【学位論文審査の要旨】
持続可能な社会基盤を構築するには,建物の長寿命化を計ることが重要である。プレキ ャストの鉄筋コンクリート(RC)柱および梁にアンボンドPC 鋼材を貫通させ,緊張力を 導入することで両者を一体化するアンボンドPCaPC圧着工法は,地震被害を受けて劣化し た部材を比較的簡易に交換できる点やグラウト充填作業が不要な点,また部材の損傷を梁 部材端部に集中させる損傷制御が可能な点等から,建物の長寿命化のために有望な構法に なり得る。
2007年度の国土交通省告示改正によりアンボンドPCaPC部材を建物の主要構造部材に 利用することが認められ,日本建築学会から「プレストレストコンクリート造建築物の性 能評価型設計施工指針(案)・同解説」(2015)が刊行された。このような法令および指針の 整備とともにアンボンドPCaPC造架構の使用が増加しつつあるが,その性能評価型設計法 の確立のための資料は未だ十分とは言えない。耐震構造としてきわめて高い優位性を有す る本構造を普及・活用するためには,その部材並びに架構全体の保有耐力や変形能力を詳 細に把握する必要がある。特に,梁曲げ破壊先行型として設計される本構造において,地 震時に架構に必要とされる耐震性能を検証するには,梁部材における各種特性点(曲げひ び割れ点,曲げ降伏点,曲げ終局点,および限界変形点)の耐力や変形を適切かつ精緻に 評価する算定法が要求される。また,RC造骨組では柱梁接合部の曲げ降伏破壊という新し い破壊形式が提唱され,柱梁曲げ耐力比がその破壊に大きな影響を与えることが指摘され たが,アンボンドPCaPC造架構の柱梁接合部において同種の破壊を検討した研究はほとん どない。
そこで本研究では,柱梁曲げ耐力比やスラブあるいは直交梁の有無がアンボンドPCaPC 造架構内の柱梁接合部および梁の耐震性能に与える影響を静的実験によって検討した。さ らに十字形柱梁部分架構内の梁部材を対象に,力学的根拠に基づいて梁曲げ耐力および変 形を評価するためのマクロモデルを構築し,梁部材の荷重-変形関係における特性点の耐 力および変形を陽な形で算定できる実用的な評価式を提案した。本研究によって得られた 主要な結論は以下の通りである。
1. 実施した実験の範囲では,梁付け根コンクリートの圧壊によって最大耐力が決定し,柱 梁曲げ耐力比が1に近い場合でも十字形柱梁部分架構の柱梁接合部の曲げ降伏破壊は生じ なかった。ただしスラブが付くことで柱梁の剛性比が変化して柱梁接合部の変形が増大し,
柱梁接合部が曲げ降伏破壊の兆候を示したことを指摘した。
2. PC 鋼材の降伏以前に梁付け根コンクリートの圧壊が先行する梁部材の力学特性を詳細
に検討し,梁材軸に沿った任意断面での中立軸位置や圧縮縁および引張縁コンクリートの ひずみ分布を定量的に評価する手法を提案した。この評価値と実験値とを比較することに
よって提案手法の妥当性を示した。
3. 上記の成果を利用して,アンボンド PCaPC 造梁部材の復元力特性の骨格曲線を評価す るためのマクロモデルを構築した。このマクロモデルでは梁圧着面における平面保持を仮 定して,架構全体に渡って生じる梁PC鋼材位置での梁軸変形量とPC鋼材の全伸び量とは 等しいという変形の適合条件を用いるとともに,梁断面における力の釣り合い条件を用い た。これに基づいてPC鋼材弾性限界時や梁曲げ終局時の耐力および変形を陽な形で簡便に 評価できる実用的な手法を提案した。この評価手法の妥当性は既往の実験研究との比較に よって検証された。
以上のように本論文は,アンボンドPCaPC造架構の耐震性能評価を行うにあたって必要 となる柱梁接合部の曲げ降伏破壊についての知見を得るとともに,骨組内の梁の各種耐力 および変形性能を定量的に評価することを可能にした。これらの成果は,アンボンドPCaPC 圧着工法によって構築される建物の耐震性能評価型設計法の策定に今後,大いに資するも のと評価できる。
よって本学位申請論文は建築構造学の発展に寄与するところがきわめて大きいと判断さ れるので,博士(工学)の学位を授与するのに充分値するものと認める。