットを モバイル環境から利用するのが現在のメディア環境の主流である・他で指摘されているような「パソコン離れ」は起きていない
・旧来メディアよりも電子メディア利用時間の方が約
2
倍多い・
SNS
の利用時間が多い・テレビ利用とネット動画利用を合わせると、動画視聴が最大のメディア接触時間となる
・書籍メディア(雑誌、書籍、マンガ)については、印刷版、電子版とも利用者が少ない これらのメディア環境の特徴・変化に適応した情報教育について、次章で考えていく。
表3 平日の電子メディア利用時間の人数分布(ニュース、動画視聴、SNS、Web)
利用時間 ニュース 動画 SNS Web
0分 20名 23名 8名 1名
〜30分未満 83名 20名 26名 34名
〜60分未満 45名 61名 33名 63名
〜120分未満 21名 50名 74名 54名
〜180分未満 1名 16名 18名 15名
180分以上 1名 1名 12名 4名
4.
メディア環境に適応した情報教育4.1.
情報行動・態度を養成する情報モラル・セキュリティ教育モバイル環境からインターネット接続して、様々なサービス、コンテンツ利用が当たり前 となったメディア環境で、個人の情報行動やメディア環境に対する態度はこれまで以上に重 要である。その理由の一つとして、情報の送り手と受け手、表現の生産者と消費者の境界が あいまいになること(飯田
2013
)があげられる。換言すれば、誰もが情報発信者にも受信 者にもなれるということである。これはインターネットの一般向けサービスが開始された当 初から言われていたことではあるが、特に近年利用率が増加しているSNS
が登場してからは、その意味の重要性が増している。
SNS
はコミュニケーションツールの一つとも呼ばれるが、情報発信と受信・拡散をほぼ無意識のうちに(深く考えることなく)行うことを可能とす るツールだという見方もできる。
SNS
利用によって受け取ることができる情報量は膨大であ り、自分が発信した情報もその渦中に入り込み、拡散機能やレスポンス機能により次々に広 がっていく。SNS
は、本来は知り合い同士のネットワーク構築サービスであるが、拡散機能 によって、知らない人の書き込みを読んだり、自分の書き込みも知らない人に読まれたりし ている。インターネット上に情報を発信するということは、世界に向けて情報を発信すると いうこと。それは即ち、たとえ一般人ユーザであっても、コンテンツ制作者の立場に立って いる記者やジャーナリストと同等の情報発信者としての責任がある。そうなると、当然、書 き込む時の情報発信者としての情報モラル・倫理観が必要となる。同時に、他者の書き込ん だ情報を拡散する時にも、同じように、情報拡散者としての責任やモラル・倫理観が必要と なろう。SNS
は簡単に情報受信者にも発信者にも拡散者にもなれる。それだけ、情報行動・態度の重要性も増すことを、情報教育の中で伝えなくてはならない。
情報モラル・倫理の教育は、人間性が問題にされるのではなく、情報行為の結果が問題と される(越智
2000
)。そのため、知識のみを学び好成績を修めることで終わってはならない。情報モラル・倫理教育で学んだ知識や規範を、情報行動に正確に移すことができなくては意 味がない。昨今の、
SNS
やWeb
上での「炎上」「フェイクニュース拡散」「著作権、肖像権等 の侵害」など、インターネット上のトラブルのすべては、情報モラル・倫理教育の重要性を 物語る出来事であり、今後の情報教育として、まずはここを強調したい。また
SNS
の仕組みに関する理解も必要である。SNS
は、その特徴の一つとして事業者とユー ザの間で高い相乗効果を生む。ユーザがSNS
の様々なサービス・機能を十分に利用・使用す るためには、自己の情報(個人情報に近い情報)を入力・開示する必要がある。それによっ て、自分の思想・趣味・興味関心が近い人とつながることができたり、好みの商品やサービ スの紹介を受けたり、過去の知人や友人に再会できたりする。友人・知人とのつながりが大 きくなればなるほど、そのネットワークの価値は高まり、サービスの精度も向上する。つま り、自己の情報を開示すればするほど精度の高い情報やサポートを受けることができ、より便利な使い勝手のよいサービスになるようにできている。これは、ユーザ側にメリットがあ るだけではなく、
SNS
事業者側にとっても大きなメリットとなる。ユーザが自己の情報を入 力・開示すればするほど、事業者はユーザの嗜好を正確に把握して、より適切な広告を通知 する行動ターゲッティング広告に活かせる。そして、サービスの精度が向上すればユーザ増 加が見込まれる。ユーザが増加すれば、そのネットワークの価値がさらに高まる。このよう に、SNS
は事業者とユーザの間で高い相乗効果を生む仕組みになっている。しかし、見方を変えれば、プライバシー情報に対するリスクを孕んでいることが判る。自 己の情報入力・開示のレベルはユーザが設定できるようになっているとしても、より便利な サービスを得るために、もしくは深く考えることなく情報を開示しているユーザもいるので はないだろうか。しかし、プロフィール欄、投稿写真、乗降駅や店の書き込みなどから、分 析によって発信者の住所や職場まで突き止めることが可能(藤代
2015
)な時代である。自 分自身の情報行動を守るためにも、様々なサービスの仕組みを理解することと、情報セキュ リティに対する意識も高める必要があろう。また情報セキュリティに関する知識や態度は、次の観点からもその必要性は増している。
前章で見てきたように、現在の学生(今後の大人)にとって、メディア環境はスマートフォ ンを介したモバイル接続インターネット環境である。場所や時間を問わず利用できることは モバイル環境の長所であるが、同時にセキュリティ上のリスクにもなり得る。無線
LAN
や アクセスポイントのセキュリティ設定に関する知識や設定・操作スキルは必須であろう。少し観点は違うが、健康に対するリスク管理も忘れてはならない。
3
章の調査から、一日 あたり5
時間以上をインターネット上で費やしている学生(スマートフォンが日常生活の中 心となっている学生)も複数いた。そのため、情報教育としては、まず、現在のインターネッ ト常時使用を可能としたメディア環境の中で生活していることを学生に意識化・視覚化する ことを促して、その中で自分自身がどのような情報行動・態度を取っているのかを確認させ ることも重要だと考える。総務省が公表した「平成
29
年通信利用動向調査結果」では、インターネット利用時にお いて何らかの不安を感じる人の割合が増加(平成28
年61.6
%から平成29
年68.3
%)したこと についても指摘している(総務省2018a
)。不安の内容としては、個人情報や利用履歴の漏洩、ウィルスへの感染、迷惑メール、架空請求や詐欺、セキュリティ対策などがあげられている。
個人のインターネット利用環境がパソコンからスマーフォンに主役が移り、より個人単位で のデバイス保有・管理が必要となった。パソコンであれば、家族で共有利用・管理している 状況も考えられるが、スマーフォンは完全に個人で保有・利用していることと考えられる。
その分、情報漏洩やセキュリティに対する意識が大きくなり、このような不安の増大につな がったのではないかと考えられる。
さらに、平成
29
年度に文部科学省が実施した児童生徒の問題行動調査で、インターネッ トやSNS
サービス上の誹謗中傷などのいじめが1
万2632
件(過去最多)となり、大きく報道された(文科省
2018
)。つまり、高等教育のみならず初等中等教育から情報モラル・倫理教 育の実質化が必要な時代になっていると言えよう。4.2.
アカデミックスキルとしての情報リテラシー教育情報リテラシー教育でこれまで行われてきた、ワープロ、表計算、プレゼンテーション支 援などの各ソフトの活用方法に関する教育内容は、論文・レポート執筆、データ分析、口頭 発表に直結した、まさに大学生活で必要とするアカデミックスキルの一部である。メディア 環境が変化しても、アカデミックスキルとしての情報リテラシー教育の必要性は変わらない。
電子メディアが主流の時代になればなるほど、情報を表現・加工・編集・創造する、情報リ テラシー教育の重要性は増していくのではないかと考えられる。学生からの要望としても、
これらの操作スキルや効果的な活用方法に関するものが多い。ただし、スキル獲得・習熟度 が学生によって大きく異なることが、授業実施上の問題となることがある。この点への配慮・
工夫が継続的に検討すべき課題だと考える。
文献・資料・情報の検索も、大切なアカデミックスキルの一つである。図書館や文献デー タベースの利用方法の指導は初年次教育のどこかで実施されていると思われるが、現実的に は学生の検索行動の大半は、スマートフォンによるインターネット上であることと考えられ る。日々増大する膨大な情報にアクセスすることは、その中に信憑性が疑われる情報や意図 的に誤った情報なども混じっていることをも包含する。そもそも、あらゆる情報は発信者の 意図によって構成されており、その情報の解釈についても受信者の立場や思想によって大き く異なるものだと捉えることも必要である。そのため、インターネット上の情報に対する態 度を含めた情報行動(信憑性チェック、主体的読解などを通じた情報の取捨選択と活用の能 力)の育成は、これまで以上に重要になってくると考える。
4.3.
社会動向に対応した情報教育メディア環境の変化は、社会動向からも大きな影響を受ける。近年、話題となっている
Society 5.0
(内閣府)も、今後の社会動向の一つと捉えることができる。そこでプログラミング教育が、大学における情報教育の一部として、その必要性・重要性が増すであろうと考 えられる。新学習指導要領によって小中高校と段階的にプログラミング教育を受けた学生が 入学してくることも、その理由の一つとして捉えることも可能だが、今後の電子メディア環 境でより効率的に学術情報を処理していくためには、文系理系を問わず、自分自身で多少の プログラムを組むことによって自分(個人)に最適化した情報処理環境を構築していく必要 があろう。特に、社会の一部として
AI
テクノロジーやIoT
からのデータ(ビッグデータ)があふれる
Society5.0
の時代になった時、主体的に情報を活用するためには、自分が処理したい情報を効率的に扱うための方法を知らなくてはならない。プログラミングの知識やスキル、
方法論がそこで必要になるのは想像に難くない。
5.
おわりに本稿では、メディア環境の変化に適応した実践的情報処理知識やスキル、情報行動・態度 の育成に着目し、今後の情報教育に整備すべき内容やその位置づけについて検討した。特に、
文系理系を問わず、学生全員が情報教育で習得すべき知識、スキル、行動・態度について、
情報教育の現状と課題、メディア接触時間に関する調査結果を基に考察した。
情報教育の現状と課題としては、若者のパソコン離れやモバイル環境へメディア環境がシ フトしていること、新学習指導要領によって初等中等教育における情報教育はプログラミン グ教育に力点が移りつつあること、学校や職場の情報環境の変化として
BYOD
の導入が進 んでいること等について指摘し考察を加えた。学生に対するメディア接触時間の調査からは、現在の学生を取り巻くメディア環境はインターネットを中心としたモバイル接続環境であり、
SNS
利用、Web
利用、動画視聴に多くの時間が費やされていること、反対に、旧来メディ アの新聞、雑誌の利用者は少ないことが判った。これらを踏まえ、メディア環境に適応した情報教育として、情報行動・態度を養成する情 報モラル・セキュリティ教育、アカデミックスキルとしての情報リテラシー教育、社会動向 に対応した情報教育、の
3
点について考察した。これらを限られた時間内ですべて実施する ことは容易ではない。そのため、拡大した教育内容を分割し、複数科目として開講すること によって十分な授業時間確保につなげたり、初等中等教育との連携により、成長や社会動向 に合わせた継続的な情報教育の実現が必要であろう。メディア環境は常に変化をし続けており、そこで必要とする知識・態度・情報行動スキル も変化・更新していかなくてはならない。今後も継続的に調査・検討を実施し、情報教育の 授業改善・充実化につなげていきたい。
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