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【入院年月日】2014年3月某日

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高山赤十字病院紀要 第39号:p35-37(2015) 35

平成 26 年度 第1回剖検検討会(CPC)

症 例:肝障害で発症し、乳酸アシドーシスを伴い急激に悪化した1例 報告者:杉 朋幸    指導医:加藤 潤一

【症例】81歳 女性

【入院年月日】2014年3月某日

【主治医】加藤 潤一

【死亡年月日】入院第6日

【病理解剖日】死亡同日

【主訴】胸部不快感

【現存症】胃食道逆流症、高血圧

【既往歴】虫垂炎、腹膜炎、胆嚢炎、鎖骨骨折(時期不詳)

【現病歴】

入院3日前より胸部不快感を自覚したため翌日に垣内医院を受診するも、明らかな異常は指摘されな かった。同医院受診後より右季肋部に軽度疼痛出現した。入院前日は昼食後より嘔吐するようになった。

2014年3月某日は飲水はできるも嘔吐継続したため同日当院救急外来を受診した。血液検査で黄疸、肝酵 素上昇と炎症所見を認め、同日精査加療目的に当院内科入院となった。

【生活歴】飲酒:なし、喫煙:なし、アレルギー:なし

【常用薬】テプレノン、ファモチジン、イトプリド、アリルサルタン、 ビソプロロールフマル酸、エルデカルシトール

【身体所見】身長144.8cm 体重45.5kg BMI:21.7、体温36.0℃、血圧107/57mmHg、心拍75/min、SpO2 97%

(Room Air)

結膜:眼球-軽度黄染あり 眼瞼-貧血徴候なし 頚部:明らかな所見なし

胸部:心音-整 雑音なし 呼吸音-清 副雑音なし

腹部:平坦で軟 腸蠕動音聴取 打診上濁音 触診上両側季肋部にて軽度圧痛あり (0-2/10)

四肢 明らかな浮腫なし

【検査所見】

胸部X-p)心胸郭比45% 両側CP angle sharp 明らかな浸潤影は認めない。

胸腹部骨盤CT)両側胸水あり。両葉の肝腫大あり。総胆管拡張あり。

心電図)洞調律、心拍97回/分、明らかなST変化なし。

腹部超音波)両葉の肝腫大と総胆管拡張を認めるも、胆管内に明らかな結石は認めない。

MRCP)総胆管に明らかな欠損像なし。

血液検査)T-Bil2.8mg/dL↑ TP5.9g/dL↓ Alb2.7g/dL↓ ALP1093IU/L↑ AST275IU/L↑ ALT176IU/

L↑ LDH1251IU/L↑ γ-GTP127IU/L↑ CK110IU/L Na141mEq/L K4.1mEq/L Cl101mEq/L Ca9.2mg/

dL BUN55.4mg/dL↑ Cre1.19mg/dL↑ e-GFR33.6↓ AMY62U/L CRP5.59mg/dL↑ WBC19400/μg↑

NEUT# 16100/μg↑ Hb11.8g/dL↓ Plt13.8万/μg↓

【臨床経過】

・第1病日

肝胆道系酵素異常等を認め、閉塞性黄疸を疑い入院精査となった。ERCPを検討したが、画像上総胆管 結石等の明らかな総胆管閉塞因子の存在を示唆する所見に乏しく、受診時の全身状態や合併症リスク等を 考慮し、同日ERCPは避け、急性肝障害として補液と対症療法で加療する方針とした。

・第2病日

(2)

36 高山赤十字病院紀要(第39号)

採血上データ改善は無かったが、腹部エコー上両葉の肝腫大、総胆管拡張所見を認めるも、やはり明ら かな総胆管閉塞因子は認められなかった。MRCPも施行したが同様であったため、ERCPは実施しなかっ た。現行の治療を継続とした。

・第3病日

心エコー、心電図、胸部レントゲン上有意な所見は認められなかった。閉塞性黄疸からの肝障害の可能 性は低いため、急性肝障害として、再度鑑別する方針として、各種検査を追加した。

・第4病日

採血上、BilやAST、ALT等の肝胆道系酵素等の異常増悪を認めたが、バイタルサイン等の全身状態に 変化は無かった。下痢症が出現したが軽症であったため、整腸剤で対応することとした。

・第5病日

採血上肝胆道系酵素の異常はさらに増悪し、さらに乳酸アシドーシス(pH7.32, 乳酸87.3mg/mL)傾 向を認めた。代謝性アシドーシスの補正、及び肝の炎症抑制のためにステロイドパルス(ミニパルス 500mg/日)を、肝組織の再生を期待してグルカゴンインスリン療法を施行した。しかし、同日夕方にな り意識レベルの低下を認めるようになった。

・第6病日

採血上、高K血症(8.0mEq/L)、乳酸アシドーシスの進行(pH6.95、乳酸171.0mg/dl)、腎機能低下

(Cre2.15mg/dL)を認めたため、カルチコールの導入、メイロンの増量(40mL→60mL)を実施した。

しかし、同日10時頃より心拍16/minと心拍低下を認め、その後心停止、10時22分にご家族に見守られ ながら逝去された。ご家族に経過等を説明し、病理解剖に関して希望を確認したところ、希望されたため、

同日病理解剖となった。

【臨床診断】#急性肝障害→肝不全、#乳酸アシドーシス、#下痢症(CDトキシン弱陽性)、

#急性腎不全、#高K血症

【臨床上問題となった事項】

急激な転帰に至った直接的な死因は何か、急激に進行した肝機能障害の原因は何か、肝臓等で慢性疾患 は認めていたのか、急性肝不全以外で急激な経過に寄与したものはあるか?

【病理解剖結果】

・主剖検診断

悪性リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞性、原発は特定できない)

リンパ節:甲状腺周囲、縦隔、胸部・腹部大動脈周囲

臓器:甲状腺・両側肺・心臓・肝臓・脾臓・両側腎臓・両側卵巣・両側卵管・子宮

・副病変 1.両側下葉無気肺(R230、L280g)、 2.肝腫瘍壊死、鬱血肝(1420g)、 3.黄疸・貧血、 4.上行結腸出血・憩室 炎、 5.浮腫、 6.胆嚢摘出後、 7.出血性膀胱炎、 8.大動脈粥状硬化症、 9.慢性甲状腺炎(25g)、10.骨髄過形成

・備考

悪性リンパ腫により、肝・腎・心・肺・脾といった主要臓器が障害を受け急激な臨床経過を呈し死に 至った。特に肝臓は病変の範囲が広凡、壊死に陥った腫瘍を多く認める。

【考察とまとめ】

肝障害で発症し、乳酸アシドーシスを伴い、急激に悪化した症例を経験した。病理解剖にて、悪性リン パ腫の肝・腎・心・肺等の主要臓器に浸潤をきたし、臓器障害を来したために急激な転帰を来し死に至っ たことが判明した。

乳酸アシドーシスとは、血中に乳酸が著しく増加し、非ケトン性アシドーシスを呈し、意識障害を来た

し昏睡に至る予後不良な緊急症である。悪性腫瘍における高乳酸血症の病態としては、生化学的には、癌

細胞においては有酸素下でも、ミトコンドリアの酸化的リン酸化よりも、好気性解糖の方が優位に作用す

るというWarburg効果(好気的解糖)と、血管新生が追い付いていない増殖能の高い腫瘍内部等の、酸素

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平成26年度 第1回剖検検討会(CPC) 37

不足の組織では、解糖の速度が上昇して乳酸産生が亢進するというPasteur効果が挙げられる。

本症例においても元々、Warburg効果にて乳酸産生は亢進していた可能性があると考えられる。加えて、

病理所見より、肝臓は全体的に壊死を伴う腫瘍を認めており、Pasteur効果も高まって、乳酸産生が増大 したと考えられる。また、肝機能障害を来し、乳酸の代謝能は低下していたと思われる。以上の要因から、

本症例では元々乳酸アシドーシスが進行していて、呼吸性に代償されていた状態であると考えられる。

本症例では入院第5日目に肝の炎症を抑える目的でステロイドミニパルス療法を行ったが、一般にはス テロイド剤で腫瘍細胞のアポトーシスが誘導される際にミトコンドリア機能の低下を来し、好気性解糖系 が亢進するとされており、これが乳酸アシドーシスの増悪を来し、結果的には死期を早めた可能性もある。

本症例から、乳酸アシドーシスを来す原因には末梢循環不全以外にも様々な原因があること、ステロイ ドを用いる際には、腫瘍細胞のアポトーシスによる乳酸産生亢進に注意する必要があること等多くのこと を学んだ。また、肝障害の原因として悪性リンパ腫を考えることは今まで殆ど無かったが、今後は鑑別に 挙げて研修に取り組んで参りたい。

【文献】生化学辞典第4版 東京化学同人 

野崎由美、三森徹、他:重篤な乳酸アシドーシスを合併したびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫 山梨医科学雑誌  26(1):23-28、2013

実験医学増刊30(17) 特集「活性酸素・ガス状分子による恒常性制御と疾患」

参照

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