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[紹介] 堀江典生編著 『現代中央アジア・ロシア 移民論』

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[紹介] 堀江典生編著 『現代中央アジア・ロシア 移民論』

著者 岡 奈津子

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名 アジア経済

巻 51

号 12

ページ 81‑81

発行年 2010‑12

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL http://hdl.handle.net/2344/1106

(2)

中央アジアとロシアのあいだでは,ロシア帝国の 時代から大規模な人の移動が繰り返されてきた。ロ シアによる中央アジアの支配が確立した 19世紀後 半以降,ソビエト連邦成立を経て 1960年代までは,

移民の流れは主にロシアから中央アジアへ向かって いた。しかし 1970年代以降はそれが逆転し,91年 のソ連崩壊後は中央アジアからロシアへの移住がよ り顕著になった。ロシア系の人々を中心とするこの 移住の波は今世紀に入ると落ち着きをみせたが,中 央アジア諸国にとってロシアへの出稼ぎは近年,そ の重要性をさらに増しつつある。ただし最近では,

中央アジアでもっとも経済的に発展したカザフスタ ンが移民の受け入れ国に転じ,周辺諸国から定住・

労働目的の移民を引き寄せるようになってきている。

ソ連崩壊後の旧ソ連における移民問題,特にロシ アへの移住については,英語およびロシア語による ものを中心に豊富な先行研究の蓄積がある。ただし

(ロシアへの移民の送り出し国としてだけではない)

中央アジアに焦点をあてた研究は比較的少ない。本 書は,中央アジアの移民問題を多面的に扱った日本 語文献として貴重である。

本書は4部構成となっており,第 部「中央アジ ア・ロシア移民問題の領域」では,中央アジア諸国 の人口・社会状況に関する統計的分析,この地域の 移民問題への国際労働機関(ILO)の取り組みなど が紹介されている。続く第 部「中央アジアからロ シアへの移民」および第 部「中央アジアからカザ フスタンへの移民」は,それぞれロシア,カザフス タンへの労働移民および民族的背景を理由とした移 民が対象である。第 部「市民・移民・地域の安全 保障」は,移民問題と地域の安定,国籍制度,移民 に対するステレオタイプや排外主義,人身売買など のテーマを扱っている。また「付録」として,モス

クワ在住の中央アジア出身の移民へのインタビュー が,インフォーマントの写真つきで掲載されている のも興味深い。

全部で 16章からなる本書の執筆陣は,編者を含 む3名の日本人と韓国の研究者1名以外は,現地

(ロシアおよびカザフスタン)の専門家から構成さ れている。またその顔ぶれも,人身売買撲滅に取り 組む

NGO

の代表や国際機関職員,政府の政策決定 に深く関与している研究者など,実に多彩である。

タイトルに「中央アジア」とあるものの,中央ア ジア諸国のなかではカザフスタンにより重点が置か れている。これは本書でも論じられているとおり,

同国が大量の移民を送り出し,かつ受け入れている だけでなく,移民の経由地としても重要な役割を果 たしていることに鑑みれば妥当であるといえよう。

なお中央アジア諸国出身の移民にとって,ロシア は確かに最大の受け入れ国ではあるが,旧ソ連以外 の国々への移住が取り上げられていないのはやや残 念である 。ちなみに第 部は「中央アジアから カザフスタンへの移民」となっているが,ここで取 り上げられているカザフ人移民の出身国は,近年,

ウズベキスタンの比重が増してはいるものの,モン ゴルや中国も含まれている。構成について付言すれ ば,中央アジアからロシアへの労働移民を扱った第 2章は第 部,人身売買を取り上げた第3章は第 部に入れるのがより妥当ではなかったか。

このような若干の問題にもかかわらず,本書は中 央アジアの移民の現状について知ることのできる貴 重な文献であり,このテーマに関心のある読者に広 く読まれることを期待したい。

(注1) 特に規模が大きいのがカザフスタンのドイ ツ系住民のドイツへの移住である。本書のもとになっ た研究プロジェクトのサイトには,この問題を扱った 論文(ロシア語)が公開されている。http://www3.

u-toyama.ac.jp/cfes/horie/CAM M IC-J/Publica- tions files/CAMMIC-WP5.pdf

(アジア経済研究所地域研究センター)

81 堀江典生編著

『現代中央アジア・ロシア移民論』

ミネルヴァ書房 2010年

xix+436ページ

岡 奈津子

『アジア経済』LI‑12(2010.12)

紹 介

参照

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