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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

現代日本が直面する少子化問題は,核家族化や都市化にともなう社会構造の変化が背景 となっている.つまり,核家族化による家庭内の子育て機能の低下が親の孤立や子育て不 安につながり,子どもの虐待などの問題を生じる一因といわれている.また,都市化によ って希薄になった人間関係が地域社会の子育て機能の低下をもたらしたことも指摘されて いる.こうした問題を解消するために,政府や地方自治体は保育サービスをはじめとする 子育て支援に取り組んできた.

しかし,1990年代から進行した「平成の大合併」にともなう行政区域の再編は,地方自 治体が提供する子育て支援にも少なからず影響を及ぼしている.平成に入ってから合併し た市町村は地方圏に多いが,保育や子育て支援の研究では,地方都市はほとんど対象にな ってこなかった.その理由の一つは,保育所待機児童が大都市に比べて少ない地方都市で は,公的な子育て支援の必要性は小さいと考えられてきたためである.けれども,核家族 化や都市化は地方都市でも進行しており,大都市圏とは違った子育て支援に対するニーズ や課題が存在すると考えられる.

そこで本研究は,地方都市で平成の大合併を経験した石川県の 2 都市(かほく市,白山 市)を取り上げ,合併にともなう保育サービスの変化を明らかにするとともに,子育て支 援施設の利用状況を通して地方都市における子育て支援の課題を検討することを目的とす る.

第Ⅰ章では,子育て支援に関する地理学と関連分野での先行研究を概観し,研究成果と 残された課題を検討した.その結果,大都市圏を対象にした研究に比べて地方圏での研究 例は少なく,とくに保育サービス以外の子育て支援について検討した事例が乏しいことが わかった.また,市町村合併に伴う福祉サービスの変化については,高齢者福祉に関する 研究は進んでいるものの,保育サービスに関する検討は立ち後れていることが明らかにな った.

第Ⅱ章では,本研究で用いる方法とデータを述べた上で,研究対象地域の特徴を概観し た.市町村合併にともなう変化は,各市の合併協議会の資料と子育て支援担当部署への聞 き取り調査から得た情報に基づいて分析を行った.子育て支援の課題については,各市の 子育て支援センター・子育てひろばの職員(かほく市7人,白山市25人)と利用者(かほ く市7人,白山市13人)への半構造化インタビューから得た情報,ならびに子育て支援セ ンター・子育てひろばの利用者(かほく市80人,白山市238人)へのアンケート調査の結 果に基づいて,質的・量的分析を行った.

第Ⅲ章では,平成の大合併にともなう保育サービスの変化について,かほく市と白山市 を比較しながら,地方自治体による対応の違いを明らかにした.かほく市は狭小な面積を もつ平野部の3町が合併したのに対し,白山市は都市部から山間部にまたがる 1市2町5 村という広域の合併であった.そのため,かほく市の合併は比較的スムーズであったのに 対し,白山市は異なる地域特性をもつ平野部と山間部との間での調整が難しかった.その

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結果,市内でのアクセス条件の差が小さいかほく市では,既存の公立保育所を維持しなが ら統廃合を円滑に進めることができたのに対し,白山市は財政面での理由もあって,保育 所数は維持しながらも民営化に早々と着手した.このように,両市の合併前後における保 育サービスへの対応には大きな相違がみられた.

第Ⅳ章では,地方都市における潜在的な子育て支援へのニーズと課題を検討した.子育 て支援施設の利用者へのアンケート結果から明らかになったニーズについては,かほく市 と白山市の間で大きな差は見られず,施設の利用者である母親たちは,各種子育て支援施 設を使い分けることにより,孤立化を防いだり,友だちづくりを行っていることが明らか になった.アンケートの回答者の一部に半構造化インタビューを行ったところ,結婚や出 産で仕事を辞めた母親が多いものの,職場復帰への意欲も高いことがわかった.また,公 的保育サービスでは充たされないニーズを子育て支援施設が補完していることも明らかに なった.こうした施設を支える職員に対しても同様の聞き取り調査を行ったところ,職務 が明確な保育所とは違って,職員の専門性が曖昧な子育て支援施設では,母子との距離の とり方への戸惑いや不安を抱く職員も少なくないことがわかった.

以上の結果について,第Ⅴ章では,対象となった 2 都市の地理的条件や社会経済的特性 の違いの影響に関する考察を加えた.その結果,地方都市でも大都市とは異なる子育て支 援へのニーズが存在することから,地域の実情に応じた柔軟で多様な子育て支援策が必要 であることが示唆された.

以上のように,本研究は従前の研究がほとんど対象になってこなかった地方都市に焦点 を当てながら,子育て支援の現状と課題を丹念に解明した.とくに,地方都市の特色とも いえる市町村合併の影響と認可保育所待機児童以外の面での子育て支援の必要性,さらに 子育て支援施設の利用者と職員の両面からみた課題を検討した点に独自性がみられる.得 られた結果から,地域の実情に即した子育て支援の必要性が明らかにされ,人文地理学分 野での貢献のみならず,政府や地方自治体の政策立案に対する示唆も得られている.よっ て,本論文は博士(理学)の学位を授与するのに十分な価値を有するものと認められる.

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