家庭科教員養成における調理学のパフォーマンス評価の検討
−家庭科授業におけるルーブリックの作成−
駒 津 順 子
*Examination of Performance Assessment of Cooking Science on Home Economics Teacher Training
−Creating Rubrics of Educational Evaluation in Home Economics Class−
Junko KOMATSU
1.はじめに
調理学において食べ物のおいしさは,食べ物の特性である化学的・物理的要因や,食べ る人の環境要因・生理的要因・心理的要因などが複雑に関連して評価されている1)。
中学生における味覚と食意識および食行動の関係で鈴木ら2)によると,味覚感受性は食 生活の総合的な結果であり,健全な味覚能を養い保つためには,日常的に栄養バランスの とれた食物摂取とインスタント食品やファストフード等の濃厚な味の食品の過剰摂取を控 える行動が重要であると示唆されている。また,ウィルソンによると3),特定の食べ物の 味の好みを決定するのは遺伝子ではなく,味覚とは無数の社会的な影響が複雑にからみ あってできあがったものであり,好き嫌いを変えられる余地は大いにあるといわれてい る。味覚が不変のものでないということは,そこから食べる喜びを体験し,適切な栄養摂 取やよい健康をつくることが可能であると考えられる。
このような教員養成課程における調理学などの学びを,家庭科授業にどう生かすのか,
目標をどう定め,どのように評価するかについては,三藤ら4)が教科の専門的な知識を深 く理解することが重要であると述べている。すなわち,永続的な理解を検討することで,
生徒の知識・技能を活用し課題を解決する思考力・判断力・表現力を評価できるパフォー マンス課題を設定し,評価を行う手立てとなるからである。ここでいう永続的理解とは,
逆向き設計論でいうところの理解であり,大人になって知識やスキルの詳細を忘れてし まっても,なお残っているべきであるような重要な理解を指し,教科内容の中核部分をな すため,教科の専門的な知識を深く理解していないとなかなか文章化することができない とされている5)。なお,逆向き設計論とは西岡により6),単元設定やカリキュラム全体の 設計を行う際に,「求められている結果(目標)」,「承認できる証拠(評価方法)」,「学習 経験と指導(授業の進め方)」を三位一体のものとして考えることが提唱されていて,評 価規準だけではなく評価方法を明確にしておくことを指摘されている。また,パフォーマ ンス評価に用いるルーブリックとは,成功の度合いを示す数レベル程度の尺度と,それぞ れのレベルに対応するパフォーマンスの特徴を記した記述語(descriptors)からなる評
価基準表7)で示すとされている。
何のためのルーブリックを考えるのかについて石井は8),能力・学習の質と評価方法と の対応関係において,「知識の有意味な使用と創造」というレベルのポイントは,「真正の 学習(authentic learning)」,すなわち,その領域や分野の本質的で一番おいしい部分の エッセンスを学習者自身が体験し,その内容を学ぶ意味を実感するような学習の機会を保 証することにあるとしている。ハートによると9),真正の評価を設計する際に重視される ことに,実生活や学際的な課題を反映していることや,生徒の多様な能力や学習スタイル,
経歴などを認め,尊重することがあげられている。
さらに石井は10),教科指導における「真正の学習」の追求は,「教科を学ぶ(learn about a subject)」授業と対比されるところの,「教科する(do a subject)」授業(知識・技能 が実生活で生かされている場面や,その領域の専門家が知る探求する過程を追体験し,「教 科の本質」をともに深め合う授業)を創造することを理解すべきであると述べている。と くに,ルーブリックのベースにある「パフォーマンス評価(performance assessment)」
の考え方が重要で,狭義には,現実的で真実味のある(「真正な(authentic)」)場面を設 定するなど,学習者のパフォーマンスを引き出し実力を試す評価課題(パフォーマンス課 題)を設計し,それに対する活動のプロセスや成果物を評価する「パフォーマンス課題に 基づく評価」を意味する。また広義には,授業中の発言や行動,ノートの記述から,子ど もの日々の学習活動のプロセスをインフォーマルに形成的に評価するなど,「パフォーマ ンス(表現)に基づく評価」と意味する11)とされている。生徒の学習の理解を深め,そ れを評価するためには,パフォーマンス評価のいずれの定義も重要と捉えられる。
年間の授業において,教科の目標→学年目標→単元の目標→授業の目標と目標を具体化 していき,1時間の授業で1〜2つの観点で評価することは12),その労力や方法にも限 界がある。数は少なくとも,良質なパフォーマンス課題を取り入れるためには,教科の専 門領域の追究が欠かせないと考えられる。
一方,家庭科の食領域におけるルーブリックは,三好ら13)によって,調理と献立を取 り上げ,基礎的・基本的な知識・技能を明確化し,それらを活用する場面を設定した題材 の開発および授業実践と有効性を検証されている。活用する場面における創意工夫する能 力の実現状況は,概ね満足できる状況となり実践化についての一定の方向性を得ている。
また赤﨑ら14)は,ルーブリックを用いた調理実習における基礎技能の習得のために,
授業実践を通した教師の生徒に対する評価と,生徒の自己評価および生徒同士の相互評価 が確実に行えるルーブリックの内容を検討している。生徒の実態をふまえた適切な基準や 文言を検討し,生徒の基礎的・基本的な技術の習得を目指したルーブリックの改善が課題 とされている。
そこで,本研究では,調理学のおいしさにかかわる題材を取り上げ,小学校から高等学 校までの,異なる校種および科目の家庭科授業のねらいやルーブリックを考える。それら を逆向き的手法により比較することで,家庭科の授業を展開するために,学生自らが調理 学の内容を深める視点を探ることを目的とした。
Table.1 Student status 2.方 法
(1)対象の学生
対象となる講義は,平成29年度前期に開講した中学校家庭科の必修科目「調理学」で行っ た。対象学生は,男子4名,女子9名の合計13名であった。本講義の対象は中学校家庭専 攻(以下,専攻学生)の2年生であるが,副免取得者はその限りではない。また,ルーブ リックの作成に重要な必修科目「中等家庭科教育法Ⅰ」の履修状況および各学生の専攻に
ついてTable.1に示す。調理学の履修時点では,2年生の中学校の専攻外生4名が,中
等家庭教育法を未履修の状態で,家庭科の学習指導要領等については受講していない。ま た,受講生の13名中1名が3年生であるが,本講義の履修時点では,全員が主免・副免を 含めて教育実習を未経験であり,学習指導案作成の経験も統一されていない。
(2)ルーブリックの作成
ルーブリックの対象とする学習内容は,調理学のはじめに学習する,食べ物のおいしさ の化学的要因とされる味について「閾値(=いきち,認知閾ともいう)」を対象とした。
閾値とは,味を感じることのできる最低の濃度と定義される1)。例えば,甘味は本能的に 好まれ,生命維持にも欠かせないため閾値は高く,反対に生命に危険と感じさせる苦みの 閾値は非常に低く,味の種類によって異なっている。そこで,閾値の違いに着目し,関ら による夏季登山時の塩味の味覚閾値の変化について14)閾値の参考文献として取り扱い,
ねらいや指導過程,評価の観点を検討した。
さらに,ルーブリックの作成や授業評価であるルーブリックの概念については,堀内の 家庭科の評価15)を参考文献として取り扱った。さらに,家庭科におけるルーブリックの 評価基準を考えるために,赤﨑らの調理実習における技能評価としてのルーブリック13)
を参考にした。また,三藤らが逆向き設計論において「永続的理解」を考える際には,学 習指導要領16,17,18)を読み直し,国立教育政策研究所が提示している「評価規準」19,20,21,22)
を参考にしていることに倣い,家庭科教科書23,24,25,26)にあわせてこれら2種の資料も参考 にした。
ルーブリックの作成は,専攻学生とそれ以外でグループ分けをし,校種や科目など異な る種類の内容を検討した。小学校専攻,および中学校専攻外生は,それぞれ小学校および
中学校家庭科の授業について検討した。また専攻学生は,中学校と高等学校の家庭科授業 について検討した。
その中で,中学校は専攻外学生と異なる内容として,中学校家庭科の調理に加えて他の 領域との関連性を持たせた授業内容を取り扱った。これは,学習指導要領に示される,生 徒がそれぞれの分野の内容について,個別的にとらえるだけでなく,生活全体を見通し,
総合的にとらえて課題を解決する方法を見い出すことなどを通して,よりよい生活の実践 に向けて重要とされる,学習の進め方に重点をおいた授業展開を狙ったものである。
高等学校は,共通科目「家庭基礎」および専門科目「フードデザイン」の2種類について 検討した。
これにより,ルーブリックの種類およびそれぞれの担当人数は,①小学校(3名),② 中学校(5名),③中学校(領域で関連性を持たせる;1名),④高等学校(共通教科「家 庭基礎」;2名),⑤高等学校(専門教科「フードデザイン」;2名)となり,5種類を それぞれのグループで作成した。
3.結果および考察
調理学の視点から検討した,5種類の家庭科授業のルーブリック評価基準をTable.2 に示す。③中学校(領域で関連性を持たせる)では,調理を含む食領域のほかに,領域A.
家族・家庭と子どもの成長より子どもに関する内容との関連で検討した。具体的には,
2015年に起きた食塩食中毒による1歳児の死亡事故の新聞記事を取り上げて授業を構成し た。
また,専攻学生は,ルーブリックの評価の記述語の他に,評価の観点においても検討を 行い,より具体的なルーブリックを完成させており,家庭科専攻学生による評価の観点を Table.3に示す。さらに,ルーブリックについて自己評価および他者評価の具体的記述例 をTable.4に示す。
①小学校家庭科は,登山前後の閾値の違いを導入として,五大栄養素の働きに展開した。
ルーブリックの記述語は具体性が乏しく,評価の観点が捉えにくい内容となっていて,自 己評価および他者評価のいずれでも,評価基準が小学生には難易度が高い内容であると振 り返っている。これは食事の役割や調理の基礎など,食生活の楽しさを捉える小学校家庭 科では,味覚や閾値といった,調理学の専門的な内容を取り扱う難しさを感じていたと考 えられる。さらに,自己評価では授業の展開だけでなく,評価方法を具体的に考え,目的 に沿った授業を進めることに気づく記述が見られた。
②中学校家庭科(ア)は,甘味や酸味など味の種類によって閾値が異なることをとらえ,
おいしさと栄養バランスについて展開している。他者評価で指摘があるように,中学生の 成長過程と関連づけ,そのことがルーブリックに反映された,わかりやすい評価基準となっ ている。
③中学校家庭科(イ)では,授業の導入で,乳児に一度の摂取で致死量に至る,小さじ 1杯の食塩を実際に計量している。これにより,中学生自身と子どもの栄養摂取量の違い に気づかせ,それぞれの立場に合った食事摂取基準を理解できるよう展開している。評価
もTable.3の評価の観点にもあるように,中学生と幼児の差をとらえ,活動量などを課
題とした,生活レベルに合わせた摂取量についての解決策を考えさせる,目標を設定して
Table.2Rubricevaluationcriteriaofhomeeconomicsclassfromthepointofviewofcooking
Table.3 Explanation of evaluation point of view by students majoring in home economics
Table.4 Concrete description example of self and others evaluation of rubric
いる。
④高等学校共通科目家庭基礎では,味覚の違いから身体のサインに気づくために,運動 後のスポーツドリンクの摂取を導入として人体への影響について展開し,栄養素の働きの 理解を深めることを目標としている。授業構成とルーブリックの関連では,Table.4に示 すように,子どもたちに理解させたいことを明確にした授業の過程と,子どもへの伝わり やすさを考えたルーブリックを作成している。
⑤高等学校専門科目フードデザインでは,学習内容に味覚そのものが取り扱われてい て,栄養素の学習も共通科目より深い内容での学習となっている。そこで,調理学で扱う 味覚や閾値と,栄養学の栄養素の中で塩味に焦点を当て,活動条件によって変化する味覚 の閾値から,同様に変化する栄養摂取量に注目している。他のルーブリックよりも,日常 生活全般では狭い範囲で,なおかつ食に関する専門分野を融合させた深い内容の展開に なっている。
①および②の専攻学生外の学生は,調理学の内容を家庭科の授業でいかに展開するかに ついて,難しいととらえる記述が多く見られた。また,全体を通して注目する記述の一つ に,校種や科目によって最終目標や評価の仕方が異なり,それぞれに適した指導の仕方が あることが理解でき,立場を考慮して指導していくことの重要性を指摘する内容が見られ た。
さらに,家庭科の授業の特性を捉えた視点として,ルーブリックの記述語に,現在の自 分に必要なことが書かれていることを重視する班が多く,ある意味,実生活に最も近い教 材といえる家庭科には,自分を主体とした理解を重視するべきかもしれない,とあげられ ていた。家庭科は,生活に生かす力である,活用型学力を育成することが目標である。活 用型学力の育成については,とくに専攻学生のルーブリックのなかで,題材の取り上げ方 や授業展開等が異なっていても,共通の概念として,現在の各自の生活に必要なことの捉 えを評価する記述語に表現されたと考えられる。家庭科教育法で重視している,生活課題 をとらえた家庭科を反映させた,授業の展開やルーブリックの作成になったと考えられ る。
パフォーマンス評価については,家庭科は,実生活において学習の成果を活用したこと を評価することができないという,教科としての矛盾に対して有効であると堀内は述べて いる26)。真正の評価論で提起されるパフォーマンス評価は,学習者の生活に合わせた現 実味のあるパフォーマンス課題を解決する行為を評価する。これにより,実生活で見取る ことのできない,活用型学力の習得状況を評価することが可能となるからである。
よりリアルな授業構成や課題の提起のためには,今回の課題で取り上げた調理学の閾値 に関連して,栄養学や食品学などの専門領域を総合的に捉える学習の深め方が,学生によ り指摘されている。これは,家庭科授業の評価の視点における,逆向き設計で捉えられる 本質的な問いの立て方との関わりにも通じている。
また,学生は,ルーブリックの作成から,最高と最低の評価の記述語の途中段階の基準 を考えることの困難さを課題にあげた。この解決策としては,三藤らによる27),ルーブ リックの根幹をなす,永続的理解の4つの条件が重要と考えられる。これは,色々な場面 で役に立ちそうな内容か,大人になっても身に付けておいてほしい「理解」か,学問の中 核部分で繰り返し登場するような内容か,子どもがつまずきやすい内容か,とされている。
そして,この条件を満たすためには,教科の専門的な知識を深く理解していないと,なか なか文章化することができないと指摘されている。
4.まとめ
調理学のおいしさの化学的要因の指標の一つとされる閾値について,小学校から高校ま での家庭科授業において,授業内容及びその評価のためのルーブリックを作成し,調理学
の内容を深める視点を検討した。
1.調理学の他の領域や,栄養学・食品学との関連をもたせた,総合的な視点が重要で あることが見出された。
2.生活課題のとらえを重視する,家庭科教育法の学習が反映された,校種や科目に適 するルーブリックをつくることができた。
3.ルーブリックの作成を通して,途中段階の評価基準を明確にすることが困難だとい う課題が明らかになった。
【引用文献】
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3)ビー・ウィルソン(堤理華訳)(2017).『人はこうして「食べる」を学ぶ』.p.28-72.
原書房
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5)西岡加名恵編著(2016).『「資質・能力」を育てるパフォーマンス評価 アクティブ・
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6)西岡加名恵(2016).『教科と総合学習のカリキュラム設計−パフォーマンス評価をど う生かすか』p.100.図書文化
7)成瀬尚志編著(2016).『学生を思考にいざなうレポート課題』.p.138.ひつじ書房 8)ダイアン・ハート(田中耕治監訳)(2012).『パフォーマンス評価入門「真正の評価」
論からの提案』.p.12.ミネルヴァ書房
9)石井英真(2015).『今求められる学力と学びとは』.p.39.日本標準 10)前掲,9).p.129
11)西岡加名恵(2003).『教科と総合に活かすポートフォリオ評価法〜新たな評価基準の 創出に向けて〜』.p.214.図書文化
12)三好智恵,岡陽子,活用する能力を育む家庭科の題材及び評価に関する考察−「ご飯 とみそ汁」の題材を通して−,佐賀大学教育実践研究,第33号,p.379-387(2015)
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14)関和俊,北村裕美,高木祐介,夏季の六甲山登山における塩味閾値の変化について−
食塩含浸濾紙の有用性の検証−,流通科学大学論集−人間・社会・自然編−,第28巻 第1号,p.77-83(2015)
15)堀内かおる(2013).『家庭科教育を学ぶ人のために』.p.160-170.世界思想社 16)文部科学省(2008).『小学校学習指導要領解説 家庭編』
17)文部科学省(2008).『中学校学習指導要領解説 技術・家庭編』
18)文部科学省(2010).『高等学校学習指導要領解説 家庭編』
19)国立教育政策研究所(2011).『評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考 資料【小学校 家庭】』
20)国立教育政策研究所(2011).『評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考 資料【中学校 技術・家庭】』
21)国立教育政策研究所(2012).『評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考 資料【高等学校 共通教科「家庭」】〜新しい学習指導要領を踏まえた生徒一人一人 の学習の確実な定着に向けて〜』
22)国立教育政策研究所(2013).『評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考 資料【高等学校 専門教科 家庭】〜新しい学習指導要領を踏まえた生徒一人一人の 学習の確実な定着に向けて〜』
23)渡邊彩子監修(2016).『新編 新しい家庭5・6』.東京書籍
24)佐藤文子他(2016).『新編 新しい技術・家庭 家庭分野 自立と共生を目指して』.
東京書籍
25)宮本みち子他(2016).『新家庭基礎 パートナーシップでつくる未来』.実教出版 26)江原絢子他(2013).『フードデザイン』.実教出版
27)前掲,15)p.170 28)前掲,4)p.21