危 険 な 運 転 に よ る 致 死 傷 と 危 険 運 転 致 死 傷 罪 ・ 自 動 車 運 転 過 失 致 死 傷 罪
星
周 一 郎
目 次 は じ め に 1 交 通 事 犯 へ の 刑 事 法 的 対 応 の 変 遷 2 交 通 事 犯 に 関 す る 刑 法 改 正 に 対 す る 批 判 論 3 危 険 運 転 致 死 傷 罪 の 処 罰 根 拠 と 類 型 性 4 危 険 運 転 致 死 傷 罪 の 成 立 範 囲 と そ の 合 理 性 5 危 険 運 転 致 死 傷 罪
・ 自 動 車 運 転 過 失 致 死 傷 罪 の 行 方 ま と め に 代 え て 危
険 な 運 転 に よ る 致 死 傷 と 危 険 運 転 致 死 傷 罪
・ 自 動 車 運 転 過 失 致 死 傷 罪
一 八 三
︵ 都 法 五 十 三
︱
一
︶
は じ め に
平成 一 八
︵ 二〇
〇 六
︶ 年 八月 に 発 生 し世 間 の 耳 目を 集 め た
﹁ 福岡 飲 酒 運 転三 児 死 亡 事 故﹂ で は
︑ 第一 審 判 決
︵ 1︶
が危 険 運転 致 死 傷 罪の 成 立 を 否 定し
︑ 被 告 人 を 業 務 上 過 失 致 死 傷 罪
︹ 当 時︺ と 道 路 交 通 法 違 反
︵酒 気 帯 び 運 転 罪
︶︑ さ ら に救 護 義 務
・報 告 義 務 違 反を 認 定 し たう え で
︑ 処断 刑 の 上 限 の懲 役 七 年 六月 に 処 し た のに 対 し
︑ 控訴 審 判 決
︵ 2︶
は一 転 して 危 険 運 転致 死 傷 罪 の 成立 を 認 め
︑被 告 人 に 懲役 二
〇 年 の 刑を 言 い 渡 した
︒ そ し て
︑こ の 控 訴 審判 決 を
︑ 最高 裁 は︑ 最 決 平 成二 三 年 一
〇 月三 一 日
︵ 刑集 六 五 巻 七号 一 一 三 八 頁︶ で
︑ 結 論に お い て 支 持し た
︵ 3
︒︶
これ に 対 し
︑前 記 事 件 の 翌月 で あ る 平成 一 八
︵ 二〇
〇 六
︶ 年 九月 に 発 生 した
︑ 保 育 士 に引 率 さ れ 市道 を 歩 い てい た 保育 園 児 の 列に
︑ カ セ ッ トプ レ ー ヤ ーを 操 作 し なが ら 脇 見 運 転を し て い た自 動 車 が 突 っ込 み
︑ 園 児四 人 が 死 亡し
︑ 園 児・ 保 育 士 あわ せ て 一 七 人が 重 軽 傷 を負 っ た と いう
﹁ 川 口 園 児死 傷 事 故
﹂に つ い て
︑ さい た ま 地 判平 成 一 九 年 三 月 一六 日
︵LEX/DB:25420861
︶ は︑ 本 件 行 為 が﹁ 自 動 車 の走 行 が 必 然 的に 伴 う 危 険 性 に 頓 着 し よ う と す る こ と な く︑ 本 件 道 路の 通 行 人 や 通行 車 両 の 安全 を 自 ら の身 勝 手 な 都 合で 殊 更 無 視し
︑ 相 当 の 距離 及 び 時 間に わ た り
︑自 動 車を 正 に 走 る凶 器 と し て 暴走 さ せ た とい う 無 謀 運転 の 極 み と して
︑ 危 険 かつ 悪 質 極 ま りな い
﹂ こ とや
︑ 被 告 人 に 無 謀で 危 険 な 運転 を 繰 り 返 す運 転 性 癖 があ り
︑ 本 件 行為 が
﹁ こ うし た 運 転 性癖 の 発 露 で あり
︑ 本 件 事故 は
︑ 起 こ る べ くし て 起 こ った 事 故 と い うべ き で あ る﹂ こ と な ど を 指 摘 す る
︒そ の う え で
︑﹁ 危 険 運 転 致 死 傷 罪 に お け る 危 険 運 転 行為 へ の 社 会的 非 難 の 高 まり に 伴 い
︑危 険 運 転 行 為と 実 質 的 危険 性 に お いて 差 異 の な い危 険 な 運 転行 為 に つ い て も
︑社 会 的 非 難が 高 ま り つ つあ る も の とみ る こ と が で き る
﹂な ど と し て︑
﹁ 懲 役 五 年 と い う 業 務 上 過 失 致 死 傷 罪 の
一 八 四
法 定刑 の 上 限 をも っ て し て も︑ こ れ に 対す る 社 会 的非 難
︑ そ し て被 告 人 の 罪責 を 評 価 し きれ な い 事 案で あ る と 認め ら れる
﹂ と し なが ら
︑ 業 務 上過 失 致 死 傷罪
︹ 当 時
︺の 最 高 刑 で ある 懲 役 五 年を 被 告 人 に 言い 渡 し た
︒ ま た︑ 同 じ く 世 間 の 耳 目 を 集 め た 凄 惨 な 交 通 死 亡 事 故 の 一 つ と し て
︑ 平 成 二 三︵ 二
〇 一 一
︶ 年 四 月 に 発 生 し た
﹁ 鹿沼 ク レ ー ン 車児 童 六 人 死亡 事 故
﹂ が あ る
︒ こ れ は
︑持 病︵ て ん か ん
︶ の 発 作 を 抑 え る 常 用 薬 を 服 用 せ ず に 大 型 ク レー ン 車 を 運転 し た 被 告 人が
︑ 運 転 中に 発 作 を 起こ し て 失 神 した ま ま
︑ 自車 を 集 団 登 校中 の 小 学 生の 列 に 突 っ込 ま せ︑ 六 人 を 死亡 さ せ た と いう 事 案 で ある
︒ こ れ を自 動 車 運 転 過失 致 死 罪 で起 訴 し た 検 察官 が
︑ 論 告求 刑 に お い て︑ 被 告人 が
︑ 本 件事 故 に 先 だ って 複 数 回 の自 動 車 事 故 を引 き 起 こ して お り
︑ 特に 平 成 二
〇 年四 月 に は やは り 持 病 の 発 作 を原 因 と す る人 身 事 故 を 発生 さ せ
︑ 執行 猶 予 付 の 有罪 判 決 を 受け た に も かか わ ら ず
︑ その 執 行 猶 予期 間 中 に
︑ ク レ ーン 車 の 運 転を 続 け る な どし て 本 件 事故 を 惹 起 し た こ と な ど を 指 摘 し
︑﹁ 本 件 の 悪 質 性 は
︑ 現 行 法 上 の 自 動 車 運 転 過失 致 死 罪 では 評 価 し 尽 くせ る も の では な い
﹂ と しつ つ
︑ 自 動車 運 転 過 失 致死 罪 の 最 高刑 で あ る 懲役 七 年 を 求 刑 し たと こ ろ
︑ 宇 都宮 地 判 平 成二 三 年 一 二 月 一 九 日
︵ 判 例 集 未 登 載︶ も
︑﹁ 被 告 人 は
︑ 長 年 に わ た る 運 転 の 危 険 性 へ の 甘い 認 識 を 背 景と し て 安 易に ク レ ー ン車 の 運 転 を 開 始 し た も の で あ っ て
︑そ の 注 意 義 務 違 反 の 程 度 は 甚 だ し く
︑ 被 告人 の 過 失 は 極め て 悪 質 で重 大 で あ る
﹂と し て
︑ 求刑 ど お り の刑 を 言 い 渡 して い る
︒ 近時 の 刑 事 立 法に お け る
﹁重 罰 化
﹂ 傾 向の 象 徴 と も い え る 危 険 運 転 致 死 傷 罪︵ 刑 法 二
〇 八 条 の 二
︶に つ い て は
︑ 平 成一 三
︵ 二
〇
〇一
︶ 年 一 二月 の 制 定
・ 施行 か ら す でに 一
〇 年 以上 が 経 過 し
︑そ の 適 用 に関 す る 判 例 も積 み 重 ね ら れ つつ あ る 現 状 にあ る
︒ た だし
︑ 同 罪 に つい て は
︑ その 制 定 時 から
︑ 規 範 的 構成 要 件 要 素や 主 観 的 構 成要 件 要 素 を 多 用し
︑ そ の 適 用に 際 し て 解釈 上 の 不 明 確性 や
︑ 立 証上 の 困 難 性 も指 摘 さ れ てい た と こ ろで あ る が
︑ 現在 に お い て も
︑ 悪質 交 通 事 犯に 対 す る 刑事 法 的 対 応 のあ り 方 を めぐ っ て
︑ 議 論は
︑ 収 束 を見 せ る ど ころ か
︑ 危 険 運転 致 死 傷 罪 危 険 な 運 転 に よ る 致 死 傷 と 危 険 運 転 致 死 傷 罪
・ 自 動 車 運 転 過 失 致 死 傷 罪
一 八 五
︵ 都 法 五 十 三
︱
一
︶
の 廃止 論 か ら
︑同 罪 の 適 用 がな い 交 通 事犯 に 対 す る不 適 用 へ の 疑問 を 呈 す る議 論 に 至 る まで
︑ 様 々 な見 解 が 主 張さ れ てい る
︒ さ らに 加 え て
︑ 平成 一 九
︵ 二〇
〇 七
︶ 年に 制 定
・ 施 行さ れ た 自 動車 運 転 過 失 致死 傷 罪 に 対す る 評 価 も交 錯 し︑ 議 論 は ます ま す 混 迷 の度 を 深 め てい る よ う に思 わ れ る
︒ そこ で 本 稿 では
︑ 交 通 事 犯に 対 す る 刑事 法 的 対 応の 現 状 お よ びあ り 方 に つい て
︑ 若 干 の考 察 を 試 みた い と 考 え る︒
1 交 通 事 犯 へ の 刑 事 法 的 対 応 の 変 遷
! 過 失 犯 の規 定 状 況 あら
た め て 述べ る ま で も なく
︑ わ が 国の 刑 法 典 は 故 意 犯 処 罰 の 原 則 を 採 用 し
︵ 三 八 条 一 項
︶︑ 過 失 犯 に つ い て は 例 外的 な 処 罰 規定 と し て 位 置づ け ら れ てい る
︒ そ して
︑ わ が 国 の刑 法 典 で は︑ 法 規 上 明 確な 過 失 犯 が定 め ら れ てい る のは
︑ 生 命
・身 体 に 対 す る罪 の 一 部
︵過 失 致 死 傷罪
・ 二
〇 九 条な い し 二 一一 条
︶ と
︑ 公共 危 険 犯 の一 部
︵ 一 一六 条
︑一 一 七 条 二項
︑ 一 一 七 条の 二
︑ 一 二二 条 お よ び一 二 九 条
︶ に限 ら れ て いる
︒ しか も
︑ そ れら の 罪 に 関 して
︑ そ の 法定 刑 が 著 し く軽 い こ と が︑ わ が 国 の刑 法 典 の 特 徴で あ る
︒ いわ ゆ る 単 純 過 失 の 場 合 で は
︑ 身 体 に 対 す る 過 失 致 傷 罪︵ 二
〇 九 条︶ で 三
〇 万 円 以 下 の 罰 金
︑ 生 命 に 対 す る 過 失 致 死 罪
︵ 二 一
〇 条
︶に 至 っ て も五
〇 万 円 以 下の 罰 金 が 定め ら れ て い るに す ぎ な い
︵4
︒︶
ま た
︑ 公共 危 険 犯 に おい て も
︑ 過失 建 造 物 等浸 害 罪︵ 一 二 二 条︶ で は 二
〇 万円 以 下 の 罰金
︑ 過 失 往来 危 険 罪
︵ 一二 九 条
︶ では 三
〇 万 円 以下 の 罰 金
︑失 火 罪
︵ 一一 六 条︶
︑ 過 失 激 発物 等 破 裂 罪︵ 一 一 七 条二 項
︶ に お いて も 五
〇 万円 以 下 の 罰 金が 科 さ れ てい る に す ぎな い
︒
一 八 六
そし て
︑ こ れら の 過 失 犯 の一 部 に は
︑﹁ 業 務 上 過 失
﹂お よ び﹁ 重 過 失
﹂ の 場 合 に 刑 を 加 重 す る 規 定 が 置 か れ て い る が
︑そ こ で も
︑業 務 上 過 失 往 来 危 険 罪
︵ 一 二 九 条 二 項
︶ に お い て
﹁ 三 年 以 下 の 禁 錮 又 は 五
〇 万 円 以 下 の 罰 金
﹂︑ 業 務上 失 火 罪 およ び 業 務 上 過失 激 発 物 破裂 罪
︵ 一 一 七条 の 二
︶ にお い て
﹁ 三年 以 下 の 禁 錮又 は 一 五
〇万 円 以 下 の 罰 金
﹂と な っ て いる
︒ そ し て
︑業 務 上 過 失致 死 傷 罪
︵ 二一 一 条
︶ も︑ 後 述 す る昭 和 四 三 年 改正 の 直 前 には
﹁ 三 年 以 下 ノ 禁錮 又 は 千 円以 下 ノ 罰 金
︵ 5︶
﹂で あ り
︑ 重過 失 致 死 傷罪 も
︑ 昭 和 二二
︵ 一 九 四七
︶ 年 に 追 加さ れ た に すぎ な か っ た︒
!
﹁ 業 務
﹂ 概念 の 拡 張 この
よ う に
︑刑 法 典 で は 例外 的 な 扱 いと さ れ
︑ かつ 著 し く 軽 い法 定 刑 の 定め ら れ た 過 失犯 で は あ るも の の
︑ 現実 に は︑ 自 動 車 によ る 交 通 死 傷事 犯 が 原 因と な り
︑ その 発 生 件 数 は増 加 の 一 途を た ど る
︵ なお
︑ 戦 後 の事 故 件 数 の 推 移 につ い て
︑ 図1 参 照
︶︒ そし て
︑ 判 例は
︑ 戦 前 か ら若 干 の 変 遷を 経 つ つ も
︑業 務 上 過 失致 死 傷 罪 にい う 業 務 概 念を 拡 大 し
︑自 動 車 の 運 転 を
﹁業 務
﹂ に あた る と す る こと で
︑ 自 動車 の 運 転 に よる 過 失 致 死傷 事 犯 に 対し て 妥 当 な 解決 を 図 ろ うと し て き た
︒ 業務 の 意 義 につ い て は
︑ 現在
︑﹁ 人 が 社会 生 活 上 の 地 位 に 基 き 反 覆 継 続 し て 行 う 行 為 で あ っ て
︑ 他 人 の 生 命 身 体 等 に危 害 を 加 える お そ れ の ある も の
﹂ と一 般 に 定 義 され て い る
︒ 業務 概 念 に 関 して は
︑ か つて 大 判 大 正 八 年 一 一 月 一 三 日
︵ 刑 録 二 五 輯 一
〇 八 二 頁︶ が︵6︶
︑﹁ 人 が 継 続 し て 或 事 務 を 行 ふに 付 き 有 する 社 会 生 活 上の 地 位 に して 其 自 ら 選定 し た る も のを 云 ひ 其 事務 の 公 私 孰 れた る と 報 酬利 益 を 伴 ふと 否 とを 分 た ず 又其 者 の 主 た る事 務 な る と従 た る 事 務 な る と に 何 等 の 関 係 あ る こ と な︹ し
︺﹂ と の 見 解 を 明 ら か に し 危 険 な 運 転 に よ る 致 死 傷 と 危 険 運 転 致 死 傷 罪
・ 自 動 車 運 転 過 失 致 死 傷 罪
一 八 七
︵ 都 法 五 十 三
︱
一
︶
0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000
昭23 28 33 38 43 48 53 58 63 平5 10 15 20 年 件
た
︒ そし て
︑ 乗 合 自動 車
︑ タ クシ ー
︑ ト ラ ック な ど の 運転 手 や 自 動車 教 習 の指 導 者 な ど
︑主 た る 職 業と し て 自 動 車の 運 転 に 従事 す る 者 によ る 運 転が
︑ こ こ に いう 業 務 に あた る こ と に 疑い は な い
︵ 7︶
︒と こ ろ が
︑大 判 大 正 一 二 年 八 月 一 日
︵刑 集 二 巻 六 七 三 頁
︶ は︑
﹁ 自 動 車 運 転 手 の 如 き 法 令上 一 定 の 資 格を 有 す る 者に 非 ざ れ ば 従事 す る こ とを 得 ざ る 特殊 の 事 務に 在 り て も 其従 事 者 の 目的 が 之 に 依 り生 計 の 資 を得 ん と す るに 在 る と若 は 其 の 他 の欲 望 を 充 たす に 在 る と を問 は ず 苟 も継 続 し て 之に 従 事 する 以 上 之 を その 者 の 業 務と 称 す べ き
﹂と し て
︑ 雑貨 輸 出 入 商 が 自 家 用 自 動 車 を 運 転 し た 行 為 に つ き
︑﹁ 被 告 は 免 許 を 受 け 自 動 車 運 転 手 た る の地 位 を 取 得し 之 に 依 り継 続 し て 自 家用 自 動 車 の運 転 に 従 事 し 来 り た る 者 な れ ば 是 れ 所 謂 業 務 に 外 な ら ず﹂ と し て
︑﹁ 業 務
﹂ に あ た る と し た︒ そ の よう な 理 解 を前 提 と す れば
︑ 貨 物 自 動車 の 運 転 手が
︑ た ま た ま 運 送 業 務の 余 暇 に 貨物 自 動 車 を運 転 す る 場 合︵ 大 判 昭 和一 三 年 一 二 月 六 日
・ 刑集 一 七 巻 九〇 一 頁
︶ のほ か
︑ 主 た る業 務 を
﹁ 準備 ま た は 補 助 す る 付 随事 務
﹂ と して 常 に 自 動車 を 操 縦 す る者 の 運 転
︵大 判 昭 和 一
〇 年 一 一 月 六 日・ 刑 集 一 四 巻 一 一 一 四 頁
︶︑ 医 師 が 往 診 そ の 他 医 業 を 行 う に あ たっ て 自 ら 自家 用 自 動 車 を操 縦 運 転 した 場 合
︵ 大判 昭 和 一 四 年
図1 自動車事故発生件数の推移
一 八 八
五 月二 三 日
・ 刑集 一 八 巻 二 八三 頁
︶ も 業務 に あ た るこ と に な る
︒た だ
︑ 以 上の 大 審 院 判 例で は
︑ 基 本的 に は
︑ 業務 者 がた ま た ま 業務 外 で 自 動 車を 運 転 し た場 合 や
︑ 主た る 業 務 の 補助 的
・ 付 随的 事 務 と し て自 動 車 を 運転 す る 場 合を 業 務に あ た る とさ れ て い た と解 す る 余 地も あ っ た
︵ 8︶
︒ しか し な が ら︑ 業 務 概 念 に関 し て 先 にみ た 定 義 を明 ら か に し た最 判 昭 和 三三 年 四 月 一 八日
︵ 刑 集 一二 巻 六 号 一〇 九
〇頁
︶ 以 降
︑た と え ば
︑ 東京 高 判 昭 和 三 五 年 一 二 月 一 二 日
︵ 高 刑 集 一 三 巻 九 号 六 四 八 頁
︶が
︑﹁ 運 転 を 業 務 と す る とい う の は
︑運 転 そ れ 自 体を 反 覆
︑ 継続 し て 行 う こと を い う もの で あ っ て︑ こ れ を 職 業と し て 又 は職 業 に 関 連 し て 行う こ と を いう も の で は ない
﹂ 旨 を 判示 す る な ど し︑ 自 動 車 の運 転 一 般 が原 則 と し て 業務 に あ た ると す る 現 在 の 判 例の 見 解 は
︑昭 和 三
〇 年 代半 ば に は ほぼ 確 立 し た もの と な る
︵ 9︶
︒ これ は ま さ しく
︑ 戦 後
︑ 昭和 三
〇 年 代以 降 の 交 通事 故 の 激 増 と交 通 死 者 数の 増 加 に 伴 う交 通 事 故 問題 の 深 刻 さが10︵︶
︑
﹁︵ 第 一 次
︶ 交 通戦 争
﹂ と して
︑ 国 民 一 般に 強 い 印 象を 与 え る こ とに な っ た のと11︵︶ 時 を 同 じく す る 動 き であ っ た と いえ よ う︒ なお
︑ 先 に もみ た よ う に
︑昭 和 二 二 年に
︑ 過 失 致死 傷 罪 の 法 定刑 が 軽 す ぎる 状 況 に 対 応す べ く
︑ 二一 一 条 に 重過 失 致死 傷 罪 が 追加 さ れ た
︒ これ は
︑ 自 動車 に よ る 過失 致 死 傷 事 犯の う ち
︑ 飲酒 運 転
︑ ス ピー ド 違 反 など
︑ 安 全 運転 上 の基 本 的 事 項を 無 視 し た 無謀 な 運 転 に伴 う 過 失 が念 頭 に 置 か れて い た も のと 考 え ら れ る
12︵
︒︶
し か し なが ら
︑ 判 例に お いて す で に 業務 概 念 が 拡 張さ れ て い たこ と も あ り︑ 交 通 事 犯 の多 く は
︑ 依然 と し て 業 務上 過 失 致 死傷 罪 と し て処 理 され 続 け た
︵ 13︶
︒ 危
険 な 運 転 に よ る 致 死 傷 と 危 険 運 転 致 死 傷 罪
・ 自 動 車 運 転 過 失 致 死 傷 罪
一 八 九
︵ 都 法 五 十 三
︱
一
︶
! 交 通 事 犯と 刑 法 上 の 故意 犯 これ
と は 別 に︑
﹁ 第 一 次 交通 戦 争
﹂ とし て 悪 質 交 通事 犯 が 社 会問 題 化 し た 昭和 三
〇 年 代︑ 下 級 審 裁判 例 の 一 部 に︑ 悪 質交 通 事 犯 に対 し
︑ 故 意 犯の 成 立 を 認め る と い う動 き が 生 ず る︒ 広 島 高 判昭 和 三 六 年 八月 二 五 日
︵高 刑 集 一 四巻 五 号三 三 三 頁
︶は
︑ 飲 酒 酩 酊の う え
︑ 無免 許 か つ 無燈 火 で 暗 夜 の道 路 上 で 自動 車 を 運 転 し︑ 盆 踊 り 大会 か ら 帰 る 多 数 の歩 行 者 に 自車 を 衝 突 さ せ︑ 死 傷 させ た と い う事 案 に つ き
︑﹁ 到 底 正常 な 運 転 がで き な い 状 態で あ っ た ため
︑⁝
⁝ 多 数歩 行 者 に 自動 車 を 突 き 当て て 同 人 等を 転 倒 さ せ たり 跳 ね 飛 ばし た り す る危 険 の あ る こと を 十 分 認識 し
﹂ た と し て 暴行 の 未 必 の故 意 を 認 め
︑傷 害 致 死 罪︵ お よ び 傷 害罪
︶ の 成 立を 肯 定 し た︒ また
︑ い わ ゆる
﹁ 幅 寄 せ
﹂や 執 拗 な 追跡 行 為 等 に つい て は
︑ 東京 高 判 昭 和三 七 年 一 一 月六 日
︵ 東 時一 三 巻 一 一 号 二 七八 頁
︶︑ 東 京高 判 昭 和 三八 年 七 月 四 日︵ 東 時 一 四巻 七 号 一
〇九 頁
︶︑ 東 京高 判 昭 和 五
〇年 四 月 一 五日
︵ 刑 月 七 巻 四 号四 八
〇 頁
︶︑ 東 京 高 判 平成 一 二 年 一
〇月 二 七 日
︵東 時 五 一 巻 一= 一 二 号 一〇 三 頁
︶︑ 東 京 高 判 平 成一 六 年 一 二月 一 日︵ 判 時 一 九二
〇 号 一 五 四頁
︶ な ど が︑ 追 跡 行 為や 幅 寄 せ 行 為等 を
﹁ 暴 行に 当 た る
﹂ と解 し た う えで
︑ 暴 行 の故 意 を認 め
︑ 傷 害︵ 致 死
︶ 罪 が成 立 す る 旨の 判 示 を して い る
︒ これ ら の 判 例は
︑ 単 な る 過失 犯 と し てで は 把 握 しき れ な い 悪 質交 通 事 犯 を︑
﹁ 故 意 犯
︵結 果 的 加 重犯
︶﹂ と し て評 価 しよ う と す る努 力 の な か で生 じ た も のと 評 価 す る こと が で き よう
︒ も っ とも
︑ 悪 質 交 通事 犯 を 故 意犯 と し て 把 握 す るな ら ば
︑ 従来 は
︑ 傷 害 致死 罪 等 に 該 当 す る と す る ほ か は な か っ た
︒ だ が
︑﹁ 幅 寄 せ﹂ 行 為 等 は と も か く
︑悪 質 交 通事 犯 と し て通 常 念 頭 に 置か れ る 前 出 の 広 島 高 裁 昭 和 三 六 年 判 決 の よ う な 類 型 を
︑﹁ 暴 行
﹂ や
﹁ 傷 害﹂ と 評 価 す
一 九
〇
る こと は
︑ 類 型性 の 観 点 か らみ て も 困 難だ と い わ ざる を え な い
︒広 島 高 裁 昭和 三 六 年 判 決の 判 断 は
︑一 部 学 説 の有 力 な支 持 を 得 たも の の
︵ 14
︑︶
結 局︑ 実 務 に 定着 す る こ とは な か っ た
︒
! 業 務 上 過失 致 死 傷 罪 の改 正
︵ 昭 和四 三 年
︶ しか
し
︑ 悪 質交 通 事 犯 の 問題 は そ の 後も 解 消 す るこ と は な く
︑刑 事 法 の 分野 に お い て も︑ 一 定 の 対応 を と る こと が 余儀 な く さ れる こ と に な る︒ その 一 つ が
︑昭 和 四 三
︵ 一九 六 八
︶ 年に な さ れ た︑ 業 務 上 過 失致 死 傷 罪 の法 定 刑 の 引 き上 げ で あ る︒ 先 に み た よ う に︑ 立 法 当 時に お い て
︑ その 自 由 刑 が﹁ 三 年 以 下 の禁 錮
﹂ と され て い た のが
︑﹁ 五 年 以下 の 懲 役 又 は禁 錮
﹂ へ と︑ 懲 役刑 の 追 加 と法 定 刑 の 引 き上 げ が 図 ら れ た
︵ 15︶
︒ こ れ が
︑﹁ 第 一 次 交 通 戦 争
﹂ に 対 応 す る た め の も の で あ っ た こ と は 周 知の と お り であ る16︵︶
︒ そし て
︑ 業 務上 過 失 致 死 傷罪 へ の 懲 役刑 の 付 加 とい う の は
︑ 同罪 の 過 失 犯と し て の 性 質に 変 容 を 迫る も の で あっ た
︒す な わ ち
︑﹁ 無 謀 な 運 転に 起 因 す る事 犯 の う ち に は
︑ 傷 害
︑ 傷 害 致 死 等 の い わ ゆ る 故 意 犯 と 同 程 度 の 社 会 的 非 難 に値 す る も のが あ り
︑ こ れら 未 必 の 故意 と 紙 一 重 の事 案 に 対 して で も 禁 錮刑 又 は 罰 金 刑で 処 罰 せ ざる を え な い こ と は︑ 国 民 の 道義 的 感 覚 か らい っ て 不 自然 で あ る の で︑ 著 し い 無謀 運 転 に よっ て 惹 起 さ れた 事 犯 中 きわ め て 悪 質 重 大 なも の で
︑ その 評 価 に お いて 未! 必! の! 故! 意! 事! 犯! と! 同! 視! す! る! に! 足! り! る! も! の! に 対し て は
︑ 懲 役刑 を 科 す こと が で き るこ と とさ れ た
﹂︵ 傍点 筆 者
︶ とす る 説 明 が︑ 立 案 当 局 か ら な さ れ て い た の で あ る
︒ こ の こ と は
︑ 悪 質 交 通 事 犯 の な か に は︑ 単 な る 過失 と い う 評 価に は 必 ず しも と ど ま ら ない も の が ある も の の
︑し か し
︑ 刑 法の
﹁ 断 片 性﹂ か ら 故 意 犯 危 険 な 運 転 に よ る 致 死 傷 と 危 険 運 転 致 死 傷 罪
・ 自 動 車 運 転 過 失 致 死 傷 罪
一 九 一
︵ 都 法 五 十 三
︱
一
︶
と して は 処 罰 しえ な い も の を︑ あ え て
﹁過 失 犯
﹂ とし て 同 罪 に 取り 込 ま ざ るを え な か っ たこ と を 意 味し て い た よう に 思わ れ る
︒
! 併 合 罪 に関 す る 大 法 廷判 決
︱
︱ 最大 判 昭 和 四九 年 五 月 二 九日 これ
と は 別 に︑ 昭 和 四 九
︵一 九 七 四
︶年 に
︑ 最 高裁 に お い て 注目 す べ き 判例 が 登 場 す る︒ 最 大 判 昭和 四 九 年 五 月 二 九日
︵ 刑 集 二八 巻 四 号 一 一四 頁
︶ は
︑酒 酔 い 運 転 のう え 歩 行 者を 轢 過 し て死 亡 さ せ た 事案 に 関 す るも の で あ る が︑ 観 念的 競 合 に つい て
︑﹁ 刑 法五 四 条 一 項 前段 の 規 定
⁝
⁝ に い う 一 個 の 行 為 と は
︑法 的 評 価 を 離 れ 構 成 要 件 的 観 点 を 捨 象し た 自 然 的観 察 の も と で︑ 行 為 者 の動 態 が 社 会 的見 解 上 一 個の も の と 評価 を 受 け る 場合 を い う
﹂と す る 見 解 を 新 たに 示 し た
︒そ の う え で
︑﹁ 酒 に 酔 っ た状 態 で 自 動車 を 運 転 中過 っ て 人 身 事故 を 発 生 させ た 場 合 に つい て み る に︑ も とも と 自 動 車の 運 転 す る 行為 は
︑ そ の形 態 が
︑ 通 常︑ 時 間 的 継続 と 場 所 的 移動 と を 伴 うも の で あ るの に 対 し
︑ そ の 過程 に お い て 人身 事 故 を 発生 さ せ る 行為 は
︑ 運 転 継続 中 に お ける 一 時 点 一 場所 に お け る事 象 で あ って
︑ 前 記 の 自 然 的観 察 か ら す るな ら ば
︑ 両者 は
︑ 酒 に酔 っ た 状 態 で運 転 し た こと が 事 故 を 惹起 し た 過 失の 内 容 を なす も の か ど う か にか か わ り な く︑ 社 会 的 見解 上 別 個 のも の と 評 価 すべ き で あ って
︑ こ れ を 一個 の も の みる こ と は でき な い
﹂ と し て
︑居 眠 り 運 転 罪と 業 務 上 過失 致 死 傷 罪と を 観 念 的 競合 の 関 係 にあ る と し た 最決 昭 和 三 三年 四 月 一
〇 日︵ 刑 集 一 二 巻 五号 八 七 七 頁
︶を 明 確 に 変更 し て
︑ 酒 酔い 運 転 罪 と業 務 上 過 失致 死 傷 罪 と が併 合 罪 の 関係 に 立 つ と した の で あ る︒ 同判 決 は
︑ 刑 法解 釈 論 上 は︑ あ く ま で も罪 数 論 と して
︑ 観 念 的競 合 に い う 一個 の 行 為 の意 義 を 明 ら かに し た も の に すぎ な い
︒ た だし
︑ こ の よう な 解 釈 を 採用 す る こ とに よ り
︑ いわ ゆ る 併 合 罪加 重 と い う形 で
︑ 酒 酔 い運 転 に よ る
一 九 二
人 身事 故 の 処 罰を 加 重 し う る効 果 が 生 じた こ と は
︑悪 質 交 通 事 犯に 対 す る 実体 法 的 対 応 とし て 重 要 な意 義 を 持 ちえ た
︒す な わ ち
︑昭 和 四 三 年 以前 に は 三 年以 下 の 禁 錮刑 し か 科 し えな か っ た もの が
︑ 昭 和 四三 年 の 業 務上 過 失 致 死傷 罪 の法 定 刑 改 正と 昭 和 四 九 年の 大 法 廷 判決 の 解 釈 によ り
︑ 最 高 で七 年 の 懲 役刑
︹ 当 時
︺ を科 し う る 結果 と な っ た の で ある17︵︶
︒
! 道 路 交 通法 に お け る 飲酒 運 転 へ の対 応 この
昭 和 四 九年 大 法 廷 判 決以 降
︑ 悪 質交 通 事 犯 の典 型 で あ る 飲酒 運 転 に よる 人 身 事 故 では
︑ 酒 気 帯び 運 転 罪 また は 酒酔 い 運 転 罪の 法 定 刑 を 加え た 併 合 罪加 重 に よ る処 断 刑 の 上 限が
︑ 事 実 上の
﹁ 法 定 刑 の長 期
﹂ と なっ た
︒ 他方
︑ 道 路 交通 法 上 の 罰 則規 定 の 変 遷か ら も
︑ 悪質 交 通 事 犯 に対 す る 国 民一 般 か ら 向 けら れ る 責 任非 難 の 程 度 が︑ 時 代の 経 過 と とも に 増 大 し てい る こ と がわ か る
︒ こ こで は
︑ 飲 酒運 転 に 関 する 罰 則 を 例 に︑ そ の 動 きを 概 観 す る こ と にし た い
︒ 酒酔 い 運 転 行為 に 関 す る 罰則 規 定 の 法定 刑 に つ い てみ る と
︑ 昭和 二 二
︵ 一九 四 七
︶ 年 に道 路 交 通 取締 法 が 制 定 さ れ た際 に は
︑﹁ 三箇 月 以 下 の懲 役 又 は 三 千 円 以 下 の 罰 金
﹂ で あ っ た
︒ そ の 後
︑昭 和 三 五︵ 一 九 六
〇
︶ 年 に 道 路 交 通 法 が新 た に 制 定 され た 際 に は︑ そ れ が
﹁六 月 以 下 の 懲役 又 は 五 万円 以 下 の 罰 金﹂ と さ れ た︒ そ し て
︑業 務 上 過 失 致 死 傷罪 の 法 定 刑 改正 後 の 昭 和四 五
︵ 一 九七
〇
︶ 年 の 一部 改 正 で
︑﹁ 二 年 以 下 の懲 役 又 は 五万 円 以 下 の 罰金
﹂ と さ れ︑ そ の 後
︑ こ の 状 態 が し ば ら く 続 く
︵ な お
︑ 昭 和 六 一 年 の 一 部 改 正 で
﹁ 一
〇 万 円 以 下 の 罰 金
﹂と さ れ る
︶︒ そ し て︑ 危 険 運 転 致 死 傷 罪 が 新 設 さ れ た の と 同 じ 平 成 一 三︵ 二
〇
〇 一
︶ 年 に
︑﹁ 三 年 以 下 の 懲 役 又 は 五
〇 万 円 以 下 の 罰 金﹂ 危 険 な 運 転 に よ る 致 死 傷 と 危 険 運 転 致 死 傷 罪
・ 自 動 車 運 転 過 失 致 死 傷 罪
一 九 三
︵ 都 法 五 十 三
︱
一
︶
へ と引 き 上 げ られ
︵ 翌 年 施 行︶
︑ 平 成 一九
︵ 二
〇
〇 七︶ 年 に
︑ 現在 の
﹁ 五 年 以下 の 懲 役 又は 一
〇
〇 万円 以 下 の 罰 金﹂
︵ 同法 一 一 七 条 の二
︶ と な って い る
︒ また
︑ 戦 前 の自 動 車 取 締 令︵ 昭 和 八 年内 務 省 令 第二 三 号
︶ で 禁止 さ れ た 酒気 帯 び 運 転 行為 は
︑ 戦 後の 道 路 交 通取 締 法に お い て は取 締 り の 対 象と は さ れ ず︑ 昭 和 三 五年 に 制 定 さ れた 道 路 交 通法 に お い て 禁止 対 象 行 為に 加 え ら れ た も のの
︑ 制 定 当初 は 努 力 規 定と さ れ
︑ 単独 で の 罰 則 は設 け ら れ なか っ た
︒ 罰則 が 設 け ら れた の は
︑ やは り 業 務 上 過 失 致死 傷 罪 の 法定 刑 改 正 後 の︑ 昭 和 四 五︵ 一 九 七
〇
︶ 年 の 一 部 改 正 に お い て で あ り
︵﹁ 三 月 以 下 の 懲 役 又 は 三 万 円 以 下の 罰 金
﹂︶
︑そ の 後
︑ 平 成一 三
︵ 二
〇〇 一
︶ 年 に︑ そ の 罰 則 が﹁ 一 年 以 下の 懲 役 又 は 三〇 万 円 以 下の 罰 金
﹂ とさ れ
︑平 成 一 九
︵二
〇
〇 七
︶ 年に は
︑ 現 在 の﹁ 三 年 以 下 の 懲 役 又 は 五
〇 万 円 以 下 の 罰 金
﹂︵ 同 法 一 一 七 条 の 二
︶へ と 引 き上 げ ら れ た︒ 以上 の 経 緯 から 推 測 さ れ るよ う に
︑ 悪質 な 交 通 死 傷事 犯 に つ なが り う る 飲酒 運 転 そ れ 自体 に 対 し ても
︑ 国 民 一 般 の 非難 の 程 度 は︑ 間 違 い な く厳 格 化 し てい る
︒ ま た
︑危 険 運 転 致死 傷 罪 に 対 して 厳 し い 批判 論 を 展 開す る 論 者 か ら も
︵ 18︶
︑飲 酒 運 転 に対 す る 道 交 法上 の 罰 則 強化 に つ い ては
︑ そ れ ほ ど強 い 批 判 は向 け ら れ て いな い よ う に思 わ れ る
︒
! 危 険 運 転致 死 傷 罪 の 制定 そし
て
︑ 平 成一 三
︵ 二
〇
〇一
︶ 年 の 危険 運 転 致 死傷 罪 の 制 定 によ り
︑ 悪 質交 通 事 犯 が 刑法 上 の
﹁ 故意 犯
﹂ と して 正 面か ら 論 ぜ られ る に 至 っ た︒ 同罪 成 立 の 契機 と な っ た のは
︑ 周 知 のよ う に
︑ 平成 一 一 年 一 一月 に 東 名 高速 道 路 上 で 発生 し た
︑ 飲酒 無 謀 運 転 に
一 九 四
よ る事 故 で あ る︒ こ れ は
︑ トラ ッ ク 運 転手 で あ っ た被 告 人 が
︑ カー フ ェ リ ー内 で 多 量 の 飲酒 を し
︑ 事故 後 の 飲 酒検 知 にお い て 呼 気一 リ ッ ト ル につ き
○
・ 六三 ミ リ グ ラム と い う 高 濃度 の ア ル コー ル を 保 有 した 状 態 で 高速 道 路 上 での 運 転を 継 続 し
︑酔 い の た め 前方 注 視 お よび 運 転 操 作が 困 難 な 状 態に 陥 り
︑ 自車 を 前 方 の 被害 車 両 に 追突 さ せ る な ど し て炎 上 さ せ
︑被 害 車 両 後 部座 席 に 乗 車中 の 二 児 を 死 亡 さ せ
︑ 五 名 に 傷 害 を 負 わ せ る な ど し た と い う 事 案 で あ る︒ 本 事案 の 控 訴 審判 決 で あ る 東京 高 判 平 成一 三 年 一 月 一二 日
︵ 判 タ一
〇 六 四 号二 一 八 頁
︶ は︑ 本 件 当 時の 業 務 上 過 失 致 死傷 罪 の 量 刑の あ り 方 と 国民 感 情 と の垂 離 に つ い て
︑﹁ 立 法 に 関 わ る 事 項 に つ き 裁 判 所 が 軽 々 に 意 見 を 述 べ る べ き では な い に して も
︑ 所 感 とし て 敢 え て触 れ れ ば
︑ 飲酒 運 転 等 によ り 死 傷 事故 を 起 こ し た場 合 に 関 する 特 別 類 型 の 犯 罪構 成 要 件 の新 設
︑ 関 連 規定 の 法 定 刑の 引 き 上 げ 等の 立 法 的 な手 当 を も って す る の が 本来 の あ り 方で あ る よ う に 思 われ る し
︑ また 運 用 で 対 処す る に し ても
︑ 本 件 の ごと き 特 に 悪質 な 事 案 を 契機 に 徐 々 に求 刑 及 び 量刑 の 実 際 を 変 え てい く 手 順 を もっ て 対 応 すべ き 事 柄 であ る と 思 わ れる の で あ る﹂ 旨 の 異 例 の言 及 を し た︒ また
︑ 平 成 一 二年 四 月 に 座間 市 で 発 生し た
︑ 友 人 の結 婚 式 の 披露 宴 等 で の 長時 間 に わ たる 飲 酒 後 の帰 路 に お い て︑ 無 車検
︑ 無 保 険 の車 両 を 酒 気を 帯 び
︑ かつ 無 免 許 で 運転 し
︑ 警 察に よ る 取 締 りに あ う や 処罰 を 恐 れ て 逃走 し
︑ パ ト カ ーか ら の 追 跡 を振 り 切 ろ うと し て
︑ 時 折ラ イ ト を 点滅 さ せ な がら 市 道 を 時 速一
〇
〇 キ ロメ ー ト ル で 走行 し
︑ 運 転 操 作を 誤 っ て 自 車を 歩 道 に 逸走 さ せ
︑ 大 学へ の 入 学 式を 終 え た ばか り の 当 時 一九 歳 だ っ た歩 行 者 二 名 をは ね て 死 亡 さ せた と い う 事 案も
︑ 当 時
︑世 論 に 対 し て大 き な 影 響を 与 え た
︒こ の 事 案 に 関す る 横 浜 地裁 相 模 原 支 判平 成 一 二 年 七 月四 日
︵ 判 時 一七 三 七 号 一五
〇 頁
︶ は
︑被 告 人 に 対し
︑ 求 刑 どお り
︑ 当 時 の処 断 刑 の 上限 に あ た る 懲役 五 年 六 月 を 言い 渡 し た が
︑そ の 際
︑﹁ 被告 人 の 道 路 交 通 法 規 に 関 す る 無 関 心
︑ 放 任 的 な 態 度 は
︑ 無 免 許 運 転
︑ 無 車 検
・ 無 保 険 車運 行 供 用
︑ 酒気 帯 び 運 転と し て 累 積 して い る が
︑こ れ ら は も ちろ ん す べ て故 意 犯 で ある
︒ そ の 末 に︑ 被 告 人 は︑ 危 険 な 運 転 に よ る 致 死 傷 と 危 険 運 転 致 死 傷 罪
・ 自 動 車 運 転 過 失 致 死 傷 罪
一 九 五
︵ 都 法 五 十 三
︱
一
︶
取 締り を 逃 れ よう と 猛 ス ピ ード で 疾 走 する 無 謀 運 転に 出 た も の で︑ そ の 時 点で は 過 失 の 前提 と な る
︑他 車 両 や 歩行 者 の人 命 に 配 慮し て 的 確
・ 適正 な 運 転 をす べ き 注 意義 務 は
︑ 被 告人 の な か では も は や 守 るべ き 規 範 とし て 機 能 して お らず
︑ あ た かも こ れ は 無 視す べ き も のと し て の 意 味 し か も っ て い な か っ た か の よ う で あ
﹂り
︑﹁ 自 動 車 交 通 に 伴 う 人命 へ の 高 い危 険 性 を 防 ぐ目 的 で 課 せら れ る 注 意義 務 の 重 大 な違 背 は
︑ 人間 の 生 命 身 体に 対 す る 侵害 の 結 果 に対 す る認 識 あ る 過失 と し て
︑ 故意 に 直 接 隣接 し
︑ む しろ 未 必 の 故 意に 限 り な く近 づ く と 評 価さ れ
﹂︑
﹁ そう す る と
︑そ の 行為 の 結 果 が二 名 の 者 の 死亡 と い う 重大 な も の で ある 本 件 で は︑ 業 務 上 過失 致 死 及 び 無免 許
・ 酒 気帯 び 運 転 の 道 路 交通 法 違 反 等の 併 合 罪 で 処罰 さ れ る 事案 と し て は 最も 悪 質 な 部類 に 属 す ると い え る
︒ ゆえ に
︑ 量 刑に 当 た っ て は 傷 害致 死 に 準 じた 非 難 を 加 えて も 決 し て不 当 と は い えま い
﹂ と 判示 し た
︒ これ ら の 事 案を 契 機 と し て︑ 悪 質 交 通事 犯 に 対 す る量 刑 が 軽 すぎ る と の 国民 世 論 が わ き起 こ り
︑ 交通 被 害 者 の 遺 族 等が 中 心 と なっ て
︑ 合 計 約三 七 万 四
〇〇
〇 人 も の 署 名 が 集 め ら れ︑ 法 務 大 臣 宛 に 提 出 さ れ る な ど の 動 き も あ り︑ 危 険運 転 致 死 傷 罪の 制 定 へ とつ な が っ たこ と は
︑ こ こで 改 め て 述べ る ま で も ない19︵︶
︒
! 自 動 車 運転 過 失 致 死 傷罪 の 制 定 と道 路 交 通 法の 改 正 以上
の 危 険 運転 致 死 傷 罪 の新 設 に よ り︑ と り わ け悪 質 で
︑ 同 罪の 行 為 類 型に 該 当 す る 危険 運 転 行 為に よ る 致 死傷 事 犯が
︑ 故 意 犯と し て
︑ 暴 行致 傷 ま た は傷 害 致 死 と同 等 に 処 罰 され る よ う にな っ た
︒ しか し 他 方
︑危 険 運 転 致 死傷 罪 は
︑ 規範 的 構 成 要件 要 素 や 主 観的 構 成 要 件要 素 を 多 用 し︑ 構 成 要 件を 厳 し く 絞 り 込 んで い る こ とも あ り
︑ 同 罪に 該 当 す るか 否 か の 認 定 が か な り 困 難 を 伴 う も の で あ る こ と は 否 め な い
︒と り わ け︑
一 九 六
飲 酒運 転 に よ る致 死 傷 事 犯 にお い て
︑ 現場 か ら 逃 走 し て 飲 酒 検 知 を 免 れ た よ う な 場 合 に は
︑﹁ ア ル コ ー ル の 影 響 に よ り正 常 な 運 転が 困 難 な 状 態﹂ で あ っ たこ と の 認 定が 不 可 能 と なり
︑ 業 務 上過 失 致 死 傷 罪と 道 路 交 通法 上 の 救 護 義 務 違反 罪
︵ 道 交法 七 二 条 一 項︑ 一 一 七 条︶ の 併 合 罪 とし て
︑ 処 断刑 の 上 限 とし て 懲 役 七 年六 月
︵ 平 成一 九 年 の 道 路 交 通法 改 正 前
︶を 科 す こ と はで き た が
︑危 険 運 転 致 死傷 罪 の 法 定刑 の 長 期 の半 分 以 下 で あり
︑ 不 当 であ る と の 強 い 批 判が
︑ 被 害 者等 か ら 向 け られ た
︵ い わゆ る
﹁ 逃 げ 得﹂ の 問 題
︵ 20︶
︶︒ また
︑ こ れ とは 別 に
︑ 危 険運 転 致 死 傷罪 の 施 行 後と な る 平 成 一四 年 以 降 の自 動 車 運 転 によ る 業 務 上過 失 致 死 傷事 犯 の科 刑 状 況 につ い て
︑ 法 定刑 や 処 断 刑の 上 限 近 くで 量 刑 さ れ る事 案 が 大 幅に 増 加 す る など の 状 況 がみ ら れ
︑ 飲酒 運 転等 の 悪 質 かつ 危 険 な 自 動車 運 転 に より 重 大 な 結果 が 生 じ た 事案 等 で
︑ 事案 の 実 態 に 即し た 適 正 な科 刑 が 必 ず し も 実現 さ れ て いな い と の 問 題意 識 が 生 ずる よ う に な った21︵︶
︒ さ ら に︑ そ の よ うな 状 況 は
︑ それ 以 外 の 業務 上 過 失 致死 傷 事犯 で は 認 めら れ な い こ と︑ お よ び
︑﹁ 自 動 車 を 他の 車 両
︑ 歩行 者 等 が 往 来す る 道 路 等に お い て 運転 す る こ と は︑ 自 動車 の 性 状
︑形 状 等 か ら する と
︑ 業 務上 過 失 致 死傷 罪 が 適 用 され る 業 務 の中 で も
︑ 人 の生 命
・ 身 体を 侵 害 す る危 険 性が 類 型 的 に高 い こ と に 加え
︑ 鉄 道
︑航 空 機 等 のよ う に 機 械 化・ 組 織 化 され た 安 全 確 保シ ス テ ム の整 備 等 に よ る 事 故防 止 が 相 当程 度 期 待 で きる 分 野 と 異な り
︑ 自 動 車運 転 に よ る事 故 を 防 止す る た め に は︑ 基 本 的 に運 転 者 個 人 の 注 意力 に 依 存 する と こ ろ が 大き い こ と から
︑ 特 に 重 い注 意 義 務 が課 さ れ て いる
﹂ こ と が 指摘 さ れ る よう に な る
︵ 22︶
︒ そこ で
︑ 平 成一 九
︵ 二
〇
〇七
︶ 年 に は︑ 現 行 の 二一 一 条 二 項 とし て
﹁ 自 動車 運 転 過 失 致死 傷 罪
﹂ が新 設 さ れ ると と もに
︑﹁ 七 年 以下 の 懲 役 若く は 禁 錮 又 は 百 万 円 以 下 の 罰 金﹂ と さ れ た
︒ そ し て
︑ 同 時 に
︑ 道 路 交 通 法 の 改 正 に よ り
︑救 護 義 務 違反 に 関 し て
︑人 の 死 傷 が当 該 運 転 者 の 運 転 に 起 因 す る も の で あ る と き に つ い て
︑﹁ 十 年 以 下 の 懲 役 又 は百 万 円 以 下の 罰 金
﹂ へ と引 き 上 げ ら れ た
︒ こ れ に よ り
︑﹁ 飲 酒 ひ き 逃 げ
﹂ の 事 案 に 関 し て は
︑ 自 動 車 運 転 過 失 危 険 な 運 転 に よ る 致 死 傷 と 危 険 運 転 致 死 傷 罪
・ 自 動 車 運 転 過 失 致 死 傷 罪
一 九 七
︵ 都 法 五 十 三
︱
一
︶
致 死傷 罪 と 救 護義 務 違 反 罪 との 併 合 罪 の処 断 刑 の 上限 は
﹁ 懲 役 一五 年
﹂ と なり
︑ ま た
︑ 先に み た 酒 酔い 運 転 罪 の法 定 刑の 改 正 と あわ せ
︑ 危 険 運転 致 死 傷 罪に は あ た らな い 酒 酔 い 運転 に 関 す る交 通 死 傷 事 犯に 関 す る 処断 刑 の 上 限は
﹁ 懲役 一
〇 年 六 月﹂
︵ 酒 気 帯び 運 転 の 場 合は
﹁ 懲 役 一〇 年
﹂︶ と なっ た
︒ ただ し
︑ こ の自 動 車 運 転 過失 致 死 傷 罪を 設 け る 刑法 改 正 に あ って も
︑ 平 成一 三 年 の 危 険運 転 致 死 傷罪 新 設 と 同 時 に
︑業 務 上 過 失致 傷 罪 に 関 して 新 た に 規定 さ れ た
﹁ その 傷 害 が 軽い と き は
︑情 状 に よ り
︑そ の 刑 を 免除 す る こ と が で きる
﹂ 旨 の 刑の 免 除 規 定 が︑ 本 改 正 にお い て も そ のま ま 存 置 され て い る こと は
︑ 見 過 ごさ れ て は なら な い
︒
! 小 括 過失
犯 を 例 外と し て 位 置 づけ
︑ 故 意 犯に 比 較 し て 著し く 軽 い 法定 刑 を も って 臨 む
︑ 明 治四
〇
︵ 一 九〇 七
︶ 年 制 定 の 現行 刑 法 典 の過 失 犯 に 対 する 基 本 姿 勢︑ と り わ け 単純 過 失 致 死傷 罪 の 法 定 刑で は
︑ そ の後 の 経 済 成長 と と も に 増 加 した 自 動 車 に よる 過 失 致 死傷 事 犯 に 対し て 適 正 な 対応 が な し うる と は い え なか っ た
︵ 23︶
︒ しか し な が ら︑ そ れ に 対す る 適切 な 刑 法 典の 改 正 が な され な い な か︑ 判 例 に おけ る 業 務 概 念の 拡 張 や
︑道 路 交 通 法 とい っ た 特 別法 の 制 定
・整 備 によ り 妥 当 な解 決 を 図 る こと な ど に よる 対 応 な ど
︵ 24︶
︑ 様 々 な レ ベル で
︑ 適 正な 対 応 を 実 現す る た め の努 力 が な され て きた25︵︶
︒ 平成 一 三 年 の危 険 運 転 致 死傷 罪 の 制 定︑ 平 成 一 九年 の 自 動 車 運転 過 失 致 死傷 罪 の 制 定 は︑ 以 上 の よう な
︑ い わば
﹁ 弥縫 的
﹂ と も いえ る よ う な対 応 の 限 界を 超 え た 結 果 と し て な さ れ た も の だ と い え よ う
︵ 26︶
︒ 二 一 世 紀 の 到 来 に 合 わ せ た かの よ う な 刑事 立 法 の 時 代を 向 か え た現 今
︑ こ のよ う な 法 改 正は 必 然 の 結果 で あ っ た と評 し て よ いよ う に 思 われ
一 九 八
る
︒
2 交 通 事 犯 に 関 す る 刑 法 改 正 に 対 す る 批 判 論
以上 の 経 緯 のな か で 新 設 され た 危 険 運転 致 死 傷 罪に 対 し て は
︑し か し
︑ 制定 当 初 か ら 様々 な 批 判 が加 え ら れ てき た
︒そ れ ら は 多岐 に 渡 る も ので あ る が
︑そ の う ち の主 要 な も の を概 観 す る こと に し た い
︵ 27︶
︒
! 責 任 主 義に 立 脚 す る 批判 論 責任
主 義 に 立脚 す る 批 判 論の 一 つ は
︑危 険 運 転 致 死 傷 罪 の 最 大 の 特 徴 で あ る
︑ 結 果 的 加 重 犯 の 形 態 を 取 り つ つ︑ 基 本行 為 で あ る危 険 運 転 に つい て
︑ そ れ自 体 を 独 立の 犯 罪
︵ 基 本犯
︶ と し て規 定 し て い ない と い う
︑そ の 犯 罪 構 造 に 向け ら れ る
︒そ れ は
︑ た とえ ば
︑ 基 本行 為 が 道 交 法 違 反 等 の 他 罪 を 構 成 し な い 場 合 を 念 頭 に︑
﹁ 行 為 者 の 責 任 の 観 点か ら す れ ば︑ 可 罰 性 の ない 基 本 行 為の 認 識 の み で発 生 し た 重い 結 果 の 処罰 を 基 礎 づ ける こ と に なっ て
︑ 責 任 主 義 から の 潜 脱 とい う 批 判 を 甘受 せ ざ る をえ な く な る28︵︶
﹂︑ 故 意 犯 処 罰 を 原 則 と す る 現 行 刑 法 典 に お い て
︑ 一 般 の 結 果 的 加重 犯 の 場 合に は
︑ 基 本犯 の 部 分 に つい て 故 意 が要 求 さ れ て いる こ と が 比較 的 明 ら か であ る の に 対し
︑ 危 険 運転 致 死傷 罪 の 規 定で は
﹁ 基 本 犯﹂ が 示 さ れて い な い ため
︑﹁
﹃ 故 意 犯処 罰 の 原 則﹄ に 適 合 する よ う な 形 での 解 釈 が 文言 上 果た し て 可 能で あ る か は
︑厳 密 に 見 た場 合 に は 疑 問 で あ る
︵ 29︶
﹂︑
﹁﹃ 基 本 犯
﹄ の 処 罰 規 定 の 内 容 と 要 件 が 明 示 さ れ て い ない た め に
︑具 体 的 危 険 の客 観 的 な 内容 と 程 度
︑お よ び そ の 主観 的 な 認 識の 内 容 と 立 証の 方 法 な どの 問 題 が 正面 危 険 な 運 転 に よ る 致 死 傷 と 危 険 運 転 致 死 傷 罪
・ 自 動 車 運 転 過 失 致 死 傷 罪
一 九 九
︵ 都 法 五 十 三
︱
一
︶
か ら問 題 と な らな い と い う 不自 然 な 状 態が 生 み 出 され て い る
︵ 30︶
﹂ など と い っ た形 で 展 開 さ れる
︒ また
︑ 結 果 的加 重 犯 類 似 の構 造 を と った こ と に 関連 し て
︑ 判 例が 結 果 的 加重 犯 に つ い て結 果 と の 間に 過 失 を 必要 と しな い と し てい る こ と と の関 係 に お いて
︑ 基 本 的行 為 と 死 傷 結果 と の 間 に因 果 関 係 が あれ ば よ い こと に な り
︑処 罰 範囲 が 拡 が りす ぎ る と す る批 判 も 加 えら れ て い る
︵ 31︶
︒
! 処 罰 範 囲の 不 明 確 性 を理 由 と す る批 判 論 危険
運 転 致 死傷 罪 と そ れ 以外 の 過 失 致死 傷 罪 と の区 別 が 困 難 であ る と す る批 判 も あ る
︒こ れ は
︑ 文言 の 不 明 確性
︑ す なわ ち
︑ 規 範的 構 成 要 件 要素 や 主 観 的構 成 要 件 要素 に 関 し て
︑不 明 確 な 文言 が 多 用 さ れて い る こ とに よ り
︑ 犯罪 構 成要 件 が 不 明確 で あ る と いう 問 題 や
︑処 罰 範 囲 が 拡 張 さ れ る と い う 問 題
︑ さ ら に は
︑﹁ 悪 質 で な い も の を 処 罰 し 悪 質な も の を 処罰 し な い
﹂ こと と な る 不均 衡 の 有 無 とい う 問 題 も生 じ て い る
32︵
︑︶
と い っ た 主張 で あ る
︒ これ と は 別 に︑ 危 険 運 転 致死 傷 罪 も 道路 交 通 法 上の 酒 酔 い 運 転罪 も
︑ い ずれ も 抽 象 的 危険 犯 で あ って
︑ 両 者 の区 別 は相 対 化 さ れ︑ 死 傷 の 結 果が 発 生 す れば す べ て 本罪 が 成 立 す るこ と に な りか ね な い と する 批 判 も 加え ら れ て いる33︵︶
︒
"
公 平 性 を問 題 と す る 批判 論 また
︑ 自 動 車以 外 の 鉄 道
・航 空 機
・ 船舶 等 に よ って も 酒 酔 い 運転 等 に よ り︑ 危 険 運 転 致死 傷 罪 に 定め る 危 険 行為 と 実質 的 に 同 一の 不 法 を 備 える 行 為 が 多数 あ る こ とや
︑ 運 転 行 為で な く て も︑ 悪 質 か つ 無謀 な 危 険 行為 は
︑ 建 設・
二
〇
〇
製 造等 の 各 現 場に は い く ら でも 発 生 し うる こ と な どか ら
︑ 公 平 性の 観 点 か ら︑ 自 動 車 に よる 死 傷 事 犯の み を 取 り上 げ
︑危 険 運 転 致死 傷 罪 と し て重 罰 化 す るこ と に 対 する 批 判 論 も 主張 さ れ て いる34︵︶
︒ 公平 性 の 観 点に 基 づ く 批 判は
︑ 自 動 車運 転 過 失 致死 傷 罪 に 対 して も 向 け られ35︵︶
︑ さ ら に
︑返 す 刀 で
︑自 動 車 に よる 過 失致 死 傷 事 犯の み に 刑 の 免除 規 定 が 設け ら れ た こと も
︑ 批 判 の対 象 と さ れて い る
︵ 36
︒︶
!
﹁ 重 罰 化
﹂と い う 対 応そ の も の に対 す る 批 判 論 ただ
︑ 批 判 論の 主 要 な 関 心は
︑ 自 動 車に よ る 死 傷事 犯 に つ い て︑ 従 来 の 業務 上 過 失 致 死傷 罪 か ら 分離 し て
︑ 危険 運 転致 死 傷 罪 とい う 加 重 類 型を 設 け た こと そ れ 自 体に 向 け ら れ てい る と い えよ う
︒ 先 に みた 批 判 論 の多 く も
︑ 最終 的 には こ の 点 に収 斂 し て い る︒ その 論 拠 は 様々 な 点 に 求 めら れ て い るが
︑ た と え ば︑ 刑 罰 の 主要 な 機 能 であ る 一 般 予 防効 果 や 特 別予 防 効 果 が 認 め られ な い
︑ 他の 過 失 致 死 傷罪 に 比 較 して 極 端 に 重 い 法 定 刑 を 定 め た 犯 罪 類 型 を 交 通 事 犯 に つ い て 設 け る こ と は︑ 遺 族の 処 罰 感 情や 国 民 一 般 の応 報 感 情 に応 え た も の であ る が
︑ 被害 者 の 損 害回 復 は 民 事 的な 損 害 賠 償に よ る べ き で あ り︑ 重 罰 で は社 会 的 に は 損害 が 増 加 する に す ぎ な い
37︵
︑︶
被 害 者 の立 場 に あ まり に も 偏 っ た立 法 論 で ある38︵︶ な ど の 主張 が なさ れ て い る︒ 危
険 な 運 転 に よ る 致 死 傷 と 危 険 運 転 致 死 傷 罪
・ 自 動 車 運 転 過 失 致 死 傷 罪
二
〇 一
︵ 都 法 五 十 三
︱
一
︶
3 危 険 運 転 致 死 傷 罪 の 処 罰 根 拠 と 類 型 性
! 危 険 運 転致 死 傷 罪 の 保護 法 益 以上
に み た 批判 論 を 検 討 する に あ た り︑ 危 険 運 転致 死 傷 罪 の 処罰 根 拠
︵ 保護 法 益
︶ お よび そ の 解 釈に つ い て
︑あ ら かじ め 確 認 して お く こ と にし よ う
︒ 危険 運 転 致 死傷 罪 の 第 一 次的 な 保 護 法益 は
︑ 人 の生 命
・ 身 体 であ る こ と はい う ま で も ない
︒ し か しな が ら
︑ 以 上 に 加え て
︑ 同 罪の 定 め る 危 険運 転 行 為 は︑ 道 路 交 通 にお い て
︑ 運転 者 に と って 制 御 困 難 な危 険 を 生 じさ せ る も の で あ って
︑ こ の よう な 道 路 交 通上 の 公 共 の危 険39︵︶ が 第 二次 的 な 保 護 法益 で あ る とさ れ る
︵ 40
︒︶
この よ う な 飲酒 運 転 行 為 等の 悪 質 運 転行 為 に 伴 う道 路 交 通 に おけ る 公 共 の危 険 は
︑ 従 来は
︑ 酒 酔 い運 転 罪 や 酒気 帯 び運 転 罪 な ど︑ 道 路 交 通 法に お い て のみ 評 価 さ れて い た と い えよ う
︒ そ れが
︑ 危 険 運 転致 死 傷 罪 にお い て
︑ 刑法 典 上の 犯 罪 の 処罰 根 拠 の 一 部と し て 捉 えら れ る よ うに な っ た の であ る
︵ 41
︒︶
危険 運 転 致 死傷 罪 の
︑ そ の重 罰 化 根 拠に つ い て は︑ 被 害 者
・ 被害 者 遺 族 や国 民 世 論 の 高ま り が あ るこ と が 強 調さ れ る︒ そ の こ と自 体 は
︑ 事 実の 問 題 と して 誤 り は ない
︒ し か し なが ら
︑ 故 意の 危 険 運 転 によ る 人 の 死傷 結 果 を
︑従 来 の︵ 業 務 上
︶過 失 致 死 傷 罪の 枠 組 み を超 え て
︑ 傷害 罪 や 傷 害 致死 罪 と ほ ぼ同 等 に 処 罰 する 根 拠 を
︑そ の 点 だ け に 求 める の は 正 当で は な い
︒ 科刑 の 適 正 化と い う 見 地 から み た 場 合︑ 危 険 運 転致 死 傷 罪 が 対象 と す る 危険 運 転 に よ り 発 生す る 道 路 交通 に お け る 重大 な 公 共 の危 険 を
︑ す べて の 場 合 に︑ 人 の 死 傷結 果 と い う 実害 結 果 と 切り 離 し
︑ 道 路
二
〇 二