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加工発熱誘起逆変態を利用した

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(1)

加工発熱誘起逆変態を利用した

9%Ni鋼の結晶粒超微細化に関する研究

Ultra grain refinement in 9%Ni steels through spontaneous reverse transformation

due to adiabatic deformation heating

2007年 6月

1

横田 智之

(2)

2

(3)

加工発熱誘起逆変態を利用した9%Ni鋼の結晶粒超微細化に関する研究

目次 頁

第1章 緒言

1.1 はじめに 1

1.2 高Ni鋼の組織微細化に関する従来の研究 3

1.3 本研究の目的 15

1.4 本論文の構成 19

第2章 実験方法

2.1 供試鋼の作製方法 24

2.2 単軸圧縮ならびに圧延実験方法 25

2.3 評価方法 28

第3章 小型加工熱処理シミュレータを用いた加工発熱誘起逆変態発現の検証

3.1 緒言 32

3.2 実験方法 33

3.3 実験結果

3.3.1 (α+θ)温度域での加工率の増大に伴う組織変化 35 3.3.2 逆変態挙動に及ぼすひずみ速度の影響 42

3.4 考察 44

3.5 結言 47

第4章 板圧延プロセスにおける加工発熱誘起逆変態の発現挙動

4.1 緒言 49

3

4.2 実験方法 50

(4)

4.3 実験結果 51 4.4 変形・温度連成圧延解析による逆変態挙動の解析 57 4.5 考察

4.5.1 圧延により逆変態が進行するメカニズム 63 4.5.2 90%圧延材のパス毎の組織変化 64

4.6 結言 65

第5章 加工発熱誘起逆変態を生じた圧延鋼板の結晶学的特徴

5.1 緒言 67

5.2 実験方法 68

5.3 実験結果および考察

5.3.1 圧延鋼板のミクロ組織および硬さ分布 71

5.3.2 X線集合組織解析 72

5.3.3 EBSD解析 80

5.4 結言 85

第6章 加工発熱誘起逆変態挙動に及ぼすC添加量の影響

6.1 緒言 93

6.2 実験方法 94

6.3 実験結果 95

6.4 考察

6.4.1 逆変態量に及ぼすC添加量の影響 102 6.4.2 結晶粒組織に及ぼすC添加量の影響 108

6.5 結言 110

4

(5)

第7章 実用化への課題と今後の展開

7.1 緒言 112

7.2 超微細粒9%Ni厚鋼板の実製造に向けた課題 112 7.3 加工発熱誘起逆変態法の発展性 115

第8章 総括 118

研究業績 122

謝辞 128

5

(6)

第1章 緒言 1.1 はじめに

低温靭性は、構造物の安全性という観点から、造船、建築、橋梁、および圧力容器等 の構造用鋼として利用される厚鋼板にとって、最も基本的かつ重要性の高い物性である。

この低温靭性の優れた実用材料がフェライト系実用厚鋼板であり、特に、延性―脆性遷 移温度が低い、高Ni鋼である低温圧力容器用ニッケル鋼鋼板は、その最高峰に位置付け られている。ここで、低温圧力容器用ニッケル鋼鋼板の低温靭性は、Ni含有量の増加と 伴に向上する。このため、この鋼板の最低使用可能温度は、2.25%、3.5%、5.

5%、9%とNi含有量を増加させることにより、-70℃、-101℃、-130℃、

-196℃にまで低下させることができる。表1-1には、「9%Ni鋼」と呼ばれる、

使用可能温度の最も低い9%Ni含有鋼、SL9N590(JIS G3127)の規 格を示している。表から、この厚鋼板が、最高レベルの690~830MPaという引 張強さを有し、かつ優れた低温靭性を兼ね備えていることが理解される。この9%Ni 鋼の実用化に関しては、1952年に液体酸素容器として利用されて以来、図1-1(1)

に示す、液化天然ガス(LNG)貯蔵用タンクを中心に、今日まで、数多くの極低温用 構造物部材に用いられている(2)

極低温用構造物部材として利用されてきた9%Ni鋼については、その優れた低温靭 性の要因を検討するため、これまでに光学顕微鏡等を用いた組織観察が行なわれ、焼き もどしマルテンサイトから成る組織を有していることが明らかにされている。この結果 を基に、従来、優れた低温靭性を説明するための因子として、(1)固溶Niによる基 地の靭性向上(3,4)、(2)熱処理等による光学顕微鏡組織の微細化(5)、(3)低炭素 焼きもどしマルテンサイト相自身の優れた靭性(6)、さらに(4)極低温でも安定な、

残留オーステナイト相による靭性向上(7,8)等の提案がなされている(9)。これらの提 案の中で(1)と(3)は9%Ni鋼の本来の材料特性である。このため、低温靭性の 改善には、(2)熱処理等によるマルテンサイト組織の微細化と(4)残留オーステナ イトの制御が不可欠な因子となる。ここで、(4)の残留オーステナイトの制御とは、

(7)

マルテンサイトラス界面に沿ってオーステナイトを生成させ、へき開破面の単位となる マルテンサイトラスのパケットやブッロクを分断し、微細化させ、低温靭性の向上を図 るものである(10)。つまり、残留オーステナイト相による靭性の改善も、組織の微細化 を通して行なわれることになる。しかし、残留オーステナイト相の役割については、降 伏点の低下、焼きもどし脆性の軽減、オーステナイト相自体の緩衝効果等の指摘もあり、

現在でも、なお不明な点が多く存在している(11)

図1-1 液化天然ガス(LNG)貯蔵用タンク(1)

表1-1 低温圧力容器用ニッケル鋼鋼板規格:SL9N590(JIS G3127)

化学成分(mass%) 板厚

(mm) C Si Mn P S Ni

6~100 ≦0.12 ≦0.30 ≦0.90 ≦0.025 ≦0.025 8.5~9.5

0.2%耐力(MPa) 引張強さ(MPa) 伸び(%) vE-196℃(J)

≧590 690~830 ≧21 ≧34(min)、≧41(ave)

(8)

1.2 高Ni鋼における組織の微細化

鉄鋼材料の低温靭性は、従来の研究から、脆性破壊時のへき開破面単位の大きさに強 く依存していることが知られている。このため低温靭性の改善には、小さな破面単位を 得るため、組織の微細化が不可欠となっている。図1-2に、鉄鋼材料における代表的 な組織としてのフェライト主体組織とマルテンサイト組織の模式図を示している。まず、

フェライト主体組織の場合、へき開破面単位は、ほぼ一つのフェライト粒径に対応して いるため、フェライト粒径を小さくすることにより、低温靭性の改善を行うことができ る(12)。一方、本博士論文で取上げた9%Ni鋼のようなマルテンサイト組織の場合、

上述したように、低温靭性を支配する基本的な組織単位は、0.1~0.5μmの幅を もつマルテンサイトラスの集団からなる、パケットおよびブロックである(13,14)。こ こで、ブロックとは、同じ結晶方位を持つマルテンサイトラスの集団、パケットとは、

オーステナイト母相に対して同じ晶癖面を持つラスマルテンサイトの集団であり、異な るバリアントのブロックを含む(15)。このため、マルテンサイトラスから成る鋼の低温 靭性の向上には、マルテンサイトラスから成るパケットやブロックを分断し、へき開破 面単位の大きさを小さくすることが必要となる(12)

(9)

フェライト変態前の旧 オーステナイト粒界

ブロック 旧オーステナイト粒界

ラス

フェライト粒

フェライト組織 マルテンサイト組織

パケット

ブロック ブロック

ブロック ブロック

図1-2 フェライト組織とマルテンサイト組織の模式図

マルテンサイトラスのパケットおよびブロックに関する従来の研究から、パケットの 大きさは、相変態前のオーステナイト母相の粒径に強く依存することが明らかとなって いる(16)。このため、パケットだけでなく、ブロックの大きさを減少させるには、まず 変態前のオーステナイト粒径の微細化が不可欠となる。実は、パケットとブロックの大 きさを減少させる手段には、旧オーステナイト粒径の微細化だけでなく、二相域熱処理 ならびにオースフォームといった手法も提案されている(12)。ここで、オースフォーム とは、オーステナイトを準安定なオーステナイト温度域で加工し、加工硬化状態とした 後、マルテンサイト変態を生じさせる処理である。以下に、これら二つの手法について、

(10)

その詳細を説明する。

図1-3(12)は、二相域熱処理およびオースフォームによるマルテンサイトラス組織 の分断および微細化の様子を示す模式図である。まず、図1-3(a)には、出発点とな る、通常のオーステナイト化処理により生成したマルテンサイト組織を示しており、そ の特徴は、ほぼ同じ方位のマルテンサイトラスが隣接して生成し、ブロックを形成して いることである。そこで、このマルテンサイト組織に二相域熱処理を施すと、図1-3 (b)に示すように、ラス境界に沿って安定なオーステナイト領域が析出し、ブロック領 域を分割および微細化する。また、オースフォームの場合には、この処理により、マル テンサイトのパケット径は増加するものの、ブロック径は減少し、微細化が可能となる

(17)。さらに、加工度が増加すると、方位の異なるラスの生成傾向も増し(18)、図1

-3(c)に示すように、ブロック領域は顕著に微細化することになる。

図1-3 二相域熱処理ならびにオースフォームによる組織微細化の考え方(12)

上述の三つの処理を含む、9%Ni鋼の工業的製造プロセスを、図1-4に示す。こ の図は、横軸に時間、縦軸に温度をとったものであり、熱処理のパターンを模式的に示 したものである。図に示すように、9%Ni鋼の工業的製造プロセスは、大きく再加熱 焼入れプロセス:Q-(Q’)-Tと直接焼入れプロセスDQ-(Q’)-Tに分けることが できる。オーステナイト(γ)粒径微細化は、再加熱焼入れプロセスの場合、再加熱オ

(11)

ーステナイト粒径微細化により、直接焼入れプロセスの場合は、再結晶オーステナイト 粒径微細化によりなされる。中間熱処理(Q’)は、靭性向上のために、必要に応じて 実施されている。未再結晶オーステナイト域圧延(オースフォーム)は、再結晶オース テナイト粒径微細化のための圧延の後、より低温においてなされる。それぞれのプロセ スにおいて、上述したマルテンサイト組織微細化手法、すなわち、オーステナイト(γ)

粒径微細化、二相域熱処理、オースフォームは、図中点線で示す箇所に取り込まれてい る。

直接焼入れプロセス 再加熱焼入れプロセス

DQ QT

Q QT

Q:焼入れ Q’:中間熱処理 T:焼戻し

CR:未再結晶γ域圧延(オースフォーム)

DQ:直接焼入れ

γ CR

γ+α

再加熱γ粒径微細化

圧延 圧延

空冷 水冷

再結晶γ粒径微細化

図1-4 9%Ni鋼の工業的製造プロセスの模式図(横軸:時間、縦軸:温度)

(12)

従来、マルテンサイト組織微細化法の中で二相域熱処理が、最もよく研究され、工業 的にも利用されている。その理由は、オーステナイト安定化元素であるNiを含む高N i鋼では、製造プロセスにおける中間熱処理(Q’)や焼きもどし(T)等での二相域 熱処理により、安定なオーステナイト領域を容易に析出させることができるからである。

実際、マルテンサイト組織を有する高Ni鋼を(γ+α)の二相域に加熱すると、マル テンサイトラスの境界に沿ってNiの濃縮したオーステナイトの微細領域が析出する。

ここで、二相域内の加熱温度が高くなるに従って、オーステナイトの析出量は増し、そ のNi濃度が低下する。その結果、室温では加熱温度の相違により、二種類の異なる組 織が得られることになる。図1-5(12)では、Fe-Ni合金の状態図を用いて、高N i鋼での二相域熱処理における加熱温度と組織との関係を説明している。まず、Ni濃 度Cの合金を温度Tに長時間保持すると、濃度Cγのオーステナイト領域が生成する とともに、マルテンサイト母相のNi濃度はCαへと変化する。一方、点線で示すMs 点は、Ni濃度の増加と伴に低下し、濃度CγでのMs点は室温付近にまで達する。こ のような状況の中、合金をT以上かつAe点以下の温度域に加熱したCase1の場 合、加熱によって生じたオーステナイトは、冷却時にマルテンサイトへと相変態する。

その結果、室温での組織は、焼きもどしマルテンサイト中に、冷却によって生じたマル テンサイトが分散した組織となる。一方、T以下の加熱、すなわちCase2では、

加熱によって生じたオーステナイトは室温まで安定であり、このため室温での組織は、

焼きもどしマルテンサイト中に微細な残留オーステナイトが分散した二相組織である。

9%Ni鋼の製造プロセスにおける焼きもどし(T)は、Case2の加熱に対応して いる。

(13)

Fe %Ni

温度

C0 Cγ Cα

γ

α Ms T1

A3

Case 1 Case 2

A3

T1

室温 室温

時間 M

焼戻しM+γ

焼戻しM+γ

焼戻しM +残留γ 焼戻しM

+

M:マルテンサイト γ:オーステナイト

Fe %Ni

温度

C0 Cγ Cα

γ

α Ms T1

A3

Case 1 Case 2

A3

T1

室温 室温

時間 M

焼戻しM+γ

焼戻しM+γ

焼戻しM +残留γ 焼戻しM

+

M:マルテンサイト γ:オーステナイト

図1-5 高Ni含有鋼の二相域熱処理の原理(12)

実際の製造プロセスでは、より安定かつ多量の析出オーステナイトを分散させるため、

焼入れ(Q)と焼きもどし(T)の間の過程に中間熱処理(Q’)を行うことがある。

Kimら(19)は、9%Ni鋼よりも安定な析出オーステナイトが得られにくい5.5%

Ni鋼に対して、800℃x1時間⇒水冷、670℃x1時間⇒水冷、600℃x1時 間⇒水冷の3段熱処理:Q-Q’-Tを施すことで、マルテンサイト中に安定な析出オ ーステナイトを多量に分散させ、優れた低温靭性が得られることを示した。ここで、8 00℃はオーステナイト温度域、670℃は(α+γ)二相温度の高温域、600℃は

(α+γ)二相温度の低温域である。これは図1-5において、Case1の熱処理の 後に、Case2の焼戻しを施す処理に相当する。図1-6に、Q-Q’-Tに伴う組 織変化を、通常のQ-Tの場合と比較して、模式的に示す。一段目の焼入れ(Q)でマ ルテンサイト組織とした後A)、670℃の中間熱処理(Q’)で、部分的にオーステナ イト化してNiを分配させ、冷却後にNi濃度の高いマルテンサイトを分散させるC)。 この中間熱処理(Q’)により、最後の600℃の焼戻し(T)において、通常のQ-

T処理の場合B)と比較して、図中黒い領域で示される安定なオーステナイトを多量に 分散させることが可能となるD)。このような考え方は、5.5%Ni鋼より安定なオ ーステナイトを得やすい9%Ni鋼においても応用されている。斎藤ら(20)は、9%N

(14)

i鋼において、中間熱処理を実施した場合と、そうでない場合について、析出オーステ ナイト量ならびにシャルピー吸収エネルギーに及ぼす焼戻し温度の影響について報告 している。図1-7に、中間熱処理(Q’)(この図での表記はL)を実施した場合と、

そうでない場合について、-196℃での深冷化処理後の析出オーステナイト量に及ぼ す焼戻し温度の影響を示す。670℃で中間熱処理を実施した方が、焼戻し後に安定な 析出オーステナイトを多量に得られることが理解される。中間熱処理によるオーステナ イト析出で、パケットまたはブロック径がどこまで微細化されたか、定量的に評価した 例はあまり多くない。これは、粒界の判別が容易でない(20)ことに起因していると思わ れる。Synら(21)は、このような中間熱処理によるマルテンサイト組織微細化を追求 した。彼らは、9%Ni鋼において、焼入れ(Q)と中間熱処理(Q’)を2回繰り返 して実施することにより、1~4μmの長さを持つ板状の結晶粒組織が得られるとして おり、パケットまたはブロック径が1~4μmにまで微細化したと理解される。

A:オーステナイト M:マルテンサイト C:セメンタイト

図1-6 3段熱処理:Q-Q’-Tに伴う組織変化A)→C)→D)と 2段熱処理:Q-Tに伴う組織変化A)→B)の比較(19)

(15)

図1-7 Q-T材とQ-Q’-T材(この図での表記はQLT)の 深冷化処理後の析出オーステナイト量に及ぼす焼戻し温度の影響(20)

オーステナイト粒径微細化やオースフォームの考え方も、9%Ni鋼において工業的 に応用されている。図1-4左に示した圧延後の再加熱焼入れプロセスによって、マル テンサイト組織を形成させる場合、加熱オーステナイト粒径を必要以上に粗大化させな いよう、焼入れ温度の厳密な管理がなされ、通常800℃に管理されている(20)。この ときの加熱オーステナイト粒径は、再加熱前の圧延条件に依存して20~50μm、パ ケットまたはブロック径に対応するへき開破面単位は10~30μmである(22)。再加 熱焼入れプロセスにおけるオーステナイト粒径制御因子は、加熱温度の他では、化学成 分の工夫が唯一の手段である。

一方、図1-4右に示した圧延後直接焼入れプロセスによって、マルテンサイト組織 を形成させる場合、オーステナイト粒径制御因子は、スラブ加熱温度と圧延温度である。

ここで、一般的に直接焼入れプロセスでは、スラブ加熱温度が再加熱焼入れ温度と比較 して高いため、得られる再結晶オーステナイト粒径は、再加熱焼入れプロセスで得られ る加熱オーステナイト粒径よりも粗大になる。従って、直接焼入れプロセスにおいては、

オーステナイト粒径微細化よりも、むしろオースフォーム効果によるマルテンサイト組

10

(16)

11

織微細化が図られる(23、24)。田川ら(23)は、9%Ni鋼において、800℃以下の未 再結晶オーステナイト域での圧延後、直接焼入れを利用することで(DQ-T材)、再 加熱焼入れプロセスで製造する場合(Q-T材)と比較して、優れた低温靭性を有する 鋼板が得られることを報告している。図1-8は、DQ-T材とQ-T材(この図での 表記はRQ-T)の強度-靭性バランスである。横軸が引張強さ:TS、縦軸が-19 6℃でのVノッチシャルピー吸収エネルギー:vE-196℃である。同一強度で比較し て、DQ-T材の方が、明らかに靭性に優れていることが理解される。高田ら(24)は、

詳細なミクロ組織観察を通してこのメカニズムを調査し、高Ni鋼において、未再結晶 オーステナイト域での圧下率を高めることにより、脆性破壊時のへき開破面単位が小さ くなり、低温靭性が向上することを報告している。ここでの未再結晶オーステナイト域 圧延は、800℃以上と、通常のオースフォームと比較して高い温度で加工しているが、

基本的にオースフォームと同等の効果が得られるとしている。彼らは、低温靭性に及ぼ す未再結晶オーステナイト域圧延の影響を明確にするため、焼戻しにより析出オーステ ナイトを生じない3.5%Ni鋼を用いて、再加熱焼入れ材と、種々の圧延後直接焼入 れ材の低温靭性を調査している。図1-9は、へき開破面単位:dに及ぼす、補正オ ーステナイト粒径の影響である。ここで、へき開破面単位は、シャルピー衝撃試験の破 面から実測している。また、補正オーステナイト粒径とは、未再結晶オーステナイト域 で圧延されて伸長したオーステナイト粒の粒径を、同一面積の当軸粒径に換算した値で ある。未再結晶オーステナイト域での圧下率を60%と大きくすると、未再結晶オース テナイト域での圧下がない場合と比較して、同じオーステナイト粒径でもへき開破面単 位:dが小さくなることが理解される。未再結晶オーステナイト域での圧延を行った DQ-T材において、優れた低温靭性が得られるのはこのためである。未再結晶オース テナイト域での圧延を行ったDQ-T材において、ブロックあるいはパケット粒径に相 当するへき開破面単位は、最も細かい場合で、5μm程度まで微細化されていることが わかる。

(17)

図1-8 9%Ni鋼のDQ-T材とQ-T材(この図での表記はRQ-T)の 強度-靭性バランス(23)

図1-9 3.5%Ni鋼のオーステナイト粒径とシャルピー衝撃試験片のへき開破面 単位:dの関係(24) 図中数値は未再結晶オーステナイト域での圧下率

これまで述べたように、二相域熱処理ならびにオースフォームは、高Ni鋼マルテン サイト組織の微細化技術として、工業的規模で大きな成果を挙げているといってよい。

12

(18)

13

一方、オーステナイト粒径微細化に関しては、鋼板製造プロセスの制約から、これを追 及する研究はほとんどなされていない。ただし、そのような制約を抜きにした実験室レ ベルの基礎検討においては、高Ni鋼のオーステナイト粒径を1μm前後にまで微細化 した、Miller(25)とEnomotoら(26)の研究例がある。この研究が、本博 士論文の端緒となった。Miller(25)は、高Ni鋼ならびに高Mn鋼をオーステナ イト温度域で溶体化した後、空冷してマルテンサイトとし、これを冷間圧延して引き続 き(α+γ)二相域に再加熱することにより、1μm未満の超微細な(α+γ)二相組織 が得られることを見出した。図1-10は、Fe-21%Ni合金の(α+γ)二相域 加熱時(500℃)オーステナイト生成に及ぼす、冷間圧延率の影響を示したものであ る。オーステナイトの生成速度は、冷間圧延率の増加とともに急速に増大することが理 解される。冷間圧延は、二相域加熱時のオーステナイト生成を促進すると同時に、その 組織形態にも大きく影響を及ぼす。図1-11は、Fe-6%Mn合金の二相域加熱後 の組織に及ぼす、前冷間加工の影響を示したものである。冷間加工していないものは、

マルテンサイトの針状組織が残留した状態で(α+γ)二相組織になるのに対し、冷間 加工を施したものは、600℃の加熱で1μm前後の等軸の(α+γ)二相組織となる ことが理解される。Enomotoら(26)は、このような超微細(α+γ)二相組織の 形成機構を考察した。彼らは、Fe-Ni合金において、Ni含有量を4から30%ま で変化させ、初期組織マルテンサイトを冷間圧延した後に、種々の(α+γ)二相域に 加熱したときの組織変化を詳細に調査した。図1-12は、超微細(α+γ)二相組織 の形成機構を、模式的に示したものである。Ni含有量が低い場合(4%Ni、7%N i)、オーステナイトの析出は極めて遅く、結晶粒径が 6 から8μm程度の再結晶フェ ライト組織となり、さらに加熱すると再結晶したフェライトの粒界三重点からオーステ ナイトが析出する。これに対し、Ni含有量が高い場合、フェライトの再結晶よりもオ ーステナイトの析出が起こりやすくなり、フェライト再結晶とオーステナイト析出が同 時に起こるため、超微細(α+γ)二相組織を形成すると説明されている。これらの研 究から、非常に微細なオーステナイト粒径を得るためには、まず初期組織をマルテンサ

(19)

イトとして、それを加工して再加熱すること、オーステナイトの析出を促進するために、

Niのようなオーステナイト安定化元素をある程度以上添加することが重要であると 理解される。

% AUSTENITE

図1-10 Fe-21%Ni合金の(α+γ)二相域加熱時オーステナイト生成に及 ぼす冷間圧延率の影響(25)

(a) (b)

図1-11 Fe-6%Mn合金の二相域加熱後の組織形態に及ぼす前冷間加工の影 響 (a)圧延なし⇒600℃x16時間 (b)冷間圧延⇒600℃x16時間(25)

14

(20)

点線:亜粒界

γ:析出オーステナイト粒 α:再結晶フェライト粒

図1-12 Fe-Ni合金における超微細(α+γ)二相組織の形成機構(26)

(a)Ni含有量が低い場合 (b)Ni含有量が高い場合

1.3 本研究の目的

近年LNGは、クリーンエネルギーとしての特性を生かし、環境規制の厳しい都市圏 での大気汚染防止対策上、極めて有効な発電用燃料として位置づけられており、二度の 石油ショックを経て石油代替エネルギーの重要な柱となり、その導入が促進されてきた。

LNG需要は、今後も大きな伸びを示すと予測されており、2005年通年ベースでの 総需要が1億4500万トンであるのに対し、2020年のLNG需要は3億トン超に も達することが見込まれている(27)。このようなLNG需要の増加を背景に、国内地上 式LNGタンクでは、敷地面積の有効利用、建設コストの低減から従来の内容積:8万 m3級を超えてタンクが大型化しており、現在では18万m3級のものが稼動している。

LNGタンクの大容量化に伴い、内槽材料としての9%Ni厚鋼板の板厚も増大し、従

15

(21)

16

来の8万m3 クラスでは30mm程度の板厚であったものが、14万m3では40mm、

18万m3では従来に経験のない50mmもの厚肉9%Ni鋼板が必要となる(28)。こ のような板厚の増大は、鋼板の破壊靱性値低下をもたらすため、従来の9%Ni厚鋼板 と比較して、より優れた低温靭性を有する厚鋼板を安定して製造する技術が求められて いる。

9%Ni鋼の低温靭性を改善する場合、前節で述べたように、基本的に(1)二相域 熱処理の利用、(2)オースフォームの利用、(3)オーステナイト粒径の微細化、とい ったマルテンサイト組織微細化の手法を採ればよい。(1)二相域熱処理の利用に関し ては、安定して低温靭性を確保するために、すでに焼入れ-中間熱処理-焼戻しの3段 熱処理がすでに工業的に利用されている。前節で述べたように、焼入れ-中間熱処理の 繰り返し(21)でこの効果を最大限追求することが可能であるが、現状の3段熱処理でさ え、再加熱の熱処理にコストがかかること、リードタイム短縮が難しいことが課題とし て挙げられており、二相域熱処理を追及して低温靭性の飛躍的な向上を図るのは、現実 的ではないと考えられる。オースフォーム効果を利用したマルテンサイト組織微細化に 関しては、圧延だけで微細化を図ることができるため、二相域熱処理の課題を解決でき る有効な手法であると考えられる。しかしながら、マルテンサイト組織の微細化を図っ て、未再結晶オーステナイト域での加工度を高めると、集合組織が顕著に発達してシャ ルピー衝撃破面にセパレーションが発生し(24)、吸収エネルギーが低下するという問題 や、圧延鋼板の音響異方性が大きくなるという問題が生ずる。圧延鋼板内部の非破壊検 査として利用される超音波探傷試験では、一般に、試験体中を伝搬する超音波の音速は、

その伝搬方向に関係なく一定であると仮定している。これは、金属のような多結晶体で は各結晶の向きがランダムになっていて、弾性係数がどの方向でも等しいと見なせると きに成り立つと考えられる。しかし、圧延集合組織のために結晶方位が揃うと、それに 伴って音速が伝搬方向によって異なり、斜角探傷において欠陥位置の推定とエコー高さ

(探傷感度)に影響を及ぼし、正確な探傷が難しくなる。従って、集合組織の強く発達 した鋼板は、需要家から容認され難いという問題がある。

(22)

17

本博士論文では、二相域熱処理やオースフォームに依らず、9%Ni鋼の低温靭性を 飛躍的に改善することを狙いとして、これまであまり注目されてこなかった、オーステ ナイト粒径微細化に着目した、新たなマルテンサイト組織微細化手法を提案する。まず、

オーステナイト粒径を顕著に微細化するためには、すでに工業的に実施されているよう な、再加熱焼入れや、オーステナイト再結晶による微細化では不十分であり、前節で述 べたように、予め加工したマルテンサイトの逆変態(25、26)を利用することが不可欠で あると考えられる。しかしながら、オーステナイト核生成促進のためのマルテンサイト 冷間加工は変形抵抗がきわめて大きいため、厚鋼板として、これを工業的に製造するこ とはきわめて困難である。また、オーステナイト相への逆変態を生じさせるために、再 加熱処理も必要となる。そこで、加工時の変形抵抗を下げることができ、かつ再加熱処 理が不要となるような、新しいプロセスを提案する。図1-13に、新しいプロセスの 考え方を、従来のオーステナイト粒超微細化プロセス(25、26)と比較して示す。新しい プロセスでは、マルテンサイトを、より変形抵抗の低い変態点直下の温間で加工し、ま ずオーステナイト相の核生成サイトとなる転位や変形帯を含む加工硬化状態の(α+θ)

組織を得る。そこで同時に生み出される加工発熱を使って(α+θ)→γ逆変態を誘起 し、外部熱源を使った再加熱処理を施すことなく、微細なオーステナイト粒を形成させ、

引き続く冷却過程を経て、マルテンサイト組織の超微細化を図る。ここでは、本方法を

「加工発熱誘起逆変態」と呼ぶ。加工硬化状態の(α+θ)組織からオーステナイト相 への逆変態により超微細オーステナイト粒を得る点で、従来のオーステナイト粒超微細 化プロセス(25、26)と共通しているが、変形抵抗の低くなる温間で加工すること、また 外部熱源を用いずに済む点が大きく異なる。

加工発熱は、外部からなされた塑性変形仕事が熱エネルギーに変換されたものであり、

塑性変形仕事の大きさに比例することが知られている。従って塑性ひずみ、さらにその 際の変形抵抗が大きいほど加工発熱は大きくなる。冷間加工においては、塑性変形仕事 のうち材料中に蓄積されるのは高々5%であり、塑性変形仕事の概ね95%が熱エネル ギーに変換され、加工発熱として消費される(29)。新プロセス「加工発熱誘起逆変態」

(23)

のポイントは、従来のオーステナイト粒超微細化プロセスにおいて無為に消費されてい た加工発熱に着目し、これを(α+θ)→γ逆変態に有効に利用することで、外部熱源 を使った再加熱処理を省略できる点にある。加工発熱により自発的に逆変態を誘起する ため、オンライン製造が可能であり、実用化に対して有利である。また、変態点直下で 大ひずみ加工を施すが、(α+θ)→γ逆変態と引き続く冷却過程でのγ→α’変態の2 回の変態により、集合組織の発達を緩和できる可能性がある。

従来のオーステナイト粒

超微細化プロセス(25、26) 加工発熱誘起逆変態

γ+α γ

α+θ 超微細

オーステナイト粒

加工発熱

超微細 フェライト ベイナイト マルテンサイト

超微細

オーステナイト粒

図1-13 「加工発熱誘起逆変態」の過程で予想される熱履歴

~従来のオーステナイト粒超微細化プロセスとの比較~

本博士論文では、9%Ni鋼の結晶粒超微細化に対する「加工発熱誘起逆変態法」の 有効性を明らかにするため、その発現を実証するとともに、量産プロセスの確立に向け た基礎的な検討を行なう。具体的には、まず実験室加工熱処理シミュレータを用いた単

18

(24)

19

軸圧縮試験により、(α+θ)温度域での大ひずみ加工によって生じる現象の解明を通し、

この加工法によって結晶粒の超微細化が可能であることを示す。その後、将来の大型 化・量産化を視野に入れ、これら得られた実験結果を実験室大型圧延機で再現し、超微 細化が「加工発熱誘起逆変態」によることを実証する。さらに、加工発熱誘起逆変態を 生じた9%Ni圧延鋼板の微視組織と集合組織、ならびに加工発熱誘起逆変態挙動に及 ぼすC添加量の影響についても明らかにする。

1.4 本論文の構成

これらの結果をまとめた本博士論文の構成は、以下の通りである。

第1章「緒言」では、9%Ni鋼を中心とした高Ni鋼の低温靭性改善に向けた、マ ルテンサイト組織微細化に関する従来の研究を概観し、これら背景に基づいた本研究の 目的を述べている。

第2章「実験方法」では、本研究において実験に供した、0.3%C-9%Ni鋼の 作製方法、ならびにこれら供試鋼を用いて行った単軸圧縮試験、および圧延実験の手順 について述べた。本供試鋼は、C添加量を0.3%と、実用9%Ni鋼のC添加量であ る0.1%よりも高くしている。このため、一旦オーステナイト化が生ずると、その後 の冷却過程で生成するマルテンサイトが高硬度となり、逆変態の進行度合いを硬度上昇 という形で容易に検出することが可能である。さらに、圧縮試験片と圧延鋼板のミクロ 組織評価方法の詳細について説明した。

第3章「加工熱処理シミュレータを用いた新プロセスの検証」では、実験室加工熱処 理シミュレータを用いて、焼戻しマルテンサイト組織を有する0.3%C-9%Ni鋼 に対し、変態点直下:(α+θ)温度域で圧縮加工を施し、加工率とひずみ速度の変化 に伴う硬度変化と組織変化の特徴を明らかにした。その結果、70%の圧縮加工を施す と、冷却後の試験片硬度が顕著に大きくなり、1μm未満の超微細な結晶粒からなるマ ルテンサイト組織が得られることが分かった。つまり、70%の圧縮加工で逆変態が完

(25)

20

了することが分かった。また、50%の圧縮加工を施すと、逆変態が部分的に生ずるこ とがわかった。この組織を観察することにより、逆変態は新相オーステナイトが微細な フェライト亜粒界上のセメンタイトから核生成し、拡散機構で成長して生ずるものであ ることが明らかとなった。この逆変態は、70%圧縮加工の場合、ひずみ速度10 s-1 の条件でのみ生じ、ひずみ速度1s-1以下の条件では生じなかった。この実験結果から、

逆変態の発現に対して、加工に伴う加工発熱の寄与が重要であることが示唆される。こ のように「加工発熱誘起逆変態」ともいうべき現象が鉄鋼材料において発現することを、

加工熱処理シミュレータを用いて実証した。

第4章「板圧延プロセスにおける加工発熱誘起逆変態の発現挙動」では、第3章と同 様、焼戻しマルテンサイト組織を有する0.3%C-9%Ni鋼に対し、変態点直下:

(α+θ)温度域で、総圧下量60~90%の大ひずみ圧延を行い、これに伴う逆変態 挙動の特徴を調べた。圧延最終パス後の鋼板表層温度は、圧延に伴う加工発熱により圧 下量の増大とともに上昇し、90%圧延の場合にはAe点よりも高い675℃に達し た。板厚方向の硬度分布測定結果と組織観察から、70%圧延材では板厚中心部で部分 的に、90%圧延材では板厚全厚にわたって完全に逆変態を生ずることがわかった。す なわち加工によって生ずる逆変態を工業的な鋼板製造プロセスである圧延により実現 した。逆変態を生じた領域では冷却後組織が著しく微細化しており、加工熱処理シミュ レータの場合と同様、90%圧延材の1/4位置における組織は、1μm未満の超微細 な結晶粒からなるマルテンサイト組織であった。逆変態の発現に対する加工発熱の影響 を変形・温度連成圧延解析を通して調べた結果、変態点直下の大ひずみ圧延により逆変 態が生じるかどうかは、加工発熱と摩擦発熱、ロール抜熱のたしあわせによって決まる 板厚方向温度分布に強く依存していることが明らかとなった。これらの結果から、変態 点直下の大ひずみ加工により生ずる逆変態が、加工発熱誘起逆変態と呼ぶに相応しい現 象であることが示された。

第5章「加工発熱誘起逆変態を生じた圧延鋼板の結晶学的特徴」では、加工発熱誘起 逆変態の発現により超微細組織となった、0.3%C-9%Ni鋼の圧延鋼板の結晶学

(26)

21

的特徴とその起源を、X線集合組織解析ならびにEBSD(electron bac kscatter diffraction)解析により明らかにした。その結果、加 工発熱誘起逆変態後に得られた、1μm未満の超微細結晶粒からなるマルテンサイトの 優先方位は、板厚中心において、典型的なフェライト圧延集合組織で認められるRD//

<1 1 0>α、ND//<1 1 1>αファイバーで構成されるが、トータルで90%

の圧下があったにも関わらず、その集積度は非常に弱いことがわかった。この集合組織 は、基本的に圧延初期に形成された先鋭なフェライト圧延集合組織が、その後のα→γ

→α’変態を通してK-S格子関係で継承された変態集合組織であり、連続する二回の 変態を通して新相が多重なバリアントを選択することによって、集積度を顕著に低下さ せたと推察した。板厚1/4位置では、圧延摩擦に起因するせん断ひずみの影響からN D//<1 1 0>α 成分も同時に発達しており、ほとんどランダムな結晶方位分布とな ることがわかった。つまり、加工発熱誘起逆変態を生じた圧延鋼板は、超微細かつラン ダムな方位分布をもつ結晶粒組織であることが明らかとなった。

第6章「加工発熱誘起逆変態挙動に及ぼすC添加量の影響」では、C添加量を0.1

~0.3%まで変化させた9%Ni鋼の加工発熱誘起逆変態挙動の特徴を、実験室圧延 機により明らかにした。光学顕微鏡組織観察の結果から、0.3%C-9%Ni鋼にお いては全領域において加工発熱誘起逆変態を生ずること、0.1%C-9%Ni鋼、す なわち実用9%Ni鋼においては、部分的に加工発熱誘起逆変態を生ずることがわかっ た。すなわち、0.1~0.3%のいずれのC添加量においても、加工発熱誘起逆変態 の発現が認められ、その逆変態量は、C添加量が増えるに従って増加することが明らか となった。加工発熱誘起逆変態を生じている領域では、いずれのC添加量においても、

1μm未満の超微細なマルテンサイト粒組織が観察された。詳細な組織評価の結果、C 添加量が多くなるほど、マルテンサイト結晶粒(旧オーステナイト粒径あるいはパケッ ト径)が微細になることが示唆された。C添加量が増えることで、母相のサブグレイン 境界ピン留め効果が増大すると同時に、オーステナイトの核生成サイトが増大し、逆変 態オーステナイト粒が微細化したことが推察された。

(27)

22

第7章「実用化への課題と今後の展開」では、加工発熱誘起逆変態を使って、低温靭 性に優れた超微細粒9%Ni厚鋼板を製造する場合の課題をまとめたうえで、この技術 の他分野への発展性について考察した。

第8章「総括」では、本研究で得られた成果の総括を行った。

第1章の参考文献

(1)大阪ガスエンジニアリング(株)ホームページ:

http://www.oge.co.jp/plant_lng/lgn_base/pc_lng.html

(2)深川宗光:金属,47(1977),20.

(3)W. Jolley : Trans. AIME, 242 (1968), 306.

(4)門馬改三, 須藤一, 菊山紀彦:日本金属学会会誌,31(1967),758.

(5)S. Jin, J. W. Morris, Jr. and V. F. Zackay : Met. Trans., 6A (1975), 141.

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(7)矢野清之介, 桜井浩, 三村宏, 脇田信雄, 小沢勉, 青木宏一:鉄と鋼, 59 (1973), 752.

(8)S. K. Hwang, S. Jin and J. W. Morris, Jr : Met. Trans., 6A (1975), 2015.

(9)長井寿, 高橋博喜, 柴田浩司, 藤田利夫:鉄と鋼,68(1982),799.

(10)J. I. Kim, C. K. Syn and J. W. Morris, Jr : Met. Trans. A, 14A (1983), 93.

(11)柴田浩二:鉄鋼の高強度化の最前線, 日本鉄鋼協会, 東京, (1995), 127.

(12)牧正志:日本金属学会会報, 27 (1988), 623.

(13)牧正志, 田村今男:鉄と鋼, 67 (1981), 852.

(14)S. Matsuda, T. Inoue, H. Mimura and Y. Okamoto: Proc. of Int. Symp. on Toward Improved Ductility and Toughness, Climax Molybdenum Co., Kyoto, (1971),

(28)

23

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(15)S. Morito, H. Tanaka, R. Konishi, T. Furuhara and T. Maki: Acta Mater. , 51 (2003), 1789.

(16)牧正志, 津崎兼彰, 田村今男:鉄と鋼,65(1979),515.

(17)I. Tamura, K. Tsuzaki and T. Maki: Proc. of Int. Conf. on Martensitic Transformations (ICOMAT-82), Leuven, Belgium, (1984), p.c4-551.

(18)T. Maki and I. Tamura: Proc. of Int. Conf. on Physical Metallurgy of Thermomechanical Processing in Steels and Other Metals, Tokyo, ISIJ, (1988), Vol.2, p.458.

(19)J. I. Kim, C. K. Syn and J. W. Morris, Jr : Met. Trans. A, 14A (1983), 93.

(20)斎藤直樹, 山場良太, 村岡寛英, 佐伯修:新日鉄技報, No.348, (1993), 25.

(21)C. K. Syn, S. Jin and J. W. Morris, Jr : Met. Trans. A, 7A (1976), 1827.

(22)斎藤直樹, 矢野清之助:鉄と鋼, 72 (1986), S521.

(23)田川寿俊, 松井和幸, 伊沢徹, 渡辺之, 鈴木元昭, 徳永高信:日本鋼管技報, No.111, (1986), 1.

(24)高田寿, 芦田喜郎, 勝亦正昭, 板山克広, 鋪田昇功:神戸製鋼技報, Vol.33, No.4, (1986), 28.

(25)R.L.Miller:Met.Trans.,3(1972),905.

(26)M.Enomoto and E.Furubayashi:Mat. Sci. Eng., 24(1976),123.

(27)岡崎淳, 坂本茂樹:石油・天然ガスレビュー, 40 (2006), No.2, 29.

(28)大阪ガス(株)ホームページ:https://cgi.osakagas.co.jp/rd/sheet/003.htm

(29)F. R. N. Nabarro: Theory of crystal dislocations, Oxford univ. press, London, (1967), 692.

(29)

24

第2章 実験方法

2.1 供試鋼の作製方法

本博士論文では、結晶粒超微細化に対する「加工発熱誘起逆変態法」の有効性を明ら かにするため、その発現を実証するとともに、量産プロセスの確立に向けた基礎的な検 討を行った。この章では、本研究において、モデル成分鋼として実験に供した0.3%

C-9%Ni鋼の作製方法、これら供試鋼を用いて行った単軸圧縮試験と圧延実験の手 順について説明する。また、圧縮試験片と圧延鋼板の組織の評価方法に関しても、その 詳細を述べることにする。

本研究では、第3、4、5、および6章で述べる4つの研究課題について実験を行っ た。まず、これらの実験に用いた試料は、3~5章が0.3%C-9%Ni鋼、6章が 0.3%C-9%Ni鋼を含む、C添加量の異なる3種類の9%Ni鋼である。ここで、

モデル成分鋼として実験に供した0.3%C-9%Ni鋼は、脱酸にAlを使用したA lキルド鋼をベースに、Cを0.3wt%、Niを9wt%添加した鋼材で、化学分析 によって決定した化学組成は、表2-1に示す通りである。Mnは0.85wt%と、

一般的な構造用鋼と同等レベルになるよう添加している。このモデル成分鋼の特徴は、

9%Niという高Ni含有量のため、焼入れ性が著しく高く、冷却後にマルテンサイト 組織を呈することである。また、実用9%Ni鋼の化学成分と比較して、C添加量も0.

3%と高く、このため、「加工発熱誘起逆変態」により一旦オーステナイト(γ)が生 ずると、その後の冷却過程において高強度のマルテンサイトが得られることになる。す なわち、このモデル成分鋼を用いることにより、逆変態の進行の度合いを、硬度の上昇 という形で検出することができる。よって、実用鋼ではないものの、逆変態挙動の検討 には最適なモデル鋼であると判断される。供試鋼のセメンタイト(θ)固溶温度および Ae変態温度については、熱力学平衡計算ソフトウェアであるMTDATA(1)を用い て計算を行い、それぞれ625℃、665℃の値を得た。一方、C添加量の異なる9%

Ni鋼の詳細に関して、その実験結果を述べた、第6章において報告する。

0.3%C-9%Ni鋼の試料作製は、以下の手順に従って行った。まず、実験室真

(30)

25

空溶解炉で溶製した150kgの鋼塊を、1150℃に加熱して分塊圧延を行い、その 後放冷した。この段階での組織は、基本的に、旧オーステナイト粒径22μmのマルテ ンサイト組織であり、7vol.%程度の残留オーステナイトの存在も粉末X線回折に より確認された。本研究で行った単軸圧縮実験の試料片については、上述の分塊圧延で 15mm厚の鋼板を得た後、機械加工により大きさ8mmφx12mmの円柱状に削り 出しものを用いた。一方、圧延実験の試料片は、厚さ50mm厚の鋼板に分塊圧延後、

切断によって得た、大きさ50mmx50mmx300 mmの圧延素材である。ここ で、これら試料片の組織も、基本的にマルテンサイト組織であることが確認された。ま た、C添加量の異なる9%Ni鋼の試験片に関しては、第6章でその詳細を報告する。

表2-1 モデル成分鋼:0.3%C-9%Ni鋼の化学組成 (wt%)

C Si Mn P S Al N Ni Ti B 0.30 0.25 0.85 0.007 0.008 0.026 0.0027 9.17 0.02 0.0016

2.2 単軸圧縮ならびに圧延実験方法

「加工発熱誘起逆変態」は、変態点直下の(フェライト(α)+セメンタイト(θ)) 温度域での加工に伴う発熱が、直接の要因であると推察される。そこで本研究では、2 種類の実験装置を用いて、(α+θ)温度域での加工を行った。第3章では、「加工発熱 誘起逆変態」の現象が、実際発現するかどうかを検証するため、定格荷重10トンの加 工熱処理シミュレータを用いて単軸圧縮試験を行った。実験に利用した装置は、富士電 波工機(株)製のサーメックマスターである。ここで、大きさ8mmφx12mmの円 柱状試験片を用いる本シミュレータの特徴は、温度とひずみを高精度に制御できること で、具体的には、試験片の加熱を高周波誘導加熱で、冷却を各種ガス冷却で、圧縮加工 については油圧サーボで動作するアクチュエータを用いて行った。さらに、「加工発熱 誘起逆変態」の発現がシミュレータにより示唆されたため、第4章から第6章では、試 料片の大型化ならびに量産化を視野に入れ、実験室大型圧延機(新日本製鐵(株)富津)

(31)

26

を利用して、実用化への基礎検討を行った。表2-2には、本圧延機の主仕様を示して いる。その特徴は、定格圧延荷重が1000トン、最大トルクが95ton・mという、

大きな圧下能力にある。この装置は実験室圧延機として国内最大級であり、超微細粒鋼 板創製のパイロットライン(生産ラインの前段階である開発・試作ライン)として位置 づけられる。

表2-2 本研究で用いた実験室圧延機の主仕様

形式 2Hiリバース

ロールサイズ 720φx650mm

圧延荷重 1000ton(非常最大1250ton) 最大トルク 95ton・m

圧延速度 0~120mpm

圧下モータ 圧下速度12.5mm/s パス間時間≦6s

被圧延材最大サイズ 250tx450wx600l

加工熱処理シミュレータによる実験では、加工率とひずみ速度を変化させた際の組織 変化を調べるため、変態点直下の(α+θ)温度域において、図2-1に示す加工熱処 理を行った。この図は、横軸に時間、縦軸に温度をとって、加工熱処理パターンを模式 的に示したものである。この図において、2本の点線はそれぞれAe温度、セメンタ イト固溶温度を示している。0.3%C-9%Ni鋼においては、セメンタイト固溶温 度未満の550℃前後で、約5mol%のオーステナイトが平衡相として存在し、(α

+θ+γ)共存であるが、若干量であるため、ここではセメンタイト固溶温度未満の温 度域を便宜上(α+θ)温度域と呼ぶことにする。(a)の加工率の影響を調べる実験 では、円柱状試験片を加熱し、セメンタイト固溶温度より低い550℃で5分間保持後、

(32)

ひずみ速度10s-1の条件下で加工率0%から70%の圧縮変形を行い、その後直ちに 冷却した。一方、(b)のひずみ速度の影響を調べる実験では、530℃で5分間保持 し、加工率70%の条件のもとひずみ速度0.1s-1から10s-1で圧縮変形を行った。

ここで、同一加工率でもひずみ速度が増加するに従い、加工発熱は顕著になる。このた め、間接的ではあるものの、後者の実験を通して、逆変態の発現に対する加工発熱の影 響を調べることができる。また、両実験での試料片の加熱および冷却速度は30℃/s であった。

γ セメンタイト固溶温度:625℃

Ae3温度:665℃

α+γ γ

α+γ

27

図2-1 圧縮試験片を用いた加工熱処理パターン

本研究では、加工熱処理シミュレータにより「加工発熱誘起逆変態」の発現が示唆さ れた後、第4、5、および6章で述べるように、定格荷重1000トンの実験室大型圧 延機を利用して、実用化への基礎検討を行った。具体的には、まず0.3%C-9%N i鋼を加熱し、セメンタイト固溶温度よりも低い550℃で30分保持した後、圧延速 度50 m/minの条件下で総圧下率60%、70%、および90%の圧延を行い、

逆変態挙動に及ぼす総圧下量の影響を検討した。特に、全板厚に渡って「加工発熱誘起 逆変態」を生じた、総圧下率90%の鋼板については、「加工発熱誘起逆変態」の実験

(a)加工率の影響調査

5 3 0 ℃

5分 0.1、1、10s-1 加工率: 70%

(b)ひずみ速度の影響調査 ひずみ速度:

α+θ+γ ひずみ速度: 10s-1

加工率:

0 15 30 70% 5 5 0 ℃

5分 α+θ+γ

(33)

28

的確証を得るため、その結晶学的特徴を明らかにした。さらに、圧延速度50 m/m inおよび総圧下率90%の条件下で圧延を行った、C添加量の異なる9%Ni鋼の実 験結果から、逆変態挙動に及ぼすC添加量の影響についても明らかにした。ここで圧延 は、いずれの場合においても、圧延機への負荷を低減するために、3回のパスに分割し て行った。パス間時間はおよそ5秒である。加工発熱による温度上昇に関しては、試験 片がロールバイトを出た約5秒後、放射温度計により表層温度を測定することにより決 定した。また鋼板は、温度測定後、水冷により直ちに冷却した。表2-3は、各章で用 いた鋼の化学成分と上述した検討項目を整理したものである。この表からわかるように、

本論文の3章から6章を通して、「加工発熱誘起逆変態」の発現に及ぼす基本的な冶金 因子、すなわち加工条件とC添加量の影響が明確化される。

表2-3 本論文の各章で用いた鋼の化学成分と調査項目 加工装置

化学成分

加工熱処理シミュレータ 実験室大型圧延機 第3章 0.3C-9Ni鋼 加工率(~70%)とひずみ速度

(0.1~10s-1)の影響

第4章 0.3C-9Ni鋼 ― 総圧下率(60~

90%)の影響

第5章 0.3C-9Ni鋼 ― 結晶学的特徴

第6章 0.1~0.3C-

9Ni鋼

― C添加量(0.1~

0.3%)の影響

2.3 評価方法

モデル成分鋼である0.3%C-9%Ni鋼での「加工発熱誘起逆変態」の確認は、

ビッカース硬度と光学顕微鏡組織を用いて行った。2.1節で述べたように、実用 9%

(34)

Ni鋼と比較してC添加量の多い本鋼では、「加工発熱誘起逆変態」により一旦オース テナイトが生ずると、その後の冷却過程において高強度のマルテンサイトが得られる。

このため、逆変態の進行は、急激な硬さの増加を通して検出することができる。また、

逆変態後の冷却で生じたマルテンサイトは、3%ナイタールのエッチング液で腐食され にくく、光学顕微鏡観察の際、逆変態を生じない領域に比べ、明るいコントラストとし て明瞭に観察される。ここで、光学顕微鏡による観察は、第6章で用いたC添加量の異 なる9%Ni鋼についても、「加工発熱誘起逆変態」の確認のために行った。

第3章では、試験片に(α+θ)温度域で単純圧縮変形を行うことにより、逆変態の 進行度に及ぼす加工率とひずみ速度の影響について調べた。その評価法は、図2-2に 示すように、試験断面中心部の3点についてビッカース硬さHV10を測定し、その平 均値を求めることに加え、その中央部近傍を、3%ナイタール液でエッチングし、光学 顕微鏡組織を観察した。さらに、第4章の圧延実験においては、総圧下率の増加に伴う 逆変態の進行度を評価するため、図2-3に示す圧延材のTD面、すなわち圧延幅方 向:TD方向に垂直な面について、その厚さ方向に沿った硬度分布を測定した。用いた 実験条件は、ビッカース硬さHV 1およびピッチ0.5mmである。この場合も、硬 度分布の測定を行った位置近傍について、その金属組織を光学顕微鏡により観察した。

圧縮変形 8mmφ

12mm

硬度測定と組織観察 切断

図2-2 圧縮試験片の硬度分布測定位置と光学顕微鏡組織観察位置(圧縮変形した試 験片を半分に切断し、その断面中心部において硬度測定と組織観察を行った)

29

(35)

ND TD 圧延方向

(RD) RD

厚み方向

(ND)

TD面

硬度測定と組織観察 圧延幅方向

(TD)

図2-3 圧延板の硬度分布測定位置と光学顕微鏡組織観察位置(図は、圧延材を模式 的に示したものである。圧延方向、厚み方向、圧延幅方向をそれぞれ、RD方向、ND 方向、TD方向と表示している。圧延材幅中心のTD面、すなわち幅方向に垂直な面に

おいて、硬度分布測定と組織観察を行った)

本研究では、「加工発熱誘起逆変態」によって生じた組織の詳細を理解するため、得 られた試料の一部について、透過型電子顕微鏡(TEM)およびインレンズ型走査型電 子顕微鏡(2)(インレンズSEM)による組織観察、さらに粉末X線回折による残留オ ーステナイト量の測定を行った(3)。ここで、インレンズSEMとは、試料を対物レン ズの中に置く新しいタイプのSEMで、これを利用することにより、従来得られなかっ たナノレベルでの観察が、極めて広範囲に渡って行うことができる。また、第5章では、

「加工発熱誘起逆変態」を生じた圧延鋼板の結晶学的特徴を、X線回折を用いた集合組 織解析およびElectron Backscatter Diffraction

(EBSD)解析を行うことにより明らかにした。これら評価方法の詳細については、

第5章において説明する。

30

(36)

31

第2章の参考文献

(1)MTDATA (NPL Metallurgical and Thermochemical Databank), National Physical Laboratory, Teddington, Middlesex, U.K.

(2)K.Sato, T.Yokota, T.Shiraga, M.Niikura, K.Maruta:Proceedings of the Second Symposium on Super Metal, Tokyo, RIMCOF & JRCM,(1999),183.

(3)カリティ,松村源太郎訳:X線回折要論,アグネ,東京,(1980),377.

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第3章 小型加工熱処理シミュレータを用いた加工発熱誘起逆変態発現の検証 3.1 緒言

第1章で述べたように、本研究の目的は、良好な低温靭性を得るため、これまであま り注目されてこなかったオーステナイト粒径の微細化を通し、9%Ni鋼のマルテンサ イト組織の微細化を図ることである。具体的には、オーステナイト(γ)粒径を飛躍的 に微細化する手段として、従来にない、「加工発熱誘起逆変態」という新たな手法の提 案を行なう。すなわち、低温大ひずみ加工を(フェライト(α)+セメンタイト(θ)) の温度領域で行い、その際に生じる加工発熱を利用して、オーステナイト相への逆変態 を行い、その結果として超微細オーステナイト粒を得ようとするものである。

本研究では、変態点直下の(α+θ)温度域における大ひずみ加工のみにより、逆変 態が生じることを立証する。ここで、逆変態を誘起するための条件は、実際の加工にお いて十分な量の加工発熱を生じさせることである。加工発熱は、外部からなされた塑性 変形仕事が熱エネルギーに変換されたものであり、塑性変形仕事の大きさに比例するこ とが知られている。従って、塑性ひずみおよび変形抵抗が増すほど、加工発熱量も増加 することになる。材料に与えられる塑性ひずみに関しては、加工率が大きくなれば、ひ ずみ量は増加する。一方、材料の変形抵抗を高めるためには、加工温度を低下させるか、

あるいはひずみ速度を増加させる必要がある。上述したように、加工発熱で逆変態を誘 起する場合、加工温度は対象とする鋼の変態点の直下とするため、鋼の成分が決まれば 概ね決められる。従って、実際にはひずみ速度を増加させることで、材料の変形抵抗を 高めることが有効であり、結局、逆変態に必要な加工発熱量は、加工率とひずみ速度を 増加させることにより得られることが期待される。

そこで本章では、小型加工熱処理シミュレータを用いて、実際、「加工発熱誘起逆変 態」が鉄鋼材料において生じるかを検討した。具体的には、2章で述べた0.3%C-

9%Ni鋼を用い、変態点直下の(α+θ)温度域である530~550℃で単軸圧縮 加工を行い、その後冷却した試料片について組織観察と硬度測定を行った。加工発熱量 の評価に関しては、単軸圧縮加工における加工率とひずみ速度を変化させた際の、試料

参照

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