ネットワーク犯罪における刑法上の諸問題
最決平成 23 年 12 月 19 日刑集65 巻 9 号 1380 頁及び 最決平成 24 年 7 月 9 日判時 2166 号 140 頁の検討
深 町 晋 也
Ⅰ 初 め に 議論対象の設定
Ⅱ Winny 事件について
Ⅲ 児童ポルノ改変 URL 事件について
Ⅳ 終 わ り に
Ⅰ 初 め に 議論対象の設定 1)
近時,ネットワーク犯罪を巡っては,刑法上の重大な問題を含む判例・裁判 例が相次いで出され,学説上も活発な議論がなされている。しかし,議論の対 象となっている事案自体が必ずしも理解が容易ではないのみならず,共犯論を 始め,刑法総論上の様々な問題が複雑に絡み合っていることや,民事法上の議 論との関係などもあり,議論すべき点が拡散し,見通しづらい状況となってい る。
そこで,本稿では,議論対象を整理し,明確化するという観点から,近時,
最高裁で問題となったつの事案,すなわち,ファイル共有ソフトである Winny を開発・提供した行為者に対する,著作権侵害の幇助罪の成否を巡る 事案
(最決平成 23・12・19 刑集65 巻号 1380 頁)及び,インターネット上の児 童ポルノ画像の改変 URL を自己の HP に掲載した行為を巡る事案
(最決平成 24・・判時 2166 号 140 頁)を元に,主として刑法総論上問題となる点を論
) 本稿は,日本刑法学会第 91 回大会(2013 年 5 月 25 日・26 日於中央大学)で開催され たワークショップ「ネットワーク犯罪」(オーガナイザー:千葉大学・石井徹哉氏)で話 題提供のために報告した原稿に,最低限の加筆修正を施したものである。したがって,
問題となる議論を包括的に検討したものではないことを,予め断っておく。
じることにする。但し,前者の事案については,最高裁の法律判断が示されて いるので,かかる判断の当否という観点からの検討が中心となるのに対して,
後者の事案については,最高裁の法律判断が示されていないこともあり,今後 のあるべき解釈論を模索するという観点からの検討が中心となる。
Ⅱ Winny 事件について 事案の概要と決定要旨
⑴ 事 案
本件の事案を単純化すると,被告人は,いわゆる P2P 技術を応用したファ イル共有ソフトである Winny を開発し,ウェブサイト上に公開して提供した ところ,正犯者が,当該ソフトを利用して著作物の公衆送信権を侵害する著作 権法違反の犯行を行ったため,被告人の Winny 提供行為が当該著作権法違反 の幇助犯に当たるとして起訴されたものである。以下では,やや長くなるが,
最高裁が判断の前提とした,原判決の認定及び記録にかかる事実関係を挙げて おく。
「本件は,被告人が,ファイル共有ソフトである Winny を開発し,その改良 を繰り返しながら順次ウェブサイト上で公開し,インターネットを通じて不特 定多数の者に提供していたところ,正犯者名が,これを利用して著作物であ るゲームソフト等の情報をインターネット利用者に対し自動公衆送信し得る状 態にして,著作権者の有する著作物の公衆送信権
(著作権法 23 条項)を侵害 する著作権法違反の犯行を行ったことから,正犯者らの各犯行に先立つ被告人 による Winny の最新版の公開,提供行為が正犯者らの著作権法違反罪の幇助 犯に当たるとして起訴された事案である。」
「⑴ Winny は,個々のコンピュータが,中央サーバを介さず,対等な立場
にあって全体としてネットワークを構成する P2P 技術を応用した送受信用プ
ログラムの機能を有するファイル共有ソフトである。Winny は,情報発信主
体の匿名性を確保する機能
(匿名性機能)とともに,クラスタ化機能,多重ダ
ウンロード機能,自動ダウンロード機能といったファイルの検索や送受信を効 率的に行うための機能を備えており,それ自体は多様な情報の交換を通信の秘 密を保持しつつ効率的に行うことを可能とし,様々な分野に応用可能なソフト であるが,本件正犯者がしたように著作権を侵害する態様で利用することも可 能なソフトである。
⑵ 被告人は,匿名性と効率性を兼ね備えた新しいファイル共有ソフトが実 際に稼動するかの技術的な検証を目的として,平成 14 年月日に Winny の 開発に着手し,同年 月日,自己の開設したウェブサイトで Winny の最初 の試用版を公開した。被告人は,その後も改良を加えた Winny を順次公開し,
同年 12 月 30 日に Winny の正式版である Winny1.00 を公開し,翌平成 15 年 月 日に Winny1.14 を公開してファイル共有ソフトとしての Winny
(Win- ny1)の開発に一区切りを付けた。その後,被告人は,同月日,今度は P2P 技術を利用した大規模 BBS
(電子掲示板)の実現を目的として,そのためのソ フトである Winny2 の開発に着手し,同年 月 日,Winny2 の最初の試用版 を公開し,同年月には,本件正犯者 名が利用した Winny2.0 β6.47 や Winny2.0 β 6.6
(以下,両者を併せて「本件 Winny」という。)を順次公開した。
なお,Winny2 は,上記のとおり大規模 BBS の実現を目指して開発されたも のであるが,Winny1 とほぼ同様のファイル共有ソフトとしての機能も有して いた
(以下,Winny1 と Winny2 を総称して「Winny」という。)。被告人は,Win- ny を公開するに当たり,ウェブサイト上に「これらのソフトにより違法なフ ァイルをやり取りしないようお願いします。」などの注意書きを付記していた。
⑶ 本件正犯者であるBは,平成 15 年 9 月 3 日頃,被告人が公開していた Winny2.0 β6.47 をダウンロードして入手し,法定の除外事由がなく,かつ,
著作権者の許諾を受けないで,同月 11 日から翌 12 日までの間,B方において,
プログラムの著作物である 25 本のゲームソフトの各情報が記録されているハ
ードディスクと接続したコンピュータを用いて,インターネットに接続された
状態の下,上記各情報が特定のフォルダに存在しアップロードが可能な状態に
ある上記 Winny を起動させ,同コンピュータにアクセスしてきた不特定多数
のインターネット利用者に上記各情報を自動公衆送信し得るようにし,著作権 者が有する著作物の公衆送信権を侵害する著作権法違反の犯行を行った。また,
本件正犯者であるCは,同月 13 日頃,被告人が公開していた Winny2.0 β 6.6 をダウンロードして入手し,法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を 受けないで,同月 24 日から翌 25 日までの間,C方において,映画の著作物 本の各情報が記録されているハードディスクと接続したコンピュータを用いて,
インターネットに接続された状態の下,上記各情報が特定のフォルダに存在し アップロードが可能な状態にある上記 Winny を起動させ,同コンピュータに アクセスしてきた不特定多数のインターネット利用者に上記各情報を自動公衆 送信し得るようにし,著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害する著作権 法違反の犯行を行った。」
⑵ 第一審判決及び原判決
①第一審判決
第一審判決は,Winny の提供行為が,正犯者の実行行為における手段を提 供して有形的に容易ならしめた点,及び Winny の匿名性が精神的にも容易な らしめた点を指摘して,幇助の客観的側面を肯定しつつ,Winny の技術自体 は価値中立的であるとして,「価値中立的な技術を提供すること一般が犯罪行 為となりかねないような,無限定な幇助犯の成立範囲の拡大も妥当でない」と の立場を示した。具体的に,こうした技術提供が幇助行為として違法性を有す るかどうかは,「その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識,
さらに提供する際の主観的態様如何による」との基準を示し,本件では幇助犯 が成立すると判示した。
②原 判 決
これに対して,原判決は,Winny は「多様な情報の交換を通信の秘密を保
持しつつ効率的に可能にする有用性があるとともに,著作権の侵害にも用い得
るというソフト」という意味での価値中立のソフトであるとしつつ,①被告人
の Winny 提供行為も価値中立の行為であること,②いかなるファイルを交換
するかは,Winny をダウンロードした者の自由であること,③ Winny をダウ ンロードした者や Winny の使用方法などを被告人が把握することもできない こと,を挙げ,具体的基準として,「価値中立のソフトをインターネット上で 提供することが,正犯の実行行為を容易ならしめたといえるためには,ソフト の提供者が不特定多数の者のうちには違法行為をする者が出る可能性・蓋然性 があると認識し,認容しているだけでは足りず,それ以上に,ソフトを違法行 為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット 上で勧めてソフトを提供する場合に幇助犯が成立する」との基準を提示し,本 件ではかかる基準を充たさないとして幇助犯の成立を否定した。
⑶ 決 定 要 旨
最高裁は,刑法 62 条項の幇助の意義につき,従来の判例
(最判昭和 24・10・刑集3 巻 10 号 1629 頁)
を援用しつつ,「幇助犯は,他人の犯罪を容易な らしめる行為を,それと認識,認容しつつ行い,実際に正犯行為が行われるこ とによって成立する」と述べ,原判決につき,「当該ソフトの性質
(違法行為 に使用される可能性の高さ)や客観的利用状況のいかんを問わず,提供者におい て外部的に違法使用を勧めて提供するという場合のみに限定することに十分な 根拠があるとは認め難く,刑法 62 条の解釈を誤ったものであるといわざるを 得ない」とした。
そして,Winny は「適法な用途にも,著作権侵害という違法な用途にも利
用できるソフトであり,これを著作権侵害に利用するか,その他の用途に利用
するかは,あくまで個々の利用者の判断に委ねられている。また,被告人がし
たように,開発途上のソフトをインターネット上で不特定多数の者に対して無
償で公開,提供し,利用者の意見を聴取しながら当該ソフトの開発を進めると
いう方法は,ソフトの開発方法として特異なものではなく,合理的なものと受
け止められている。新たに開発されるソフトには社会的に幅広い評価があり得
る一方で,その開発には迅速性が要求されることも考慮すれば,かかるソフト
の開発行為に対する過度の萎縮効果を生じさせないためにも,単に他人の著作
権侵害に利用される一般的可能性があり,それを提供者において認識,認容し
つつ当該ソフトの公開,提供をし,それを用いて著作権侵害が行われたという だけで,直ちに著作権侵害の幇助行為に当たると解すべきではない」とした。
具体的には,「かかるソフトの提供行為について,幇助犯が成立するために は,一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり,また,そのこ とを提供者においても認識,認容していることを要するというべきである。す なわち,①ソフトの提供者において,当該ソフトを利用して現に行われようと している具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,
実際に当該著作権侵害が行われた場合や,② 当該ソフトの性質,その客観 的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とは いえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められ る場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を 行い,実際にそれを用いて著作権侵害
(正犯行為)が行われたときに限り,当 該ソフトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解す る」
2)との基準を定立した。
具体的な当てはめにおいては,本件では,②の場合に当たるとしつつ,
Winny は,本件正犯者のように著作権を侵害する態様で利用する場合にも,
摘発されにくく,非常に使いやすいソフトであること,Winny のネットワー ク上を流通するファイルの割程度が著作物であり,かつ著作権者の許諾が得 られていないこと,Winny をダウンロードできる者に限定をかけることなく 公開していたといった事情から,② 1)は満たすとしつつ,主観的には,② 1) を基礎づける事情を認識,認容していたとまで認めることは困難であるため,
② 2)の幇助犯の故意を欠くとして,幇助犯の成立を否定した。
なお,本決定には,大谷剛彦裁判官の反対意見
(以下,大谷反対意見と略)が 付されている。著作権侵害の幇助犯の成否については,被告人には幇助犯の故 意を認めることができるため,その成立を肯定すべきと論じ,また,実質的違 法性阻却の余地については,以下のように論じる。「本件 Winny の持つ法益侵
) ナンバリングは筆者が付したものである。
害性と有用性とは,『法益比較』といった相対比較にはなじまないともいえよ う。本件 Winny の有用性については,幇助犯の成立について,侵害的利用の 高度の蓋然性を求めるところでも配慮がなされているところであり,改めてこ の点を考慮しての実質的違法性阻却を論じるのは適当ではないように思われ る」。
評 釈
3)⑴ 問題点の提示
本決定は,幇助犯の意義について,「他人の犯罪を容易ならしめる行為を,
それと認識,認容しつつ行い,実際に正犯行為が行われることによって成立す る」との一般論を提示しつつ,本件においてその具体的内容を論じるに当たっ ては,本件 Winny の持つ「価値中立性」に配慮し,ある程度の限定的な判断 を示したように見える。そこで,このような限定が,幇助犯の一般論から出て くるものであるのか,それとも,本件で問題となるような「価値中立的」な行 為に特有の限定なのか,が問題となる。
この点を検討するにあたっては,①そもそも,本件で問題となっている Winny の「価値中立性」とはいかなる意義を有するのかが問題となる。こう した「価値中立性」についての分析を通じて,次に問題となるのが,②かかる
「価値中立性」を,幇助犯の成立要件においてどのように考慮するのか,であ る。ここでは,従来,「中立的行為と幇助」という議論枠組みで論じられてき たことが問題となるが,本件では,従来問題となってきたような事案とは,や や様相を異にする点がある。それは,③本件では,一回
(ないし複数回)の提 供行為が,不特定多数人に概括的になされる点である。こうした場合に,特に 配慮すべき点があるのか,そして,本決定はそのような配慮を行っているのか
) なお,以下に述べるように,本稿は,Winny 事件を巡る学説の議論を包括的に論じる ものではなく,文献の引用も網羅性に欠ける。本決定を巡る近時の学説に対する分析・
検討については,鎮目征樹「ウィニー(Winny)事件最高裁決定の問題点 刑事法の視 点から」法とコンピュータ 31 号(2013 年)53 頁以下参照。
が問題となる。なお,大谷反対意見が述べるような,④実質的違法性阻却の余 地はないのか,という点についても,幇助犯の成立を客観的に限定する議論と して,併せて検討することにする。
これに対して,本決定が幇助犯の故意を否定した点については,事案の解決 において重要な意義を持つことはもちろんである。しかし,これは,客観面が 限定されることの反映として,主観面も限定されるという問題であるのみなら ず,本件事実をどのように認定するかに強く依存する問題でもある。したがっ て,本稿においては検討の対象からは除外することにする
4)。
⑵ Winny の価値中立性の意義
Winny の価値中立性に関する見解は,大まかに言って,① Winny の技術・
機能の有用性を強調する見解
(技術それ自体の価値中立性)と,② Winny が適 法にも違法にも利用されうるものであり,最終的には利用者の判断に委ねられ ている点を強調する見解
(利用のされ方の価値中立性)の二つに大別しうる。そ して,前者の見解は,Winny の社会的有用性を強調することで,Winny の開 発・提供行為が許された危険の範囲内に留まる
5)といった,行為それ自体に着 目した判断を行う傾向にある。
しかし,本決定は,必ずしもこうした判断を行っている訳ではない
6)。最高 裁は,Winny は「適法な用途にも,著作権侵害という違法な用途にも利用で きるソフトであり,これを著作権侵害に利用するか,その他の用途に利用する かは,あくまで個々の利用者の判断に委ねられている」としており,
(大谷反 対意見を除いて,)Winny の社会的「有用性」という点には言及していない
7)。
) 逆に,本決定を主として幇助犯の故意の観点から検討するものとして,作花文雄「ウ ィニー事件最高裁決定の問題点 著作権法の視点から」法とコンピュータ 31 号(2013 年)41 頁以下参照。
) 藤本孝之「ファイル共有ソフトの開発提供と著作権侵害罪の幇助犯の成否 Winny 事件 」知的財産法政策学研究 26 号(2010 年)208 頁,林幹人「判批」平成 24 年度 重要判例解説 153 頁以下。
) 島田聡一郎「判批」刑事法ジャーナル 32 号(2012 年)148 頁。
) 社会的有用性の中身をなす社会的利益の内実の不明確性を批判するものとして,鎮 目・前掲注)70 頁。
むしろ,ソフト利用者にとって違法にも適法にも利用しうるという意味での中 立性を指摘しているのみである。「適法な用途」とは,法が否定的評価
(違法)を示さないような用途というに過ぎず,その中には,特に望ましい訳ではない,
あるいは有用とは言えないような用途から,極めて高い価値を有する用途まで,
様々な用途が含まれるが,こうした価値判断には,本決定はコミットしていな いのである。以上を要するに,本決定は,Winny は利用者を違法行為にのみ 導くわけではない,という意味で価値中立的なソフトだとしているのである
8)。
⑶ 中立的行為と幇助
前述に述べたような意味での「価値中立性」は,正しく従来論じられてきた,
「中立的行為」あるいは「日常的行為」と幇助という議論における「中立性」
あるいは「日常性」に関わるものである。このような位置づけに対しては,
「中立的
(日常的)行為と幇助」という問題は,従来,職業上なされる行為を 主たる対象としている場合が多く
9),本件 Winny の提供行為は,このような 問題には属さないとの理解もあろう。しかし,従来,職業的な行為が主として 問題となっていたのは,適法にも違法にも導きうる行為を,多数回反復する場 合が想定されていたからである。例えば,日常的に多数回包丁を販売する業者 においては,一定割合の人間を,包丁を利用した違法行為に導きうることにな るが,その場合に,かかる一般的可能性を認識しているのみで幇助を認めるに 足りるかが問題とされてきた。
これに対して,本件においては,一回
(ないしは数回)の提供行為が,不特 定多数の人間に対して概括的になされた場合
(一括提供型事例)において,一 定割合の人間を違法行為に導きうるとして,かかる一般的可能性を認識してい るのみで幇助を認めるに足りるかが問題となっており,従来問題とされてきた 事例
(多数回反復型事例)と,問題の構造としては同一である
10)。
) なお,違法阻却を論じる際には,Winny が高い価値を持つ技術であるか否かという点 が正面から問題となる。この点は後述する。
) それゆえ,ドイツでは「中立的行為と幇助」の問題を「職業的相当性」の観点から解 決する見解があるが,ドイツの判例・通説はこの見解を否定している。Vgl. Roxin, Straf- recht Allgemeiner Teil Band Ⅱ(2003),§26 Rn.232ff.
⑷ 概括的な中立的行為
一括提供型事例と多数回反復型事例とが,「中立的行為と幇助」という枠組 みの中では同じ構造を有していると言っても,前者は後者に比して,より難し い問題を有している。それは,第に,多数回反復型事例であれば,多数回の 行為のうちの一定の行為によって,正犯は違法行為に導かれているのであって,
当該行為と正犯の違法行為との結びつき自体は明確であるのに対して,一括提 供型事例では,同一の提供行為によって,違法行為に導かれる人間もいれば,
適法行為に導かれる人間もおり,当該提供行為と違法行為との結びつきが,よ り弱いように見える点である。第に,多数回反復型事例であれば,個々の行 為,例えば包丁の販売行為を行う際に,行為の相手方の犯行に至る客観的兆候 を確認することができ,あるいはかかる兆候の有無に応じて一定の措置を取る
(更には販売を行わない)
ことも可能であるのに対して,一括提供型事例では,
広範に渉る相手方の個別性に逐一対応した措置を取ることが困難な点である。
第の問題について,原判決は,「ソフトを違法行為の用途のみに又はこれ を主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供 する」という,主として違法行為のみと結びつくような態様で提供することを 要件とすることで解決を図ろうとした。著作権侵害に対する幇助的関与が問題 となった民事判例・裁判例においては,いわゆる「侵害専用品」の提供の場合 や,被告の提供するシステムがほぼ必然的に著作権侵害を生じさせるような場 合に被告の責任を認めるものが散見される
11)ことからすれば,本件 Winny が
「侵害専用品」ではない以上,原判決が論じるように,いわば「侵害専用的な 態様の提供」であって初めて刑事上の責任を問いうるとするのは,一定の合理 性を有する判断ではある
12)。また,後述するように,ソフト開発に対する萎 縮効果を可能な限り低減させるという観点からは,処罰対象となる行為態様が
10) 島田・前掲注)148 頁以下参照。
11) 最判平成 13 年月 13 日民集55 巻号 87 頁(ときめきメモリアル事件),大阪地判平 成 17 年 10 月 24 日判時 1911 号 65 頁(選撮見録事件)。
12) 藤本・前掲注 )194 頁参照。
明確であることが望ましいのも確かである
13)。しかし,適法行為と結びつく 余地がある限り,その可能性の大小を問わず,一律に幇助犯の成立を否定する のであれば,それは過度の限定である
14)。特に,ソフトの利用者側において は違法行為を行う状況が広く蔓延しているような場合に,違法行為を回避する ような特段の措置も講じないままにソフトを開発・提供する行為までもが,一 律に幇助犯の対象から除外されてしまうとすれば,刑法 62 条の「幇助」の解 釈としても極めて問題があろう。
このような視点からは,むしろソフトを提供される側
(ソフトの利用者側)の事情を考慮して初めて,適切な解決をもたらすことができる。しかし,ここ で第 2 の問題が登場する。すなわち,一括提供型事例では,広範に渉る利用者 の個別事情を逐一問題とすることはできないため,利用者全体としての事情を 考慮せざるを得ないのであり
15),そのためには,利用者全体として,どの程 度違法行為に出る傾向を有するかを正面から問題とせざるを得ない。本決定は,
「当該ソフトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフト を入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利 用する蓋然性が高いと認められる場合」と述べているが,「同ソフトを入手す る者」という利用者全体に焦点を合わせているのは,かかる見地から説明がで きる。そして,利用者全体における違法行為の傾向を判断するに際しては,大 谷反対意見が述べるように
16),利用者全体の中で違法行為に出る可能性があ る者の範囲
(人的範囲)と,当該可能性の高さ
(蓋然性)とを考慮して
17)決す ることになる。
13) 壇俊光=飯田幸子「サイバー犯罪における間接関与者に対する罪の成否及び疑律」情 報ネットワーク・ローレビュー(2013 年)89 頁以下。
14) 原判決に対する批判の多くは,この点を指摘するものである。例えば,島田・前掲注
)147 頁。
15) 豊田兼彦「幇助犯における『線引き』の問題について Winny 事件を素材として
」立命館法学 345・346 号(2012 年)459 頁。
16) 刑集 65 巻 9 号 1392 頁。
17) いわば両者の掛け算である。島田・前掲注)150 頁,豊田・前掲注 15)468 頁も参 照。
⑸ 萎縮効果の位置づけ及び考慮
以上のような理解においてなお問題となるのは,検察側の上告趣意が問題と するように,そもそもなぜ,利用者の個別性に対応し得ないような一括提供が 許容されるのか,である
18)。すなわち,ソフトの開発に必要な実証実験であ るとすれば,「大学の施設などにおいてクローズドのネットワークを利用して 行うことも可能であった」し,「仮にインターネットを使う必要があったとし ても,著作権侵害に使用しないと見込まれる者の中から協力者を選定し,これ らの者に限定してソフトを配布して実験を行うなど,犯罪に使用されないよう な態様を工夫して実験することは十分に可能であり,さほど困難を伴うもので もなかった」のではないかが問題となるのである
19)。
これに対する回答が,本決定の言う,ソフト開発行為に対する過度の萎縮効 果の防止である。すなわち,本決定は,「被告人がしたように,開発途上のソ フトをインターネット上で不特定多数の者に対して無償で公開,提供し,利用 者の意見を聴取しながら当該ソフトの開発を進めるという方法は,ソフトの開 発方法として特異なものではなく,合理的なものと受け止められている」との 評価を前提に,「新たに開発されるソフトには社会的に幅広い評価があり得る 一方で,その開発には迅速性が要求されることも考慮すれば,かかるソフトの 開発行為に対する過度の萎縮効果を生じさせないためにも,単に他人の著作権 侵害に利用される一般的可能性があり,それを提供者において認識,認容しつ つ当該ソフトの公開,提供をし,それを用いて著作権侵害が行われたというだ けで,直ちに著作権侵害の幇助行為に当たると解すべきではない」との限定的 な判断を示している。
要するに,不特定多数の者に対するソフトの公開・提供が,ソフト開発のあ り方として合理的であり
20),かかる開発行為に対して萎縮効果を生じさせる
18) 豊田・前掲注 15)469 頁も正にこの点を問題とする。論者自身は,この問いに対して,道具提供行為が,全体的考察に基づく法益侵害の「危険の中心」であるという点に答え を求めているが,本文に述べるように,少なくとも,本決定はこうした理由づけを採用 していないように思われる。
19) 刑集 65 巻 9 号 1486 頁。
べきではないという観点から,利用者の個別性に対応し得ないような一括提供 であっても許容される
21)のであり,萎縮効果は,一括提供を許容するための 考慮要素として理解すべきである
22)。
なお,一括提供を許容するとしても,「ソフトを入手する者のうち例外的と はいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認めら れる場合」といった要件では,なお開発者に対する萎縮効果を完全には払底で きないとの批判もなされている
23)。しかし,処罰範囲の不明確性という問題 は,客観的な構成要件該当性,故意,あるいは違法阻却のどの段階で扱うべき か,必ずしも一律に明確な基準が存在する訳ではない
24)。そのような状況に おいて,客観的な幇助構成要件をある程度限定しつつ,故意による解決を図っ た本決定の手法は,相当程度の妥当性を有すると評価することが可能であろう。
20) 萎縮効果という点ではなく,ソフト開発行為の合理性という点を指摘して,一括提供 の許容性を根拠づけるものとして,鎮目・前掲注)71 頁参照。
21) ソフト開発行為のあり方としての合理性もまた,ソフト提供行為が幇助犯となるか否 かを判断するに当たって意味を有する。その限りで,石井徹哉「いわゆる『デュアル・
ユース・ツール』の刑事的規制について(下)」千葉大学法学論集27 巻 2 号(2012 年)
61 頁以下は妥当ではない。
22) これに対して,ソフトの開発者Aは,限定された人にのみソフトを配布して実証実験 をしていたところ,その内の一人であるXが,当該ソフトの有用性に感銘を受けて,A に無断で,自己のサイトで当該ソフトを公開し,その結果,当該ソフトを用いて著作権 侵害が行われたという事例を考えると,Xについてはソフト開発に対する萎縮効果をお よそ考慮する必要がないため,かかる一括提供自体が許容されず,したがって幇助犯が 成立すると判断すべきかは,なお問題である。というのは,当該ソフトが適法にも違法 な用途にも用いられるという価値中立的なものである点はなお変わりがないからである。
本事例においては,「他人の著作権侵害に利用される一般的可能性」及びその「認識,認 容」のみで幇助犯の成立を認めることは不当ではないとしても,一括提供を許容する根 拠について,あまりに限定的に解するのは妥当ではない。本決定は,あくまでもソフト 開発行為に関して,一括提供を許容する根拠を示した事例判断として理解するのが妥当 であろう。
23) 鎮目・前掲注)73 頁。
24) 客観的な幇助構成要件における明確性を主張するものとして,壇 = 飯田・前掲注 13)
90 頁。故意による規制を主張するものとして,作花・前掲注)50 頁。違法阻却による 規制を主張するものとして,島田・前掲注)153 頁。
とはいえ,本件のようなソフト開発・提供行為についての萎縮効果を可能な 限り除去しておくべきであるという要請に対しては,一定の応答ないし指針が 必要であるように思われる。通常,故意作為犯においては,当該行為を行わな いことが規範の内容として要求されているが,幇助犯は,正犯行為を促進する ことによって成立するものである以上,正犯行為に出る危険性の大小に応じて,
幇助者とされる者のなすべき行為も変化すると考えるべきである
25)。すなわ ち,正犯行為に出る危険性が具体的で大きいものであればあるほど,幇助者と される者は,当該行為自体を行わないことが期待される
(正犯行為に出る危険 性が大きければ大きいほど,萎縮効果について配慮する余地は小さくなる)。これに 対して,正犯行為に出る危険性が一般的・抽象的なものであればあるほど,幇 助者とされる者は,当該行為に出ること自体は禁止されず,かかる一般的な危 険を具体化させないような措置を併せて採れば足りる。但し,かかる措置を採 らせることが,当該行為に出ること自体を禁止するのに等しいような効果を有 する場合には,萎縮効果という観点からして,かかる措置を採ることを要求す ることはできない。
本件のようなソフト開発について言えば,新たなソフトを開発するにあたっ ては,当該ソフトが「侵害専用品」でない
(「価値中立的ソフト」である)限り,
どの程度の人間が当該ソフトを違法に用いるかは不明確であり,こうした一般 的・抽象的な危険性に留まる限りは,ソフト開発者に対する萎縮効果をなるべ く除去すべきと言える。上告趣意が述べるような,「犯罪行為に使用されるお それがない状態」
26)で提供すべきとの要求は,こうした一般的・抽象的な危険 に対するものとしては過度の要求である。これに対して,初期のソフト開発・
提供によって,正犯行為に出る危険性が一般的・抽象的な程度を超えた状況に おいて,更なるソフトの開発・提供を行う場合には,萎縮効果に対する配慮の
25) 過失犯において、危険性と義務内容との対応関係(比例原則)を論じるものとして、
樋口亮介「注意義務の内容確定基準」刑事法ジャーナル 39 号(2014 年)頁以下も参 照。
26) 刑集65 巻号 1486 頁。
要請に比して,法益保護の要請が優越することになるため,ソフト提供の不作 為を含む,危険を現実化させない様々な措置を講じることが要請される。
こうした観点からは,本決定が,客観的には幇助の成立要件を充足している としたのは,あくまでも Winny2 の提供についてであり,その限りでは妥当で あろう。
⑹ 違法阻却の余地について
①大谷反対意見の検討
大谷反対意見においては, Winny の持つ法益侵害性と有用性とは,「法益 比較」といった相対比較にはなじまない, Winny の有用性については,幇 助犯の成立段階で既に配慮がなされており,改めて違法阻却においてこの点を 考慮することはできない,とされている。このうち,については,後述のよ うに,確かに Winny の持つ有用性を客観的に評価すること自体は,相当の困 難がある。しかし,例えば緊急避難における害の衡量を想定すれば分かるよう に,そもそも法益衡量においては,異質な利益の相対比較が問題となることも 予定されており
27),相対比較になじまないと一律に判断することは不当であ る。
これに対して,の点はより重要である。しかし,Winny の有用性につい ては,構成要件段階で考慮されつくしているとは必ずしも言えない。前述の通 り
28),最高裁の多数意見は,Winny はソフト利用者にとって違法にも適法に も利用しうるという意味で価値中立的であると述べるに留まり,ソフト利用者 に対して,いかなる意味で有用であるかについては,特に論じていない。すな わち,仮に本件において,故意を含めた構成要件該当性が肯定されたとしても,
なお違法阻却を論じる余地は残っているのである。
②違法阻却で考慮される要素
①のような理解に立つとしても,実際には,違法阻却が認められることは相 当に困難である。民事における間接侵害論については検討しないものの
29),
27) 西田典之ほか編『注釈刑法第 1 巻』(2010 年)496 頁以下(深町晋也)。
28) Ⅱ⑵参照。
民事において差止請求ができないということと,刑法上の違法阻却とは直ちに は連動しない。判例においては,民法上の違法性と刑法上の違法性とは一元的 だとは解されていない
30)し,かつ,刑法の補充性ないし最終手段性もまた,
民法上の差止請求が認められない場合に,常に刑法上の不可罰を導くものでは ない。また,Winny のネットワーク上を流通するファイルの 4 割程度が著作 物かつ著作権者の許諾が得られていないという事実認定を前提とする限り,
Winny の著作権侵害の危険性は決して小さいものではない
31)。なお,Winny を構成する各技術の有用性を前提としても,被告人の Winny 提供行為がもた らす利益がどのようなものであるかを認定することは,少なくとも判文に挙げ られている事情からのみでは,確定することは困難である。
Ⅲ 児童ポルノ改変 URL 事件について 事案の概要と決定要旨
⑴ 事 案
被告人は,共犯者と共謀の上,第三者が開設したインターネット上の掲示板 に記憶・蔵置されていた児童ポルノ
32)(以下,本件児童ポルノと略)の URL に ついて,「bbs」という部分を「(ビービーエス)」とカタカナに直した上で,
共犯者が管理する掲示板において,上記のように改変した URL
(以下,改変 URL と略)を,「カタカナはそのまま英語に……直してください。」との正しい 文字列に直す方法の付記と共に掲載し,不特定多数のインターネット利用者が 正しい文字列に直した URL を入力すれば,直ちに当該児童ポルノを閲覧する
29) この点につき,藤本・前掲注 )180 頁以下参照。
30) この点につき,西田典之ほか編『注釈刑法第巻』(2010 年)344 頁以下(今井猛嘉)
参照。
31) 但し,大谷反対意見でも,本件は「微罪性を持つといえないわけではない」(刑集65 巻号 1398 頁)とされており,本件の違法性がどの程度のものと評価すべきかは,なお 困難なものがある。
32) 当該児童ポルノは,元々は携帯電話のメモリーに蓄積されていたものであるが,当該 メモリーが満杯になったところから,メモリーに空きを作るために,掲示板を立ち上げ て,そこに投稿されたものである。
ことが可能な状態を設定し,もって児童ポルノを公然と陳列したとして,児童 ポルノ法 7 条 4 項違反で起訴された。
⑵ 第一審判決及び原判決
①第一審判決
33)第一審判決は,以下の〜の理由づけを述べて,児童ポルノ法条項の 公然陳列を肯定し,本罪の成立を認めた。
まず,児童ポルノ法条項の「公然と陳列した」につき,わいせつ物 公然陳列罪に関する最決平成 13 年月 16 日
(刑集55 巻 号 317 頁。以下,平 成 13 年決定と略)を援用して,「児童ポルノ画像を不特定又は多数の者が認識 できる状態に置くことのみで足り,その画像を特段の行為を要することなく直 ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも必要ない」としつつ,「閲覧 者において,簡易な操作で容易に画像を閲覧することが可能であれば,『認識 できる状態に置いた』といえ,この簡易性の判断にあたっては,閲覧者に必要 とされる作業の個数及びその作業自体の容易性を総合して決すべきである」と し,結論として,本件における作業の簡易性を肯定した。
次に,本件児童ポルノ画像は他の HP からのリンクを辿る,あるいは検 索エンジンによって検索することが容易ではなく,かつ,被告人らはより多く のインターネット利用者が本件児童ポルノ画像を閲覧することを誘引したもの であり,被告人の行為は,「本件児童ポルノを閲覧する道筋を増やすものであ り,本件児童ポルノ画像の認識可能性を新たに設定したものといえる」とした。
更に,「児童ポルノ画像を不特定又は多数の者が認識できる状態に置く にあたり,みずから児童ポルノ画像を支配していることは,必ずしもその不可 欠の要素とは解されない」が,「被告人の行為と児童ポルノ画像との間に,自 ら児童ポルノ画像を掲示板に記憶・蔵置したのと同様の直接性,密接性,自動 性が必要である」とし,本件においてはかかる直接性,密接性,自動性が認め られるとした。
33) 大阪地判平成 21 年月 16 日公刊物未登載(LEX/DB: 25481894)。
②原 判 決
34)原判決は,第一審判決と同様,「公然と陳列した」の意義につき,わいせつ 物公然陳列罪に関する平成 13 年決定を援用して,「不特定又は多数の者が認識 できる状態に置くこと」とした。また,第一審判決が述べる「公然と陳列し た」の理由づけのうち,については,「客観的に確かな証拠があるのか,疑 問がないではない」とし,についても,第一審判決が「直接性,自動性,密 接性の意義をどのように理解しているのかなどの点については必ずしもよく分 からないところがある」として否定しつつ,「インターネットを初めとする情 報通信手段の発展に伴い,従来よりも児童ポルノを不特定又は多数の者に認識 させる行為は容易になり,しかも著しく多くの者に児童ポルノを認識させるこ とが可能になっている」ため,「このような状況に即して『公然陳列』の意義 を合目的的に解釈」すべきであるとする。
その観点から,「他人がウェブページに掲載した児童ポルノの URL を明ら かにする情報を他のウェブページに掲載する行為が,①新たな法益侵害の危険 性という点と,②行為態様の類似性という点からみて,自らウェブページに児 童ポルノを掲載したのと同視することができる場合には,そのような行為は,
児童ポルノ公然陳列としての実質的な当罰性を備えており,また,それを罰す ることによって国民の権利を不当に侵害することもないと考えられるのである から,そのような行為を児童ポルノ公然陳列として処罰することには十分な合 理性が認められる
35)」としつつ,①の新たな法益侵害の危険性という点につ いては,閲覧の容易性,及び,閲覧を積極的に誘引したか否かを考慮すべ きとする。
まず,① については,ハイパーリンクの設定のみならず,URL を自己の ウェブページに掲載する行為も,「ウェブページの閲覧者が当該児童ポルノを 閲覧するのに特に複雑困難な操作を要するものではない」から,「新たに児童 ポルノを不特定多数の者に認識させる危険性において,自らウェブページ上に
34) 大阪高判平成 21 年 10 月 23 日判時 2166 号 142 頁。
35) ナンバリングは筆者が付したものである。
児童ポルノを掲載する行為と大きな差はない」とし,① については,「ウェ ブページの閲覧者が児童ポルノを閲覧するために必要とされる操作が多く」な ると,「閲覧者が当該児童ポルノを閲覧するまでに至る危険性もその分減少す る」としつつ,当該児童ポルノに関する情報
(ハイパーリンク,URL 及び改変 URL 等)を掲載する行為又はそれに付随する行為によっては,かかる危険性が 減少しないこともあり得るとして「そのような行為を全体としてみて,閲覧者 に対して児童ポルノの閲覧を積極的に誘引するものかどうか」という点も,
「公然陳列」に該当するか否かの判断につき重要な要素になるとする。
また,②については,「重要なのは,
(一定の場合に)インターネットを通じ てだれもが簡単に児童ポルノを閲覧できてしまうなどという現象面」であると して,「他人がウェブページに掲載した児童ポルノへのハイパーリンクを他の ウェブページに設定する行為や,そのような児童ポルノの URL を他のウェブ ページに掲載する行為は,インターネットに接続されたパソコン等の簡単な操 作
(略)によって容易に児童ポルノを閲覧することができるようにする行為と いうことができるのであるから,上記のような現象面からみれば,そのような 行為は,自ら児童ポルノを掲載する行為との間に類似性を有している」とする。
そして,本件については,①についても②についても充足するとして,当該 児童ポルノの公然陳列を肯定した。
⑶ 決 定 要 旨
最高裁は,弁護人の上告を棄却しつつ,職権判断を示さなかったが,大橋正
春裁判官による反対意見
(寺田逸郎裁判官も同調。以下,大橋反対意見と略)が
ある。大橋反対意見は,「『公然と陳列した』とされるためには,既に第三者に
よって公然陳列されている児童ポルノの所在場所の情報を単に情報として示す
だけでは不十分であり,当該児童ポルノ自体を不特定又は多数の者が認識でき
るようにする行為が必要」であり,ウェブページ上に当該児童ポルノの URL
情報が掲載された場合には,当該児童ポルノを閲覧するためには「特段複雑困
難な操作を経る必要がないといえるが,このことは,パソコンで立ち上げたブ
ラウザソフトに雑誌等で示された URL 情報を入力して閲覧する場合において
も同様であり,両者の間に特段の違いがあるものではない」旨指摘し,本件は
「公然と陳列した」に当たらないとしつつ,「本件については幇助罪が成立する 余地もある」とした。
評 釈
⑴ 問題点の提示
本件においては,別のウェブページ上に掲載された本件児童ポルノについて の改変 URL を自己のウェブページ上で掲載する行為が,児童ポルノ法公然陳 列罪
(児童ポルノ法条項前段)の「公然陳列」に当たるか否かという,従来 の判例・裁判例でも論じられていない問題が扱われており,かつ,最高裁によ る職権判断が示されていない。このような場合,評釈としては,第一審判決や 原判決の判断枠組みそれ自体を詳細に検討するやり方もあろう。しかし,本決 定が「法令適用等について原判決の判断を是認したと捉えることは相当ではな い」
36)と評価されていることもあり,本評釈では,むしろ,本件における問題 点を理論的観点から整理するという形で,従来の学説を考慮しつつ分析を加え,
そうした分析に必要な限度で,第一審判決・原判決にも言及することにする。
そこで,検討の順序としては,児童ポルノ公然陳列罪の正犯の成否を検討し,
その後,大橋反対意見で指摘されている,幇助の成否について検討し,それぞ れにおいて,理論的な分析を加えることにする。なお,児童ポルノに係る電磁 的記録提供罪
(児童ポルノ法条項後段)の成否についても学説の一部におい て論じられている
37)ものの,本稿では直接の検討は行わないことにする。
⑵ 正犯の成否
①同一情報に関する再度の認識可能性の設定の可否
本件においては,被告人は,既に第三者によって公然陳列されている児童ポ
36) 判時 2166 号 141 頁(匿名コメント)。
37) 石井徹哉「判批」平成 24 年度重要判例解説 166 頁,永井善之「判批」速報判例解説 12 号(2013 年)判例速報解説 154 頁,園田寿「判批」甲南法務研究号(2013 年)72 頁。
ルノについて,その改変 URL を自己のウェブページに掲載しているが,この ような場合に,そもそも「不特定又は多数の者が認識できる状態に置いた」と 言えるか
38),が問題となる。
この点,学説においては,「同一情報について,複数人が認識可能性を『設 定』し,『陳列』することが可能か」を問題とし,「WWW における情報発信 の場合には,情報を蔵置しさえすれば,当該情報に対するアクセスは誰にでも 可能」であるから,蔵置行為によって既に,認識可能性の設定は終了している とする見解もある
39)。
確かに,インターネットにおいては,一旦情報を蔵置すると,理論的にはあ らゆるインターネット利用者に認識可能な状態が設定され,当該情報の有する 法益侵害性は,当初の蔵置行為で既に発生し尽くしているというのは,理論的 に一貫している。しかし,例えば,Xが,池袋の裏道に立っている電柱に児童 ポルノ写真を貼りつけた後,当該路上の監視カメラを管理しているYが,当該 監視カメラに写っている当該児童ポルノをそのままインターネット上にアップ したという事例を考えてみると,Xが当該場所に当該児童ポルノを貼りつけた 時点で,理論的には
(日本国内に入国可能な)全ての人間が,当該児童ポルノ を見ることが可能となったと評価することができる
40)。
それでは,この事例でも,既にあらゆる人間に,理論的には認識可能な状態
38) なお,第一審判決・原判決が,わいせつ物公然陳列罪(刑法 175 条)における「公然 陳列」の定義,すなわち,(その物のわいせつな内容を)「不特定又は多数の者が認識で きる状態に置くこと」とする定義が,児童ポルノ法条項の「公然陳列」においても 同様に妥当するとした点については,本決定の大橋反対意見も賛同しているところであ り,学説においても特に異論は見られないため,本稿でも検討対象とはしないことにする。
39) 渡邊卓也『電脳空間における刑事的規制』(2006 年)149 頁。
40)「日本国内に入国可能な人間」と「インターネットを利用できる人間」との間にはずれ があるとして,前者については認識可能性が設定されても,後者についてはなお別異に 解すべきとの反論も考えられる。しかし,インターネットにおいても,「最初に情報が蔵 置された時点においてインターネットが利用可能な者」と「当該情報に対してハイパー リンク等が設定された時点においてインターネットが利用可能な者」との間にはずれが あるのであって,前者については認識可能性が設定されたとしても,後者についてはな お別異に解すべきと言える。したがって,前述の反論は妥当しない。
が設定されたとして,Yの児童ポルノの公然陳列を否定することが妥当であろ うか。この事例では,当該場所から離れた地域に住んでいるために,事実上,
当該児童ポルノを認識することが困難ないし不可能である人間は当然存在する が,こうした事実的な困難さ・不可能性という点は,インターネット利用者で あっても同様であって,www において一旦情報を蔵置したからといって,事 実上はアクセスが困難ないし不可能な人間は当然に存在するのである。上記の 事例で,Yの児童ポルノ公然陳列を否定することが不当であるならば,インタ ーネットにおいても,いったん児童ポルノを蔵置したからと言って,直ちに認 識可能性の設定が終了したと判断することは妥当ではない。
以上を要するに,理論的にはあらゆる人間に認識可能な状態が設定されるも のの,事実上は認識することが困難ないし不可能であるという事態は,インタ ーネットに特有のものではない。したがって,一旦インターネット上に情報を 蔵置したからと言って,再度の認識可能性を設定した行為に関して,常に公然 陳列が否定されることにはならない。
②再度の認識可能性の設定の限界
次に,再度の認識可能性を設定する行為が,常に新たな認識可能性を設定し た
(不特定又は多数の者が認識可能な状態に「置いた」)ものとして,公然陳列に 該当するのかが問題となる。既に記憶・蔵置された児童ポルノ画像について再 度の認識可能性を設定する行為を,新たな認識可能性の設定行為と見ることが 可能かという点は,従来学説においても争われてきた問題である。
学説においては,ハイパーリンクを貼る行為についても,単なる情報の教 示に過ぎず,新たな認識可能性の設定を否定する見解
41),ハイパーリンク を貼る行為についてはなお新たな認識可能性の設定を肯定するものの,「陳列」
の定義とその日常用語的理解とのギャップを埋めるために,行為とわいせつ情 報との密接性とを要求する見解
42),更にハイパーリンクを貼る行為につい ては新たな認識可能性の設定を肯定しつつ,URL を掲載する行為については,
41) 塩見淳「インターネットとわいせつ犯罪」現代刑事法 8 号(1999 年)38 頁。
42) 山口厚「コンピュータ・ネットワークと犯罪」ジュリスト 1117 号(1997 年)80 頁。
「わいせつ情報の陳列」に過ぎないとして否定する見解
43)などが主張されてい るが,以上の見解のうちでは最も広いと思われる説においても,少なくとも,
雑誌において URL を掲載する場合は,行為とわいせつ情報との密接性を欠き,
公然陳列に当たらないとされてきた
44)。
第一審判決は,この点につき,説の立場から,「みずから児童ポルノ画像 を支配していること」は,「不特定又は多数の者が認識できる状態に置く」こ とに必須の要素ではないとしつつ,「被告人の行為と児童ポルノ画像との間に,
自ら児童ポルノ画像を掲示板に記憶・蔵置したのと同様の直接性,密接性,自 動性が必要である」としている。しかし,原審の指摘するように,ここで言う
「直接性,密接性,自動性」のそれぞれの内容が必ずしも明確ではないことも さることながら,そもそも,なぜそのような要件が必要とされるのかが問題と なる。
説の立場から,密接性といった要件が要求される実質的理由は,雑誌に URL を掲載するような行為については,公然陳列から排除すべきとの点にあ ろう
45)。しかし,なぜこのような行為が,
(直観的にはそうであるかもしれない としても,理論的に見て)排除されるべきなのかが問題である。アクセスの容 易性という観点からは,大橋反対意見が述べるように,ウェブページ上で URL を記載する行為と,雑誌に URL を記載する行為とで,質的な差を見出す ことは困難である
46)。それにも拘らず,雑誌の場合を排除する理由があると すれば,それは,既に記憶・蔵置された画像は,あくまでもインターネットと いう「場」において公然陳列されており,不特定又は多数の者においては,イ
43) 川崎友巳「サイバーポルノの刑事規制(二・完)」同志社法学 52 巻号(2000 年)13 頁以下。
44) 山口・前掲注 42)80 頁注(29)。
45) 山口・前掲注 42)80 頁注(29)。
46) 携帯端末で雑誌の QR コードを読み取り,URL にアクセスして児童ポルノを閲覧する ような場合には,アクセス容易性という観点からすれば,もはやハイパーリンクと差が ないとすら言いうる。この場合もなお公然陳列ではないとすれば,それは本文で述べた ような理由によるものであろう。
ンターネットを経由してのみ認識可能である以上,当該画像について新たに認 識可能性を設定する場合も,あくまでもインターネットという「場」でなされ なければならないからであろう。
この点につき,原審は,行為態様の類似性という文脈で,「重要なのは,
(一 定の場合に)インターネットを通じてだれもが簡単に児童ポルノを閲覧できて しまうなどという現象面」であるとする。しかし,行為態様の類似性という観 点から真に重要なのは,だれもが簡単に児童ポルノを閲覧できる状態を設定す ることではなく,むしろ,インターネットという「場」において,かかる状態 を設定することである。すなわち,陳列する「場」の同一性という点が決定的 に重要なのである
47)。
このような理解の元で,次に問題となるのは,インターネット上で当該画像 データへのアクセスを容易にする行為は,全て「公然陳列」となるのかという 点である。すなわち,リンクを貼るような場合を超えて,どのような場合にま で,公然陳列を認めて良いのかが問題となる。この点については,そもそもリ ンクを貼る場合であっても,クリックをするという形で,閲覧者の行為が介在 せざるを得ない以上,行為の介在の有無で区別することは妥当ではない
48)。 また,行為の個数についても,第一審判決が述べるように,厳密に認定すれば 数多くの行為が問題となるにしても,同一の意思に基づく一連の行為として考 えることが可能である場合も多く,単なる行為の個数で判断することもまた,
47)「アパートの隣室で隣人により常時展示されているわいせつ図画を,部屋の境の壁に穴 をあけて自室から見えるようにし,不特定多数の者に公開した」事例で公然陳列を認め つつ(山口・前掲注 42)76 頁),「アパートの隣室に常時わいせつ図画が展示されている 事実,及び隣室の鍵の隠し場所を不特定多数の者に公開した」事例で公然陳列を認める べきではない理由もこの点に求められる。すなわち,前者では,部屋の境の壁に穴をあ けたことで,いわば陳列の「場」を自室にまで拡張したと評価し得るのに対して,後者 では,陳列の「場」については何らの変更も及ぼしておらず,アパートの隣室とは別の
「場」において,当該図画へのアクセスを容易にしたに過ぎない。
48) 平成 13 年決定において既に,公然陳列の意義については,「その物のわいせつな内容 を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要し ない」とされており,閲覧者の一定の行為が介在することは前提とされている。
妥当ではない。実質的に見て,アクセスが容易であるか否かという観点から判 断すべきである。
他方,閲覧者以外の者,特に行為者
(ウェブページの管理者)の行為が介在 する場合には,なお別個の判断が必要であろう。例えば,URL を一定のコー ドに基づいて暗号化したもの
(暗号化 URL)をウェブページ上に掲載しておき,
閲覧者からの問い合わせに応じて,サイト管理者が暗号のコードを返信し,閲 覧者はそれに従って暗号化 URL から正しい URL を「復元」できるような場 合には,さほど閲覧者にとって手間はかかっていないと評価しうる場合もある かもしれないが,暗号化 URL を掲載する行為それ自体によっては,なお公然 陳列は行われていないと見るべきであろう
49)50)。
以上のように考えると,当該ウェブページ上の記載全体を通じて,容易に当 該画像データにアクセスできるような情報,例えば本件のように,改変 URL と,改変した部分を正しく直すための付記とが,同一のウェブページ上に記載 されているような場合には,なお新たな認識可能性の設定を肯定することがで きる
51)。これに対して,原判決が述べるような「積極的な誘引」については,
「閲覧者に要求される手間を考慮してもなお容易にアクセスしうるか否か」の
49) このように考えると,閲覧者が一定のフォーマットに従って問い合わせメールを送る と自動的に暗号のコードを教えるメールが返信されるような設定になっている場合には,行為者の自律的行為が介在していないと評価できる限りにおいて,なお公然陳列を認め 得ることになろう。
50) 第行為と第行為とが相俟って法益侵害結果を惹起する場合には,両行為が同一の 意思に基づく一連の行為と評価される限り,「一連の行為」論に依拠し得る。これに対し て,本件のように,URL を掲載した時点で公然陳列か否かが問題となる場合には,その 後の暗号コードの返信行為を予定していたとしても,URL 掲載行為と暗号コード返信行 為とが相俟って公然陳列という結果が生じるわけではない以上,「一連の行為」論には依 拠し得ない(深町晋也「『一連の行為』論について」立教法務研究 3 号(2010 年)118 頁 参照)。したがって,本文に述べた結論になる。
51) これに対して,当該ウェブページ上に記載されている情報のみでは直ちに当該画像デ ータにアクセスできない場合については,別異に解するべきである。例えば,当該画像 データを検索エンジンで確実に検索するための検索ワードのみを記載するような行為に ついては,「検索エンジンにおける検索」という媒介項が入るために,それ自体としては なお新たな認識可能性の設定とは評価できない。
判断に解消されるべきものである。原審は,閲覧者を煽情するような記述の存 在についても,こうした誘引性の判断に当たって考慮している
52)が,例えば,
より多くの閲覧者を自己のウェブサイトに招きたいがために,日本人に特に愛 好される種類の児童ポルノ画像があると偽って,実際にはそうではない種類の 児童ポルノ画像の暗号化 URL を掲載していたような場合に,積極的な誘引が あることを以て,公然陳列を認めるとすれば,妥当ではない
53)。
③他の認識可能なルートの存在
以上のように解するとしても,既に記憶・蔵置された児童ポルノ画像につい てハイパーリンクを貼る,あるいは URL を記載する等の行為が,常に新たな 認識可能性の設定と評価できるかはなお問題がある。というのは,第一審判決 が論じるように,既に別の HP からのリンクや検索エンジンによって,当該画 像が極めて容易に閲覧可能となっている場合には,新たにリンクを設定したと しても,もはや新たな認識可能性の設定とは評価できない
54)とも解されるか らである。
確かに,こうした議論は一般論としては成り立ちうる。例えば,極めてアク セス数の多いサイトにアップされ,かつ,既に多くのインターネット利用者に よって紹介されているようなわいせつ画像について,それを更に紹介する意味 で自己のサイト内でハイパーリンクを貼った場合などについて,常にわいせつ 物公然陳列罪が成立すると考えることは妥当ではなかろう。しかし,例えば,
上述のようなわいせつ画像を集めた「まとめサイト」のようなものを開設した 場合には,不特定又は多数の者が認識可能な状態を質的に高めたと評価するこ とが可能であり,なお,新たな認識可能性を設定したものと認めても差し支え ないと思われる。このように,既に極めて容易に閲覧可能になっている状態が あるとしても,不特定又は多数の者が認識可能な状態を質的に高めたと評価し
52) 判時 2166 号 146 頁。
53) 積極的誘引性に対して慎重な立場を示すものとして,天田悠「判批」法律時報 85 巻 11 号(2013 年)115 頁及び永井・前掲注 37)153 頁参照。
54) この場合に,児童ポルノに係る電磁的記録提供罪(児童ポルノ法条項後段)につ いては成立し得るか否かも問題となろう。