博士学位論文審査報告書
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(2) 仲裁規則で明確に定められ、行政訴訟型のスポーツ仲裁として、選手選考事案では、スポー ツ団体への差戻しを原則とし、仲裁パネルによる権限を限定するなど、スポーツ団体の専門 性、自律性が尊重されていることが明らかにされた。また、仲裁パネルの判断基準は、仲裁 規則で選手選考事案での取消事由が明記されているなど、スポーツ仲裁による法的審査が安 定的で明確であることが明らかにされた。仲裁判断における取消事由は、代表選手選考の客 観的評価での評価要素の検討不足や手続規程違反の結論の変更可能性がある場合、代表選手 選考の妥当性それ自体が失われる場合などが明らかにされた。 第3章ではカナダのSport Dispute Resolution Centre of Canada(SDRCC)の法的 審査を対象に考察された。SDRCCでは、仲裁規則において広範な仲裁パネルの権限が認 められているが、仲裁判断では行政訴訟型のスポーツ仲裁として、スポーツ団体の専門性、 経験の視点から、特に選手選考決定の妥当性、選考基準自体の策定や評価については、スポ ーツ仲裁による法的審査が及ばず、立証責任は仲裁規則で中央競技団体(NSO)に課され ることが明らかにされた。判断基準については仲裁規則に特段定めはなく、選手選考事案の 蓄積過程で、取消事由が一定の範囲を構成することが確認された。取消事由としては、選考 基準の違反、客観的評価での評価要素の検討不足、手続規程違反などが明らかになった。 第4章では、アメリカ合衆国のAmerican Arbitration Association(AAA)の法的審査 を対象に考察された。AAAでは、代表選手選考制度及びスポーツ仲裁が法律上規定されて おり、オリンピックやパラリンピックなどに関して、アメリカオリンピック委員会(USO C)の独占的な権限が認められ、法的権利の問題として選手の出場機会の保障が位置づけら れていることが明らかとなった。仲裁規則では、仲裁パネルの審査対象、権限、判断基準や 立証責任は定められていないが、仲裁判断で選手の出場機会の具体的保障内容が明確となり、 これが選手の出場機会の侵害事由となっていることが確認された。民事訴訟型のスポーツ仲 裁として、立証責任は、仲裁判断で申立人である選手に課され、具体的な選手の出場機会の 侵害事由として、選考基準の違反、客観的評価における出場機会の不公平、主観的評価にお ける客観的根拠不足、手続規程違反などが明らかにされた。 本論文での考察を通して、代表選手選考仲裁は、同様の法的性質を有する制度であっても、 各国の法制度、代表選手選考制度の相違、仲裁機関の設立背景といった多様な違いが存在す ることが明確になった。また、第一に多額の国家資金が投入される我が国の代表選手選考は、 スポーツ仲裁の導入を義務づける法的審査の対象とすべきこと、第二に我が国の中央競技団 体の決定の自律性自体が元来尊重に値するものであるのか否かを再検討すべきこと、かつ仲 裁パネルの審査対象、権限、判断基準、立証責任、法的審査の程度についても再考すべき必 要性があること、第三に代表選手選考に関するスポーツ団体と選手の合意やスポーツ権につ いて精緻な議論を蓄積すべきことが結論として導出された。 なお、本論文の執筆にあたっては、第1章では日本スポーツ法学会発行のスポーツ法学年 報第25号(pp. 132-159, 2018年)、第2章では日本スポーツ法学会発行のスポーツ法学年 報第24号(pp. 74-97, 2017年)、第3章では日本スポーツ法学会発行のスポーツ法学年報 第25号(pp. 182-213, 2018年)に掲載された原著論文を基底としている。 本論文はスポーツ法学領域という極めて新しい分野で、かつ先行研究が僅少の中で、代表選 手選考に対するスポーツ仲裁における法的審査の範囲と限界を明らかにしようとした点で 極めてオリジナリティが高いといえよう。また先進諸国の代表選手選考に対するスポーツ仲 裁事案の丁寧な分析、論文構成上の論述の妥当性を備えており、博士(スポーツ科学)の学 位を授与するに十分値するものと認める。.
(3) 松本泰介(2017)ニュージーランドの代表選手選考仲裁における判断基準 : スポーツ仲裁 における司法審査のあり方.<原著>日本スポーツ法学会年報(24):74-97. 松本泰介(2018)代表選手選考仲裁における統一的規範形成の可能性.<原著>日本スポー ツ法学会年報(25):132-159. 松本泰介(2018)カナダの代表選手選考仲裁における法的審査の範囲と限界.<原著>日本 スポーツ法学会年報(25):182-213. 以上.
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