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実験動物 としてのウズラの有用性

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(1)

実験動物 としてのウズラの有用性

UtilizationoftheJapanesequailasanexperimentalanimal

高橋 憤 司 ・清水 明 ・川嶋 貴治

ShinjiTakahashi,AkiraShimizuandTakaharuKawashima 国立環境研究所 ・環境研究基盤技術 ラボラ トリー生物資源研究室

NationalInstituteforEnvironmentalStudies,Tsukuba,Ibaraki305‑8506,JAPAN Stn4nAARY

TheJapanesequailhasbeenfamiliartoourJapanesefrom ancientera(Heian,1,000). InEdoera (1603‑1868),malequailswerehousedinSamuraiclassasapetof''Singingbird''toencouragehismind・

Afterthat,thesebirdsweredomesticatedforpoultryunderthepolicyofMeijigovernment,JAPAN.

HowevelltheJapanesequailasanexperimentalanimalwaslatelypaidattentionintheU.S.Aa氏er1950.

Since1960inJapan,theJapanesequailhasbeenimprovedforanexperimentalanimalbyusingthe domesticated ones. TheNationallnstitute丘)rEnvironmentalStudies(NIES)hasexploited the JapanesequailasausefulexperimentalanimalforenvironmentalsciencebycooperatingwithTohoku Universitysince1980.

Bytheway,theJapanesequail(CotumL'xノ如 onL'ca)wasselectedforhigh (H)andlow (L)antibody productiontoNewcastlediseasevims(NDⅥ vaccinemorethan50generations.AndH andLquailshad beenr.eachedtheplateauofNDVIHI(Haemo・agglutininInhibition)titerat24thgeneration・Thestructure ofmajorhistocompatibilitycomplex(MHC)genesoftheH andLquailswasexaminedand丘)undthat eachlinewasindependentMHChomozygousline.

Duringtheselectionexperiment,theseH andL quailswereexaminedintheirutilizationasan experimentalanimalforEnvironmentalScienceasfollows:

1)Thereproductivetraitssuchaseggweight,eggproduction,hatchabilitydeclinedinH andLlinequails, andH linebecameextinctat53generationduetoinbreedingdepression. However,Llinehasbeen bredasinbredquailforavianexperimentalanimal,becauseofhatchabilityrecoveryhappenedat43 generation.

2)Amongthe4species(mice,rat,hamster,quail),theJapanesequailshowedhighestsensitivitytoNO2.

0nthecontrary,thesensitivityto03Waslowestinquails.Ithasbeensuggestedthattoxicmechanisms ofthosegasesal・edifferentfrom oneanother.

3)Theenvironmentalhormone(Endocrinedisruptingchemicals,EDCs)wasexaminedinthehybridegg ofquailsinaccordancewiththeOECDguideline. TheseresultsdemonstratethatEDCssuchasDDT, I)ieldrinandTBTOwilldamagethereproductiveorgansandmaketheeggshellsthininadultfemale.

Inconclusion,thesequailsareusefulnotonlyasapilotanimalofpoultry,butalsoasanexperimental animalforenvironmentalstudies.

1. はじめに

ニホ ンウズラ(JapanesequaiI,Coturm'xjaponl'ca, ウズラ と略)は、 日本原産の鳥であ り、明治時代 に 世界 に先駆 けて家禽化 され、我が国では主 に採卵用 に約 650万羽飼養 されているが、実験用 ウズラは少 ない。ウズラの実験動物化 は1950年頃に米国で始 ま

り、我が国では1966年 より精力的 に推進 されて きた。

ウズラの特徴 は、性成熟 に達す るまで醇化後約6週 齢 と短 く、小型で、産卵能力が高 く、体質が強健で あ り、密飼 いに も耐 えるな ど、実験動物 としてマ ウ ス ・ラ ッ トに匹敵す る特性が認め られるが、一方、

近交系の作出は困難 とされている

最近

、O E C D

(経済開発協力機構 ) は鳥類生態影響 試験 用 と しての ウズラの有用性 を認 め、化 学物質の リスク評価用動物 に推奨 している ウズラは、化学 物質の リスク評価用 として従来か ら使用 されている

ボブホワイ トの性成熟期間 (約6ケ月) よ り短いた め、化学物質の次世代影響試験 に最適であることが 世 界的 に認め られて きている また、野生 ウズラが アフリカか ら北欧 まで広 く世界 に生息す ることなど か ら、環境指標動物 としての有用性 も高 く、野鳥へ の リスク評価の外挿 も容易 と考 えられている

国立環境研究所 (NIES)動物実験施設では、環境 科学研究用実験動物 としての ウズラの有用性 に注 目 し、1980年以来 ウズラの実験動物化 を行 って きてい る 現在、5系統のNIESウズラで遺伝 的 ・微生物的 純化 を推進 してお り、 これ までに各種の環境汚染物 質暴露 に対 して再現性の高 い感受性試験結果が得 ら れている

そこで、今回はNIESウズラのこれ までの系統造成 の経過 と、それ らを用いたⅦ1C遺伝子解析、大気汚 染 ガス感受性試験 及び環境 ホルモ ン感受性試験 で得

(2)

られた結果 について紹介 し、今後の研究展開につい て述べ る

2.

環境科学研 究のための近交系 ウズラの作 出 近交系 ウズラの系統造成

実験 用 ウズ ラは 日本 生物 科 学研 究 所 (日生研 , NIBS)、大学 などで系統維持 されているが、血縁関係 の明確 なウズラ系統 は少 ない。マ ウス ・ラ ッ トな ど の晒乳類実験動物 は、近交系 を作 出す るため に兄妹 交配が採用 されているが、鳥類の場合は兄妹交配 を 20世代以上続けることは困難である そこで、NIES では、循環交配 (RotationalCross)によ り徐 々に 近交係 数 を上昇 させ る方法 で ウズ ラ を近交化 し、

1980年以来、現在 まで5系統のNIESウズラで遺伝 的 ・微生物 的純化 を推進 している その中で、ニュ ーカ ッスル病 ウイルス不活化 ワクチ ンに対す る抗体 産生能

( MV ‑ H I

抗体産生能 と略)の高

( Hi g h 、H )

及 び低 (Low、L)方向へ選抜 したウズラ系統の造成の 経緯 について初めに示す。

N D V ‑ H

I抗体産生能の高

( H

l)系 ・低

( L

l)系‑

の 1回 目の選抜実験 は、1969年か ら東北大学農学部 で実施 されたが、両系統 とも繁殖 能力の急激 な低下 のため、系統の維持が困難 とな り、1975年 に選抜8 世代 目で中止 した。そ こで、高橋 らは2回目の選抜 を東北大学で9世代 まで行い、引 き続 き1980年か ら NIESで50世代以上 に亘って選抜 を継続 し、循環交配 によ り閉鎖系近交集 団

( H

2及び

L

2系) として維持 して きた。なお、L2系は現在 まで68世代 を更新 し てお り、世界的に も高度 な近交系 ウズラと考 え られ る なお、H2系は53世代 で絶滅 し、次世代 を維持 することはで きなかった。

近交退化 と雑種強勢

近交系 ウズラ

( H

2及び

L

2系)の52世代 に亘る 平均醇化率 を解析 した結果、H2系は長期低落 (絶滅 型) を示 した。一方、L2系 は38世代 まではH2系

と同様の低落傾向 を示 したが、それ以降は卵打ヒ率の 上昇 (回復型) を示 した。す なわち、近交系 ウズラ は同 じ基礎集団か ら出発 したにも拘 わ らず、20年以 上の選抜 によって絶滅型 と回復型 に分醒 した。 また、

両系統 とも醇化率低下の要因 となる肱発生 中止

( 肱

死亡)率では発生初期死亡率 は減少す るものの、発 生後期死亡率 は増減 を繰 り返 した。 なお、死 ごもり 率の推移 には一定の傾向は認め られなかった。

次 に、H2及び L2系 ウズラの繁殖能力の推移 につ いて各繁殖形質ごとに比較 した結果、醇化率以外 に

も産卵率 ・卵重な どが選抜世代 に伴 って減少す る傾 向が認め られた。近交退化の指標 として取 り上 げた 適応度指数 (Fitnesslndex、FI:産卵率 ×受精率

×醇化率 ×育成率)及び3形質か ら算出す る簡易 な 適応度指数 (FIa:産卵率 ×受精率 ×醇化率)につ いて も検討 したが、FIaはFIと同 じように推移 した ことよ り、FIaで も総合的な繁殖能力の退化量の指

標 になることが示 された。

なお、近交系 ウズラ(絶滅型 :

H

2系 ・回復型モデル :L2系)の38世代 までの選抜途中でのデー タを用 いて遺伝解析 した結果、遺伝 的荷重 は両系 とも3以 下の値が推定 された (木村正雄 岐阜大学名誉教授 か らの私信)。 この値 はこれまで報告 された家禽ウ ズラの値(5‑6)と比較 して少 な く、近交の過程で劣 性致死遺伝子が淘汰 されたことが推察 された。

ウズラの近交退化現象 はSittmanneJaノ.(1966)1) によっては じめて検討が加 え られ、その結果、兄妹 交配 によって近交世代 を進めた場合、受精率、醇化 率、育成率 に著 しい退化現象が現れ、近交系の作出 は3世代 で困難 になることが認め られている 新城 ら(1971)2)は近交係数10%増加あた りの各生産形質 の退化量 を検討 し、受精率4.4%、醇化率5.6%、育 成率5.1%、産卵数1.7個、卵重0.12g低下す ること

を報告 した。Kawahara (1972)3)は受精率9.1%、醇 化率11.3%、産卵率7.4%、卵重0.03gの低下 を認 めた。その後 も、多 くの国内外の研究者によって検 討が加 え られ、いずれ も受精率、醇化率、育成率 な どの繁殖形質 に著 しい退化現象がみ られたことが報 告 されている (猪 ら,19854);佐藤,19925))。

H2及びL2系 ウズラの50世代 での近交係数 につ いて集団の有効 な大 きさか ら算出 してみると、いず れの系統 も70%の値 を超 えることが推定 されている (TakahashietaJ.,2004)t与)。 しか しなが ら、H2系、

L2系 ともこれ まで報告 されたウズラの近交退化量 (近交係数10%増加当た り)に比較 して繁殖能力低下 の程度 は少 なかった。特 に、L2系では38世代付近 のボ トルネ ックの後 に、醇化率が向上 してお り、

L2系での繁殖能力 は現在 で も高い値 を維持 してい る この ことよ り、L2系ではさらに近交化 を推進 す ることが可能である と考 えられる

今後、L2系 ウズラの血統関係のデー ターベース より、個体毎の近交係数 を求めるとともに血縁関係 を解析す ることにより、遺伝的寄与率の高い個体

(スーパーウズラ)が抽 出 される可能性がある

これ ら一連 の系統造成 プロセスの解析 によ り、絶滅 回避のための最適ペア リングや スーパーウズラの特 敬 (繁殖能力、抗体産生能 など) を明 らかに し、今 後 は希少鳥類の絶滅回避‑の救済策 を提示 したい。

雑種強勢 に関す る研究の一環 として、49世代 目の H2及び L2系 を用いて、近交系 間交雑 による雑種化 を試みた。その結果、特定 の組合わせ を除いて雑種 強勢 は発現 しなか った。 この ことか ら、近交化が進 み近交退化が顕著 になった時点では雌雄の遺伝 的相 性 が重要 とな り、雌雄の遺伝 的組合せの良否 によっ て雑種強勢の発現が左 右 される と考 えられる す な わち、最良のヘ テ ロ‑ シス効果 を得 るため には、雌 雄の遺伝構成 を最適化す ることが必要 となる。また、

遺伝構 成が異 なってい る とみ られ る他 集 団 ウズ ラ (秋 田県産放鳥用)雄 とL2系雌 とを雑種化 した場合 では醇化率の向上がみ られ、 これは遺伝 的多様性 の 増加 に起因 した と考 え られた。一方、行動的相性が

(3)

問題 とな り、放鳥雄のツツキな どによりL2系雌の6 割 に産卵の低下が認め られ、雄の気性 、攻撃性 など が問題 とされた。そこで、近交化 した鳥類集団の繁 殖能力 を回復 させ る場合は、相性

( Ni c ki n g )

を事前 に診断す ることが重要 とな り、 しか も遺伝 的相性 と 行動的相性の良い雌雄 を見極めて組合わせ ・交配す

ることが、繁殖率向上の必要条件 とみ られる

鳥類が絶滅す る兆候 のひ とつ として、卵殻が薄 く な り破卵が増加 し、最終的 には醇化 しな くなること が挙げ られるH2及びL2系で も、近交 に伴い卵重 が有意 に軽 くなっている 特 に、H2系 はL2系 より も卵重が軽いばか りでな く、卵形が不安定 になった り、軸対称性 に異常が現れるなど、絶滅の兆候が現 われている様子が伺 えた。また、H2系は勿論 のこと L2系で も家系 によって醇化率 にバ ラツキが認め ら れ、 これ らの原因のひ とつ として卵殻形成の異常が 考 え られた。L2系雌での卵形質の調査結果 よ り、卵 殻強度 は卵殻厚 ・卵殻重 と正の相関があ り、 また卵 殻質 (ポア構造) とも関連す ることが示 された。卵 殻強度 は個体差が大 きく、 しか も同 じ雌か らの卵 で も産卵 日により異 なることが認め られているが、遺 伝要因 (鶏卵 では遺伝率が約

3 0 %

と推定)の関与 も 示唆 されている そこで、近交系 ウズラの卵形質 を 向上 させ るには、卵殻強度の高 い値 (平均

1 k g / c m

2

以上) を示す家系か ら雌 を個体選抜す る とともに雄 の後代検定 を行 い、遺伝的 に卵殻強度の高い家系 を 作 出す ることが有効 とみ られ る

また鳥類の絶滅過程 では、繁殖集団の有効 な大 き さが′」、さ くな り、近交係数の上昇や大 きな遺伝 的浮 動が起 こ り、それに環境変動 に対す る適応力の低下 が加 わ り、近交退化が急速 に進 んでい くと考 え られ る。そ こで、希少動物種の絶滅 を回避す るためには、

環境 に適応 しなが ら自家繁殖が可能 な レベル まで集 団の有効 な大 きさを回復 させ ることは有効 な手段 と 考 え られ、今後の重要 な研究課題 と考 え られる

3.

近交系 ウズラを用 いた

M H C

遺伝子解析

主要組織適合性遺伝子複合体

( M a j o rHi s t o c o m p a t i

‑ bi l i t yC o m pl e x;

MHC)は、脊椎動物での獲得性免疫 機構 及 び自然免疫機構 において重要 な役割 を担 って いることが知 られている 鳥類 は、液性免疫担 当器 官 として ファブリシウム嚢

( B u r u s ao fF a b u ri ci u s

,

B F )

を持 ち、 また細胞免疫の中枢器官 としての胸腺 は頚椎 に対称 して存在 しているため、肉眼での摘出 も容易であるな ど、免疫応答機構 の解明 には晴乳類 よ り有利 な面 を持 っている しか も、鳥類 は生物の 進化 を研究する上で晒乳類の次 にランキ ングされて お り、特 に免疫応答機構 の進化学的研究 を行 う上で 重要 な位置 にある

現在 、動物のMHC解析 は東海大学医学部 (猪子研 究室)を中心 として進め られてお り、これ までの Ⅶ1C の生物進化論 的考察 による と、 ウズラはニ ワ トリよ

りも野鳥 に近い とみ られている

M H C

(クラス

Ⅰ・Ⅲ・

Ⅳ)

の遺伝解析か ら、ニ ワ トリは1万年前 より家禽化

されたためMHC遺伝構成は単純 にな り過 ぎているが、

ウズラの

M H C

は野鳥 と同様 に多型性 に富 むため免疫 応答機構 の進化 を解明す るの に有用であることが示 唆 された

( S hi i n a

er∂ノ.

, 1 9 9 5

)7)0

N D V ‑ H

l抗体産生能の高低 を指標 として

5 0

世代以 上 に亘 り選抜 されたH2系、L2系 ウズラは、既 に抗 体価がプラ トーに達 しているため、抗体産生能 に関 与す る遺伝子 (クラス

Ⅲ)

が各々ホモ化 しているこ とが期待で きる そ こで、東海大学医学部の協力 を 得てH2及びL2系 ウズラのMHCの遺伝構成が均一か 否か により、両系統の遺伝学的純化の程度 について 検証 した。

S hi mi z u

efaノ.(2004)8)はH2系、L2系 ウズラを 用いて MHCクラスⅡのB遺伝子 をゲノム解析 した結 果、系統内では全ての個体が ホモ化 していることを 報告 した。 また、小 山 ら

( 1 9 9 3

)別は

M H C

遺伝子のサ ザ ン解析 を行 い、H2及びL2系 ウズラの

R F L P

バ ン ド パ ター ンは系統 間で大 きく異 なる ものの、系統 内で は全例が同一であることを明 らかに した 。

こjtらの MIiC遺伝子解析 よ り、H2及びL2系 ウズ ラは

Ⅶ1 C

H o m o z y g o u sLi n e

であることが確認 され、

高度 な レベルでの遺伝 的純化が裏付 け られた。今後 、 H2及びL2系 ウズラでのMHCの多型性や遺伝的均一 性 と免疫応答機構 の関係 について解明す ることは重 要 な課題 である

4.大気汚染 ガス感受性試験

一般 に、鳥類の ガス感受性 は高い と言 われている が、定量的な暴露実験 を行 った報告 はない

。N I E S

で は高性能暴露チ ャンバーを使用 した大気汚染 ガスの 暴露実験が可能なため、主 な大気汚染 ガスのひ とつ である二酸化窒素

( N

O2)とオゾン (03)のガス感受 性 を鳥類 と晒乳類で比較 した。

N 0

2

2 0 p p m

3

日間暴露 した結果、ウズラはハム スター ・マ ウス ・ラッ トに比べて著 しく高い

N

O2感受 性 を示 し、雌雄 とも約半 日で

9 6 %

が死亡 した。なお、

ハムスターは約

2

日半で

7 0 ‑8 0 %

死亡するものの、

マ ウスは雌雄 とも全 く死亡 しなかった。 これに対 し て

0

〕の

5 p p m

を4日間暴露 した場合、マ ウス ・ラッ ト は

2

日以内に

1 0 0 %

死亡 し、ハムス ターは4日で

8 2 %

死亡 したのに対 して、ウズラは極めて感受性が低 く、

4日で10%が死亡 したに過 ぎなかった。

す なわち、動物のガス感受性 はガスの種類 によっ て大 きく異な り

、 N 0

2

0

3ではウズラへの毒性発現機 序が全 く異 なることを明 らかに した (詳細 は、岡山 実験動物会報第9号 を参照)。今後、各動物種 におけ る様 々な環境汚染 ガスの毒性発現機構の解明が望 ま れる

5.環境ホルモ ン感受性試験

ウズラでの鳥類生態毒性試験法の国際標準化

NI E S

動物実験施設では、鳥類での環境 ホルモ ン(内 分泌撹乱化学物質

、E D Cs

)などの リスク評価 を行 う

(4)

ため に、実験鳥類 (ウズラ ・ボブホ ワイ ト) を用い て生態影響試験法 の国際標準化 を行 うこ とが要請 さ れている そ こで、OECD(経 済 開発協力機構 )の鳥 類生態毒性試験法 (食餌毒性試験No.205・繁殖毒性 試験No.206)を参考 に しなが ら、 ウズラでの環境 ホ ルモ ン感受性試験法 を整備 した。最初 に、市販 の ウ ズラ用配合飼料成分 を基 に して、植物性 ホルモ ン低 減化飼料 (PhytoestorogenLowDiet,PLD)をオ リ エ ンタル酵母工業(相 との共 同研 究 で開発 し、次 に幼 雛 ・中雛 ・大雛 .成 ウズラ用 の標準飼育管理マニア ル (StandardOperatingProcedure,SOP)を作成 し た。また、NIESウズラ系統の なかか ら白卵系(wE系, 日生研 由来),伴性褐 色羽装系(Br系,ブラジル由来) 及びmV‑HI抗体産生能低応答系 (L2系,国環研 由来) を選択 し、系統 間交雑等 による規格種卵 の供給体制 を整 えた。 なお、 ウズラ用飼育器材 の開発 ・改 良は 継続 して行 い、OECDガイ ドラインでの鳥類生態毒性 試験 に適 合 させ た環境 ホルモ ン感受性試験法の イン

フラを整備 した。

ウズラ発生卵 での環境 ホルモ ンス クリーニ ング 手法の開発

NIES維 持 系統 で あ る Br(伴性 褐 色 羽装 系 )雄 × WE(白卵系)雌か らのFl種卵 (白卵 ) を用 い、環境 ホ ルモ ンをスクリーニ ングす る新規手法 を開発 した。

発生0・10日令 の ウズラ規格種卵 (10±1g)を用い て合成女性 ホルモ ン (ジエチルスチルベ ス トロール、

DES)、農薬 (PCB、DDT、BHC)な どの投与試験 を実施 した。

Kamataefaノ.(2010)10)は、 この試験法 の有効性 を 国際的 に明 らか に し、 ウズラ発生卵 が環境 ホルモ ン の スクリーニ ングに極めて有効 であ り、被験物質の 卵 内投与 によ り、雌雄生殖器 の異常 や卵 殻が薄 くな ること等 を明 らか に した。

この際、DESを陽性対照群 とす ることによ り、化学 物 質の環境 ホルモ ン作用 (環境 リス ク) を量的 に評 価す ることが可能 となったので、種卵へのDES投与 によ りFlウズラ雌 に出現 した卵管異常 、卵殻質の脆 弱化等 の判定 に よるウズ ラ肱 の発 生異常 の量 一反応 関係 について詳細 に明 らか にす る予定 である

成 ウズラでの環境 ホルモ ンスク リーニ ング ニ トロフェノール類 はデ ィーゼル排気粒子 (DEP) や居薬 (フェニ トロチオ ン)な どに含 まれてい るが、

最近、環境 ホルモ ン作用のあるこ とが指摘 されてい る。今回は、3‑メチル‑4‑ニ トロフェノール(PNMC) を成 ウズ ラに投与 した結果、PNMCがエ ス トロゲ ン作 用 と抗 ア ン ドロゲ ン作用 を示す こと、 またウズ ラの PNMCの感受性 (LD50)はマ ウス ・ラ ッ トよ り2倍以

上高 い ことが明 らか にされた (李 ら、2004)ll)。 カワウ(ペ リカ ン目 ・ウ科 に分 類 され る鳥類 の一 檀)などの甲状腺機能低下は、ダイオキシ ン類 の蓄積 が原 因であ ることが報告 されてい るが、その作用機 序 は明確 にされていない。そ こで、 ダイオキシ ンに

よる鳥類の 甲状腺 の機能低下 と生殖能力 ・免疫応答 に及ぼす影響 を明 らか にす るため に、L2系 ウズラを 用いて検証 した。 まず 、甲状腺機能 を実験 的に低下 させ るため、甲状腺 ホルモ ンを抑制す る機能 を持つ2

‑ メルカプ トー1‑メチル イ ミダゾール (メチマ ゾー ル) をL2系雄 ウズラ (15週令) に4週 間飲水投与 した。 その結果 、体重 と精巣重量 が有意 に低下 し、

副 腎重量 は有意 に増加 した。 また、血 中のテス トス テ ロン ・コルチ コステ ロ ン ・イ ンヒビン濃度は メチ マ ゾール投 与 区で有意 に低下す ることがわか った。

さ らに、 メチマ ゾー ル投 与 区で は SRBC(SheepRed BloodCell)抗体 産生能 も有意 に低下 した。 この よう

に、 ウズラでの実験 的 な甲状腺機能低下 は性腺 ・副 腎皮質 ・免疫応答 の機 能低下 をもた らす こ とが検証 されたこ とよ り、前述 の カワウの知見 と併せて考察 す る と、 ダイオキ シンは鳥類 の 甲状腺機 能 さらには 生殖 、免疫応答 に も影響 を与 える可能性が あること が示唆 された (斎 田 ら、2004)12)。今後は、 ダイオキ シ ンの ウズ ラの生体 に及ぼす直接 的 な影響 について 明 らか にす る必 要があ る

6.今後の研 究展開

国立環境研 究所 (NIES)において、遺伝学 的お よ び微生物学的 に制御 された ウズラは、様 々 な環境科 学研 究 の実験材料 と して利用 されて きた。特 に、長 期循環交配 による近交系 ウズラ系統が造成 され たこ とで、マ ウスや ラ ッ ト等の晒乳類実験動物 に匹敵す る鳥類実験 動物 と しての ウズラの価値 は高 く評価 さ れている。NIES近交系 ウズラは、環境汚染物質の鳥 類‑ の影響 を評価 す るための試験系 に用 い られ るだ けで な く、近交退化や雑種強勢 といった生命現 象 を 実験 的 に解析す るための有用 なバ イオリソース とし て利用で きる ことを示 した。30年以上の歳月 を費や して実験動物化 に成功 した この ウズ ラは、今後 、生 物 に共通 した普遍原理 を解 明す るためのモデル生物 と しての役割 を果 たす ことを一層期待 されてお り、

多 くの研 究分野 における実験材料 として、その需要 は高 まる もの と予想 され る

鳥類 は卵殻 内で旺発 生 の大部分が進行す るこ とか ら、母体内で胎盤 を介 して発生す る晒乳類 とは異 な り、発生過程 の観察は格段 に容易 である 古 くはア リス トテ レスに よって発生学研究 の材料 と してニワ トリ肱が用 い られ たこ とか らも、生物の ̀形づ くり' を知 るためのモデル動物 と して、鳥類肱が用 い られ て きた長い歴史が ある その結果、形態学 な らびに 奇形学 に関す る知見 は、他 の動物種 に比べ て圧倒 的 に豊富 であ る また、酵卵後 のいか なる発生段階の 肱 を得 るこ とが で き、卵殻 に小 さな穴 を開ける こと で、そ こか ら微 量注入や移植 な どの肱操作 も容易 で あるため、実験発生学の進展 に大 きく寄与 して きた

特筆すべ きは、DNAの組織化学染色であ るフォイルゲ ン染色 に、ニ ワ トリ細胞 とウズラ細胞 とで反応性 の 違 いがある ことが発見 されたことである(LeDouarin, 1973)13)。 この発見 によって、発生生物学上の根本命

(5)

題 である未分化細胞の発生能 を解析す るために、ニ ワ トリ肱 とウズラ肱 との間で細胞移植操作 によるキ メラ動物の作 出 とい う新 たな発生工学技術が考案 さ れた (LeDouarinandTeillet,197414);LeLievre andLeDouarin,19755))。ニ ワ トリーウズラのキ メ

ラ個体 において、細胞の発生運命 を解析 で きる とい う、 この画期的な手法 を用いるこ とで、高等動物の 神経系や免疫系 などが どの ように発生 して くるか を 明 らかに したことはよ く知 られている (LeDouarin,

1988)16)。 この ように、 ウズラはニ ワ トリと同様 に、

発生生物学研究分野 においては、実験動物 としての 有用性 は広 く認識 されている

近年、実験動物の維持管理のための膨大 なコス ト と設備の削減が求め られ、動物福祉 の観点か らも実 験動物数の削減、培養細胞 などを用いたinvitro実 験 系への転換が提唱 され始めている その中で も、

とりわけ生殖発生毒性試験 な どは、 ヒ ト肱 (胎児) で臨床試験 を行 うことは倫理 的に不可能である と同 時 に、次世代個体への影響 を調べ る必要があること か ら、動物実験以外の試験法 はほ とん どない とされ ている そ こで、動物個体 を、いわゆる丸 ごと使用 す ることの代替 として、我 々は、invitroと invivo

の中間 に位置す る鳥類肱 (inovo)試験系の可能性 に期待 している 実験動物化 された近交系 ウズラで あって も、ほぼ毎 日産卵す るため、受精卵 (肱 )を 得 るため に母体 を傷つ ける必要が ない点 は注 目に値 す る 将来、三次元構造である肱 (胎児) を、試験 管 内で発生 させ、形態形成異常や発育不全 などの観 察 を可能 にす る動物肱の体外培養法が確立 されれば、

迅速 かつ効率的 に生殖発生毒性試験 を行 うことが可 能 となるであろう

これ までに、子宮 内で発生す る晴乳類肱 の体外培 養 は試み られて きたが(New,197817);Hsu,197918))、 成功率が低 く、操作が煩雑 で、妊娠全期 間の培養 に 成功 していない。他方、鳥類肱の培養 も比較的古 く か ら試み られてお り、Perry(1988)19)は、代理の卵 殻 を用いることによ り、1細胞期 か ら醇化 までの全 期 間の肱培養法の開発 に成功 した。 しか しなが ら、

卵殻 を用いない完全なinvitro鳥類肱培養法は確立 さjtていない。最近、Kawashimae{aJ.(2005)20)は、

人工容 器 と人工膜 を用いて、放卵 直後 の受精卵 (旺 盤葉)か ら肱形成が完了す る貯卵約3日までの鳥類 肱培養法の開発 に成功 した。 この肱培養法 はニ ワ ト

リ旺お よびウズラ肱の両方 に適用可能で、現在 、鳥 類初期発生 をリアル タイムかつ連続観察 を可能 にす る撮影技術の開発 にも取 り組 んでいる 今後 、鳥類 において、受精か ら卵糾ヒまでの肱発生の可視化技術 が完成すれば、発生初期 の化学物質暴露 と肱発生お よび次世代 の生殖機能 との関連性 についての総合的 な評価が可能 となるだけでな く、近交退化 に起因す る発 生初期 での肱死亡、形態異常お よび発生遅延等 について表現系 レベルでの詳細 な解析が可能 となる

肱発生 な らびに次世代 の生殖能 に及ぼす環境要因 と 遺伝要因を解析す るための実験系 を確立 した場合、

それ を用いた様 々な基礎 ・応用研究が考 え られるが、

それ らの実験再現性 を確保す るため に、近交系 ウズ ラ系統 を開発 した意義 も再び確認 されるであろ う

環境科学研 究 は、極めて幅広い領域 にわたってお り、学際的色彩が強い反面、現象 を実験 的に証 明す ることが困難 な場合が少 な くない。それ に も関わ ら ず、環境問題 は今や地球的規模で起 ってお り、それ らを鋭敏 に感知 し、環境汚染の拡大 を未然 に防止す る方策の確立が早急 に望 まれている 環境問題 にお ける因果関係が複雑 であればあるほ ど、地道 な実験 的解析 による知見の蓄積 と試験結果か らその意味 を 外挿す ることが重要 となる 鳥鯖月引ま、肱形成期の 実験操作 に優れ、化学物質の暴露の時期、頻度、継 続時間について、母体の影響 を排 除 した肱への直接 的な定量が可能 とい う大 きな利点があ り、催奇性物 質等 による異常 を迅速 に検知で きる可能性 を示 した。

今後 、 ウズラゲ ノムの解析が進めば、分子生物学的 手法 を用いた遺伝子発現等の解明が可能 となる ス トゲノム時代 に生命現象の根本原理 を追究す るベ ーシ ックサ イエ ンスと安全 な環境 を保全す る レギュ ラ トリーサ イエ ンスの両方 を見据 えつつ、今 回、環 境科学研 究用 に開発 したNIES近交系 ウズラの有用性 が広が ってい くことを期待 している

7.

あわ りに

鳥類 は環境 の変化 に鋭敏であることが知 られてお り、 レ‑シェル ・カー ソン女史は 「沈黙の春」で、

農薬 などの環境汚染物質の影響で "春 になって も鳥 は鳴かない" ことを告発 したことは、余 りに も有名 である しか しなが ら、野鳥での環境汚染物 質の生 態影響評価 は環境要因 ・遺伝背景が複雑 なため、定 量的 にその リスクを評価す ることが困難である こ の ような背景の下で、化学物質のみ を定量 的に評価 す る とともに、その次世代影響 について解析す る鳥 類毒性試験法の必要性が増 して きてお り、世界的に ウズラ‑の関心が高 ま りつつある。NIESでは、ウズ ラの遺伝 的 ・微 生物的純化 を継続 しているが、特 に L2系 ウズラは近交化が最 も進んでお り(循環交配で 68世代 を更新 中)、最新のゲノム解析技術や発生工学 技術 を駆使す ることで、生態影響評価や近交退化現 象の解明などのモデル動物 として、新たな展開が期 待 されている

最後 に、本稿 を纏 めるに当たって適切 な御助言 と 校正 をいただいた、岡山大学名誉教授 の佐藤勝紀先 生 に深謝す る とともに、特別講演 に招待 していただ いた岡山実験動物研究会の皆様方 に御礼 を申 し上げ ます。

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参照

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