オーストラリアにおける所得再分配プロセスと所得
不平等――1993/94年度と1994/95年度のABS所得サ
ーべイ・データを用いた分析を中心にして――
著者
前田 修也
雑誌名
東北学院大学論集. 経済学
号
147
ページ
67-83
発行年
2001-09-15
URL
http://id.nii.ac.jp/1204/00024450/
オ
ー
ス
ト ラ リ ア に お け る
所得再分配プロセ
ス
と所得不平等
*-
l993/94年度とl994/95年度
の
ABS
所得サ
ー
ぺイ
・デ
ータを用いた分析を中心にして一
前
田
修 也
日 次 l.
はじめに2
.
オーストラリアの統計制度と所得分布統計3 .
オース ト ラ リ ア の所得再分配とそのプロセス
4.
オーストラリアの所得不平等度とその国際比較5 .
オーストラリアにおける不平等測定研究6 .
結びにかえて1
.
はじめに
オース ト ラ リ ア は , 所得税の
累進度が高く政府による所得再分配政策が きわめて効果的に行われている。
本研究は, 最近のオース ト ラ リ ア に お け る所得再分配とその平準化が, 連邦政府及び州政府による再分配プログラ ムの中で, どのような経路を辿つて有効に機能しているのかを明らかにし, '80代から'90代に実現された平等度とそれぞれの政策が果たした役割を分 析する。また, オーストラリアの所得格差が,国際的に見てどの程度なの
かの比較を試み, この分野において現在オーストラリアで進められている*
本1商の執筆にあたり.
Victoria University ( オ ース ト ラ リ ア ) のBhajanGrewal教授には費重なコメ ン ト を い た だ き ま し た
。
この場を借りて深a
t
の意を表します
。
東北学院大学論集 経済学第l47号 200l年9月
東北学院大学論集 経済学第l47号 尺度研究と実証研究双方のサ ーぺイのなかで,こ
の
ことの意味を指摘した い。
オース ト ラ リ ア の よ う な , 所得平準化政策が有効に機能している国の
再分配過程を注意深く辿つてその効果を一
つ一
つ確かめることで, 近年わ が国で指摘されている経済格差拡大の懸念に対し,一
つの
新たな視座を提 供できるものと考える。2
.
オ
ーストラリアの統計制度と所得分布統計
オーストラリアの統計制度は, いわゆる 「集中型」 l )の
代表例として知られており,ほぼ全ての統計はABS (Australian Bureau
of Statistics
)によって生産, 販売されている
。
ABSから提供される全ての統計資料に は, カタログ番号が記され便宣に供されている。
カタログ番号は5桁から 成 り , 千 の位 に は , l.
Services,2.NationalProducts,3.Demography,
4
.
SocialStatistics,5
.
NationalAccounts,InternationalTrade and
Finance,6
.
Labour
Statistics and Prices,7.Agriculture,8.Secondary
Industryand Distribution
.
9.Transport,の計9グループが格付けされ,百
の
位には更に数個からなるサプグループが格付けされている。
十 と一
の
位は通し番号で特に意味はない
。
最後の小数第一
位は, 地域コ
ードが割り当てられている
。
すなわち, 0 は , A u s t r a l i a 全 土 , l.New
SouthWales, 2.
Victoria,3.Queesland,4.South Australia,5
.
Westem Australia,6
.
Tasmania,7
.
NorthernTerritory,8.
AustralianCapitalTerritory,9
.
External,l0
.Territories,である。
例えばNo.4206.
6と示される統計は,「
タスマニアにおける教育に関するもの」 であることがカタログ番号から 明らかになる。
したがって, 本稿で使用される所得分布に関する統計及び 報告書の類いは,6300.-
,6500.
-
(それぞれ,Earning,Hours And l ) 各国の統計制度は大きく, 分做型と集中型に分けられる。 分故型はわが国に 代表されるように, 各省庁が各自統計部署を持ち, それぞれの業務に関する 統計調査を行つている。
合衆国.
イギリスなどがこれの代表例である。
集中 型は,一
統計局がほとんどの統計調査にかかわっている制度で, オース ト ラ リアやカナダなどが代表例として知られている。オーストラリアにおける所得再分配プロセスと所得不平等
EmploymentConditions
とConsumerIncomeAnd
Expenditureを示す)が多いことになる
。
オース ト ラ リ ア の所得分布統計は,l980年代前半から,結果がミクロデー タとして入手できるようになり, 以前と比較して格段に所得不平等に関す る詳細な研究がなされるようになった2 )。
こ れ らの事実を踏まえて, オーストラリアにおける所得分布と再分配の
実態を見てみよう。 ま ず,
オース
トラリアの所得分布統計で通常用いられ ている所得類型と世帯類型の分類方法を簡単に説明しておこう。
用いられ る所得額・
給付額それに税額は全て,週平均額(オース ト ラ リ ア ' ド ル ) で示される。
そしてそれらは,当初所得(Privateincome
)3 ) '総所得(Gross income)
・
可処分所得(Disposableincome)
・
再分配所得(Fi-nalincome
)の4つの所得概念に分類されている。
「
当初所得」は雇用所得,事業所得,
財産所得,それに政府以外からの
収入からなる。
これに,
年金や失業給付, 障書年金など政府から個人へ
の
直接現金給付が加えられると「総所得」
に な る。
我国の「厚生省'所得再 分配調査報告』 等で用いられている定義のなかでは,「
税・
社会保険料控 除前所得」
がこれに相当する。
直接給付には, 老齢世帯や母子世帯に対する現金給付や
New
Start(新卒者対象の失業手当), Job Search(通常の
失業手当)や傷病手当
・
家族手当も含まれる。
さ ら に,
この総所得から直 接 税 { 所 得 税+
メディケア税(社会保険料)}が引かれて「可処分所得」
になるが, 政府の間接給付には, 住宅費の補助に関するもの, 教育に関す る もの, 健康および社会保陣や社会福祉に関するもの
が含まれる。
この額 から最後に間接税(の推計値)が引かれて「再分配所得」 と な る。
間接税 は, 石油および石油製品税や煙草税・
酒税などである4 )。
本稿で考察の 2 ) Harding,A〔l3〕3 ) market income又はpre
-
govemment action incomeと表現される所得概念であるo
4)2000年7月l日から消費税の
一
種であるGST(Goods andServices Tax) が導入された。
その影響に関する調査研究は未だなされていない。
東北学院大学論集経済学第l47号 対象とされる間接税や間接給付の額は, l993/94年世帯支出サーぺイ ( H E S ) の個票に通り,推計されている5 )
。
一
般的に用いられている世帯類型は,つぎのとおりである。
( l ) 「夫婦 と成人した子がいる世帯」。 ここでの成人とは, 未婚でl5歳~
20歳までの フルタイムの学生を除くl5歳以上の全ての人々, と定義される。
この世帯 は , l 9 9 3/94年では,全体の約l0%
を占めている。
( 2 )「
夫婦と未婚の子 のみの夫婦世帯」。
この世帯は,全体の26
%
を占めている。
( 3 ) 「 6 5 歳 以 下の夫婦世帯」は,世帯主が65歳以下で夫婦のみの世帯である。
この世帯 は,全体の約l8%
を占めている。
(4)「65歳以下の
単身世帯」は,全体の
約l3%
を占めている。
( 5 )「
一
人親と未婚の子のみの世帯」は,扶養義務 のある子供と片親だけの世帯で, もし他の大人か成人がいる場合は,
混合 家族と分類される。
この
世帯は,全体の
約 5%
を占めている。
( 6 ) 「 高 齢 者世帯」 は, 世帯主が65歳以上で夫婦だけで自立している世帯である。
全 体の約5%
を占めている。
(7)「65歳以上の単身世帯」は,65歳以上の自 力で生活している老人世帯である。
3
.
オ
ーストラリアの所得再分配とそのプ
ロセス
【再分配のプロセス】 図一
lは,当初所得から再分配所得までの各段階の再分配の過程を, 「当初所得」段階での所得階級を5分位階級別に示したもので, オース ト ラリアにおいて「最も富裕な20%の世帯」 と , 「最も貧しい20%の世帯J が, 政府による所得再分配の過程で, どの様に平準化されているかが示さ れている。
この図をみながら,
再分配の過程を追跡・
確認してみよう。
最費層の当初所得は僅か週$l20で, 富裕層の週$l500と比較すると, その格 差 は l 対 l 2.
5 で あ る。
こ れ に , 政 府 か らの
直接現金給付がそれぞ れ最1貧層に$l90, 富裕層に$l0移転され, 総所得としてそれぞれ$3l0と5 ) ABS, HouseholdEx
p
enditure Sun1,
eyAustmlia,T he
Eff
ectof Gom m m entオーストラリアにおける所得再分配プロセスと所得不平等 図
一
1 オーストラリアの最富裕用20%と最貧困層20%の 所得商分配プロセス(1994/95年 , 週 当 た り A $ ) 最貧困層20%
$120
+
$ l 9 0 = $310-
$ l 5 = $295-
$ ?+
$ l 3 5 = $ 4 3 0田
↓
プラス 「政府からの
所得移転」↓
開
マ イ ナ ス 「所得税」
↓
商
↓
マ イ ナ ス 「間接税」↓
プラス「教育・
医療・
住宅補助」
↓
解
最富裕層20%
$1500
+ $ 1 0 = $ l 5 l 0-
$375=
$ 1 l 3 5-
$ ?+
$105 =$1240出所:Harding,A., “Recent Trends in Income Inequality in Australia" , Dia
-1ogt‘
es on A1‘
stralia's Future-
Inhono‘
tr of
thelate Prof
iessorRonaldHenderson
-
,Edited by Shechan,P,.Grewal,B.,&Kumnick,M.,Victor -ia University.l996-東北学院大学論集 経済学第l47号 $ l 5 l 0 と な り , 格 差 は 4
.
9倍にまで縮小する。
この総所得から所得税がそ れぞれ$l5と$375ずつ差し引かれると, 可処分所得は, $ 2 9 5 と $ l l 3 5 と な り , この
段階での格 差 は , 3 . 8 倍 と な る。
さらに間接税が引かれ(と同 時 に ) , 教 育・
医療・
住宅等の間接給付が加えられると,最終的に,再分 配所得となる。
再分配所得はそれぞれ, $430と$l240で,富裕層20%
世 帯と費困層20%
世帯の
格差は, 2.9倍にまで縮小することとなる。
再分配 所得から当初所得を差し引いてその額を当初所得で除した再分配係数は, 最貧層では259%
に達している。
この よ う な 5 分 位 階 級 ( 全 体の20%
世帯別)別の分析においては,社会 保陣給付と直接税の
累進体系が, それぞれ所得再分配の平準化の
機能を充 分に生かしていることが確認できた。
その結果, 給付と税の純粋な効果は 所得分布全体でも, 比較的低い所得階層の
平均所得額が增やされ, 比較的 高い階層の
平均所得額は減らされていると類推することが出来るだろう。
結局, 最貧層では, 平均当初所得は$l20/週であったが, 平均再分配所 得は$430になった。
さ ら に , 最富裕層では, 平均当初所得は週$l500で あったが, 平均再分配所得は$l,240であった。
社会保障による直接現金 給付は, 概ね世帯規模の大きさに応じて增え, 世帯の所得水準が增えるに つれて減少する傾向があるだろう。
また, 直接現金給付の最初の增加はお もに世帯規模が大きくなるにつれて增加していくであろう。
ABSの調査 に よ る と 第 I 5 分 位の
世帯規模は平均l.
6人であるが, ほ ぼ l 人 分の年金 を 得 て い る こ と に な る。
ま た , 第II5分位では,平均世帯規模は2.
4 人 であるが, この世帯はほぼ2人の年金を得ていることになる。
所得水準が あがると平均世帯規模も上昇するが, 所得が高いと直接現金給付を得る機 会も減つて く る の で あ り , この数字はそのことを反映しているのである6 )。
直接税の5分位間負担は, 所得に応じて增えている。
最貧層では週$l5 しか払つていないが, 最富裕層ではその額は$375になっている。
間接税6 ) ABS,H
,
oasehotdExpena
itufeSuruey Austfalia
,T he Eff
ectof
Gooernmentオーストラリアにおける所得再分配プロセスと所得不平等
の
影響は推計が困難であ りNATSEM
からは, データの発表はないが, l996年に ABSがl993/94の所得サーぺイの結果から推計を行つ ている。
その結呆は, 最貧層が$29で最富裕層が$97であった7 )。
所得の增加に つれて増えているが,直接税程の格差はない。
間接給付(医療,その他の
社会保障給付) は, 直接税や間接税とは異なり, 各所得階層に均等に行な われている。
間接給付の受給額は, したがって,所得階層よりも世帯規模 や世帯員の年船といった世帯特性によって変化する價向があると考えられ る だ ろ う。
表一
1 所得再分配における税と社会保刷i合付の相対的効果(、
1993/94) ジニ係数 相対的効果(%
) 当 初 所 得 0.
524 プラス直接給付 0.
39l-
25.4 プラス間接結付 0.
422-
l9.5 マイナス直接税 0.
50l-
4.4 マイナス間接税 0.
555 5.
5出所:ABS,Hlousl ehotdExjm diture Sm1り
'
Austmlia,T he
En
tcto
f
Gol'
ernment?
?
itsandTa,
ees onHlo‘
tsehola
Income
(l993/94)No.
6537.
0 【平準化の相対的効果】 表一
l は , 所得再分配の要素別寄与度を推計したものである。
ここでは, 当初所得と, 当初所得に政府からの直接現金給付を加えたもの, 当初所得 に社会保陣の間接給付を加えたもの, さらに当初所得に直接税と間接税で それぞれを調節したものが与えられ, ジニ
係数の推計値が示されている。
最右田の相対的効果の数値は, 当初所得のジ二係数とこれら一
連の所得概 念によるジニ
係数の差であって, 所得再分配の効呆を広い意味での社会保 障給付と, 税による相対的効果に分解した指標となることであろう。
l993 /94年度のジニ
係数によれば, 政府からの直接現金給付がこの時期の平等 7)Harding,A.
, 〔 l 3 〕 p.
297-
73-
7東北学院大学論集経済学第l47号 化に対して最も大きな寄与をしていることが明らかである
。
社会保障の間 接給付も相当大きな寄与を行なっている。
直接税は所得の平等化にはあま り寄与していない様にみえるが, 間接税は逆進的効果のあることがはっき り示されたるであろう。
次に, 我国の所得再分配との比較の可能性を考えてみよう。
我国の厚生 省『所得再分配調査報告』では,所得格差是正効果を,当初所得と再分配 所得の間 に , 「税による再分配所得(当初所得一
税金(直接税の
み ) ) 」 と「
社会保障による再分配所得 (当初所得+
医療費+
社会保陣給付金一社会 保険料)」を設けて推計を行なっている。
したがって, オース ト ラ リ ア の 再分配効果との比較は, 直接にはできないものの, 両国ともにl980年代後 半から社会保陣による再分配の効果が, 税による再分配の効果を大きく上 回るようになってきたことが確認できるであろう8 )。
表一
2 所得類型別ジ二係数の時系列変化(1904
・
1988/89・
1993/94年)、
l984年 l988/89年 l993/94年 ジニ係数の変化 当初所得 0.
470 0.
472 0.
51l 9 ( ポ イ ン ト ) 総所得 0.370 0.38l 0.
393 6 可処分所得 再分配所得 ジニ係数の改書度 0.
326 0.
34l 0.
347 6 0.
298 0.
300 0.
307 3 36.6%
36.
5%
40.
0%
-出所:ABS,H,
o‘
tsehota
Exp
enditure S“
roeyAustmlia, T he Eff
ectof
GotlernmentBene
f
itsa n d TansonHl)as,ehola
Income(l993/94)No
.6537.0
一
部.
筆者による推計。
4
.
オ
ーストラリアの所得不平等と国際比較
【時系列比較】 表一
2を用いてl980年台後半からl990年台前半約l0年間の
所得格差の
推 移を見てみよう。
最右欄には, このl0年間にみられたジ二係数の変化率が, 8 ) 厚生省 「所得再分配調査報告」 平成8年版-オーストラリアにおける所得再分配プロセスと所得不平等 また最後の行は各年のジ
ニ
係数の改善度が載せてある。 これで,政府の所 得再分配政策が, 各所得概にいかほどの効果をもたらしたかを知ることが で き る。
4 個の所得概念の全てにおいて, ジニ
係数の增加すなわち不平等 化が起きている。
特に, 当初所得に関しては, 1993/94年度に0.
5 l l に ま で 增加し, その增加率は9%
になっている。
当初所得に直接年金給付が加えられた総所得では, ジニ
係数の変化は小 さ く な り 6%
と な っ て い る 。 この
ことは直接現金給付が,l993/94年には その前の10年間よりもより大きな再分配効果をもっていたことを意味して いる。 この時系列上のジニ
係数による変化は, 直接税が引かれた後の可処 分所得では, 総所得と同じ変化率であったので, 直接税は1984年とl993/ 94年で同じ位の再分配効果をもたらしたということが言えるであろう。
間 接給付と間接税が考慮された再分配所得は, この10年間のジニ
係数の変化 が 3%
と い う こ と に な る。
こ の こ と は , 政府による間接的給付と間接税は, 所得不平等を減少させl984年よりもl993/94の時点で大きな再分配効果を も っ て い た こ と に な る。
l984年~1993/94年のl0年間で, オース
トラリアの所得分布上に起こっ た時系列的推移は, 以 上 の よ う に 言 う こ と が で き る が , この推定値のなか には世帯規模の
縮小や一
世帯当たりの有業人員の增加といった世帶構造上 の 変 化 が 考 さ れ て い な か っ た と い う こ と を 考 慮 す る 必 要 が あ る で あ ろ う 。 さ ら に , 各年度のジニ係数改善度をみると, それはl990年代にはいって 大きくなり,当初所得の不平等化を,辛うじて政府の再分配政策で防いで い る 姿 を 表 し て い る だ ろ う。
【国際比較】 最後に, オース
トラリアの所得不平等度と政府による所得再分配政策の 効果を, 国際的な比較によって評価してみよう。 所得不平等度の国際比較は, さまさまな困難が指摘され, たとえ比較が な さ れ た と し て も , 信頼に足る結果は少ない。 た と え ば , 世帶規模や有業 人員が国によって異なるとか, 調査されている所得概念の定義が異なると-
75-
9東北学院大学論集経済学第l47号 か,カバーする世帯類型が異なるなど,さまさまな要因があげられる
ので
あるo そのな か で , 西 崎・
山田・
安 藤 〔 4 〕 は ,一
部分Atkinson〔l1〕の結 果を利用しながら国際比較を試みている。
そこでは等価弾性値の概念が用 いられていて, 国による世帯構造の相違が標準化されている。
等価弾性値 とは, 家庭内における規模の
経済等の分子的要素を考慮した概念で, 0 か ら l の範囲をとるように調整されている。
それが0のときは世帯所得がそ のまま各世帯員の
効用になるので, すぺての消費財が家計内公共財であり, lをとるときはl人当たり所得が各世帯員の効用になり, 規模の経済性は 全 く な い と い う こ と に な る。
この
西崎・
山田・
安 藤 〔 4 〕 で は , 等 価 弾 性 値として0.
5という数字が用いられているが, それは諸外国における政府 や研究者によるいくっ
かの調査によって, 消費データからの頭示選好によ り逆算して導かれた値の平均値による。
その試算によると, 各国の所得再分配の平準化効果は, 税によるものと 移転によるものとに分けられているが, 租税の分配は, どこの国でも累進 的であり, 平均して第I5分位層ではl0%
前後の負担が, 第V5分位層で は40%
台が多くなっている。
オース ト ラ リ ア で は , その値がそれぞれ0.7
と5l.
2(l985年)であり,低所得層に対しては最も負担が軽く,高所得層 の負担はアメリカについで2番日に高くなっている。
すなわちオース ト ラ リアは調査対象の0ECD諸国中, 最も累進度の高い租税制度を持つ国 と い う こ と に な る。
ち な み に , わ が 国の
租税の
分配は,7.
5と44.
8(l984年) で あ り , ほぼ平均的である。
また, 移転の分配にっ
いても, オーストラリアは際立つて低所得層に手 厚い所得移転構造を持つていることが明らかにされている。
すなわち, フ ランス, イタリア,ルクセンプルグなどは,各所得階層に均等に移転を分 配 し て 「ばら撤き型」と称される。
た と ぇ ば フ ラ ン ス ( l 9 8 4 年 ) は , 第 I 五分位階級からの
移転率がそれぞれ,l7.
5%
, , 2 l.8
% , l 8 .
4% , l 7
.
7% ,
24.
7%
である。
これに対して, オース ト ラ リ ア の移転率は, 低所得層に大オーストラリアにおける所得再分配プロセスと所得不平等 変手厚く
「
絞込み型」 と称されている。
その移転率(l985年) は, 40.
l%
, 24% ,
l4.
4
%
, l 2.
9%, 8
.
0
%
である。
ち な み に , 日 本 は ( l 9 8 4 年 ) l 9.
9
%
, l 5 .
4% , l 6
.
2 , % , 2 0
.
3% , 2 8 . 2
%
である。
以上のように, オース ト ラ リ ア の所得再分配は, 国際的に見ても, その 平準化の程度は大変高いということがお分かりいただけたと思います。
5
.
オ
ーストラリアにおける所得不平等研究
オーストラリアにおける所得不平等に関する研究は, 5分位値・
l0分位 値, ジ二係数やentropy
指数などの尺度に関する研究と実証研究の双方で 行われている。
本節では, それらを簡単に振り返つてみることにする。
オース
トラリアにおける所得不平等の詳しい研究は, l968-
69年に行な われた5,500の世帯からなる標本の
データを使つたPodder 〔22〕の
分析を 嚆矢としている。
Podder〔22〕は, 分位値とジニ
係数を用いて,世帯主 の職業, 学歴, 年齢や世帯規模別といった分類ごとの
所得の支出と, 課税 前・
後の不平等度を測定している。
彼はまた, オース ト ラ リ ア の不平等と カナダ, イ タ リ ア , 日本, イ ギ リスそれにアメリカの不平等を比較して, ジニ
係数で測定するとオース ト ラ リ ア の不平等は最も低いレぺルにあるこ とを明らかにしている。
Podder&Ka
k wa n i 〔 2 3 〕 は , この消費支出と収 入調査を用いて更に詳しい研究を行なっている。
彼らは, 現金給付と所得 課税の
所得再分配に対する効果を測定したが, それによると, 現金給付は 実質的に平等化をもたらすものの,
課税制度の再分配上の役割は小さなも のであると結論づけている。
Richardson〔24〕は,この消費支出と収入 調査を用いた研究に疑間を呈し, その原因が, 都市部の
世帯のみをカバー し世帯の定義が不十分であることを挙げている。
さらにKakwani〔l7〕 は,
l975/76年の家計支出調査からのデータを用いて, オース ト ラ リ ア の 不平等を多角的に測定している。
彼の研究はオーストラリアの課税システ ムに対して詳細な考察を行ない, 当初所得, 総所得, 可処分所得と総支出の
データを使つて様々な種類の不平等度を算出している。
その
為の尺度と-
77-
l l東北学院大学論集 経済学第l47号 しては, 五分位値,
一
般化されたジニ
係数,一
般化entropy尺度, Kak
-waniのロ
ーレンツ尺度, Atkinson尺度が用いられている。
彼はまた, 70 年代の課税前後の所得に関してオース ト ラ リ ア と 5 か 国の
ジニ
係数の値を 比較している。
Podder〔20〕・
〔 2 l 〕 は , ジニ
係数の要素別寄与率の推計 を再解釈した手法をオース ト ラ リ ア の不平等の変化に応用している。
Meagher&Dixon〔l9〕は,エ
ン ト口ビ
一
尺度の分解可能性を利用した 不平等度の要素を調べる方法論を提示している。
彼らの論文では, オース
トラリアにおける所得不平等の源泉と, 次のような様々なグループ間の累 進的分解が分析されている。
すなわち,性別・
所得源泉・
年齢・
出生地・
雇用上の身分・
職業・
学歴による分解である。
分解のそれぞれの
段階で, 総不平等度がこれらグルーブ内およびグループ間の寄与度に分けられる。
グループ間不平等の程度は, 分解を定義した属性の反映であるし, またそ れは, 総不平等度への寄与度を示していることになる。
Bradbury,Doyle and
Whiteford〔l2〕は,l982/83からl989/90の期間に亘つてこの時期の不平等を調べるためにマ イ ク ロ
・
シミュレーション法 を用いている。
彼らの分析によるとそれぞれの
世帯類型内でも, また全世 帯で見ても, この時期一
般に不平等を減少させていることが示されている。
子供がいる低所得世帯に対して追加的な支払いをする「
世帯パッケージ」
として知られているオース
トラリア政府の政策は, 貧困層の生活水準に有 意義な効果をもたらしたことが確認されている。
何人かの研究者は過去のある時期と現在の不平等を比較する試みを行な っている。
Jones
〔 l 5 〕 は, 1968-
69年の分布とl9l4-
l5年のそれとを比 較している。
また,McLean&Richardson〔l8〕は,l980年とl933年を 比較している。
最近ではSaunders ( l 9 9 3 ) に よ る 2 時 点 間の比較が,注 目 さ れ る。
McLean&Richardson
〔 l 8 〕 に よ る 研 究 は オ ース
ト ラ リ ア の l9l5年, l933年それにl98l年に亘つている。
l9l5年では男女別のジニ
一
係 数が, またl933年とl98l年では数種類の推計値が示されて, l9l5年とl98l 年の比較では男性の所得不平等の改書が明らかであったとしている。
このオーストラリアにおける所得再分配プロセスと所得不平等 ことは前述のJohnes〔l5〕によっても確かめられている
。
Saunders&Hobbes〔27〕は,ルクセンプルグ所得研究(LIS)の情報を もちいてオース ト ラ リ ア と 他の6か国間の比較をしている。
かれらは,L I
Sの共通する等価比率で標準化されたデータを用いて, い くっ
かの不 平等尺度で測つた結果, オーストラリアの所得分布は6か国中の4か国よ り不平等である, という結呆を得ている。
6
.
結びにかえて
本研究では, オーストラリアの所得再分配過程を, ABSの統計データ 等を用いて分析すると同時に, オーストラリアにおける不平等研究の現段 階を簡単にサーぺイした。
その結果, オーストラリアにおける所得分布は,O
ECD諸国と比べて, 政府の極めて強い平準化政策の下で, 特に低所得 層へ
の
所得移転とさまさまな独自の現物給付プログラムにより, 高い平等 性を実現していることが明らかにされた。
同じような移民の歴史をもっ
ア メリカとカナダが先進資本主義諸国の
中で, 極めて大きな不平等度を示し ていることとは対照的で興味深い。
今後, これらの政府がおこなっている 再分配プロセスを, 本稿が行つたような視点で比較していくことにより, 両者が持つ経済格差是正策の具体的相違が明らかにされるであろう。
また, こ の よ う な 個 々の再分配プロセス段階での比較検討は, わが国に おける再分配政策へ
の
新たな具体的提言を可能にするものと考える。 【引用・
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-オーストラリアにおける所得再分配プロセスと所得不平等
The Process of Income
Redistribution
and
Income Inequalityin
Australia
-
Focusing
on analysis
of newABS income
data
-Shu
y
a
MAEDA
Contents
l
.
Introduction
2
.
AboutABSandStatisticalDataof
Income
distributionin
Aus
tTa
lia3
.
Income Redistribution
Process
inAustralia
4
.
Income Inequalityin Australia and
IntemationalComparisons
5
.
Recent Studiesof
InequalityinAustralia
6
.
ConclusionSummary
The
following article hastwo areas of research;the first part
willin-troduce
theincome redistribution
process
recently established by the
Austra
lian govemment
.
We
willexaminetwo income classes,the top
quintile or20%percent of
thepopulation,and
the bottom quintile
through
theincome redistribution
process.We
willdiscusshow
the Australiangovemment
maintainsthe inequality of
income at very
lowlevels,by
direct and indirectmethods
.
We willalso discuss
why Australian inequalityofincome is recognized
as
beingat a
verylowlevelamong
thedeveloped
countries of
the world.
The finalsection
of
thisresearch
willsurveyrecent works on
thefi
eldof income
redistコribution in Australia